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2018/07/15

最新の高血圧ガイドラインを振り返って 2

 今回は少し具体的な数字と我々が悩ましい分野について触れたいと思う。

 個人的に悩ましいなと考えるのが妊娠と高血圧である。

 カナダのガイドラインにおいても、この妊娠と高血圧の部分に関しては別の論文に記載されている。

 妊娠と高血圧に関しては、まずは2つの論文がキーの論文となる。

 一つはCHIPS(Control of Hypertension in Pregnancy Study)である。

 →これは、拡張期血圧を100mmHg未満とtightではないものと85mmHg未満とtightにした
 ものと比較したものである。この研究では、血圧のコントロールが悪いものでは、胎児
 の出生体重、早産児、前子癇、血小板低下、肝機能上昇、入院期間などで優位差を持っ
 て大きかった。

 →血圧のコントロールの重要性が示された。

 もう一つはこのCHIP trialのsecondary analysisであるが、上記の血圧コントロールを行う場合に薬剤をラベタロールで行う場合とメチルドーパで行う場合を比較している。

 →結論としては、薬剤でどちらがいいかの有用性に関しては、示されなかった。

 薬剤の際にいつも迷うのがカルシウム拮抗薬はどうなのか?

 →日本の高血圧ガイドライン 2014では妊娠20週以降であれば、メチルドーパ、ヒドララ
  ジン、ラベタノールに加えて、ニフェジピンも第一選択にいれてもいいとしている。

 しかし、長時間作用型のニフェジピンは様々なトライアルやsysytematic reviewで安全性や効果が証明されてはいるが、安心して過度に使うのは良くない。

 カナダのガイドラインでは下記の指摘を行っている。

 ・収縮期血圧≧140mmHgか拡張期血圧≧90mmHgで妊娠中の人は降圧薬の開始を検討する。
 ・最初の降圧薬は単剤で。降圧薬としては経口ラベタロール、経口メチルドーパ、長時間作用型の経口ニフェジピンや他の経口β拮抗薬を推奨している。
 ・単剤でも十分な降圧が得られない場合にはfirstlineの薬剤を併用して用いる。
 ・その他の降圧薬(ヒドララジン、サイアザイドなど)はsecond lineとして考慮する。
 ・ACE-IやARBは妊娠中の患者では使用するべきではない。
 ・収縮期血圧≧160mmHgか拡張期血圧≧110mmHgの妊娠中の人はugentの降圧治療を必要とする。

 最後に2018年のESH/ESCもガイドラインを出しており、それをまとめたものを表で掲示する。

 これを見ていると全世界に衝撃を及ぼしたACC/AHAの2017年度のガイドラインもうまく踏襲しながら、各国でガイドラインを設定している。

 やはり心血管リスクがある症例ではしっかりと降圧を行うことが推奨されている。





 日本のガイドラインもどのようになるかは非常に楽しみである。



2017/12/10

IgA腎症と妊娠

今回、上記話題を挙げたのは外来での会話からである。
自分をT、患者さんをPとする。


P 「IgA腎症治療のステロイド療法も終了し、蛋白尿の悪化も無くて安定しました。先生がステロイド減量後に妊娠許可してくれて、早速なんですけど妊娠しました」


M 「本当ですか!?とてもうれしいです!!おめでとうございます!」


P 「でも、先生。妊娠してIgA腎症ってどうなるんですか?必ず悪くなるんですか?」


M 「そうですね、免疫も関連してますし悪くなる人もいますし、悪くならない人もいます(曖昧な回答。。。)」

自分の中でしっかりとした解釈ができていなかった。患者さんがこれからどういう転帰をたどるにせよ、しっかりと自分のなかの答えをもつようにしなくちゃ。ということで今回の話題である。

ちなみに以前、IgAと妊娠について成立するまでの話を書いた。


今回、AJKD2017にとってもいい論文が載っていた。これをもとに考えてみる。


IgA腎症は世界的に見てももっとも頻度が高い腎症であり、IgA腎症の好発年齢は10代後半から30代前半と言われており、女性であれば妊娠との関連性が非常に高い腎炎である。


