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2020/06/12

病理検査室の扉を開けよう!

 以前、腎生検の生検針・切り出しについて投稿した本ブログであるが、そのあとプレパラートと報告書が届くまでの過程については、「ブラックボックス」のままだった。そこで今回、病理検査室の扉の奥に広がる世界をご紹介したい。

 なお、各病理染色の基本事項とその診断的な意義については、2012年に投稿したこちらも参照されたい。




1. 検体作成と染色のプロセス

 
 まず、以下のような過程を経て検体スライドができあがる。

 固定・・中性緩衝ホルマリンなどの架橋剤で、腐敗や自己融解の進行を止める。「中性緩衝」とあるように、リン酸ナトリウムでpHを約7.4に調整し、蟻酸の生成(による核酸の傷害)を防いでいる。

 脱水、脱脂、パラフィン浸透・・パラフィン(ろう)を浸透させなければ、スライスしてもギザギザになって切片が作れない。そのために、まずエタノールやメタノールなどで検体の水分を除く。アルコールはパラフィンとの親和性がないため、キシレンなどの溶剤に置換してから、パラフィンを浸透させる。

 なお、この過程は「密閉式自動固定包埋装置」なるもので約24時間かけておこなわれるところもあるようだ。

 包埋(ほうまい)、薄切(はくせつ)・・包埋カセット(または包埋皿)に載せてパラフィンを注ぎ、パラフィンブロックを作る。そして、それをミクロトームとよばれる極薄の裁断器でスライスし、そっと切片をスライドグラスに載せる。載せるときには、刷毛、ろ紙、筆などの小道具が用いられる。

 これだけでも2日はかかるが、そこから染色が始まる。PAS染色を例に挙げると、こんな工程だ(あくまでも一例、施設ごと微妙な違いがある)。

脱パラフィン→脱キシレン→水洗→1%過ヨウ素酸→流水水洗→シッフ試薬→メタ重亜硫酸→水洗→ヘマトキシリン→水洗→塩酸アルコール→ 色だし(ぬるま湯)→水洗→脱水→透徹→封入

 いかがであろうか?筆者は研修医時代に「グラム染色は自分でやるべし!」と教わったが、検査室を散らかし白衣を染めるばかりで、(向いてないな)と諦めたことがある。だから、上記をみただけでも「染物師」ならぬ検査技師さんたちに頭が下がる。

 しかし、外注先から送られるのに2週間はかかる光顕スライドが、3-4日もあればでき上がるなんて、素晴らしいことだ。だから、もしそんな恵まれた施設にいるなら、技師さんたちに感謝しながら「染まりました?」と気持ちよく検査室のドアを叩きたい。


2. 各染色について

 
 ここまでは「社会科見学」のようなものだが、さらに病理検査室の窓から広がる世界を紹介したい。

A. ヘマトキシリン

 「ヘマト」は血、「キシリ」は木のこと(木琴のxylophone、木糖ともよばれるxylitolと同語源)。中央アメリカに生育するマメ科の木(Hematoxylon canpechianum)の幹から取れる染料だ。

 マヤ文明では薬としても用いられていたそうだが、スペイン人の到着により染料として大量に輸出され、ユカタン半島西部にある積み出し港カンペチェの繁栄をもたらした。そして、その富を狙うパイレーツ・オブ・カリビアン達の度重なる襲撃を受けることにもなった。


世界遺産、サン・ミゲル要塞
(出典はこちら


 なお、ヘマトキシリン自体は無色。その誘導体ヘマテインとアルミニウム錯体ヘマルムが色を放つ。それらの濃度や配合のちがいにより、マイヤー・ギル・カラッツィ・ハリスなどさまざまなブランドがあるようだ。

B. エオジン

 プロシア領(現ポーランド)生まれの化学者ハインリヒ・カロ(1834-1910)が、Chemische Fabrik Dyckerhoff Clemm & Co.(現在の化学メーカー最大手BASF)にいた頃、フルオレセインの研究過程でみつかった染料で、細胞質などを薄赤~ピンクに染める。

 そしてなんと、その名の由来は彼の幼馴染アナ・ピータースのあだ名、エオス(ギリシャ神話にでてくる、暁の女神)にちなむ。「ばら色の指」と形容されるエオスだが、アナもそのように美しい指をしていたのだろうか。


