2016/07/28

Oh My Google

 Google検索で何のキーワードを入れるかが実力を左右するというのもすごい時代だなと思う。私は経験的に英語で入力できたほうが大きな網を張れるなと感じるが、その程度で止まっていて、たとえばコンピュータ言語とかも習ったほうがいいのかなとおもっても実際はやっていない。こないだ何かの本でGoogle検索にワイルドカードというのがあると読んで、かっこいい響きだなと思った。

 ワイルドカードとは「*」のことで、不明な語句があってもそれをワイルドカードで表示することで前後の語句との類推で検索してくれる。たとえば「blessed are the * inherit *(なんとかな者は幸いである、なんとかを継ぐ)」と入れれば「Blessed are the meek, for they will inherit the earth(柔和な者は幸いである、彼は地を継ぐからである;Mathew 5 5)」と出る。まあ言葉はかっこいいが、Googleが優秀すぎてワイルドカードを使わなくてもだいたい当ててくれるが。

 と、ここまで調べてもまだGoogle検索演算子について系統的に勉強しようという気にならなかったのは、わたしの怠惰というかGoogleが頭が良すぎるのである…。しかし最近「血漿交換で溶血しますか?」と研修医に聞かれて「plasma exchange complication hemolysis」と入れても、TTP-HUSのことしか出てこない。それでPubmedならBUTで除外検索をかけるなあと思いだしたが、Googleでは使えない。仕方なく「Google 除外検索」で検索演算子一覧をみたら、除外検索は「"A" -"B"」とダッシュを使うらしい。

 しかしこれでTTPを除外したらABO不適合移植の話しかでてこない。でABOも除外検索したら検索結果がなくなってしまった。Googleに勝ったような見捨てられたような複雜な気分だ。私は血漿交換膜のせいでもなく自己免疫疾患に続発したAIHAでもなく、置換でつかうFFPのなかに運悪く変な抗体があったのだろう(から肺胞出血のない透析依存ANCA関連急性進行性糸球体腎炎なのでアルブミン置換にすればいい)と思っているが。それで「FFP transfusion hemolysis」検索をかけたらいっぱいでてきた(Transfusion 2012 52 S1 65S )。Googleと仲直りだ。

 [2016年7月追加]日本で用いられる血漿分離器(ポリエチレン中空糸)の添付文書には溶血の記載があって、TMP 60mmHg以下にすること、起きたら中止することとあった。機序、頻度、起こるタイミング、置換液による違い、中止後の対応、一回発生したあとの代替分離器の有無など、詳細は不明だが(会社の電話番号はあるので問い合わせることは可能だ)。やはり日本語でも検索しないといけない。



2016/07/22

Too many regimens, too few grounds

 MGRSという概念が確立してだいぶになるが、骨髄腫の治療選択肢がどんどん広がっているのと対照的にMGRSの治療は遅れている。実臨床にいると、その理由はこれが血液腫瘍内科と腎臓内科のあいだに落ち込んでしまう領域で、前者はMGUSを治療しない(最近は変わってきたが)し後者はケモをオーダーしないことも関係していると思う。私も似たような経験をした(結局RTXをつかったが一応根拠はあるらしい、Leuk Lymphoma 2004 45 2047)。それでもオンコネフロロジーという言葉もうまれて、治療経験の報告論文(KI 2015 88 1135、ボルテゾミブ)やレビュー(doi: 10.2215/​CJN.03160316)なども書かれるようになった。

 ただし、本物の骨髄腫でもそうなのだが、いろんな新しい薬が認可されまくって(ボルテゾミブの兄弟ixazomibとcarflizomib;レナリドマイドの兄弟pomalidomide;非選択的ヒストン脱アセチル化酵素阻害薬のpanobinostat;抗CD38モノクローナルIgG-κ1のdaratumumab、NEJM 2015 373 1207;抗SLAMF7モノクローナル抗体のelotuzumab、NEJM 2015 373 621など)、これからもどんどん増えるだろう。覚えきれないのでthemmrf.orgを時々読むようにしようと思うが、おかげでレジメンが錯綜している。私は血液腫瘍内科ではないので深くは立ち入らないが、移植不適応の高齢者には未だにメルファランベースのレジメンが推奨されていたり、ボルテゾミブの神経障害が強調されすぎていたり、よくわからない。

