2015/05/31

透析患者さんの化学療法

 日本の透析患者さんにおいて悪性腫瘍は死因第三位(一位は心血管系、二位は感染症)で、透析患者さんは高齢なこともあり悪性腫瘍に罹りやすい(Jpn J Clin Oncol 2011 41 752)。透析患者さんに化学療法する時には、薬剤毒性と副作用による合併症のリスクと、抗腫瘍効果のベネフィットを慎重に検討しなければならない。どちらが予後を規定するか分からないからだ(performance statusが低い場合はリスクが高くなるだろう;ひとつには低アルブミン血症で薬剤が血中にfreeで多く存在するようになるからだが)。それでもやる時には、どうするか。透析患者さんに細胞傷害性薬剤を投与する場合の腎用量を提案したレビューがあるそうだ(Ann Oncol 2010 21 1395;高齢非透析慢性腎不全患者のものはEur J Cancer 2007 43 14)。が、古い文献なうえに「薬剤調整は要る」「要らない」「データがない」などとしか記載がなく余り使えないそうだ。モノクローナル抗体は網内系で代謝されるため透析患者さんにも使いやすいとされているが、まだ長期データがないので注意は必要だ。また分子標的薬(nibs)は肝代謝だが、高率に重症高血圧を起こしときにPRESまで合併することから、使用時はきちんと降圧することが重要だ(Bull Cancer 2012 99 371)。


EGDTという厄介な用語

 EGDT(early goal-directed therapy)という厄介な用語を葬るために、米国でPROCESSスタディ(NEJM 2014 370 1683)、豪州とNZでARISEスタディ(NEJM 2014 371 1496)、英国でProMISEスタディ(NEJM 2015 372 1301)、が組まれていたことを腎臓内科でありながら知らなかった。EGDTは特別な肺動脈カテーテルを使った金まみれのスタディで、プロトコルも輸血だのドブタミンだの余計なことをしているから、「速攻で抗生剤、で最初はどっと輸液して、それでもだめなら昇圧剤、そのあとは引きさがる」という割とコンセンサスのある治療戦略をEGDTと言ってしまうと誤解を受ける。だから、これらのスタディが「EGDTは否定された」と言っても、いまいった常識的な輸液戦略を覆すのではないから、誤解しないことが必要だ。それにしても、アルファベット四文字を葬るために4カ国が3つもの別々のスタディを組まなければならないなんて、アングロサクソン系は他国のスタディ結果を信じるということをしない…trust nobody。


New drugs

 米国内科学会日本支部総会で『論文30選』を聴いた。この手のセッションは米国の学会ではどこでもやっているんじゃないかと思う、米国腎臓内科学会でもやっているし、米国腎臓財団の学会でもやっていた(これは演者のトークの切れがよく漫談みたいで面白かったことは以前に書いた)。日本のそれは、やっぱり日本の先生方なので真面目な感じで、それはそれで聴き応えがあった。少なくとも寝なかった(私は受動学習すると寝るか質問するかどちらかなのだが、今回は精神的に負担になるから質問するなと主治医に戒められていたので黙っていたのだ)。
 いろいろ新しいことがわかって興味深かった。まずLCZ696(名前はまだない;ARBとneprilysin阻害薬の合剤)とACEIのHFrEFにおける生存率に対する効果を比較したもの(NEJM 2014 371 993)。なぜARBと比較しなかったのか気になる。結局valsaltan 320mg/dとenarapril 20mg/dの比較になっているんじゃないかと思ってしまう。でもneprilysinのことが勉強になった。亜鉛をcofactorにするmetalloproteaseで腎にとくに発現しており、natriuretic peptides, bradykinin, adrenomedullinなどを分解するのでそれを阻害すれば生体の心不全に対するcounteractionが引き出されると推察されるということらしい。
 次はnintedanib(nibと言うくらいだからTRI;tyrosine kinase inhibitorだ)が肺線維症の進行を遅らせるというスタディだった(NEJM 2014 370 2071)。ただ介入群の6割が下痢をするらしいから止痢薬を併用したほうがいいかもしれない。何人がどうドロップアウトしたかの詳細な表が書いてないが、介入群のloss of follow-upは1年間で2割前後だったからそんなに悪くはなさそうだ。
 あとnivolumabの非小細胞癌に対する有効性を調べた論文(J Oncology 2015 33 1)。NivolumabはT-cell活性化には基本のMHC-TCRとco-stimulatory pathwayが必要だが、これを抑制する系であるprogrammed cell death ligand 1(PD-L1)/PD-1シグナリングをブロックするモノクローナル抗体で、黒色細胞腫に用いられるipilimumabの仲間だ(ipilimumabとnivolumabを併用したスタディがNEJMに出た;NEJM 2013 369 122)。これらのモノクローナル抗体は蛋白尿や電解質異常を起こすこともあるので副作用のところは確認したほうがよい(ことは以前に書いた)。
 それからchimeric antigen receptor T cell。PD-1L/PD-1シグナルが入ってもco-stimulatory pathwayが関係なく発現するように受容体の細胞内部分にco-stimulatory pathwayのドメイン(たぶんCD28の細胞内ドメイン?)とTCRのドメイン(CD3 ζ←ゼータと読むらしい)がくっつけてある。これをつかうと予後不良なALLで寛解が得られるらしい(NEJM 2014 371 1507)。ここまでくると何を書いているのか正確なことを書いているのか自分でもわからない。「ふーん」でいい気がする、腎障害を起こさない限りは(笑)。


2015/05/30

遠位ネフロンの遺伝子異常

 昨日の投稿でpseudohypoaldosteronism type 1について触れたが、このへんは混乱しやすい(というか初稿で間違えてGordon症候群とか書いてしまった…Gordonは今はFHHとも言われるけど昔はpseudohypoaldosteronism type 2とmisnomerがついていたので;訂正してお詫びします)ので、この際だから遠位尿細管の遺伝子異常とそれが起こす症候群をまとめた表(米国時代に作って米国腎臓内科フェローたちが学びを共有するウェブサイトに載せたもの;クリックすると拡大します)を貼っておく。日進月歩についていくのも大変だが、学んだ知識をretainするのも大変だ。時々振り返らなければならない。



2015/05/29

すごい時代(aka 持つべきものは優秀なお友達)

 ワクチンは希望を感じさせる。打てば病気に罹らないなんて、そんなによい話はない。Jonas Salk先生がピッツバーグ大学時代(おお…なつかしのピッツバーグ…)にポリオワクチンの開発に成功して、大統領まで罹ったポリオはほぼ撲滅された。そして彼はこのワクチンに特許を取らなかった(特許をなぜ取らないのかと聞かれて"There is no patent. Could you patent the sun?"と答えた)のは余りにも有名だ。そして21世紀には高血圧や高脂血症など感染症以外の疾患に対する疾患のJonas Salkが生まれるかもしれない。まず高血圧の論文にであった(doi: 10.1161/HYPERTENSIONAHA.114.04534)。

 ワクチン技術も現在は進化して、第三世代のDNAワクチンというのがあるそうだ。標的タンパクのDNAをプラスミドに組み込んで細胞にtransfectさせ増殖させ精製したもので、WNVワクチンなどに応用されているそうだが、DNAワクチンを打つとプラスミドが宿主細胞に取り込まれ、細胞内のmachinaryを用いて標的タンパクが転写→翻訳される。タンパクワクチンは分解されるのに対し、DNAワクチンは細胞内に取り込まれるので効果が持続すると考えられている。

 このグループは、高血圧をワクチンで治せれば降圧薬を飲まなくても良くなるし、発展途上国など医療にかけるお金のない国にとっても救いになると考えた。こういう視野で研究する人たちもいるんだなあと、その思いつきに感心する。そして、試行錯誤のバイオエンジニアリングの末にアンジオテンシンII(humanかratかmouseかは分からないが;そもそもこれらの種間でアミノ酸配列は違うのかな)とB型肝炎抗原の融合タンパクをコードするDNAワクチンを精製した。

 B型肝炎抗原が強い免疫反応を惹起するため、このワクチンを打たれた高血圧ラット(しかも注射針を使わないneedless jet injectorという技術でプシュっとするだけなので痛くないそうだ。ワクチン業界では常識なのかもしれないが、こんな些細な技術にもちょっと感心する)のなかではアンジオテンシンIIとB型肝炎抗原の融合タンパクに対する抗体が作られ、その間(6ヶ月;ラットの寿命は2-3年だそうだ)は降圧と血管ダメージの緩和がみられた。