イヴリン・ド・モルガン『エオス』
(出典はこちら


 現在よく用いられるのはエオシンYで、1902年にノーベル化学賞を受賞したエミール・フィッシャー(1852-1919)が発見したもの。そして、ヘマトキシリンとエオシンを最初に組み合わせて報告したのはロシア・カザン帝国大学の講師、Wissowzkyとされる(Archiv für mikroskopische Anatomie 1876 13 479)。

C. PAS

 PASのPAは、過ヨウ素酸(per-iodic acid、HIO4)。最高酸化数(+VII)のヨウ素をもつ強力な酸化剤だ。それにより多糖類からアルデヒド基が立ち上がり、そこにSchiff試薬が反応して赤色になる。

 なおSchiffとは、ドイツ出身の化学者ユゴー・シフ(1834-1915)のこと。尿素をはじめて合成した有機化学の祖、フリードリヒ・ヴェーラーに師事していたが、政治的な理由でイタリアに移住・帰化した(ヴィクトル・ユゴー著『レ・ミゼラブル』のクライマックス、1832年の6月暴動と同世紀のことである)。


『民衆の歌』より
(出典はこちら


D. PAM

 Periodic acid methenamine silver、つまりPASとメセナミン銀染色をあわせたものだが、米国ではもっぱらJones' methenamine silver (JMS)と呼ばれる。考案したのはデヴィッド・B・ジョーンズ先生(1921-2007)で、SUNYシラキュースで永らく教鞭をとり研究をつづけた腎病理医だ(染色を有名にした論文は、Am J Pathol 1951 27 991)。

E. マッソン・トリクローム

 マッソンとは、Claude L. Pierre Masson先生(1880-1959)のこと。フランス生まれでパリ大学医学部をでて、パスツール研究所・ストラスブール大学で神経内分泌学や脳腫瘍病理などで業績を残すかたわら、この染色を編み出した。

 トリクロームとは3色の意味だが、本来は赤血球(鮮やかなオレンジ~赤)、フィブリン・筋線維(赤)、コラーゲン線維(青)の違いを区別できる染色という意味だったようだ(実際は、鉄ヘマトキシリンで核を黒く染めるので、黒・赤・青の3色)。

 赤と青では2色だが、背景の白で(フランス国旗のように)3色なのかもしれない。筆者としては、1927年にモントリオール大学に移るまで第3共和政時代のフランスを生きたマッソンが、トリクロムとトリコロールにどんな思いがあったのだろうかも興味深い。


フランス王家の紋章を抱く、ケベックの旗
(出典はこちら


F. コンゴ・レッド

 最後にコンゴ・レッドの由来について。1883年、バイエル社にいたポール・ベッティンガー(生没年は未確認)が発明した染料だが、その由来は翌年にビスマルクの主導で開催された「コンゴ会議」だ(英語では西アフリカ会議、日本語ではベルリン会議とも)。

 この会議はコンゴ地域の領有をめぐる欧米列強の争いを調停する目的で開かれた。しかし、この会議により列強によるアフリカ支配の原則が確認され、以後アフリカ分割が本格的に進行することにもなった。


会議の様子(出典はこちら


 とにかく当時、ドイツでは「コンゴ」が流行語だったらしく、キャッチーだとして命名されたのがコンゴ・レッドだ。バイエル社・BASF社・Hoechst社に特許申請を断られたベッティンガーとしては、売り込もうと必死だったのかもしれない(最終的にAGFA社が合意した)。


☆ ★ ☆


 いかがであろうか?当たり前に鏡検している染色の裏に、このような世界史とドラマがあったなんて、筆者としては驚きだった(ちょっとした旅行気分も味わえた)。コンゴ・レッドの命名は複雑だが、今後アミロイド染色は、コンゴレッドよりよく染まるダイレクト・ファスト・スカーレット(DFS)に替わっていくのかもしれない。



東大寺の金剛力士像
(出典はこちら


 

