2012/12/28

HLA match & mismatch

 HLAマッチとミスマッチは混乱しやすい概念だ。HLA抗原のなかでも腎移植で問題になるのはA、B、DR座だ(他も問題になるという話もあるが、一般的にはこの三座)。それぞれの座には父由来、母由来の抗原があるから(片親由来のA、B、DR抗原セットをhaplotypeと呼ぶ)、3x2で六つの抗原がある。たとえばこのように表示される。

          A   B   DR
Recipient    3,5  8,44  2,14
Donor           3,5  8,44  2,16

 これはマッチで言うと5/6 match、ミスマッチで言うと1 mismatch。ミスマッチで問題になるのはレシピエントにないドナー抗原(ここではDR16)なので、単にその抗原数を書くのみで分数表記にならない。

          A   B   DR
Recipient    3,5  8,44  2,14
Donor           3,5  8,8   2,16

 これはマッチで言うと4/6 matchだが(B8とB44、DR14とDR16はマッチしていない)、ミスマッチで言うと1 mismatch(ドナーのB8抗原はレシピエントにあるのでミスマッチにならない)。

          A   B   DR
Recipient    3,5  8,44  2,14
Donor           3,5  8,44   2,2

 これはマッチで言うと5/6 match、ミスマッチで言うと0 mismatch(ドナーのDR2抗原はレシピエントにもあるのでミスマッチにならない)。実際に移植で問題になるのはmatchよりもmismatch抗原数だ。これが多ければレシピエントがDSA(donor-specific antigen)を作りやすい。逆に0 mismatchは腎予後がよいとされ、同じOPO(organ procurement organization)管轄域内でcold ischemia timeが短いならその組み合わせのレシピエントは優遇される。
 DSAがあると何がよくないのか?graft survivalに悪影響をもたらすindependent risk factorなことを示した論文が最近出た(JASN 2012 23 2061)。まあそれは皆うすうす知っていた。だが現行では、移植腎生検でC4d陽性、AMR(antibody-mediated rejection)の組織学的エビデンスがなければDSAだけでは治療しない。というかよい治療法もない。

2012/12/27

AME

 血圧コントロールがある時から難しくなった、と言われたら問診で探偵作業が始まる。まず薬の変化(NSAIDsなど)、食生活の変化(食塩など)、腎機能の変化(浮腫、診察なら血管雑音など)等を聞く。それで患者さんが「Licoriceを食べています」と言ったら疑うのがAME(Apparent Mineralocorticoid Excess)症候群に似た病態だ。
 Mineralocorticoid receptorは糖質コルチコイドにも鉱質コルチコイドにも結合するが、腎臓では糖質コルチコイドが(11-β-HSD2により)すばやく不活化されるので事実上は鉱質コルチコイドしか結合しない。しかし、先天的に11-β-HSD2欠損があれば糖質コルチコイドが鉱質コルチコイドのように腎臓で働いてしまい、Apparent Mineralocorticoid Excess状態になる。
 Licorice摂取でも似たようなことが起こる。Glycyrrhetinic acidという成分が11-β-HSD2を阻害するからだ。生化学的には24時間蓄尿による尿中cortisolとcortison(不活化された代謝産物)の比で診断する。正常はcortisol/cortison比が0.3-0.5だが、AMEやlicoriceでは比が高くなる。実際は病歴で十分、licoriceを中止して様子をみる。

2012/12/26

PRIS

 うちの腎臓内科は毎月麻酔科インターンがローテートして、SICUのAKIなどを中心に様々な病態を学んでいく。そんな彼らがRenal Grand Roundで発表するのはたいてい麻酔科と腎臓内科のボーダー領域で、いままで何人もがPRIS(propofol infusion syndrome)の話をしてきたが、こないだのが一番よくまとまっていた。とはいえ私はたいてい発表者に参考文献(J Intensive Care Med 2011 26 59)を聞いて裏を取る。

 Propofol、あるいは2,6-diisopropylphenolは、ベンゼン環が胴体、OH基が頭、二つのイソプロ基が腕のように見える。PropofolはGABA受容体を刺激したりNMDA受容体を阻害したりして鎮静する。PRISは、飢餓やcritically illな患者さんにおいて主要なエネルギー源となる脂質代謝による細胞内エネルギー産生をPropofolが阻害して起こると考えられている。

 現在考えられている二つの主要な機序の一つは、TCAに入るAcetyl-CoAを減らすこと。遊離脂肪酸はAcyl-CoAになりミトコンドリア外膜を通過し、Acyl-CoAがAcylcarnitineになりCarnitine-Acylcarnitine Translocaseによってミトコンドリア内膜を通過し、Acylcarnitineが再びAcyl-CoAになって、β酸化を経てAcetyl-CoAになってTCAに入る。PropofolはAcyl-CoAをAcylcarnitineに変換するCarnitine Palmitoyl Transferase Iを阻害する。

 もう一つの機序は、ミトコンドリア内膜で起こる酸化的リン酸化(respiratory chain)の阻害だ。酸化的リン酸化は爆発的なATP産生で生命維持を可能にするプロセスで、ここを阻害する薬は青酸とか劇薬が多い。PRISにおいてPropofolはなんと4つあるComplexのうちIIとIVを阻害する(青酸はCytochrome Cを阻害)。

 PRISは稀だが起こると重篤になりえる(症状は低血圧、徐脈、致死的不整脈、横紋筋融解、急性腎障害、代謝性AGアシドーシスなど多岐に及ぶ)から、ICUでAGが上昇し始めたら、数ある代謝性アシドーシスの原因のなかでもPRISを疑う必要がある。リスク因子は若年、高用量(4-5mg/kg/hr以上)、持続静注(48時間以上)、カテコラミン使用、ステロイド使用など。 


2012/12/21

SPK v. PALK

 一型糖尿病で膵腎同時移植(simultaneous pancreas kidney, SPK)を待つのと、living donorからの腎移植をしてから単独膵移植を待つ(pancreas after living donor kidney, PALK)のと、どちらがよいか。この問いに答えるために、それぞれのオプションを比較検討してみよう。
 SPKを選択したばあい、状態のよい膵を移植するため必然的に移植腎の状態もdeceased donor kidneyのなかではよいとされる。透析から離脱できると同時にインスリンが不要になる。移植膵の生存は、SPKのほうがPALKより優れている。というのも抗原性が高く拒絶を起こしやすいがその早期発見が難しい膵の代わりに、Crがsentinel markerになるからだ。
 一方、deceased donor由来なのでwaitlistに載って移植まで待たなければならない(待ち時間は州や施設により異なり、短ければ一年以内だが)。PALKを選択するのは、"a bird in the hand is worth two in the bush"という考え方、つまり来るか分からないSPKを待つより確実にいる適合living donorから腎だけでも移植しようということだ。
 10年近く前の文献ではSPKとliving donor kidney transplant(LDKT)はpatient survivalもgraft survivalも変わらないとされていたが、2年前にやはりUNOS/SRTRを分析したら、patient survivalも(腎)graft survivalもPALK、LDKT、SPKの順であった(Tarnsplantation 2010 89 1496)。膵についてはそれまで通りSPK、PALKの順。
 これをどう実際に援用するかはケースバイケースだ。一日も早く透析から離脱したいという考えもあろう。SPKでインスリンからも離脱したいという考えもあろう。SPKを選択し、10年かそこらたって腎機能が(CNI toxicityか何かで)悪化したらその時living donorに二度目の腎移植をお願いするという考えもあろう(ことに患者さんが若ければ)。

2012/12/19

DGF

 DGF(Delayed Graft Function)とは、移植後一週間以内に(どんな理由であれ一度でも)透析を要した場合を言う。だから雑多な病態が混ざっているわけだが、たいていは術後に満足いく尿量とクリアランスが得られない移植腎の機能不全が背景にある。

 これをDelayedというのは「移植腎のもつ本来の機能は悪くないが、ただそれを発揮するのが遅れているだけ」と考えられたからだ。しかし、最近の研究でDGFはSCD(standard criteria donor)、ECD(extended criteria donor)を問わず拒絶反応とgraft lossの独立したリスク因子と考えられている(AJT 2011 11 2279より)。

 その機序はいろいろだが(やはりAJT 2011 11 2279より)、まあ虚血後再潅流障害がメインと考えられている。それで移植腎を守るためにDBD(donation after brain death)でDopaminを流したり(Heme Oxygenase-1を増やしてフリーラジカルを減らすため)、抗凝固剤を流したり(ヘパリンが通例だが、melagatranがよかったという報告も)する。

 ほかにも特別な潅流液を流したり、procurement後もポンプで潅流液で潅流を続けたりする。潅流液はUW液(University of Wisconsin)とHTK液(Histidine–Tryptophan–Ketoglutarate)が主流だが、比べたら長いCIT(cold ischemia time)例にはUW液のほうが優れていた。アデノシン(ATP補充)を多く含むためと考えられている。

2012/12/16

Analgesic nephropathy

 NSAIDsによる腎障害といえば主にCOX阻害剤(ibuprofenとその仲間)が急性に起こすネフロンレベルの虚血(prostaglandinが減って輸入再動脈が絞まる)を考えていた。しかし慢性使用による尿細管障害と腎乳頭壊死、さらにに使用が世界的に禁止された(日本は2003年)phenacetinによる腎泌尿器腫瘍について聞き、関連論文(NEJM 1998 338 446)を読んだ。
 ただこの論文、CT所見や疫学研究などをよくレビューしているが、最近は余り引用されていない(論文筆者自身が似たような論文を出しているが…、JASN 2009 20 2098)。いまの職場でも余り聞かない。まあ、CTなり超音波なりで腎乳頭石灰化が見られたらNSAIDsの病歴をより詳しく取ることにはしよう。

Fanconi syndrome

 1g/d(Up/Ucr 1)程度の蛋白尿を”tubular-range proteinuria”などと言い、腎からの喪失による低K血症、低P血症、AG正常アシドーシス、低尿酸血症、そして尿糖などFanconi featureが(全てででなくてもいくつか)を併発していたらFanconi syndromeを疑う。
 先天性のFanconi症候群もあるが、成人腎臓内科が臨床上出会うのは後天性のほうが多い。少なくとも知っておくべき後天性Fanconiの原因は骨髄腫などplasma cell dyscrasiaによるlight-chain deposition disease、それに薬剤性だ。
 薬剤性Fanconiのリストは、長い(AJKD 2003 41 292)。有名なのはifosfamide、cisplatin、carboplatin、streptozocinなどの抗悪性腫瘍剤だが、tetracyclines、aminoglycosidesなどの抗生剤、valproic acid、ddI、tenofovir、cidofovir、防已黄耆湯(ぼういおうぎとう)なども。
 なお本症候群は1903年にAbderhalden 、1924年にLignacが症例を報告している。ただスイスの小児科医Guido Fanconiは1936年にこれらの症例をnephrotic-glucosuric dwarfism with hypophosphatemic ricketsと名づけ発表し、病態に少し迫った。

2012/12/13

Furosemide v. HCTZ

 腎機能が低下するとHCTZの降圧・利尿作用は下がり、furosemideが推奨される。このfactoid(事実のように言われていること)は批判されることなく日常臨床で応用されているが、「本当にそうかな?」と調べた人達がフランスにいる(NDT 2005 20 349)。
 このGFRが16-41ml/minの7人を対象にしたスタディでは、furosemide、HCTZ、併用で降圧効果に有意差がみられなかった。しかし利尿作用はfurosemideのほうがHCTZより優れ、併用はさらに効果的だった(HCTZが遠位尿細管による代償的なNa再吸収をブロックするから)。
 このスタディはKDIGOガイドライン(KI supplement 2012 5 337)にも引用され、CKD患者でもHCTZによる降圧作用は保たれ(おそらく利尿のみならず血管拡張効果があるのだろう)、しかしCKD進行による浮腫を除くにはfurosemideのほうが優れているというよに書かれている。

Myeloma

 大学にいると、他科から第一人者を招いてボーダー領域について議論し学べるのがよい。こないだは腫瘍・血液内科からMyelomaと腎についてレクチャがあった。この分野(plasma cell dyscrasia)は範囲が広く、こないだもACKD(Advances in Chronic Kidney Disease、AJKDの姉妹版で隔月発行)が一冊丸々これを特集したほどだ。
 だから部分的に学んだことを書くが、Myelomaにも悪性の程度があって、とくにcancer stem cellというの(CD138陰性)が性質が悪い。こうなると骨髄のstroma(によるRANKLをはじめとする増殖サポート)に依存しなくてもどこでも出かけていって増殖するし、化学療法にも反応が悪い(Cancer Res 2008 68 190)。
 予後因子もさまざまあるが、新しいのはcytogeneticsとPETだった。PETは、医学部で習うwhole skeleton survey(単純X線)では見えない病変もピカピカライトアップして映し出す(Blood 2009 114 2068)。PETで早期発見しTotal Treatment 3(tandem transplantと、bortezomibもthalidomideも使えるものは全部行くケモ)で治療すると予後がとてもよい。もしかしたら治癒例もあるかもしれない(Leukemia doi:10.1038/leu.2012.160)。

2012/12/05

非HLA抗原

 非HLA抗原に対する抗体の免疫学、臨床的意義はいずれもやっと研究が始まったエリアだ。その中でもっとも知られている抗原はMICA(MHC Class I-related chain A)、これは主に血管内皮細胞に表出する抗原で、抗MICA抗体はvascular rejectionを起こす。
 抗MICA抗体は独立したgraft lossのリスク因子であることが示された(NEJM 2007 357 1293)。しかし、抗体があるだけでは治療は変わらない。腎生検でperitubular capillaryでのC4dが陽性ならば抗MICA抗体がAMR(抗体を介した拒絶反応)で腎を障害しているかもしれない。

2012/11/30

Urinary plasmin

 ネフローゼで浮腫になるのは低アルブミン血症で膠質浸透圧が下がるからと思っていたが、それと別に腎臓におけるNa貯留が機序として分かったのはつい数年前のことだ(JASN 2009 20 299)。欧州のグループによるこの論文は、ネフローゼで尿中に漏れるplasminがENaCのγサブユニットについたinhibitory peptideをcleaveしてENaCを活性化することを示した。

 今月のJASNでは、やはり欧州の尿細管とイオン輸送のボスであるBindels先生のグループが、plasminが今度は遠位尿細管のCaチャネルTRPV5を抑制することを示した論文が出た(JASN 2012 23 1824)。研究によればplasminがPAR-1を介した細胞内シグナリング経路を活性化し、TRPV5のCalmodulin結合サイトのアミノ酸残基(144セリン)をリン酸化して、それによりチャネルの孔が閉じる。

 TRPV5-transfected HEK293 cellを使ったりパッチクランプを使ったりして美しい論文だが、ネフローゼで尿Ca排泄が増えるという話はあまり聴かない(著者によれば家族性ネフローゼでnephrocalcinosisの報告があるらしい)。おそらくENaCの次はTRPV5という具合に調べてみたのだろうが、これが糸口になって新たな病態機序が分かれば面白い。

Stewart Approach

 塩素イオンの害について調べていたら(Crit Care 2010 14 226)、Stewart Approachと呼ばれる酸塩基平衡の解釈方法を学ぶことができた。これは、腎臓内科が用いる古典的なHenderson-Hasselbalch(H-H)に代わる新しい解釈で、麻酔科・ICU領域で用いられている。

 原理に電離平衡のみならず、電気的中立性と質量保存の法則を取り入れるこの方法によれば、プロトン濃度の決定要因は三つ、SID(strong ion difference)、CO2分圧、弱酸濃度という。H-Hとの決定的な違いは、HCO3が酸塩基平衡のマーカーであってメカニズムではないと言い切るところにある。

 SIDは(Na + K + Mg + Ca) - (Cl + lactate)のことだ。高Cl代謝性アシドーシスというが、実際はCl濃度そのものよりもSIDが重要で、たとえCl濃度が高くてもSIDが動かなければプロトン濃度は変わらず、それはICU患者300人のデータでも確かめられた(Anesth Analg 2006 103 144)。


2012/11/27

塩素イオンの害

 ICU分野は治療の何から何まで入念に有効性が検証されており、生理食塩水もそのひとつだ。Volume overload、高Cl代謝性アシドーシスを起こすのみならず急性腎不全を起こしているかもしれないと考えられている(レビューはCrit Care 2010 14 226)。その機序として、vasoconstrictionが考えられている(動物ではJCI 1983 71 726、人間ではAnn Surg 2012 256 18)。

 それで、ICUによっては低Clな輸液、LR、Hartman、Baxter社のPlasma-Lyte®などを用いる。先月JAMAに高Cl輸液群と低Cl輸液群でICUにおけるAKIの違いを調べた論文がでた(JAMA 2012 308 1566)。ICUに「高Cl輸液はICU指導医の許可なしに輸液できない」というシバリを掛ける前と後で比較したもので、学会でも紹介されたらしい。

 結果は、シバリを掛けたほうがAKIが少なかった。Volumeは大きなconfounding factorだろうが、著者はCl負荷がAKIのリスク因子と言いたいようだ。それにしてもオーストラリアはICUと輸液についてのスタディをバンバンだす。SAFE(NEJM 2004 350 2247)もそうだし、今月でたHESと生理食塩水を比べたの(NEJM 2012 367 1901)もそう。実際に病院ではどんな輸液をしているのだろう。



 [2017年7月追加]0.9%食塩水についてのディベート論文について紹介した投稿、0.9%食塩水とPlasmaLyte®を比較したSPLITトライアルを紹介した投稿も参考になれば幸いです。


2012/11/23

ネタ帳の紹介

 教育熱心な先生がたいてい面白いのは、彼らがただ物知りなだけでなく、相手にとって分かりやすく、面白く、やる気が起こるようにするプロだからだろう。Johnston先生の話も面白かったが、Hoenig先生の話はもっと面白かった。彼女は腎臓内科を何倍も面白くする10のコツ(これは私がつけた題名だが)について話した。そのひとつは透析についてもっと教える、だった。

 これは私も同感だ、しかし米国腎臓内科コミュニティには「透析についてレジデントに教えるな、透析診療が嫌で腎臓内科を選ばない人が多いから」という風潮がある。しかし腎代替療法である透析を学ぶことで、腎臓のさまざまな機能を教えることができる。水排泄、さまざまな分子量の老廃物排泄(NEJM 2007 357 1316)、EPO、活性化ビタミンDなど。

 また現在では誰でも受けられるが、透析はあくまで生命維持装置である。実際、50年前の米国では慢性腎不全患者に対して透析器械の数が足りず、シアトルのSwedish病院では俗に"God Committee"と呼ばれる委員会が、誰を生かすかという順番を取り決めた。彼女は当時の雑誌記事を紹介しているそうだ。

 ほかにも、尿沈査をiPhoneで撮影する(コツが要るが出来るらしい)、JASNのMILESTONES IN NEPHROLOGYシリーズを紹介する、TTKGでもfree water deficitでも一緒に計算する、翌日の検査データを予想する、coffee talk(ちょっとした時間にする話、たとえば「血清Naは140Eq/lなのに、生理食塩水のNaは154mEq/l。はい、議論して!」とか)などが挙げられた。

2012/11/16

腎移植後の再発

 腎疾患は腎そのものに原因がある場合もあるが、多くの場合腎外の因子が腎にダメージを与えて起こる。では、腎臓を移植しても同じプロセスがダメージを起こすのでは?最も顕著な例はFSGSだろう。今年Northwestern大学が報告した有名なケースがある(NEJM 2012 366 1648)。
 原発性のFSGS患者さんに健康な生体腎を移植したら、二日目には>10g/dの蛋白尿がでて、生検するとfoot processが完全になくなっていた。プロトコルにしたがい移植前後に血漿交換をしたにもかかわらずである。
 やがて腎機能も悪化し、このままでは移植腎が廃絶するのは必至で、かつ患者さんには多大な感作リスクが掛かり、二回目の移植可能性が減ってしまう。そこで彼らはこの移植腎を摘出し、ドナーの許可を得てこれを移植リストのトップにいた患者さんに再移植した。すると腎は(FSGSのcirculating factorがないので)正常に機能した。
 FSGSの移植後再発は20-30%に見られる(NDT 2010 25 25、あのPonticelliレジメンのPonticelli先生が書いている)。予防に用いる血漿交換はimmunoabsorption with protein A。Circulating factorの除去が目的で、その産生は抑えないのでは?と思われるが、あるRCTスタディ(AJT 2009 9 1081)では治療群が12か月たっても90%の寛解率を示した。
 Circulating factorを抑える治療としてはcyclosporine(先発薬なのでtacrolimusよりデータがあるが、比較したスタディはない)、rituximab、galactose IV infusion(Transl Res 2008 151 288)などが用いられている。
 IgA腎症はどうか?IgA腎症もまた病原性のある腎外因子が疑われている(その一つはgalactose-deficient IgA1に対する自己抗体、Semin Immunopathol 2012 34 365)ので再発しうる。Mini-review(AJT 2006 6 2535)によれば、生検しないと分からないような再発が50-60%、血尿・蛋白尿・腎機能低下など目に見える再発は13-50%という。血縁ドナーからの生体腎移植で再発リスクが心配されているが、graft survival成績はexcellentで、既存のデータによれば避けるべきではない。
 MPGNは免疫染色パターンと補体制御遺伝子の異常によって治療が細分化されるようになった。たとえばCFH/Iが異常なら再発リスクが高く肝腎同時移植、eculizumab、血漿交換が推奨され、MCPが異常なら腎単独移植が推奨される(Semin Thromb Hemost 2010 36 653)。HUSかatypical HUSかは臨床診断が難しいので、補体機能や遺伝子精査が推奨される(HUSなら再発はほぼないが、atypicalなら再発するから)。
 MPGNと移植で覚えておくべきは、transplant glomerulopathy(de novo MPGN)。それから、eculizumabはIgG2、IgG4、Kappaで出来ているので、投与後に生検・免疫染色するとこれらが染まる(JASN 2012 23 1229)が異常ではないと、こないだのKidney Weekで報告があった。
 抗GBM抗体による腎臓病、それにLupus nephritisで分かっているのは、移植前に病勢がコントロールされているほうが術後成績がよいということだ。腎廃絶後は腎機能を図れないが、抗体価や腎外症状をフォローしたい。たとえば抗GBM抗体では6-12か月抗体価陰性が持続するまで移植を待つよう推奨されている。
 糖尿病性腎症だが、再発は高く進行は早い(UCLAのデータはTransplantation 2003 75 66)。Calcineurin inhibitor、ステロイドにより血糖コントロールが悪化するせいもある(NODAT、new-onset diabetes after transplantも多い)。そして糖尿病は腎障害だけでなく心血管系イベント、感染症などのリスクなので、それらによって移植後の生命・QOL予後が低下するかもしれない(CJASN 2011 6 1214)。

2012/11/15

Evidence-based management of hypercalcemia

 電解質第三弾、高Ca血症。高Ca血症は、悪性疾患などで患者さんの状態が元々良くないうえ、腎不全などをきたし、じつは予後不良だ。San Diego VAのretrospective studyでは約30%が悪性腫瘍によるものだった(Endocrine Practice 2006 12 535、この患者層はほとんどスモーカーだが)。台湾のERが行ったretrospective studyでは、高Ca血症患者の死亡率が23%だった(Am J Med Sci 2006 331 119)。意外な数字だが、副腎不全や結核患者も多かったようだ。

