2016/10/30

小児期の腎不全で考えること(ネフロン癆)

先日、腎不全の若年者の末期腎不全、電解質異常の症例検討を聞いていた際にネフロン癆は鑑別には挙がりますか?と質問されており、自分の知識がないなと思い記載をしようと思った。

ネフロン癆は英語でNephronophthisis(NPH)という。2009年の論文が比較的まとまっている。
この疾患は大まかには
・小児期の末期腎不全の原因の一つ
・腎髄質に嚢胞形成を認める疾患であり、原因はPrimary ciliaの異常で他の嚢胞性腎疾患と同様である。
・このprimary ciliaの蛋白合成に関わるNPHP遺伝子の異常に基づくものである。
・病期は多くは下記の3つに分かれる。
 −乳児ネフロン癆(3~5歳で末期腎不全に。NPHP2の異常)
 −若年性ネフロン癆(13~14歳で末期腎不全に。NPHP1の異常)
 −思春期ネフロン癆(19 歳ごろに末期全不全に。NPHP3の異常)
・上記の他にもNPHP遺伝子は13あり、そのほかの変異もある。頻度に関してはNPHP1の異常が最も頻度が多く20%を占め、他の遺伝子異常は各々3%以下で遺伝子変異がわからないものが30%にも及ぶ。
・症状として初期に多飲、多尿、尿最大濃縮能の低下、成長発育障害がある。
・尿細管や集合管のNa喪失のため、低Na血症を認め、他に高K血症を認める。血圧は初期は正常である。
・病理としては尿細管壊死や尿細管基底膜の肥厚所見が認められる。
・腎外症状合併症例もある
 −Senior-Loken症候群(網膜色素変性症の合併)
 −Cogan症候群(眼球運動の失調合併)
 −小脳失調の合併など
・この疾患はほぼ100%末期腎不全に至ってしまう。合併する電解質異常や酸塩基平衡異常などを治療することくらいである。
・見つけるときに学校検尿が役立つかということに関しては病期が進行しないとタンパク尿が認められないことが多いため難しいのが現状である。

なので、若年での腎不全の鑑別にはこのネフロン癆は常に考えるべきである。多尿・多飲のエピソードが事前になかったかは聞くことも重要である。
絶対数としては少ない疾患ではあるが、腎不全が回避できるような治療が見つかればいいと思う。

下記はJASNの論文であるがメカニズムについてよく書かれている。



[2018年6月追記]NPHP遺伝子異常は、いままで考えられていた以上に多いかもしれないことがJASNに示された(doi: 10.1681/ASN.2017111200)。腎移植レシピエントの遺伝子異常を調べるiGeneTRAiNコホートの約5000人にスクリーンを掛けたものだ。

 すると、0.5%が二本とも(homozygous)完全欠失しており、この数字はドナーより有意に高かった。とくに若いドナーに多かった。遺伝子欠失がみつかったレシピエントのうち、NPHの診断がついていたのはその1割だったので、9割は見逃されていたことになる。見つかってもいまだ治療は確立していないことを考えると何ともいえないが、診断をつける努力は必要だ。




2016/10/27

Free water clearance(FWC 自由水クリアランス ), Electrolyte free water clearance(EFWC)

以前にもこのブログに書いてあるが、今回自分の勉強も兼ねて再度書かせていただく。

腎臓でどのくらいfree waterを排出していることを知ることは、低ナトリウム血症の治療予測や高ナトリウム血症の治療計画に有用である。

尿中の全溶質が排出されるのに必要な分時あたりの血漿量を浸透圧クリアランス(Cosm)という。
Cosm(ml/min)=(Uosm×UV)÷Posm となる。
                    ※ Uosm:尿中浸透圧、UV:尿量、Posm:血漿浸透圧である。