2020/04/20

少し時代に乗って~COVID-19と腎臓 Part4~

今回は少しCOVID-19の腎病理の話に触れていきたいと思う。
主には中国からのKidney internationalの報告をまとめたいと思う。

まず、この報告ではCOVID-19の病理解剖26例を検討している
(死亡率に関しては、国ごとにも異なるが、0.3-10%程度である)。
■患者は平均69歳で、男性19人、女性7人。
■死亡は全例呼吸不全で、7症例が多臓器不全を併発(死亡時点での腎不全はわかっていないものも多い。)
病理所見としては
 ・全例で急性尿細管障害・壊死(ATI/N)が認められた(9症例は重度であった)。←これは以前の報告でも同様であった。
 ・2症例は炎症浸潤や細菌などの所見もあり、腎盂腎炎を認めた
 ・3症例に糸球体血栓症が認められた。
 ・全例に高血圧に伴う血管変化が見られた(18症例は中等度〜重度であった)。
 ・免疫複合体沈着は1症例のIgA腎症を除いては明らかなものはなかった。


上の表が26名の患者さんの左から光学顕微鏡所見、電子顕微鏡所見、蛍光抗体検査所見になっている。興味深いのは、全例にATI/Nが認められていること、年齢平均からも当然かもしれないが、動脈硬化がある症例が全例であるということである。

続いての上表が患者の採血結果や尿所見や既往歴になる。
・得られていない情報もあるがCrが正常な患者さん(単位がμmol/Lなので、mg/dlにするには88.4で割ればいい)も多い(実際に報告でAKIの割合は感染者の0.9-29%と幅広い)。
・既往歴としては、基礎疾患をもっている人が多い。
・尿所見に関しては得られているケースは少ないが、得られている中ではかなりの割合で尿異常所見をきたしている可能性がある。


では、実際の画像所見を見ていこう。


上記は光学顕微鏡所見になる。
一番上段のa,bでは近位尿細管に注目している。aでは近位尿細管のBrush borderの脱落を認めておりATI/Nの所見と判断できる。bでは、尿細管細胞の空胞化(vacuolization)を認める。これは、ATI/Nの際にも認めるが、これらの症例の場合には重症症例に対するマンニトールや免疫グロブリン製剤の投与に伴う二次性の変化が考えられる。
c,dでは炎症細胞浸潤を見ている。cでは尿細管にdでは血管への浸潤を示している。
eでは尿潜血陽性の4症例に見られた尿細管上皮内のhemodsiderinの沈着を見ている。
fでは、横紋筋融解症に伴うものと考えられるpigmented castが認められる。
gでは、3症例に認められた糸球体内血栓を示している。
hでは、7症例で、pseudocrescent(ボーマン嚢スペースに血漿の滲出物) の所見を認めている。

*ATI/Nは多種の原因で起こりうることには注意する必要がある。これは、COVID-19の別の報告でも言われている。
*COVID-19は血栓リスクも増加させ、今回の採血検査データでもあったようにD-dimerの上昇を認めることも一つの特徴である。
*また、別の報告になるが、黒人においてCOVID-19感染でAPOL1 nephropathyの増悪を起こしCollapsing glomerulopathyを起こすことが示唆されている(Toll-like receptorを介したりや樹状細胞の活性化によって全身の炎症反応を惹起し、これがAPOL1 nephropathyのsecond hitになっていると考えられている)。


続いて電顕所見を示す。
a-dはVirion(細胞外のウイルス本体)であり、大きさは65-136nmで、周囲に20-25nmの独特のspikeを認める。aは近位尿細管、bは遠位尿細管、c,dはpodocyteの部分にあることをしめしている。
TMAで認めるようなFibrin factoidsや血小板の集合体はCOVID-19の症例では認められていない。


最後は蛍光染色であるが、これで注目するのはACE2の染色である。基本的にはACE2は近位尿細管に発現しているが、COVID-19感染では過剰発現をしている。発現の主体はATIが生じる近位尿細管の部分だが、ボーマン嚢上皮やPodocyteにも染色されていた。dはCOVID-19の核蛋白に対する染色を見ているが、尿細管上皮に発現が見られていた。


まだ報告症例が26例と少ないというところ、全症例のデータが完全ではないところ、コントロールがないところなどはlimitationとしては挙げられるが、本邦でも症例は増加しており、非常に参考になるのではないだろうか?
個人的には、全身状態が悪化している症例に対して、通常通りだが過剰な輸液は避けつつ全身管理を行うことは非常に重要だなと改めて感じた。

少しずつみんながコロナに慣れてきて、甘くなるときが本当に危険である。このような腎障害は起こさないほうがベストである!