 悪性腫瘍による高Ca血症の原因は80%がHHM(PTHrPによる、とくに扁平上皮細胞由来の悪性腫瘍)、20%がosteolytic、1%以下が1,25-OH vitamin D上昇による(NEJM 2005 352 373)。PTHrPはtype1 PTH receptorに結合しPTHと同じく骨の脱石灰化を亢進し尿中のCa排泄を阻害する(JCI 1988 81 932)が、1,25-OH vitamin Dを抑制するのがPTHと反対だ(J Bone Miner Res 2005 20 1792)。

 治療はどうか?先月のCJASNにまとまったレビュー(CJASN 2012 7 1722)が出た。まずはカルシウムに毒されたTALと集合管を助ける。どちらもCaSRがあって、高Ca血症で前者ではNaClの再吸収が落ち、後者ではADHが不応になるから、補液でこれを解消する。生理食塩水が用いられるが、volume overloadと低Na血症に気を付ける必要がある。

 ループ利尿剤はどうか?生理食塩水との併用は(とくに腫瘍内科領域で)慣習だが、エビデンスは乏しい(Ann Int Med 2008 149 259)。というか、あるのはfurosemide単独使用の小規模スタディだけで、これは1120mg/dという高用量でも1/3の患者しかCaが正常化せず、多くは低Mg血症を発症した。生理食塩水との併用は、だから、奨めるデータも奨めないデータもない。少なくともvolume overload例には正当化できるだろう。 

 Bisphosphonateはどうか?効く、量に比例して効く(Am J Med 1993 95 297)、とくに強いpamidronate、zolendronate、ibandronateは(ibandronateはFDAが適応を認可していないが)。しかし腎毒性と腎機能低下時のdose adjustmentに留意が必要で、ASCOがガイドラインを出した(CJASN 2012 7 1722、表1)。腎毒性はcollapsing FSGS(とくにpamidronateに多い)、ATN(zolendronateに多い、不可逆的で透析導入になることも)、どちらも繰り返し投与した場合に起こりやすい。

 Calcitoninは?サケ(salmon)から作られるというのがユニークだが、まあ効かない、でも害もない。重症の高Ca血症でbisphosphonateと併用したら良かったというデータはある(BMJ 1986 292 1549)。[2015年5月追加]日本では即効性があるとして使われるようだが、推奨量が4単位/kgなのにたいして、日本の保険適応上限は80単位で足りないそうだ。なおBMJのスタディでは10単位を8時間ごと皮下注している。

 とまあここまでは知っている話で、ここからが新しかった。Gallium Nitrate(ガリウムは周期表の第13族、アルミニウムと同じ)は破骨細胞を止めるらしく、五日間連続静注でbisphosphonateより効くかもしれないというデータがある(Cancer J 2006 12 47)。ステロイドはリンパ腫による高Ca血症に用いられ、1α-hydroxylaseを阻害して1,25-OH vitamin Dを下げるという(NEJM 1992 326 1196)。

 抗PTHrP抗体(Clin Cancer Res 2005 11 4198、日本の研究)、抗RANKL抗体denosumab(Lancet 2011 377 4198)も開発された。RANKL(receptor activator of nuclear factor κB ligand)とはosteoblastがosteoclastに話しかけるシグナルの一つで、これを受けた破骨細胞は成熟し増殖し活性化する(逆のシグナルは以前ここでも紹介したosteoprotegerin)。Bisphoshonate不応の高Ca血症にdenosumabを試した報告(一例、Ann Int Med 2012 156 906)もでた。

2012/11/04

Evidence-based management of hyperkalemia

 高K血症の心毒性は、resting potentialが上がるので心筋細胞膜のexcitabilityがあがるからとされている。同じことは横紋筋にも起こり、この場合なんと高K血症によりresting potentialがthreshold potentialより高くなり筋細胞が不応になってしまうことがある。それで、低K血症のみならず高K血症が筋力低下でやってくることもある。

 高K血症と心電図変化の相関は、実際には教科書にあるほど典型的ではない。スタディによれば、6-9.3mEq/lの高K血症で心電図変化があったのは46%に過ぎず、致死性不整脈になった14例のうち事前に心電図変化があったのは1例だけだった(CJASN 2008 3 324)。

 おもしろかったのは、同じK濃度でも、Ca濃度を下げただけでT波の上昇が見られたという症例だった。高K血症でCaを投与するのはthreshold potentialを上げるためだが、たとえば透析患者さんにcinacalcetを投与した場合、Caが下がりthreshold potentialが下がるので心筋のexcitabilityが高まる。

 インスリンはKを下げるが、持続(Am J Med 1988 85 507)でもボーラス(KI 1990 38 869)でも低血糖がかなり起こる。グルコースを多くあげるか(AJKD 1996 28 508)、β刺激剤を併用すれば(糖新生が起こるから)いいかもしれない。Beta-agonistの効果は、0.6mEq/l/10mg、0.9mEq/l/20mg程度であまりよくない(Am J Med 1988 85 507)。患者さんがβ遮断薬を飲んでいれば効かないし、虚血性心疾患があれば危険だ。

 重曹は、重度アシドーシスでは有効だ。というのも、アシドーシスでは細胞のNHE1チャネルからH+と一緒にNa+が細胞内に入れないので、重曹を上げるとNBCe1チャネルからHCO3-と一緒にNa+が細胞内に入り、Na-K-ATPaseが回りK+を細胞内に取り込むことができるからだ(JASN 2011 22 1981)。

 しかし、アシドーシスでなければ、volume expansionによる希釈効果しかなく、その効果は生理食塩水と変わらない。Resin(Kayexalate)は、SorbitolとSorbitol+ResinでK降下作用に差がなかった(Gastroenterology 1995 108 752)。


情熱のtorch

 腎臓内科は学ぶことがたくさんあるので、忘れない様に学んだことを書き留め、忘れた頃に検索して学び直せるブログのようなシステムを採用している人は、私の他にもいる。うちの大学にもOne Noteソフトをつかってパソコンに書きとめている人がいる。昨日会った、Detroitでprivate practiceしている米国ブロガーJoel Topf先生も同じように始めたという。

 ブロガーは、旧弊の医学界に新しいムーブメントを起こしている。Renal Fellow NetworkでもeAJKDでも、レスポンスがインスタントに得られるし、インタラクティブだし、世界中からものすごい多くの人が読む。短くまとめてくれるので論文を読む手間がはぶけるし、もし論文を読もうとおもえばリンクからすぐ飛ぶことができる。

 おなじ情熱を共有する人に出会うのは、心に火がともるようで嬉しい。RFNの元エディタで現在DukeにいるMathew Sparks先生は、創始者の故Nathan Hellman先生に最初ブログに記事を書かないかと言われて尻込みした。しかし、Hellman先生の急死に遭って、この火を消してはならないと強く感じてRFNを続けることを決心した。

 それで、Hellman先生と一緒に記事を書いていたConall O'Seaghdha先生のメールアドレスをなんとか探し出しコンタクトを取り、以後フェローを卒業するまでエディタを続けた。どうしても書きたくて、参加したくて自分からなんとかコンタクトを取る過程は、私がSparks先生の連絡先を探した経緯とも似ていた。

 RFNは、貴重なウェブサイトだ。どうしても書きたい、学んだことを伝えたいというフェローの情熱だけで成り立っている。これは、書いてくれとお願いしてもダメなのである、自分から書きたい人でないとダメ。だから、サイト存続にあたってはどうすれば情熱のTorchを継代していけるかがカギだろう。

ODS & K

 ODSのリスク因子に低K血症がある(Am J Med 1994 96 408)。この報告では、ODSの多く(半数以上)でKが3mEq/l以下だった。原因は分かっていない。そういえば、低K血症だけでもODSがみられたという報告もあった(J Neurol Neurosurg Psychiatry 2003 74 353)。日本からの報告で、たしかanorexia nervosaの一例だったと思う。

2012/11/03

Evidence-based management of hyponatremia

 低Na血症の治療で推奨されている速度は、30年前は2mEq/l/hrだった。というのも、重度の低Na血症は脳浮腫により脳ヘルニアや重篤な脳機能障害をもたらすと考えられていたからだ。0.6mEq/l/hrでは遅いという論文がいくつもでた(JEJM 1986 314 1529、Ann Int Med 1990 112 113)。

 しかしODS(osmotic demyelanation syndrome)が0.6mEq/l/hrを越える治療群で起こるというsingle-centerの報告が出て(Ann Int Med 1987 107 656)、12mEq/l/24hrと18mEq/l/48hrを越えると危険域と分かって来た(JASN 1994 4 1522、J Neurol 2010 25 1176)。

 そもそも低Na血症治療のゴールは症状(とくに神経系の)を取ることで、そのためには4-6mEq/lのNa上昇で十分かもしれない(脳外科領域での脳浮腫に対する3%NaClのデータによる、Neurology 2008 70 1023)。

 Na濃度を上げ過ぎたら、戻した方がいいのか。Overcorrectionは、起こる(CJASN 2007 2 1110)。コントロールスタディはないが、戻したら何も起こらなかったという報告はある(CJASN 2008 3 331)。ここではDDAVPを使っているが、これがVaptan使用例にも有効かは不明だ。演者は、overcorrectionを防ぐため3%NaClを用いる場合prophylaciticにDDAVPを投与していると言う(AJKD 2010 56 774)。

 現在では、6-8mEq/l/dayを越えるべきではないというのが推奨だ(Editorial、JASN 2012 23 1140)。急性低Na血症は急速にreverseしても大丈夫と言われているし、実際水中毒のような場合、水を止めればNaは急速に戻る。しかしこの論文ではdo no harmの立場から急性でも慢性でもこのthresholdを守るべきとしている。

MN2

 膜性腎症の原因となる抗原と抗体が次々と明らかになっているが、このトピックについてJASNにレビュー(JASN 2005 16 1205)を書いたフランスのRonco先生が最新の研究結果を含めて講演した。PLA2Rの他にBSA(NEJM 2011 364 2101)、NEP、rhASBの話がでた。BSAは小児のケースだが、消化管のバリアが未熟でBSAが消化されずに血液に入り、そのままではcationicなので陰性にチャージしたGBMに沈着すると考えられている。NEPも新生児の話(NEJM 2002 346 2053)だが、母親にMME gene mutationがあると胎児のNEPに対して抗体が作られ、胎児腎に膜性腎症が起こる(Nat Clin Pract Nephrol 2006 2 388)。ただし抗体の種類が重要で、IgG4は病原性がなく、IgG1に病原性があると分かった。このようにIgGのサブクラスについても調べられていて、idiopathic MNのanti-PLA2R抗体ではIgG4が多く(JASN 2012 23 1735)、LNではIgG3が多いなど違いがある。さらに移植後13日後に再発したMNでグラフトにmonoclonalなanti-PLA2R IgG3抗体がみつかったという報告も紹介された(JASN, in press)。
 [2016年7月追加]原発性膜性腎症にもうひとつ、足細胞抗原のthrombospondin type-1 domain containing 7A(THSD7A)にたいする抗体もみつかっている。西洋では原発性膜性腎症の5%、日本では9%と地域差があるようだ(レビュー、AJKD 2016 68 138)。

MN

 膜性腎症のセッションに参加した。まず英国のUK GN DNA Bank(とフランスとオランダの小規模コホート)のGWAS(genome-wide associated studies)を行った先生が、染色体の二番と六番にSNPを見つけて、前者はPLA2R、後者はHLA-DQA1だったという話をした。

 いまや抗PLA2R抗体の有無でidiopathic MNとsecondary MNをだいたい分けられると考えられ、陽性なら二次性の精査は不要(もしかしたら腎生検すら不要かもしれない)という。また抗体価が蛋白尿に相関することや、RTX投与後の抗体陰転化は治療の反応を予測することもわかった(JASN 2011 22 1543)。

 そこから話は治療に移り、英国で初めてMNのRCTらしいスタディを行った(Lancetに近々発表される予定)先生が今年改訂されたKDIGOガイドライン(KI supplement 2012, chapter 7)と自らのスタディ結果をレビューした。ガイドラインは①腎機能が悪化し始めたら治療せよ(すでにCr 3.5mg/dl以上なら手遅れ)、②Ponticelliを選択せよ(alkylating agentにはcyclophosphamideを用いよ)、③CNIは第二選択にせよ、④MMFは使うな、だ。RTXのコメントはないようだ。

 そして彼のスタディは10年かけてenrollした108例を①Ponticelli(chlorambucilを用いるレジメン)、②cyclosporine、③supportive care(ACEIなど)に分けて、腎機能悪化(20%以上)と蛋白尿をアウトカムに前向きに追跡したものだ。結果は、①のほうが②より優れ、②は③とほとんど変わらなかった。とはいえ①でも腎機能が保たれたのは40%に過ぎなかったし、副作用は①も②も多かった。

 [2013年5月追加]最終段落のスタディが、Lancetに載った(Lancet 2013 381 2)。

 [2016年7月追加]ふつふつしていた原発性膜性腎症に対するRTXの有効性(散発的な報告をまとめたシステマティック・レビューはCJASN 2009 4 734)だが、初のRCTであるGEMRITUXの長期データがでた(doi: 10.1681/ASN.2016040449)。

 パリの施設でeGFR 60-70ml/min/1.73m2、たんぱく尿7000mg/gCr、Alb 2.0g/dl程度の患者さんを非免疫抑制抗たんぱく尿治療(non-immunosuppressive anti-proteinuric treatment、NIAT)群とNIAT+RTX群にわけて、6ヶ月後のたんぱく尿の完全寛解は前者で21%、後者で35%だったが数が少なく有意さが出なかった。ただし抗PLA2R抗体価(約8割で陽性)はNIAT+RTX群で著明に低下し消失した。

 抗PLA2R抗体を消してもたんぱく尿がなおらないのは、困ったことだ。RTXを375mg/m2BSA on Day 1 and Day 8の二回しか打っていないのが少ないのか(北米のコントロールされていないスタディではweekly RTX 375mg/m2BSA x 4 + every 6 monthsで、2年のフォローアップで11g/gCrのたんぱく尿が2.4に、70ml/min/1.73m2のeGFRが80に回復した;CJASN 2010 5 2188)。また、NIAT群の寛解率が高すぎる気もする。


Beyond Bardoxolone

 BardoxoloneのBEACONトライアルが急遽中止になったことは腎臓内科コミュニティをがっかりさせたが、今日の演者は"we're not done yet"と言っていた。その意味は、Nrf-2のようなanti-inflammatory pathwayを治療のターゲットにする研究は続けられるべきで、実際にNrf-2 activatorのBG-12(dimethyl fumarate)がmultiple sclerosisで第三相スタディまでいった(NEJM 2012 367 1098)ということだ。

Beyond ACEI/ARB

 ACEIとARBを最大限に用いても持続する蛋白尿には、spironolactoneが用いられる。Aldosteroneは腎臓でENaCに作用するだけでなく、線維化、左室肥大、内皮細胞障害などにも関わることが分かっているし、ことに循環器領域ではEPHESUS(Circulation 2009 119 2471)など複数のスタディでMRA(mineralocorticoid receptor antagonist)の有効性が示されている。腎臓、蛋白尿についてはどんなデータがあるのか?

 1996年にGreenらがACEI/ARB投与ラットにアルドステロンを投与すると蛋白尿が増悪することを示した(JCI 1996 98 1063)。さらにアルドステロンがNADPH oxydase、ERK1/2などの細胞内シグナルを介してmesangial/fibroblast prolifilation、podocyte injuryを起こすことも示された(Nature Review Nephrology 2010 6 261)。

 2009年にはspironolactone(25mg/d)をlosartan(100mg/d)、placeboと比較したスタディがでた(JASN 2009 10 2641)。これによればspironolactoneはlosartanよりもanti-proteinuric effectがあり、それは血圧と無関係であった。しかしspironolactoneは高K血症を起こした(20%でKが6.0mEq/l以上になった)。現在、Kを上げずに蛋白尿を抑えるようなselective MRAが研究されている。

KPD v. desensitization

 Living donorがいてABOないしクロスマッチが不適合の場合、選択肢はKPD(kidney paired donation)かdesensitizationだ。それぞれの第一人者のトークが聴けた。KPDを熱心に(30-40/year)しているNorthwestern Memorial Hospitalの先生は、自分の経験したnon-simultaneous  extended altruistic-donor chain(NEJM 2009 360 1096)を紹介した後、KPDには脆さ(chainは簡単に壊れる)があるし、cPRAが高ければいくらプールを広げてもマッチする可能性は低いが、効率をあげれば全米で年に1000-2000件は行けるのではないかと話した。

 Desensitizationを熱心にしているJohn Hopkinsの移植外科医は、やはり自分の経験した211例(mean cPRA 82、NEJM 2011 365 318)についてまず話し、術前後にIVIGと血漿交換をおこなうこと、Death-censored graft survival、patient survivalはcompatibleな移植例に比べれば悪い(抗体価の強さに応じてLuminex、Flow、CDCの順に悪い)が、移植を受けずに透析しながらマッチを待つのに比べれば(たとえCDCクロスマッチ陽性でも)良いと主張した。

 次に、LuminexやFlowをクロスマッチに用いる、脱感作にIVIGと血漿交換を用いるなどは全米の施設にほぼ共通したプラクティスと主張した(CJASN 2011 6 2041)。これを彼は"eminence-based medicine(誰かが始め、皆が従い、慣習になる医療)"と呼んだ。Rituximab、Bortezomibの話はでなかったが、Eculizumabの話は出た(NEJM 2010 362 1744、catastrophic APSの一例だが)。

 そのあとKPDとdesensitizationの比較に話は及び、cPRAとDSAと血液型できれいに治療方針を分けていた。Low PRA、low DSA、O donorならKPD、Low PRA、high DSA、O donorもKPD、High PRA、low DSA、non-O donor(とくにAB)、O recipientならまずKPDでマッチしない(モデルで示した論文はJAMA 2005 293 1883)からdesensitization、High PRA、high DSA、non-O donor、O recipientならKPDもdesensitizationも難しい。

 しかし、実際は最後のカテゴリーが一番多い…。彼はKPDでDSA抗体価の少ないドナーをみつけて脱感作するというコンビネーションを薦めていた。ただKPDは前述のようにchainがbreakしてしまうことが多々あり、実際は困難を極める。DSAのタイプ(DQが特に悪い?)についても会場から質問が出たが、まだスタディなどでvalidateはされていないようだ。

2012/11/02

それ知ってる

 今回は、2010年のNKFと違って「それ知ってる」ということも多い。遠位尿細管のNa再吸収などはその一例で、Framingham study cohortのGitelman、Bartter症候群遺伝子のhaplotypeが低血圧という話などは「はいはい(それについてはうちのGrand Roundでも発表しました)」と思えた。でもそのあと、生理学者らしき人が出てきて、ROMKチャネル、NKCC2チャネル、NCCチャネルの遺伝子変異が具体的にチャネルのどの部分に起こりチャネルをどう変容するかについて説明しだしたときは「恐れ入りました」と舌を巻きつつ「ここまで知らなくてもいいけどな」と思い、不謹慎ながら笑いがこみ上げた。
 ROMKの変異箇所は主にcytoplasmic domainにあり(Am J Physiol Ren Physiol 2010 299 F1359)、mis-trafficking(Goldi体に異常チャネル蛋白が溜まる、Cell 2011 145 1102)を起こしたり、PIP2というチャネルの開放に関わる箇所でPIPが外れるようになったりしているらしい。NKCC2の変異は、processing problem、altered response to low intracellular Clを起こしているらしい(Am J Physiol Ren Physiol 2011 300 F840)。そしてNCCは、NCC自体の変異というのはあまりない(あっても機能はほとんど正常と変わらない、J of Hypertension 2011 29 475)が、それを制御するWNKsやSPAKの異常が問題なようだ。

鉄の副作用

 今回ハリケーンSandyの影響で、iron in CKD/ESRDのセッションでは演者二人が来れず、一人はBostonから電話でプレゼン(司会がパワーポイントを操作)、もう一人は代わりの演者を立てるなど学会は対応に追われていた。電話で講演したのはMGHのBabitt先生で、彼女のHepcidin/ferroportinについてのトークはJASNのレビューを読んだ後なので理解が深まった。

 彼女の研究分野はどのように鉄が肝のHepcidin分泌を促進するかで、hereditary hemochromatosisの遺伝子異常に注目してその一つHJVがBMP6のco-receptorであることを示した(Nat Genet 2009 41 482)。その下流はSMAD(Blood 2008 112 1503)。Fc HJVも作って、ESAと併用するとESA resistantが解けることも調べた(JCI 2007 117 1933)。

 鉄の副作用について話す予定だったのはDr. Fishbaneだが、Long Islandの病院で働く彼は来れなかった。彼のスライド(他の先生が代わりに講演した)によれば、鉄の副作用に①anaphylactoid(iron dextranを使わない現在では稀)、②iron overload、③infection、④oxidative stressなどがある。

 ②は、剖検するとかなりのESRD患者で肝iron overloadが見られた(JAMA 1980 244 343)、剖検しなくてもMRIで肝のiron overloadが見られた(KI 2004 65 1091)という報告がある。どちらもFerritinは相関しなかった。ただし肝iron overloadのclinical significanceは不明だ。

 ③はanimal modelでのtheoreticalな話かと思ったら透析患者さんでも調べられており、S. epi growth indexなる数値が上がった(NDT 2000 15 1827)とか、neutrophil functionが下がった(KI 2003 64 728)とか報告があった。④はよく分からなかった。

ESRDと掻痒

 ESRDと掻痒について。特に注意して聞かなければ、患者さんから訴えることは少ない。以前はESRDの半数以上と言われていたが、DOPPSでは各国で約40%という(NDT 2006 21 3495)。痒みのメカニズムは何らかのシグナル(keratinocytes、mast cell、eosinophilなど)が神経終末に伝わるのが始まり。ヒスタミンを介したtransmission(HR4、IL31、TRPV1らが関与)、介さないtransmission(PAR-2などが関与)がある(Lancet 2003 361 690、Trends in Neuroscience 2010 33 550)。それが脊髄dorsal hornで脊髄神経にスイッチし、脳に伝わる。Functional MRIによればDFC、PCC、ACCなどが痒みに関係しているようだ(Br J Dermatol 2009 161 1072)。痒み神経線維と痛み神経線維は別と考えられ、痛みはVglut2を介してシナプスが交代するのに対し痒みはVglut1/3を介する(Neuron 2010 65 886)。さらに痛み神経はBhlhb5を介して痒み神経を抑制するのでBhlhb5を抑制するとマウスが痒がる。
 さて、ESRDと掻痒の関係は。以前は二次性副甲状腺亢進症が悪いと考えられ、Cinacalcetが痒みを改善したというデータもあった。しかしDOPPS、ITCH National Registryなどのデータによれば痒みの程度とPTH、P、Ca、Mg、透析のefficiencyなどに相関はなかった(CJASN 2010 5 1410)。相関があったのはHep B/C(NDT 2008 23 3685)、CRP。現在では慢性炎症が重要なリスク因子と考えられ、痒みは慢性炎症のmanifestationであるがゆえにsurvivalとも相関している(Q J Med 2010 103 837、KI 2006 69 1626)ことも示された。Depressionとも相関しているという(DOPPS
データ)。
 さまざまな治療があるが、moisturising cream、capsaicinが最もよく用いられちゃんとしたデータもあるようだ。tacrolimus cream、endocannabinoids、γ-linolenic acidなども試されている。鍼はsystematic reviewが出ているし(J of Pain and Symptom Management 2010 40 117)、κ opioid antagonistのnalfurafineも複数のcontrolled studyで有効性が示された(Am J Nephrol 2012 36 175)。SSRI、serotonin agonist(ondansetronの仲間)、gabapentin/pregabalin、UVBなども用いられている。腎臓内科にいると、このような皮膚科や神経内科領域ともオーバーラップするので飽きることがない。
 [2013年12月追加] κ opioid antagonistのnalfurafineは、すでに日本で適応が通っている(商品名レミッチ®、2.5mcg眠前)ことが分かった。μ受容体刺激はかゆみを起こし、κ受容体刺激はかゆみを抑えるという。副作用に不眠も傾眠もあるようだ。

2012/10/23

Hypomagnesemia and hypokalemia

 電解質異常・酸塩基平衡は腎臓内科の専売特許ではない。こないだ総合内科の診療チームの部屋で共有する患者さんの治療方針について議論していたら、ふとホワイトボードをみると細胞とイオンチャネルの図が描いてある。聞けば、チームについている医学生が「どうして低Mg血症があると低K血症は治りにくいのか」について論文を調べて講義したのだという。

 正直この質問については「まだ良くわかっていない」という答えに安住していたので、感心して彼の見つけた論文(JASN 2007 18 2649)を読んだ。著者によれば低Mg血症は低K血症の半数以上にみられ、低Mg血症が低K血症の治療を困難にする理由は"remains unexplained"としつつもどうやらそれが遠位尿細管での尿K排泄の亢進によるらしいと主張し説明している。

 というのも、Bartter症候群の患者やHCTZ服用の患者にMgを補うと尿K排泄が減り、健常な人にMgを静注するとに尿K排泄が減り、Gitelman症候群の患者にMgを静注するとTTKGが減るからだ。遠位尿細管でのK排泄はROMK(non-flow stimulated)とmaxi-K channels(flow stimulated)が司るが、MgはROMKを通じたK排泄を抑制しているらしい。

 ROMKはチャネル(ポンプではない)なのでKは自由に出入りできる。ただmembrane potential(細胞内が陰性チャージ)による内向きK流とカリウムのgradient(細胞内にKがたくさん)による外向きK流が平衡して、通常はKが外に排泄されている。しかし細胞内にfree Mgがあると、これが内側からチャネルの孔をふさいでK排泄を抑制するのだ(Science 1994 371 243)!