 もっとわからないのがMGRSの治療だ。スタディなどない。やっと定義と分類が確立したところだ。もちろん日本ではMGUSあつかいで保険適応にならない。そもそもオプションでお願いしないと腎病理で軽鎖まで染めてくれない。偉い先生たちが腎機能異常とM蛋白をみたらどうするかを話し合うアテンディングラウンド論文が最近あった(CJASN 2016 11 1073)が、MGRSの分類とアセスメントに話が終始していた。いくらえらいといっても根拠と経験がないんじゃあ適当なことは言えない。腎臓内科は治験をするのが苦手(AJKD 2014 63 771、如実に他専門内科にくらべて低い)だが、血液腫瘍内科はトライアルが大好きなので協力して根拠のある治療で腎臓を救えたらいいなと思う。免疫抑制薬がいらなくなる骨髄移植後の腎移植とかもあるし。





2016/07/13

Lost in translation

 UEFA EURO 2016のファイナルではフランスが延長戦で惜しくも敗れた(写真はイメージ)。サッカー延長戦の勝敗決着方法は2004年からゴールがあっても前後半までやりきるよう変更されたが、それまでは変遷があって、昔はサドンデス(突然死)方式だった。その突然死(院外目撃CPA)に対して高用量エリスロポエチン(Epoetin alpha:そういえば国産バイオ後発品の安価なEpoetin Kappaがあるらしいが、透析業界では長時間作用型が便利でまだあまり使われていないようだ)を行うことで脳の虚血後再灌流障害が改善するのではないかという、フランス多施設EPO-ACR-02トライアルのPhase 3結果がでた(JACC 2016 68 40)。
 どうしてエリスロポエチン?と思ったが、効果に時間のかかる赤血球造血とは別のメカニズムが想定されているらしい。エリスロポエチン受容体は二量体で、ちゃんとしたアイソフォームでは細胞質ドメインにJAK2がついてSTAT5をリン酸化するだけでなく、STAT1、STAT3、CRKLとも結合できる(EPOR-Tなどちぎれたアイソフォームもある)。いろんなところにあって、内皮細胞にもあるので腫瘍の血管新生に関与するといわれ、FDAが担癌患者への使用を注意するblack-box warningをつけている理由のひとつだ。
 とにかく機序はまだわからないのだが、10年以上前に動物の脳虚血モデルで脳細胞のアポトーシスをレスキューしたという報告(PNAS 2001 98 4044)、ヒトの脳梗塞例でペナンブラの縮小と脳ダメージマーカーの低減に相関したという報告などがでた(Mol Med 2002 8 495)。しかし数年前にSTEMIでの虚血後再灌流障害の改善を狙ったREVEALトライアルがでたが、両群で梗塞サイズに差はなく(70才以上ではむしろ大きかった)、介入群で死亡やステント内塞栓が多かった(JAMA 2011 305 1863)。
 さてEPO-ACR-02トライアルは、院外目撃CPA(60才前後、約半数がshockable、約6割にbystander CPRがなされ、ROSCすなわち循環の復活までの平均時間は25分、そして約4割が緊急でCPIを受けた)をクーリングを含む標準治療+EPO 40000単位を12時間ごと5回までうつ群と、うたない群で分け、60日後のCPCスケール1(ほぼ正常、5が脳死状態)の割合を比較した。結果、両群にほとんど何の差もなかった。60日後までに約60%が死亡、CPCスケール1は約30%。つまり生き残ったひとの多くは脳機能がたもたれたということで、EPOにかかわらずそれはよい結果なのだが、悪いのはREVEALトライアルよろしくEPO群でステント内塞栓が多かったことだ。
 個人的には、心肺停止の場合には組織の低酸素が刺激になって十分に内因性のEPOが分泌されるので、そこに大量療法をおこなっても受容体も飽和して効かないし、EPOが多すぎて副作用がつよくでるのではないかと考えてしまう。EPO濃度を測っていたらはっきりしただろうが。オーディオサマリーを聴いてみると、エディトリアルには「もうEPOの話はおしまいではないか(用量やタイミングの問題ではないのではないか)」と書いているそうだ。REVEALトライアルのこともあるし。でも心肺停止の脳保護にはいまのところクーリングしかなく、いろいろ調べてもまだ何もみつからない。基礎実験の結果が実臨床に反映されず残念だが、それが当たり前だから探し続けてほしいと思う。