2019/10/29

半月体形成をみた時に考える疾患

半月体形成性腎炎を見た時にどんなことを考え、どんな疾患を想起するだろうか?

カンファレンスとかでもこの疾患は半月体になるの?とか話題になるはず!
そんな時に少しでも助けになる話になれば。

・半月体って?

まず、半月体は基本的には修復過程でできているということを是非覚えていもらいたい。
糸球体の毛細血管に強い炎症が起こり、血漿蛋白がボウマン嚢へ漏出し、ボウマン嚢がそれを感知してボウマン嚢上皮を増殖させ、それを防ごうとする。そのボウマン嚢の増生によってできるのが半月体である。


・では、半月体形成=腎臓は手の施しようがない状況なのか?

これに関しては、答えはNoである。
半月体形成は重度糸球体障害の結果であり原因ではない。半月体形成は糸球体の修復過程なので瘢痕もなくなおることも多く報告されている。
半月体がなおるか治らないかはボーマン嚢の障害の状況と半月体細胞成分の構成のものによって変化する。
ボウマン嚢の破壊や構成成分が線維芽細胞やマクロファージが著明の場合には線維性半月体に進展し糸球体瘢痕につながると報告されている。

・半月体を見た時にどんな疾患を想起するか?

下図は2003のKIのを簡易的にまとめたものである。


やはり我々がすぐ想起する抗GBM抗体症候群やANCA関連は多い。
意外にもヘノッホ・シェーンライン紫斑病の割合が高い。
また、糖尿病や膜性腎症でも起こりうるというのは改めて勉強になった。


腎臓内科医にとって半月体はあまり患者さんの病理では見たくない所見ではあるが、このしっかりとした解釈をすることは非常に重要である。




2018/09/08

腎臓の組織が膨化??

 今日のメインはこちら。一緒にブログ書いている友人から腎生検のレポートの組織結果レポートで腎組織が膨化している所見がしばしば返って来ることがある。とのこと。

 あまり自分では意識しておらず、これを機に調べて見た。

 通常の日本での生検は生検後に生理食塩水に浸したガーゼなどで包んで、病理検査室に持って行き、処理をしてもらうことが多い。

 膨化するとしたら、この生理食塩水が悪いのか?とおもったら、本邦で2015年に報告があった(Pathol Int 2015)。

 このグループでは、2匹の雄のラットの腎臓を使って研究している。

・一つは生理食塩水に浸した群
・もう一つは低張なソリタT3やソルデムT3に浸した群
である。

 10分と30分における所見の変化を見ている。ポイントとしては、電子顕微鏡での変化であるということである。光顕での変化は判断は難しい。

 結果としては下記のようになっている。










 生理食塩水に浸していた群で膨化の所見が認められている。

 もちろん人間の体に全ての適応ができるわけではないが、患者さんから同意を得て腎生検をした組織を僕らの管理の仕方で、missleaingするような形は避けるべきである。

 この論文を読んで、組織をとってすぐに病理室に持っていけない場合(30分以上かかる)などは低張液で浸すのがいいなと感じた。

 しかし、低張液の小さいボトルなどがあればいいのだが。。

 なければ、ブドウ糖と生食で混ぜて作るのもひとつかもしれない。




2017/08/29

赤ちゃんに学ぶ 4

 腎臓のFcRnとIgGについては、とくに足細胞の研究が知られている(PNAS 2008 105 967)。足細胞のFcRnは、基底膜からIgGを取り込み除去する働きがある。基底膜をすり抜けるが足細胞(のスリット)をすり抜けないIgGのような物質は、理論上基底膜を詰まらせる。透析膜の孔がつまるのと同じ考えだ。

 そしてIgGが基底膜に詰まっては、免疫複合体とか補体とかが沈着して炎症など面倒なことになる。腎生検の電子顕微鏡で腎炎・ネフローゼにみられるelectron dense deposit(高電子密度沈着物、図は日本病理学会による病理コア画像から)など、まさに基底膜に沈着した免疫複合体をみている。





