2012/11/30

Urinary plasmin

 ネフローゼで浮腫になるのは低アルブミン血症で膠質浸透圧が下がるからと思っていたが、それと別に腎臓におけるNa貯留が機序として分かったのはつい数年前のことだ(JASN 2009 20 299)。欧州のグループによるこの論文は、ネフローゼで尿中に漏れるplasminがENaCのγサブユニットについたinhibitory peptideをcleaveしてENaCを活性化することを示した。

 今月のJASNでは、やはり欧州の尿細管とイオン輸送のボスであるBindels先生のグループが、plasminが今度は遠位尿細管のCaチャネルTRPV5を抑制することを示した論文が出た(JASN 2012 23 1824)。研究によればplasminがPAR-1を介した細胞内シグナリング経路を活性化し、TRPV5のCalmodulin結合サイトのアミノ酸残基(144セリン)をリン酸化して、それによりチャネルの孔が閉じる。

 TRPV5-transfected HEK293 cellを使ったりパッチクランプを使ったりして美しい論文だが、ネフローゼで尿Ca排泄が増えるという話はあまり聴かない(著者によれば家族性ネフローゼでnephrocalcinosisの報告があるらしい)。おそらくENaCの次はTRPV5という具合に調べてみたのだろうが、これが糸口になって新たな病態機序が分かれば面白い。

Stewart Approach

 塩素イオンの害について調べていたら(Crit Care 2010 14 226)、Stewart Approachと呼ばれる酸塩基平衡の解釈方法を学ぶことができた。これは、腎臓内科が用いる古典的なHenderson-Hasselbalch(H-H)に代わる新しい解釈で、麻酔科・ICU領域で用いられている。

 原理に電離平衡のみならず、電気的中立性と質量保存の法則を取り入れるこの方法によれば、プロトン濃度の決定要因は三つ、SID(strong ion difference)、CO2分圧、弱酸濃度という。H-Hとの決定的な違いは、HCO3が酸塩基平衡のマーカーであってメカニズムではないと言い切るところにある。

 SIDは(Na + K + Mg + Ca) - (Cl + lactate)のことだ。高Cl代謝性アシドーシスというが、実際はCl濃度そのものよりもSIDが重要で、たとえCl濃度が高くてもSIDが動かなければプロトン濃度は変わらず、それはICU患者300人のデータでも確かめられた(Anesth Analg 2006 103 144)。


2012/11/27

塩素イオンの害

 ICU分野は治療の何から何まで入念に有効性が検証されており、生理食塩水もそのひとつだ。Volume overload、高Cl代謝性アシドーシスを起こすのみならず急性腎不全を起こしているかもしれないと考えられている(レビューはCrit Care 2010 14 226)。その機序として、vasoconstrictionが考えられている(動物ではJCI 1983 71 726、人間ではAnn Surg 2012 256 18)。

 それで、ICUによっては低Clな輸液、LR、Hartman、Baxter社のPlasma-Lyte®などを用いる。先月JAMAに高Cl輸液群と低Cl輸液群でICUにおけるAKIの違いを調べた論文がでた(JAMA 2012 308 1566)。ICUに「高Cl輸液はICU指導医の許可なしに輸液できない」というシバリを掛ける前と後で比較したもので、学会でも紹介されたらしい。

 結果は、シバリを掛けたほうがAKIが少なかった。Volumeは大きなconfounding factorだろうが、著者はCl負荷がAKIのリスク因子と言いたいようだ。それにしてもオーストラリアはICUと輸液についてのスタディをバンバンだす。SAFE(NEJM 2004 350 2247)もそうだし、今月でたHESと生理食塩水を比べたの(NEJM 2012 367 1901)もそう。実際に病院ではどんな輸液をしているのだろう。



 [2017年7月追加]0.9%食塩水についてのディベート論文について紹介した投稿、0.9%食塩水とPlasmaLyte®を比較したSPLITトライアルを紹介した投稿も参考になれば幸いです。


2012/11/23

ネタ帳の紹介

 教育熱心な先生がたいてい面白いのは、彼らがただ物知りなだけでなく、相手にとって分かりやすく、面白く、やる気が起こるようにするプロだからだろう。Johnston先生の話も面白かったが、Hoenig先生の話はもっと面白かった。彼女は腎臓内科を何倍も面白くする10のコツ(これは私がつけた題名だが)について話した。そのひとつは透析についてもっと教える、だった。