FWCを考えるときにわかりやすいのは、尿を溶質の部分と自由水(free water)の部分に分けるとわかりやすい。
つまり尿量と浸透圧クリアランスの差が溶質を含まないFWCになる。
FWC =UV−Cosm
          =UV−(Uosm×UV)÷Posm
          =UV(1−Uosm/Posm)
となる。

通常は原尿は尿細管で再吸収されて濃縮尿になるため −0.5ml/min以下が正常とされる。
そのため、例えば自由水クリアランスがプラスになれば尿の溶質を等張尿で排泄した時より多くの尿が出ていることになる。

しかし、尿素などは細胞膜を介して自由に移動するし、浸透圧物質は均等には動いてはくれない。そのため、張度の概念を用いてNaとKを主に用いてFWCを表したものがEFWCとなる。そうすれば均一な動きをすると考えられる。
EFWC = UV(1−尿張度/血漿張度)になる。
            = UV[1−(UNa+UK)/PNa]
となる。

これにより色々なことがわかってくる。
腎臓は細かな計算が多いが、少しでも理論的に物事を考えられるようになりたい。


2016/10/26

ループス腎炎の未来を見据えて

病院によっては膠原病科もしくは腎臓内科が対応する疾患にループス腎炎がある。
今回JASNにループス腎炎の未来の治療の論文が出ていたので簡単に共有できればと思う。

まず、ループス腎炎に関しては有名なガイドラインが2012年のACRのガイドラインがある。また、2015年のNDTの論文では各ガイドラインに置ける比較を論文として出している。
どちらも一読の価値はある。

ループス腎炎はステロイドが発見されるまでは、5年生存率が17%であった。
ステロイドにより5年生存率が55%に上昇し、その後免疫抑制剤の登場で5年生存率が80%に上昇したと言われている。
ただ、この30年は治療は足踏み状態ではないかと言われている。

現在のスタンダード治療(induction therapy)は下記のようになっている。



このinduction therapyもいろいろな研究がされて成り立っている。ELNT(NIHのサイクロフォスファミドと低用量のサイクロフォスファミドの比較、あまり差はない)、ALMS(サイクロフォスファミドとMMFの比較、3年の長期で見るとサイクロフォスファミドがいい)

また、維持療法に関しても通常3−6ヶ月行う。再発率などを比較している研究は多い。

今回の論文で興味を惹かれたのは、この足踏みの30年でそれを打開するために様々な薬がtrialで進んでおり、特に免疫系統でB cellを抑えるもの(Rituximab、Ocrezulimab、Obinutuzumab、Atacicept、Belimumab)やPlasma cellを抑えるもの(proteasome inhibitor)など色々と開発が進んでるとのことであった。

ループス腎炎は現在でも末期腎不全になり、若年で透析依存になってしまう疾患の1つであり、少しでもそれが打開されればと切に願う。






薬物中毒について考える(各論):リチウム中毒について

では、今回は各論のリチウムについて記載する。

リチウムは主に双極性障害に用いられる治療薬で、気分の波を抑える作用を持つ薬で有名である。今回はこのリチウムをたくさん飲んだ時の中毒についてお話をしようと思う。


まず、リチウムに関しては腎臓に対してはどんな影響があるのだろう?
①腎性尿崩症の原因になる(20-40%)
②尿細管アシドーシスの原因(type1 acidosisの原因に)
③ネフローゼ症候群(微小変化群が治療開始後1.5-10ヶ月で起こりうる)
④慢性間質性腎炎(軽度から中等度タンパク尿と慢性腎機能障害を起こす)
⑤高カルシウム血症(カルシウムの細胞膜貫通の阻害、PTH分泌上昇)
が言われている。

