ラベル MRA の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル MRA の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

2020/12/04

FIDELIO-DKDスタディ

 「ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)をARBまたはACE阻害薬(ACEI)に追加すれば、eGFR低下率を抑えられるか?」という問いは、大規模試験で未検証であった。それで、「AKIと高K血症をおこさなければ使ってよい」と暗然ながら了解されていた。

 しかし昨日、2型糖尿病をもつCKD患者約5600人をランダム化して新規MRAフィネレノンの追加効果を調べた多国籍スタディ、FIDELIO-DKDスタディが発表され(NEJM 2020 383 2220)、平均2.6年のフォローアップでeGFR低下(40%以上の増悪)などが介入群で有意に低下していた。


ベートーベンが完成させた唯一のオペラ、フィデリオ
(Wikipediaより引用


 日本も参加したスタディであり、認可は時間の問題だろう。フィネレノンはカリウムが上がりにくい「非ステロイド選択的MRA」だそうで、そうした治療選択肢が増えるのは喜ばしいことである。

 ただ、(AKIや高K血症になった患者を紹介されるかもしれない)腎臓内科医としては、どうしても慎重にならざるを得ない。そこで、患者背景や有効性などについて思いつく以下の4点を考察したい。


1. eGFR


 まず、本スタディはeGFR25ml/min/1.73m2未満を除外している。「リアル・ワールド」においても、腎臓内科外来などではCKDが4-5期と進行する過程でRAA系阻害薬を中止せざるを得ない(透析開始後に再開)ことがよくある。認可時にどのような禁忌・慎重投与がつくにせよ、こうした例に開始する場合は注意が必要だろう。


2. ARB/ACEI 


 また本スタディでは、ほぼ全例がどちらかを「添付文書の範囲内で患者が忍容できる最大量(maximally tolerated labelled dose)」内服してランダム化を受けている。しかし、添付文書上の最大量を内服していたのはACEI群の約22%(咳のためか?)、ARB群の約55%であった。

 そうした患者で本当にACEI・ARBを増やせなかったのか、フィネレノンだったからこそ追加することができたのか、(添付文書の最大量まで使ってから別のを追加することの多い)筆者としては少し疑問である。


3. K降下作用のある薬


 K降下作用のある薬がどのように併用されていたかも気になるところだ。まず利尿薬は半数以上が内服していた。また、吸着薬(こちらも参照)はベースラインで約2%、スタディ開始後は介入群で10%(プラセボ群は6%)に使われていた。

 しかし筆者が注目したのは、両群ともベースラインで患者の約64%がインスリンを使用しており、彼らの多くはスタディ開始後に導入されていたことである(表S3によれば、患者の約47%とある)。

 患者のベースラインHgbA1cは平均7.7%と「あと一歩」なので、インスリンのよい適応だろう(そう考えてスタディを組んだのなら流石だが・・交絡には留意が必要だろう)。逆に、RAA系阻害薬を増量したいがカリウムが気になる場合は、インスリンも考慮してよいのかもしれない。


4. SGLT2阻害薬・GLP1受容体アゴニストとの関係


 最後になるが、じつは本スタディのサブ解析では、残念ながらSGLT2阻害薬・GLP1受容体アゴニストの併用患者におけるプライマリ・アウトカム発生率が介入群よりプラセボ群でむしろ低かった(ただし有意差はなく、併用患者数はそれぞれ全体の10%未満であった)。

 今となっては、「ARB/ACEIを忍容最大量内服しているがSGLT2阻害薬・GLP1受容体アゴニストを内服していないDKD患者」にまず追加すべきは、MRAよりもSGLT2阻害薬かGLP1受容体アゴニストなのかもしれない。

 だから、論文著者もSGLT2阻害薬・GLP1受容体アゴニストを内服している患者にもMRAを追加する利益があることを示したかったと推察される(考察でも、CREDENCEスタディとの違いが強調・詳述されている)。

 それが示せなかったのは残念だが、RAA系阻害とSGLT2阻害は相殺的でなく相補的と思われる(個人的には、そう思いたい)。これについては、今後も検討されていくことだろう。

  

 ともあれ、CKD診療(とくに蛋白尿のあるDKD)の本丸であるRAA系阻害において、今まで微妙だったARB/ACEI+MRAの組み合わせが「アリ」になったなら朗報だろう。結果待ちのFIGARO-DKDスタディにも注目したい。



モーツァルトのオペラ、フィガロの結婚
(Wikipediaより引用


2020/01/15

カリウムなんか怖くない?