 これは私も同感だ、しかし米国腎臓内科コミュニティには「透析についてレジデントに教えるな、透析診療が嫌で腎臓内科を選ばない人が多いから」という風潮がある。しかし腎代替療法である透析を学ぶことで、腎臓のさまざまな機能を教えることができる。水排泄、さまざまな分子量の老廃物排泄(NEJM 2007 357 1316)、EPO、活性化ビタミンDなど。

 また現在では誰でも受けられるが、透析はあくまで生命維持装置である。実際、50年前の米国では慢性腎不全患者に対して透析器械の数が足りず、シアトルのSwedish病院では俗に"God Committee"と呼ばれる委員会が、誰を生かすかという順番を取り決めた。彼女は当時の雑誌記事を紹介しているそうだ。

 ほかにも、尿沈査をiPhoneで撮影する(コツが要るが出来るらしい)、JASNのMILESTONES IN NEPHROLOGYシリーズを紹介する、TTKGでもfree water deficitでも一緒に計算する、翌日の検査データを予想する、coffee talk(ちょっとした時間にする話、たとえば「血清Naは140Eq/lなのに、生理食塩水のNaは154mEq/l。はい、議論して!」とか)などが挙げられた。

2012/11/16

腎移植後の再発

 腎疾患は腎そのものに原因がある場合もあるが、多くの場合腎外の因子が腎にダメージを与えて起こる。では、腎臓を移植しても同じプロセスがダメージを起こすのでは?最も顕著な例はFSGSだろう。今年Northwestern大学が報告した有名なケースがある(NEJM 2012 366 1648)。
 原発性のFSGS患者さんに健康な生体腎を移植したら、二日目には>10g/dの蛋白尿がでて、生検するとfoot processが完全になくなっていた。プロトコルにしたがい移植前後に血漿交換をしたにもかかわらずである。
 やがて腎機能も悪化し、このままでは移植腎が廃絶するのは必至で、かつ患者さんには多大な感作リスクが掛かり、二回目の移植可能性が減ってしまう。そこで彼らはこの移植腎を摘出し、ドナーの許可を得てこれを移植リストのトップにいた患者さんに再移植した。すると腎は(FSGSのcirculating factorがないので)正常に機能した。
 FSGSの移植後再発は20-30%に見られる(NDT 2010 25 25、あのPonticelliレジメンのPonticelli先生が書いている)。予防に用いる血漿交換はimmunoabsorption with protein A。Circulating factorの除去が目的で、その産生は抑えないのでは?と思われるが、あるRCTスタディ(AJT 2009 9 1081)では治療群が12か月たっても90%の寛解率を示した。
 Circulating factorを抑える治療としてはcyclosporine(先発薬なのでtacrolimusよりデータがあるが、比較したスタディはない)、rituximab、galactose IV infusion(Transl Res 2008 151 288)などが用いられている。
 IgA腎症はどうか?IgA腎症もまた病原性のある腎外因子が疑われている(その一つはgalactose-deficient IgA1に対する自己抗体、Semin Immunopathol 2012 34 365)ので再発しうる。Mini-review(AJT 2006 6 2535)によれば、生検しないと分からないような再発が50-60%、血尿・蛋白尿・腎機能低下など目に見える再発は13-50%という。血縁ドナーからの生体腎移植で再発リスクが心配されているが、graft survival成績はexcellentで、既存のデータによれば避けるべきではない。
 MPGNは免疫染色パターンと補体制御遺伝子の異常によって治療が細分化されるようになった。たとえばCFH/Iが異常なら再発リスクが高く肝腎同時移植、eculizumab、血漿交換が推奨され、MCPが異常なら腎単独移植が推奨される(Semin Thromb Hemost 2010 36 653)。HUSかatypical HUSかは臨床診断が難しいので、補体機能や遺伝子精査が推奨される(HUSなら再発はほぼないが、atypicalなら再発するから)。
 MPGNと移植で覚えておくべきは、transplant glomerulopathy(de novo MPGN)。それから、eculizumabはIgG2、IgG4、Kappaで出来ているので、投与後に生検・免疫染色するとこれらが染まる(JASN 2012 23 1229)が異常ではないと、こないだのKidney Weekで報告があった。
 抗GBM抗体による腎臓病、それにLupus nephritisで分かっているのは、移植前に病勢がコントロールされているほうが術後成績がよいということだ。腎廃絶後は腎機能を図れないが、抗体価や腎外症状をフォローしたい。たとえば抗GBM抗体では6-12か月抗体価陰性が持続するまで移植を待つよう推奨されている。
 糖尿病性腎症だが、再発は高く進行は早い(UCLAのデータはTransplantation 2003 75 66)。Calcineurin inhibitor、ステロイドにより血糖コントロールが悪化するせいもある(NODAT、new-onset diabetes after transplantも多い)。そして糖尿病は腎障害だけでなく心血管系イベント、感染症などのリスクなので、それらによって移植後の生命・QOL予後が低下するかもしれない(CJASN 2011 6 1214)。