妊娠とIgA腎症に関しては報告もまちまちな事が多い。
 ●ある報告では妊娠はIgA腎症の経過を変化させない(AJKD2010AJN2010
 
 ●ある報告では中等度から重度CKDの患者では腎機能低下の進行が非常に早くなる(23%-43%の割合)(NEJM1997


と言われている。


AJKDの論文の詳細は割愛はするが、この研究では413人の患者がenrollされ、そのうち妊娠をした人が104人で妊娠をしなかった人が309人であった。
今回の研究のcharacterは下記になる。





パッと見た感じは違いは意外に妊娠群で治療していない人が多く、ステロイド治療をした人が少なかったという印象である。

患者をCKD別に分けた表が下記になる。
これの印象としては、やはり腎機能悪化している症例ほど、蛋白尿は多く、血圧は軽度髙い傾向にあると感じた。

結果としては
★腎疾患の予後
CKD stage1 or 2:妊娠にともない腎疾患の増悪は見られなかった。

CKD stage3 or 4 :妊娠にともない腎機能の低下がみられた。(eGFR≧60以上の人に比べると数倍以上)

★妊娠・子供への影響
CKD stage3 or 4 :出産に伴う胎児の生存割合が55%程度に低下。

今回の研究ではCKDstage3以降の人数は少ないこと、選択バイアス(フォロー中に妊娠になった人のみ拾っている)、出産のリスクになる蛋白尿の評価が不十分という点はあるが、
IgA腎症でCKD stage1-2程度の人であれば、特に問題を起こす可能性は低いが、
CKD stage3以降の人であれば、腎機能障害や胎児影響などを引き起こす可能性がある。

そのため、しっかりと患者に情報を伝達する事は重要である。

ちなみにCKDはやはり進行とともに妊娠の成功率は悪くなる(下図)。


なので、我々としては腎機能障害をおこさせないように早期介入が非常に重要であることを感じた。

ちなみに最初の患者さんはCKD stage1であり、妊娠もそのまま継続としたし、このようなお話しもしっかりして納得して外来フォローとなっている。

ただ、医師として患者さんの子供ができることは非常にうれしいことで、その日はほっこりとした気分になった。





2017/03/20

IgA腎症と妊娠から考えること。(IgA nephritis and pregnancy and so on.)

個人的に今週末は幸せな気持ちになる週末でした。
そんな週末を経て今日は上記の話題を書きたいとおもいます。

やはり、今日外来でIgA腎症の人に
「先生、私妊娠したいんですけど薬はどうすればいいですか?」
と聞かれた。この患者さんの内服薬はARBを内服しており、タンパク尿は0.3g/Cr程度、腎機能も問題なし。また、扁桃摘出+パルス療法を行って完全寛解を得られている。

でも、やっぱりタンパク尿減らすためにARB使用していて減らすのはどれだけいいのか?妊娠でIgA腎症は再燃しないのか?と考えてしまった。

まず、IgA腎症において妊娠は正常な腎機能であれば許容される(AJKD 2014)
では、慢性腎機能障害の人はどうであろうか?
GFR<70mL/min以下、高血圧非コントロール例、腎生検で重度動脈や尿細管間質病変がある症例では、腎疾患が増悪する可能性は高くなると言われる(Clin nephrol 1994)。

では、妊娠患者の腎生検はどの人に行なえるのだろう?
まずは、血圧コントロールが良好に行えていること。また、凝固異常の併存がないこと。また、妊娠32週以前が推奨はされている。
逆に32週以降の推奨はされていない。

ARBやACE-Iは妊娠中には全期間使用は推奨されていない。これは胎児への影響が示唆されているためである。
妊娠を3期に分けた時に
1期(15週まで):ARBやACE-Iは胎児の心血管や中枢神経系の奇形を起こしうる。
2−3期:使用により胎児のGFR低下をきたし、また肺の低形成などに繋がり、胎児死亡に繋がる。