2016/07/12

Predicting diuretic response

 ADHF(急性非代償性心不全)における利尿薬のボーラスと持続を比較した論文については書いたが、そのあとでた利尿薬と限外ろ過を比較するスタディ(CARRESS-HFトライアル、NEJM 2012 367 2296)は読んだだけで書いていなかった。Cr 1.5-2.5mg/dl程度の心不全増悪で入院した患者を、末梢カテーテルを用いるAquadex®というUFマシン群と、尿量や血圧に応じて利尿薬の量や種類、昇圧剤などを調節するstepped pharmacological care群にわけて96時間後の尿量と腎機能悪化を比較ところ、マシン群で腎機能悪化が多かった。マシンを使い慣れなかったのと、薬剤調節のアルゴリズムがけっこうよく出来ているのでそれが効いたのかなとも思う。一日尿量3リットル未満、3−5リットル、5リットル以上で治療を動かすかなり大味なものではあるが、これで腎機能が動かなかったんだからいいのかもしれない(日本人は体重も小さいし利尿薬の効きが倍くらいなので、そのままは当てはめられないが)。

 またTolvaptanを心不全症例につかったことはある(いま読み返すと相当抵抗しているが、すくなくとも私が向こうにいた時にこの薬をつかうことはほとんどなかった)が、Tolvaptanを入院患者に用いたEVERESTトライアル(JAMA 2007 297 1319)のことは書いていなかった。いまさらだが、ベースラインCr不明(3.5mg/dl以上は除外)のADHF患者を通常のケアと30mg/dのTolvaptan群とプラセボ群にわけたところ、all-cause mortalityで非劣性(プラセボと比較して非劣性というのもどうかと思うがまあ害はないということ)で、心血管系イベント、心不全再入院などに有意差が見られなかった。入院翌日の呼吸苦改善、退院時・7病日の浮腫改善は有意だった(利尿剤を追加したんだから当たり前といえば当たり前だが)。低Na血症の改善にも有意差があって(6mEq/l程度あがった)、高Na血症の頻度は有意差は不明だがTolvaptan群でたかかった(口渇も)。

 EVERESTスタディをみる限り、入院医療費がTolvaptanよりもずっと高くて、使うことで日数が短くなるなら使ってもいいのかなと思うが、それはアウトカムにみつけられなかった。あとNa値をあげて認知機能や歩行障害が改善するならいいが(先日SIADHを対象にしたINSIGHTトライアルのパイロット結果がでたが、3週間の介入で精神運動スピードに差があったものの総神経認知機能には差がなかった、AJKD 2016 67 893)。あとTolvaptanもhANPと同じで、急性期に使って効くのはいいけれど退院後も十分な利尿を得るために使い続けることが技術的に金銭的に難しいので、結局ループとサイアザイドでお帰しすることになる。やはり再入院を防ぐには患者教育(水分、塩分モニター、体重に応じた利尿薬調整またはこまめな訪問看護、外来フォロー)なのかなと思う。

 というわけで特別にいい薬とおもっているわけでもない(作用後の揺り戻しNa保持傾向、RAA系亢進なども指摘される)がやっぱりループ利尿薬が心不全治療の基本だ。しかしその効きは腎機能が低いほど悪くなる。というところへ、ループ利尿薬を少しでも使いやすくするために反応量を予測できないかと調べた論文がでた、と教えてもらった(Circ Heart Fail 2016 9 e002370)。どんな魔法かと思ったらコロンブスの卵で、クリアランスCがUcr x V / Pcr、変換してV = C x Pcr / Ucrなことを元にして得た式だった(Ucrには静注後2時間のスポット尿を用いた)。このVは微分的な尿生成速度(instantaneous rate)になるが、ここでCにCKD-EPIのeGFR(ml/min/1.73m2)を当て、時間を2.5時間に(静注ブメタニドの半減期 x2、よく効いているあいだということ)、また体表面積を補正(BMIが40kg/m2以上では理想体重を使用)すると、2.5時間あたりの尿量が次式で得られる。
 
V(ml/2.5h) = eGFR x BSA / 1.73 x Scr / Ucr x 60 min x 2.5 h

 さらに、この尿にいくらのNaが含まれているかを計算するには尿Na濃度(mmol/l)をかけてミリリットルとリットルを同じにすればよい。

Na(mmol/2.5h)= eGFR x BSA / 1.73 x Scr / Ucr x 60 min x 2.5 h x UNa / 1000

 ブメタニドを用いたのは薬理学的により計算予測がより立ちやすいためだという。で、ADHFの入院患者さんで蓄尿とスポット尿採取を行い、式と6時間反応Na利尿量(mmol)の相関に関わる信頼性をvalidateした。患者さんは多くがEF 40%以下、フロセミド静注換算量で平均100mg/dを使われており(25%でサイアザイドも)、Crは1-2mg/dlだった。なお留置カテーテルを使ったかは書いていないが「朝ブメタニドを打つ前に膀胱を空にしてもらった」とあるのでおそらく使っていない(こんな正確さを求める実験でも使わないんだから、いかに留置カテーテルが無駄に使われて合併症を起こしているかを改めて考えさせられる)。その結果、12%で大失敗した(とこっそり書いてある)が、うまくいった例を集めるとNa利尿量予測、Na利尿不良群予測、Na利尿良好群予測に関して非常にAUCが高いROCが得られた。式の定数2.5時間はコンピューティング予測で3.25時間にしたほうがよいとか細かいこともわかった。