話を中毒に戻すと薬物中毒の総論でも述べたように、透析を考える際には①タンパク結合率、②薬剤の分布容積、③分子量が重要となる。

今回、「リチウム製剤をたくさん飲んだ人がいます。透析を回してくれませんか?」と言われたとする。

まず、上記3点は確認する。①タンパク結合率:ほとんど結合しない。②薬剤の分布:0.7-0.9L/kgで低い。③分子量は7ダルトンの小分子の陽イオンである。

ここから考えると血液透析は効果が良さそうである。ただ、やはり常に透析の効果がある=透析をやるではいけない。患者さんが元気であれば行う必要はないかもしれない。

リチウム中毒は急性、慢性的に飲んでいる人の急性発症、慢性に分かれる。
症状自体(不整脈:致死的なものは稀でQT延長、消化器症状:嘔吐・下痢、神経・精神:昏迷、錯乱、ミオクローヌスなど)は大きな差はないが、慢性では腎性尿崩症、腎機能障害、内分泌障害が生じやすい。

リチウムの治療の治療域の血中濃度は0.8~1.2mEq/Lである。
論文や報告にもよるが、血中濃度が6mEq/L以上であれば透析を推奨、2.5~4mEq/Lであれば重度の神経症状、腎不全や不安定な血行動態であれば透析を推奨となっている。

ただ、問題点としては血中濃度はすぐにはわからないことである。なので、血中濃度は参考にせず始めてしまうことが多い。
また、常に透析を終わった後のリバウンドは考える必要がある。これは細胞内から出てくるためである。


リチウム中毒ではAGが陰性になることがある。これはリチウム中毒により陽イオン増加によるものである。他にAGが陰性になるものとしてはHAMBLEと覚えるといい。
HA(hypo albuminemia):低アルブミン血症
M(myeloma):多発性骨髄腫
B(Bromide):臭素
L(Lithium):リチウム
その他に高カルシウムや高マグネシウム血症も原因になる。

やはり、このようなに中毒の治療や原理を考えながら診療に当たれるのは腎臓内科の醍醐味なのかもしれないと思う今日この頃である。



2016/10/25

薬物中毒について考えてみる(総論)

今日は少し中毒に関して触れてみたいです。
中毒は腎臓内科にとって必要な知識です。

急に集中治療領域に薬物中毒で入院した人に透析をやってくれない?と言われて、しっかりと状況の判断ややる適応があるのかを考えることは非常に重要です。

透析をやるということは、患者さんに透析カテーテルを留置しなくてはならないし、それに付随する合併症も危惧しなくてはならない。なので、必要であればやる!必要ならやらない重要な判断になります。

中毒に関しては透析を考える上で重要な項目が3つあります。
1つが「分布容積」です。分布容積は低いもののほうが除去に向いています。つまり、組織よりも血液や細胞外液に分布しやすいものには有効です。

分布容積は[血中濃度]分の[体重当たりの体内の薬物総量]です。均等に分布していれば1です。血液に多く分布していれば相対的に分母が大きくなるから、1より小さくなります。
分布容積が1より小さいものには血液浄化法が有効な可能性があります。
逆に、分布容積が1より大きく、血液の方にあまり分布していなければ意味がないです。
 
半減期があまり短くても意味がありません。血液浄化法は数時間かけて実施されます。極端に言えば、半減期が数分なものを何時間もかけてやっても意味がありません。

中毒で用いる血液透析方法は血液吸着法と血液透析法があります。
血液吸着法で用いられているカラムの中には先ほど出てきた活性炭がビーズ状になって詰まっています。活性炭が吸着剤で、薬毒物が吸着されて血液はきれいになります。

2つ目はたんぱく結合率です。
たんぱく質に結合している薬や毒物でも吸着剤と接触するとはぎ取られます。
血液吸着法の場合は分子量やたんぱく結合率の影響をあまり受けません。たんぱく結合率が95%以内であればだいたい大丈夫と言われています。分子量の影響を受けず、半減期がある程度長くて、分布容積が小さくてより血液や細胞外液に分布しているものが有効です。国際的に適応があるとされているのは、カルバマゼピン、フェノバルビタール、フェニトリン、テオフィリンです。
血液透析法は血液吸着と異なりタンパク結合率の影響を受けます。剥ぎ取れないので。