ARBやACE-Iの他にシクロフォスファミドやMMFも胎児に影響を与えるので、妊娠前には切ることが推奨される。

とすると、今回の症例に関しては、血圧の推移を見ながらではあるがARBやACE-Iを終了し、血圧が上がるようであればα-Methyldopaやカルシウム拮抗薬を用いて管理をする。
そして妊娠に備えるという形にした。

しかし、腎機能が悪い方もいるので妊娠に伴う悪化のリスクは話すことは重要である。

今回調べていてCJASN 2013のケースは一通り学ぶのに勉強になる!一読をお勧めする。

今回も患者さんから一つ勉強させていただいた。ありがたい。



2017/03/15

一度でも腎機能障害になったら妊娠に影響あるの?(Pregnancy Outcomes after Clinical Recovery from AKI.)

今回、妊娠と腎機能障害に関して、上記題名のような論文があったのでご紹介する。

妊娠の時は胎児の成長のために腎臓や胎盤がフル活動する!そのため、GFRが正常時より50%以上上昇するのはそのためである。

以前にも記載したが、早期のCKDであっても妊娠にとって悪影響を及ぼすことはわかっている(CJASN 2010)。
また、AKIがCKD進展のリスクになることもわかっている。

では、完全に腎機能の数字が戻ったAKI既往の患者が妊娠したら、何かリスクは上昇するのかというのを調べたのが今回の論文である(JASN 2016)。

研究デザイン:
後ろ向き研究で9年間追っており、AKIはCreの上昇のみで定義(基礎より1.5倍)
合併症として子癇前症、妊娠高血圧、妊娠期間、胎児の体重、周産期死亡、NICU入室、週数より胎児が小さい
などを見ている。

下記のように見ている。

今回の結果では、AKIの既往の女性では、子癇前症、非正期出産の割合、NICU入室率、胎児の影響が優位に高かったとでている。


Limitationとしては、KDIGOの基準に含まれるような48時間で0.3mg/dl以上のクレアチニン上昇の症例は含まれておらず、コントロールに入っている可能性や、AKIの原因は不明なことが多いなどがあげられている。

なので、妊娠した人に過去に腎臓悪くなったことはありませんか?と聞くのも重要になってくる可能性もある。
腎臓は数字上は正常に戻っても何かしらの影響を与えていると考えると、ますます神秘に満ち溢れていると感じる。



2017/01/18

妊娠している人の腎機能障害(AKI in pregnancy) パート4



今回は最後として、題名通りのAKIについての話題にしたいと思う。
J Nephrolの論文がわかりやすい。

現在先進国では妊娠関連のAKIは少なくなってはきているが、出生前のケアがしっかりしていなかったり、非合法的な中絶が起こっている場所ではAKIの頻度は多くなってきている。

妊娠のAKIは原因に関しては大きく2つのピークに分かれている。
一つは妊娠早期(妊娠20週以内)で妊娠悪阻や中絶手術の感染や細菌やウイルス感染による急性尿細管壊死(ATN)などが原因となる。
もう一つは妊娠後期(妊娠20週以降)でpreeclampsiaやTTP(血栓性血小板減少性紫斑病)やHUS(溶血性尿毒症症候群)やHELLP症候群(妊娠の肝機能上昇、血小板減少、溶血)やAFLP(妊娠の急性脂肪肝)、ATNや急性腎盂腎炎や稀だが尿路閉塞などが原因となる。

ちなみにpreeclampsiaは妊娠高血圧腎症のことであり、妊娠20週以降に初めて高血圧が発症し、かつ蛋白尿を伴うもので、分娩後12週までに正常に復する場合をさす。

上記の検索のための妊娠中の検査としては尿沈渣と尿の円柱などの分析、超音波検査を行う。また、タンパク尿の評価で蓄尿検査か尿中タンパク−クレアチニン比の計算などを行う。また、細菌の評価のために尿培養検査を行い、溶血や血小板減少の鑑別などで血液のスメア像の確認を行う。また、溶血の確認のためにT-BilやD-Bil上昇やハプトグロビンの低下やLDHやAST上昇を確認する。