2012/11/15

Evidence-based management of hypercalcemia

 電解質第三弾、高Ca血症。高Ca血症は、悪性疾患などで患者さんの状態が元々良くないうえ、腎不全などをきたし、じつは予後不良だ。San Diego VAのretrospective studyでは約30%が悪性腫瘍によるものだった(Endocrine Practice 2006 12 535、この患者層はほとんどスモーカーだが)。台湾のERが行ったretrospective studyでは、高Ca血症患者の死亡率が23%だった(Am J Med Sci 2006 331 119)。意外な数字だが、副腎不全や結核患者も多かったようだ。

 悪性腫瘍による高Ca血症の原因は80%がHHM(PTHrPによる、とくに扁平上皮細胞由来の悪性腫瘍)、20%がosteolytic、1%以下が1,25-OH vitamin D上昇による(NEJM 2005 352 373)。PTHrPはtype1 PTH receptorに結合しPTHと同じく骨の脱石灰化を亢進し尿中のCa排泄を阻害する(JCI 1988 81 932)が、1,25-OH vitamin Dを抑制するのがPTHと反対だ(J Bone Miner Res 2005 20 1792)。

 治療はどうか?先月のCJASNにまとまったレビュー(CJASN 2012 7 1722)が出た。まずはカルシウムに毒されたTALと集合管を助ける。どちらもCaSRがあって、高Ca血症で前者ではNaClの再吸収が落ち、後者ではADHが不応になるから、補液でこれを解消する。生理食塩水が用いられるが、volume overloadと低Na血症に気を付ける必要がある。

 ループ利尿剤はどうか?生理食塩水との併用は(とくに腫瘍内科領域で)慣習だが、エビデンスは乏しい(Ann Int Med 2008 149 259)。というか、あるのはfurosemide単独使用の小規模スタディだけで、これは1120mg/dという高用量でも1/3の患者しかCaが正常化せず、多くは低Mg血症を発症した。生理食塩水との併用は、だから、奨めるデータも奨めないデータもない。少なくともvolume overload例には正当化できるだろう。 

 Bisphosphonateはどうか?効く、量に比例して効く(Am J Med 1993 95 297)、とくに強いpamidronate、zolendronate、ibandronateは(ibandronateはFDAが適応を認可していないが)。しかし腎毒性と腎機能低下時のdose adjustmentに留意が必要で、ASCOがガイドラインを出した(CJASN 2012 7 1722、表1)。腎毒性はcollapsing FSGS(とくにpamidronateに多い)、ATN(zolendronateに多い、不可逆的で透析導入になることも)、どちらも繰り返し投与した場合に起こりやすい。

 Calcitoninは?サケ(salmon)から作られるというのがユニークだが、まあ効かない、でも害もない。重症の高Ca血症でbisphosphonateと併用したら良かったというデータはある(BMJ 1986 292 1549)。[2015年5月追加]日本では即効性があるとして使われるようだが、推奨量が4単位/kgなのにたいして、日本の保険適応上限は80単位で足りないそうだ。なおBMJのスタディでは10単位を8時間ごと皮下注している。

 とまあここまでは知っている話で、ここからが新しかった。Gallium Nitrate(ガリウムは周期表の第13族、アルミニウムと同じ)は破骨細胞を止めるらしく、五日間連続静注でbisphosphonateより効くかもしれないというデータがある(Cancer J 2006 12 47)。ステロイドはリンパ腫による高Ca血症に用いられ、1α-hydroxylaseを阻害して1,25-OH vitamin Dを下げるという(NEJM 1992 326 1196)。

