腎臓内科の教科書Brennerを読んで有機溶質の再吸収/分泌について勉強していた矢先、FDAがcanagliflozin(Invokana®)を認可した。これは近位尿細管にあるNa+とグルコースのco-transporter、SGLT2を阻害する腎臓生理学をうまく利用した薬だ。製薬業界と糖尿病関係者にはすでによく知られており、他でも上手に説明されているが、私なりに書く。
糸球体ろ過によってグルコースがサケの遡上のごとく大量に流れてきて、近位尿細管はこれを一匹残らず回収するよう命じられている。それは古代より生命にとってグルコースが貴重なエネルギー源で、グルコースを捨てなければならない状況(高血糖)など滅多になかったからだ。
そのために、近位尿細管細胞の内腔側には二種類のトランスポーターが用意されている。SGLT2は最初にグルコースをごっそり回収するのが役目で、いわば網。SGLT1は残りを拾い集めるのが役目で、いわば釣り。どちらもNa+-K+-ATPaseによってうまれた細胞内の陰性電位を利用している。間質側へはGLUT1とGLUT2から運ばれる。
このシステムのおかげで、尿細管に届くグルコース量が400mg/min/1.73m2近くにならない限り、尿中に貴重な燃料である糖が捨てられることはない(CJASN 2010 5 133)。しかし血糖を下げたい場合、このシステムは邪魔だ。だからブロックしてはどうかと言うわけ。さてSGLT1、SGLT2、どちらをブロックしよう?つづく。
クマさんがおしっこしないで冬眠できるのも、じん臓が一日に体液の何十倍もろ過してから不要なものを残して再吸収するのも、じん臓の替わりをしてくれる治療があるのも、すごいことです。でも一番のキセキは、こうして腎臓内科をつうじてみなさまとお会いできたこと。その感謝の気持ちをもって、日々の学びを共有できればと思います。投稿・追記など、Xアカウント(@Kiseki_jinzo)でもアナウンスしています。
2013/04/06
2013/02/22
酸塩基平衡の本質 1/2
クマが冬眠できるのも、ペンギンの脚が凍らないのも、サケが淡水と海水を行き来できるのも、スナネズミが砂漠で生きられるのも、全部腎臓と関係ある(まだ詳しくわかってない部分もあるが)。ペンギンの話などは、ヘンレ係蹄のcounter-current exchangeを説明する際に多くの医学部の授業で取り上げられていることだろう。
腎臓は恒常性を守り、環境に適応する臓器。腎臓を学ぶと、世界の見方が変わる。先日、日本で酸塩基平衡についてレクチャする機会に恵まれたときも、それを強調したくてタイトルを『世界は酸塩基平衡でまわってる』にした。要は酸塩基平衡をbig pictureで捉えようということだ。その一部を説明してみよう。
まずはツカミでイルカの尿酸結石について説明した(J of Zoo and Wildlife Med 2012 43 101)。イルカの尿管結石は原因不明だが、水族館で飼育の群に見られ野性では稀だ。そして研究により水族館群では尿中のcitrateがほぼゼロなことがわかった(Comparable Med 2010 60 149)。これと酸塩基平衡の関係は、大有りだ。
Citrateは酸のバッファーだから、酸の大量摂取により枯渇する。これは私の推察だが、水族館で飼育の群は野生に比べて魚ばっかり食べて、しかも訓練のご褒美などでたくさん食べているのかもしれない。といわれても「魚がなんで酸なの?」と思うだろう。で、生物と酸(摂取と排泄)について話を始めた。続く。
[2013年3月追加]クマの冬眠の話がレビューされた(KI 2013 83 207)。例の尿素→アミノ酸リサイクリングのみならず、骨代謝や血管・血栓・創傷治癒についても記述されている。
腎臓は恒常性を守り、環境に適応する臓器。腎臓を学ぶと、世界の見方が変わる。先日、日本で酸塩基平衡についてレクチャする機会に恵まれたときも、それを強調したくてタイトルを『世界は酸塩基平衡でまわってる』にした。要は酸塩基平衡をbig pictureで捉えようということだ。その一部を説明してみよう。
まずはツカミでイルカの尿酸結石について説明した(J of Zoo and Wildlife Med 2012 43 101)。イルカの尿管結石は原因不明だが、水族館で飼育の群に見られ野性では稀だ。そして研究により水族館群では尿中のcitrateがほぼゼロなことがわかった(Comparable Med 2010 60 149)。これと酸塩基平衡の関係は、大有りだ。