3つ目は分子量が小さい、1000ダルトン未満の物質です
国際的に適応があるとされているのは、メタノール、エチレングリコール、アスピリン、リチウムです。いずれも分子量が小さく、半減期はある程度長い。分布容積は小さくて、タンパク結合率はほとんどのものがゼロです。活性炭に吸着されないものがほとんどです。

中毒に関しては
覚え方として「青魚入りのキャット・ミール(CAT-MEAL)で血がサラサラ(浄化)」と覚えるといいです。

血液吸着法の適応がある薬毒物は「CAT」で覚えます。
C」はカルバマゼピン、
「A」は抗けいれん薬(anticonvulsants)です。フェノバルビタール、フェニトリンです。カルバマゼピンも含まれます。
「T」はテオフィリンです。
Cの中にカフェインも書いていますが、これはあまり今のところ文献的なエビデンスはありません。しかしながら、テオフィリンとカフェインは同じキサンチン誘導体で、構造式も薬物動態もとても似ています。カフェインも恐らく効くだろうと考えています。

血液透析法の適応がある薬毒物は「MEAL」で覚えます。「M」はメタノール、「E」はエチレングリコール、「A」はアスピリン、「L」はリチウムです

今回リチウム中毒について書こうと思ったら、総論で終わっていましました。。

腎臓内科は本当に幅広い領域をカバーしますね。本当に楽しい分野だと思いますが、日々勉強ですね。。。

下記は熊本大学の資料を添付させていただいてます。とてもわかりやすいです。
HA:血液吸着、HD:血液透析です。


IgA1プロテアーゼ

 IgM結合タンパクであるAIMのネコホモログをマウスに強制発現させた虚血後再潅流AKIモデルに、遺伝子組み換えでつくったマウスホモログを注射すると腎機能が回復した、などの研究をのせた論文(doi:10.1038/srep35251)が新聞やニュースで取り上げられる。それくらい、腎不全の治療をみんなが待ち望んでいる。

 外来でも入院でも「先生、腎臓を治す薬ってのはないんですね?」とおっしゃる患者さんたちにはいつも申し訳ないと思っている(日本版バルドキソロンがどうなるか)。アメリカのTVシリーズ『スター・トレック』では腎臓病がなおる未来からきたDr. McCoyが透析患者さんに薬をあげるシーンがある(おばあさんが、The doctor gave me a pill and I grew a new kidney!と喜ぶ、写真)し、不可能を可能にするプロジェクトにお金を出すXPRIZE財団も腎臓病研究をリストに入れている。

 そんなわけで今月のJASNに載ったIgA1プロテアーゼの研究結果(JASN 2016 27 2622)が、次につながればいいなと思っている。ヒトのIgA1と受容体の可溶性CD89をマウスに強制発現させたモデルではある。IgA1プロテアーゼというのは細菌由来のいわば毒で、マウスはいいがヒトではさまざまな免疫反応を惹起するらしい(BMC 2007 7113)。

 それでもIgA1プロテアーゼはメザンギウムにおける免疫複合体を一旦は消失させるんだから、方法論としては合っているんじゃないかと思う。この先が分子エンジニアリングで毒性を落としたプロテアーゼなのか、抗IgA1ヒンジ部モノクローナル抗体なのか、GALT/NALTに関わりIgAを減らす治療なのかはわからないけれど。




薄切り肉を圧力鍋で茹でる

 東洋医学で医食同源とか身土不二(신토불이、シントブリ)とかいうし、西洋はyou are what you eatとか言うけれども、腎臓内科ほど栄養・食事と深く関わる科もそうないのかなと思う。なかでもリンは、透析であまり除けないのに多くの食品に入っているので、その人ごとにあわせた工夫が必要だ(最近は大手コンビニでもパンや加工食品のリンを減らしているところがある)。