 抗PTHrP抗体(Clin Cancer Res 2005 11 4198、日本の研究)、抗RANKL抗体denosumab(Lancet 2011 377 4198)も開発された。RANKL(receptor activator of nuclear factor κB ligand)とはosteoblastがosteoclastに話しかけるシグナルの一つで、これを受けた破骨細胞は成熟し増殖し活性化する(逆のシグナルは以前ここでも紹介したosteoprotegerin)。Bisphoshonate不応の高Ca血症にdenosumabを試した報告(一例、Ann Int Med 2012 156 906)もでた。

2012/11/04

Evidence-based management of hyperkalemia

 高K血症の心毒性は、resting potentialが上がるので心筋細胞膜のexcitabilityがあがるからとされている。同じことは横紋筋にも起こり、この場合なんと高K血症によりresting potentialがthreshold potentialより高くなり筋細胞が不応になってしまうことがある。それで、低K血症のみならず高K血症が筋力低下でやってくることもある。

 高K血症と心電図変化の相関は、実際には教科書にあるほど典型的ではない。スタディによれば、6-9.3mEq/lの高K血症で心電図変化があったのは46%に過ぎず、致死性不整脈になった14例のうち事前に心電図変化があったのは1例だけだった(CJASN 2008 3 324)。

 おもしろかったのは、同じK濃度でも、Ca濃度を下げただけでT波の上昇が見られたという症例だった。高K血症でCaを投与するのはthreshold potentialを上げるためだが、たとえば透析患者さんにcinacalcetを投与した場合、Caが下がりthreshold potentialが下がるので心筋のexcitabilityが高まる。

 インスリンはKを下げるが、持続(Am J Med 1988 85 507)でもボーラス(KI 1990 38 869)でも低血糖がかなり起こる。グルコースを多くあげるか(AJKD 1996 28 508)、β刺激剤を併用すれば(糖新生が起こるから)いいかもしれない。Beta-agonistの効果は、0.6mEq/l/10mg、0.9mEq/l/20mg程度であまりよくない(Am J Med 1988 85 507)。患者さんがβ遮断薬を飲んでいれば効かないし、虚血性心疾患があれば危険だ。

 重曹は、重度アシドーシスでは有効だ。というのも、アシドーシスでは細胞のNHE1チャネルからH+と一緒にNa+が細胞内に入れないので、重曹を上げるとNBCe1チャネルからHCO3-と一緒にNa+が細胞内に入り、Na-K-ATPaseが回りK+を細胞内に取り込むことができるからだ(JASN 2011 22 1981)。

 しかし、アシドーシスでなければ、volume expansionによる希釈効果しかなく、その効果は生理食塩水と変わらない。Resin(Kayexalate)は、SorbitolとSorbitol+ResinでK降下作用に差がなかった(Gastroenterology 1995 108 752)。


情熱のtorch

 腎臓内科は学ぶことがたくさんあるので、忘れない様に学んだことを書き留め、忘れた頃に検索して学び直せるブログのようなシステムを採用している人は、私の他にもいる。うちの大学にもOne Noteソフトをつかってパソコンに書きとめている人がいる。昨日会った、Detroitでprivate practiceしている米国ブロガーJoel Topf先生も同じように始めたという。

 ブロガーは、旧弊の医学界に新しいムーブメントを起こしている。Renal Fellow NetworkでもeAJKDでも、レスポンスがインスタントに得られるし、インタラクティブだし、世界中からものすごい多くの人が読む。短くまとめてくれるので論文を読む手間がはぶけるし、もし論文を読もうとおもえばリンクからすぐ飛ぶことができる。

 おなじ情熱を共有する人に出会うのは、心に火がともるようで嬉しい。RFNの元エディタで現在DukeにいるMathew Sparks先生は、創始者の故Nathan Hellman先生に最初ブログに記事を書かないかと言われて尻込みした。しかし、Hellman先生の急死に遭って、この火を消してはならないと強く感じてRFNを続けることを決心した。

 それで、Hellman先生と一緒に記事を書いていたConall O'Seaghdha先生のメールアドレスをなんとか探し出しコンタクトを取り、以後フェローを卒業するまでエディタを続けた。どうしても書きたくて、参加したくて自分からなんとかコンタクトを取る過程は、私がSparks先生の連絡先を探した経緯とも似ていた。

 RFNは、貴重なウェブサイトだ。どうしても書きたい、学んだことを伝えたいというフェローの情熱だけで成り立っている。これは、書いてくれとお願いしてもダメなのである、自分から書きたい人でないとダメ。だから、サイト存続にあたってはどうすれば情熱のTorchを継代していけるかがカギだろう。