経過や身体所見や検査結果などで鑑別を行うが、しばしば難しいのがpreeclampsiaにHELLP症候群やTTPやHUSやAFLPが合併しているか否かである。しかし、大抵は臨床像で診断をつけることが多く、腎生検はほとんどこの場面で診断に用いられることは少ない。

治療は原疾患に応じて行う。
Preeclampsiaを伴うAKIであれば出産が治療になる。出産により多くは腎機能は改善する。アルブミン尿は残存することもある。

TTPや HUSに伴うAKIは血漿交換を要することが多い。

AFLPに伴うAKIはDICの治療と胎児の娩出が治療となる。

これに加えて基本的にはAKIの治療は支持療法となるため、透析の必要があれば検討する必要がある。

今回4回に分けて妊娠と腎障害のお話をした。
私が苦手な分野だったのでとても勉強になったし、このようなことを知っておかねばと痛感した。これからも知識を少しずつ付けていけるよう頑張ろう!!




妊娠している人の腎機能障害(AKI in pregnancy) パート3

今回は糖尿病患者さんが妊娠したらということについて考えてみたい。
糖尿病の患者さんは316万人であり、女性は140万人の時代になっている(2014年の調査、今度は2017年に行われる。)
つまり、出会う確率も非常に高く、また腎疾患との関連も強いため認知する必要がある。

糖尿病患者での妊娠で腎臓に影響があるものとしては下記である。
アルブミン尿:非糖尿病患者においても60%以上がGFR増加し、アルブミン尿の排出は増加する。同様に糖尿病性腎症を有する人も妊娠を契機に増加するが、出産と同時に元に戻ることが多い。ある研究でも糖尿病性腎症で30-300mg/dayの患者が妊娠した際に尿アルブミンは708mg/dayに増加し、数名がネフローゼレベルのタンパク尿(3g/day以上)を呈したが、全員が出産後12週間で元の値に戻っている。

腎機能:腎機能に関しては、パート2で書いたように腎機能障害がもともとある人はリスクが高くなる。また、糖尿病患者で微量アルブミン尿やタンパク尿が出ていない症例は腎機能悪化のリスクは低い。

糖尿病性腎症は血糖コントロールが問題なくても胎児成長障害、出生前胎児テスト異常、preeclampsiaのリスクが上昇する。妊娠合併症の発生で帝王切開のリスクは上昇する。

糖尿病性腎症の妊婦では血圧コントロールをしっかりと行う。その際に通常であれば推奨されるACE-IやARBの使用は禁忌とされている。理由としては薬剤に伴う催奇形性のためである。そのため、この点には注意する!目標の血圧はADA(アメリカ糖尿病糖尿病学会)の推奨では120-160/80-105である。
降圧薬に関しては、アルブミン尿を伴う症例には非ジヒドロピリジン系のカルシウム拮抗薬(ヘルベッサーやワソランなど)がいいのではないかと言われている(KI 2004)。理由としては降圧作用に加えて、タンパク尿の低下作用も期待してである。しかし、タンパク尿低下に対してはそこまで効果的ではないという報告も多い。
妊婦に対して使用できる降圧薬に関しては、メチルドパ(アルドメット:α2刺激薬)、ヒドララジン(アプレゾリン)などであり、これに関しては知っておく必要はある。

また、preeclampsiaの予防にlow doseのアスピリン使用(81mg/day)はケースによっては推奨されている(Lancet)。なので、リスクが高い症例(慢性的な高血圧症例や妊娠前から血圧が高い症例)は妊娠後12週から出産まで使うのも一つの選択肢かもしれない。

今回は糖尿病腎症と妊娠についてまとめてみた。
ここの部分の管理は本当に難しいなと常々思っているが、我々が知識のアップデートを怠ってはいけない領域である。





2017/01/15

妊娠している人の腎機能障害(AKI in pregnancy) パート2

パート2としては慢性腎不全おける妊娠はどうなのかを考える。

ある研究では軽度の腎機能障害(SCr<1.3mg/dl or GFR 60-89mL/min/1.73m2)がある症例では、血圧が正常であったり、タンパク尿のない症例では腎機能障害や児への合併症はほとんどない。しかし、高血圧の合併例やタンパク尿がある症例では、preeclampsiaの発症は妊娠患者の1/3に生じるとされる。また、低出生体重児や胎児死亡がわずかながら正常妊婦に比べ上昇すると言われる(J Woman Health 2003)。