 この臨床上の意義はなにか。ループ利尿薬は本来1日2回用いる薬なので、朝の反応をみて夕の用量を調節できるかもしれない。その際に午後まで蓄尿して看護師さんに6時間尿量を報告してもらうのを待たずに、より正確に(今回の論文は尿量や体重と式を比較しているが式のほうがNa利尿量の予測に優れていたという;ただし体重とNa利尿量でどちらが臨床的に意義があるかは疑問だが)回診の時点で静注2時間後のUNaの結果がでて予測が立つのは便利かもしれない。また、K利尿量もVにUKをかければ同様に求められるはずなので、K値低下の予測に応用できれば補正に活かせるかもしれない。高いミラクル薬がなくても、ちょっとした生理学の知識をつかって昔からの診療を洗練させることはできるのだな、そういうのかっこいいなと思った。Cardiorenalresearch.netにcalculatorが置いてある。



2016/07/09

Renal Supplements

 2008年に冬眠するクマ(図)が尿毒症にならない仕組みにアミノ酸リサイクリングが考えられていると聴いて腎臓に興味を持っていたら、2013年にクマの論文が腎臓内科雑誌にでて、腎臓内科医は動物好きだなと改めて思った。しかしアミノ酸リサイクリングをしているのはクマだけではないらしい。アイソトープで標識したアミノ酸を用いた実験などで、じつは60kgのヒトで毎日250−300gのたんぱく質が入れ替わっており、そのうち100−120gが筋肉だという(CJASN 2016 11 1131)。しかし、それだけのたんぱくを全部CO2まで異化分解して1から作りなおすのは大変なのでアミノ酸リサイクリングをしており、結局1日に補うたんぱく必要量は50-80gで済んでいる。

 さてこのたんぱくターンオーバーのバランスは加齢やCKDで崩れる傾向にあり、加齢では同化合成にかかわるmTOR-p70s6kシグナリングの抑制が関与しているといわれる。実際健康な70代の被験者にω3脂肪酸を8週間摂らせたところこの系が再活性化したんぱくが増えたという小さなスタディがある(Am J Clin Nutr 2011 93 402)。またCKDでは、たんぱく分解が増えミオシン重鎖合成パターンが変わることがわかってきている。いまのところそれらに対して打つ手はないが、ω3脂肪酸はCKD患者で摂取も少なく血中濃度も低い(ω6/ω3比は炎症や死亡と相関する)ので、これを補ってはどうかというスタディが最近でた(CJASN 2016 11 1227)。

 ω3脂肪酸とは要するにfish oilである。肉食文化のためか欧米でfish oilは有難がられており、抗炎症作用がIgA腎症に試されたりしているが(NEJM 1994 331 1194、KDIGOガイドラインの推奨レベルは低い)、EPAとDHAを2対1で配合した1日2.9グラムのω3脂肪酸を透析患者さん(CRP 0.5mg/dl以上)に12週間投与したところ、たんぱく分解は減ったが合成も減ってしまい(プラセボ群では合成は増えた)差し引きは変わらなかった。この結果はOmega-3 Fatty Acid Administration in Dialysis Patients Studyの一部で、これから他の結果も出るだろうが、ω3脂肪酸(とくにEPAとDHA)の透析患者さんへの効用については古くからまことしやかに伝えられてきたらしい(CJASN 2006 1 182)。

 ω3以外のサプリメントはどうか。よく聞くのがカルニチンとクレアチンだ。紛らわしいが、カルニチンはラテン語で肉を意味するcaro、クレアチンはギリシャ語で肉を意味するkreasに派生する(フランスの化学者Michel-Eugène Chevreulが肉汁から発見し命名した)ので無理もない。カルニチンはリシンが腎臓と肝臓でビタミンB6、ナイアシン、ビタミンC、鉄などの存在下にメチオニンのεアミノ基がトリメチル化されて生合成されるが、肉(とくにヒツジ、ヤギ、ウマなど)からも摂取される。長鎖脂肪酸がミトコンドリアの外膜を越え内膜を越えTCA回路にたどり着くためのシャトルの役割をしており、長鎖脂肪酸は安静時の骨格筋・心筋の主エネルギー源なので、よくダイエットに効くなどと言われる。