 ただRAA系は神が与えた体液保存の最重要軸なので、それを不可逆的にブロックしてしまうのは心配だ(pseudohypoaldosteronism type 1みたいになってしまうかもしれない)。血圧が下がりすぎたら塩を飲んだり昇圧剤を使ったりするのだろうか…等、よくよく考えると実臨床で高血圧をワクチンで治療するというのは想像ができない。敢えて言うなら利尿剤を含む三種類の降圧剤をmax doseで使ってもコントロールできないような難治高血圧に使えるのだろうか…でもそのなかにRAA系ブロッカーがすでに入っていたらワクチンは追加の効果はないかもしれないし、そういうケースにしか使えないのでは「お金のない人が薬を飲まなくても良くなるかもしれない」という希望から遠ざかってしまう…。でもnever say never、未来は明るく誰にも開かれている。これからの進展を注視したい。

 というのも、高脂血症のほうはすでに実用化に向けた治験ODYSSEY LONG TERM studyが行われているからだ(NEJM 2015 372 1489;筆頭著者はなつかしのアイオワ大学…)←なんて偉そうに書いているが米国のお友達が送ってくれて今日知った;やっぱり研究をされた先生は何でもよく知っていて論文も批判的に読んで凄いなあと感心する、持つべきものは優秀なお友達だ。さて、ここで試されているalirocumabはワクチンではなくproporotein convertase subtilisin-kexin type 9(PCSK9)に対するモノクローナル抗体で、PCSK9をブロックするとLDL受容体の破壊が防がれ細胞表面にLDL受容体が溢れLDLが血中から細胞に入るのでLDL値が下がるらしい。

 で、その効果をlarge RCTで見たところ、まあNEJMに載るくらいだから結果は明らかでコレステロールが下がり心血管系イベントが減った。なわけだが、モノクローナル抗体なので打ちまくらなければならない(薬屋は大喜びだが)ことと、LDLは「いいのか?」と言うくらい激下がりすることと、神経認知機能障害とか眼障害とか気味の悪い副作用が有意に多いことなど注意も必要だ。ただ家族性高脂血症が被験者の2割程度おり、こういう人たちはしっかり下げてあげないと心血管系イベントは必発だし、スタチンも肝障害とか筋障害とかいろいろ使いにくい薬ではあるので、そういう人たちには適応があるのかもしれない。

 ワクチンだのモノクローナル抗体だの、主にリウマチ内科や感染症科や腫瘍内科領域のお話かと思っていた(もちろんそこと腎臓内科はoverlapしているけど)が、高血圧だの高脂血症だのにまで応用されているなんて、本当にすごい時代が来たなと思う。医学は日進月歩だからそれについていかなければならないが、正直ついていけるか不安になる。まあたぶん独りでは無理で、幅広く仲間を頼っていくことが一層重要になるのだろう。腎臓内科というcerebralな科(手技は余りしない代わりに、膨大な知識と臨床的な慧眼と卓越したデータ解析能力によって問題解決を図る科)を選んだから、この道を自信を持って一歩一歩歩いていこう。



2015/05/27

Citra-K®

 いまの職場はJournal Club(のことをEBMレクチャと命名しているが)があって、論文の批判的吟味が定式化されているので研修医が堂々と発表していて凄いなあと思う。今回はクエン酸カリウムが尿路結石の再発予防に有効化かというトルコのRCTを取り上げていた(J Endourology 2002 16 149;日米ガイドラインどちらもこの論文に依拠しているそうだ)。Randomized open-label prospective studyのper protocol analysisで研究としての質は高くないが、「クエン酸=Ca結石のinhibitor」というのは自明だと思われているから、意外とちゃんとスタディしたものを探そうとするとここまで遡らなければならなかったりする(もう少し最近だとタイのRCTがある;Int Braz J Urol 2011 37 611、メタアナリシスはAnn Intern Med 2013 158 535)。NNTが3-4人だから、結構いい数字だ。
 米国だと低クエン酸尿を確認して処方することもできるが、日本では尿クエン酸濃度を提出するのも一苦労(24時間蓄尿はできなかったような…不確かな記憶だが)だし保険で切られるという話だ。クエン酸カリウム(Citra-K®)の代わりにウラリット®があるが、これは名前の通り(urate + lytics)尿酸結石を主に考えられた薬なので保険適応は①高尿酸血症時の酸性尿と②アシドーシス(アバウトすぎるだろ)だ。ただ「酸性尿」と尿pHに着目している点はお洒落で、尿定性で毎回測られているのに無視されがちな尿pHがこれを機会にうちの職場で日の目を見ればいいとおもう。ただCitra-Kと違い、ウラリットは高K血症を怖がってクエン酸Naとクエン酸Kが混ぜてある(のでNa負荷になり、その面では理論上結石予防にマイナスだ)。味は酸っぱいらしい。


2015/05/25

Fenoldopam for hypertensive crisis?

 悪性高血圧になれば、腎はTMAを起こして壊れるので潜血も蛋白尿も出る。FenoldopamはD1 agonistだが、こういうときに降圧剤として使うと腎保護機能があるとまことしやかに言われている。しかしUpToDateに根拠が載っていないし(こういうの、本当にやめてほしい…)、Google Scholarで調べても悪性高血圧におけるこの薬の有益性をしめす文献が出てこない(心臓手術後のAKI予防を意図してplaceboと比較したRCTでその効果が否定されたのはでてきたが;JAMA 2014 312 2244、あと造影剤腎症予防に効果がなかったというのも)。



Psychonephrology 2

 ESRDと認知機能については以前に講演を聴いてここに書いたが、認知機能の障害が進行している患者さんについては、家族と透析のwithdrawalについて議論すべきである、高齢でfailure to thriveに陥った透析患者さんで透析を止めることは珍しいことではない、とHandbook of Dialysisにある(この私の手元に届いた第5版はinternational editionと銘打っているから、そう考えるのが妥当というのが国際的に認知されているということなのだろう)。
 というか、そもそも患者さんに意志決定能力があるうちにRRTに関してよく話し合い、shared decision-makingとしてのadvanced directiveを取るべきだ。これについてはRenal Physicians Associationsが出しているガイドライン(recommendation;第二版、2010年)が役に立つ。この冊子は九つのrecommendationを出しており、それぞれ;

①AKI、CKD4、CKD5、ESRD患者においてshared decision-makingが取れるような医師患者関係を築く
②AKI、CKD4、CKD5、ESRD患者において診断、予後、治療選択肢を十分に説明する
③AKI、CKD4、CKD5、ESRD患者において予後の見立てを伝える(surprise questionなどが役立つ;surprise questionとは「この患者さんが12ヵ月後にも存命していたら私は驚くか?」というもの)
④Advanced care planningを作る;全ての透析患者においてadvanced directivesないしphysician orders for life-sustaining treatment (POLST)を取る
⑤本人の現在の意思が確実な場合、現在は意思決定能力がないが過去に明確な意思を示している場合、指名された代理人がしないといっている場合、重度の不可逆な意識障害がある場合は透析治療をforegoする
⑥透析治療を安全に行えない(認知障害でチューブを抜く)、腎以外の疾患で予後が規定されている、75歳のCKD5患者でsurprise questionがyes・comorbidityスコアが高い・functional statusが低い(Karnofsky Score 40未満)・Alb 2.5g/dl未満の二つ以上が当てはまる場合はforegoを健闘する
⑦話し合って結論が出ない場合や予後予測がつかない場合などは、time-limited trialを考慮する
⑧話し合いで考えの相違がある場合、システミックな段階を経てその解消を図る
⑨病気になったことによる重荷に悩むすべてのAKI、CKD、ESRD患者に対して緩和ケアを提供する

 だ。実際には私は「透析は絶対に嫌だ」といっていたCKD患者さんがいざ透析が必要になったときにforgoしたのを見たことがない(腎以外の疾患が予後を規定する患者さんがforgoするのは経験したことがあるが、透析室に来なくなったので最期を見届けることは出来なかった)。しかし、十分に話し合いを尽くして透析導入をしているかと言われると、正直分からない。しかも、いまは日本という透析患者さんが世界一長生きする国(かつ個人のなかでもとくに高齢者の意志決定に家族が大きく関わる国)にいるので、事情が違うのかもしれない。



