治療して透析が離脱できる病気というのはそう多くないが、多発性骨髄腫によるcast nephropathyはその一つかもしれない。これは癌細胞による異常なタンパク質(monoclonal light chain)が大量に尿中に漏れ、内腔でT-Hタンパク質と結合してcastを作り尿細管が詰る病気だ。だから理論上は、異常なタンパク質がなくなれば詰りも改善するわけだ。
そのためには、タンパクを作られないようにする(化学療法)か、除去するかだ。後者では伝統的に血漿交換が行われてきたが、(化学療法をしながら)週三回の治療でタンパク質の25%しか除けない。Mayoクリニックがまとめた論文(KI 73 1282 2008)によれば、血漿交換の効果を比較した三つのRCTがあるが、いずれも患者数が少なくpower不足だ。
それに対して、現在あたらしくHCO-HD(high cut-off demodialysis)が欧州で行われている。HCO-HDは、分子量60,000まで除去する透析膜を用い、これによりタンパク質の約90%が除去できるという。何でもかんでも除去するのでアルブミンの補充と免疫グロブリンの補充を行うそうだが、血液凝固因子のレベルは変わらないらしい。
データとしても、多施設retrospectiveスタディ(NDT 2012 27 3823)で、多発性骨髄腫と共に発症した急性腎障害にHCO-HDを行った67例のうち、早期に透析した例と異常タンパク質の血中レベルを下げた例では透析依存を防ぐことができた。ただbiopsyがないので、どの例がcast nephropathy、light-chain deposition disease、高Ca血症などによるpre-renal azotemiaなのかは分からない。
欧州ではさらにRCTが二つ(EuLITEスタディ、MYREスタディ)進行中で、HCO-HDがcast nephropathyに対するメインの治療になるかもしれない。米国でも、ごく限られた例に使用を認めるorphan deviceとしてFDAが認可を検討しているし、前述のスタディ結果次第では、ひろく適用されるかもしれない。
透析もアルブミンもお金のかかる治療だが、透析依存を防げるとしたら、お金・QOLどちらの意味でも安い治療だろう(英国モデルのコスト分析はCurrent Medical Research & Opinion 2011 27 383)。ただし、原疾患の多発性骨髄腫がコントロールされればの話だが。