ODS & K

 ODSのリスク因子に低K血症がある(Am J Med 1994 96 408)。この報告では、ODSの多く(半数以上)でKが3mEq/l以下だった。原因は分かっていない。そういえば、低K血症だけでもODSがみられたという報告もあった(J Neurol Neurosurg Psychiatry 2003 74 353)。日本からの報告で、たしかanorexia nervosaの一例だったと思う。

2012/11/03

Evidence-based management of hyponatremia

 低Na血症の治療で推奨されている速度は、30年前は2mEq/l/hrだった。というのも、重度の低Na血症は脳浮腫により脳ヘルニアや重篤な脳機能障害をもたらすと考えられていたからだ。0.6mEq/l/hrでは遅いという論文がいくつもでた(JEJM 1986 314 1529、Ann Int Med 1990 112 113)。

 しかしODS(osmotic demyelanation syndrome)が0.6mEq/l/hrを越える治療群で起こるというsingle-centerの報告が出て(Ann Int Med 1987 107 656)、12mEq/l/24hrと18mEq/l/48hrを越えると危険域と分かって来た(JASN 1994 4 1522、J Neurol 2010 25 1176)。

 そもそも低Na血症治療のゴールは症状(とくに神経系の)を取ることで、そのためには4-6mEq/lのNa上昇で十分かもしれない(脳外科領域での脳浮腫に対する3%NaClのデータによる、Neurology 2008 70 1023)。

 Na濃度を上げ過ぎたら、戻した方がいいのか。Overcorrectionは、起こる(CJASN 2007 2 1110)。コントロールスタディはないが、戻したら何も起こらなかったという報告はある(CJASN 2008 3 331)。ここではDDAVPを使っているが、これがVaptan使用例にも有効かは不明だ。演者は、overcorrectionを防ぐため3%NaClを用いる場合prophylaciticにDDAVPを投与していると言う(AJKD 2010 56 774)。

 現在では、6-8mEq/l/dayを越えるべきではないというのが推奨だ(Editorial、JASN 2012 23 1140)。急性低Na血症は急速にreverseしても大丈夫と言われているし、実際水中毒のような場合、水を止めればNaは急速に戻る。しかしこの論文ではdo no harmの立場から急性でも慢性でもこのthresholdを守るべきとしている。

MN2

 膜性腎症の原因となる抗原と抗体が次々と明らかになっているが、このトピックについてJASNにレビュー(JASN 2005 16 1205)を書いたフランスのRonco先生が最新の研究結果を含めて講演した。PLA2Rの他にBSA(NEJM 2011 364 2101)、NEP、rhASBの話がでた。BSAは小児のケースだが、消化管のバリアが未熟でBSAが消化されずに血液に入り、そのままではcationicなので陰性にチャージしたGBMに沈着すると考えられている。NEPも新生児の話(NEJM 2002 346 2053)だが、母親にMME gene mutationがあると胎児のNEPに対して抗体が作られ、胎児腎に膜性腎症が起こる(Nat Clin Pract Nephrol 2006 2 388)。ただし抗体の種類が重要で、IgG4は病原性がなく、IgG1に病原性があると分かった。このようにIgGのサブクラスについても調べられていて、idiopathic MNのanti-PLA2R抗体ではIgG4が多く(JASN 2012 23 1735)、LNではIgG3が多いなど違いがある。さらに移植後13日後に再発したMNでグラフトにmonoclonalなanti-PLA2R IgG3抗体がみつかったという報告も紹介された(JASN, in press)。
 [2016年7月追加]原発性膜性腎症にもうひとつ、足細胞抗原のthrombospondin type-1 domain containing 7A(THSD7A)にたいする抗体もみつかっている。西洋では原発性膜性腎症の5%、日本では9%と地域差があるようだ(レビュー、AJKD 2016 68 138)。

MN

 膜性腎症のセッションに参加した。まず英国のUK GN DNA Bank(とフランスとオランダの小規模コホート)のGWAS(genome-wide associated studies)を行った先生が、染色体の二番と六番にSNPを見つけて、前者はPLA2R、後者はHLA-DQA1だったという話をした。

