2011/09/25

CAKUT

 先日はgrand roundで小児腎の先生がCAKUT(congenital abnormality of kidney and urinary tract)の講義をしてくれた。同じ腎臓なのに扱っている病気が全く違うのに驚いた。治療も違う。CAKUTは小児ESRDの多くを占め、腎移植患者の約30%がCAKUTだ(The North American Pediatric Renal Trials and Collaborative Studies、NAPRTCSによる)。
 CAKUTは①"plasias(hypoplasia、dysplasiaなど形成の異常)"、②cysts、③agenesis/ectopy、④"plumbing(VUR、尿路閉塞など尿路の異常)"などが主な疾患だ。診断への手がかりは、出生前の超音波検査(羊水過少や腎低形成)、小児の高血圧、別の原因(たとえば外傷など)でCTを撮ったらたまたま見つかった、尿路感染症、低身長、長く続く夜尿症などだ。
 ①に関しては、腎低形成・異形成を単独で見られることは稀で、CHARGE症候群(coloboma、heart defects、atresia of nasal choanae、retardation、genital/urinary abnormalities、ear abnormalities/deafnessの略)など、遺伝疾患の一部として見られる。ちなみにCHARGE症候群はChromodomain-helicase-DNA-binding protein 7(CHD7)の異常と関係しているらしい。
 ②に関しては、なんといっても小児なのでARPKDがメインだ。PKHD1遺伝子の異常で無数のmicrocystsが出来て、腎臓が異常に大きくなり、それ自体が肺を押して呼吸不全を起こすほどだ。それに加えて羊水過少による肺低形成もおこる。他にもMCDK(multicystic dysplastic kidney)があって、これは両側性だとincompatible with lifeなので片側の例しかみない。病側の腎はinvolute(消退)して無くなってしまうこともある。
 ③については、先生がフェロー時代にNICU医から「出生前超音波で腎のagenesisと診断された児がおしっこしているんだけど、そんなことあるの?」というコールを受けたという笑える話を紹介された。つまり腎があるべき場所にないこともある(ectopy)ということだ。pancake kidney、pelvic kidney、horseshoe kidneyなど色んなところに腎臓ができることがある。
 ④については、今までVURしか知らなかったが、たとえば男児に見られるposterior urethral valvesなどは割と多いから覚えておかねば。診断をつけるのは簡単(VCUG)だが、まず疑わなければならない。治療はendoscopic urethral ablationだが、これは決壊寸前のダムに穴をあけるようなもので危険そうなので、まずはvesicostomyやpyelostomyで膀胱圧や尿管圧を逃がしてから行うことが多いようだ。他にもUPJO(uretero-pelvic junction obstruction)、UVJO(uretero-vesical junction obstruction)などの尿路閉塞がある。
 聴きながら、ほとんどが先天性疾患、生まれてくることすら大変で、生まれてから一日、一週間、一か月、一歳を迎えることすら難しい子供たち、そして大人になったら自分の手を離れて内科に行ってしまうという小児科の運命に思いをはせた。私も先月は尿路異常による腎疾患で移植を受けた大人の患者さんをたくさん診たので、少し身近に感じられた。

2011/09/22

AG nephrotoxicity

 今日のgrand roundは仲良しのフェローが発表したが、grand roundにふさわしい質の高さだった。コンサルトの時に私も一緒に診た症例を元に、Aminoglycoside(AG) nephrotoxicityについて、機序と対策について自信に満ちた声で適切な論文(たとえばKidney International 2001, 79, 33-45)を参照して説明していた。こういう、誰もが知っていることを深く取り上げるのが専門家に求められることだと思うし、その着眼点に脱帽だ。たとえ私が発表しなければならなかったとしても、この症例に着目してこのように発表することはできなかっただろう。
 AGによる腎障害の機序で最も有名なのは尿細管細胞の破壊による。AGの尿細管細胞への取りこみは、megalinとcubilinの複合体が主に関わっており、エンドサイトーシスによる。そのあとオルガネラ(lysosome、Goldi、ER)に運ばれ、phopholipidosisと呼ばれる膜破壊を起こす。これにはAGの強い陽性荷電(AGは名前の通りアミノ基がたくさんあって陽性なのだ)とphospholipase活性の阻害が関わっているとされる。AG濃度がオルガネラ内で高まると、オルガネラが破裂してAGが細胞質内に飛び散る。これがアポトーシスのスイッチを入れたり(cathepsin、caspace)、ミトコンドリア機能不全を起こしたり(PPAR-alpha, Bax)して細胞死に導く。さらにAGはNa/K-ATPaseをはじめ様々なcell membrane transportersを阻害する。
 尿細管の崩壊により尿細管内腔はjunkでいっぱいになり、tubular obstruction、backleak(間質への原尿の逆流)、Bowman嚢内圧の上昇(filtration pressureの低下)などによりGFR低下をきたす。でもこららはGFR低下の原因の一部にすぎないと彼女はいう。他にもAGはglomerular effects、vascular effectsなどにより腎障害をきたす。Glomerular effectsとは①mesangial contraction、②mesangial proliferation、③diffuse swelling of the filtration barrier with neutrophil infiltration(高濃度で)、④loss of filtration barrier(陽性電荷のAGが沈着して基底膜が陰性電荷を失うから)など。Vascular effectsとは腎細動脈の収縮(①T-G feedbackのactivation、②vasoconstrictorsの産生などにより)だ。
 これらの対策として(使わずに済むなら使わない、使うなら最小限の期間にする、などの頓智みたいなのは別にして)感染症科医が薦めるのがconsolidated regimenだ。これはAGがpeak concentrationに依存して効果を発揮し、腎障害はtrough levelがさがるほど起こりにくいという考えで行われる、一度に沢山投与(7mg/kg)して間隔を空ける方法だ。残念ながらanimal dataでしか有効性は確認されていないが、今のところはこれが推奨されている。他にもstatinが効くとかCa channel blockerが効くとか、endocytosisを阻害するblebbistatin(endocytosis-myosin 6 inhibitor)とか色々あるが、実験の域を出ていない。