 では低Mg血症のとき、尿細管細胞内のfree Mg濃度もやはり低いのだろうか。実は、これを直接証明した人はまだいない。まずMgは60%が骨、38%が細胞内、2%がplasmaなど細胞外液にある。細胞内Mg濃度は10-20mMだが、free Mg濃度は0.5-1mM。細胞内外のMgは3-4時間で100%入れ替わる(Biometals 2002 15 203)ので、おそらく低Mg血症なら細胞内 free Mgも低いだろうと著者は推測している。

 OK、では低Mg血症だが低K血症を起こさない疾患(TRPM6変異など)はどう説明する?著者は、いくらROMKの滑りが良くなっても、流れを起こすdriving forceがなければK排泄は変わらないだろうと主張し、driving forceの例に遠位尿細管へのNa delivery、アルドステロンなどを挙げている。この論文はextremely interestingだった、関連論文も読みたい。


Anemia in CKD

 今月は仕事が忙しくなくて、読む時間があるので勉強になる(それに、他のアカデミックなプロジェクトが色々進んでいる)。読むのはだいたい症例で経験した臨床的なトピックに関する論文で、今日は慢性腎不全と貧血についてのレビュー(JASN 2012 23 1631)を読んだ。

 貧血が慢性腎不全患者のほぼ全員に起こり、QOLを下げ多くの疾患のリスク因子であることは既に知られている。EPO(erythropoietin)が1950年代に発見され、1980年代にrecombinant human EPOが作られたまでは良かったが、それで話は終わらない。

 まず、ESA(erythropoiesis stimulating agent)によりHgbを上げ過ぎた群では死亡や疾患リスクが高かった(secondary analysesでは高いHgb自体ではなくEPO resistanceがリスクと示されたが)。それで、KDOQIガイドラインは"should generally be in the range of 11.0 to 12.0 g/dL"だった。

 さらに、最近のKDIGOガイドライン(KI supplement 2012 2 299)では"In general, we suggest that ESAs not be used to maintain Hb above 11.5 g/dl"とターゲットが引き下げられた。ESA開始時期も、非透析患者は"ESA therapy not be initiated with Hb concentration >10.0 g/dl"、透析患者は"ESA therapy be used to avoid having the Hb concentration fall below 9.0 g/dl when the hemoglobin is between 9.0–10.0 g/dl"という。

 さらに、ESA resistanceがあるように、慢性腎不全患者の貧血はmulti-factorialだ。uremic inhibitors of erythropoiesis(想像上だが)、赤血球の短寿命、ビタミンB12不足(透析で失われると考えられ、透析患者さんはnephrocapというビタミン剤を飲む)、それに何より鉄欠乏だ。

 鉄欠乏の原因に、鉄喪失(透析で失われる、uremic platelet dysfunctionによる出血)、鉄吸収障害、鉄利用障害(reticulo-endothelial cell iron blockade)などがある。鉄利用障害があると、ferritinが高値でiron saturationが下がる(ferritinは急性炎症でも上がるが)。

 鉄吸収・利用障害の原因は?と思っていたら2000年にhepcidinという分子が発見された。これは肝臓で作られ血中をめぐり、鉄トランスポータのferroportinを壊す。このトランスポータは十二指腸、マクロファージ、肝細胞などにみられ、hepcidinがあると鉄吸収・鉄利用ができなくなる。hepcidin/ferroportin axisに効く薬が動物実験レベルで研究中という。

 [2015年5月追加]鉄欠乏性貧血のレビューがでたのを知った(NEJM 2015 372 1832)。鉄の吸収はHIF-2αにより腸管細胞の内腔側に表出されるduodenal divalent metal transporter 1 (DMT1)を通じて細胞内に入り、ferroporinによって細胞の外にでて身体をめぐる。そのためにはferroportinを壊すhepcidinが抑制されていなければならないが、hepcidinを抑制するものには次のようなものがあるという:

 鉄が結合したtransferrinや肝内鉄量の減少
 hepcidinのinhibitorであるtransmembrane protease, serine 6 (TMPRSS6)の上昇
 hepcidinのactivatorであるbone morphologic protein 6 (BMP6)の減少
 hepcidinを抑制するerythropoietin-stimulated erythropoiesisの増加

2012/10/19

Lecture

 FACE programの第二回はプレゼンテーションについてで、hook(つかみ)の話に終始した。というのも、レクチャは(日本でもそうかもしれないが)もはや過去の遺物くらいに思われていて、まず最初に聞く人の関心や注意を引かなければ、聞いてもらえず、まして理解もしてもらえないというわけなのだ。私はレクチャは効果的な学びの機会と思っているので意外だった。
 レクチャは、ただ聞いたのではだめだが(かくいう私もつまらないと良く寝ることで有名だ…)、その場でメモを取り、分からないことは質問するか自分で調べ、忘れないように別の場所にまとめて整理して書き残し、さらに他の人に説明まですれば、かなり有益と思う。問題は、どうしたら聞き手がそこまで真剣に聞いてくれるかだ。
 それには、レクチャする人がレクチャ内容をよく知っているのみならず、それを分かりやすく説明することができ、さらに聞き手がどれだけ理解したかを大事にしていることが必要だ。Sir William Oslerは言う、"The successful teacher is no longer on a height, pumping knowledge at high pressure into passive receptacles... he is a senior student anxious to help his juniors."(BMJ 2003 326 437より)。これだ!

Klotho

 F1000というwebsiteがある。医学生物学分野で、その道のエキスパートが、読む価値ある論文についてレビューし評価するpeer-reviewだ。本社はロンドンにある。彼らが星の数ほどある論文のなかから注目すべきものをピックアップしてくれ、さらに内容とそのimplicationを短く要約してくれるので、自分ひとりでkeep upしなくてもよいというわけだ。

 エキスパートは主に米国、英国、欧州、アジアなどから選ばれているが、うちの腎臓内科にも二人のfaculty memberとひとりassociate faculty memberがいる。それで、そのひとりの先生が九月に「論文(JASN 2012 23 1641)をレビューするので手伝ってみないか?」と声をかけてくれ、その執筆・編集作業がやっと終わった。

 これは単なる論文の要約ではなく、この論文が現行の理解においてどの位置にあり、どのような新しい発見があり、どのような今後の研究方向性を示唆するかを、エキスパートの目で評価するものだ。だから、その分野について勉強する必要があり、レビューや研究論文を(ひとつはCurr Opin Nephrol Hypertens 2012 21 362)をいくつか読んだ。

 論文はKlothoについて。Klothoは当時日本の神経研究所におられた(現在はUT Southwestern)黒尾誠先生が抗老化と抗動脈石灰化の遺伝子として発表(Nature 1997 390 45)。主に腎遠位尿細管で産生され、腎ではFGF23と一緒に近位尿細管のリン再吸収トランスポータ(NPT2a、2c)を制御してリン利尿をおこす。その仕組みは完全には証明されていないが、Klothoの細胞外部分が切り取られて流れ、近位尿細管に届くとして矛盾しない。

 Klothoを初めて知った時は「腎臓ってerythropoietin、1,25-OH vitamin D、reninとかいろいろ分泌するけど、老化にも関与しているなんてすごい!」と思った。しかしこの論文では、腎(遠位尿細管)のKlothoを選択的にブロックしてもマウスは異常な老化をしなかった。ブロック具合が不十分だったためか、身体の他の部分からでるKlothoが抗老化作用を補っているためかは分からない。


2012/10/18

IVIG

 先日、変わったコンサルトを受けた。「AIDP(ギラン・バレー症候群)の患者さんにIVIGか血漿交換で治療したいが、慢性腎不全があるのでIVIGによる腎障害が心配だ…かといって血漿交換もカテーテル手技にともなう合併症リスクがあるし…どうしましょう?」という。

 IVIGによる腎障害は正直知らなかった。どうやら安定剤に用いられていたsucroseによる高浸透圧性の尿細管障害が主な機序らしい。抗体による炎症なども関係しているが、安定剤をglycinに変えてから腎障害の頻度は減った。

 二糖類のショ糖は、消化管で単糖類に分解されてから血中に入るのが常で、静注で二糖類のまま入ると、生体では分解できないらしい。それで、血中から糸球体で濾過され、尿細管で取りこまれ長期間残り、浸透圧をあげるので水を吸い尿細管細胞が膨満する。

 IVIGで他に知っておくべきは低Na血症だ。これは経験したことがある。大量のたんぱく質による偽性低Na血症もあるが、IVIGがほぼNa-freeなことと、高浸透圧なこと(水を吸う)による真性の低Na血症もある。

茶と鉄

 腎臓内科外来では慢性腎不全を主に診るので緊急性はまずないのであるが、ときに腎臓以外の緊急疾患に対応することがある。昨年はHgb 6g/dlと言われて、診察すると下血と低血圧で即入院となった。今年は、Hgb 5.8g/dlというから診察すると、こちらは慢性の経過で、重度の鉄欠乏性貧血だった例がある。

 さてこの症例、鉄欠乏性貧血と聞いてボスがまず患者さんにした質問が「お茶は好き?」だった。お茶?こんな時にシュールな…と思って聞いていると、タンニンが食事中の鉄と結合して腸管での吸収を阻害するそうだ。彼は茶による重度の慢性鉄欠乏を少なくとも2例は診たことがあるという(いずれも、茶をやめたら直った)。

 このボスの私が尊敬しているところは、裏付けとなる論文を紹介してくれる(か、彼の経験に基づく意見なら正直にそういってくれる)ところだ。それで、後日ふたつの論文が送られてきた。ひとつは南アフリカの論文(Gut 1975 16 193)で、19世紀に英領アジア(主にインド)から移住してきた人達を対象にした実験だ。彼らはしばしば鉄欠乏であったためという。

 放射性Feで標識した鉄をさまざまな食べ物に混ぜ、水、茶、ミルクティーなどと一緒に摂取してもらい鉄吸収の程度を調べたところ、パン・米・ポテトなどと茶の組み合わせでは鉄吸収が落ちた(ミルクティーでも同じ)。ウサギの血液から抽出したヘム鉄は、生では茶により吸収が落ち、加熱したら吸収は変わらなかった。

 もう一つはネスレの協力で行われたスイスとアメリカの研究グループによる論文(British J Nutrition 1999 81 289)だ。1999年までには、茶のみならずフェノール基の豊富な飲料はいずれも鉄吸収を阻害することが分かっていた。それで、茶、ココア(ネスレだからミロかな)、ハーブティーなどの鉄吸収の程度を調べたら、茶(black tea)が最もpotentだった。




 [2013年3月追加]茶と元素の関係でもう一つ。NEJMのimages in clinical medicine(NEJM 2013 368 1140)に、茶の過剰摂取による骨格のフッ化(skeletal fluorosis)が載った。フッ素は飲み水だけでなく茶にも微量含まれている。だからこの例のように過剰に摂取(ティーバッグ100-150個で淹れた一瓶の茶を毎日飲む)すると、体内にフッ素がたまるそうだ。

2012/10/15

Glycocalyx

 糸球体で血液をろ過する仕組み、という基本的な腎の生理学トピックですら決着がついていないのが腎臓内科の興味深いところだ。一般的には「基底膜が分子量サイズと陰性電荷によってタンパク質の透過をブロックしている」と考えられている。しかし、長らく"retrieval hypothesis(アルブミンは完全に基底膜を透過し尿細管で再吸収されるとする)"と呼ばれる仮説が唱えられていた。

 "retrieval hypothesis"は否定されたが、現在でも基底膜のみならず、血管内皮細胞、そこにあいたfenestration(窓)、基底膜を作るmesangial cell、それに足細胞とそこから伸びた足突起、など様々な要素が血液と尿のinterfaceで物質交換に関わっていると考えられている。現在注目されている一つは、内皮細胞を内側からコートするglycocalyxとESL(endothelial surface layer)だ。

 レビュー(Curr Opin Nephrol Hypertens 2012 21 258)によれば、GlycocalyxやESLを染色する技術のおかげで、それらを除いて蛋白尿が出たという研究結果がどんどん出るようになった。最近のJASNにも出た(JASN 2012 23 1339)。足細胞の異常が報告されてきた糖尿病腎症だが、内皮細胞の異常もあることが分かってきた。内皮細胞・メザンジウム・足細胞のそれぞれが大事ということか。

2012/10/11

起死回生

 こんな風になりたいな、と思うスタッフの言葉があった。Renal Grand Roundでのこと。テーマはMARS(Molecular Absorbent Recirculating System、俗に言う"肝臓透析"の一つ)。テクノロジーについて解説した前編と代わり、後編は質の低い臨床データと結論のないメタアナリシスをさんざん見せられ、しかもみな欧州のスタディ(米国では薬物中毒にのみ適用)だ。

 演者の声も暗く単調だし、みんな退屈した。さらに「こんなデータもないものを実験的に使うんじゃない」「ECMOと一緒だ、2~3の生存例があるだけで、それが有効性の証拠になり、以後効いているか効いていないか分からないのに使われ続けている」と不満を口にする人も。私も「今日は収穫なかったな、うたた寝すればよかった」と思っていた。

 すると、一人のスタッフが「Amanita(テングタケの一種)の治療にはMARSの他にもあるよね、Milk Thistle(マリアアザミ)の種から抽出した、あれなんだっけ?」と発言した。演者も「ありますね、えっとあれは…」と名前を思い出そうとした。先生によればこの薬はキノコ毒素(amatoxin)による肝障害を予防する効果があるという。あとで調べるとSibilininと分かった。

 キノコ摂取から24時間以内までOK。米国では治験を行っているPI(primary investigator)に電話するとまるでマジックのように(FEDEXよりも速く)届けてくれるらしい。そこで少し笑いが起き、さらに別の先生が「tubing systemでもあるのかな?」と冗談をいい、みんな大笑いしてお開きとなった。私も、会の内容がイマイチで雰囲気が悪くても、さりげなく学びを提供し、笑いを取りたいものだ。


2012/10/10

野菜や果物を摂ろう

 今週のJournal Clubは、重曹より野菜や果物を摂ろうという、一風変わったトピックだった(KI 2012 81 86)。同じ号のエディトリアル(KI 2012 81 7)の題名も「CKD(慢性腎不全)の進行を止める鍵は薬局ではなく市場にあるかもしれない」と刺激的だ。どういうことか。

 重曹はCKDの末期で透析を遅らせるために用いられる(有効性を示したスタディはJASN 2009 20 2075)が、CKDの早期であっても病気の進行を抑えるというデータもある(KI 2010 78 303)。アシドーシスが腎不全を進行させる機序の一つは、アンモニアがC3のconformational changeを起こすことによる補体経路の活性化だ(アンモニアがC3分子内のthioester bondを解くらしい)。

 重曹はアシドーシスを改善するが、ナトリウムも摂取するので体液貯留や血圧上昇の心配がある。そこで、重曹の代わりに食事でAlkaliを摂ろう、というわけだ。ここで、アルカリ食品という意味を説明しなければならない(オレンジジュースがアルカリと言われても混乱するでしょう?)。

 酸の電離式をおぼえているだろうか(HA⇔H+ + A-)。アルカリ食品とは、このA-(具体的には有機酸のlactateやacetate)を含む食事のことだ。これらは細胞内でTCAサイクルに入る際にH+を食う。このH+は、水と二酸化炭素から来る(H2O + CO2 ⇔ H+ + HCO3-)ので、結果的にHCO3-が生まれる。だからアルカリ食品なのだ。

 逆に酸性食品とは、基本的に肉のことだ。肉、タンパク質にはtitratable acid(滴定酸、sulfateなど)が多く、腎臓にとってacid loadになる。各食品のミネラル元素(Na、K、Ca、Mg、Cl、PO4、SO4)、タンパク質の比率、それに腸管からの吸収率を勘案して、potential renal acid loadを算出したデータ(J Am Diet Assoc 1995 95 791)によると、アルカリ性食品(野菜・果物・ワイン)のなかではレーズンとほうれん草が飛びぬけてアルカリだった。

 Alkali-rich dietは、重曹にくらべて優れているのか?このスタディはrenal acid loadを50%下げる等価のアルカリ食品と重曹をCKD stage 1、2の患者群それぞれに30日摂取してもらい、尿中の腎障害マーカーとされる分子(N-acetyl-beta-D-glucosaminidaseなど)を測定した。結果はCKD stage 1ではどちらも効果なし、Stage 2では両者ほぼ同効果だった。

 研究グループは、食品のほうがカリウムも多いし血圧低下効果もあるから、重曹よりも食品がいいかもしれないと言う。野菜や果物は、腎臓のみならず多くの面でおそらくヘルシーなはず(常識的にもそう)だが、このように科学的に示そうするのも大事かなとは思う。

 [2013年3月追加]CJASNにStage 4 hypertensive CKD患者を対象にした同様のスタディがでて、TCO2(HCO3のこと)は野菜より錠剤のほうが上がったが、腎障害の尿マーカーの改善は大差なかった(CJASN 2013 8 371)。野菜と果実にはKが多く含まれるが、血清Kにも差はなかった(アルドステロンが働いたせいか)。

 [2013年4月追加]動物モデルの論文。7/8腎摘ラットでNaHCO3投与が生理食塩水投与に比べてアンモニア産生を抑えC3活性を抑えた(JCI 1985 76 667)。5/6腎摘ラットにcalcium citrateとcaptoprilを投与し組織学的に傷害が抑えられた(KI 2004 65 1224)。2/3腎摘ラットで腎組織のH+量をmicrodialysisで測るとGFR低下に相関していた(KI 2009 75 929)。2/3腎摘ラットでH+貯留に相関したendothelin-1とaldosteroneをアルカリ投与が緩和した(KI 2010 78 1128)。

2012/09/21

教えて学ぶ

 レジデントがRenal Grand Roundで発表するのを手伝うのも教育の一つだ。一人はIntra-abdominal hypertensionとabdominal compartment syndromeについて発表するがパワーポイントを見て欲しいという。このトピックは定義自体も曖昧だったし、エビデンスが確立した治療もない領域なので、病態生理とintra-abdominal pressureの測定方法に終始しがちだ。実際、彼女のパワーポイントもそれがほとんどだった。

 それでは面白くないので、彼女が見つけたレビュー(AJKD 2011 57 159)に提案されていたexpert opinionの診療アルゴリズムを詳しく説明するように薦めた。「治療法は確立していない」というよりも、「とりあえずこれ」と提案したほうが役立つし、議論のしようもある。また、アルゴリズムというのは、私の意見では頭のいい人が頭の悪い人を頭の悪いままにしておくための道具(考えなくてもそれに従えばいいから)なので、一つ一つのステップを解説して頭を使おうというわけだ。

 もう一人は、LVAD(左室補助装置)の溶血によるpigment nephropathyについて話したいというが、それに特化した論文がなくて困っていた。それで、Pubmedでいくつかキーワードを入れて、目ぼしいのを探してあげた。なんとか一件引っかかったが、その過程で論文のreferenceの孫引きや、Google Scholarでその論文を引用している論文に当たるなどのテクニックを紹介できたのが有益だった。発表の最後で、スライドに"Thanks to (指導医の先生と私)"と書いてくれて嬉しかった。

 彼の発表は、hemolysisによって起こる病態生理の変化について解説したレビュー(JAMA 2005 293 1653)にある美しい図を用いて、ヘモグロビンがヘム、グロビン、鉄とバラバラになってそれぞれがNOを消費したり血小板凝集を起こしたりする様子を説明したり、ヘモグロビンによる腎障害について説明するスライドのタイトルを"Hemoglobin and You(聴き手が腎臓内科医だから)"としたり、粋だった。

 LVADによるpigment nephropathyにおける尿のアルカリ化についても触れていた(エビデンスはない)。聴衆からは、(横紋筋融解とちがって)溶血が慢性でマイルドなので有効かもしれないという意見がでた。もっとも、LVADが塞栓で詰っている場合はそれを溶かすかポンプを変えるのが常道だろうが。川の水が上流の工場から出る廃棄物で汚染されたら、工場を閉めるか廃棄物が漏れないようにするのと同じことだ。

2012/09/20

Making a difference

 フェローも二年目、レジデントや医学生と一緒に働くコンサルトで何か教育的な新しいことがしたい。そう思って始めた一つが毎日学習の振り返りをメールで送ることだ。興味深い尿沈渣所見があれば病理検査室でカメラ付き顕微鏡を借りてデジタル画像にして送る。いままでdysmorphic RBC(日本語で「破砕赤血球」ということもあるが、実際はミッキーマウスのような形をしているものが多い)、赤血球円柱、尿酸結晶、ロイシン結晶(メープルシロップ尿症、肝不全などで見られる)などを撮った。Aciclovirの結晶は、写真のアイデアを思いつく前に見つけたので雑誌記事の写真を送った(NEJM 2008 358 e14)。

 回診で議論されたトピックとそれについての論文(主にレビュー)のリンクを張り、それだけでは誰も読まないだろうから数行の解説を付けて送る。いままでhyperkalemia 、normotensive ARF、SIADH、vaptans  in cirrhotics、hepatorenal syndrome、CRRT、hypernatremiaなどについて短く解説した。さらに、亀の冬眠を可能にする酸塩基平衡のヒミツ(以前ここに書いたやつ)、野生動物たちがビタミンD欠乏にならない訳(皮脂が毛に沁み込み、それが日光を浴びてビタミンDになり、それをペロペロなめて摂取しているのだ!)など面白いトピックも送っている。