Citrateは酸のバッファーだから、酸の大量摂取により枯渇する。これは私の推察だが、水族館で飼育の群は野生に比べて魚ばっかり食べて、しかも訓練のご褒美などでたくさん食べているのかもしれない。といわれても「魚がなんで酸なの?」と思うだろう。で、生物と酸(摂取と排泄)について話を始めた。続く。
[2013年3月追加]クマの冬眠の話がレビューされた(KI 2013 83 207)。例の尿素→アミノ酸リサイクリングのみならず、骨代謝や血管・血栓・創傷治癒についても記述されている。
2012/11/15
Evidence-based management of hypercalcemia
電解質第三弾、高Ca血症。高Ca血症は、悪性疾患などで患者さんの状態が元々良くないうえ、腎不全などをきたし、じつは予後不良だ。San Diego VAのretrospective studyでは約30%が悪性腫瘍によるものだった(Endocrine Practice 2006 12 535、この患者層はほとんどスモーカーだが)。台湾のERが行ったretrospective studyでは、高Ca血症患者の死亡率が23%だった(Am J Med Sci 2006 331 119)。意外な数字だが、副腎不全や結核患者も多かったようだ。
悪性腫瘍による高Ca血症の原因は80%がHHM(PTHrPによる、とくに扁平上皮細胞由来の悪性腫瘍)、20%がosteolytic、1%以下が1,25-OH vitamin D上昇による(NEJM 2005 352 373)。PTHrPはtype1 PTH receptorに結合しPTHと同じく骨の脱石灰化を亢進し尿中のCa排泄を阻害する(JCI 1988 81 932)が、1,25-OH vitamin Dを抑制するのがPTHと反対だ(J Bone Miner Res 2005 20 1792)。
治療はどうか?先月のCJASNにまとまったレビュー(CJASN 2012 7 1722)が出た。まずはカルシウムに毒されたTALと集合管を助ける。どちらもCaSRがあって、高Ca血症で前者ではNaClの再吸収が落ち、後者ではADHが不応になるから、補液でこれを解消する。生理食塩水が用いられるが、volume overloadと低Na血症に気を付ける必要がある。
ループ利尿剤はどうか?生理食塩水との併用は(とくに腫瘍内科領域で)慣習だが、エビデンスは乏しい(Ann Int Med 2008 149 259)。というか、あるのはfurosemide単独使用の小規模スタディだけで、これは1120mg/dという高用量でも1/3の患者しかCaが正常化せず、多くは低Mg血症を発症した。生理食塩水との併用は、だから、奨めるデータも奨めないデータもない。少なくともvolume overload例には正当化できるだろう。
Bisphosphonateはどうか?効く、量に比例して効く(Am J Med 1993 95 297)、とくに強いpamidronate、zolendronate、ibandronateは(ibandronateはFDAが適応を認可していないが)。しかし腎毒性と腎機能低下時のdose adjustmentに留意が必要で、ASCOがガイドラインを出した(CJASN 2012 7 1722、表1)。腎毒性はcollapsing FSGS(とくにpamidronateに多い)、ATN(zolendronateに多い、不可逆的で透析導入になることも)、どちらも繰り返し投与した場合に起こりやすい。
Calcitoninは?サケ(salmon)から作られるというのがユニークだが、まあ効かない、でも害もない。重症の高Ca血症でbisphosphonateと併用したら良かったというデータはある(BMJ 1986 292 1549)。[2015年5月追加]日本では即効性があるとして使われるようだが、推奨量が4単位/kgなのにたいして、日本の保険適応上限は80単位で足りないそうだ。なおBMJのスタディでは10単位を8時間ごと皮下注している。
とまあここまでは知っている話で、ここからが新しかった。Gallium Nitrate(ガリウムは周期表の第13族、アルミニウムと同じ)は破骨細胞を止めるらしく、五日間連続静注でbisphosphonateより効くかもしれないというデータがある(Cancer J 2006 12 47)。ステロイドはリンパ腫による高Ca血症に用いられ、1α-hydroxylaseを阻害して1,25-OH vitamin Dを下げるという(NEJM 1992 326 1196)。