 カルニチンは水溶性で分子量が161g/molのため透析で喪失されることから、静注で補うことがある。ただし血中濃度を測って補うことは稀だ(カルニチン欠乏症という長期絶食、酵素異常、肝疾患、腎尿細管異常などに関連した病気があるので測れる;ある検査会社では総カルニチンの基準値は45-91μmol/l、遊離カルニチンは36-74μmol/l、アシルカルニチンは6-23μmol/l)。一方でカルニチンが動脈硬化に関連するという心配があるが、ひとつの研究では腸内細菌で代謝されつくられるTMAO濃度が高い場合に限るという結果だった。静注ならいいのかもしれない。

 一方のクレアチンも筋肉のエネルギー源(CKすなわちクレアチンキナーゼによりリン酸化されATPが消費される)で、何段階か経て筋肉まで届く。生合成の場合、まず腎臓の近位尿細管でアルギニンとグリシンからAGATによりguanidinoacetate、GAAができる(マウスとちがいヒトでは肝臓などにもAGATがある)。GAAはGAT2を通って肝臓に入り、GAMTによりS-adenosylmethionine(SAM)からメチル基を受け取りクレアチニンになる(SAMはS-adenosylhomocysteine、SAHになるがメチオニン回路でSAMに戻る)。

 こうしてできたクレアチンが筋と脳にSLC6A8遺伝子にコードされたCRT(Na+/Cl-依存クレアチントランスポーター)を通って入る。筋と脳でCKのタイプが違う(CK-M、CK-B、心筋はCK-MB)のはよく知られているが、CKは細胞質で二量体、ミトコンドリアで八量体だそうだ。ほかに食事から50%くらい摂取される。腎機能が低下すると、腎臓のAGAT活性が低下しGAAが減る。また尿毒素物質のグアニジン化合物、とくにβ-GPAはCRTを阻害しクレアチンの取り込みを落とす。CKD、透析患者さんにカルニチンやGAAを補充して筋肉がつくかは、まだわからない。ただしクレアチンが非酵素的に分解されたのがクレアチニンなので、補充すればクレアチニン値はあがる(クレアチンサプリメントをのむ人の急性腎障害でクレアチニン38mg/dlというのをみたことがある)。

 なおカルニチンを細胞質に取り込むOCTN2(organic cation/creatine transporter novel type 2)の常染色体劣性遺伝異常ではカルニチン欠乏になり、カルニチン大量投与を行う。クレアチンではAGAT(をコードするGATM遺伝子)とGAMTの常染色体劣性遺伝、SLC6A8のX-linked異常で脳のクレアチン欠乏症になる。前者ふたつはクレアチン大量投与で治療できるが、SLC6A8異常は脳への取り込み異常なので反応しにくいようだ。それにしても栄養や代謝の話は複雑で、私の文章など専門の人からみればベイビートーク(あのねー脂肪酸がねー、というレベル)だ。彼らはどれだけ勉強するんだろう…すごいなと尊敬する。