中等度腎機能障害(SCr1.3-1.9mg/dl or GFR 30-59mL/min/1.73m2)での妊娠は軽度腎機能障害の妊婦に比べて明らかに合併症の割合は高くなる(NEJM 1996)。早期出産の割合は通常の10%程度から50-55%と高くなる。また、胎児死亡も6%と高くなり、34-37%の児が小さくなる。高血圧やタンパク尿の合併割合も高くなる。約25-38%の妊婦が血清Crが上昇する。出産6ヶ月後も腎機能低下が持続する例も1/3に認められ、10%が末期腎不全に至る。
GFR 40-59mL/min/1.73m2の妊婦は腎疾患の進展の危険性なく妊娠ができうるが、GFR 40mL/min/1.73m2未満の妊婦で1g/day以上のタンパク尿が出ている妊婦では合併症の割合が非常に高くなる(AJKD 2007)。

重度腎機能障害(SCr>1.9mg/dl or GFR 15-29mL/min/1.73m2)の妊婦ではさらに合併症の割合が高くなっている。早期出産の割合(73%)や低出生体重時の割合(57%)が高くなる。
ある報告では64%のpreeclampsiaの発生の報告や腎不全への移行が非常に高いことが報告されている(NEJM 1996)。

末期腎不全における妊娠:透析患者の女性の妊娠することは一般的に困難であると言われている。ただ、以前は妊娠の割合が0.9%程度と言われていたが、最近の技術の進歩で1-7%になってきたと言われている。受精したとしても妊娠前期で流産する割合が高いと言われている(Semin dial 2003)。妊娠出産の割合も1994年以前は27%であったが、最近の報告では65%程度にまで高くなってきている。ただ、依然胎児死亡は高い(14.1%)という問題も残っている。出生した児の平均も32週で2000g程度という報告もある(AJKD 1994)。

腎不全患者の妊娠を考えるときに常に児のことはどうか?患者本人の今後の腎臓の予後はどうなのか?ということを常に話し合わなければならないし、その部分が一番難しい部分であると感じる。
そのために、児を出産するために腎移植を踏み切る症例もあるが、移植後は1年間は妊娠は控えてもらうことが多く、患者の年齢との相談になるのであろう。

次回はパート3で合併症についてお話しする。




2017/01/14

妊娠している人の腎機能障害(AKI in pregnancy) パート1

今回は妊娠している人の腎機能障害に関して触れて見たいと思う。
妊娠している人の腎機能障害は総合病院で勤めていると絶対にコンサルトされる内容であるし、しっかりと知識の整理ができていることが重要である。

・妊娠時のGFRやタンパク尿などに関して
妊娠中は一般的にはGFRが増加し、血清Crの減少を呈する。平均して0.4-0.8mg/dlの低下を認めると言われる(Adv chronic kid 2007)。
そのため、Crが1mg/dlは非妊娠者では正常値であるが、妊娠者では腎機能障害があると考えるのが重要である!

GFRの推算でMDRD式やCockroft-Gaultの式などがあるが、これは妊娠者の腎機能を評価するのは不適切の可能性が高い。MDRD式では、GFRの過小評価になり、Cockroft-GaultではGFRを過大評価すると言われている(Am J Perit 2007)。そのため、妊娠中のGFRのGold standardとしては24時間蓄尿のクレアチニンクリアランスになる。