 それで腎臓系で栄養系の雑誌というのもたくさんあって、以前に肉をさまざまな方法で調理することでリン残量が変わるかをみた論文(J of Renal Nutrition 2015 25 504)があった。結果、薄切りした肉を圧力鍋で茹でるとリンがもっとも落ちたという。煮汁は捨てなければならないだろうから、どう味を保つかは別問題だが(フルで論文を読めば提案してあるかもしれない)。

 なお、これは日本の研究だ。見なくてもわかる。薄切り生肉は東アジアの食文化だと思われるからだ。米国のスーパーや肉屋にいっても薄切りした生肉はみない(ハムなどの塩漬け肉、ローストビーフのような調理済みの肉は除く)。東アジア食材店にいけば、ある。どうしてだろう。

 明治時代に日本人の口に合うよう肉をスライスしたのかと思ったが、肉食がもともとさかんな中国や韓国でもスライスしている。なます(膾、회、フェ)とか。お箸でつかみやすいからだろうか(ナイフやフォークは東洋にはなかったと思われるので)。東洋の包丁がスライスにもっとも適しているからだろうか。タレなどの味付けがよく滲みるのだろうか。




2016/10/23

食品添加物の重要性

当たり前かもしれないが腎臓内科医にとってリンはとっても大切である。
特に慢性腎不全にとってリンの管理は重要なことである。医師は薬を使ってリンを下げようとするが食事の管理は本当に重要である。
リンの食事で現代社会では食品添加物が重要な問題である。今回この論文では末期腎不全患者に食品添加物を制限した群(67人)とコントロール群(63人)でRCTを組んでいる。
結果では当初は血清リン値に違いはでなかったが、3ヶ月であれば有意差を持ち制限群での血清リンの低下を認め、70%近くが血清リンが5.5mg/dl以下になったということである。
2009年のJAMAにも同じような結果が出ている(これもRCTで人数は今回のものより大きい)

これに関しては僕たちが教科書的なものから得る知識であり、実際にこのように示されてわかることは、食品添加物の制限は重要であること・また、制限して3ヶ月程度して結果として出てくることである。
自分の目の前の患者さんに制限の重要性を話した時、「数ヶ月で血清リン低下の結果が出てきますから頑張りましょうね」というと少し目標が見えていいのかもしれない。

しかし、自分の知識がないので調べてみたのだが食品添加物(特に今回はリン酸塩)はなぜ必要なのか?
リン酸塩はまず大きく二つに分かれオルトリン酸塩、重合リン酸塩に分かれます。
リン酸塩はカマボコのコシを強くしたり、ハム・ソーセージの保水性・粘着性・膨張性を増したり、練り物・缶詰・醤油・佃煮・ソース・漬物・豆腐・アイスクリーム・酒類・チーズ・中華麺なでの変色防止や風味の工場など広い効果を持ちます。
つまりリン酸塩によって、加工食品の弾力UP、色調改善、保水性UPさせているようです。

リンの過剰摂取はPTH上昇をきたし、リン排泄を促すのと同時に骨粗鬆症もきたすためリンの管理は非常に重要である。
その中で、今回はリンの食品添加物との関連について簡単に書かせていただいた。

ただ、美味しそうというものにはおそらくリンが含まれているんだろうと思うし、自分たちがしっかりと知識をつけて患者さんに教育していくことは重要であると感じる。




2016/10/10

アミロイドーシスについて



今回アミロイドーシスを書こうと思ったのは単純にアミロイドーシスを診療していて、よくわかってないなと思ったのがきっかけである。
アミロイドって自分の身近になくイメージがつかみにくく、イメージがつかみにくいから病気もつかみにくいのかなと思ったので復習もかねて書こうと思った。

・アミロイドとは・・
以前はヨウ素デンプン反応と似た反応をすることからデンプン(ラテン語でamylum)と関係があると思ってつけられたものであるが、本体はある種のタンパク質である。
タンパク質は産生されると特定の形に折りたたまれる(フォールディング)が、この折りたたみの異常(加齢や慢性炎症や遺伝など)が生じると、異常なタンパク質が生じ、異常なものは除去される。
しかし、異常なたんぱく質ができるのが多すぎたりすると除去しきれず疾患の発症につながる。これがアミロイド-シスの根本である。


