JSN/ASN joint science symposiumに参加してきた。まずKlothoについて黒尾先生が、つぎにFGF23についてDr. Myles S. Wolfがお話した。黒尾先生のお話では、Klotho欠損マウスが短命なのはgenotoxic stressのためではなくCPP(calciprotein particle)による炎症によるものだというお話が興味深かった。CPPとは、1nm以下のリン酸カルシウム塩の最小単位であるPosner's cluster;分子式Ca9(PO4)6がFetuin-Aと凝集してできた径100nm程度のかたまりで、血漿ではコロイドとして存在しているそうだ。あたかも水に溶けない脂肪がapoproteinと一緒になってlipoproteinとして存在しているように。
CPPは内皮細胞にひっついてTLR、MCP-1(好中球のchemotactic agent)などを介してサイトカイン、炎症、動脈硬化などをきたす。ふつうはFGF23のco-receptorとしての膜型Klothoがあって、リン摂取時には骨からリン排泄亢進ホルモンであるFGF23が産生されて尿中にリンが排泄されてリンの恒常性が保たれるはずであるが、Klotho欠損マウスはその機構がはたらかないので高リン血症になる。しかしKlotho欠損因子にリン制限をかけるとリン値はあがらずCPPも減って寿命は延びる。さらに、Klothoには二種類あってもうひとつは可溶性Klothoだが、これが減ると線維化、Wntシグナリング経路の活性化、IGF-1シグナリング経路の活性化などがおこる(Science 2007 317 803、Am J Physiol Renal Physiol 2012 301 F1641←ああ、この雑誌の論文に触れるのひさしぶりだな…フェロー時代は読んでたけどな…)。
じゃあ翻って、CKD患者さんではKlothoが減少するわけだが、マウスのようにリン制限をかけていればいいのかというと、話はそう単純ではない。というのはKlothoの減少の前から後かは不明だがとにかくCKDの進行とともに患者さんの身体の中ではFGF23値が指数的に増えていくからだ。これはリン排泄を一生懸命するための代償的な反応と考えることもできるが、残念ながら心筋肥大を起こし心血管系死を招くことは良く知られた事実だ(JCI 2011 121 4393←これは、私が米国腎臓内科フェローになって初めてJournal Clubで発表した論文なので感慨深いものがある…当時の様子もちゃんと書いてある)。
あのあと抗FGF23モノクローナル抗体を試したがうまくいかなかったと風の便りに聞いていたが、今回その論文が紹介され(JCI 2012 122 2543)、この抗体で5/6腎摘ラットのFGF23をブロックすると、LVHは改善させるが著明な高リン血症と劇しい血管石灰化を起こしたそうだ。というわけでFGF23はFGF-2などと同様LVHを起こす意味で有害なホルモンだが、リン排泄とCPPコロイドの減少と言う意味で保護的なホルモンだ(というかホルモンなんて皆そうだ;出過ぎも出なさ過ぎもよくない)。しかしFGF23がLVHを起こす細胞内シグナリングがcalcineurinというのは興味深い;calcineurin inhibitorが効くかもしれないからだ(そういう質問がフロアからでていた)。
クマさんがおしっこしないで冬眠できるのも、じん臓が一日に体液の何十倍もろ過してから不要なものを残して再吸収するのも、じん臓の替わりをしてくれる治療があるのも、すごいことです。でも一番のキセキは、こうして腎臓内科をつうじてみなさまとお会いできたこと。その感謝の気持ちをもって、日々の学びを共有できればと思います。投稿・追記など、Xアカウント(@Kiseki_jinzo)でもアナウンスしています。
2015/06/06
2012/10/19
Klotho
F1000というwebsiteがある。医学生物学分野で、その道のエキスパートが、読む価値ある論文についてレビューし評価するpeer-reviewだ。本社はロンドンにある。彼らが星の数ほどある論文のなかから注目すべきものをピックアップしてくれ、さらに内容とそのimplicationを短く要約してくれるので、自分ひとりでkeep upしなくてもよいというわけだ。
エキスパートは主に米国、英国、欧州、アジアなどから選ばれているが、うちの腎臓内科にも二人のfaculty memberとひとりassociate faculty memberがいる。それで、そのひとりの先生が九月に「論文(JASN 2012 23 1641)をレビューするので手伝ってみないか?」と声をかけてくれ、その執筆・編集作業がやっと終わった。
これは単なる論文の要約ではなく、この論文が現行の理解においてどの位置にあり、どのような新しい発見があり、どのような今後の研究方向性を示唆するかを、エキスパートの目で評価するものだ。だから、その分野について勉強する必要があり、レビューや研究論文を(ひとつはCurr Opin Nephrol Hypertens 2012 21 362)をいくつか読んだ。
論文はKlothoについて。Klothoは当時日本の神経研究所におられた(現在はUT Southwestern)黒尾誠先生が抗老化と抗動脈石灰化の遺伝子として発表(Nature 1997 390 45)。主に腎遠位尿細管で産生され、腎ではFGF23と一緒に近位尿細管のリン再吸収トランスポータ(NPT2a、2c)を制御してリン利尿をおこす。その仕組みは完全には証明されていないが、Klothoの細胞外部分が切り取られて流れ、近位尿細管に届くとして矛盾しない。
Klothoを初めて知った時は「腎臓ってerythropoietin、1,25-OH vitamin D、reninとかいろいろ分泌するけど、老化にも関与しているなんてすごい!」と思った。しかしこの論文では、腎(遠位尿細管)のKlothoを選択的にブロックしてもマウスは異常な老化をしなかった。ブロック具合が不十分だったためか、身体の他の部分からでるKlothoが抗老化作用を補っているためかは分からない。
エキスパートは主に米国、英国、欧州、アジアなどから選ばれているが、うちの腎臓内科にも二人のfaculty memberとひとりassociate faculty memberがいる。それで、そのひとりの先生が九月に「論文(JASN 2012 23 1641)をレビューするので手伝ってみないか?」と声をかけてくれ、その執筆・編集作業がやっと終わった。
これは単なる論文の要約ではなく、この論文が現行の理解においてどの位置にあり、どのような新しい発見があり、どのような今後の研究方向性を示唆するかを、エキスパートの目で評価するものだ。だから、その分野について勉強する必要があり、レビューや研究論文を(ひとつはCurr Opin Nephrol Hypertens 2012 21 362)をいくつか読んだ。
論文はKlothoについて。Klothoは当時日本の神経研究所におられた(現在はUT Southwestern)黒尾誠先生が抗老化と抗動脈石灰化の遺伝子として発表(Nature 1997 390 45)。主に腎遠位尿細管で産生され、腎ではFGF23と一緒に近位尿細管のリン再吸収トランスポータ(NPT2a、2c)を制御してリン利尿をおこす。その仕組みは完全には証明されていないが、Klothoの細胞外部分が切り取られて流れ、近位尿細管に届くとして矛盾しない。
Klothoを初めて知った時は「腎臓ってerythropoietin、1,25-OH vitamin D、reninとかいろいろ分泌するけど、老化にも関与しているなんてすごい!」と思った。しかしこの論文では、腎(遠位尿細管)のKlothoを選択的にブロックしてもマウスは異常な老化をしなかった。ブロック具合が不十分だったためか、身体の他の部分からでるKlothoが抗老化作用を補っているためかは分からない。
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