Psychonephrology 1

 渡米前の短い腎臓内科経験で得た教訓のひとつは、治せない慢性疾患の多い腎臓内科においては患者さんの心理精神面のケアが大事だということだ、と2007年に書いてからはや8年が過ぎた。その間、末期腎不全患者さんのうつ病スクリーニングを一回でもしたかと言われると、してこなかった。幸い私が担当した患者さんが自殺することはなかったが、運が良かっただけである。
 末期腎不全患者さんは多彩な心理精神的なストレッサーにさらされる。疾患そのもの、治療によるもの、機能の低下、性機能不全、食事制限、死の恐怖、結婚問題、家族や医療者とのしがらみ、治療費の心配、雇用の不安など、あげれば切りがない。今日届いたHandbook of Dialysis 5th edition(2014年刊)によれば末期腎不全の入院患者の約10%に基礎精神疾患があるといわれているが、実際はもっと多いだろう。
 まず話をうつ病から始めるが、うつ病が有病率が高いのにその一部しか治療を受けていない、そしてうつ病で自殺する患者さんの多くがその前1ヶ月以内に医療機関を受診している、というのはgeneral populationでも同じである(Ann Intern Med 2010 152 ITC5-1)。うつ病について尋ねることを「パンドラの箱を開ける」ように感じる医療者がまだ多い。
 末期腎不全患者さんがうつ病になると透析に来なくなったり薬を飲まなくなったり自殺リスクが上がったりする。免疫能が低下したり、食事を取らなくなり栄養状態が悪化したりもする。末期腎不全患者さんにおける自殺率はgeneral populationより当然高い。リスク因子は精神疾患の既往、75歳以上、男性、白人、アジア系、アルコール・薬物依存などだ。
 そもそも末期腎不全患者さんは、透析をやめたら一週間程度で死んでしまう(以前どこかで、数日から数週間まで幅があるがmeanは8日と読んだが、その文献を忘れてしまった…米国腎臓財団、米国大手透析クリニックDaVitaなどが患者さん向けにだしている「透析をやめることについて」という良心的なパンフレットには1-2週間とかいてある;ICUでRRTのみが生命維持治療の場合は止めると数日で死んでしまうとは、NEJM 2014 370 2506で読んだが)。
 透析を自分の意志でやめたいならそれの意思は尊重されるべきだが、うつ病でやめたい人がやめたらそれはpreventable deathだ。スクリーニングしなければならない。しかし、血液透析なら週3回(米国は週1回)、腹膜透析なら月1回も濃密にフォローしているものの、透析室にはプライバシーがないことなどもあり話しにくい。
 Handbook of DialysisはBeck Depression Inventoryというツールで14点以上をカットオフにすべきと言っているが、これは21個もの質問からなる…透析回診でできることじゃない。臨床心理士さんに何ヶ月かに1回、介入してもらうのが現実的だろう。その場合、透析につながれた状態ではなく(それだけでもdepressingだから)、できれば非透析日に個室でするのがいいと思う。
 さて末期腎不全患者さんのうつをどう治療するか。TCAは不整脈死と過量服薬死のリスクがあるのでできれば避けたい。SSRIは肝代謝だが蛋白結合率が高く、通常量の2/3で開始することが一般に推奨されている。4-6週間たって効果がなければ他の薬に変えるのがよいとある。SNRI(venlafaxineなど)、DNRI(bupropione)は腎排泄なので蓄積しないよう注意が必要だ。Bupropioneは代謝産物の蓄積でけいれんを起こすことがある。
 精神療法(認知行動療法、対面の対話、傾聴、グループの治療など)も効果があるとされる。透析患者であるということからくる感情や、その他の不快な感情をシャットアウトするためにdenialになる患者さんも少なくなく、それが透析拒否などにつながっていることもある。Denialに対して精神療法がきくこともあるし、きかないこともある。ストレスマネジメント療法、サポート療法+薬物療法、グループ治療などさまざまに試され一定の効果を挙げている。ECTは最後の手段だ。




Anti-AQP4 IgG

 NMO(neuromyelitis optica)で陽性の自己抗体がAQP4をターゲットにしているということが分かるにつれ、この抗体が陽性な疾患群をNMO spectrum disorderと呼ぶようになったそうだ(たとえばAsian optic spinal multiple sclerosisなど)。NMOは自己免疫疾患に続発することが多く、典型的には視神経と脊髄の脱髄(ただし広汎に中枢神経系の脱髄を起こすこともある)と浮腫・壊死、好中球・好酸球優位の浸潤、病変部細胞表面のAQP4消失などを特徴とする(Nat Clin Pract Neuro 2008 4 202)。

 抗AQP4-IgGは、脳血管バリアを越えてAQP4を攻撃しているらしく、抗体価と病勢が相関することがわかっているが、なぜ中枢神経系の、それも視神経と脊髄にあるAQP4を好んで標的にするのかは分かっていない(腎臓においてもAQP4は集合管の間質側に表出している;Physiol Rev 2002 82 205)。

 いずれにせよ抗AQP4-IgGないしそれを産生するB細胞を対象にした治療が行われ(Nat Rev Neuro 2010 6 383)、ステロイドパルス±血漿交換(重症例、不応例に;比較スタディがArch Ophthalmol 2012 130 858;血漿交換追加群で視力がより回復した←以前書いた血漿交換適応疾患リストには載っていないが)。しかし再発する経過を取ることが多く、予防にはAZA+RTX+MMFが慣習的に行われるそうだが、RTX単剤も試されているようだ。



2015/05/20

蓄尿不全

 24時間蓄尿検査が外来で出来れば、透析が必要かどうかボーダーラインな腎機能の患者さんに蓄尿ボトル(下図)を渡して24時間クレアチニンクリアランス(または尿素クリアランス)を測ることもできるし、尿路結石の患者さんにボトルを渡して24時間あたりの尿量・尿Na・尿K・尿Ca・尿Mg・尿P・尿シュウ酸・尿クエン酸などを定量して予防の計画を立てることも出来る。

 またFanconi症候群など尿細管での再吸収障害(による腎性喪失)を疑った時にも同様に尿Ca・尿P・尿尿酸・尿糖・尿アミノ酸などを定量することができる。患者さんには「朝一番の尿の次から採尿を始めて、翌朝一番の尿まで採ってください」と指導していた。

 しかし、24時間蓄尿検査を入院しないと出来ないと言われると、スポット尿で勝負するしかない。その方法は大きくふたつあり、ひとつは尿量を推定して掛け算すること(例えば尿Na濃度が150mEq/lだったら尿量1.5L/dayと仮定して225mEq/day、つまり約13g/dの食塩摂取が示唆される)。だが、尿量の推定なんてできないからアバウトな感じになる。

 もうひとつはクレアチニンで割ることだ。これも24時間蓄尿には劣るが、尿Ca/尿Cr>250mg/gで高い、FECa<1%で低い(FHH;familial hypocalciuric hypercalcemiaなどで)、FEリン>5%で高い、FE尿酸>10%で高い、などネットとか色々調べて解釈している。



 [2019年1月追記]24時間蓄尿してクレアチニン・クリアランスを求める方法をおさらい(ここにもあるが、順に導出してみる)。クリアランスのU(尿濃度)×V(尿量)/P(血中濃度)でよいのだが、単位をあわせるのが少し手間かもしれない。

 1日クレアチニン排泄量(さっきのU×V)は「mg/日」、血中濃度は「mg/dl」で、そのまま割ると「dl/日」になる。ふつうクリアランスは「ml/分」なので、「dl/日」は「100ml/1440分」。

 100/1440の0.069(約7%)を掛けるもよし、100/1440は1/14.4だから14.4で割るもよし。たとえば一日クレアチニン排泄量が1000mgで血中クレアチニンが1mg/dlならクリアランスは1000dl/日なので、(掛けても割っても)70ml/min程度になる。

 でもまあ、1日あたりのクリアランスを考えるのにも意義はあって、たとえば上記なら1日に100リットルの血液をろ過していることになる。つまり99%がた再吸収しているわけで、すごい仕組みを発達させたものだなと思う(このブログの冒頭にも書いている通りだ)。

 なお、Cockroft-Gault、MDRD、CKD-EPIなどについてはこちらも参照されたい。

FDA warning!