・歴史:19世紀から知られているが、理解が深まったのはここ数十年といわれている。
アミロイドーシスはまれな疾患であるが、一つには我々の認知不足もあるのかもしれない。そのためにこの疾患の理解を深め、しっかりと患者をみれるようになりたい。



・アミロイドの頭文字:
アミロイドは上にAAやALなどの頭文字がついているが、これは最初のA:アミロイドを意味し、次のAAのAは血性アミロイドA、ALのLはL鎖抗体由来アミロイドを指す。ATTRはトランスサイレチン由来のアミロイドを示す(下図参照)。


図:全身性アミロイドーシスの分類



















・アミロイドーシス:
アミロイドタンパク質は血流に蓄積するため、最終的に臓器や組織に沈着する。結果として生まれるアミロイド線維が、多臓器の障害を引き起こしたり、体内の一部位に局在したりする可能性がある。アミロイドは通常、腎臓、心臓、神経に沈着し、時には肝臓、脾臓、消化管や気道に影響を及ぼすこともある。
全身に沈着するものを全身性アミロイドーシス、特定臓器に沈着するものを限局性アミロイドーシスと呼ぶ。

今回は簡単にAAとALについて述べる。
私が混乱するのはおそらくはどのように産生されるか、疾患をどのように考えるかがわかっていなかったのが一番であると思う。読者の中にはそのような方もいると思うので、少しでも参考になればありがたい。

どこでできる?:ALの前駆蛋白は骨髄で産生されるもので、AAは循環血中の炎症性蛋白であり血中で産生されることが大きく異なる。

・ALでは多発性骨髄腫や原発性マクログロブリン血症を探すための検査(SPEP,UPEPや骨髄穿刺・生検)をする必要がある。
・AAでは血中でできるので基礎となる炎症を惹起する関節リウマチ、血管炎、Castleman病、自己免疫疾患などを精査する必要がある。

・診断:臨床症状や所見から疑い、組織で光顕でCongo-red染色陽性や電顕でのアミロイド繊維を見つけることである。AAとALは過マンガン酸処理でALは染色性が消失し、AAでは染色性が保たれる特徴を持つ。ただ、ALでも陽性になることがあり、診断には悩むことが多い。DFS染色なども有効とは言われる。
しかし、どの型なんだろうと悩むことは大いにある。そのような症例に当たった際には、病型診断を手助けするために信州大学(支援サービス)や熊本大学(支援サービス)があるので、利用するといいと思う。

今回は論文的なことではなく、自分の復習と情報整理を中心に書かせていただいた。

我々にとってアミロイドーシスは目には見えない疾患であり、多臓器が侵されてくる場合もあり、腎臓内科医として総合的な判断が必要になってくる疾患である。






2016/10/02

IgA腎症の治療って2(扁桃摘出パルスに関して)

前回IgA腎症の治療について書いてみた。
今日は日本で主に行われているIgA腎症に対する扁桃摘出パルス療法について考えてみた。

まず、日本ではアンケート調査で扁桃摘出または扁桃摘出+ステロイドパルス併用療法は65%以上で使用されている。おそらくは扁桃摘出の有効性を実感しているためこんなに高い数字なのであろう。

では、なぜ効くのか?を考えた時にIgA腎症の原因などの病態を把握する必要がある。
IgA腎症はIgAの特にIgA1サブタイプのヒンジ部糖鎖修飾異常(糖鎖異常IgA:GdIgA1(がラクトース欠損IgA1))が増加し、それに対する抗体の産生→免疫複合体の形成し、メサンギウム領域への沈着が生じるmulti hit 仮説が提言されている(JASN 2011 22(10) 1795-1803)。