2011/09/20

とても息の長い論証(下)

 さて、この実験が興味深いのは、PGC-1-alphaの二つの働きが想定されるからだ。ひとつは、AKI障害時に抑制されることで酸化的リン酸化のスイッチを切り、酸化ストレスを最小限にして細胞・ミトコンドリアがsepsisの嵐の中を生き延びられるようにしているという仮説だ。だから治療への応用でいえば、いくら回復に関係しているからと言ってsepsis真っ盛りの時期にPGC-1-alphaのスイッチを入れるのは得策ではない。
 もう一つは、PGC-1-alphaがAKIの回復に際しては発現がup-regulateされ酸化的リン酸化やミトコンドリアの若返りに関わる遺伝子群を一斉にオンにするということだ。ここでの質問は、いったい何がPGC-1-alphaをupregulateしているのかということだ。それが見つかれば、治療に応用できるかもしれない。
 この実験ではマウスにenxotoxinを注射し、注射後18時間後に10ml/kgの生理食塩水を注射することで42時間後にはAKIの回復が図られるというモデルを用いた。では、この生理食塩水が何かしているのか?でも生理食塩水なんて所詮は塩と水、できることはvolumeを増やすことだけだ。10ml/kgという量がマウスにとってどれくらいなのか分からないが、人間なら700-1000mlにすぎない。これっぽっちの塩水でsepsis AKIが回復するなら苦労はいらない。
 おそらく食塩水はみせかけで、42時間という時間が鍵なのだろう。このモデルはendotoxinを注射しているので、実際のsepsisとは違いendotoxemiaはほんの短時間にすぎない。だからendotoxinとそれによる一連のcytokine、炎症カスケードも時がたてば過ぎ去り、そこから回復期に入るというわけなのだろう。結局感染症を治さないとAKIも治らない。でもPGC-1-alphaのターゲットPPAR-alphaがsepsis AKIを予防するかもしれないという論文もある(KI 2009, 76, 1049)から、このあとどんなことが分かるか期待しよう。
 あたかも長い小説を読んだあとのような感じだ。最後の考察はファカルティーの前で発表しなければならなかったのだが、Toastmasters効果もあって皆をかなり好意的に印象付けることができた。元来私はJounal clubが苦手であるのにも関わらずだ。Toastmasters clubには最近行けていないが、前の街で学び経験したことが知となり肉となっているのを感じることは喜びだ。10個のスピーチを終え手にしたCC(competent comunicator)というタイトルは伊達じゃない。またToastmastersに自信を持った。

とても息の長い論証(中)

 このあと作者はどの遺伝子がいったい上流にあって鍵を握るのだろうと考えた。遺伝子群といってもまだ数百もあるのだ。ここで、どういうわけかPGC-1-alphaに注目して、他の遺伝子との相関が最も強いことを示した。そのあとin situ hybridizationによって、腎臓においてPGC-1-alphaがoxydative phosphorylationの行われている場所にoverlapして発現されていることを示した。
 ここまでで、①septic AKIでは腎の酸素消費が落ちること、②septic AKIではミコトンドリア機能不全が起こること、②PGC-1-alphaが酸化的リン酸化に関わる遺伝子群をシャットオフすることが分かった。次に彼らが確かめようとしたのは①と③の間を直接つなげて示すこと、すなわち「septic AKIでPGC-1-alphaの低下が腎の酸素消費を低下させること」だった。
 興味深いのは、彼らがその相関を逆に「PGC-1-alpha活性が上がると酸素消費量が増える」ことで示したことだ。ここから話はAKIの障害から、AKIの回復に移る。彼らはhuman proximal tubular cellにTNF-alphaを与えるモデルを用いた。まずTNF-alphaが細胞の酸素消費をtime- and dose-dependentに低下させることを示し、次にadenovirusでmurine PGC-1-alphaを導入した細胞では、TNFによって低下した酸素消費が回復することを示した。
 さらに「PGC-1-alphaがAKIの回復に必要」という仮説を立てて、例によって逆に「PGC-1-alphaがないとAKIの回復が遅れる」ということを示そうとした。ここでは腎尿細管細胞のみで転写される遺伝子Sglt-2-Cre miceとfloxed PGC-1-alpha mice交配させて作った(この技術も私の頭を越えているが)proximal tubule-specific knock-out modelを用いた。ここまで大量の実験データでもうおなかがいっぱいだが、このあと(私の)考察。続く。