 それでは困るので、足細胞が基底膜からIgGを除去していると、この論文からは考えられる。実際マウスに高濃度のIgG注射をおこなうと、(足細胞のFcRnが飽和するためか)基底膜にIgGが沈着した。またアルブミンを注射した(FcRnの飽和を意図した)マウスにネフローゼをおこす抗体を極少量注射しただけでも、蛋白尿がみられた。

 蛋白尿=基底膜の異常=基底膜の病気、というわけでは必ずしもなくて、内皮細胞や足細胞の病気(足細胞病、という言葉もある)ととらえなおされている、という枠におさまるお話だなと思う。前の投稿によれば、そこにさらに近位尿細管も加わるのかもしれない(たとえば、糖尿病性腎症やAlport症候群に治験されているバルドキソロンは糸球体の炎症を抑えるが、尿細管ではmegalin発現をさげて蛋白尿を起こす;JASN 2012 23 1663)。

 なお、その近位尿細管は足細胞を通り抜けたIgGをアルブミンのように再吸収するかと言うと、そうではないらしい(JASN 2009 20 1941)。これが、尿路の免疫として身体を守っているという説を唱える人もいる(J Immunol 2015 194 4595)が、いまだ推測の域をでていない。

・ ・ ・
 
ここまで赤ちゃんがお母さんから免疫をもらう話にはじまり、FcRnをテーマに創薬、免疫疾患、腎臓でのアルブミンやIgGのろ過や再吸収まで、領域横断的にみてきた。ワーズワースはMy Heart Leaps Upという詩の中で子供は大人の父である(The Child is the father of the Man)と言ったが、赤ちゃんから学べることはたくさんある。

 そしてこの詩はこう終る;

I could wish my days to be
Bound each to each by natural piety.

 (虹をみて心が躍る少年のように)自然を敬う心に満ちた日々を送れますように、というような意味だ。

 


2017/03/07

久しぶりに投稿です。(移植の腎病理 IF/TAについて)

久しぶりに投稿です。
すみません、この2−3週間は一つのことに集中しなくてはならなかったので、投稿ができていませんでした。今日一段落ついたので、少しずつ再度投稿していきます。

移植腎の腎生検は理解しなくてはいけない内容であるが難しい。。
やはり、難しい理由としては腎炎の再燃以外に移植特有の拒絶という問題が生じるためである。
拒絶反応は細胞性免疫機序、抗体関連免疫機序に大別される。

萎縮尿細管や間質繊維化を呈する慢性移植腎症の中で原因の明確でないものをIF/TA(interstitial fibrosis and tubular atrophy)と呼ぶ。
つまりこの言葉は、特別な病態がないけど、慢性経過で腎機能障害が進行するというものを示している。
なので、移植後十年以上経過して、腎機能が徐々に悪くなってきたときに、この症例はIF/TAだねっていうのは容易い。

しかし、IF/TAという言葉は特別な病態がないということが前提である。いわゆる低ナトリウム血症におけるSIADHと同様である。
IF/TAには重症度分類があり、間質の繊維化によって分かれる。
Ⅰ:尿細管萎縮を伴う軽度の間質繊維化(皮質領域の<25%)
Ⅱ:尿細管萎縮を伴う軽度の間質繊維化(皮質領域の26-50%)
Ⅲ:尿細管萎縮を伴う軽度の間質繊維化(皮質領域の>50%)

移植の腎生検でもしっかりと鑑別をして、患者さんの治療の方向性を決めてあげるということは本当に重要なことだと感じる。


2016/11/16

腎病理の蛍光染色に関して

腎病理において蛍光染色の理解が自分は不十分である。
蛍光染色は何のためにするか?
:主にタンパクなどの抗原性を有する物質に対して特異的に作用する抗体で抗原抗体反応を起こすことで組織中の物質を検出しようとするもので、これを蛍光抗体法(Immunofluorescence Microscopy:IF)という。これは蛍光色素を標的とするため光る。
これの例としてはIgG,IgM,IgA,C3,C1q,κLC,λLC,C4dなどである。

しかし、逆に不溶性色素を生成する酵素を標的とした抗体を用いる方法が酵素抗体法と呼ばれる。
これの例としてはSV40,CMV,amyroid proteinなどである。

想像はつくだろうか?