 糖尿病薬市場を席巻する勢いで各社が雨後の竹の子のように開発し宣伝する(ので同じような説明を何度も何度もお弁当を食わされて聞かされる羽目になり辟易している)SGLT2阻害薬だが、残念なお知らせが届いた。FDAが5月15日にcanagliflozin、dapagliflozin、empagliflozinでDKAとケトアシドーシスの報告が相次いでいるという警告を出し、引き続き調査を行っていくからうえの三剤に限らずすべてのSGLT2阻害剤を処方する(内服する)際には慎重に、と発表した。

 その4日後、昨日のお薬屋さんの説明会もSGLT2阻害薬についてだったのに、そんなこと一言も言ってくれなかった。ただ「長期処方が可能になりますので是非ご検討ください」としか言われなかった。私が毎日受け取る米国腎臓内科学会のニュースレターのトップニュースだったから初めて知った…。ここまでくると、お薬屋さんが怖い。売れさえすればいいのか?各担当者ごとにノルマとかがあるから仕方ないのか?患者さんのためには「効く」というよい情報も「危険」という悪い情報も包み隠さず教えてくれるのがフェアプレーじゃないのか?調査中だからまだなんとも分からない、濡れ衣だったということもありえる訳だし。

 [追加]この報告は、SGLT2阻害剤内服によってつくられるグルカゴン過剰状態(先日書いた)と符合するかもしれない。グルカゴン過剰はDKAにcontributory(if not essential)で、この環境下では肝細胞でアシルCoAがcarnitine palmityl transferase reactionsによってどんどんミトコンドリア内に入り、β酸化によりどんどんアセチルCoAができ、これがTCA回路に入りきれずに、アセト酢酸(ケトン体)に代謝される。

 [2016年6月追加]CanagliflozinのCANVASトライアルで投与群には脚、趾の切断が有意に多いという途中経過の安全報告が出たと5月18日にFDAが発表し、調査中だ。またその数週間後にFDAがCanagliflozin、DapagliflozinにAKIの注意喚起をつけた。Empagliflozinはアメリカで処方が少ないのためか報告が少なくラベルはつかなかった。



2015/05/19

質問というプレゼント

 日本には「出る杭は打たれる」という諺があるが、英語には"squeaky wheel gets the oil(キーキー音を立てる車輪がオイルをもらえる;しっかり自己主張した者が欲しいものを得られる)"という諺がある。でも日本にも「聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥」という諺がある。だから分からないことはためらわずに聞いたほうがいい。

 と、お説教しようと思ったら別のチームの研修医の先生から「あの…お時間のあるときに質問があるのですが…」とエレベーターのなかで声を掛けられた。研修医の相談は指導医の勲章だから、私を選んでくれて有難いなあと質問を聞いてみると、何十個もずっと溜め込んできた事が分かった。勇気を出して長い間秘めた思いを伝えられて偉かったね、プレゼントをありがとう。

 それで、一個目の質問は「レジオネラ肺炎の低Na血症はどれくらい低いんですか?」だった。(知らん)と思ったが、知らないことを調べる方法を知っているのが指導医というわけで、まずUpToDateをみると「130mEq/l以下になることが他の肺炎に比べて多い」と書いてあった。

 すると次の質問は「レジオネラ肺炎で低Na血症になるメカニズムは何ですか?」だった。また(知らん)と思ったが(面白い!)とも思った。こういういい質問から考えるきっかけをもらえるから、私は質問を受けるのが好きだ。で、今度はUpToDateに載ってないので例のGoogle Scholarを調べると、SIADHと考えられてきた(Medicine 1980 59 188)が、嘔吐や下痢などでhypovolemiaを合併(尿Na濃度が一桁)して"appropriate"なADH分泌で低Na血症になった症例報告(BMJ 1982 284 558)もでてきた。



HOPE Act

 昔はAIDSでばたばた亡くなっていたHIV感染患者さん達がHAART時代になって長生きできるようになるにつれ、慢性疾患の治療が重要性を増していることは、以前米国のHIV clinicにいたときに感じた(と以前書いた)が、腎臓領域ではHIVAN(HIV-associated nephropathy;典型的にはFSGSだが薬剤性とかいろいろ)でESRDになることが問題になっている。米国ではHIV感染者の死因10%がHIVANで、African AmericanのESRD原因の三位がHIVANだという。HIV感染患者さんに腎移植すると、免疫抑制でHIV感染が再燃するのではないかと心配されるので、多くの人が透析になっている。

 しかし、basilizimabで導入してCsA+sirolimus+ステロイドのレジメンを使ったら、HAARTが効いていればCD4カウントやRNAのundetectable状態は維持されて、グラフト生着率と生存率も他のハイリスク症例と同程度だったという一施設報告はある(KI 2005 67 1622)。またUNOSを見直して見ると、HIV感染の患者さん達において長期のグラフト生着率はHIV非感染の患者さんにくらべて劣るものの、患者を適切に選択する・生体腎・CIT(cold ischemia time)の短縮・免疫抑制を適切に選択するなどの工夫をすればグラフト生着率は改善できるのではという報告もある(Arch Surg 2009 144 83)。

 というわけでHIV感染のESRD患者さん達にもっと腎移植の機会を増やそうとして2013年に米国で通過した法案がHOPE(HIV Organ Policy Equity) Actだ。それまでHIV感染腎を移植することは触法行為であったが、HIV感染患者にならHIV感染腎を移植しても問題ないだろうということでそれを可能にしたのがこの法律だ。これで、年間数百件のHIV感染レシピエント-HIV感染ドナー間の移植が可能になるのではという試算がAJTに報告された(DOI: 10.1111/ajt.13308)←が、こんな論文が法律施行後2年で出るということは、まだHIV感染腎移植は少ないということなのだろう。なお同様の例はHCV感染でもみられ、これは日本でも行われているようだ。

 [追加]米国で働いている先生から教わったが、HOPE ActでHIV-HIV腎移植はニューヨークやサンフランシスコを中心に行われているそうだ。また、HIV-HIV腎移植の実績が南アフリカからNEJMに報告された(NEJM 2015 372 613)が、それについてのletter to the editor / correspondence(NEJM 2015 372 2069)も先週でた。論文を見直すと、グラフト腎にHIVANをきたしたり(二種類のstrainが共存するためか、腎がHIVのreservoirになるためか)、免疫抑制剤とHAARTが相互作用を起こしてCNI toxicityになったりしていた(HAARTはintegrase strand-transfer inhibitorsをベースにしたレジメンだとCYPへの影響が少なく相互作用が押さえられるのではないかと言われている)ようだ。




2015/05/18

HRS

 肝硬変においては門脈圧亢進とbacterial translocationに伴う腸管NO産生によるsplanchnic vasodilatationで血液のpoolingが起こり、結果effective arterial blood volumeが減って腎臓がunder-filledになる(NEJM 2009 361 1279)。この大前提をHRS(hepatorenal syndrome;肝腎症候群) physiologyと呼んだりしていた。しかしHRSとHRS physiologyは少し違う。HRSは、HRS physiology以外の要因がないにもかかわらず純粋なHRS physiologyで腎が干上がってpre-renal azotemiaになることを言う。

 だから理論上はHRSでは肝臓がすべて悪くて腎臓はまったく悪くない(から肝移植すればよくなるはずだし、ドナー提供意思のあるHRS患者さんが亡くなってその腎を移植すれば正常に機能するはずである、あくまで理論的には。それについては以前に書いた;リンク1リンク2リンク3リンク4リンク5)。つまりHRSは利尿剤によるeffective arterial blood volumeの減少、低アルブミン血症、出血性ショック、NSAIDsなど薬剤、B/C型肝炎・ウィルソン病など肝臓にも腎臓にも障害を起こすものなどを除外して診断する。具体的な診断基準は(AJKD 2012 59 874);

 ①腹水のある肝硬変
 ②S-Cr>1.5mg/dl
 ③二日以上利尿剤を中止しアルブミンを負荷(1g/kgまたは100g)してもCrが改善しない
 ④ショックがない
 ⑤腎毒性の薬剤使用がない
 ⑥腎実質の疾患がない(蛋白尿>500mg/d、血尿>50RBC/hpf、腎エコーの異常所見)

 心腎症候群は大して臨床的意義なく五分類されているが、肝腎症候群は1型と2型に分かれその臨床的意義は大きい。1型HRSは急速に腎機能が悪化するものをいい、2週間以内でS-Crが倍になるか2.5mg/dl以上に達する。治療しなければaverage median survivalは2週間だ。2型HRSは1型に当てはまらないより緩徐な腎機能の悪化をいう。2型HRSのaverage median survivalは約半年とされる(下図)。