とても息の長い論証(上)

 今日のJournal clubは、pure basic scienceの論文だった(J Clin Invest 2011, doi:10.1172 / JCI58662)。sepsis AKIモデルを使って、順を追った息の長い論理的思考で実験を重ねた大作だ。まずsepsis AKIモデルマウスでendotoxin injection後にrenal blood flowが著しく低下するにも関わらず酸素消費量が減らないことを示した。血流量はmicro ultrasoundで、酸素消費量はBOLD MRIとHIF-1の活性で調べた。
 そのあと、作者は酸素消費が低下するのはミトコンドリア機能低下によるのだろうと考えた。ここまでは、『ICU BOOK』のMoreno先生も書いている"cytopathic dysoxia"というやつだ。そこで、電子顕微鏡で尿細管細胞を観察しミトコンドリアは腫れあがり大量のvacuoleで満たされていることを示し、また病理標本でcytochrome c oxydaseのin situ activityが低下していることを示した。
 そのあと作者は、ミトコンドリア機能不全を起こす一連の遺伝子レベルの出来事をorchestrateしているのは一体なんだろうと考えた。そこで何千という遺伝子のexpression profileを分析し、そこからself-organizing mappingという手法を使い「endotoxinによる障害で発現が抑制され、AKIの回復時には発現が復元する」ような遺伝子群を抽出した。
 これらの遺伝子群がいったいどんなことに関わっているのかを調べるため、canonic pathway enrichmentを行った。これはもはや私の理解を越えたポストゲノム時代のブラックボックスだが、Ingenuity Pathway Analysis toolなる分析ソフトウェアに遺伝子たちの情報を放り込むと、それがどんな機能にどう関係しているかを明らかにしてくれるのだ。その結果、驚くべきこともないが前述の遺伝子群はoxidative phosphorylationやmitochondrial dysfunctionに関係していることが分かった。まだここまでで半分、くどい位息の長い論証と実験を重ねていくので続きはまた。

2011/09/19

renocide

 急性腎不全でコンサルトが来た頃にはダメージはすでに致命的で腎臓の回復は望めないことがとても多い。まあ要するに、「腎臓がダメになっちゃったので後はよろしく(透析しろや)」と言うわけだ。腎臓内科にいることでselection biasが掛かり、NSAIDs、造影剤、抗生剤、低血圧、さまざまな理由で次々といとも簡単に腎臓がダメになってしまうのを目の当たりにすると悲しくそして虚しくなる。そこで思いついた言葉は、"genocide"から派生した"renocide"。renoは腎臓、cideはkillingということ。
 "The damage is done"、"Kidneys are done"と言うことに未だに抵抗感を感じる。「他の科が何を言おうが関係ない、腎臓内科には彼らに分からないものが分かるんだから、全知を賭けて何としても腎臓を守らなきゃ…!」という使命感があるからだ。これがもう少し経験すると「治るものは治る、治らないものはどうにもできない」という区別が付くようになるだろう。治るものは治し(その道筋を他科の先生方にしっかりつけてあげる)、治らないなら透析までの時間を遅らせたり長生きできるようにしてあげる方法を考える。これは墨守あるいは墨攻に近い。

2011/09/16

Zr

 こないだ透析の原理に関するレクチャがあって、教えてくれたのは元々(医師になる前に)メカニクスを専門にしていた物理学者みたいな人でかなり専門的な話だった。数式がたくさん出てきてその手の成書でも読まない限り理解できそうになかったが、有意義だった。

 たとえばconvectionとdiffusionの違いがよりはっきり分かった。日本語では「限外濾過」と「拡散」というふうに説明するので"convection"という言葉をきくたび戸惑っていたのだ。辞書では「対流」と訳されているが、要は風が吹けばホコリも一緒に運ばれ、波が押し寄せれば水と一緒に砂や魚も運ばれるということだ。このように溶質が水と一緒に運ばれることを"solvent drag"という。