 いまや抗PLA2R抗体の有無でidiopathic MNとsecondary MNをだいたい分けられると考えられ、陽性なら二次性の精査は不要(もしかしたら腎生検すら不要かもしれない)という。また抗体価が蛋白尿に相関することや、RTX投与後の抗体陰転化は治療の反応を予測することもわかった(JASN 2011 22 1543)。

 そこから話は治療に移り、英国で初めてMNのRCTらしいスタディを行った(Lancetに近々発表される予定)先生が今年改訂されたKDIGOガイドライン(KI supplement 2012, chapter 7)と自らのスタディ結果をレビューした。ガイドラインは①腎機能が悪化し始めたら治療せよ(すでにCr 3.5mg/dl以上なら手遅れ)、②Ponticelliを選択せよ(alkylating agentにはcyclophosphamideを用いよ)、③CNIは第二選択にせよ、④MMFは使うな、だ。RTXのコメントはないようだ。

 そして彼のスタディは10年かけてenrollした108例を①Ponticelli(chlorambucilを用いるレジメン)、②cyclosporine、③supportive care(ACEIなど)に分けて、腎機能悪化(20%以上)と蛋白尿をアウトカムに前向きに追跡したものだ。結果は、①のほうが②より優れ、②は③とほとんど変わらなかった。とはいえ①でも腎機能が保たれたのは40%に過ぎなかったし、副作用は①も②も多かった。

 [2013年5月追加]最終段落のスタディが、Lancetに載った(Lancet 2013 381 2)。

 [2016年7月追加]ふつふつしていた原発性膜性腎症に対するRTXの有効性(散発的な報告をまとめたシステマティック・レビューはCJASN 2009 4 734)だが、初のRCTであるGEMRITUXの長期データがでた(doi: 10.1681/ASN.2016040449)。

 パリの施設でeGFR 60-70ml/min/1.73m2、たんぱく尿7000mg/gCr、Alb 2.0g/dl程度の患者さんを非免疫抑制抗たんぱく尿治療(non-immunosuppressive anti-proteinuric treatment、NIAT)群とNIAT+RTX群にわけて、6ヶ月後のたんぱく尿の完全寛解は前者で21%、後者で35%だったが数が少なく有意さが出なかった。ただし抗PLA2R抗体価(約8割で陽性)はNIAT+RTX群で著明に低下し消失した。

 抗PLA2R抗体を消してもたんぱく尿がなおらないのは、困ったことだ。RTXを375mg/m2BSA on Day 1 and Day 8の二回しか打っていないのが少ないのか(北米のコントロールされていないスタディではweekly RTX 375mg/m2BSA x 4 + every 6 monthsで、2年のフォローアップで11g/gCrのたんぱく尿が2.4に、70ml/min/1.73m2のeGFRが80に回復した;CJASN 2010 5 2188)。また、NIAT群の寛解率が高すぎる気もする。


Beyond Bardoxolone

 BardoxoloneのBEACONトライアルが急遽中止になったことは腎臓内科コミュニティをがっかりさせたが、今日の演者は"we're not done yet"と言っていた。その意味は、Nrf-2のようなanti-inflammatory pathwayを治療のターゲットにする研究は続けられるべきで、実際にNrf-2 activatorのBG-12(dimethyl fumarate)がmultiple sclerosisで第三相スタディまでいった(NEJM 2012 367 1098)ということだ。

Beyond ACEI/ARB

 ACEIとARBを最大限に用いても持続する蛋白尿には、spironolactoneが用いられる。Aldosteroneは腎臓でENaCに作用するだけでなく、線維化、左室肥大、内皮細胞障害などにも関わることが分かっているし、ことに循環器領域ではEPHESUS(Circulation 2009 119 2471)など複数のスタディでMRA(mineralocorticoid receptor antagonist)の有効性が示されている。腎臓、蛋白尿についてはどんなデータがあるのか?