 ただでさえ忙しいのに、これで帰宅が一時間遅くなる。でも楽しいので、80-hour ruleに違反しない限り今月いっぱいは続けるつもりだ。メールの返事が来たことはまだないが、こちらとしても褒めてもらうためにしている訳でなし、彼らの頭に「ああそんなことフェローが言ってたな」くらいに残ればいいと思っている。今のところ、レジデントも医学生も(遅くまで忙しくて大変なのに)このローテーションを楽しんでくれているみたいで何よりだ。

2012/09/15

CRRT primer

 コンサルトでレジデントや医学生に透析を教える機会が意外となかったが、まとまった内容が分かりやすく説明された論文(Crit Care Nurse 2007 27 61)を指導医が回診に持ってきてくれた。ICUの看護師さん達が、持続腎代替療法(CRRT)の各システム(CVVHD, CVVHF, CVVHDF, SCUF)の分かりやすい模式図、各種の抗凝固剤、除水速度の計算方法、トラブルシューティングなどについて書いてあり、入門書として最適だ。今度教えるときには、これを参考にしよう。

2012/09/13

Vaptans in cirrhotics

 肝硬変の低ナトリウム血症にVaptanは有効か?ふたつのレビュー論文(Semin Nephrol 2008 28 279、KI 2006 69 2124)によると、その役割は明確ではない。経口lixivaptanを用いたスタディ(J Lab Clin Med 2001 138 18)では、最大用量で最大50%の患者さんでNa濃度が正常化した。しかし、経口tolvaptanを用いたSALT-2スタディで、肝硬変患者のサブグループの結果をみると、37%で不応だった。うちの病院には静注のconivaptanしか置いてないが、これは肝硬変患者には薦められない。ConivaptanはV1a受容体もV2受容体もブロックするため、静脈瘤の血管壁にあるV1a受容体をブロックして血管が弛み出血しやすくなるからだ。

2012/09/07

MMF in ANCA-associated vasculitis

 ANCA-associated vasculitisの治療は、cyclophosphamideが主要な治療だが、毒性がつよいため他の薬はないか?ということでrituximabが試されたことは知っている。しかし、これは腎臓内科ではあまり使われてこなかった薬で、高価だし、注射後にサイトカインショックみたいな副作用が起こることもあるので、尻込みする腎臓内科医は多い。
 第三の選択肢はないかと探したら、MMFが試されていたことが分かった。欧州のスタディ(Ann Rheum Dis 2007 66 798)では、cyclophosphamideを最大量用いたが再発した、出血性膀胱炎や骨髄抑制など副作用がひどい、などの32例を対象にステロイドと共に1g 2x/日のMMFを投与した。
 結果は、完全寛解率78%であった。ただし、ほとんどの症例がPR3-ANCA陽性例で、腎病変が約半数にみられたもののmedian creatinineは1.1mg/dlであったこと、そしてMMF投与後に半数で感染の合併症がみられた(一人がaspergillosisで死亡した)ことに留意する必要があるだろう。
 もう一つのスタディはMayo Clinicが行ったもので(CJASN 2010 5 445)、MPO-ANCA陽性のmicroscopic polyangiitisで、腎病変(ただしCrが3mg/dl以下)が尿沈渣または腎生検でみられた17例に対してステロイドと共にMMFを投与した。用量は750mg 2x/日で始め、一週間後に1000mg、副作用がなければ1500mgに漸次増量した(さらに薬または代謝物の血中濃度を測っている)。
 結果は、投与後6か月で76%がprimary outcome(BVASスコアがゼロでcreatinineが同程度か減少)した。GFRは最初の6か月で変わらず、その後少し上昇した。蛋白尿は漸減した。58%が副作用を経験したが、上気道炎、消化器症状、白血球減少などいずれも軽度で用量を減らすことでだいたい改善した。
 比較試験ではないし、single centerなスタディだが、internal validationは高い。似たようなピンポイントな症例があってcyclophosphamideは使いたくない、という時にはエビデンスとして応用できそうだ。Patient characteristicの表がないが、median ageは64歳、10/17人は男性、全員がCaucasian、10/17人が初発だった。

2012/09/06

スーパーの辺縁

 コンサルト業務が再開して、患者さんがそこまで多くないこともあり、教育により多くの時間を割けてやりがいを感じる。二年目になって、遭遇する臨床上の問題がだいたいどれも経験済みなので(重要な知識、原理、論文はだいたい手にしているので)自信を持って教えられるせいもある。

 しかし、まだまだ知らないことはある。今日は指導医の先生から新しい論文(NEJM 2010 362 2102)を紹介された。これは、dietary therapy in hypertensionについてのclinical therapeutics(clinical practiceの姉妹記事)だ。要は、健康な食事をしよう、塩分を減らそう、野菜や果物を食べよう、と言っている。よく研究されているDASH dietがとくに取り上げられていた。

 しかし言うは易し行うは難し、ポイントは、患者さんが食生活を変えるのをどうサポートできるかだ。論文の結論は、「食事療法士に会おう」と丸投げしている感が否めない。

 しかし、この話をチームでしていたら、内科レジデントが印象的なことを言った。彼は、「簡単さ、スーパーにいったら辺縁で買い物をして、中心部には行かないように指示すればいいんだ」と言った。確かに、米国のスーパーは辺縁に野菜、果物、肉、魚などがあり、中心部に缶詰、コカコーラ、お菓子、冷凍食品などがある。思わず手を打って感心した。

MARS

 いまの大学は、いるだけで毎週エキサイティングで新しいことが学べるから好きだ。最近は、臨床現場よりもこういったアカデミックな機会のほうが、知らないことが多く学べる。臨床は未知との遭遇というより、既存の知識と経験を活用する場所になりつつある。

 どうしてそんなに毎週いろいろ学ぶことが可能なのか?それは、スタッフが多く、各人が持ち回りで質の高い発表をするからだ。面白い症例を沢山診ればよいというものではない。座って、そこから深く掘り下げる手間とひまが必要なのだ。

 さて、今週はMolecular Absorbent Recirculating System(MARS)という画期的な血液浄化について学んだ。これは分子量が大きくタンパク質結合率の高い毒素を効率よく除去する目的で開発された。俗に"liver dialysis"と呼ばれているように、欧州では肝不全患者に対して移植前のbridgeに使われている。米国ではまだその目的での適応はない。

 ダイアライザは分子量の大きな毒素を除くため、孔のサイズが大きい(50kDa)が、high cut-off HDのダイアライザと違ってアルブミンは移動出来ない。膜内外のgradientを無限大にするため、膜の外にはアルブミンを流す(ので、毒素は膜から出るなりアルブミンに結合してしまう)。

 この原理じたいは、charcoal hemodialysisと同じだ。しかし、biocompatibilityの都合上アルブミンのほうが優れているらしい。しかしアルブミンは透析液のように湯水のようには使えないので、リサイクルするようなclosed circuitをまわす。透析膜で洗い、さらにcharcoal filter、anion exchange resinを通してアルブミンに結合した毒素を引き剥がし、また戻す仕組みだ。

 あいにく発表がここまでで終わってしまったので、肝不全においてどんな老廃物が蓄積するのか、それを除去するためにどんな「肝臓透析」のモダリティがあるのか(MARS、SPAD、Prometheus system、どれも欧州生まれだ)、そしてこれらの臨床成績はどうなのか、など話は次の機会になった。しかし、ここまででも十分面白かった。MARSの臨床成績については論文をみつけた(JASN 2010 12 S75)から読んでみよう。


2012/09/05

water restriction

 SIADHにおける水分制限を少しでも科学的にする方法はないかと思ったら、New England Journal of MedicineのClinical Practice記事に自由水クリアランスを用いた方法が提案されていた(NEJM 356 2064 2007)。自由水クリアランスは、次のように表される(尿素は細胞内外を自由に出入りするので、"effective solutes"の電解質を用いている)。前の項は、尿中への溶質排泄が増えると自由水排泄が増えることを説明する。尿素によるSIADHの治療でもお馴染だ。

                              solute excretion / Uosm x (1 - (U-Na + U-K) / P-Na)

 今回は後の項に着目する。(U-Na + U-K)がP-Naより小さい時、自由水クリアランスは正となる。この場合、少しは自由水排泄ができるので、水分制限は甘めでもよく、論文では1L以下/日という。それに対して(U-Na + U-K)がP-Naと同じ位か大きい時、自由水クリアランスはゼロか負となる。この場合、腎臓はより水を貯め込むモードなので、水分制限は厳しめ。論文には(自由水クリアランスがゼロで)500-700ml/日、(負で)500ml以下/日とある。

2012/08/30

Reviews

 大学にいると、いろんな仕事がある。フェローも二年目、それらを手伝う機会もやってきた。ひとつは、医学雑誌に送られてきた原稿の出来をレビューして、掲載するに値するかを採点する仕事。もうひとつは、教科書や医学分野の本について書評をかく仕事だ。書評といっても文学的な質は要求されず、300語程度で内容の要約と特徴、個人的な感想を書くものだ。
 書評にはマニュアルがあって、①preface、目次、編著者のリストを読む、②ざっと本文に目を通し(scanning)、適宜ノートをとる、③よく知っている内容の章とよく知らない内容の章を一つずつ読む、④アンケート形式の質問(本の評価)に答える、⑤書評の各パーツを指示に従って書く、というものだ。昨日①から④までやったが、このやり方だと半日で約200ページの医学書が読めた。

2012/08/28

Honey

 蜂蜜には古来から特別な力があると信じられてきたが、そのなかでもbroad-spectrumな抗菌作用に注目して、カテーテルのexit-site infection予防に医療用蜂蜜を塗ろうという試みがAustraliaとNew Zealandではじまっている。
 蜂蜜は、高い浸透圧(3000mOsm/kg)、低いpH(3.5)、抗菌ペプチドのMethyl Glyoxal(MGO、働き蜂の咽頭腺から分泌される)、defensin-1、それに過酸化水素などにより、たいていの耐性菌はあっさり殺菌してしまう(FASEB J 24 2576 2010)。考えてみれば抗生物質だってもとはカビから貰ったわけで、自然の知恵を借りる発想は新しいものではない。
 しかし、抗生物質は、耐性菌とのイタチごっこを避けられない。たとえば腹膜透析カテーテルなども、MupurocinからGentamicinに移行しつつある(JASN 16 539 2005)。そのGentamicinすらも、最近耐性の緑膿菌がでたと報告があった(PDI 32 339 2012)。だから、異なる多数の機序で殺菌する医療用蜂蜜のほうが、長い目で見て賢明なのかもしれない。
 腹膜透析カテーテルでは、HONEYPOTスタディというのが組まれており(PDI 29 303 2009)、結果が近々出るだろう。血液透析カテーテルでは、同じグループがスタディして(JASN 16 1456 2005)、Mupurocinと比べcomparable(劣っていたけど、まあそう悪くない結果)だった。

Central dogma being challenged

 塩分摂取→体液貯留→血圧上昇→心血管系イベント、というのは腎臓内科医(と循環器科医)にとってのセントラルドグマであるが、再検討されて始めており、それは医学界を越えてさまざまなメディアで報道されている。

 20年以上前、世界各地の食塩摂取(24-hr urine Na excretion)と血圧(収縮期血圧)の関係を比較したINTERSALTスタディ(BMJ 197 319 1988)が発表された。グラフをみると、ほとんどの地域で相関はほとんどなかった。それを、大きく外れたデータ(ブラジルの少数民族など)を入れて、無理やり「相関する」と結論したのだ。

 その後もいろんなデータが出たが、昨年には健康で若い被験者約3000人を対象に行ったobservational studyが発表された(JAMA 305 1777 2011)。アウトカムの一つは血圧で、Na摂取が100mol/day(食塩換算で約6g)増えるごとに収縮期血圧が2mmHg上がるという結果がでた。しかしもう一つのアウトカム、心血管系の死亡率は、Na摂取量が低い群で(なんと)最も高かった。

 塩分制限といっても、米国の入院診療で行われる「Na 2g(食塩換算で約5g)/day」など現実には不可能だ。これを読むと、低Na食は不可能なだけでなく、却って害になるのではないか?という疑問がおこる。さらに、それに沿う結果のもう一つの論文がJAMAに出た(JAMA 306 2229 2011)。

 こちらは中高年で、冠動脈疾患があり、糖尿病など心血管系イベントのリスク因子も多い約28000人の患者さんを対象に行われたobservational studyだ。尿Na排泄をスポットで測定し(利尿剤は止めた)、九州大学の川崎教授らが編み出したというKawasaki formulaで24-hr Na excretionの推測値を算出した。

 その結果が、有名なJ-shapeの曲線グラフだ。要は、尿中Na排泄が極端に少ない群と多い群でイベント(CV death、MI、CHFによる入院)のhazard ratioが高く、Na排泄が4-6g/day(食塩換算で9-12g/day)あたりが低かった。observational studyなので、associationしか言えないが、これからは単純に「食塩をへらせば減らすほど良い」とは言えないかもしれない。

2012/08/23

Edith Helm

 Edith Helmという女性を知っているだろうか。彼女は1956年に、22歳のときボストンで一卵性双生児の姉妹(Wonda Foster)から生体腎移植を受けた。執刀医はDr. Joseph Murray、その二年前に世界初の生体腎移植を行って、彼女は三例目だった(1990年にノーベル賞)。彼女は昨年に76歳で亡くなったが、もらった腎臓はまだまだ元気だったそうだ(AJT 11 1545 2011)。
 米国初の腎臓移植は1950年だが、これは急性腎障害に対する腎“代替”療法だった。当時は免疫抑制剤もろくになかったし、移植腎が拒絶するのは必定だったが、自分の腎臓が回復するまでの“つなぎ”というわけだ。この目的ではロシアで1936年に行われたのが最初で、日本でも1956年に新潟大学で行われた(急性腎障害の原因は昇汞中毒という)。
 さて、Edith Helmという人は長生きした他にもう一つのことでも有名である。それは、彼女が「腎移植患者で初めて妊娠・分娩し、元気な四児の母になった」ことだ。移植患者・移植腎が妊娠のストレスに耐えられるかは当時知られていなかった(それまでの生体腎移植患者はみな男性だった)。子宮に移植腎が押されて機能しなくなるのではないかという心配もあったが、彼女によってそれが正しくないことが証明された。
 もっとも一卵性双生児間の生体腎移植は、免疫抑制剤も必要なく拒絶の心配もなく、現在の移植患者とはリスクが大分違う。移植患者の妊娠リスクに関するデータは意外と少ない(米国には1991年からNTPRというデータベースがあるが、患者さんの任意申告制で質は高くない)。それでも米、英、豪/NZのデータベース、それに世界各地の症例報告を集めて分析した論文(AJT 11 2388 2011)がでた。
 これによれば、米国一般女性の平均にくらべてlive birthの率は高く、miscarriageは低く、pre-eclampsiaやgestational diabetesは(おそらくhypertensionも)高かった。ただこの「平均」というのがいわゆる「未妊検」を含んだものなのに対し、移植患者の妊婦はhigh-risk OBで慎重にフォローされるだろうから、一概に比較はできないが。
 移植後の妊娠について知らないことはまだまだあるが、データは少しずつ集まり、それらに基づいてガイドラインも変化している。たとえばAST(米国移植学会)のwomen's health committeeは、「安定した腎機能・全身状態なら移植後一年で妊娠を考慮してよい」と、慣習的に行われていた「二年ルール」を引き下げた。

2012/08/18

Tacrolimusレベルを下げるもの

 一緒に使うとTacrolimusの作用が増強される薬は数あれど、一緒に使うと作用が減弱する薬というのはあるのか?と気になって、Micromedexで調べてみた。するとphenytoin、sirolimus、rifampin、caspofungin、phenobarbital、effavirenz、alefacept、carbamazepine、vemurafenib、rifabitun、infliximab、rifapentin、fosphenytoin、nevirapine、echinacea extractなどが引っかかってきた。大まかに言って、①抗けいれん剤、②抗ウイルス剤、③rifampinの一族、④その他(caspofunginなど、fluconazoleが作用を増強させるのと対照的だ)と覚えておこう。と言っても覚えられるはずもなく、だからここに掲載しているのであるが。

2012/08/16

CD80 (aka B7.1)

 尿中CD80抗原は、小児科領域でminimal change disease (MCD) in relapseの診断ツールとして提案されている。腎糸球体の足細胞は、物質輸送・交換など様々な機能を持ち、それこそニューロンに比較できるほど高度に分化した細胞だ。そんな足細胞は、さらに樹状細胞(抗原提示細胞)の機能をも獲得することができる。
 その一つがCD80で、これを細胞膜に表出することによりco-stimulatory signalを介したT cell activationが起こる。CD80などと言うと分かりにくいが、別名のB7.1といえば移植や免疫抑制の世界でお馴染だ。B7.1をT cellのCD28に結合させれば活性化スイッチが入り、regulatory T cellが分泌するCLTA4はそれを阻害するのでスイッチを消す。免疫抑制剤BelataceptはCLTA4を含むfusion proteinだ。
 Urinary soluble CD80は23kDのタンパク質で、MCD in relapseで(MCD in remission、FSGS、健常者)に比して有意に高かった(JASN 20 260 2009)。タンパク尿の度合いに関係なくである。再検(KI 78 296 2010)でも同様で、MCD in relapseにおけるROC曲線のarea under the curveが0.99という診断マーカーとしては驚異的な結果がでた。
 Urinary CD80があるとどう良いのか?三点あげるとすればひとつは、腎生検のリスクを避けられるかもしれないことで、小児科領域でよく調べられているのもそれが理由だ。二つ目は、病態理解が進むかもしれい。
 現在提唱されているtwo-hit theoryは、感染症などによる足細胞の直接傷害がfirst hit、regulatory T cellの機能不全などにより足細胞がCD80(B7.1)を表出し免疫反応が惹起されておこる傷害がsecond hitという(Pediatr Nephrol 26 645 2011)。
 そして三つ目は、治療が変わるかもしれない。前述の通り、ラッキーなことにCD80(B7.1)を介したco-stimulatory signalを阻害する薬は既に存在しているのだ。これを治療に用いたという例は未だ聞かないが、そのうち試されて、有効性と安全性が確認されるかもしれない。

HCO-HD

 治療して透析が離脱できる病気というのはそう多くないが、多発性骨髄腫によるcast nephropathyはその一つかもしれない。これは癌細胞による異常なタンパク質(monoclonal light chain)が大量に尿中に漏れ、内腔でT-Hタンパク質と結合してcastを作り尿細管が詰る病気だ。だから理論上は、異常なタンパク質がなくなれば詰りも改善するわけだ。

 そのためには、タンパクを作られないようにする(化学療法)か、除去するかだ。後者では伝統的に血漿交換が行われてきたが、(化学療法をしながら)週三回の治療でタンパク質の25%しか除けない。Mayoクリニックがまとめた論文(KI 73 1282 2008)によれば、血漿交換の効果を比較した三つのRCTがあるが、いずれも患者数が少なくpower不足だ。

 それに対して、現在あたらしくHCO-HD(high cut-off demodialysis)が欧州で行われている。HCO-HDは、分子量60,000まで除去する透析膜を用い、これによりタンパク質の約90%が除去できるという。何でもかんでも除去するのでアルブミンの補充と免疫グロブリンの補充を行うそうだが、血液凝固因子のレベルは変わらないらしい。

 データとしても、多施設retrospectiveスタディ(NDT 2012 27 3823)で、多発性骨髄腫と共に発症した急性腎障害にHCO-HDを行った67例のうち、早期に透析した例と異常タンパク質の血中レベルを下げた例では透析依存を防ぐことができた。ただbiopsyがないので、どの例がcast nephropathy、light-chain deposition disease、高Ca血症などによるpre-renal azotemiaなのかは分からない。

 欧州ではさらにRCTが二つ(EuLITEスタディ、MYREスタディ)進行中で、HCO-HDがcast nephropathyに対するメインの治療になるかもしれない。米国でも、ごく限られた例に使用を認めるorphan deviceとしてFDAが認可を検討しているし、前述のスタディ結果次第では、ひろく適用されるかもしれない。

 透析もアルブミンもお金のかかる治療だが、透析依存を防げるとしたら、お金・QOLどちらの意味でも安い治療だろう(英国モデルのコスト分析はCurrent Medical Research & Opinion 2011 27 383)。ただし、原疾患の多発性骨髄腫がコントロールされればの話だが。

2012/07/31

Top Five

私がレクチャの質において最も尊敬している先生が、ひさしぶりにJournal Clubで発表した。現在の診療がいかに問題で、新しい診療がいかに重要で必要かを明確に示し、それを支持するエビデンスとして論文を丁寧に考察していく。途中にTurning Pointという、参加者が無記名で投票するクイズが入り、内容理解がより定着する。この人は、プレゼンのプロだ。
 さて彼の話はAKIに対する腎臓超音波検査の必要性について(Arch Int Med 2010 170 1900)だ。どうして彼はこれを取り上げたのか?それは日々の診療で脊髄反射のように超音波検査が行われているのを憂いていたからだ。そしてそれは、全国的な流れに沿うものだという。
 2010年、UT GalvestonのDr. Brodyが、エビデンスに基づいて各科ごとに無駄な診療Top Fiveをリストアップしようと提案した(NEJM 2010 362 283)。その提案はABIMとConsumer Reportが共同で始めたChoose Wiselyキャンペーンにつながり、このほど腎臓内科学会を含む内科の9学会が同調した(JAMA 2012 307 1801)。秋にはさらに60数学会が同調するらしい。
 腎臓内科のTop Fiveは、①余命が限られた透析患者さんに症状もないのにがん検診をしない、②CKD患者さんで症状のないHgb 10g/dl以上の貧血をエリスロポイエチン製剤で治療しない、③高血圧、心不全、CKD、糖尿病患者さんにNSAIDsを避ける、④CKD stage 3-4の患者さんに腎臓内科医の許可なくPICCラインを入れない、⑤患者、家族、各科医師のあいだで十分な意思決定の話し合いなしに透析を始めない、だ。

2012/07/28

FEMgふたたび

一年前にFEMgなるものを初めて知り、それからCNI(calcineurin inhibitors)やGitelman症候群で遠位尿細管のMgチャネルTRPV5によるMg再吸収が阻害されることなどを学んだが、「FEMgの正常値は?」と問われて知らないことに気づき、実験データを調べた。

 このMg好きによるMg好きのための論文(Magnesium Research 1997 10 315)によれば、extra-renal wastingによる低Mg血症患者さんではFEMgが1.4%(0.5-2.7%)、renal wastingによる患者さんでは15%(4-48%)だった。Control群では1.8%(0.5-4%)だった。

 腎機能が悪ければFEMgも下がるのではないか?と思われたが、彼らのデータによればrenal wasting群のクレアチニンは1.2mg/dl(0.7-1.4)で、血中Cr濃度とFEMgには相関は見られなかった。

 低Mg血症は利尿剤(renal wasting)、下痢、PPI(extra-renal wasting)によっても起こるし、通常は病歴でrenal wastingかextra-renal wastingか分かるはずだが、FEMgが助けてくれるかもしれない。やっと正常値が分かったので、これからもっと使ってみよう。


Ganciclovir

個々の抗ウイルス剤の腎毒性など、到底覚えられるものではない。有名なのはAcyclovir(結晶になって尿細管が詰る…まだ本物の結晶は見たことがないが)、Cidofovir、Tenofovirなどだが、「じゃあGancyclovirは?」とか言われると(よく使う薬なのに)ぱっと答えられなかったりする。実際、急性腎障害の患者さんで他に明確な原因がないときもある。
 Ganciclovir(とそのesterであるValganciclovir)は、私が小学生だった頃から腎毒性がないとされている(JASN 1991 1 1061)。しかし、MicromedexもUpToDateも副作用に「クレアチニン上昇」を挙げている。直接の腎毒性なのか、服用群は移植後患者さん達で他の腎毒性物質(Cyclosporineとか)を飲んでいたからなのかは、分からない。