 またsorbent dialysisというのもより分かった。これは吸着剤により透析液を再利用しようということだ。活性炭、urease、zirconium phosphate、zirconium oxyde/carbonateの層からなるカートリッジを通過する間に透析液中の汚物が吸着されbicarb、sodium、acetateなど必要な成分が加わる。ジルコニウム(Zr)なんてオシャレだ。

 現在は汎用されていない技術だが、じつは透析液のpurificationとしては簡便な上に効率もよい。災害時など役に立つかもしれないし、セシウムも吸着できるらしいから体内から除染するのに役立つかもしれない。持続的に少量の透析液をポンプでまわし再生し続け、同じポンプで血液を少しずつカテーテルから引いて24時間透析する、wearable dialysis machineの研究も行われている。

RAVE

 同じ薬でも、科によって違う病気に用いられて、その薬がもつイメージが違う。たとえばrituximabはその良い例だ。hematology/oncologyにいた頃は、なんとなくCHOPのオマケ(R-CHOP)のように軽く使っていた。もちろんSIRS様の副作用を起こした例も経験したのでbenignな薬でないことは知っているが、他のheavyな化学療法に比べると軽い感じがした。リウマチ内科にいた頃は、使う機会こそなかったが、いろんな病気に用いられ始めておりimmunomodulatorsの一つくらいに感じられた。
 それが、腎臓内科に来たらみんなのこの薬に対する見方がチョット違うのに気づいた。こないだ「ANCA-associated vasculitisにrituximabとcyclophosphamideとどちらがいいか?」という問いに対する二つの論文(NEJM 2010, 363, 211とNEJM 2010, 363, 221)がgrand roundで紹介された。前者はANCA-associated renal vasculitisを対象にしたもので、12か月の時点で両者にremission、severe adverse effectの率に差がなかった(not superior)。
 後者(RAVE study)はANCA-associated vasculitis(Wegener or microscopic polyangiitis)を対象にしたもので、6か月の時点でrituximab群のほうがprimary endpoint(BVAS/WGスコア)に達する割合が高く(non-inferiorityを満たし)、再発患者のremissionについてはcyclophosphamideより優れていた。severe adverse effectの率には差がなかった。
 先生方は、ritaximabには否定的な意見であった。たしかに後者の論文は明らかにフォロー期間が短くこれだけでは何も言えない。前者もnot superiorならあえて高額なrituximabを選択することはないということになる。fertilityが問題になる場合は別だが、ANCA-associated vasculitisはSLEと違いたいてい50代から発症するのであまり問題にならない。私は「どっちも一緒に使ってみたらどうかな?」と思ったが。

インスリンの作用

 前回のJournal clubは、CJASNのインスリンがカリウムを細胞内にシフトさせるのにグルコースが必要か?という面白いテーマについての研究論文だった(CJASN, 2011, 6, 1533)。研究のデザインと結果じたいにはあまり説得力がなかったが、話としては勉強になった。
 まずカリウムについての基本的な知識を学んだ。体内のカリウムは90%が細胞内に存在するが、そのうちの70%は筋肉に存在する。カリウムが細胞外にシフトするのは、高血糖(高浸透圧により水と一緒にカリウムが出てくる)、アシドーシス、細胞自体が壊れる時(cell lysis)。カリウムを細胞内にシフトするのはインスリン、beta agonist。
 インスリンはもちろんグルコースを細胞内にシフトする働きもある。しかしこの働きはインスリン抵抗性がある患者さんでは落ちてしまう。そこで研究者が立てた質問は「糖尿病患者では、グルコースを細胞内にシフトしにくくなるだけでなく、カリウムも細胞内にシフトしにくくなるの?」というものだ。
 それで彼らは、糖尿病患者と健常な患者に一定速度でインスリンを流し、glucose uptake rateとpotassium uptake rateを調べた。glucose uptake rateはインスリン抵抗性の指標に(研究目的で)よく用いられるが、potassium uptake rateは、計算式があったが色々想定している条件が多そうで信憑性はよくわからない。
 ともかく結果は、両者の間でpotassium uptake rateは変わらなかった。このことから、インスリンが起こす細胞内シグナルのカスケードはグルコースのuptakeとカリウムのuptakeで別であり、インスリン抵抗性は前者にしか関係しないということが推察される。EditorialにAKT、aPKC、MEK1/2、など大学時代ならエキサイトしたであろう様々なシグナル分子を載せた図があった。