2016/07/08

Heparin-grafted membranes

 Nafamostat(フサン®)、凝固線溶でついでにいえばCarbazochrome(アドナ®)、Tranexamic acid(トランサミン®)は、薬理学で教わらなかったがよくつかわれるので、少し調べておきたい。NafamostatはProstacyclinアナログで血圧低下作用がなく、セリンプロテアーゼ阻害薬としてフィブリノゲンからフィブリンへのたんぱく分解をおさえる。CRRTサーキットの開存は10-30時間(J Artif Organs 2013 36 208、Int J Artif Organs 2016 39 16)で、ヘパリンとくらべて出血は少ないようだが開存性の優劣はスタディによりまちまちだ。ただ24時間ごと膜を交換する日本ではそこまで問題にならないかもしれない。
 いっぽう、CarbazochromeはAdrenalineの酸化物Adrenochromeと尿素の化合物Semicarbazineが付加脱離反応して生成し、血小板のα受容体を刺激する。それにより細胞内Ca濃度があがり、PLA2を介したアラキドン酸カスケードのup-regulationとCalmodulinを介した血小板収縮(凝集物質の放出)を起こし止血作用を示す。Tranexamic acidはlysineの合成アナログで、プラスミノーゲンやプラスミンにある複数のlysine receptorをブロックしてフィブリンとの結合を防ぐ。価格と効果から、WHOの必須薬リストにも載っているキードラッグだ。知らなかったのは、これが戦時中にすべてを破壊されたあとの慶応義塾大学医学部生理学教室で(今年4月にご逝去なさった)岡本歌子先生が開発なさったことだ。
 さて、ヘパリンを使いたくない時の血液透析といえば日本ではNafamostat、米国では回路内クエン酸抗凝固(通常HDなら人手がいればpre-filter 生食ボーラス)が慣習だが、そろそろ新しい方法はないかなと思って調べてみたら(Semin Dial 2015 28 474)いくつかあった。なかでも、ダイアライザ中空膜の表面積は血液ライン内腔の20倍あるのでメインの膜部分をヘパリンでコーティングしようというのが熱い。膜技術の向上が医学の発展につながると堅く信じているのは欧州か日本だが、欧州のがみつかったので紹介する(日本にもあるのかもしれない、大手会社が今年「抗血栓性を飛躍的に向上させた新規高分子材料を開発」というプレスリリースをしている)。
 Heparin-grafted membrane(HGM)の歴史は古く、セルロース膜に陽荷電のN, N-diethyl-aminoethyl group (DEAE)をつけプライミング時に液に含まれるヘパリンでコーティングする技術は前からあった。しかしCTA、PSなどのメジャー膜が技術的に困難なので研究がやめになり、最近になってPAN膜でふたたび開発が始まった。有名なAN69ST膜はpolyethyleneimine polycationによりプライミング時にヘパリンをコートできる。さらに、PANとmethallylsulfonateのコポリマーにヘパリンを編みこんだHeprAN膜(Evodial®)がでて、proof-of-conceptのRHODESスタディ(Hemodial Int 2013 17 282)で通常HDにおいて有意にUFH、LMWH用量を減らした。
 つづけて多国籍オープンレーベルHepZeroスタディ(KI 2014 86 1260)がでた。出血リスクの高い透析患者さん約120人ずつで、HeprAN膜使用と通常膜(主にPEAS膜とPS膜)+生食ボーラスを比較したところ、成功率(血栓トラブルなく透析を終える)は生食群より有意に高かったが68%だった。また+15%の閾値をまたいでしまい、非劣性しかいえなかった。出血事象、その他の有害事象(PAN膜なのでアナフィラキシーとか)の差はかかれていない。出血や術前後で透析されたのでほとんどのひとは1回しか無ヘパリン透析を必要とせず、こういう人が病院にいたときに看護師さんに生食ボーラスの手間をかけるか、同じ効果でいつもとちがう高い膜を使うかは微妙なところだ。やはりNafamostatか。


2016/07/07

It's not that simple

 腎臓内科医をしていてなんとなく居心地が悪いのが泌尿器科のお話と血管外科(ブラッドアクセス)のお話だ。きちんと教わる機会がないのでもどかしい。ほんとうは腎瘻・尿管ステント留置・シャント造設・グラフト造設はひとりでは難しくても、せめてシャントエコー・シャントPTAくらいできたほうがいいなと思う。ASNのOpen Forumでも最近「フェローシップではinterventional nephrologyは教えないわけ?」というinterventional nephrologistからの問題提起があって、教えたほうがいいよねという意見が多く出ていた。

 さてその泌尿器科関連で、腎の単純のう胞は感染するか?という話題が出た。理論上のう胞は尿細管とつながっているので尿路感染で菌が入り込むことはあり得るけれど、ADPKDでもないとあまり聞いたことがない。システマティックレビュー(NDT 2015 30 744)によれば、119例(81例:definite、38例:probable)の感染のう胞のうち、definiteの68%、probableの91%がADPKDだった。逆にdefiniteの32%は単純なのう胞(29%が単一のう胞、3%が複数のう胞)だった。けっこう多いが、ADPKDののう胞感染ぐらいで報告しないだろうから単純のう胞の報告がover-representされているかもしれない。別のレビュー(JASN 2009 20 1874)には単純のう胞の総合併症率(出血・感染・破裂など)が2−4%と書いてある。

 いろんな診断基準があって症状(腹痛:約半数ではないことも、持続する発熱、抗生剤に不応など)、炎症反応(WBC、CRP)、培養結果(血液、尿)、画像(CT:のう胞内のCT値50HU以下で出血を除外、超音波、MRI、18F-FDG CT/PET)などが項目にはいっている(日本のADPKDセンターがだしたのはClin Exp Nephrol 2012 16 892、ROCなどはないが)。画像でよく用いられ信頼度がたかいのは造影CT、超音波と単純CTでの診断はむずかしい、MRIもいいのだろうが経験が少ない、CT/PETは他のモダリティで証明できないが必要なとき、ということだった。ちなみに肝のう胞の感染にはCA19-9が提案されているが腎にはそのようなバイオマーカーはないようだ。