 スピロノラクトンはRALES(NEJM 1999 341 709)でHFrEF、PATHWAY-2(Lancet 2015 386 2059)で難治性高血圧、エプレレノンはEPHESUS(NEJM 2003 348 1309)で心不全合併の心筋梗塞、EMPHASIS-HF(NEJM 2011 364 11)でNYHA2度のHFrEFにおいて、それぞれ有効性が示されるなど、エビデンスの集まる、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(mineralocorticoid receptor antagonist, MRA)。

 さらに、特許のほぼ切れたACE阻害薬・ARBにつづく「第三のRAA系阻害薬」として、MRAの新薬開発が進む。昨年は非ステロイド系MRAのエサキセレノンが上市され、フィネレノンも海外で治験中だ(FIDELIO-DKDはNCT02540993、FIGARO-DKDはNCT02545049)。

 しかし、MRAもRAA系阻害薬である以上は、高カリウム血症と腎障害が問題になりえる(下表は、添付文書を元に筆者が作成)。




 このうち、高カリウム血症について、新規カリウム吸着薬Patiromer(こちらも参照)の会社(こちらも参照)が「うちの薬をつかったら解決するのでは?」と考えて組まれたのが、AMBERスタディ。その第二相が昨年でていた(Lancet 2019 394 1540)ので、遅ればせながら報告する。

 AMBERは欧州・英国・南アフリカ・米国など10カ国の他施設スタディだ。対象は、eGFRが25-45ml/min/1.73m2(平均35-36)で、カリウム濃度が4.3-5.1mEq/lの難治性高血圧患者が約300人(半数が女性、99%が白人)。うち約50%がβ遮断薬、約70%がカルシウム拮抗薬、ほぼ全例が利尿薬とACE阻害薬ないしARBを内服していた。重曹については、本文には記載がなかった。

 スタディはこうした患者をパティロマー群とプラセボ群にランダム化し、スピロノラクトンが血圧・カリウム値・腎機能によって0-25-50mg/dに調節された(eGFRが4週以上にわたり30%以上ひくければ中止する、など)。また、パティロマー(またはプラセボ)はカリウム値によって0-6包/dに調節され(1包は8.4g)、平均使用量は1包/dであった。

 プライマリ・エンドポイントは介入12週間後の「スピロノラクトン継続率」で、パティロマー群で有意に高く(86% v. 66%、p<0.0001)、50mg/d内服できていた割合も高かった(69% v. 51%、有意差の記載はなし)。予想されるように、プラセボ群では5.5mEq/l以上の高カリウム血症が多く(約60% v. 約30%、有意差の記載はなし)、スピロノラクトン中止理由の約2/3を占めていた。


 エンドポイントや有意差がやや商業的な感は否めないが、ともかくこれで、オオカミならぬ「カリウムなんか怖くない」、だろうか(下図は1933年のディズニー映画『三匹のこぶた』で、レンガの家を作る1匹を残りの2匹が笑う歌、"Who's Afraid of the Big Bad Wolf")?


(出典はこちら


 そうであってほしいが、いくつか懸念される点をあげておく。たとえば、カリウム吸着薬による消化器症状や消化管穿孔(こちらも参照)は大丈夫か?AMBERでは(新規吸着薬なだけあってか)下痢に有意差がなく、消化管穿孔の報告もなかったようだが、より長期の使用では注意が必要だろう。

 次に、RAA系阻害薬を重ねることによる腎機能障害は吸着薬で解決しないのでは?AMBERでは、どういうわけか12週時点でのeGFR低下はプラセボ群のほうが多かった(2.1 v. 1.4ml/min/1.73m2、有意差の記載はなし)。「ACEI/ARBとMRAの併用」は「(NEPHRON-Dスタディなどで腎機能障害が問題になった)ACEIとARBの併用」などと違う、というのならよいが(これについては論文でも考察されていなかった)。

 最後に、吸着薬を使ってでもMRAを加えたほうがよいのか?という根本的な疑問。じつはAMBERでは、MRAの継続率の高いパティロマー群と、継続率の低いプラセボ群で、12週時点の血圧に有意差はなかった。冒頭の各種スタディからは、「同じ血圧でも、MRAを加えたほうが心予後や生命予後が良さそう」とも類推されるが・・。


 新規カリウム吸着薬は日本でも治験中だし、そのうち認可されることだろう。またMRAも、フィネレノンなど今後も新たに認可されるかもしれない。新薬がふえるのは結構だが、どのように治療に取り入れるか。こうしたスタディを他山の石として、今から慎重に考えておきたい。

 
 
こちらより改変)

2012/11/03

Beyond ACEI/ARB

 ACEIとARBを最大限に用いても持続する蛋白尿には、spironolactoneが用いられる。Aldosteroneは腎臓でENaCに作用するだけでなく、線維化、左室肥大、内皮細胞障害などにも関わることが分かっているし、ことに循環器領域ではEPHESUS(Circulation 2009 119 2471)など複数のスタディでMRA(mineralocorticoid receptor antagonist)の有効性が示されている。腎臓、蛋白尿についてはどんなデータがあるのか?