LVAD

 LVAD(left ventricle assist device)についてのレクチャがあった。というのもLVAD(やその他のcirculatory support)は心移植までのつなぎとしての治療(bridge to transplant, BTT)として用いられてきたが、いまではdestination therapy、つまりLVADと一緒にどこまでも行こうという治療に代わって来たからだ。
 2001年にLVADと内科的治療を比較した論文が出て(NEJM 2001 345 1435)、LVAD群は1年生存率に優れていた(50%)が2年生存率には差がなかった。それでLVADは「LVADで余命一年あげます、それまでに移植するか回復するかしましょう」という治療に用いられてきた。
 その後、2007年の論文(NEJM 2007 357 9)では改良されたLVAD(Heart Mate II, HMII)が1年生存率を70%まで向上させることが示された。2009年、旧式LVAD(XVE)とのhead-to-head trialでHMIIの優位性が示され、ここで初めてFDAがLVAD(HMII)をdestination therapyとして認可した。
 さてこのHMIIであるが、ローターが約9000rpmで常時回転して左室から動脈まで血液を送る仕組みだ。流量は主に後負荷で規定さるので、左室圧と大動脈圧の差が大きい収縮期により血液が流れる。大動脈圧によっても異なるが3-10L/min程度の流量を出力することができる。
 この機械は心臓に埋め込まれているが、drivelineというコードで体外のmonitorに接続され、monitorはさらに電源あるいは二つの体外バッテリーに接続される。二つ合わせたバッテリーの持続時間は約8時間で、患者さんは自由に動くことができQOLが上がる。心移植患者よりLVAD患者のほうがQOLが高いという論文も出た(JACC 2010 55 1826)。
 さて、LVAD患者が透析をするとどうなるのか。こないだ一件その経験をした。最初はCVVHDF、そのあとHDをした。結果は良好で、透析中も血行動態はよく保たれた。おそらくそれは、透析中の血圧低下を代償するようにLVADからの流量が増えるからだろうと推測する。また透析で除水するとはいえ前負荷が減りLVAD流量が下がるほどではないということだろう。これからこういう患者さんを診る機会が増えるかもしれない。

APS

 抗リン脂質抗体症候群(antiphospholipid syndrome, APS)という病名はとても有名だし、日本でもアメリカでも国家試験に頻出だ。しかし実際の臨床であまり目にすることがないせいか、卒業して七年たってもいまだに表面的な知識と理解で終わっていることに気付いた。いま一緒に働いている指導医の先生はイギリスでリウマチ内科医をしていただけあって、腎臓病でないこういう病気のことでも、さりげなくどっさり教えてくれる。
 たとえばリン脂質抗体には三種類あってそれぞれ①anticardiolipine IgG & IgM、②anti-beta 2 glycoprotein 1、③lupus anticoagulant。①では、IgMよりもIgGのほうが血栓塞栓のリスクに相関している。③はPTTが上昇するのと、Russel viper venomで検査する。
 APSの症状といえば血栓症や流産が有名だが、livedo reticularis(網状皮斑)も重要なサインだ。網状皮斑といえばcholesterol emboliと1:1に決めつけていたのが恥ずかしい。他に網状皮斑を起こす主な病気には、polyarteritis nodosaやSnudden症候群(網状皮斑とCNS vasculitis)がある。またごく稀に、APSは両側の副腎静脈塞栓症を起こしてショックになることがある。

2011/09/10

RTAふたたび

 回診で、例の教え上手な先生が尿細管性アシドーシス(RTA)、遠位RTAと近位RTAのことを説明した。しかしRTAは難解なので、さすがの先生でも「なぜそうなるのか」をすべて明らかにして解説するのは大変げだったが。彼の説明を復習して、自分で教えるときのための糧にしよう。

 彼はまず、アメリカの一般的な食事では酸を1mEq/kg/dayくらい摂取するというところから始めた(主なsourceは肉)。身体が酸性にならないように、腎臓ではH+を遠位尿細管の介在細胞から捨てている。遠位尿細管でNa+が再吸収されることによるnegative driving forceが、代わりにK+とH+を捨てさせる仕組みだ。

 それに対してHCO3-は、腎臓でほとんど捨てられることはなく、近位尿細管で90-95%、わずかな残りを遠位尿細管で再吸収している。腎臓がHCO3-を捨てるのは、体内にHCO3-が充満している時([HCO3-]が24以上の時)で、この時には尿pHがアルカリ性になる。しかしこれは例外的で、尿pHがアルカリ性になるのは他に、urea-splitting organism(proteus, saprophyticus, some E. coli)、それにRTAくらいしかない。ただし近位RTAでは血中から運ばれてくるHCO3-の量によって尿pHは変わる。アシドーシスが進むと[HCO3-]が下がるので少ししか尿中にHCO3-が来ず、それらの幾分かは遠位尿細管で再吸収されるので尿pHは下がる。

 尿中に捨てられたH+は、そのままでいることはなくNH3バッファーと結合してほとんどNH4+になる。だから遠位尿細管で酸排泄が出来ているかどうかは、尿中NH4+を調べれば分かる。おなじnon-AG metabolic acidosisでも、酸排泄が出来ない場合には尿NH4+は低下するし、腎外でHCO3-を喪失している場合には腎は代償的に酸を排泄しているはずだ。