 1型HRSは基本、肝移植が第一選択だ。そうしないと死亡率が余りに高いので、MELDスコアにもS-Crが入っているわけだ。しかし肝臓がどっかに落ちているわけではないので、それまでは血管収縮薬とアルブミンの併用が行われ、データがあるのはterlipressinだがmidodrineやnorepinephrineを用いることもある。2型HRSの治療も根治的には肝移植だが、こちらは治療の有効性を示すよいデータがあまりない。この論文は大容量腹水穿刺(+アルブミン補充)、norfloxacin(bacterial translocationを防ぐためだろうか)、血管収縮薬がリストされていた。大容量腹水穿刺を繰り返すのが面倒ならALFApump®といって持続的に腹水を膀胱に流すデバイスを使ってもいいかもしれない(下図;日本にもあるのかな)。



 HRSの予防は良いデータがない。アルブミンのルーチンな補充は現在では推奨されていない。Norfloxacinの予防内服は小さなデータがあるようだ。急性アルコール性肝炎におけるHRSの予防でpentoxyfyllineが試されたことがある(がpentoxyfyllineはHRS予防じゃなくてもアルコール性肝炎にどのみち用いられるはず)。V2 selective receptor blocker(vaptan)が予防するかもしれない。データがないから著者も小さなスタディを見つけて書きたい放題だ。
 とまあHRSについて書いたが、うえに紹介したNEJMとAJKDのレビューが秀逸なのでそれを参考にしたらいいと思う。教科書的な投稿になってしまって申し訳ない。もっと熱血だったり面白みがあったりしたほうがこちらも書き甲斐があるし読者のみなさんも読み甲斐があるだろうに…。でもまあいいか、たまにはこういう平穏な投稿があっても(朝カンファで「HRSだけで30分語れる」と発言したら「じゃあやって」と言われたので有限実行で書いている)。

 [追加]HRS-type AKIに関する国際腹水クラブのレビューが出た(J Hepatol 2015 62 968)。まだ詳しく読んでないが、診断基準からS-Crの値が消えて、そのかわりに国際腹水クラブが提唱するAKIのステージングを採用している。治療の基本原則とコンポーネントはほぼ変わりないようだ。

2015/05/14

Toluene and the kidney

 トルエンといえば揮発した蒸気に曝露されて、脂溶性のため脳血管バリアを越えて中枢神経系に達し、さまざまな神経伝達物質受容体に作用して精神神経症状がでる(J Drug Alcohol Res 2014 3 235840←この雑誌いったい何ページあるんだ…)。それから心毒性、それから胎盤を通過して胎児にfetal solvent syndrome(fetal alcohol spectrum disorderのような)を起こすことも知られている。

 しかしそれだけではなく、トルエンといえば遠位尿細管アシドーシスと低カリウム血症を起こす。ここで注意すべきは、トルエンは馬尿酸(hippuric acid←hippoって馬じゃなくてカバだと思うけど…ギリシャ語で「馬」らしい;ラテン語はequus)になって、酸を放出すると共に馬尿酸イオン(hippurate)がunmeasured anionになって残るのでAG開大アシドーシスをきたすことと、尿中に大量のunmeasured anionがあるため尿AG(UAG)が当てにならないことだ。

 尿AGは[尿Na+] + [尿K+] + [尿unmeasured cation] = [尿Cl-] + [尿unmeasured anion]をひっくり返して[尿Na+] + [尿K+] - [尿Cl-] = [unmeasured anion] - [unmeasured cation]にしたものだから、RTAの場合unmeasured cationであるNH4+が減って尿AGはプラスになる。しかし、トルエン中毒ではunmeasured anionであるhippurateが多いので尿AGが当てにならないこともある。

 だから尿浸透圧ギャップを測定する。尿浸透圧ギャップは、実測尿浸透圧から計算浸透圧を引いたもので、計算浸透圧は2 x ([尿Na+] + [尿K+]) + [尿UN] / 2.8 + [尿糖] / 18だ(尿糖はなければ無視してよいが)。しかしちょっと考えれば、こうして得られたギャップはNH4+の浸透圧とそれが引き連れる陰イオン(例えばhippurate)どちらも測っていることが分かる。だからギャップの半分がNH4+だと考えることが出来る(CJASN 2014 9 1132)。

 [追加]まさに毒を食らわば皿までだが、トルエン曝露時の救急対応についてはCDCのATSDR(Agency for toxic substance and disease registry)が詳細なウェブサイトを公開しているので参照されたい。またトルエンは第4類(第1石油類)になるが、個人が1L程度買う分には目的を言って身分証明書を提示すればいいらしい。業務用になると、乙四種危険物取扱者の免許が必要だそうだ。資格が好きな方は取られてみては。



Sofosbuvir

 日本で最も高い薬はeculizumabだと認識していたが、これは夜間発作性ヘモグロビン尿症とatypical HUS(以前に書いた)くらいしか適応がなく使われる頻度は低い。しかし昨日認可されたsofosbuvir(商品名sovaldi)は、一錠6万円で記録を更新?したうえに、疫学的にも頻度のたかいC型肝炎に対する治療薬だ。

 私は肝臓内科医ではないのでこの薬がヌクレオチドアナログのprodrugで代謝されてNS5B(HCVのRNA合成に必要な酵素)を阻害することや、HCVのgenotypeに関わらず米国肝臓内科学会・感染症学会のガイドラインで第一選択薬になっていることなどの詳細を把握する必要はない(Wikipediaでもお腹一杯だ)が、注目すべきはこの薬は先進国と発展途上国で価格が大きく違うということだ。

 開発したGilead社は、ジェネリック製薬会社が発展途上国91ヶ国でsofosbuvirの後発品製造を許可しており、インドでは1コースの治療(1錠ではなく)300ドルで販売している。だから、これからこういう薬価の二重構造がうまれると、逆医療ツーリズムで、先進国なら何百万円かかる治療を発展途上国に行って安く受ける時代が来るかもしれない。




2015/05/12

The cold never bothered me anyway?

 以前、低体温症を透析で復温したことがありそれについて調べて書いたが、逆に透析液の温度を下げて血管を収縮させることで透析中の低血圧に対応することもある。透析中の低血圧は虚血・虚血後再潅流による心筋傷害やstunned myocardiumを起こすので、透析液の温度を下げて血圧を保つことは透析による心筋傷害を抑制するかもしれず、その結果心血管系の死亡を予防するかもしれない。
 しかし実際臨床では、透析患者さんはアナ雪のエルザではないので透析液の温度を余り下げると寒くなり耐えられないことも多い。そこで透析液を患者さんの体温より0.5℃低くしてみてはどうか、と調べたイギリスとカナダ(カナダのオンタリオ州にもLondonという人口35万人の都市があると初めて知った…)のスタディの結果がCJASNに発表された(doi:10.2215/CJN.00200115)。
 54人をrandominzeして12ヶ月間介入をおこない、アウトカムとしてcardiac MRIを行いEF、左室心筋mass、左室のstrain、大動脈の拡張など各種のパラメターを測定したところ、EFには差がなかったが左室心筋massなどには有意差がみられた。LV massは心血管死のsurrogate markerと考えられているので、仮説は検証されたと言ってもいいのかもしれない。ただ被験者数が少ない(除外が多いのでinternal applicabilityは高いがexternal applicabilityは低い)のと、これがこの領域で最初のRCTなので、より大きなスタディでの再検が必要になるだろう。
 

Mgおたく(aka MgSO4 for severe asthma and premature labor)

 私が札幌で働いていたときに出会い、私の渡米を可能にしてくれ、以後も母親のように親身に面倒をみてくれている恩師が、札幌を去る送別会の席でみんなに「最も好きなイオンは何ですか?」と聞かれて答えたのがマグネシウムだった。そもそも私が腎臓内科を目指したのに彼女は影響しているわけだが、それだけでなく師のあとを追うように私もマグネシウムに何となく注目してきた(リンク1リンク2リンク3リンク4リンク5)。

 しかし、灯台下暗しで「なぜ重症の喘息にMgSO4静注が有効なのか(有効性についてはJAMA 1987 257 1076など)?」という問いに今まで答えようとしてこなかった。調べてみると、Mg2+はCa2+と競合するので、Mg2+を投与するとCa2+による平滑筋の収縮が抑えられ、その結果平滑筋の弛緩が起こると考えられているようだ(Indian J Anaesth 2007 51 225)。そして、premature laborを遅らせるためにMgSO4が投与されるのも同様の理由なようだ(NEJM 1984 310 1221)。