 起炎菌は大腸菌が多く、緑膿菌、Klebsiellaなどが続く。大腸菌の単純のう胞感染からの脳膿瘍まで報告されていて、あなどれない(BMC Neurology 2014 14 130)。大腸菌による二次性脳膿瘍、硬膜下膿瘍はまれだが、尿路、胆道、整形外科手術などで血行性におこる(in vitroの実験で脳微小血管内皮細胞にエンドソームとして取り込まれ脳に入ると考えられているらしい)。半分以上の場合は高齢者、ステロイド内服、脾摘後、糖尿病、化学療法中などの免疫低下リスクがあった。

 感染した単純のう胞をどうするか。ADPKDの場合、抗生剤で4−6週間押す、穿刺は①腎周囲膿瘍、②どののう胞が感染しているか明らかで、大きく(3−5cmより大きいと抗菌薬は届きにくいとされる)、かつ経皮的に穿刺可能な場合が慣例という。単純のう胞もそれに準じるが、どののう胞が感染しているかはわかりやすいと思われる(前述の脳膿瘍報告ではMEPM 6g/dを6週間と、のう胞穿刺をおこなっていた)。なお、単純のう胞をエタノールや酢酸などの硬化療法でつぶすことがあるが、これは痛みがコントロールできないときなどのレアケースだ。



2016/07/06

DAAs and Nephrologist

 C型肝炎ウイルスには身体を構成せずRNA複製などに関わるたんぱく群であるviral non-structural proteinがあって(図;Front Microbiol 2012 3 54)、それを阻害する抗HIV薬のようなのがどんどんでている。DAA(directly-acting antivirals)と言うらしい。NS5A阻害薬はDaclatasvir、Ombitasvir、Elvasvir、Ledipasvirなど-svir、NS5B阻害薬はSofosbuvir、Dasabuvirなど-buvir、NS3/4A阻害薬はAsunaprevir、Paritaprevir、Teleprevir、Simeprevir、Grazoprevirなど-previrの語尾をもつ。抗HIV薬のようにコンビネーションで使うのが一般的なようだ。また便中排泄で重度腎不全や血液透析の患者さんに使用できるのもあって、業界雑誌に宣伝されまくっている。透析から離脱できるかはちょっとわからないが、移植待ち・移植後の患者さんなら再発予防に適応だと思う。
 ところで、DAAは肝臓内科医しか処方できないが腎臓内科医も無縁ではないようだ。というのも、そのひとつombitasvir/Paritaprevir/Ritonavir内服後の薬剤との因果関係を否定出来ない急性腎不全が9件あり、うち1件が死亡したからだ。使用上注意改訂のリリースをよむと「カルシウム拮抗薬の薬物間相互作用(注:CYP3A4阻害による、Lexicomp®カテゴリーDでAmlodipineは50%減量が奨められている)が原因と考えられる治療抵抗性低血圧および著明な腎機能低下を伴う薬剤性腎障害による多臓器不全で死亡」とある。薬剤性腎障害の部分はわからない、腎生検結果の結果をみるしかない(ステロイドと原病で修飾されているだろうが)。これからデータを集める必要があると思う。血圧低下と腎機能低下にはαβ拮抗薬(Carvedilolはglycoprotein P/ABCB1阻害により濃度があがりうるのでカテゴリーC)、ARB(Candesartanは機序不明だがカテゴリーDで濃度があがることがあるという;開始時減量が考慮される)も関与していたかもしれない。
 「定期的に腎機能検査を」「腎機能低下とCa拮抗薬内服の患者では急激な腎機能低下に注意し起こったら中止を」という注意書きがあるが、もうすこし具体的でなくていよいのかなと心配だ。薬剤相互作用による血圧低下はすぐにでもおこるので、どうしてもCa拮抗薬やARBでなければならない、というわけでなければ避ける(継続するなら減量、血圧モニターするなど)という診療もありかもしれない。DAAがいろんな薬物代謝酵素に影響するのは、ひとつにはその相互作用を利用しておたがいの濃度を上げるようにデザインされているからでもあるようだ。DAAは価格とかいろいろあるがC型肝炎診療の希望だし、相互作用をよく調べて防ぎうる合併症ならば、対策してうまくいけばいいなと思う。


2016/07/05

How many is many?