 しかし尿NH4+は簡単には計測できないので、代わりに尿anion gap(UNa+UK-UCl)を用いる。これはanion gapというが要は尿中のunmeasured anion - unmeasured cationを計算している。尿HCO3-がないのは、前述のようにHCO3-はほとんど再吸収され尿中には無視できるほどしか残らないからだ。NH4+はcationだから、これが多ければ尿anion gapはマイナスとなり、少なければプラスとなる。ちなみにHCO3-はanionだから、これが多くてもプラスになる。と言うわけで全てのRTAで尿RTAはプラスになるはずだ。

 ただし尿anion gapが使えない場合が二つある。ひとつは尿Naが低値(less than 20mEq/l)の場合で、distal sodium deliveryがないのでnegative driving forceが起こらずH+も排泄できない。二つ目はunmeasured acidがある場合で、たとえばhippuric acid(トルエン中毒)やketoacidosisなどではこれらがunmeasured anionなので尿anion gapが使えない。この時には尿osmolar gapによって尿NH4+を推定する。

 近位RTAでは尿管結石が見られないのに対して遠位RTAではみられる理由も習った。RTAに限らず、アシドーシスがあると近位尿細管でのanion再吸収が亢進し、bicarbonateのみならずcitrateも再吸収される。尿中のcitrateは尿中Ca++が石を作らない様にbufferしているので、これがなくなると石ができやすくなる。ところが近位RTAではcitrateの再吸収が起きないため石ができない。

 遠位RTAでも前述の理由(citrateが再吸収される)により石が出来やすいが、普通の石(calcium oxalate)ではなくcalcium phosphate stoneができる。それは尿pHがアルカリ性になるからだ。calcium phosphate stoneができるのは他に、hyperparathyroiismなどがある。PTHはphosphateをどんどん尿に捨てるホルモンだし、骨からCa++を遊離させて血中からどんどん尿にCa++を運んでくるし、Vitamin Dを25-OHから1,25-OHにして腸管からのCaとPの吸収を促進するからだ。

 他にも、なぜ近位RTAはbicarbonateに不応で遠位RTAはbicarbonateに反応するかとか、いろいろ習ったがこれくらいにしておこう。RTAは深淵なテーマなのでこれからも何度もrevisitすることになりそうだ。いろいろ読んでいろいろ聞いて、自分なりの説明ができるようになれば良いと思う。そして、経験を積んで自信を持って教えたり診療したりできるようになりたい。

2011/09/09

crud

 腎臓内科外来では、physician assistantが患者さんの尿検体をスピンして鏡検できるように用意してくれている。だから患者さんを診察した後、その一角にいってすぐさま尿沈渣を見ることができる。今日も色んなものが見えたが、良くわからないものが見えることもある。今日はよくわからない塊が見えて、指導医の先生に聞くと"this is a clumped crud"と言っていた。学問的にはdebrisとでも言おうが、要するにカスというかゴミというか、あまり意味はない。辞書を引くと"a deposit or incrustation of filth, grease, or refuse"、"something disgusting"とある。

リチウム中毒

 リチウム中毒の患者さんを初めて診療して、リチウムについて勉強した。リチウムは双極性障害に用いられる薬だが、副作用も多い。使いはじめた初期には約30%の患者さんにnephrogenic DIをおこす。リチウムは遠位尿細管のprincipal cellにENaC(ナトリウムチャネル)を通じてナトリウムに紛れて入りこみ、Glycogen synthese kinase-3 betaの障害などにより尿細管細胞をADH不応にする。リチウムはナトリウムよりも数倍ENaCへの親和性が高いのだ。初期であればamilorideでENaCをブロックすることでリチウムの尿細管細胞への流入を防ぐことができる。

 他にも、副甲状腺機能亢進症による高カルシウム血症(機序は不明)、慢性間質性腎炎なども起こす。またリチウムはunmeasured cationなので、リチウム中毒の患者ではanion gap(= unmeasured anion - unmeasured cation)が低下する。anion gapが低下するのは他に、hypoalbuminemia、paraproteinemia(paraproteinはプラス電荷なのだ)、hypermagnesemiaなどがある。

 リチウムはvolume of distributionはそこまで大きくない(0.6-0.9L/kg)ので透析には適しているが、長期間リチウムを服用していれば身体中にリチウムがいっぱいだ。だから、いくら透析して血中・細胞外液からリチウムを除いても除き切れるものではない。今度の例でも、透析前に4mEq/lだった血中濃度は、透析を開始して2時間後に1.1になったが、透析をやめて数時間後には1.7にもどった。