 1996年にGreenらがACEI/ARB投与ラットにアルドステロンを投与すると蛋白尿が増悪することを示した(JCI 1996 98 1063)。さらにアルドステロンがNADPH oxydase、ERK1/2などの細胞内シグナルを介してmesangial/fibroblast prolifilation、podocyte injuryを起こすことも示された(Nature Review Nephrology 2010 6 261)。

 2009年にはspironolactone(25mg/d)をlosartan(100mg/d)、placeboと比較したスタディがでた(JASN 2009 10 2641)。これによればspironolactoneはlosartanよりもanti-proteinuric effectがあり、それは血圧と無関係であった。しかしspironolactoneは高K血症を起こした(20%でKが6.0mEq/l以上になった)。現在、Kを上げずに蛋白尿を抑えるようなselective MRAが研究されている。

KPD v. desensitization

 Living donorがいてABOないしクロスマッチが不適合の場合、選択肢はKPD(kidney paired donation)かdesensitizationだ。それぞれの第一人者のトークが聴けた。KPDを熱心に(30-40/year)しているNorthwestern Memorial Hospitalの先生は、自分の経験したnon-simultaneous  extended altruistic-donor chain(NEJM 2009 360 1096)を紹介した後、KPDには脆さ(chainは簡単に壊れる)があるし、cPRAが高ければいくらプールを広げてもマッチする可能性は低いが、効率をあげれば全米で年に1000-2000件は行けるのではないかと話した。

 Desensitizationを熱心にしているJohn Hopkinsの移植外科医は、やはり自分の経験した211例(mean cPRA 82、NEJM 2011 365 318)についてまず話し、術前後にIVIGと血漿交換をおこなうこと、Death-censored graft survival、patient survivalはcompatibleな移植例に比べれば悪い(抗体価の強さに応じてLuminex、Flow、CDCの順に悪い)が、移植を受けずに透析しながらマッチを待つのに比べれば(たとえCDCクロスマッチ陽性でも)良いと主張した。

 次に、LuminexやFlowをクロスマッチに用いる、脱感作にIVIGと血漿交換を用いるなどは全米の施設にほぼ共通したプラクティスと主張した(CJASN 2011 6 2041)。これを彼は"eminence-based medicine(誰かが始め、皆が従い、慣習になる医療)"と呼んだ。Rituximab、Bortezomibの話はでなかったが、Eculizumabの話は出た(NEJM 2010 362 1744、catastrophic APSの一例だが)。

 そのあとKPDとdesensitizationの比較に話は及び、cPRAとDSAと血液型できれいに治療方針を分けていた。Low PRA、low DSA、O donorならKPD、Low PRA、high DSA、O donorもKPD、High PRA、low DSA、non-O donor(とくにAB)、O recipientならまずKPDでマッチしない(モデルで示した論文はJAMA 2005 293 1883)からdesensitization、High PRA、high DSA、non-O donor、O recipientならKPDもdesensitizationも難しい。

 しかし、実際は最後のカテゴリーが一番多い…。彼はKPDでDSA抗体価の少ないドナーをみつけて脱感作するというコンビネーションを薦めていた。ただKPDは前述のようにchainがbreakしてしまうことが多々あり、実際は困難を極める。DSAのタイプ(DQが特に悪い?)についても会場から質問が出たが、まだスタディなどでvalidateはされていないようだ。

2012/11/02

それ知ってる

 今回は、2010年のNKFと違って「それ知ってる」ということも多い。遠位尿細管のNa再吸収などはその一例で、Framingham study cohortのGitelman、Bartter症候群遺伝子のhaplotypeが低血圧という話などは「はいはい(それについてはうちのGrand Roundでも発表しました)」と思えた。でもそのあと、生理学者らしき人が出てきて、ROMKチャネル、NKCC2チャネル、NCCチャネルの遺伝子変異が具体的にチャネルのどの部分に起こりチャネルをどう変容するかについて説明しだしたときは「恐れ入りました」と舌を巻きつつ「ここまで知らなくてもいいけどな」と思い、不謹慎ながら笑いがこみ上げた。
 ROMKの変異箇所は主にcytoplasmic domainにあり(Am J Physiol Ren Physiol 2010 299 F1359)、mis-trafficking(Goldi体に異常チャネル蛋白が溜まる、Cell 2011 145 1102)を起こしたり、PIP2というチャネルの開放に関わる箇所でPIPが外れるようになったりしているらしい。NKCC2の変異は、processing problem、altered response to low intracellular Clを起こしているらしい(Am J Physiol Ren Physiol 2011 300 F840)。そしてNCCは、NCC自体の変異というのはあまりない(あっても機能はほとんど正常と変わらない、J of Hypertension 2011 29 475)が、それを制御するWNKsやSPAKの異常が問題なようだ。