 さらに、Mg2+が肺でどのような機能を果たしているかについてまとめたであろう論文"Magnesium and the lungs"(Magnesium 1988 7 173)によれば、Mg2+は平滑筋収縮だけでなく肺血管収縮、マスト細胞顆粒放出、その他neurohumoral mediator releaseなど多彩に関わっているそうだ。このMagnesiumという雑誌、マニアックで興味深いがどうやら廃刊になったようだ。しかし、international society of the development of reseach on magnesiumが出すMagnesium Researchという雑誌はあり、学会も開かれている。



エビデンスと慣習

 総合診療科に在籍していると、非腎臓科医からの視点で質問を受けるので楽しい。先日は「内シャントの成長に手でゴムボールを握る運動は有効だというエビデンスはあるんですか?」と質問された。それは研修医の宿題になっていたのだが、研修医の先生から「先生、探したけど見つかりません」と相談された(これは正しい、わからないときは人に聞くのが一番だと以前に書いた)。
 こういう時が、上級医・専門医の腕の見せ所だ。それでGoogle Scholarに「AV fistula maturation hand exercise evidence」と入力していろいろ調べた。まずKIのレビュー(KI 2002 62 1109)がヒットして、こんな風に書いてある;
Patients are frequently encouraged to perform regular hand exercise to promote maturation of a new fistula. There is no published research confirming the efficacy of this maneuver. The only study addressing this question failed to demonstrate a significant increase in A-V fistula flow during hand exercise in 40 patients with renal failure.
 この参考文献(Angiology 1984 35 641)によれば運動をすると橈骨動脈の流量は上がるがシャントの流量に変化はなかったという。この論文は、患者さんがゴムボールに取り憑かれてしまうからやめたほうがよいと締めくくっている;
Therefore, we conclude that there is no benefit in advising uraemic patients to squeeze a rubber ball which, otherwise, supposes an unnecessary preoccupation for these patients.
 しかしやったほうがよいというスタディもいくつか出てきた。但し、いずれもシャントの流量ではなく静脈径の拡大をアウトカムにしている。一つ目(Am J Med Sci 2003 325 115)は「静脈のサイズが拡大したということは、おそらく血流量も増えており、内シャントの成長を早めるかもしれない」と控えめな結論、二つ目(ASAIO J 2003 49 554)は「運動すると静脈が開くので運動は引き続き推奨されるべきである」と強気の結論だ。
 それを受けてか、JASNのレビュー(JASN 2003 14 1669)は以下のようにやわらかにコメントしている;
Similarly, the widely recommended practice of hand exercises, such as squeezing a rubber ball at frequent intervals, confers no documented benefit. It will increase venous blood flow, however, and thus appears to be at least sound on physiologic grounds.
 運動でシャントの血流量が増えると断言しているが、根拠の参考文献はついていなかった。Google Scholarに「AV fistula blood flow hand exercise」と入れても見つからなかったし、教科書(Comprehensive Clinical Nephrology、Rector)にも載っていなかった。Handbook of dialysisには載ってるかもしれない。私はこの4版を買って失くしてそのままにしていたが、昨年12月に5版がでたので丁度良いから注文した。犬も当たれば棒に当たる。


2015/05/11

珊瑚状結石の悲劇

 珊瑚状結石は放置すると腎臓を破壊し、慢性腎臓病から末期腎不全に至る。尿路結石は、できてしまったものは泌尿器科で砕くか除去するかするにしても、本質的には腎臓内科の疾患で、石ができやすい組成の尿を治療する(水分摂取励行、塩分摂取制限、クエン酸摂取励行、マグネシウム摂取励行など)ストーン・クリニックも米国にはある。しかし珊瑚状結石(Staghorn calculi)については、内科的治療に限界がある。

 珊瑚状結石はその組成がmagnesium ammonium phosphate (struvite) and/or calcium carbonate apatiteだが、ureaseを産生する細菌で石自体が感染しているのと、尿pHがアルカリ性なため(後述するが尿pHを下げる良い薬がない)、一旦できてしまったら石も菌もごっそり完全に外科的に除去するのが治療の根幹だ(それでも再発するくらい厄介だ)。米国泌尿器科学会のガイドラインでは四つの治療法を紹介している。①経皮的切石術(percutaneous nephrolithotomy、PNL)単独、②PNLと超音波砕石術(shock-wave lithotripsy 、SWL)の併用、③SWL単独、④open surgeryだ。これらを試した文献をmeta-analyticalにまとめた成績は下図のようになる。


 以前はopen surgeryが行われていたようだが、侵襲が大きい(死亡率をまとめた良いデータはないが、ガイドラインのパネラー達は約1%と見積もっている)ので最近はほとんど行われないという。PNLが第一選択なようだ。SWLは、手術侵襲のリスクが大きい場合に行われるが、砕いた石が落ちないといけないので砕いたあと経皮的腎臓鏡で石をのぞくか、尿管ステントを留置して下に流すかしないといけない。Open surgeryもPNLも手術なので20%程度の例で輸血を必要とする。

 少なくとも米国泌尿器科学会のガイドラインは珊瑚状結石を放置することに対してこのようにコメントしている;
Nonsurgical treatment, that is, management with antibiotics, urease inhibitors, and other supportive measures only, is not considered a viable alternative except in those patients otherwise too ill to tolerate stone removal. A retrospective analysis of almost 200 patients with staghorn calculi suggested that renal deterioration occurred in 28% of patients with staghorn calculi who were treated "conservatively."
ここにでてくるurease inhibitorsとはacetohydroxamic acidのことだ。この薬は尿pHを下げ(struviteはリン酸塩なので尿pHを下げるほうがいいのだ)尿アンモニア濃度を下げるけれど、静脈炎、深部静脈血栓症、溶血性貧血など副作用が多い薬なうえ、腎機能が悪い例では効果が少なく副作用が強く出てしまう(eMedicine®より)ので、ガイドラインには"may offer to patients with residual or recurrent struvite stones only after surgical options have been exhausted (Option; Evidence Strength Grade B)"と記載されている。

 というわけで、腎臓内科医は珊瑚状結石に対して無力である。泌尿器科の先生方に「このままでは徐々に腎機能が悪化するのは目に見えています、なんとかならないでしょうか」とお願いするしかない。それでも先生方が「外科的除去は技術的にリスク的に無理」とおっしゃったら、それまでだ。徐々に腎機能が悪化するのを指をくわえて見ているしかない。そういう例を見るのが、日本に来てから多い気がする(というか米国の5年間では一例も見なかった)のはなぜだろう。



2015/05/10

RDW

 ソウルの江南近く、地下鉄二号線の서초(瑞草)駅または三・七・九号線の고속버스터미널(高速バスターミナル)駅から歩けるところに가톨릭대학교(カトリック大学校)の성의교정(聖医キャンパス;교정は漢字で教庭?)がある。行ったことはないが、ここの腎臓内科医を筆頭著者とする論文がPLOS Oneにでて、透析患者において赤血球の大小不同の程度を示すRDWの拡大が死亡率と心血管系イベントに相関していると発表した(DOI:10.1371/journal.pone.0126272)。



 RDWといえば血算で必ず測られて、「レベルの高い先生が見ると色々分かるなんか良いらしいもの」というイメージだったが、RDWが高い(すなわち赤血球の大きさがバラバラ)人ほど心筋梗塞、脳梗塞などにかかりやすく死亡率も高いということはすでにスタディで示されており、今回の論文はそれを透析患者さん達(血液・腹膜どちらも)にも当てはまらないかと調べたものだ。ただ研究グループは、透析患者さん達は透析のたび失血したり鉄を静注されたりESAを打たれたりしてRDWがfluctuateするだろうと考えて、一点のデータではなくトレンドで見ることにして工夫した。

 結果、RDWが下がる群(上図破線)とRDWが上がる群(上図実線)では死亡率と心血管系イベントにくっきりした差がみられた。赤血球の大きさが揃ってくる人とバラバラになっていくような人では後者のほうがunhealthyな感じがするから結果には驚かないが、問題はそのメカニズムと臨床的意義だ。この論文の分析ではRDWが高くなるほどCRPが高くなりHgbと鉄が低くなる関係が見られた(フェリチンは変わらなかった)ことから、筆者達は慢性炎症と鉄利用障害の関与を推測している。

 臨床的意義に関しては、RDWのトレンドを追いかけるというのは結構手間なのと、上がり幅・下がり幅のregression coefficientが小さい(大前提に筆者達も透析患者さん達はRDWがfluctuateすると認めている)ので、「この患者さんではRDWが1年の間にアップダウンしながら少しずつ上がっているな」といって心血管系イベントにエクストラに注意するというような診療にはつながりにくいような気がしている。しかしCBCで毎回測っているわけだから、これからはもう少し注目してみようと思った。