 リチウムはほとんどが腎で排泄される。NSAIDs、ACEIなどGFRを下げる薬を飲んでいると、排泄が不十分になり血中濃度があがる。脱水や利尿剤(体液量が減ってしまう)などもリスク因子だ。リチウム中毒では消化管症状(嘔吐や下痢)が起こるので、これが脱水をきたし悪循環になる。だから十分に輔液して腎からのリチウム排泄を促す必要がある。

 リチウム中毒による神経症状は、透析などの手段でリチウム濃度を下げることによって回復するか。回復する場合が多いが、SILENT(the syndrome of irreversible lithium-effectuated neurotoxicity)という症候群もあって小脳症状、錐体外路症状などが残ることもある。そんなわけでリチウムは厄介な薬だが、mood stabilizerとしてvalproic acidなどと並びいまだに良く使われているので、中毒の治療には慣れておかなければならない。

[2013年3月追加]リチウムによる腎障害に特徴的な画像所見として、punctate echogenecityやmicrocystic calcificationが提案されている(J Ultrasound Med 2012 31 637)。GSK3β障害がAQP2をdownregulateする機序の一つにCOX2-PGE2経路のupregulationが示唆されている(Am J Physiol Cell Physiol 2012 302 C131)。

2011/09/07

虚血に弱い

 尿細管にも虚血に強い場所と弱い場所がある。腎臓における場所としては、outer medullaが虚血に弱い。ここは血行が届きにくい場所だからだ。ネフロンにおける場所としては、近位尿細管が虚血に一番弱く、遠位尿細管は虚血に比較的強い。だからFENAとFEUREAで、前者が低く後者が高いような場合には、近位尿細管の障害を疑う。

 というのも、Naは近位だけでなく遠位尿細管でも再吸収されるから、たとえ近位尿細管が障害されてもまだ再吸収できるからだ。なぜ近位尿細管のほうが虚血に弱いのかは、よく知らない。たぶん、近位尿細管は浸透圧勾配を維持したり様々な溶質を大量に再吸収するためにたくさんATPをつかっているので、その分虚血に弱いのだろうと推察する。

normotensive ischemic acute renal failure

 今度の先生は、気軽に良質の論文を紹介して臨床に応用するのが得意だ。こないだもNEJMのnormotensive ischemic acute renal failureについてのレビューを紹介してくれた(NEJM 2007, 357, 797-805)。これは「血圧が高い患者さんは、収縮期血圧が100-115mmHgに下がっただけでも腎が虚血になる」とか「急性腎不全がearly sepsisの兆候なこともあるから感染を見逃すな」とか賢明な知恵が書いてあるのみならず、分子や細胞レベルで急性尿細管障害を説明しており読んでいて「今見ている患者さんにはそんなことが起こっていたのか!」と勉強になった。
 たとえば、急性腎障害でcastをみるのは、尿細管障害によるNa再吸収障害(尿細管内のNa濃度上昇)がTamm-Horsfallタンパクの重合化を起こしこのタンパクがジェル状になるからだ、とか。腎虚血によるATP不足がbrush borderを喪失させたりNa-K ATPaseや細胞間基質を逆向きにしたりしてしまう(血管側にあるべきものを内腔側にしてしまう)とか。論文の図3では、虚血に伴う尿細管障害の一連のメカニズムが美しく描かれ目からうろこだった。ATNといっても、実際には単に尿細管が壊死を起こすだけではない。もっと多様な病態生理がそこにある。

2011/09/04

Free water clearance

 高ナトリウム血症の患者さんでは、体内にfree water deficitがあるのはもちろんのこと、尿や不感蒸泄により体内からfree waterを喪失している。不感蒸泄は「不感」という位だからどんぶり勘定でしか測れないが、尿中のfree waterはfree water clearanceという計算式で算定することができる。

 腎臓がピュアに血漿浸透圧と同じ尿(等調尿)を排出している時には、尿中に自由水は存在しない。希釈尿を排出しているときは、尿中の全ての溶質を等調尿で排出したらどれだけになるかという尿量(※)と、残りの自由水という風に分けて考えることができる。

 まず※について考えよう。尿中の全ての溶質は、尿量×尿中浸透圧濃度で求めることができる。これを等調尿で排出した場合の尿量は、尿量×尿中浸透圧濃度/血中浸透圧で求められる。これは実はV×Uosm/Posm、クリアランスの式に他ならない。実際こうして求めた※のことをosmolal clearance(Cosm)という。

 これをあてはめると、自由水は、尿量-(マイナス)Cosmとなる。これは自由水クリアランスというが、この名前は私には紛らわしい。この時のクリアランスは「一日にどれだけの自由水が体内から排泄されたか」という意味であり「物質Xが単位時間にどれだけの血液から除かれたか」という定義とは違う気がする。なお実際の計算には、尿中浸透圧を構成する電解質成分だけを考える(尿素や糖は考えない)ので、Uosm は尿Na+尿K、Posmは血中Na×2を当てはめる。