面白いこととしては、GdIgA1を利用してそれによってIgA腎症を診断しようとする報告がいなされている(PLos One 2014 May 23;9(5))。これが現実化することでの利点としてはアジアの地域に多いIgA腎症を早期に診断することができるという点である。
IgA腎症の診断には腎生検が必要となるが、発展途上国ではそれも満足に行えない地域もあり、採血や尿マーカーで診断がつく時代が来れば個人的には嬉しい。また、後でも述べるがIgA腎症は早期の診断早期治療が大切なので、本当に重要であると感じる。

では、どの粘膜B細胞が作成しているかであるが、注目されているのがGALT(gut-associated lymphoid tissue:腸管関連リンパ組織)、NALT(nasopharynx-associated lymphoid tissue:鼻咽頭関連リンパ組織)である。
GALTに注目したのが、先のNEFIGAN TrialでのNefecon(腸管選択的ステロイド)である。
二つの違いはIgAサブタイプの偏りがありIgA1はNALTに多く発現している。
また、NALTは骨髄との関連がありIgA腎症の発症はMucosa-Bone Marrow Axisの異常が生じているためと考えられている。骨髄に関してはAPRILが話題であり、これの増加がIgA腎症の予後を悪くしているという報告もあり、(Medicine Volume 95, Number 11, March 2016)、これを多く持つものに対して扁桃摘出を行ったほうが効果があるという報告もある。

扁桃摘出パルスに関しては、先日扁桃摘出パルスの元祖の堀田修先生(現在はクリニックを仙台で開業されている)のお話を聞くことができた。簡単にまとめるとやはり大切なのは早期診断、早期治療ということであった。
IgA腎症を血尿主体の時の糸球体腎炎のphaseとそれ以降の蛋白尿が主体になる二次性FSGSのphaseに分けて話してくださった。二次性FSGSの状態ではいわゆる糸球体が焼け跡になってしまっているので、扁桃摘出パルスをしても効果に乏しいというお話を聞き、なるほど理にかなっているなと感じた。焼け跡になってしまってからでは遅いので、糸球体血管炎の早期の時期からの治療開始を推奨していた。ただ、この時期は血尿だけの時期なので日本のガイドライン上も経過観察となっている部分ではあり、患者さんにこのような治療の選択肢を行い納得いただけるようなら行うのもひとつかなと感じた。また、堀田先生のクリニックでは扁桃摘出パルスの他にも鼻咽腔の部分の処置を行ったりなど、本当に全てを前向きに動かれる姿勢の凄さ、考え方の凄さに本当に感銘を受けた。

・扁桃摘出パルスに関しては扁桃摘出とパルス療法はどちらが先でもいいらしいが、扁桃摘出を先行した場合はパルス投与を扁桃摘出から7日後以降に行うとのことであった。また、パルスを先行した場合には6ヶ月以内に扁桃摘出を行うのが原則のようである。

・実際に扁桃摘出パルスは論文などはどうかではあるか
日本では厚労省進行性腎疾患に関する調査研究班・IgA腎症分化会が主体となって行ったランダム化比較試験(RCT)「IgA腎症に対する扁桃摘出術とステロイドパルス療法の有効性に関する多施設共同研究」が行われており、2011年の腎臓学会で中間報告され、寛解率は扁桃摘出パルスが良かったが、尿タンパクなど明らかな有意差が出ていない。最終報告はまだなので今後の報告にこれは期待したい。
海外では中国からのメタアナリシス(Nephrol. Dial. Transplant.26 (6): 1923-1931.)が出されている。これでは、扁桃摘出単独やパルス単独では寛解に至らなかったが、扁桃摘出パルスでは寛解に至ったと報告している。

色々と書いたが、IgA腎症はしっかりと病態を理解し、様々な選択肢から患者さんのニーズに合う治療を選択することが大事である。
今はインターネット社会であり、扁桃摘出パルスに関しても調べ上げてくる人にも出会うかもしれない。そういったときに治療の提示やメリット・デメリットが話せるような医師になりたい。