[2018年11月追加]あれから、昨年台湾から腹膜透析(Sci Rep 2017 7 45632)、今年に日本の血液透析(やはりPlosOne、doi.org/10.1371/journal.pone.0198825)でRDWのデータが出た。これから日本でも、RDWが流行るかもしれない(下図の『TT』は、韓国・台湾・日本のメンバーからなるTWICEによる2016年リリースの曲名)。



2015/05/08

DECS study(aka cautiously optimistic)

 心臓手術とAKIは切っても切れない関係にあって、私も腎臓内科フェローだったころは毎日外科ICUに通って心臓手術後の患者さんを診ていた(し、それについても色々書いてきた;リンクはこちらこちらこちら)。そして今日、DECSスタディに出会った(doi:10.1681/ASN.2014080840)。これはCPB(cardiopulmonary bypass;人工心肺)使用の心臓手術例を対象にしているが、心臓手術後のAKIは炎症が機序に関わっているという仮説でdexamethasoneの術中大量療法(1mg/kg)を行ったものだ。いままでも小さなスタディはあり、これらを合わせたメタアナリシス(Artif Organs 2014 38 101)ではステロイドの効果は否定されたが、それでもあきらめずに今回欧米の多施設が大量療法を4465人のCKD患者(eGFRが60ml/min未満)を対象に行った。結果、RRT(renal replacement therapy;透析)を必要とした患者さんと入院中に亡くなった患者さんはステロイド群でプラセボ群に比して有意に低かった。とくに差が出たのはeGFRが15ml/min未満の群であったという。RRTの適応は固まったものがない(ということは各施設の腎臓内科医、心臓外科医、外科ICU医の合議で決まったということ)ので曖昧な点は残るが、心臓手術におけるAKIはすさまじいmortality risk factorなので、それを減らせる介入手段がひとつ増えるかもしれないと思うと楽しみだ。ちなみにこういう態度を英語でcautiously optimisticという。


ドナーの健康

 移植を受けたい人と、臓器をあげたい人と、移植をしたい施設さえあれば理論上は生体臓器移植が成立するわけだが、その移植医療の質を担保し向上させる仕組みは日本にあるのだろうか。米国のUNOS(united network of organ sharing)はSRTR(scientific registry of transplant recipient)などで各施設ごとや地域ごとのパフォーマンスを公表したり、データ解析の研究を行い質の向上を目指している。国がやっているOPTN(organ procurement and transplantation network)のデータも公開・解析されている(尤も、これらのデータは雑多で、randomizationがなく、後向きなものになってしまうのは否めないが)。
 日本でUNOSにあたるのは臓器移植ネットワークにあたるのだろう。臓器移植ネットワークのウェブサイトに行ってみると、公表されているデータは件数や登録者数に留まっている印象だ。それで日本移植学会のウェブサイトに行ってみると、学会がファクトブックを毎年だしてくれており、そこには日本全体での成績が公表されていた。それによれば日本の移植成績は世界一だそうだ。これは素晴らしいことだが、おそらくまだ移植の件数が少ないので、質の高い臓器をリスクの低いレシピエントに丁寧に移植して、極め細やかにフォローできていることが要因として最も考えられる。
 世界に冠たる日本の移植医療だが、そのほとんどが生体臓器移植であるからには、ドナーの成績も世界一であってほしい。米国にいた頃は「ドナーには手術侵襲以外のいかなる健康上の悪影響もあってはならない」というルールがかなり厳しく守られている印象で、健康エリートみたいな人からしか移植ができなかった。それでか、生体腎ドナーはgeneral populationに比して同等あるいはより長生きし、末期腎不全になるリスクも変わらない(eGFRは移植前の70%程度にさがるが)。ただし血圧は少し高くなり(以前に変わらないというデータを紹介したが、メタアナリシスによればやはり上がるらしい;Ann Int Med 2006 145 185)、African AmericanとHispanicではとくにそう(NEJM 2010 363 724)というデータが出ている。日本はどうなのだろう。
 そんなことを、今日の腎臓関連ニュースレターの論文(Am J Nephrol 2015 41 231)に触れて考えた。論文自体は、生体腎移植ドナーは痛風のリスクはmatched control群と変わらなかったが、痛風を起こしたドナーはAKIやCKDを有意に多く発症していたというもの。また、ドナーで痛風を起こしやすいリスク因子はAfrican American、男性、高齢など(これらはgeneral populationのそれと同じだろうが)だった。痛風や無症候性高尿酸血症とCKDの相関はどちらが卵でどちらが鶏か分からない、みたいな話を以前に書いたが、いまは無症候性高尿酸血症も治療する流れだし、痛風は痛いし、痛風発作の高リスク群ドナーではとくに尿酸をコントロールしたほうがよさそうだ。


2015/05/07

尿中CXCL9とCXCL10

 米国腎臓学会誌(JASN、CJASN)はexpress emailが届くので紙媒体が届く前に読むことができる。今日の論文は、CXCL9とCXCL10についてだった。CXCL9とCXCL10は移植拒絶の炎症でIFNγによって誘導されるケモカインだが、その尿中濃度を測定して拒絶との相関を調べる研究だった(doi:10.1681/ASN.2014080797)。それによれば、CXCL9は主にT-cell mediated rejection(とくにIFTA;interstitial fibrosis and tubular atrophy)に相関し、CXCL10は主にantibody-mediated rejection(糸球体とperitubular capillaryの傷害)に相関するという。CXCL10はantibody-mediated rejectionにおいて腎グラフトの予後(death-censored)に相関し、DSA(donor-specific antibody)陽性単独よりもDSA+CXCL10のほうがantibody-mediated rejectionの相関が強まった。これらのバイオマーカーが生検に取って代わるものではないが、プロトコルバイオプシー(何もなくても定期的にやる生検)を減らすのには役立つかもしれない。


2015/05/03

CKDの集学的治療

 総合診療科スタッフから「保存期CKDの集学的治療についてまとめたよいレビュー論文はありませんか?」と聞かれた。また別のスタッフから「CKD bundle(CKDをみたらこれだけは必ずしようという項目の束)を作りたいので協力してくれませんか?」と相談された。

 質問を受けてまずKDIGOガイドラインに言及したものの、論文となると一瞬はて?となった。しかし記憶をたどると「ああそうだ、この論文(NEJM 2010 362 56)なんかいいんじゃないか」と思い出した。わたしが腎臓内科フェローになる前、まだ内科レジデントだった頃に読んだ論文だ。

 そんなわけでこの論文をサイボウズというコミュニケーションツールで知らせ添付した。ただ私は論文をただ添付して「読んでおいて」と人任せにするのが苦手で、要約を日本語で書いてあげるのを習慣にしている(バイアスは掛かるが、読むのが手間な時もあるだろうから)。この論文のメッセージは2つ、そして隠れたメッセージがひとつある。一つ目のメッセージは「CKDを診たらこれをチェックしましょう」というbundleだ。

 ①原因
 ②体液量・血圧
 ③蛋白尿
 ④電解質・酸塩基平衡
 ⑤CKD-BMD(bone and mineral disorder)
 ⑥貧血・鉄代謝
 ⑦血糖
 ⑧尿酸
 ⑨心血管疾患の予防と治療
 ⑩ESRDへの備え

 フェロー時代、CKDクリニックでは漏らしがないように電子カルテにこれらの項目リストをテンプレートにしておいた(まさにCKD bundleの考え方だ)。

 二つ目は、CKD診療の臨床的意義は進行してESRDに至るのを予防することもさることながら、そこまでたどり着かずに心血管疾患で亡くなる数多くの患者さんたちの命を救うことにあるということ(下図参照)。




 そして隠れた三つ目は、CKD4期になったら腎臓内科医に紹介しましょうということだ。

ESRDと掻痒 2

 こないだ後期研修医に「病棟の看護師さんから『ESRD患者さんの掻痒にメンソールの外用剤はどうですか?』と提案されましたが、そういうことするんですか」と質問を受けた。ESRDの掻痒は以前に勉強したときの記憶では内服薬、外用薬、鍼、紫外線にいたるまであらゆる治療が試され小さなスタディでどれもそこそこの効果を上げている(こういう状況は、だいたいコントロールが困難なことがおおいことを意味する)という認識だったがメンソールは知らなかった。たしかに爽快そうで、エビデンスのあるカプサイシンより効きそうな気もするが。
 これが病棟看護師さんの口から出るということは、日本では結構トライされている診療なのかもしれない。裏を取ろうと検索してみたら、皮膚科医と外科医が書いた短いレビュー(Semin Cutan Med Surg 2011 30 99)のなかで"The addition of soothing topicals containing menthol or pramoxine can be tried."として触れられ参考文献も付いていた(J Dermatol Treat 2009 20 76)。本当は日本の文献検索ツールである医中誌などを参照したり、日本の経験ある透析医に質問してみるべきなのだろうが、まだその習慣がない。日米ハイブリッド医への道は遠い。
 [追加]米国で働いている先生からKIの最近のレビューをいただいた(KI 2015 87 685)。それにも一応メンソールは載っていた。それから活性炭も載っていたのが意外だった。