抗PTHrP抗体(Clin Cancer Res 2005 11 4198、日本の研究)、抗RANKL抗体denosumab(Lancet 2011 377 4198)も開発された。RANKL(receptor activator of nuclear factor κB ligand)とはosteoblastがosteoclastに話しかけるシグナルの一つで、これを受けた破骨細胞は成熟し増殖し活性化する(逆のシグナルは以前ここでも紹介したosteoprotegerin)。Bisphoshonate不応の高Ca血症にdenosumabを試した報告(一例、Ann Int Med 2012 156 906)もでた。
悪性腫瘍による高Ca血症の原因は80%がHHM(PTHrPによる、とくに扁平上皮細胞由来の悪性腫瘍)、20%がosteolytic、1%以下が1,25-OH vitamin D上昇による(NEJM 2005 352 373)。PTHrPはtype1 PTH receptorに結合しPTHと同じく骨の脱石灰化を亢進し尿中のCa排泄を阻害する(JCI 1988 81 932)が、1,25-OH vitamin Dを抑制するのがPTHと反対だ(J Bone Miner Res 2005 20 1792)。
治療はどうか?先月のCJASNにまとまったレビュー(CJASN 2012 7 1722)が出た。まずはカルシウムに毒されたTALと集合管を助ける。どちらもCaSRがあって、高Ca血症で前者ではNaClの再吸収が落ち、後者ではADHが不応になるから、補液でこれを解消する。生理食塩水が用いられるが、volume overloadと低Na血症に気を付ける必要がある。
ループ利尿剤はどうか?生理食塩水との併用は(とくに腫瘍内科領域で)慣習だが、エビデンスは乏しい(Ann Int Med 2008 149 259)。というか、あるのはfurosemide単独使用の小規模スタディだけで、これは1120mg/dという高用量でも1/3の患者しかCaが正常化せず、多くは低Mg血症を発症した。生理食塩水との併用は、だから、奨めるデータも奨めないデータもない。少なくともvolume overload例には正当化できるだろう。
Bisphosphonateはどうか?効く、量に比例して効く(Am J Med 1993 95 297)、とくに強いpamidronate、zolendronate、ibandronateは(ibandronateはFDAが適応を認可していないが)。しかし腎毒性と腎機能低下時のdose adjustmentに留意が必要で、ASCOがガイドラインを出した(CJASN 2012 7 1722、表1)。腎毒性はcollapsing FSGS(とくにpamidronateに多い)、ATN(zolendronateに多い、不可逆的で透析導入になることも)、どちらも繰り返し投与した場合に起こりやすい。
Calcitoninは?サケ(salmon)から作られるというのがユニークだが、まあ効かない、でも害もない。重症の高Ca血症でbisphosphonateと併用したら良かったというデータはある(BMJ 1986 292 1549)。[2015年5月追加]日本では即効性があるとして使われるようだが、推奨量が4単位/kgなのにたいして、日本の保険適応上限は80単位で足りないそうだ。なおBMJのスタディでは10単位を8時間ごと皮下注している。
とまあここまでは知っている話で、ここからが新しかった。Gallium Nitrate(ガリウムは周期表の第13族、アルミニウムと同じ)は破骨細胞を止めるらしく、五日間連続静注でbisphosphonateより効くかもしれないというデータがある(Cancer J 2006 12 47)。ステロイドはリンパ腫による高Ca血症に用いられ、1α-hydroxylaseを阻害して1,25-OH vitamin Dを下げるという(NEJM 1992 326 1196)。
抗PTHrP抗体(Clin Cancer Res 2005 11 4198、日本の研究)、抗RANKL抗体denosumab(Lancet 2011 377 4198)も開発された。RANKL(receptor activator of nuclear factor κB ligand)とはosteoblastがosteoclastに話しかけるシグナルの一つで、これを受けた破骨細胞は成熟し増殖し活性化する(逆のシグナルは以前ここでも紹介したosteoprotegerin)。Bisphoshonate不応の高Ca血症にdenosumabを試した報告(一例、Ann Int Med 2012 156 906)もでた。
登録:
投稿 (Atom)