天の恵み

 尿細管の輸入細動脈(afferent arteriole、"A for arrival")と輸出細動脈(efferent arteriole, "E for exit")がGFRを保つために天から授かったのがautoregulationだ。腎血流が低下しても、輸入再動脈を拡張してできるだけ血液を受けられるようにし、かつ輸出細動脈を収縮して少ない血液量でも原尿濾過が起こるような仕組みだ。輸入細動脈を拡張するのはprostaglandin、輸出細動脈を収縮するのはAT(angiotensin)2。乾燥した陸上でも生物が生き延びられるよう発達したと私は考えている。

 天の恵みに感謝するのもよいが、現実生活にはこの働きを障害する事ばかりあって患者さんは腎機能を落とす。NSAIDs(イブプロフェンのような鎮痛剤)はプロシタグランジンの阻害薬だし、高カルシウム血症、Tacrolimus、血管造影剤はどれも輸入細動脈を収縮させ腎障害をおこす。もともと腎血流が少ない患者さんほどこれらの状況で腎障害がおこりやすい。それで、たとえば血管造影剤による腎症を防ぐのに生理食塩水の輔液が用いられる。

 

ミニ講義シリーズ

 今月からコンサルトで、教育熱心で有名な先生と一緒に働いているので再び習得曲線が急峻になった。今回は、知識もさることながら、いかに分かりやすく説明するかというのが勉強になっている。この先生が回診中にレジデントや学生に説明するのを聴くと、分かりやすさにおもわず感心してしまう。

 たとえば、高カリウム血症を診たときにも、「これはAだ、これはBだ、とあてずっぽうなアプローチではいけないよ」と、系統的な説明を始める。まず溶血、つぎに細胞内外のシフトの話をして、それから腎臓でのカリウム排泄の話になる。

 そこには大きく①GFRの低下、②遠位尿細管へのNa delivery、それに③遠位尿細管でのK排泄があるという。①は腎不全、②は心不全や体液量低下、さらに③についてレニン→アンジオテンシン→アルドステロン→アルドステロン受容体→遠位尿細管principal cells→ENaC(尿細管内腔側のNaチャネル)の働きを順を追って説明する。

 そのうえで、レニンが低下するのは糖尿病性腎症(RTA4、糖尿病性神経障害によりレニン産生に必要なsympathetic toneがでない)、アンジオテンシンの働きを抑えるのはACEI/ARB、アルドステロンの産生を抑えるのはheparinやketokonazole、アルドステロン受容体に拮抗するのはspironolactoneやelprenolone、尿細管細胞自体が障害されるのはinterstitial nephritis、そしてENaCを阻害するのはamiloride、triamterene、trimetoprim、それにpentamidineと説明する。

 こんな風に流れるように、しかも各パートごと噛んで含めるように説明するので学生もレジデントもなるほどと感心して聴いている。先生は回診で高カリウム血症に出会うたびにこの説明をするので、非常に慣れている。高カリウム血症に限らず、低ナトリウム血症でも透析の原理でも、このような分かりやすいミニ講義シリーズがのレパートリーがたくさんある。

 私もそういう型を身につけてペラペラ教えられるようになりたいと思っているので、この先生について盗めるだけ盗もう。

recover

 頻出の英単語で意味を知っていると思っていても、使われる文脈を間違えていることがある。たとえばrecoveryと言う言葉だ。こないだ移植腎の機能が悪くなり透析にもどった患者さんを見た。こういうとき、免疫抑制剤は不要になるので一つ一つ減らしていく。このとき、たいていはTacrolimusを先に減らす。それはTacrolimusがafferent arterioleを収縮させることでGFRを下げるので、これを止めれば患者さんにいくらかのGFRを戻すことができるかもしれないからだ。

 さて、それを学んで私はこの患者さんのカルテに「Tacrolimusを止めよう、それは止めることで患者さんの腎機能が回復するかもしれないからだ」と書いた。すると指導医の先生が「TacrolimusによるGFRの低下は病気ではなく、純粋に血行動態の問題なので、薬をやめてGFRが上がるのはrecoverとは言わない」という。またこの話を看護師さんにした時も、「あなたは患者さんの腎機能が戻って来ると思っているの?」といぶかしがられた。

 違いがよくわからないので辞書を引いてみると、recoverとは"to bring up to a normal position or condition"とある。看護師さんの発言は、この辞書の定義で説明できそうだ。recoverというと腎機能が元に戻り透析がいらなくなるという風に聞こえるのだろう。指導医の先生が言いたかったのは、recoverというのは何らかのダメージから回復するということで、たとえば薬剤性腎障害が薬剤をやめて良くなるような場合に使うと言いたかったのだろう。