Cardiorenal syndrome

Cardiorenal syndromeという概念が、私はあまり好きではない。概念はたしかに存在し、ご丁寧に分類している人までいる(J Am Coll Cardiol 2008 52 1527)が、「これはcardiorenal syndromeです」といっても全く治療方針の役に立たないからだ。Volumeの評価、心機能の評価、腎血流の評価、それに腎うっ血の評価次第で、治療はどうにも変わる。
 そして厄介なのは、腎臓内科と循環器内科でその評価が時としてまったく異なることだ。まあ、それを楽しんで議論・診療できる(基本的にどこにいってもコンサルタントなので)のが腎臓内科のいいところなのだが。いずれにせよ、循環器内科の同僚は循環器雑誌のレビュー(Circulation 2010 121 2592)を読み主張の根拠にしてくるだろうから、私も読んでおこう。

2012/07/26

MDPV

"bath salt"というのは、入浴剤のことではない。ガソリンスタンドなどで殺虫剤などの名目で売られていて、"not for human consumption"とラベルが付いているが、鼻・口・静脈から摂取すると3,4-methylenedioxopyrrovaerone(MDPV)など覚醒作用のある物質が"legal high"を起こすデザイナードラッグのことだ。ようやく38州で違法になったが、その使用は増加傾向にある。
 静脈から摂取する人は感染性心内膜炎を起こして腎障害を起こすかもしれない(post-infectious GN、腎梗塞、抗生剤などによるAINやATN)。さらに、薬物摂取そのものが急性障害を起こした例も報告されている(AJKD 2012 59 273)。コカインのような血管収縮作用、尿細管毒性等が示唆されているが、CK上昇(6000U/L)、尿酸値上昇(22mg/dL)なども一緒に見られた。

2012/07/24

JCV

JCウイルスは、BKウイルスと同じポリオーマウイルスの一族だ。例によって、子供の頃に初感染してからは、腎臓・骨髄・リンパ組織などでアリエッティのようにこっそり暮している。しかしAIDSや移植後の免疫抑制下では、まれに悪さすることがある。主に問題になるのはPML(progressive multifocal leukoencephalopathy)だが、JC nephropathyというのも存在する。
 移植後のPMLはまだ数十件しか報告されていない(Ann Neurol 2011 70 305)が、腎臓は最も多く移植される臓器なので件数としては骨髄移植後に次いで二番目に多い。移植後半年がもっとも発症リスクが高く、このコホートでは臓器移植後のPMLのほうが骨髄移植後のPMLよりも予後が悪かった。
 確立された治療はない。BKに用いられるcidofovirは効かない上に副作用が多く、改良したCMX001がin vitroで効果があった(Antimicrob Agents Chemother 2010 54 4723)。抗マラリア薬のmefloquineもin vitroでいくらかの効果があった(Antimicrob Agents Chemother 2009 53 1840)。さらに、免疫抑制剤を減らせばIRIS(immune reconstitution inflammatory syndrome)を引き起こすこともあるから注意が必要だ。
 要するに、一旦なると治せないので、予防が重要だ。ある人にとっては必要十分な免疫抑制が、べつの人には多すぎて感染症を起こし、べつの人には少なすぎて拒絶反応を起こすわけだから、どうしたらちょうどよい量の免疫抑制をかけられるかという話だ。拒絶のリスク因子はだいぶん分かってきたが、これくらいのリスクにはこれくらいの免疫抑制という治療はまだ行われていない。

2012/07/19

How turtles survive lactic acidosis

先日、カンファレンスで誰かが「亀とアシドーシス」がどうのこうのというのを聴いて調べてみたら、すばらしい亀の知恵についての研究に出会うことができた。さっそく英語でコラムにしたら、もう他の人が発表していた(論文は2000年だし、無理もない)。残念だが、せっかくだからここに書いておく。

  Can you imagine a patient with lactic acid level of 1800mg/dl and pH of 7? Don’t worry, I am not talking about a human being. It’s about a turtle.
  The painted turtle (Chrysemys picta), a freshwater species in North America, spends the whole winter in an ice-covered pond. Lactic acid inevitably accumulates as a byproduct of anaerobic metabolism, even though its metabolic rate is at minimum in a cold temperature (its heart rate can go down to 1 beat per 5-10 minutes!). 
  The lactic acid is an acid with pKa of 4, stronger than the acetic acid. Yet the pH of a turtle still remains at 7. A turtle doesn’t breathe or urinate when hibernating. How could it be possible? This article (News Physiol Sci 2000 15 181) explains the 2 surprising mechanisms of this natural wonder. 
  First, it has a body fluid buffering. Its plasma bicarbonate concentration (normally) is 40mEq/l! It also has large amount of peritoneal fluid and pericardial fluid that are very high in bicarbonate (80mEq/l and 120mEq/l, respectively). 
  Second, it uses its shell as a buffer! It’s not just a protective armor. When the pH goes down, its shell releases carbonate with calcium and magnesium. Protons are buffered with carbonate and CO2 diffuses out into the water. The shell also sequesters lactic acid (both lactate and proton).
  The endogenous buffering system is seen across species. In a case of Homo sapiens, the bone is our biggest buffer. However, it is obviously not large enough to compensate this extremely high lactic acid level! 
  A turtle is a symbol of longevity in many cultures. In Japan it is said to live 10,000 years. Maybe what doesn’t kill you makes you stronger.

2012/07/17

Cathelicidin

CKD-associated bone metabolism disorder(CKD-BMD)は次から次に論文が出るホットなエリアだが、こないだのmini-review(CJASN 2012 7 358)で25-OH vitamin Dのautocrine作用について知った。これを信じる人は、慢性腎不全の患者では1,25-OH (active) vitamin Dのみならず、25-OH (nutritional) vitamin Dも大事だという。
 25-OH vitamin Dのautocrine作用とは、25-OH vitamin Dが単球に入り、細胞の中で1,25-OH vitamin Dになってcathelicidinをupregulateするというものだ。Cathelicidinとはinnate immunityを司るタンパク質のひとつで、MGHのグループによれば透析を始められた患者さんでこの血中濃度が低かった人は、感染症による一年死亡率が高かった(CID 2009 48 418)。
 それでは、cathelicidinレベルを上昇させるためにはどんなvitamin Dをどれだけあげればいいのだろうか?In vitroでは1,25-OH vitamin Dによりcathelicidinレベルが上昇した(Science 2006 311 1770)。臨床試験では、MGHのグループが60人の被験者で25-OH vitamin Dとcathelicidinの血中レベルを測定したところvitamin Dレベルが低い(<32)場合にのみ相関がみられた。
 そしてvitamin Dレベルが低い例に五日間で150,000単位のergocalciferolを投与して10日後にcathelicidinレベルをチェックしたところ、vitamin Dレベルが大きく変化した例(Δが32-64)でcathelicidinレベルが有意に上昇した(J Allergy Clin Immunol 2011 127 1302 e1)。小人数で短期間のスタディで、数字しか見ていないが、追試があるだろうから楽しみだ。

2012/07/11

伝説は真であった

昨年、抗高脂血症の薬による腎障害を疑った。当時、患者さんの話を聴くとタイミングが合致するので(それに高脂血症もなかったので)、薬を止めることにしたのだ。それが、半年経って、この薬は本当に腎障害をきたすことが分かった(Ann Int Med 2012 156 560)。

 これは、あちらこちらで症例報告が出されてからカナダのオンタリオ州で組まれた大規模スタディだ。Fibrate(主にfenofibrate)とezetimibeを新規に始められた数万人の群どうしを比較すると、90日以内に入院を必要とする急性腎障害が前者で多く(0.4% v. 0.2%)、50%以上のクレアチニン上昇も前者で多かった(9% v. 0.3%)。

 どうしてfibrateが急性腎障害が起こるのかは分かっていないが、腎生検までした症例報告(AJKD 2004 44 504)によれば尿細管障害が中心のようだ。そのためか、尿量にさしたる変化もなく、数年間つかわれていた薬を中止しても腎機能が戻ることがある。

2012/07/10

on-line HDF

アメリカにいると、ヨーロッパのものがなんとなく優雅で素晴らしいものに思える。単なるあこがれだが、そんなわけで欧州が取り入れているhemodiafiltration(HDF)も何となく普通の透析に比べて優れているに違いないと思っていた。
 HDFの魅力はUFによってmiddle molecule(分子量1000~10000)を除去できることだ。透析液と別に大量のreplacement fluidが要るが、on-line HDF(on-lineと言ってもインターネットのことではない)は透析液の一部を加工してreplacement fluidを作るので手間が少ない。
 原理はさておき、HDFは普通の透析に比べてどう優れているのだろうか。データによれば透析中の低血圧が少ない、高リン血症がコントロールしやすい、ESA(erythropoiesis stimulating agent、エリスロポイエチンのこと)が少なくて済む、残存腎機能をより維持するなどが知られていた。
 しかし、透析治療にとって一番のゴール、生存率の向上は得られるのか?移植と頻回透析を除き、いままで透析機械を向上して透析患者さんが長生き出来るというデータが得られたことはない。米国のHEMOスタディ(NEJM 2002 347 2010)、欧州のMPOスタディ(JASN 2009 20 654)がhigh KT/Vとhigh-flux filterを試したがだめだった。
 それで、HDFは透析屋に残された数少ない希望の一つであった。Middle moleculeを除去して患者さんの命を救うべくCONTRASTスタディ(contrastといっても造影剤は使わない)が行われ、その結果が最近発表された(JASN 2012 23 967)。結果はいかに?その前にどんなスタディだったのか見てみよう。
 これはオランダ、カナダ、ノルウェイの三か国で約700人の患者さんを対象にon-line HDFとlow-flux HDを比較したスタディだ。なぜlow-flux filterを対照群にしたのかは定かでない。middle moleculeはhigh-fluxでもある程度除けるので、結果を強調するためにlow-fluxと比較したのかもしれない。あるいは、HEMOスタディとMPOスタディでhigh-fluxとlow-fluxで生存率に差がなかったので、どちらでもいいと思ったのかもしれない。
 HDF群では透析時間がやや短く、血液流量が多く、KT/Vが少し高く(1.6 v. 1.4)、リンが少し低かった(4.9 v. 4.8)。Middle moleculeはどうか。beta2 microglobulinの血中濃度は、HDF群で統計学的に有意に低かった(25 v. 35)。しかし基準値が1以下なことを考えると、臨床的にどこまで有意かは謎だ。
 さて、肝腎の生存率はどうか。6年間の追跡で両者に差は見られなかった。それで皆、「HDFは優れているはずなのにどうして?」と残念がっている。残念がったあとに行うのがsub-group analysisだ。なにか一つでもDHFで長生きしたpopulationがないか探すのだ。しかし性別、糖尿病の有無、残存腎機能の有無、どれをとっても差が見られなかった。
 唯一差が見られたのは、convection volumeが上位25%の群だった。それで、HDFを信じる人にとっては「HDFのdoseが少なかったから差が出なかったのか。やっぱりHDFはちゃんとやれば長生きできるんだ!」という希望が残された。現在他にもヨーロッパでいくつかのHDFスタディが進行中なので、それらに希望を託して論文は終わっている。
 middle molecule theoryは美しいが、限界があるのだろう。そもそも透析患者さんの命を救うには心臓を守らなければならない。そして患者さんの心臓を守るには、volumeをコントロールして血圧を下げることと、死のホルモンFGF23を下げるのが先と思う。もしHDFがFGF23でも除けるなら素晴らしいが、残念ながらFGF23の分子量は33000でHDFでも除けない。
 [2013年3月追加]スペインのESHOLスタディ(doi: 10.1681/ASN.2012080875)が出て、ついにall-cause mortalityの有意差が出た(cardiovascular deathには差がなかったが)。middle molecule hypothesisを徹底的に信じない米国の透析文化だが、こういったスタディを受けてon-line HDFが徐々に普及するかもしれない。

2012/07/03

KLHL3 and CUL3

Journal clubで、Gordon syndrome(FHH、familial hyperkalemic hypertension)の原因遺伝子を新たに二つ突き止めたという論文が紹介された(Nature 2012 482 98)。オーストラリアのGordon医師がまとめて発表(Aust Ann Med 1970 19 287)したのでこの名がある(レビューはHypertension 1986 8 93)。原因は遠位尿細管のNCCT(Na-Cl co-transporter)が過剰に働くためと考えられている。

 しかしNCCT自体への遺伝子異常はみつかっていない。この病気をずっと研究しているのはYale大学遺伝学教室のLifton先生と言って、彼のグループはlinkage analysisをしてWNK1を同定し(Science 2001 293 1107)、さらにWNK1のparalogを探してWNK4を同定した。正常なWNK4は遠位尿細管のNCCT、集合管でのK排泄、集合管でのCl再吸収を抑制する。

 しかしWNK1、WNK4の変異は症例の13%にしか見つからない。それで、他の遺伝子異常を探すべく彼のグループはexome sequenceを始めた。これはタンパク質をエンコードしている部分のDNA、約9000万塩基をsequenceして変異を見つける作業だ。これによって見つかったのがKLHL3とCUL3だ。

 KLHL3は、index caseの24/52(46%)に見つかり、うち16例はheterozygous(つまり常染色体優性遺伝)、8例はhomozygous(常染色体劣性遺伝)だった。異常なKLHL3タンパクが半分作られるだけでphenotypeがでるのだ。こういうのを"negative dominant"という。KLHLは遠位尿細管と集合管にみられ、正常であればNCCTを細胞のapical surfaceに動かす働きがある(Nat Genetics 2012 44 456)。

 一方、CUL3はindex caseの33%(17/52)に見つかり、どれも異常はskipping exon 9であった。こちらで注目すべきなのは8例がde novo変異であったこと(親兄弟に同じ変異が見つからない)と、CUL3変異例はいずれも発症が若く、高血圧も重度だったことだ。つまり自然選択を受けるので代々受け継がれている家系は少なく、従ってde novoが多いのかもしれない。

 CUL3もKLHL3も、CRL(Culin-RING E3 ubiquitin ligase)と呼ばれるubiquitin ligaseの一部だ。それで、CRLがNCCTをubiquitin化する→(不明)→NCCTが細胞のapical surfaceに動かす、という機序が想定されるが、まだそこまでは分かっていない。でも、遺伝子変異を見つけて発表されたのが2月、正常なKLHL3の働き(NCCTへの作用)がわかって発表されたのが4月だから、わりとすぐ突き止められるかもしれない。

2012/06/29

ユリア 3/3



 副作用は、急激なNaレベルの上昇だが、これはバプタンでも同じことだし、osmotic myelinolysisが起きたという報告はいまだない。胃が荒れることがある(ので、以前使ったことのあるうちのスタッフは胃粘膜保護薬を併用していたらしい)。あとは、塩とちがってvolume overloadにもならないし、尿毒症にもならないし、furosemideと違って低K血症にもならない。
 そんなわけで安全で安価で有効な薬ユリアだが、まさに「良薬口に苦し」。苦みが唯一の難点だ。ベルギーでは、85%位の患者さんが飲み続けられるらしい。米国では、どうにも合わないらしい。ただうちのスタッフが患者さんに使っていた時の経験では、みんな苦いけど結構いけたらしい。ドイツ系移民が多いところだからだろうか。
 ここまでユリアを勧めるからには、最後に「そもそもマイルドな低Na血症って治療する必要あるの?」という疑問に答える必要がある。というのも、ことmortalityについては「患者さんは低Na血症と共に亡くなるのであり、低Na血症によって亡くなるわけではない」からだ(CJASN 2011 6 960)。症状についてはどうか。これまたベルギーの同じグループが研究した論文がある(Am J Med 2006 119 71 e1)。
 一つ目の研究は、retrospective case-controlで、control群のほうがacute illnessが多かったにも関わらず低Na血症の群でより転倒が多かった(adjusted odds ratioは67、95%CI 7-607)。二つ目の研究は、マイルドな慢性SIADHの患者さんに治療を止めたり再開したりして異なるNaレベルでtandem walkさせたら、低Na時にはふらふらだった。これは、普通の患者さんに約1Lのビールに相当するアルコールを摂取させた群と比べてもずっとふらふらだった。こんな楽しいスタディをするベルギー、私は研修先を間違えたのだろうか…。
 この話はスタッフとフェローに好評だった。やはり、皆が知っていることを話しても面白くない。こういう新しい(古きを温めるのも含めて)ことで、臨床診療を変えうることを話すと刺激的だ。実際には私がコンサルトで経験したSIADHの症例を冒頭に挙げて、聴衆が身近に治療選択について考えられるように仕掛けした。論文を批判的に考察する際に"take a grain of salt"(英語の慣用句)と言ったら、低Na血症の話をしていただけに偶然にも受けた。ある先生は"or urea!"と言っていた。おしまい。

ユリア 2/3

 薬用のユリアは粉状で、苦みがとても強いのでオレンジジュースなどに混ぜて飲む。EditorialのDaniel Bechet医師(Montrealの人)が試したところによると「格別においはないが、苦味は強い」とのこと。また別の論文では「北アメリカの味覚に合うことはまれ」と書かれている(JASN 2008 19 1076、冗談かと思うが学術雑誌でもこういう楽しい文章を目にすることがある)。ベルギーといえばビールが有名だし、苦くても平気なのだろうか。
 ユリアは、solute excretionをあげることでosmotic diuresisを起こし、たとえ尿浸透圧が変わらなくてもfree water clearanceを上げることができる(JASN 2008 19 1076)。Free water clearance = solute excretion/Uosm x (1 - Uosm/Posm)に示されるように、溶質排泄量はfree water excretionのmain determinantだからだ。
 たとえば尿浸透圧600mOsm/kgの人が、1日600mOsmの溶質を摂取していたならば尿量は1L/dayだが、ユリア30g(分子量60なので、500mmol)を摂取すれば1日の摂取量は1100mOsmとなり尿量は1.8L/dayに増える。実際には、たとえADH存在下で腎臓が水を再吸収しようとしていても、溶質が増えると尿浸透圧は下がる(JASN 2008 19 1076)。
 そんなわけでユリアの有効性は理にかなっており、アメリカでも昔はつかわれていた。SIADHへの有効性を示したベルギーのグループによる1980年の症例報告(Am J Med 1980 69 99)でも、ユリア90g/dで尿量が1L/dayから3L/dayに増え、Naレベルも一気にあがった(~15mEq/L/day、怖くなるほどだが何も起こらなかったらしい)。
 また同じベルギーのグループが急性低Na血症の入院診療にユリアを用いたスタディ(restrospective)でも、ユリアはNaレベルを上げるのに有効だった。これはSIADHのみならず、すべての低Na血症が対象であった(原因ごとに治療効果に差があったかは書かれていない)。ほかにも、稀な病気だが腎臓内科(と小児科)なら関係あるNephrogenic Syndrome of Inappropriate Antidiuresis(バソプレシン受容体2のgain-of-function mutation)は、バプタンは効かないがユリアは前述の理由で強制水利尿を起こし効く(J Pediatr 2006 148 128)。つづく。

ユリア 1/3

 今回は、面白いJournal Clubをする事ができた。おそらくトピックがよかった。また、通常30分のトークを、たまたま他に話す人がいないので内容と時間を増量することができたのもよかった。Academic positionを目指すなら、どこに行こうとも面接とレクチャがセットになっているので、こういうチャンスを逃さずに長いトークの練習をすることが大切だ。

 さて今回取り上げた論文は、"Efficacy and Tolerance of Urea Compared with Vaptans for Long-Term Treatment of Patients with SIADH"(CJASN 2012 7 742)だ。ユリア(urea、尿素)もバプタン(vaptan、バソプレシン受容体拮抗薬)もうちの病院では滅多に使わない。とくにユリアはもはや米国ではすたれた診療で、簡単には手に入らない。

 慢性で中等度のSIADHに外来でバプタンを処方すれば患者さんに莫大なお金がかかる。それで、利尿剤と水分制限と塩でなんとかやるわけだが、ベルギーのグループは米国では忘れられたユリアを使い続けており、今こそそれを再び世界に問う時期だとこの論文を発表した。CJASNのeditorialまで付いた注目記事だ。

 ベルギーのある病院では、バプタン登場とともに慢性SIADHの患者さんをSALT-2などの治験に参加させていたのが、治験が終わると製薬会社が薬をくれなくなり困っていた。そこで、バプタンとユリア、どちらが有効なのか比べてみようと始まったのがこのスタディだ。13人の患者さんに、1年間バプタンを試し、約一週間バプタンを止め、Naレベルが下がってから1年間ユリアを試した。

 結果は、基本的にNaの上昇率に差はなかった。バプタン治療は一人が口渇が強すぎてやめてしまったが、ユリアは全員が中止せずに飲み続けた。血中尿素窒素(BUN)は人によって100mg/dlを越えたが、ユリア自体は尿毒物質ではないので何も起こらなかった。ユリア内服中の一人、89歳の男性が肺炎に掛かってNa 155mEq/lになったが、Naは何事もなく下がり、肺炎治療後にユリアの内服を再開した。つづく。

Prophylactic dialysis before cardiac surgery


 以前からちょこちょこ話題になっている、心臓手術前の透析についてレジデントがまとめて発表した。まず問題の重大さについてだが、データの質にはばらつきがあるが術後のAKIと術前のGFRが死亡率のリスク因子であることは確かだ(Am J Nephrology 2010 31 408)。その原因の一つは、人工心肺による腎の灌流障害とされている(Perfusion 2006 21 209)。腎臓は脈打つ血流が好きで、laminar flowは嫌いなのだ。
 それなら術前に透析してクレアチニンを下げたって術中術後の腎障害は防げないのでは(off pump CABGにすれば?)?と思える。しかしOff-pump手術とon-pump手術の成績を比べた大規模randomizedスタディがついこないだNEJMに載ったが(NEJM 2012 366 1489)、術後30日で透析を要する新しい腎不全を発症する率は両者で差がなかった(1.2%、1.1%)。
 それは30日を待たずにより多くの患者さんがon-pump群で亡くなったから?とも考えられるが、死亡率にも両者で差がなかった(2.5%、2.5%)。クレアチニンが0.3mg/dl以上あがる急性腎不全(AKIN stage 1以上)の率は、off-pump群のほうが少なかった(28%、32%、HR 0.87)も関わらず、死亡率は変わらなかったのだ。
 なので、透析をする→急性腎不全を予防する→術後死亡率を下げる、という方程式の中にある二つの矢印は、どちらも定かではない。しかし、慢性腎不全に透析する→術後死亡率が下がる、と信じている心臓外科医はいる。上述のデータでは、術前に透析を要する腎不全のある人の(死亡、脳梗塞、心筋梗塞、腎不全のco-primary outcomeに対する)HRは0.38だが、患者数が少ないので95%CIは0.11-1.36と、統計的に有意な差は示せなかった。
 他にも質は低いがsingle center studyのデータはある。国外では、トルコが三本似たような論文をだした。文章も方法もほとんど同じな位かぶっているので一つ紹介するが(Ann Thorac Surg 2003 75 859)、これはrandomized prospective studyで、治療群21例は術前72時間以内に2回の透析を行い、術後もクレアチニンが10%あがれば透析した。
 コントロール群23例は術前に透析せず、術後はクレアチニンが50%上がらないと透析しなかった(そもそも我々はクレアチニンに基づいて透析はしないわけだが…)。年齢、既往、手術の種類や時間はどれもマッチしたと彼らは主張し、結果は治療群で急性腎不全(乏尿またはクレアチニンがbaselineから50%以上あがる)が有意に低く(4%、34%、p=0.02)、入院死亡率が有意に低かった(4%、30%、p=0.04)。
 しかしちょっと待ってほしい。術前に透析すればクレアチニンが下がるのは当たり前で、術後に腎不全があってもクレアチニンは低いままかもしれない。死亡率についても、如何せん患者数が少ないので説得力には乏しい。
 米国ではWest Virginia大学の心臓外科医グループが術前透析をしていて、彼らのretrospective case-control studyが紹介された(Ann Thorac Surg 2009 87 1085)。GFRが30以下の患者さんで彼らが必要と判断した場合には1-2回の術前透析をおこなっているらしい。また、術前の透析有無にかかわらず、一部の患者さんには術中UFを行っている。
 結果は、入院死亡率に有意な差はなかったが(10%、25%、p=0.29)、脳梗塞と主要な合併症(死亡、脳梗塞、多臓器不全、敗血症、心筋梗塞、重症術創感染のどれか)の率は有意に低かった(p=0.004、p=0.013)。スタディの質の低さはさておき、脳梗塞とその他合併症が低かったのはなぜか?volumeなのか、clearanceなのか?それは誰も知らない。
 「透析はミラクルで、良く分からないけれど術前にすると患者さんが助かる」というのは結構だ。「透析をして害になる」というのでなければ、無下に断る理由もない(無駄な治療かもしれないし、透析カテーテルに関する合併症などはあるけど)。それでうちの施設でもたまに、心臓外科医から求めがあれば透析する。ごくたまになので何とも言えないが、あまり効いてる感じはしない。
 そもそも、前の段落で書いたように、何を目標に透析しているのかわからない。volume statusを正したいのか?クレアチニンを下げたいのか?アシドーシスを直したいのか?もっとデータがあれば良いが。なければECMOのように、治療の有効性を検証せぬまま使いたい人が使うようになってしまうだろう。