鉄の副作用

 今回ハリケーンSandyの影響で、iron in CKD/ESRDのセッションでは演者二人が来れず、一人はBostonから電話でプレゼン(司会がパワーポイントを操作)、もう一人は代わりの演者を立てるなど学会は対応に追われていた。電話で講演したのはMGHのBabitt先生で、彼女のHepcidin/ferroportinについてのトークはJASNのレビューを読んだ後なので理解が深まった。

 彼女の研究分野はどのように鉄が肝のHepcidin分泌を促進するかで、hereditary hemochromatosisの遺伝子異常に注目してその一つHJVがBMP6のco-receptorであることを示した(Nat Genet 2009 41 482)。その下流はSMAD(Blood 2008 112 1503)。Fc HJVも作って、ESAと併用するとESA resistantが解けることも調べた(JCI 2007 117 1933)。

 鉄の副作用について話す予定だったのはDr. Fishbaneだが、Long Islandの病院で働く彼は来れなかった。彼のスライド(他の先生が代わりに講演した)によれば、鉄の副作用に①anaphylactoid(iron dextranを使わない現在では稀)、②iron overload、③infection、④oxidative stressなどがある。

 ②は、剖検するとかなりのESRD患者で肝iron overloadが見られた(JAMA 1980 244 343)、剖検しなくてもMRIで肝のiron overloadが見られた(KI 2004 65 1091)という報告がある。どちらもFerritinは相関しなかった。ただし肝iron overloadのclinical significanceは不明だ。

 ③はanimal modelでのtheoreticalな話かと思ったら透析患者さんでも調べられており、S. epi growth indexなる数値が上がった(NDT 2000 15 1827)とか、neutrophil functionが下がった(KI 2003 64 728)とか報告があった。④はよく分からなかった。

ESRDと掻痒

 ESRDと掻痒について。特に注意して聞かなければ、患者さんから訴えることは少ない。以前はESRDの半数以上と言われていたが、DOPPSでは各国で約40%という(NDT 2006 21 3495)。痒みのメカニズムは何らかのシグナル(keratinocytes、mast cell、eosinophilなど)が神経終末に伝わるのが始まり。ヒスタミンを介したtransmission(HR4、IL31、TRPV1らが関与)、介さないtransmission(PAR-2などが関与)がある(Lancet 2003 361 690、Trends in Neuroscience 2010 33 550)。それが脊髄dorsal hornで脊髄神経にスイッチし、脳に伝わる。Functional MRIによればDFC、PCC、ACCなどが痒みに関係しているようだ(Br J Dermatol 2009 161 1072)。痒み神経線維と痛み神経線維は別と考えられ、痛みはVglut2を介してシナプスが交代するのに対し痒みはVglut1/3を介する(Neuron 2010 65 886)。さらに痛み神経はBhlhb5を介して痒み神経を抑制するのでBhlhb5を抑制するとマウスが痒がる。
 さて、ESRDと掻痒の関係は。以前は二次性副甲状腺亢進症が悪いと考えられ、Cinacalcetが痒みを改善したというデータもあった。しかしDOPPS、ITCH National Registryなどのデータによれば痒みの程度とPTH、P、Ca、Mg、透析のefficiencyなどに相関はなかった(CJASN 2010 5 1410)。相関があったのはHep B/C(NDT 2008 23 3685)、CRP。現在では慢性炎症が重要なリスク因子と考えられ、痒みは慢性炎症のmanifestationであるがゆえにsurvivalとも相関している(Q J Med 2010 103 837、KI 2006 69 1626)ことも示された。Depressionとも相関しているという(DOPPS
データ)。
 さまざまな治療があるが、moisturising cream、capsaicinが最もよく用いられちゃんとしたデータもあるようだ。tacrolimus cream、endocannabinoids、γ-linolenic acidなども試されている。鍼はsystematic reviewが出ているし(J of Pain and Symptom Management 2010 40 117)、κ opioid antagonistのnalfurafineも複数のcontrolled studyで有効性が示された(Am J Nephrol 2012 36 175)。SSRI、serotonin agonist(ondansetronの仲間)、gabapentin/pregabalin、UVBなども用いられている。腎臓内科にいると、このような皮膚科や神経内科領域ともオーバーラップするので飽きることがない。
 [2013年12月追加] κ opioid antagonistのnalfurafineは、すでに日本で適応が通っている(商品名レミッチ®、2.5mcg眠前)ことが分かった。μ受容体刺激はかゆみを起こし、κ受容体刺激はかゆみを抑えるという。副作用に不眠も傾眠もあるようだ。