今日は日本で主に行われているIgA腎症に対する扁桃摘出パルス療法について考えてみた。
まず、日本ではアンケート調査で扁桃摘出または扁桃摘出+ステロイドパルス併用療法は65%以上で使用されている。おそらくは扁桃摘出の有効性を実感しているためこんなに高い数字なのであろう。
では、なぜ効くのか?を考えた時にIgA腎症の原因などの病態を把握する必要がある。
IgA腎症はIgAの特にIgA1サブタイプのヒンジ部糖鎖修飾異常(糖鎖異常IgA:GdIgA1(がラクトース欠損IgA1))が増加し、それに対する抗体の産生→免疫複合体の形成し、メサンギウム領域への沈着が生じるmulti hit 仮説が提言されている(JASN 2011 22(10) 1795-1803)。
面白いこととしては、GdIgA1を利用してそれによってIgA腎症を診断しようとする報告がいなされている(PLos One 2014 May 23;9(5))。これが現実化することでの利点としてはアジアの地域に多いIgA腎症を早期に診断することができるという点である。
IgA腎症の診断には腎生検が必要となるが、発展途上国ではそれも満足に行えない地域もあり、採血や尿マーカーで診断がつく時代が来れば個人的には嬉しい。また、後でも述べるがIgA腎症は早期の診断早期治療が大切なので、本当に重要であると感じる。
では、どの粘膜B細胞が作成しているかであるが、注目されているのがGALT(gut-associated lymphoid tissue:腸管関連リンパ組織)、NALT(nasopharynx-associated lymphoid tissue:鼻咽頭関連リンパ組織)である。
GALTに注目したのが、先のNEFIGAN TrialでのNefecon(腸管選択的ステロイド)である。
二つの違いはIgAサブタイプの偏りがありIgA1はNALTに多く発現している。
また、NALTは骨髄との関連がありIgA腎症の発症はMucosa-Bone Marrow Axisの異常が生じているためと考えられている。骨髄に関してはAPRILが話題であり、これの増加がIgA腎症の予後を悪くしているという報告もあり、(Medicine Volume 95, Number 11, March 2016)、これを多く持つものに対して扁桃摘出を行ったほうが効果があるという報告もある。
扁桃摘出パルスに関しては、先日扁桃摘出パルスの元祖の堀田修先生(現在はクリニックを仙台で開業されている)のお話を聞くことができた。簡単にまとめるとやはり大切なのは早期診断、早期治療ということであった。
IgA腎症を血尿主体の時の糸球体腎炎のphaseとそれ以降の蛋白尿が主体になる二次性FSGSのphaseに分けて話してくださった。二次性FSGSの状態ではいわゆる糸球体が焼け跡になってしまっているので、扁桃摘出パルスをしても効果に乏しいというお話を聞き、なるほど理にかなっているなと感じた。焼け跡になってしまってからでは遅いので、糸球体血管炎の早期の時期からの治療開始を推奨していた。ただ、この時期は血尿だけの時期なので日本のガイドライン上も経過観察となっている部分ではあり、患者さんにこのような治療の選択肢を行い納得いただけるようなら行うのもひとつかなと感じた。また、堀田先生のクリニックでは扁桃摘出パルスの他にも鼻咽腔の部分の処置を行ったりなど、本当に全てを前向きに動かれる姿勢の凄さ、考え方の凄さに本当に感銘を受けた。
・扁桃摘出パルスに関しては扁桃摘出とパルス療法はどちらが先でもいいらしいが、扁桃摘出を先行した場合はパルス投与を扁桃摘出から7日後以降に行うとのことであった。また、パルスを先行した場合には6ヶ月以内に扁桃摘出を行うのが原則のようである。
・実際に扁桃摘出パルスは論文などはどうかではあるか
日本では厚労省進行性腎疾患に関する調査研究班・IgA腎症分化会が主体となって行ったランダム化比較試験(RCT)「IgA腎症に対する扁桃摘出術とステロイドパルス療法の有効性に関する多施設共同研究」が行われており、2011年の腎臓学会で中間報告され、寛解率は扁桃摘出パルスが良かったが、尿タンパクなど明らかな有意差が出ていない。最終報告はまだなので今後の報告にこれは期待したい。
海外では中国からのメタアナリシス(
色々と書いたが、IgA腎症はしっかりと病態を理解し、様々な選択肢から患者さんのニーズに合う治療を選択することが大事である。
今はインターネット社会であり、扁桃摘出パルスに関しても調べ上げてくる人にも出会うかもしれない。そういったときに治療の提示やメリット・デメリットが話せるような医師になりたい。