2012/06/21

Thin Red Line between SLK and LTA 2/4

 では、どんな人が肝臓移植後に腎不全が残るか悪くなるのか。これがmillion-dollar questionだ。1990-2000年、つまりMELD前の時代のSRTRデータを分析してCKD(GFR30未満、あるいは透析依存)のcummulative incidentを調べた論文があり、それによれば肝移植後のCKD累積発病率は5年間で18%だった(NEJM 2003 349 931)。さらにmulti-variate Cox regression analysisを行い、年齢、移植前のGFR、移植前の透析、C型肝炎、高血圧、糖尿病などがリスク因子とわかった。

 もう少し系統的に言うと、①移植前の腎機能(肝腎症候群、それ以外の急性腎障害、慢性腎臓病、透析期間)、②CNI(calcineurin inhibitor、tacrolimusとcyclosporine)、③年齢、④周術期の腎障害、⑤C型肝炎とそれに関連した腎炎、⑥BKウイルスなどを考慮する必要がある(JASN 2007 18 3031)。もっとも、肝移植後のBK腎症はあまり多くないらしいが(Transpl Infect Dis 2006 8 102)。

 ①についてメインに取り上げると、2002-2007年のUNOSとUSRDS(United States Renal Data System)データを両方つかって肝移植までの透析期間と移植後の腎機能を分析した論文がある(Liver Transplantation 2010 16 440)。透析期間が30日未満の群では70%が移植後透析不要になり、30-60日の群で56%、60-90日で23%、90日以上で11%だった。「透析不要になったのは患者さんが亡くなったから(is this death-censored)?」という批判に答えるため各群の移植後生存率も示され、透析期間が90日以上の群を除けばsurvival curveはほぼ同じだった。

 また、2000-2005年にかけてのペンシルベニア大学のデータでは、移植前にクレアチニンが1.5mg/dl以上の期間が12週間以上続いた群で約25%が5年間でGFR以下になったのに対し、12週間未満はほんの数%しかならなかった(Liver Transplantation 2008 14 665)。しかしこれらのデータは腎機能障害の原因によって患者さんを分けていないので、「肝腎症候群(HRS)のように肝移植後に腎機能が戻ると考えられている例でも、腎不全が長引けば肝移植しても腎機能は戻らないの?」という問いには答えられない。

 HRSについては、1988-2004年にかけてのUCLAのデータがある(Arch Surg 2006 141 735)。HRSで、透析期間が30日以下で、肝臓のみ移植された80人は、術後にmedianで9日間透析を要したが、ほぼ全員(約95%)が一か月もすれば透析不要になった。ただし生き残ればの話で、この群の1年生存率は66%だった。それに対し、肝腎症候群でSLKを受けた患者さんの生存率が透析期間によって異なるかを調べたところ、8週間未満で64%、8週間以上で88%だった。例によって、これが腎臓を一緒に移植したからなのかは、分からないのであるが。

 「腎臓病の種類によって予後が違うというなら、腎生検してはどうか?」というスタディがメイヨークリニックでなされた(AJT 2008 8 2618)。2005-2008年にかけて44件のどっちつかずの症例について腎生検したところ、じつに多彩な病変が見られた。43%がHCV陽性であったせいもあるだろうが。これらは、生検しなければ分からなかったであろう、というのも血尿やタンパク尿が見られた例は約半分しかなかったし、ましてFENAはほぼ全例1%以下(underfilled kidney、門脈圧亢進により腎臓が干されているということ)だった。

 彼らの結論は、生検結果が①糸球体硬化が40%以上、②間質線維化が40%以上、③びまん性のMPGNのいずれかが見られれば腎予後不良としてSLKに振り分けるというallocation ruleが適切であったというものだ。移植後のフォローアップ(GFRなど)でみるかぎりplausibleな結果だった。inter-observer variabilityもなかったという。しかし見逃せないのは二単位以上の輸血、あるいはIR(interventional radiology)による止血手技を必要とする合併症が18%に見られたことだ。つづく。


Thin Red Line between SLK and LTA 3/4

では、肝腎同時移植のdisadvantageはないのか。私は、患者さんを肝腎同時移植でリストに載せ、一度肝臓のみのオファーが来たが「やはり腎臓も一緒がいい、きっとすぐに両方のオファーがくる」と断り、結局オファーが来る前に容態が悪化してリストから外れ、ついに帰らぬ人となった経験がある。

 もっともこんなことは普通は起こらない。ただしうちの地域では、MELDスコアの高い(29以上)患者さんがいれば、地域内なら州外からの肝臓でもその人に真っ先にあげるという取り決めがある。しかしこの取り決めには、その際腎臓は肝臓についてこないという落ち度があるのだ。州(local OPO)レベルでは、腎臓は肝臓についてくる。

 MELDスコアの高い患者さんに臓器を融通する取り決めについては、現在全国レベルで議論がなされておる。うちの地域の実験的な取り組みは、総じて肝臓病患者さんの死亡率を低下させなかったので、MELDスコアを上げて35以上で融通しようという線で話が進んでいる。何年先に導入されるかは分からないが、このルールの草案にはすでに腎臓が肝臓についてくる旨明記されているらしい。

 SLKは、腎臓のinefficient useではないのか?という懸念についても、いくつかデータがある。まず、腎臓単独で移植した場合(KTA、kidney transplant alone)に比べてSLKは成績がずっと悪い。2002-2006年にかけてのUNOSデータを分析したところ、SLKの12-month graft survivalが約70%なのに対し、KTAは約90%だった(Transplantation 2008 85 935)。SLKでは例のimmuno-protective effectによって拒絶は少ないかもしれないが、そもそも患者さん自体が亡くなっているのかもしれない。

 また、高齢(65歳以上)で移植時に透析を受けていた場合、LTAでもSLKでも1年患者生存率は他の群にくらべて格段に悪い。2002-2004年にかけてUNOSデータを分析したところ、SLKで約65%、LTAで約50%だった。おなじ高齢者でも、腎臓のみを移植する場合、1年患者生存率はnon-ECD腎で93%、ECD腎で91%だ。患者さんが一年以内に亡くなるのに、腎臓をあげてどうするの?(それだったらその腎臓を他の腎臓病患者さんにあげたほうがいいのじゃないの?)という疑問が起こる。つづく。


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 このようにさまざまな立場からさまざまな希望があるのに、データは完全でないし、それでも肝臓のみ、肝腎同時移植、という決断を日々くださなければならない。それで、偉い人たち(国内大規模移植センター長、腎臓内科、肝臓内科、移植外科など)が集まって会議を開いた。2006年に最初に集まり、2007年にもう一度集まり、コンセンサスなるものを提唱した(AJT 2008 8 2243)。

 それによれば、①末期肝臓病患者でCKD(GFR <30)、②AKI including HRSでクレアチニンが2mg/dl以上または透析を8週間以上必要としている、③末期肝臓病患者のCKDで、腎生検が30%以上の糸球体硬化あるいは30%以上の間質線維化を示している、の三点は例外的に自動的にSLKとしてもよいだろう、ということだった(もう一つ、④末期腎不全の透析患者の無症状な肝硬変で圧較差10mmHg以上の門脈圧亢進がある場合、というのもあるが、これは別のトピックなので又の機会に)。

 まとめると、①SLKはMELD導入以後増えているが、一方で何千人の腎臓病患者が腎臓を待ちながら毎年亡くなっている。②CKD(GFR <30)あるいは原因は何であれ透析を8週間以上必要としていればSLKをというコンセンサスは現行ではリーズナブルだろう(根拠は乏しいが)。③SLKにリストすると、うちのエリアではMELD29ルール(臓器の融通)に落ち度があるせいで腎臓がついてこないので、瀕死の患者さんは肝臓単独にくらべて長く待たされるかもしれない。④全国レベルでは政治やさまざまな立場の違いからまとまりにくいだろうが、一病院のレベルでなら絶え間なく議論してデータを集めていくことで、よりよいコンセンサスが作れるかもしれない。

 以上のような内容だった。よくもまあ、これだけの内容を30分で話せたものだ。事前に、移植腎臓内科スタッフ二人による査読を受けたことが助けになった。論文を紹介するのに、どのような情報が必要で、どのような結論と批判的考察をすべきかも少しわかるようになった。いままでこれが中々できなかったのだ、つい鵜呑みにしてしまって。移植外科、肝臓内科のスタッフも来てくれて、彼らの意見も聴けたのがよかった。

 ちょっと悲しかったのは、一般腎臓内科のスタッフが余り来ず、来ても「自分には関係ない」という感じであまり発言が聞けなかったことだ。しかし逆に、移植腎臓内科のスタッフで一般腎臓内科のGrand Roundにはあまり来ないか発言しない人もいる。こうしてフェローのあいだに全方向に蓄積した知識と経験がとても重要で、一旦フェローを終えれば自分の専門以外は(とくに移植は、それをキャリアの一部に選ばない限りは)疎くなるということだ。私は、できればどちらもと考えているのであるが。終わり。


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 Renal Grand Roundで、私が不得手としている「不確かな領域について話す」発表をした。テーマは、SLK(simultaneous liver kidey transplant、肝腎同時移植)とLTA(liver transplant alone、肝のみ移植)についてだ。確たるデータがないなかで、幾つかの論点を挙げ、関連するデータを批判的に考察し、現時点のコンセンサスを紹介し、自分の立場をまとめる。よい訓練になった。

 まず、SLKは2002年にMELD(Model for End-stage Liver Disease)が採用されて以来増えた。MELDは肝臓病患者さんが移植を待ちながら亡くなることがないようにリスク評価するモデルで、腎機能がとても大きなウェイトを占める。そのため二つのジレンマが生じることになった。ひとつは、腎機能の悪いこれらの患者さんに腎臓も移植するべきか。もうひとつは、腎臓病がメインで透析依存しているが軽度の肝硬変もある患者さんに、肝臓も移植するべきか。

 今回は前者のジレンマについて話した。SLKのメリットは、survival benefit、透析(が肝移植後に必要だった場合)を避ける、KAL(kidney after liver、肝移植後の腎移植)を避けるなどだ。問題は、腎機能が肝移植後にもどった場合腎臓は他に必要な人にあげればよかったということになる、肝腎同時移植は待ち時間が短いのに臓器・患者さんともに成績が悪く、腎臓移植を待ちながら亡くなっている何千人もの腎臓病患者に対して不公平ではないかということ。

 Survival benefitについては、2002-2005年にかけてSRTR(Scientific Registry of Transplant Recipients)データを分析したところ移植時に透析を受けていたLTA患者は、移植時に透析を受けていたSLK患者に比べ成績が悪かったという結果がある(AJT 2008 8 2243)。ただしこれが腎臓移植の有無による違いなのかは分からない。MELDスコアはLTA群のほうが高く(39、SLK群は31)、彼らは肝臓病がより重度だったのかもしれない。

 さらに1999-2004年にかけてのOPTN(Organ Procurement and Transplant Network)/UNOS(United Network for Organ Sharing)データを分析した論文によれば、移植時にクレアチニンが2mg/dl以上あるいは透析を受けていたLTA患者は、SLK患者にくらべて成績が悪かった(AJT 2006 6 2651)。それで2mg/dlというのが一つのカットオフになっているが、これまたobservationでありsurvival benefitと断言できるものではない。

 肝臓と一緒に移植された腎臓は、腎臓単独で移植された場合に比べて拒絶反応を起こしにくい。肝臓にはimmuno-protective effectがあるので、SLKもLTAもABOのみ合わせればHLA適合に関わらず移植できる(何とクロスマッチしない)。これがKALになると、二人目のドナーから腎臓を貰うので、拒絶を起こしやすい(Transplantation 2006 82 1298)。だから、「この人は肝臓移植後も腎不全が残るか悪くなる」と思うなら、肝腎同時移植したほうがよい(ただし移植して何年も生き残らないとこの利益は得られないのであるが)。つづく。


2012/06/18

腎移植後の高脂血症

腎移植後の高脂血症をレビューする機会があった。腎移植を受けた患者さんに長生きしてもらうためにも、移植腎臓内科医は心血管系リスクのひとつ高脂血症を何としても減らしたいのだ。手許にあるHandbook of kidney transplant(第五版、2009年)は、一般のATPIIIガイドラインとは別に「LDLが130mg/dlを越えたら薬を考慮せよ」という。
 各種免疫抑制剤が微妙に異なるprofileを持っているので確認する必要がある。ステロイドは、高脂血症、ことに高コレステロール血症をおこす。高インスリン血症による肝VLDL合成亢進、ACTH抑制による(らしい)LDL receptorの低下などが原因らしい。
 FREEDOMスタディ(AJT 2008 8 307)では、ステロイドを早くに止めたりステロイド抜きにした群で高脂血症は少なかった(高TG血症は少なく、コレステロール値は変わらなかったが抗コレステロール薬の利用が少なかった)が、rejection、graft survival、patient survivalはどれも悪かった。
 Cyclosporineは総コレステロール、LDLコレステロール値を上げ、HDLを下げる副作用がある。これはdose-dependentである。悪いことは、Cyclosporineとスタチンが馬があわず、simvastatinとの併用は禁忌(rhabdomyolysisや肝障害のリスクが高いため)、他も避けた方がよいとされる。
 Pravastatin、fluvastatin、rosuvastatinといった、cyclosporineとCYP3A4を共有しないものも同様とされる。それでか、腎移植患者を対象にfluvastatinの心血管系イベント低減効果をプラセボと比較したALERTトライアル(Lancet 2003 361 2024)でも免疫抑制剤はCNI-sparingだった。
 Tacrolimusはcyclosporineよりも高脂血症を起こしにくい。もっともtacrolimusのほうがdiabetogenicなのでタチが悪いとも言えるが。欧米多国籍スタディ(JASN 2003 14 1880)では、cyclosporineからtacrolimusにスイッチした患者群で糖尿病発生率に有意差はなかったが、フォローアップ期間が6カ月と短いからだろう。一方LDLコレステロールなどはtacrolimusにしたほうが改善し、総じてFraminghamスコアは下がった。
 いっぽうsirolimusは、コレステロールよりむしろ高TG血症を起こす。これはインスリンにより刺激されるlipoprotein lipaseの分泌を抑え、apoB100-lipoproteinの代謝などが落ちることが原因とされている。こう書くと、じゃあコレステロールは上がらないのかと聞こえるが、そんなことはない。CONVERTトライアル(Transplantation 2009 87 233)が示したのは、CNIと比べてsirolimusにconvertした群ではTGだけでなく、LDLも、さらにHDLも高かった(最初に1か月でピーク、しかし24か月たっても有意に持続)。

KDPI

 Deceased donor移植腎のオファーを受けるのは、たいてい移植外科医である。OPOが、UNOSデータベースをつかって誰にオファーするか決める。もし0 mismatch(HLA-A、B、RDがすべて適合)でPRAが低いレシピエントがいれば、米国どこでもそこに届けようとする。そうでなければ、まず近い順に声をかける。オファーを受けた移植外科医には三つの選択肢、①イエス、②腎生検しだい、③ノー、がある。

 移植腎の質は大まかにnon-ECD(extended criteria donor)、ECDに分けられる。ECDとは①60歳以上のドナー、②50-59歳で以下の二つがあるドナー(クレアチニン1.5mg/dl以上、死因が脳血管障害、高血圧の既往)のことだ。ECD kidneyは寿命が少し短いが、高齢のレシピエントには十分長い(し、ECD kidneyを含めると待ち時間が短くなる)ので移植される。

 臨床で用いられている移植腎のリスク分類はECDだけだったが、最近UNOSがKDPI(kidney donor profile index)を試験的に導入した。これはミシガン大学がdeceased donor kidneyのUNOSデータをCox regression解析して得たKDRI(kidney donor risk index)を改変したものだ(Transplantation 2009 88 231)。

 年齢、身長、体重、人種、高血圧、糖尿病、死因、クレアチニン、HCV、DCD(donation after cardiac death)を入力すると、0(もっとも良い)から100(もっとも良くない)の指数を返してくれる。80以上が大体ECDに相当する。これはまだprospectiveにはvalidateされていないが、UNOSが採用したのでこれからデータが得られるだろう。

2012/06/17

Care of the potential organ donor

腎臓内科医の移植における仕事は、レシピエントのケアであり、おどろくほどドナー(とくにdeceased donor)と臓器のprocurement(調達)には関わらない。どこからか誰かがgraftを調達して、移植する。しかし今月は少しドナーについても学ぶことができた。死(脳死であれ心臓死であれ)が迫っている患者さんがいる場合、連邦政府の法律で病院はそれをOPO(organ procurement organization)に報告しなければならない。それから、OPOが本人の意志などを確認し、家族と面談して、さまざまな準備を行う。

 主治医はどんな役割を果たすべきか。私はレジデント時代、多臓器ショックで治療の甲斐なく死が迫っていた患者さんのことでOPOから「患者さんの臓器提供意思表示についてですが」と電話が掛かって来たときに、「何を考えてるんだ、恥を知れ!」と例になく激昂したことがある。結局OPOが独自に患者さんの状態を調べ、臓器提供には不適格と判断されたようだった。主治医に拒否権はないし、今思えば無知で未熟だった。ただ生死の狭間で家族も医師も感情的になりやすいことは確かだと思う。

 脳死と診断されるまでは主治医がドナーのための治療を行い、診断後からはOPOが臓器のための(レシピエントのための)治療を行う。ただOPOは医師ではないので、臓器のための治療はICU医師が代行してオーダーする。脳死診断前に臓器のための(侵襲的な)治療をするのは許されないが、クロスマッチ等のための血液検査は家族の同意があれば診断前にしてもよい。

 臓器のための治療(organ resuscitation)は、どの臓器を提供するかにもよるが、血流と酸素化を保つことがメインだ(NEJM 2004 351 2730)。脳死の場合、心臓は動いているので心エコー、右心カテなどで心機能評価を行ったうえ、昇圧剤、補液・輸血・あるいは利尿剤を用いるほか、人工呼吸器で酸素化を保つ。甲状腺ホルモン、副腎ホルモン、インスリンなどを用いることもある。心臓死の場合、血液凝固が始まるのでヘパリンを流す。これは死亡前に始めなければならない。

 心臓死の場合、死後graftの質をいかに保つかが問題になる。ドナーが死亡してから臓器がとりだされるまでの時間をwarm ischemia timeと言い、臓器の品質や寿命を保つのにはこれが短いほどよい。家族を病室に残し、何十分でも心電図モニターをみながら完全なフラットラインになるまで待ち、そこから病室に入って瞳孔と胸部を診察して死亡診断する、というのでは遅いのである。

 臓器提供が本人の意思である以上、臓器をできるだけ良い状態でprocureすることは本人の意思に沿うことでもある。しかし、Dead Donor Ruleといって何人たりとも死亡と宣言されるまで重要臓器を取りだすことはできない(当たり前だ)。取り出せば、homicide(殺人)として米国法の裁きを受ける。それで、各施設が独自に「ここまでで死亡として患者さんを手術室に運ぶ」という線引きをしている。

 有名なのはピッツバーグ大学のUPMC protocol(J Intensive Care Med 2008 23 303)で、生命維持治療をやめようと家族と診療チームが決断したところでドナーを手術室に運び、生命維持治療を止め、2分間大腿動脈の脈を触れず、無呼吸で意識がなければprocurementを始めるというものだ。しかし、臓器の血流と酸素化を保つためふたたび生命維持装置を再開するので、そこで蘇生しているかもしれないし、脳機能がいくぶん戻っているかもしれない。UPMC protocolは待ち時間を5分に修正したが、グレイな領域であることに変わりはない。

Niacin


 ESRD(末期腎不全)の高リン血症にはPhosphate bindersを用いるが、他にNiacinが有用かもしれない。Niacinは小腸のsodium-dependent phosphate transporterを阻害することが知られており、2004年に日本グループがNicotinamideの透析患者に対する有効性を発表した(KI 2004 65 1099)。12週間の治療でmean dose 1000mg/dのnicotinamideを投与した65人の透析患者さんで、Calcium carbonateに引けを取らないリン降下(6.9±1.5→5.4±1.3)をもたらしたという論文。今読んでみるとrobustに思えるが、当時うちのJournal Clubで取り上げられた時には相手にされなかった。うちの腎臓内科は保守的で、新しい治療にそう簡単には飛びつかないのだ。

 しかし、スタッフの中には「ナイアシンは安いし、calcium-containing phosphate bindersもsevelamerも効果がない時に加えることを検討してもよい」と思っている人もいたらしく、こないだ最近のアメリカの論文(CJASN 2011 5 582)が紹介され議論になった。これは腎臓病のない患者(GFRが低くても57-58ml/min程度)約1600人を対象にした、本来はNiacinの抗高脂血症効果を調べる(そしてflushingを抑えるlaropiprantとの合剤の効果と比較する)治験を、re-analyzeしたものだ。するとナイアシン1g/d投与群でリンが下がっていた(-0.3、95%CI -0.37 to -0.29)。元の血中リン濃度が低い(3.3±0.4)ので、降下の値が少ないのかもしれないが、それでも有意な結果だった。

 Phosphate binderは、食事中のリンに結合して吸収を抑える薬なので、一日三回飲まなければならない。用量が増えると、Calcium acetate 3錠とSevelamer 3錠、計18錠/d飲まなければならない。さらにLanthanumとなると、もはや薬が食事みたいなものだ。またSevelamerとLanthanumは非常に高価だ。その点Niacinは安価で、徐放剤なら一日一錠ですむ。ほてり(flushing)がメジャーな副作用だが、少量aspirinで対応できる。元々抗高脂血症薬なので、その効果も期待できるかもしれない(ESRD患者の高脂血症とその心血管系イベントリスクは、SHARPトライアルもあって不明瞭であるが)。