 尿中の変形赤血球(dysmorphic RBC、図はNEJM 1996 334 1440;浸透圧により金平糖状になったcrenated RBCとはことなる)は一般に糸球体由来を示唆するが、どれくらい見られたら有意なのか?アメリカ時代に自分で鏡検してなんとなく「半分あれば確実だけど」くらいのイメージだったのと、Mayoで検査技師をしてから医者になった研修医がいて「25%」といっていたのを勝手に信じ込ていたが、ふとしたきっかけを与えられて調べてみるとじつはこの問いについては一定した見解がないらしい。10-90%と幅がある(Nephron Clin Pract 2010 115 c203)。先月AJKDに尿沈渣のレビュー論文がでたが(AJKD 2016 67 954)、やはり施設ごとまちまちの基準を用いているとあり、「どんなに優れた眼を持った人が評価しても変形赤血球だけで糸球体か非糸球体かを決めることはできないと肝に銘じること」と結論づけられている。
 日本はおおくの施設で検査技師さんのレポートを参照するため、日本腎臓学会の血尿ガイドライン(2013年)は日本臨床検査標準協議会 JCCLS 尿沈渣検査法指針提案 GP1-P4(2010)を載せている。これはhigh power fieldでみられたRBC総数あたりの糸球体型RBCの割合に応じて、30%くらいまで(ただし糸球体型RBCだけで5-9/hpf以上あること)が「少数」、60%くらいまでが「中等度」、それ以上が「大部分」と分けるそうだ。「赤血球形態情報は臨床側との協議に応じて記載する」と書いてある。検査室からオーダーした先生に「こんな赤血球が見えたのですが」とか「変形赤血球は中等度です」とかコールしている病院もあるのだろうか。また赤血球の粒度(テクスチャの粗さを表す程度)によって変形型、均一型に分けて表示する自動分析装置もあるが、これは参考と考えられているようだ。




2016/07/01

DVT prophylaxis for ESRD patients

 日本でも深部静脈血栓症の皮下注予防に非分画ヘパリン(UFH)、低分子量ヘパリン(LMWHのうちEnoxaparinだけだが)、ペンタサッカライド(Fondaparinux)が承認されている。この三種類の違いはこの図(NEJM 1997 337 688)が有名で、改変していろんな論文で使われている。


 しかし血液透析患者さんへの深部静脈血栓症の予防については、米国胸部学会(ACCP)のガイドラインにも腎臓のKDIGO、KDOQIガイドラインにも記載が見つからない。尿毒症による血小板機能低下や透析時のヘパリン使用などで、出血のリスクが高く塞栓のリスクは低いと考えられてきたが(Dialysis and Transplantation 2008 37 439)、ホスピタリスト向けの商業誌(Hosp Pract 2015 43 245)にはエキスパートが「末期腎不全は過凝固状態でありDVT予防は必要(根拠なし)」「UFHが好まれるが少用量LMWHの安全性を調べた研究もある(KI 2013 84 555)」と書いている。
 LMWHは主に腎代謝なのとモニタリングが困難(Factor Xa)なので不意に出血しうるのと、拮抗薬がないのが心配され、FDAはEnoxaparinの透析患者さんへの使用を認可していない。が禁忌ではないしCrCl 30ml/min/1.73m2以下の腎不全には使える;LMWHのもうひとつDalteparinは適応1番目が血液透析回路の凝固阻止(日本、カナダなど、米国はoff-label;米国のほうが厳しいのは珍しい)で、血液透析患者さんにも普通に用いられている。
 前述の研究はドイツ資本の透析大手Freseniusがもつ米国支社の観察データでUFH使用群とLMWH使用群に出血による入院や死亡の差があるか調べたところ、出血に有意差がなかった(なおLMWH 31-60mg/dと30mg/dでも有意差がなかった)。塞栓症の予防については非劣性で、数字上は優れていたが有意差を示すパワーがなかった。著者は「Factor Xaをモニターできたほうがより安全だが高いし一般的ではない」と書いているが、そもそも皮下注のいいところはモニタリングが不要なところなので微妙だ。Editorial(KI 2013 84 433)は「Factor Xa活性は出血と相関しない」と言っている。
 FondaparinuxはCrCl 30ml/min未満の腎機能障害と透析患者さんには禁忌となっている(分子量とVdは小さいがATIIIにほぼ結合している)。Fondaparinuxは直接トロンビン阻害薬Argatroban(肝代謝)、Bivalirudin(肝腎代謝・透析性あり)、ヘパリノイドのDanaparoid(日本ではDICの適応で透析患者に禁忌だが米国は透析用量がある)などとともにHITの治療薬でもあるが、Fondaparinuxを使って血液透析患者に使用して大丈夫だった(Factor Xaを測ったものもそうでないものも)という報告もいくつかある。