あとは、どの疾患に何がつくかではあるが、基本的には糸球体の構造を念頭に置き、係蹄壁かメサンギウム領域につくかを考える。
あとは沈着パターンであり、係蹄壁の沈着が線状か顆粒状かである。

例えば、IgA腎症:メサンギウム領域にIgA、C3沈着がある。膜性腎症では係蹄壁に顆粒状にIgG、C3沈着がある。感染後糸球体腎炎、膜性増殖性腎炎では、メサンギウム領域・係蹄壁にIgG、C3沈着がある。糖尿病性腎症や抗糸球体基底膜抗体症候群は係蹄壁に線状にIgG沈着する。

ただ、基本的には蛍光染色は確定診断となりうるのはIgA腎症やC3腎症などくらいであり、あとは膜性腎症の際の特発性であればIgGのサブクラスでIgG4が優位となるなどの点かと思う(今はPLA2Rもでて、特発性の診断も容易になった。)

まとまったものとしてはheptinstall's Pathology of the kidneyにあるため参考にしていただきたい。







2013/03/07

PIGN v. C3GN

 Post-infectious GNについて、①最近の感染症、②補体の低下、③糸球体に好中球(exudative GNともいう)、④免疫蛍光染色でC3がメインに陽性、⑤hump(こぶ)様のsub-epithelial deposit。五つのうち三つがあれば高確率で診断できると提案されている(Medicine 2008 87 21)。

 これと紛らわしいのが、感染症を契機に補体が活性消費され蛍光抗体染色でC3陽性(免疫グロブリンは陰性)になるC3 nephropathyだ。うちでも紛らわしい症例がbiopsy conferenceで議論され、最近の論文も紹介された(AJKD 2012 60 1039)。ふたつをどうやって見分ければよいのだろうか。

 私はpost-infectiousはC3 depositionが主にmesangial、C3 nephropathyはcapillary loopと思っていたが、腎病理医によるとそうでもないと。EMのsubepithelial humpはpost-infectiousに特徴的らしい。Time courseがpost-infectiousなら一回きり、C3 nephropathyはだんだん腎機能が悪化するかもしれない。


2012/06/07

tram track

 腎病理で学んだ断片的な知識を貯めて、少しずつ様子が分かるようになってきた。"Starry sky pattern"の免疫蛍光染色は、電顕のsubepithelial deposit(hump)。"lumpy bumpy hump"と覚える。subepithelial depositはpost-infectious GNとmembranous nephropathyで見られる。基底膜の中にdepositが溜まると、銀染色で基底膜が黒色、depositはピンク色に抜けるので"tram-track"に見える。慢性腎症の典型的な蛍光染色はdiffuse global granular capillary loop IgG and C3 stain。

 HyalineとfibrinはどちらもHE染色でピンクだが、前者はtextureがhomogeneous、後者はcoarseだ。Trichrome染色で前者は青、後者は赤に染まる。尿細管が膨れて見えるが核がちゃんとしている(膨れていない)時、検体がalkalinized sample(artifact)を疑う。Bowman嚢にはBowman嚢のepithelial cellsがあるが、tubular take offに近い場所にはtubular cellsが見えることもある。また高血圧でperiglomerular fibrosisが見られることもあり、これはfibrous crescentと区別がつきにくい。

 尿細管のasymmetric vacuolizationといえばCNI toxicityが有名だが、他(toxin、ischemia)でも起こる。CNIによるものは、典型的にはvacuoleが大きく泡のように見える。BK nephropathyを疑ったときに用いる染色はSV40 large T antigen。これはポリオーマウイルス全般(BKもJCも)が染まる。podocyteとcrescentの区別がつきにくい時には、前者に特異的なprotein dropletを探すとよい。

2012/05/23

4 structures

腎病理で注目するのは四つ、糸球体、尿細管、間質、そして血管だ。糸球体ではまず何個あって、うち何個が硬化しているかをざっと見る。そのあとで一個一個を詳しく見て、capillary loopは開いているか、mesangial spaceはどうか(細胞数は多いか = proliferation、基質は広がっているか = mesangeal expansion)、urinary spaceは大きいか、urinary spaceに細胞はたまっているか(辺縁にあればcrescent、capillary loop間にまで入り込んでいればただのdebris)、などを見る。