2012/06/12

Predicting AKI after cardiac surgery

心臓手術後の急性腎障害を予想する方法はないものか、という質問はとても大事だ。というのも、それはindependent risk factorで、急性腎不全を起こすとmortalityが一気に60%を越えるほど高くなるからだ。心臓外科医が「術前にぜひ透析を」と言うのも無理はない。それで、いくつかのグループが予想するためのscoring systemを作った。
 最も有名なのはCleveland Clinicが作ったものだ(JASN 2005 16 162)。約3万件の心臓手術症例を対象に、術後に透析を必要した急性腎障害をアウトカムにしたリスク分析を行い、有意差のみられたリスク因子についてその度合いに応じて点を与えてscoring systemにした。
 そしてそれを実際の症例に当てはめたところROC曲線のAUC(area under the curve)は0.84と有効性がvalidateされた。今年、幾つかのscoring systemを比較したsystematic review(Ann Thorac Surg 2012 93 337)が出た。それによればCleveland Clinicのがexternal cohort validation、すなわち他施設でもよく急性腎障害を予想したとのことだ。

2012/06/07

PICC line

PICCラインが深部静脈の狭窄をきたし、腎不全の人に透析カテーテルを入れられなくなるという心配がある。この心配は鎖骨下静脈カテーテルについて特に知られていて、今では慢性腎不全患者さんには鎖骨下静脈カテーテルを避ける。
 しかしPICCラインについてはきちんとしたデータがない。どうやら起こるらしいが、どれくらいの頻度で起こるのか、誰がなるのか、留置期間は関係あるのか、どれも分からない。紹介された論文(JVIR 2000 11 1309)で示された頻度は明らかにoverestimateだし、thrombosisの頻度とstenosisの頻度はべつだ。
 しかし、最近になって米国内科学会(ABIM)と米国腎臓内科学会(ASN)がジョイントで「CKD stage 3-5の患者にPICCラインを挿入する際には腎臓内科に相談しなければならない」という声明を発表した。現時点では①本当に必要なのか見直す、②本当に必要なら最短の期間にする、としか言えない。
 というのもalternativeがないからだ。内頚静脈にsmall-bore (4Fr) tunneled catheterを入れるのを推奨する人もいる。少量ワーファリンがいいという人もいる(中心静脈ラインについてのデータはAnn J Med 1990 112 423)。いずれもデータには乏しい。

tram track

 腎病理で学んだ断片的な知識を貯めて、少しずつ様子が分かるようになってきた。"Starry sky pattern"の免疫蛍光染色は、電顕のsubepithelial deposit(hump)。"lumpy bumpy hump"と覚える。subepithelial depositはpost-infectious GNとmembranous nephropathyで見られる。基底膜の中にdepositが溜まると、銀染色で基底膜が黒色、depositはピンク色に抜けるので"tram-track"に見える。慢性腎症の典型的な蛍光染色はdiffuse global granular capillary loop IgG and C3 stain。

 HyalineとfibrinはどちらもHE染色でピンクだが、前者はtextureがhomogeneous、後者はcoarseだ。Trichrome染色で前者は青、後者は赤に染まる。尿細管が膨れて見えるが核がちゃんとしている(膨れていない)時、検体がalkalinized sample(artifact)を疑う。Bowman嚢にはBowman嚢のepithelial cellsがあるが、tubular take offに近い場所にはtubular cellsが見えることもある。また高血圧でperiglomerular fibrosisが見られることもあり、これはfibrous crescentと区別がつきにくい。

 尿細管のasymmetric vacuolizationといえばCNI toxicityが有名だが、他(toxin、ischemia)でも起こる。CNIによるものは、典型的にはvacuoleが大きく泡のように見える。BK nephropathyを疑ったときに用いる染色はSV40 large T antigen。これはポリオーマウイルス全般(BKもJCも)が染まる。podocyteとcrescentの区別がつきにくい時には、前者に特異的なprotein dropletを探すとよい。

2012/05/31

AKI and sepsis

敗血症にともなう急性腎障害の機序についてGrand Roundで学んだ。2004年の論文(NEJM 2004 351 159)と2012年の論文(Pharm Thera 2012 134 139)が紹介されたが、前者は神経、ホルモンなど腎臓の外からの機序が、後者は腎血管の内皮細胞や間質の細胞外基質など腎臓の中での機序がメインで書かれていた。いろいろ勉強にはなったが、まだまだ治療に結びつくような結果は得られていないのが現状だ。

SHARP trial

SHARPトライアル、これはこの一年で腎臓内科に関する最大のドラマだ。スタチン(コレステロールを下げる薬)は、血中の脂肪を除くのみならず、抗炎症作用によって動脈硬化の進行を遅らせ心血管系イベントを減らす。しかしその効果は、たび重なる治験にもかかわらず慢性腎不全の患者さんには証明されていなかった。

 その理由ははっきりしていないが、慢性腎不全の患者さんにおいては、心血管系イベントの機序が異なるからかもしれない。FGF23による左室肥大、透析や薬剤による血管の石灰化などは、コレステロールと関係ないのかもしれない。

 さておきSHARPトライアル(Lancet 2011 377 2181)はその文脈で、「スタチン単独でダメなら、ezetimibeと併用したら」という臨床試験だ。約9000人の患者さん(うち約3000人が透析中)を対象に、simvastatin(商品名Zocor) 20mg、ezetimibe(商品名Zetia) 10mgの併用を、プラセボと比較した。冠動脈疾患の既往がある人は除外された。

 五年間の追跡で、major atherosclerotic eventsは治療群で優位に低かった。これを受けて昨年11月、FDAのadvisory boardは全会一致で慢性腎不全患者へのこの薬(商品名Vytorin)の適応を支持し、スタディグループのボスは時の人となった。しかし、今年1月、FDAはadvisory boardの推奨をひっくり返してVytorinに慢性腎不全患者への適応を認めないと発表した。

 FDAの適応拒否の理由は、二剤の併用であるため、Zetia単独で効果があるのかVytorinでなければならないのか分からないというものだった。つまりPlacebo、simvastatin、ezetimibe、combinationという四群に分けて試験をすればよかったという訳だ。結局ZetiaにもVytorinにも添付文書にSHARPスタディの結果が載ることになった(しかしどちらも適応はない)。二兎を追うものは一兎をも得ず、ということなのだろうか。


2012/05/26

vancomycin nephrotoxicity

Vancomycin nephrotoxicityといえば、「あるにはあるけど、まれ」という印象だ。というのも、Trough levelが高くても、それが腎不全の原因なのか結果なのか分からないし、おそらく多くの場合それは原因ではなく結果と考えられるからだ。とはいえ、Trough levelが60mcg/mlとか100mcg/mlとかだと疑いたくなるし、いずれにせよ薬剤を止めることにはなる。Vancomycin toxicityというのは存在としては有るわけで、それを研究している人もいる(Toxicol Sci 2009 107 258)が、活性酸素がどうの…というレベルで、機序はまだちゃんと分かっていない。

2012/05/24

baroreflex failure

Renal Grand Roundでいつも感心するフェローが、今回も素晴らしい発表をした。まず食道がんの手術、放射線治療、化学療法後に血圧のコントロールがつかなくなった症例をプレゼンする。スタッフがすぐさま「放射線治療は頚部にもなされたの?」と質問する。あとから説明するが、まず最初にこれが聞けないと、腎臓内科医とはいえないのだ。
 主な二次性高血圧はあらかた除外され、引き続き降圧剤を七種類くらい飲み続けているが、いっこうに血圧が下がらない。どう思う?と少し議論になった。そのあと二例目は、CEA(carotid endarterectomy、頸動脈狭窄の治療)後に血圧が急に上がり、診察しようにも患者さんが大泣きしていて話にならない、というもの。普段は泣いたりしない普通の人なのに。
 二例目のほうが明らかだが、これらはbaroreflex failureが疑われる症例だ。圧受容体が頸動脈球、大動脈弓、その他の胸部の太い血管にあって血圧の変化を感知し、舌咽神経と迷走神経を介して脳幹nucleus tactus solitariiに伝える。その結果、交感神経や副交感神経の調節より血圧の急激な上昇と低下が食い止められる。
 この分野の第一人者はVanderbilt大学のDr. Robertsonという神経内科医だ(NEJM 1993 329 1449)。この論文によれば、baroreflex failureはlabile hypertension、emotional lability、flushing、diaphoresisなどを主徴とする。血圧の細かな調節が効かないので、ワッとnorepinephrineが出て、ワッと血圧が上がる。
 原因疾患は頚部の外傷、頚部の放射線治療、頸動脈周囲の腫瘍、頸動脈の内膜切除(CEA)、など。baroreflex functionの検査は、昇圧剤(あるいは降圧剤、nitroprussideなど)を持続静注して血圧ガクっと上がる(あるいは下がる)まで増量していくというもの。治療はclonidineで、典型的には著効するそうだ。二例目の症例には著効したらしい。
 今度から難治性の血圧で紹介されてくる患者さんをみたら、首のキズと感情の起伏に注目しようと思う。そういう目で思い返してみると、「ひょっとしてあの患者さんの高血圧はこれだったんじゃ…?」と思い当たる節がある。

2012/05/23

4 structures

腎病理で注目するのは四つ、糸球体、尿細管、間質、そして血管だ。糸球体ではまず何個あって、うち何個が硬化しているかをざっと見る。そのあとで一個一個を詳しく見て、capillary loopは開いているか、mesangial spaceはどうか(細胞数は多いか = proliferation、基質は広がっているか = mesangeal expansion)、urinary spaceは大きいか、urinary spaceに細胞はたまっているか(辺縁にあればcrescent、capillary loop間にまで入り込んでいればただのdebris)、などを見る。

 尿細管はbrush borderはあるか(PAS染色が見やすい)、細胞が小さいあるいは核が膨れているか(tubular atrophyのサイン)、尿細管内(基底膜の内側)に炎症浸潤はあるか、あるいはmicro-cystic dilatationはあるか(タンパク質が大量に漏れ出て尿細管のなかで便秘の様になっている状態、FSGS、HIVAN、obstructionなどで見られる)などを見る。

 間質は、線維化の程度をみたり、炎症浸潤の程度などをみる。血管は、色んな太さの枝がある。capillaryはもっとも小さく、移植腎病理ではperitubular capillaryへのC4d染色がAMR(急性免疫性拒絶反応)の診断に用いられる。

 糸球体とおなじくらいの直径を持つ血管がinerlobular artery、それより小さいとpre-arteriole、arteriole。interlobular arteryになると血管壁にelastic laminaが含まれるようになり、それより大きいとarcuate artery、segmental arteryとなる。しかしそんな太い血管を腎生検で傷つけていたら大変なので、arcuate artery以上の血管が標本に見えたら病理医は腎臓内科医にすぐさま報告する。

rainbow-color renal pathology

腎病理のローテーションというのは、希望しないとない。月一回、腎臓内科全体のbiopsy conferenceと、フェロー用の教育カンファレンスがある。でも如何せん頻繁にスライドを見たり議論したりしないので、基本も身に付かない。

 なんとかお手軽に基本的なことを系統的に学ぶ方法はないかなと思っていたら、例の開業医の先生方を招くイベントで"renal pathology"というセッションがあったので参考になった。腎病理に特徴的な多種の染色について主に説明していた。

 まず基本のH&E染色。ヘマトキシリンは塩基性pHのため、酸をよく染める。DNAはリボ核酸なので、核がよく染まる。壊死組織ではヘマトキシリンが染まらず、標本が真ピンクになる。エオジンは酸性pHで、細胞質とかがよく染まる。染まり方で、chunkyならfibrin(つまり塞栓)とか、ある程度染まっている構造物を特定できる。

 Jone's methenamine silver染色(JMS)は、glycosaminoglycanを染め、糸球体の基底膜と尿細管の基底膜が黒くなる。膜性腎症でspikeが見られることや、糖尿病性腎症で糸球体にlaminarな縞が入った結節、Kimmelstiel-Wilsonが見られることは有名だ。

 同じように基底膜をよく染めるのがPAS(periodic acid-Schiff)だ。他にmesangiumも染まる。これはglycogen、glycoprotein、proteoglycaなど多糖類を染める。Periodic acidとはper-iodic acid、つまり過ヨウ素酸ということで、ヨウ素なだけあって濃紫色だ。この染色のほうが、移植腎でtubulitisの診断をする際に浸潤細胞が尿細管基底膜の内側かどうかが見やすいらしい。

 Tricrhrome染色では、collagenが青色に、fuschinophillicなfibrillinやmuscle fiberが赤色に染まる。すまわり青色の比率で線維化の程度が評価でき(25%以下がmild、50%以下がmoderate、50%以上がsevere)、赤色は血管を評価するのに役立つ。

 Congo-red染色はamyloidを染め、偏光顕微鏡でgreen-appleなbifringenceを示すことはよく知られている。染まり方によってある程度アミロイドの種類がわかるが、いまはMayo Clinicがmass spectroscopyで調べてくれる。ここまでで時間になったので、蛍光顕微鏡、電子顕微鏡は、また今度ということになった。

 本当は、officeにFogoの"Fundamentals of Renal Pathology"もあるし、自分で勉強すればいいわけだが。数少ない機会に学んだことを貯めていこう。そして二年目に二週間でいいからお世話になろう。腎臓内科のboardでも頻出なのだ。


2012/05/22

Diabetic kidney disease

こないだは、地域の開業医を招いて、最新の知識をアップデートする年に一度のCME(生涯学習)イベントがあった。なかでも目玉の講演はペンシルベニア大学の先生によるdiabetic nephropathyの分子生物学的な機序についてだった。糖尿病性腎症こそ腎臓病のなかで最も多いもので、その原因はmultifactorialで解明は難しいと思っていた。

 しかしこの先生は糖尿病性腎症の患者さんとそうでない人達の遺伝子発現の違いを調べて、主な違いはpodocyteに関する遺伝子だと発見した。それで糖尿病→podocyteのアポトーシス→糖尿病性腎性という動物モデルを作った(Diabetes 2006 55 225)。

 さらに、どうしてpodocyteのアポトーシスがおこるの?というのをこれまた遺伝子検索して、炎症とか、cell interactionとか、developmental pathway(Notch1)とか、色々研究しているらしい。炎症については、新薬bardoxoloneが抗炎症作用で腎症の進行を抑えようとしているし、MCP-1(monocyte chemoattractant protein-1、研究論文はDiabetes 2009 58 2109)もそのantigonistの臨床応用が試みられている。

2012/05/20

ABO incompatibility

 あるliving donorがあるintended recipientに腎をあげたいと申し出たとする。でもその組み合わせではABO不適合だったら、どうするか。とくに、患者さんがO型の場合、その人は抗A、抗B抗体を両方持っているので、A型の腎臓は患者さんの抗A抗体、B型の腎臓は抗B抗体、AB型の腎臓は抗A、抗B抗体両方による拒絶反応(AMR、antibody-mediated rejection)の危険がある。

 ひとつの方法は、paired kidney donation(PKD)だ。同じように不適合なドナーとレシピエントのペアがたくさんいるので、そのなかでマッチする組み合わせを見つけてswapするということ。もっともシンプルなのは、A型の患者さんに腎臓をあげたいB型のドナーが、べつのB型の患者さんに腎臓をあげるかわりに、そのB型の患者さんに腎臓をあげたい(があげられない)A型のドナーが、A型の患者さんに腎臓をあげる、という交換だ。PKDは韓国で最初に報告された。

 しかし、O型の患者さんはO型からしか腎臓をもらえない一方で、O型のドナーは、腎臓にA抗原もB抗原もついてないので、A、B、AB、O、すべての血液型の患者さんにあげられる。だから、たとえPKDをしてもO型のレシピエントがどうしても長く待たなければならない。そこで、生まれ持った抗A抗体、抗B抗体をできるだけ除去して、なんとかA抗原、またはB抗原のある腎臓を生着させようというのがABO不適合移植だ。

 米国ではJohns Hopkins大学が最もABO不適合移植を先進的に行ってきた(Transplatation 2009 87 1246)。術前治療は血漿交換とIVIGで、抗Aあるいは抗B抗体の抗体価が1:16以下に下がるまでやる。手術前日にもやり、そのあと抗体価が下がっていることを確認する。日本では全例脾摘するところが多いらしい([2015年5月追加]昔の話で、いまはrituximabを中心とした免疫抑制剤があるのでやらない)が、こちらではroutineにはやらない。

 成績は術直後のgraft lossがどうしても一定の割合でおこるが、それを過ぎると、極めてvigilantなモニタリングが必要(protocol biopsyなど)だけれども、成績はABO適合の移植と変わらない(Transplantation 2012 93 603)。ただ少なくともこちらでは、抗体価が1:512以上、AB→Oの不適合、HLAのflow cytometry cross matchも陽性な場合、などはやらない。

2012/05/15

補体の制御

こないだのGrand Roundと、そこで紹介された文献(Nephrology 2010 15 663, Nat Rev Immunol 2009 9 729)にもとづいて補体の制御について復習してみた。こんな専門的なことをアレルギー科や膠原病科でもなく、腎臓内科が扱うなんて素敵だ。 
 補体制御分子はめちゃくちゃたくさんあって、familyを形成している。まず古典経路でC1(q, r, s)が活性化しない様にしているのがC1INH。この異常は血管浮腫を起こすことで有名だ。C4(とC2)によるC3活性化を防ぐのがC4BP(binding protein)だ。
 代替経路の制御はC3bとFactor B(合わせてC3 convertase)の解離から始まる。これをdecay-accelerating activityといい、Factor H、DAF(CD55)などが司る。逆に解離を防ぐのがproperdinだ。解離して細胞膜に残ったC3bはすぐさま分解され、これはMCP(CD46)、Factor Iなどが司る。
 Factor Hは、N末端がDAFのco-factor、C末端はhost cell recognitionの機能を持つ。つまりC末端が自分の細胞を認識して表面にいてくれるので、自分の細胞にC3 convertaseが付いてもすぐN末端が分解してくれるというわけだ。
 逆にFactor Hがないと、補体(代替経路)が活性化されるたび無闇に自分の細胞まで壊れてしまう。これがatypical HUS、DDD(dense-deposit disease、MPGNの一つ)、C3 nephropathy、それにage-related macular degenerationの機序の一つだ。
 さあC3より下流にあるterminal pathway、すなわちC5とMAC(membrane attacking complex)の制御はどうか。C5 convertaseを制御するのがCFHR1(complement factor H-related protein 1)、MACを制御するのがvitronectin、clusterin、それにCD59などだ。
 これらの分子がそれぞれどこにあって(体液中か、細胞表面か、さらにどこの細胞表面かなど)、どんな構造をしており、どんな相互作用をして、どんな病気を起こすかは、病気ごとの各論で話したほうがよさそうだ。ともかく補体の各経路とそれぞれの制御を整理したから良しとしよう。

2012/05/12

CME

米国腎臓内科(ASN)の出す雑誌の一つJASNは隔月で生涯教育用の小冊子を発行している。そして物凄く内容が濃い。今月は糸球体腎炎を中心にした号だったが、最新のエビデンスが深く考察されており、質がとても高い。正直これを読んでおれば、わざわざ自分で論文を読み内容をまとめてここにシコシコ書く必要なんかないんじゃないかと思うほどだ。まあそんなことはないのでこれからもシコシコ続けるつもりなのであるが。
 この小冊子はNephSAP(nephrology self-assessment program)と呼ばれ、その名の通り最後に問題が25問付いている。これをASNのウェブサイト内で解いて正解すると、もれなくCME(continuing medical education) creditが貰える。まあそれはどうでもいいが、こうして問題にアクセスしておくと、後々に戻ってくることができるので、自分がスタッフになってからフェロー達に回診で遭遇する状況に関連した問題を取り出して教えてあげることができるのがよい。

2012/05/11

YouTube video

前にも触れたが補体の働きは複雑で、それに補体の制御まで含めるともはやその道専門の人でなければ把握しきれないほどだ。私は学生時代に「できればこんな複雑なものは分からなくても医者としてやっていければいいな」と密かに願ったことがあるが、腎臓内科にいるとそうもいかない。
 しかし先日のRenal Grand Roundでスタッフの一人がYouTubeのビデオを流して、これがとても分かりやすかった。古典経路と代替経路(alternative pathway)についての二つのビデオで、C1q-C1r-C1sがやってきて、C1rとC1sが分解されるとC4がやってきてC4a(anaphylatoxin)とC4bになって、C4bは細菌細胞膜に共有結合してC3を呼び寄せ…というのがグラフィックを使って説明されている。
 来年にはFACE(fellows as clinician educators)なるプログラムに参加して、レクチャのしかた、病棟での教育回診のしかた、テストの作り方などを教わる。時にはYouTubeをつかって説明するほうが分かりやすいとか、スタッフのちょっとした工夫をメモって自分の教育方法に取り入れていくのは有益だと思う。

2012/05/09

bigger fish to fry

  こないだ病院で、"bigger fish to fry"という表現を使った。心不全の患者さんが非虚血性心筋症に思われたのに、循環器科が心臓カテーテル検査をしたい、でも腎機能がよくないので患者さんがカテーテル検査をいやがっているという状況で。
 虚血性心筋症は心カテーテル検査でしか究極的には診断できないし、造影剤による腎機能障害のリスク(とコレステロール塞栓症のリスク)は低いと思われたが、we have bigger fish to fry、すなわちwe have other things to do、非虚血性心筋症の検査が先かと思われた。
 にしてもこの表現、大小さまざまな魚を釣って家に帰り、さあ揚げようという状況から生まれた言葉なのだろうか。由来について調べたが不詳らしい。Don Quixote(1712年)、第2部35章にDonが"I have other fish to fry"と言う台詞があるらしい。

Gitelman

もう二ヵ月前になるがRenal Grand RoundでGitelman syndromeについて発表したが、忘れないように主要な論文だけでも復習しておかなければ。何と言っても面白かったのは「なぜGitelmanでは低カルシウム尿症になるか」で、近位尿細管からのカルシウム再吸収が増加するため(であって遠位尿細管にあるカルシウムチャネルTRPV5によるものではない)とオランダのBindelsという人が示した(JCI 2005 115 1651)。あとはGitelman syndromeのキャリアが尿中のナトリウム排泄増加のために高血圧になりにくい(がBartterやhomozygousなGitelmanなどと違って激しい体液減少にはならない)。論文はNature Genetics 2008 5 592。

尿管結石の各論

各論で新たに学んだことを忘れぬように書いておく。各論一、高カルシウム尿(hypercalciuria、男性>300mg/d、女性>250mg/d)。腸管が悪い(過吸収)のか、腎臓が悪いのか(Ca wasting)などで分類しようと長いこと試みられてきたが、最近はあまり分類にはこだわらないようになったという(NEJM 2010 363 954)。

 高カルシウム尿を悪化させるものに1,25-OH vitamin D、高ナトリウム摂取、グルコース大量摂取、animal protein(酸の摂取)などがある。1,25-OH vitamin Dに関しては、尿細管でのリン再吸収障害→低リン血症→1,25-OH vitamin D高値→腸管からのCa/P吸収亢進→idiopathic hypercalciuriaと考えられており、尿細管タンパク質の遺伝子異常(NPT2a、NPT2c、PDZK1、NHERF1)が見つかっている(NEJM 2008 359 1171)。

 各論二、高シュウ酸尿(hyperoxaluria、>40mg/d)。enteric hyperoxaluriaについては前にも学んだが、Oxalobacter formigenesがいかにシュウ酸をエネルギー源にしているかが興味深かった。この細菌はoxalateを取りこんで代わりにformate(蟻酸)を放出するが、その際に差引きH+が一個細胞外にでる。これを繰り返すうちに細胞膜内外に電位差ができ、それにより生じるproton motive forceをATPに変換しているという。