2015/05/02

Metformin as a potential endocrine disruptor

 病院で医療行為をしているとあたかもそれが病院という閉じた系で完結しているように錯覚することがあるが、当然患者さんがいるのは家庭であり職場であり社会であり、病院もまた社会の一部で外の世界と連結していることは言うまでもない。しかし今回書くのはそれではなく、自分が処方した薬が地球環境や生態系にまで影響を及ぼしている可能性もあるということだ。そんなこと、正直考えたこともなかった。

 ウィスコンシン大学の研究結果(Chemosphere 2015 135 38;まさかこんな論文まで読むことになろうとは…マニアだ)によれば、血糖降下薬のmetforminは、性ホルモンとはまったく違う構造を持つにもかかわらずオスの魚(minnow、姫鮠・ひめはや)の生殖器官を女性化するか、またはオスのままだとしても曝露された魚は生殖力(fecundity)が低下したという。その処方があまりにも大量なので下水処理施設で代謝されきれず、河川に流れ込み湖(今回調査されたのはミシガン湖)に高濃度で溜まっているそうだ。

 Metforminは米国では2型糖尿病の第一選択薬(日本では抗DPP4などの新薬が好んで使われているが)で、安価で比較的安全(乳酸アシドーシスは主にfenforminの話で、metforminと乳酸アシドーシスの相関は私が最後にチェックしたCochrane reviewでは否定されていた;とはいえ全くおきないとは言わないし、腎機能が低下した例では依然禁忌になっているが)なので環境に与える影響が無視できないほど処方されているということか。

 FDA(food and drug administration)はヒトへの安全を管轄する部署だから、日本の環境省にあたるEPA(environmental protection agency)が何らかの規制を掛けるか対策を講じるのだろうか。翻って、病院で発生するバイオハザードと呼ばれる医療感染廃棄物はどこでどのように処理されているのだろう。注射針とか鋭利なものは固い容器に捨てられるが、そのあとどこに行くのだろう。山奥に処理場でもあるのかな。…とここまで考えると、やはり病院は社会の一部だと認識し、病院機能評価やISO14000シリーズなどにも興味が出てくる。

 [2016年6月]環境ホルモンビスフェノールA(BPA)は、ポリカーボネート樹脂にふくまれているので、多くのダイアライザのハウジング(外枠)と膜から流出しうる(実際は燃やすのでどうかわからないが)。またBPAは腎不全患者の血中にたまり心血管リスクや糖尿病悪化に関係するといわれている。

 それでBPA freeなダイアライザがでている。FB-eco®、PES-eco®、MFX(マキシフラックス)-eco®、FIX(ファインフラックス)-eco®シリーズなど。親水化にもちいられるポリビニルピロリドン(PVP)を使わないダイアライザもある。

 なお日本だけで400種類以上のダイアライザ・ヘモダイアフィルタがあるが、膜の材質は7種類だ。技師さんは材質より性能(中分子除去能でI〜V型に分類される)を気にするが、一応特徴を上げると:

ポリスルホン(PS)
 トップシェア
 生体適合性がおおい
 親水化PVPの量が多い、ビスフェノール残基をもつ
 ハイパフォーマンス膜(中分子除去、アルブミン漏出、透析液汚染に弱い)

ポリエーテルスルホン(PES)
 ビスフェノール残基がない

セルローストリアセテート(CTA)
 余計な荷電がなく生体適合性がよい
 膜の細孔構造により透析液汚染につよい
 焼却してもCO2とH2Oしかでない
 抗血栓性
 低分子除去にすぐれるが中分子は苦手
 ドライタイプ、軽量で保管や輸送にすぐれる
 改良型のATA(非対称セルローストリアセテーテト)

エチレンビニルアルコール(EVAL)
 生体適合性がよい
 親水性が高くPVPコーティングを必要としない

ポリメチルメタクリレート(PMMA)
 吸着能に優れる

ポリエーテルポリマアロイ(PEPA)
 ポリアリレートとポリエーテルスルホンのポリマーアロイ
 疎水性つよい、PVPで親水化、透析液のエンドトキシンが血液に流入しない

ポリアクリロニトリル(PAN)、AN69
 積層型(血液圧が高く透析液は血液に入らない;圧が高く破損することも)
 陰性荷電のAN69による塩基性たんぱく、とくにサイトカイン吸着
 ACEIとの反応(アナフィラキシーショック)←第VII因子の活性化でKallikrein-Kinin系が亢進しbradykininが増加するが、ACEIがあるとbradykininを分解するkininase IIが阻害される



2015/05/01

Patiromer

 日本に帰って来て気づいたことのひとつが、日本のほうが圧倒的に多くK吸着剤が処方されていることだった。私はK吸着剤は効果が余りない、また腸管の壁に貼り付いて壊死を起こす副作用があると習って、処方することはほとんどなかった。CKD患者さんでRAAS inhibitorを増やしたいが高K血症があるときにはK制限の栄養指導をしたり利尿剤を追加したりすることが多かったし、透析患者さんで高K血症になりやすい場合は透析液のK濃度を変えることもあった。

 今日、今年はじめのNEJMにK吸着剤の有効性を示すスタディが出たと知った(NEJM 2015 372 211)。新薬はRelypsa社のpatiromerといい、Ca2+をcounterionとする非吸収性のK+吸着剤で、腸管からのK+排泄が最も行われる(内腔K+濃度の最も高い)遠位結腸で主に働くという。また、osmotic diarrheaのもとになるsorbitolの含有量が既存のsodium polystylene sulphonateにくらべ少ないそうだ。

 で、このpatiromerを1日2回内服すると、eGFRが15-60ml/min/1.73m2(ステージ3-4CKD)でRAAS inhibitorを内服している99%白人の高K血症患者さん(約半数が利尿剤も内服している)のカリウムが用量依存的に下がる。すなわち、下がりすぎたら減量する;止めると上がる。11%で便秘の副作用が出たが内服継続を忍容できたという(ただし対象患者さんの約10%が最初の4週間でloss of follow-upになっているからその分はわからないが)。1人が腸間膜静脈塞栓症で死亡したが薬との因果関係はないという。RAAS inhibitorを増やしたいが高K血症のためにできないような症例でよい適応かもしれない。

 しかし個人的にこのスタディで最も驚いたことは、対象患者さん243人のうち151人が「中等度から重症の」高K血症(5.5-6.5mEq/l)でありながら、その値でも何も起こらないなら構わないというわけか普通にフォローされていたことだ。確かに腎臓内科医になると6.5mEq/l以下の高K血症がそう怖くはなくなるが、個人的にはここまでカリウムを「高め安定」で外来フォローしたことはない(このスタディはアメリカ、EU、東欧で行われた)。

 患者の約4割はRAAS inhibitorを「maximal dose」内服していたことから、これくらいカリウムが高くなっても、そのリスクよりもRAAS inhibitionによるCKD進行予防のメリットを優先するプラクティスがなされているということなのだろうか。因みに高K血症による心電図変化がみられた患者さんはスタディから除外されているが、それは別の治療を受けたということなのか、それとも多少の心電図変化があっても病状とK値が安定していれば平然とフォローされているのか。

 次に驚いたのは、COI開示だ。このスタディ自体が薬を作ったRelypsa社のお金で行われたことは当然としても、investigator達が同社の株式を保有していたり、同社のみならずありとあらゆる製薬会社からfeeを貰っていたことだ。Akebia Therapeutics、Janssen、AstraZeneca、Otsuka、Amgen、Merck Sharp、Dohme、AbbVie、Novartis、Sandoz、Boston Scientific、Medtronic、Daiichi-Sankyo、Bayer、Johnson and Johnson、Oxygen Biotherapeutics、Pfizer、Tricida、scPharmatheuticals…、でるわでるわ。スタディに関わるとお金になるんだなと実感した。