 1996年にGreenらがACEI/ARB投与ラットにアルドステロンを投与すると蛋白尿が増悪することを示した(JCI 1996 98 1063)。さらにアルドステロンがNADPH oxydase、ERK1/2などの細胞内シグナルを介してmesangial/fibroblast prolifilation、podocyte injuryを起こすことも示された(Nature Review Nephrology 2010 6 261)。

 2009年にはspironolactone(25mg/d)をlosartan(100mg/d)、placeboと比較したスタディがでた(JASN 2009 10 2641)。これによればspironolactoneはlosartanよりもanti-proteinuric effectがあり、それは血圧と無関係であった。しかしspironolactoneは高K血症を起こした(20%でKが6.0mEq/l以上になった)。現在、Kを上げずに蛋白尿を抑えるようなselective MRAが研究されている。

2012/04/28

Spironolactone

 心不全科(循環器内科の中でもさらに細分化した分野)のフェローから、「腎機能のない人にspironolactoneを投与して高K血症になるメカニズムはあるのか?」という質問を受けた。spironolactoneはaldosteroneの阻害薬で、 aldosteroneによる遠位尿細管でのK排泄を阻害するのが高K血症をきたす主な理由だ。それで、腎機能がない人には元から遠位尿細管でのK排泄がほとんどないわけだから高K血症にはなるまいというわけだ。

 自分の経験と記憶を瞬時に振り返り、「ある(けどどんなメカニズムか忘れた)」と返答した。そのあと腎臓内科のスタッフに聞くと、やはり同じ返答だった。それで調べてみると、腸管からのK排泄が阻害されると考えられているらしい(Current Hypertension Reports 2004 6 327)。

 実際に透析患者さんにspironolactoneを投与するとどうなるの?と調べた論文もあって、一本は高K血症になり(NDT 2003 18  2364)、もう一本は有意差が見られなかった(NDT 2003 18 2359)。だから何とも言えないが、後者はopen-label, non-randomized trialでエビデンスの質が低いし、今のところ(高K血症は)起こるという結論にしておこう。


[2020年4月13日追記]スピロノラクトンを含むミネラルコルチコイド受容体阻害薬(mineralocorticoid receptor antagonist, MRA)により、末期腎不全患者の心血管系死を予防しようという期待が高まっている(CJASN2020年4月号の総説、doi:10.2215/CJN.13221019)。





 末期腎不全患者は体液貯留傾向によりアルドステロンの産生は抑制されそうにも思えるが、実際には亢進していることが多い。そして、アルドステロン血症が高い血液透析患者ほど心血管死・総死亡リスクが高いことが示されている(Eur Heart J 2013 34 578、ただしHost Hoc)。

 では、MRAを使用した試験の成績はどうか?


 結論は・・・よいかもしれない(大規模RCTの結果待ち)。

 
 効果のあったスタディ例は、日本の血液透析患者309人を対象にスピロノラクトン25mg/d追加群を(プラセボ対称のない)非追加群と比較したオープン・レーベル試験(J Am Coll Cardiol 2014 63 528)。3年間のフォローで心血管死と入院を62%低下した。

 また2016年には、中国の血液透析患者と腹膜透析患者あわせて253人を対象にスピロノラクトン25mg/d追加群をプラセボ群と比較した試験がでて(J Clin Hypertens Greenwich 2016 18 121)、2年間で心血管死・心停止が58%低下した。

 一方、2019年にでた米国のSPin-Dスタディ(KI 2019 95 973)、ドイツのMiREnDaスタディ(KI 2019 95 983)は、いずれも血液透析患者を対象にスピロノラクトン追加群(前者は12.5mg・25mg・50mg/d、後者は50mg/d)とプラセボ群を比較したが、プライマリ・エンドポイント(前者は心拡張能、後者は左室重量インデックス)に有意差がなかった。

 もっとも、両者は短期間のフォロー(前者は36週後、後者は40週後)であり、安全性を確認するパイロット・スタディの感もある。なおその意味では、前者は高カリウム血症に有意差なく(ただしスピロノラクトン50mg/d群では上昇)、後者も6.5mEq/l以上の高カリウム血症に有意差はなかった(ただし6-6.5mEq/lは介入群で有意に高い)。

 これらをうけて現在、2つの大規模RCTが進行中だ。ひとつはALCHEMISTスタディ(NCT01848639)、825人の血液透析患者を対象に2024年完了予定。もうひとつはACHIEVEスタディ(NCT03020303)、2750人の血液・腹膜透析患者を対象に2023年完了予定という。

 
 ブレイクスルーが期待される腎臓内科領域であるが、やはりコストパフォーマンスがよいのは、既存の薬を転用・適応拡大することだ。今後、MRA使用が腎臓内科領域で広がっていくかどうか、注目したい。ただその暁には、新規カリウム吸着薬の使用もぐんと増えるだろうが・・(こちらも参照)。