 高シュウ酸尿の改善に高カルシウムな食事がよいというのは良く知られているが、この分野の第一人者はハーバード大のDr. Curhanだ(最初の論文はNEJM 1993 328 833)。カルシウムは食事から摂取するのがよく、600mg/d以上で効果が出始める。しかしカルシウム製剤では却って結石リスクが上がるらしい(Women's Health Initiative、NEJM 2006 354 1102)。

 各論三、低クエン酸尿(hypocitraturia、男性>450mg/d、女性>550mg/d)。先生はまず「クエン酸はどこで再吸収される?(近位尿細管)」と聞き、「低クエン酸尿は近位尿細管細胞内が酸性になる状況で起こる」と言う。すなわち①アシドーシス、②低カリウム血症(Kが細胞から出てHが細胞に入ってくるから)、③動物タンパクの大量摂取(ヒトの酸摂取のほとんどは動物タンパク由来だから)。

 各論四、高尿酸尿(hyperuricosuria、男性>800mg/d、女性>750mg/d)。urate + H ⇔ uric acid、電離定数pKaは5.5だから、酸性尿でこの電離平衡は右に傾き(水溶性の低い)尿酸が析出しやすくなる。前述のように高尿酸尿がある人は尿酸が核となってシュウ酸カルシウム結石の形成を助けるので尿をアルカリ性にしたり(クエン酸カリウムを高用量、20-30mEq 2x/d)、尿酸生成を抑えたり(allopurinol)する必要がある。

 おまけの各論五、シスチン結石。この病気の問題は近位尿細管におけるアミノ酸再吸収障害で、さまざまなアミノ酸が尿中に漏れるが特にシステインは水溶性が低いので石になる。治療は水分摂取と尿pHをアルカリ性にするのが基本だが、システイン二分子のdisulfilum結合を解くtioproninも用いられる。また通例struviteと言っているurea-splitting organismによる石の化学式はMgNH4PO4。

尿管結石

 尿路結石のレクチャが一時間あっても、なかなか一時間ですべてをカバーするのは難しい。でも例の教育熱心な先生はカバーしちゃうから凄いなと思う。おそらくまず総論、そして結石の生成に関わるプロセス(高カルシウム尿、高シュウ酸尿、低クエン酸尿、高尿酸尿)について各論で述べたから出来たのだろう。

 総論ではsupersaturationとmetastableという概念を教わった。溶解度積に近い概念だが、尿にはさまざまな溶質が混ざっているのでそれぞれの相互作用を加味して計算される。結石患者さんでは治療してもsupersaturationが1を切ることはまずないが、尿酸結石やシスチン結石の患者さんでは切ることもあり、その時には石が溶ける。

 Metastableとは、supersaturationを越えているので既存の石は成長するが、新しい石はできないレベルを言う。ここに留まっておればいずれ全ての石が去るはずである。Metastable域を越えると、新しい石ができる。石ができるには核が必要だ。最近の研究でメタボの人は尿が酸性のため尿酸が析出して核になり、そこからシュウ酸カルシウムが雪だるまを作ることがわかった。

2012/05/06

Randall's plaque

  尿路結石は尿細管内腔で出来るのかと思ったら、idiopathic hypercalciuriaの患者さんにおいてはそんなことはない。 腎皮質の尿が最も濃縮されるところで、 間質にRandall's plaqueと呼ばれるリン酸カルシウム(アパタイト)の塊が蓄積する。それが腎髄質のcalixに達するとポロポロと尿管にこぼれていくというわけだ(JCI 2003 111 607)。しかし、消化管異常によるhyperoxaluriaの場合は別で、こちらは集合管の内腔でシュウ酸カルシウムが析出する。

2012/05/04

AQP2

 腎性尿崩症と深部静脈塞栓症をきたす家族性の疾患と言われれば、AQP2の変異だ(J Clin Endocrinol Metab 1997 82 686)。これはV2 receptorの変異(もっとも多い、そしてX-linked)の次いで多い家族性の腎性尿崩症だ。文献ではautosomal recessiveとされているが、日本の医科歯科大グループがautosomal dominantの症例を報告している(Am J Hum Genet 2001 69 738)。

 Aquaporinは疎水性の細胞膜にあって唯一水の出入りを司るとても大事なチャネル分子だが、ADH支配下にあるのはAQP2だけだ。AQPが機能しないので下垂体は頑張ってADHをたくさん作るが、V2 receptorは機能しているので、血管内皮細胞ではADH支配下にFactor VIIIaとvWFが放出され塞栓症をきたす。

familial neurohypophyseal DI

尿崩症を疑う家族歴のある子供が、毎日5Lの水を飲まなければならず、多尿と夜尿で相談されたとしよう。腎性尿崩症で多い遺伝様式はX-linkedだが、この症例の家族歴はautosomal dominant、しかも他の家族はdesmopressinが効くという(腎性だったら効かないのでは)。
 絶水試験で血漿浸透圧が285mOsm/kg、尿浸透圧が477mOsm/kgになった。これが心因性多飲症だったら、血漿浸透圧はもっと高く、尿浸透圧ももっと高くなるはずだ。絶水に反応してADHは出ているから完全な中枢性尿崩症ではない。腎臓は反応しているから、腎性尿崩症でもない。
 というわけでこれはpartial central DI、疑うべきはneurophysin IIの異常だ。正確にはADH pre-prohormone geneの異常で、neurophysin IIはこの前駆体がADHになる際に出来る副産物だ。いずれにせよこの遺伝子異常によりmisfolded ADH precursor分子が神経分泌細胞内で詰ってしまう(J Cell Sci 2009 122 3994の図10)。だがdesmopressinを投与すると「(スタッフによれば)詰りが改善する」らしい。

GFR

 計算されたGFRは個人差があるし、steady stateでなければならないし、密かに単位がml/min/1.73m2で体表面積を加味してある。だからより正確な腎機能が知りたければ24時間蓄尿してクレアチニンクリアランスを測る。A g/24hrsのクレアチニン排泄量を血中クリアチニン濃度(B mg/dl)で割るので、単位を補正すると A/B x 69 ml/minだ。大雑把にはA/B x 70でいい。

 ただしクレアチニンクリアランスはGFRが低下した時にoverestimateしてしまう、というのもクレアチニンは尿細管から分泌排泄されるからだ。だから純粋なfiltration由来のクリアランスは少し低い。どれくらい低いかというのは何とも言えないが。そこでスタッフが使っていたのが尿素クリアランスだ。

 尿素クリアランスは、クレアチニンクリアランスと対照的にGFRをunderestimateしてしまう、というのも尿素は尿細管からすこし再吸収されるからだ(確か集合管の最後のところで水分子と一緒に)。だからクレアチニンクリアランスと尿素クリアランスの間がだいたいのGFRではないかというわけだ。実際の患者さんで測定したら、前者が8ml/min、後者が4ml/minで、GFRは6ml/min位かなということになった。

2012/04/29

Hypogammaglobulinemia

移植の月には入院してきた腎移植患者さんをたくさん診る。入院するのは移植を受けた患者さんの1%かそこらで、残りの99%は透析も不要で、仕事・趣味・家庭などで幸せに暮らしているわけだが、病院にいるとそれを診ることはあまりない。
 さて移植患者さんの入院は大抵が感染症か腎機能障害、どちらも免疫抑制剤の副作用だ。感染症、とくに細菌感染を繰り返す人を診た時にスタッフが決まって「immunoglobulin levelは調べた?」と口にする。Hypogammaglobulinemia(HGG、低γグロブリン血症)を疑っているわけだ。しかし今まで疑った数例でチェックしたが免疫グロブリンレベルは正常だった。
 スタッフがレビュー論文をくれ(Curr Opin Organ Transplant 2008 13 581)、孫引きして腎移植患者を対象にしたスタディ論文(Transplant International 2008 21 57)に当たってみるとHGGは移植後早期に多く見られるらしい。

Oleander

 スタッフが「スリランカから来た人が自殺目的にOleander(夾竹桃)の種を大量摂取して運ばれてきたら、どうする?」という問題を回診中に出した。何のことやらと思ったが、話を聞くと夾竹桃にはoleandrinという強心配糖体が含まれ、Na-K-ATPaseを阻害して房室ブロックやら高カリウム血症やらを起こす。治療はDigibind(digoxin derivativeに感作されたヒツジの血清から取られた免疫グロブリンFabフラグメント)。強心配糖体はどれも分子量が大きく、かつ脂溶性でvolume of distributionが高いため透析除去できない。





[2019年8月12日追記]夾竹桃の花が咲くのは、盛夏(写真は筆者撮影)。夾竹桃の描写で始まる夏川草介著『神様のカルテ0(2015年)』の一短編、『有明』を読むまで知らなかった。咲き誇る夾竹桃の描写も、人物達の熱い思いや純情も、どこか涼しげに感じられる。信州が舞台なことと、漱石を意識した文体、そして医師でもある作者のクールな視点がそうさせるのだろう。まだお読みでない方はどうぞ。


2012/04/28

mineralocorticoid receptorのS810L変異

腎臓内科のような専門科に入ると、「学ぶ」だけでなく「知っているかどうか」という知識を見につけることもとても大事だ。たとえば「妊娠中の女性がrenal K wastingによる低カリウム血症になったら考えることは?」と問われれば反射的に「mineralocorticoid receptorの変異によりprogesteroneがaldosteroneに代わりrenal K wastingを起こすから」と答える。治療はK補充とamiloride(妊娠中の女性にはclass B)だ。
 スタッフによれば、腎臓内科医が集まる席でのクイズ大会でこの症例が出たが、誰もが「mineralocorticoid receptorの変異」と即答したらしい。でもただ知っているだけなら誰でもできる。それで専門科医なんだからせめて文献をと調べるとmineralocorticoid receptorのS810L変異の女性が妊娠中に異常な高血圧と低カリウム血症をきたしたというのが一本みつかった(Science 2000 289 119)。
 mineralocorticoid receptorのS810L変異があると、ligand binding siteにあるhelix 5のside chainが異常になるとか(この辺のくだりは学生時代なら興奮しただろうが、今はそうでもない)で、aldosteroneのみならずステロイドなら何でも、さらにはaldosterone antagonistのspironolactoneにまでも結合してしまう(gain-of-mutation)。
 それによりS810L変異がある患者さんは小さな頃から高血圧を発症する。検査値はやや低K、やや高HCO3(ただし変異のない群に比べて有意差はなかったが)でprimary hyperaldosteronismを疑うがaldosteroneレベルは極端に低い。妊娠中は高濃度のprogesteroneがmineralocorticoid receptorを刺激するので、降圧剤にも関わらず血圧は上がり続け、報告された症例では34週までに210/120mmHgになったので緊急帝王切開になった(赤ちゃんもお母さんも無事)。

angiotensin-(1-12)

他日、「腎臓がない人にもACE阻害剤は有効か?」という禅問答あるいは頓知のような質問に応えるべく色々調べたレジデントがRenal Grand Roundで発表していた。腎臓がなければreninが出ない、reninがなければangiotensin IIも出来ないだろうというわけだ。
 結論からいうと、reninがなくてもangiotensin IIはできる(Hypertension 2010 55 445)。手がかりになったのはangiotensin-(1-12)で、これがreninに関係なくangiotensin Iになると分かった。だから腎臓のない患者さんでもACE阻害剤は有効なはずだ。ちなみにangiotensin-(1-12)を2006年に初めて発表したのは宮崎大学のグループだ。

spironolactone

心不全科(循環器内科の中でもさらに細分化した分野)のフェローから「腎機能のない人にspironolactoneを投与して高K血症になるメカニズムはあるのか?」という質問を受けた。spironolactoneはaldosteroneの阻害薬で、 aldosteroneによる遠位尿細管でのK排泄を阻害するのが高K血症をきたす主な理由だ。それで、腎機能がない人には元から遠位尿細管でのK排泄がほとんどないわけだから高K血症にはなるまいというわけだ。

 自分の経験と記憶を瞬時に振り返り、「ある(けどどんなメカニズムか忘れた)」と返答した。そのあと腎臓内科のスタッフに聞くと、やはり同じ返答だった。それで調べてみると、腸管からのK排泄が阻害されると考えられているらしい(Current Hypertension Reports 2004 6 327)。

 実際に透析患者さんにspironolactoneを投与するとどうなるの?と調べた論文もあって、一本は高K血症になり(NDT 2003 18  2364)、もう一本は有意差が見られなかった(NDT 2003 18 2359)。だから何とも言えないが、後者はopen-label, non-randomized trialでエビデンスの質が低いし、今のところ(高K血症は)起こるという結論にしておこう。

5-oxoprolineふたたび

2年前に触れた論文(CJASN 2006 1 441)を、また読み返す機会があった。これはacetaminophenによって5-oxoprolineが蓄積してアニオンギャップアシドーシスをきたした症例をまとめたものだ。前の病院でレジデンシーをしていたときに尊敬するMICUのフェローが教えてくれて読んだが、当時は何のことやらよくわからなかった。いまは少し分かる。
 アセタミノフェン(タイレノールのこと)は含硫アミノ酸(システインなど)を枯渇させ、cysteine-glycineが細胞内に少なくなり、それによりdipeptidaseによって出来るはずのglycineも少なくなる。Glycineが少なくなるとglutathione synthaseによって出来るはずのglutathioneが少なくなり、それによりγ-glutamyl-cysteine synthaseの活性阻害が起こらなくなる。
 γ-glutamyl-cysteine synthaseが阻害されないので、この酵素活性によりγ-glutamyl-cysteineがたくさんできる。増えたγ-glutamyl-cysteineはγ-glutamyl-cyclotransferaseにより分解され、こうしてできる代謝産物が5-oxoprolineというわけだ。私は大学時代に生化学でglutathioneの代謝経路についてあまりよく勉強した記憶がない。酸化還元反応に関わる大事な経路なのに。
 臨床的に知っておくべきことは、報告例がほぼすべて女性ということだ。酵素活性に性差があるのかもしれない。またmalnutrition、肝障害(いずれもglutathioneが減る状態)を合併していることが多い。腎機能が悪化した人も、尿中から5-oxoprolineを排泄できないのでリスクが高い。治療法については、アセタミノフェンの服用を中止する他にはあまり書かれていない。
 なお今まで書いてきたのは後天性の5-oxoproline蓄積症だが、先天的な酵素欠損(glutathione synthase、それに5-oxoprolinase)によってなる場合もある。ただしこれらはautosomal recessiveで、homozygoteな人達がかかり、heterozygoteな人達は無症状だ。スタッフは「後天性と思われている人達はheterozygoteで、それにアセタミノフェンによる更なるglutathioneの枯渇が加わって発症するのだ」と言っていたが、そうだろうか。

CRRT dosing

 CRRT(持続透析)のdosingについての論文は知りながら、自分がいったいどれくらいの透析をしているのかも考えず、いつも同じオーダーを出していたことに気付いた。CRRTのdosingはeffluent、すなわちdialysate(透析液)、replacement fluid(filtration用の輔液)、それにvolume removal(除水量)で計り、体重で補正したml/kg/hrで表す。
 今使っているPrismaはCVVHDFで、hemodialysisもhemofiltrationも行うが、私はいつもdialysateを2000ml/hr、replacement fluidを1000ml/hrにしていた。これだけで体重70kgの人には3000/70 = 約40ml/kg/hr、除水量が3000ml/dayなら、さらに3000/24/70 = 約2ml/kg/hr、トータルで約42ml/kg/hrのCRRTをprescribeしているわけだ。
 CRRT dosingについて初期にでたイタリアの論文(Lancet 2000 355 26)は25ml/kg/hrの群が35ml/kg/hr、45ml/kg/hrの群に比べて生命予後(30-day mortality)が悪いという結果だった。それからいくつもの大規模スタディ(NEJM 2009 361 1627など)が出たが、多くはdoseの違いによる有意差はないという結果だった。
 私の考察は「ICUの患者さんは多くの場合に多臓器不全の一環として急性腎不全になるのであり、腎機能をどれだけ沢山replaceしたところで患者さんがより助かる訳ではない、寧ろ患者さんが助かるかどうかは他の臓器・あるいは敗血症など元々の病気プロセスがどうなるか次第だ」というものだ。
 これは「CRRTをするからには、全ての数字(電解質、酸塩基平衡、老廃物濃度など)を正常にもどすことが私たちの仕事だ」という考えと相克する。しかし論文を読んでから私は、「CRRTはとてもお金のかかる治療だし、検査値を正常に戻すために(文字通り)湯水のように透析液やreplacement fluidを使っても患者さんが助からないならやめよう」と思った。
 しかしなぜCRRTではdoseをeffluentなぞで表すのであろうか。それはほとんどのCRRTがCVVHDFでhemodialysisとhemofiltrationを同時に行うのでclearanceを計算するのが煩雑なことと、マシンの都合上effluentが計算しやすい(透析液、replacement fluid、除水量がすべてひとつのバッグに溜まる仕組み)からだろう。
 それで「effluent doseとclearanceは本当に相関しているの?」という疑問を持って調べた論文がある(NDT 2012 27 952)。例えばICUで患者さんは24時間ずっとCRRTにつながれているわけではなく、フィルターが血栓で詰まったとか、やれCTだ手術だと病棟を離れる間などの場合にはCRRTから外れている。またpre-filter replacementによるhemofiltrationでは、血液が希釈されて老廃物の濃度が下がり、それによる除去効率が下がる。
 それで調べてみると、35ml/kg/hrと思っていた場合にも実際は(故障、患者さんがICUにいないなどの理由で)28ml/kg/hr程度、pre-filter replacementによる希釈分も考慮すると25ml/kg/hr程度、そして計算によって求めた実際のclearanceは21-23ml/kg/hr程度であった。といっても20ml/kg/hrと思ってオーダーした患者さんに比べると有意に高いclearanceであったから、いままでの大規模スタディの結果を覆すものではないが。

2012/04/26

Detective Nephron

 ASN(米国腎臓学会)月刊紙、ASN Kidney Newsで最近始まったコーナーが"Detective Nephron"だ。名探偵ネフロンが弟子のL. O. Henle(loop of Henleを文字っている)が持ってくる症例を鮮やかに解き明かす筋書きだ。ネフロンはオフィスでコーヒーを飲んでおり、ヘンレの話を"Ah! This is going to be exciting."とか"Fascinating!"とか言いながら聞く。

 ヘンレも腎臓内科の基本は知っているので一生懸命考え、ネフロンに"Good work, my apprentice(弟子)"とか言われるが、ネフロンの豊富な知識と経験によって症例の解答が明らかになる。最後の"Never underestimate the power of the nephrologist."というセリフがカッコいい。

 私はこんな風になりたいのである。次々ともってくる症例を聴いただけでたちまち解決してしまうような。そして、わたしはフェローシップが終わるまでにそうなるつもりでいたのだと、約20年スタッフをしている今のスタッフと一緒に働きながらふと気付いた。

 毎日よく観察し、よく考え、よく読み、自分の診断能力を高めていくのは素晴らしいことだ。このwebsiteの蓄積も私の財産となるだろう、こうして引き続き爪を研げ。だが1-2年で完成しようなどとは思わない方がいい。Art is long, life is short。探偵ネフロンを目指すなら、あせらないことも肝心だ。

ところ変われば

AIN(急性間質性腎炎)の治療といえばoffending agentを止めることと、ステロイドだ。うちの病院でも、ステロイドを信じるスタッフと信じないスタッフがいるが、信じるスタッフはたいていprednisoneを用いる。以前紹介したmini-study(Am J Med 65 756 1978)がprednisoneを用いている。AINはとても臨床でとてもよく遭遇するのでステロイドも当然議論になるが、今月のスタッフは別の論文を持ち出した(KI 2008 73 940)。
 これはスペインのretrospective studyで、質は低いが曲がりなりにもステロイド投与群で腎機能がより回復した(mean follow-up 18 months)ことを示した。さらにステロイド投与群のうち腎機能が完全に回復した群は完全には回復しなかった群に比べてステロイドの投与が早期であったことが分かった(drug withdrawalからmeanで13日 v. 34日)。
 興味深いのはこの論文ではほとんどの症例でステロイドにmethylprednisolone IV (250-500mg daily x 3-4 days)、そのうえでprednisone(1mg/kg/d、8-12週間で漸減)が用いられたことだ。別のヨーロッパの論文でも同様にmethylprednisolone IVが用いられている(NDT 2004 19 2778)。ヨーロッパではmethylprednisolone IVなのだろうか。はたして日本ではどうなのだろう。

基本原理

 私が症例について話す全てのことは、①病態生理的にかなっており、②エビデンスに裏打ちされているように努めている。最近は、③経験に裏打ちされている、も加えたいと思っているのと、①から③の全てが揃っても、患者さんに検査や治療を提案するにはもう一つ、④信じること、が必要なのかなと思う。

 anti-phospholipid syndrome(APS)の患者さんが重度の深部静脈塞栓症で入院し、さらに腎不全になった。Up/Ucr 1.6のタンパク尿もある。SLEではなく(抗核抗体の他に症状も所見もない)、腎動静脈に血栓はない。Thrombotic microangiopathyは否定できないが、血液検査上は溶血の所見がない。

 UpToDateを調べると、primary antiphospholipid syndromeは様々な糸球体腎炎をきたすことが分かっている。だがこの人はAPSの他にもpro-thromboticな病気を抱えているうえ、heparinでは物足りないとdirect thrombin inhibitorのargatrobanが持続静注されているので腎生検というoptionはない(出血と塞栓症のリスクが高すぎる)。

 日一日と腎機能は悪くなる。透析導入は時間の問題だ。病勢を変えることはできないものか。論文を調べて、血漿交換が有効かもしれないというのがでてきた(QJM 1988 68 795)。生理学的にはanti-phospholipid antibodiesを除くわけだから話は通っている。この論文、SLEではないprimary APSによる腎不全が対象なところは患者さんと共通だ。

 ただし全例が20-30代と若く、かつ分娩後の腎不全、そして腎生検でthrombotic microangiopathyが確認されている点は患者さんと関係ない。多くの例で血漿交換後に速やかに腎機能が回復しているのはencouragingだが、実際血漿交換をするには透析カテーテルを挿入せねばならず、抗凝固剤argatrobanを切ったり、絶対にミスできなかったりとリスクが高い。

 それでスタッフはanti-phospholipid syndromeの経験が豊富な別のスタッフに相談した。すると彼はcatastrophic anti-phospholipid syndrome(三つ以上の臓器が冒されている状態)でないと適応にならないだろうと言う。エビデンスはない、あくまで彼の経験だ。それでさしあたっては血漿交換を控えていたが、そうこうしているうちに別の2臓器が血栓・虚血によって冒されてしまった。

 それで血漿交換を始めることになった。上手くいけばいいと思う。①生理学的にかなっており、②エビデンスは乏しいが一応encouragingな論文があり、③経験に裏打ちされ、④信じている。これが私たちにできるベストだ。専門家になるとこういう難局に追いつめられるから、①から④の基本原理を持つのが大事になるだろう。

 たとえば、この患者さんは血漿交換の前にIVIGを投与された。これは私からすると①生理学的な正当性に乏しく、②エビデンスはなく、③経験もなく、④信じていたかは知らないが「他に手がないからする」という感じがした。これにより患者さんは低ナトリウム血症(IVIGはほぼelectrolyte-freeなので)、TRALI(IVIGでも報告されている)、塞栓症(副作用の一つだ)すべてを合併することになった。