 尿細管はbrush borderはあるか(PAS染色が見やすい)、細胞が小さいあるいは核が膨れているか(tubular atrophyのサイン)、尿細管内(基底膜の内側)に炎症浸潤はあるか、あるいはmicro-cystic dilatationはあるか(タンパク質が大量に漏れ出て尿細管のなかで便秘の様になっている状態、FSGS、HIVAN、obstructionなどで見られる)などを見る。

 間質は、線維化の程度をみたり、炎症浸潤の程度などをみる。血管は、色んな太さの枝がある。capillaryはもっとも小さく、移植腎病理ではperitubular capillaryへのC4d染色がAMR(急性免疫性拒絶反応)の診断に用いられる。

 糸球体とおなじくらいの直径を持つ血管がinerlobular artery、それより小さいとpre-arteriole、arteriole。interlobular arteryになると血管壁にelastic laminaが含まれるようになり、それより大きいとarcuate artery、segmental arteryとなる。しかしそんな太い血管を腎生検で傷つけていたら大変なので、arcuate artery以上の血管が標本に見えたら病理医は腎臓内科医にすぐさま報告する。

rainbow-color renal pathology

 腎病理は、月1回、腎臓内科全体のbiopsy conferenceと、フェロー用の教育カンファレンスがあるが、不十分と感じていた。なんとかお手軽に基本的なことを系統的に学ぶ方法はないかなと思っていたら、開業医の先生方を招くイベントで"renal pathology"というセッションがあったので参考になった。

 そこでは、腎病理に特徴的な多種の染色について主に説明していた。

 まず基本のH&E染色。ヘマトキシリンは塩基性pHのため、酸をよく染める。DNAはリボ核酸なので、核がよく染まる。壊死組織ではヘマトキシリンが染まらず、標本が真ピンクになる。エオジンは酸性pHで、細胞質とかがよく染まる。染まり方で、chunkyならfibrin(つまり塞栓)とか、ある程度染まっている構造物を特定できる。

 Jone's methenamine silver染色(JMS)は、glycosaminoglycanを染め、糸球体の基底膜と尿細管の基底膜が黒くなる。膜性腎症でspikeが見られることや、糖尿病性腎症で糸球体にlaminarな縞が入った結節、Kimmelstiel-Wilsonが見られることは有名だ。

 同じように基底膜をよく染めるのがPAS(periodic acid-Schiff)だ。他にmesangiumも染まる。これはglycogen、glycoprotein、proteoglycaなど多糖類を染める。Periodic acidとはper-iodic acid、つまり過ヨウ素酸ということで、ヨウ素なだけあって濃紫色だ。この染色のほうが、移植腎でtubulitisの診断をする際に浸潤細胞が尿細管基底膜の内側かどうかが見やすいらしい。

 Tricrhrome染色では、collagenが青色に、fuschinophillicなfibrillinやmuscle fiberが赤色に染まる。すまわり青色の比率で線維化の程度が評価でき(25%以下がmild、50%以下がmoderate、50%以上がsevere)、赤色は血管を評価するのに役立つ。

 Congo-red染色はamyloidを染め、偏光顕微鏡でgreen-appleなbifringenceを示すことはよく知られている。染まり方によってある程度アミロイドの種類がわかるが、いまはMayo Clinicがmass spectroscopyで調べてくれる。ここまでで時間になったので、蛍光顕微鏡、電子顕微鏡は、また今度ということになった。

 本当は、医局にAgnes Fogo先生の"Fundamentals of Renal Pathology"もあるし、自分で勉強すればいいわけだが・・。こうした数少ない機会に、学んだことを貯めていこう。卒業したら、腎臓内科の専門医試験でも頻出だし!


2011/07/29

TRI

 こちらにきて沢山の症例を毎日見ているが、腎生検は二件しかしていない。今日はその一件について、みんなで回診中に腎病理の先生のところまで話を聞きに行ってきた。そしてtubulo-reticular inclusion(TRI)のことが勉強になった。先生によればこれはinterferonによるものらしく、それを惹起するウイルス感染、炎症(とくにlupus)、それにinterferon治療そのものなどが主な原因という。ただしlupusであれば、多くの場合免疫複合体の沈着が見られるらしい。