タンパク尿に関しては尿のタンパク/クレアチニンが評価に用いられる。蓄尿のタンパクの方が正確であるが、ある研究(AJKD 2003)では正確性に差はなく、簡便であるため、これが用いられる。
妊娠患者でのタンパク尿の測定の意義は2つあり、1つは妊娠中のタンパク尿の推移の把握をし、腎炎などが妊娠時にないかの把握である。2つめは子癇前症(preeclampsia)の診断のためである。preeclampsiaは定義は妊娠20週以降に、新規の高血圧(140/90を超える)、タンパク尿(24時間で300mg以上)を認めるものである。
preeclampsiaの診断に尿のタンパク/クレアチニンを用いることは24時間蓄尿に比べてどうなのかという議論はある。
これに関しては、あるメタアナリシスで24時間蓄尿に比べタンパク/クレアチニンを用いた場合のpreeclampsiaの診断感度は90%で特異度は78%となっている(Clin chem 2005)。
タンパク尿が250-400mg/dayの時は診断しづらいという報告もある。

今回は、妊娠における腎機能の話とタンパク尿の話をパート1として話した。
次回以降に腎機能障害についてお話ししていこうと思う。


2013/02/26

sFlt-1

 新大陸とアフリカに住むマナティーと、インド洋から東ユーラシア、オーストラリアにかけて住むジュゴンはいずれもsirenianに属し、じつはクジラよりゾウに近縁だ。私はEverglades国立公園でマナティーを見たが、あの目の優しさはゾウ譲りだろうか。

 そんなマナティーの目にあって、ジュゴンの目にはないものがある。それは角膜内の血管だ。マナティーの角膜には小血管がまばらに走っており(Vet Ophthalmol 2005 8 89)、そんな生物は地球上で今のところマナティーだけだ。痕跡的で、視力を障害するほどではないが。

 どうしてマナティーの角膜には血管があるのか。そもそも角膜には強力な血管新生因子VEGF-Aがあって、ほうっておけば血管が生えてしまう。しかしVEGF-Aが細胞膜のVEGF受容体に触れないようトラップする仕組みがあるのだ。

 その仕組みが、sFlt-1(またの名をsoluble VEGFR1)。これはVEGF受容体の細胞外ドメインだけでできた切れ端で、こいつがたくさんあるとVEGF-Aが捕らえられ本物の膜受容体に結合できない。マナティーにはそれがない(Nature 2006 443 993)。

 この話と腎臓内科に関係は、大有りだ。Pre-eclampsiaは、腎生検すると(誰がしたのか知らないが)糸球体内皮細胞が膨れ上がっており、内皮細胞の異常が機序と考えられている。そして、患者さんではsFlt-1と同じく血管新生を阻害するendoglinの血中濃度が高い(NEJM 2006 355 992)。

 そこから先、sFlt-1がVEGFR1遺伝子のsplicing異常でできるのか、それともVEGFR1タンパクから切り離されてできるのか、胎盤でどんな制御がおきているのか、どうして妊娠後期におこるのか、いま分からないことも研究で明らかになるかもしれない。

2013/01/25

LN and pregnancy

 Lupus nephritis(LN)の患者さんにおける妊娠合併症リスクは?Systematic reviewはあって(CJASN 2010 5 2060)、結論はmaternal hypertensionとpremature birthsのリスクが高かった。高いというが、何と比べて高いのかが不明確なうえ、スタディごとのばらつきが大きいようだが。「まったくLNのない患者さんと同じです」とは言えない、という(まあ妥当な)ことだ。
 LNの患者さんが妊娠したら、どうやって治療する?使っていけない薬はACE阻害剤、cyclophosphamide、MMFなど明らかだ。Hydroxychlorquine、AZT、ステロイドはOK?ACRのガイドライン(Arthritis Care Res 2012 64 797)によれば、①LNの既往があるがactiveでなく、他のSLE病勢がマイルドならhydroxychlorquine、②activeなLNがあればステロイド、もしコントロールがつかないあるいはステロイド用量を下げたければAZTを追加とある。
 Rituximabは?Belimumabは?たぶんまだデータがない(どちらもリスク分類はC)。Tacrolimusは?妊娠中の移植患者さんには利益がリスクを上回る場合に限り用いられるが(やはりリスク分類はC)、LNへの有効性はまだ散発的なデータに限られている(たとえばRheumatology 2008 47 1678)。