2016/10/26

薬物中毒について考える(各論):リチウム中毒について

では、今回は各論のリチウムについて記載する。

リチウムは主に双極性障害に用いられる治療薬で、気分の波を抑える作用を持つ薬で有名である。今回はこのリチウムをたくさん飲んだ時の中毒についてお話をしようと思う。


まず、リチウムに関しては腎臓に対してはどんな影響があるのだろう?
①腎性尿崩症の原因になる(20-40%)
②尿細管アシドーシスの原因(type1 acidosisの原因に)
③ネフローゼ症候群(微小変化群が治療開始後1.5-10ヶ月で起こりうる)
④慢性間質性腎炎(軽度から中等度タンパク尿と慢性腎機能障害を起こす)
⑤高カルシウム血症(カルシウムの細胞膜貫通の阻害、PTH分泌上昇)
が言われている。

話を中毒に戻すと薬物中毒の総論でも述べたように、透析を考える際には①タンパク結合率、②薬剤の分布容積、③分子量が重要となる。

今回、「リチウム製剤をたくさん飲んだ人がいます。透析を回してくれませんか?」と言われたとする。

まず、上記3点は確認する。①タンパク結合率:ほとんど結合しない。②薬剤の分布:0.7-0.9L/kgで低い。③分子量は7ダルトンの小分子の陽イオンである。

ここから考えると血液透析は効果が良さそうである。ただ、やはり常に透析の効果がある=透析をやるではいけない。患者さんが元気であれば行う必要はないかもしれない。

リチウム中毒は急性、慢性的に飲んでいる人の急性発症、慢性に分かれる。
症状自体(不整脈:致死的なものは稀でQT延長、消化器症状:嘔吐・下痢、神経・精神:昏迷、錯乱、ミオクローヌスなど)は大きな差はないが、慢性では腎性尿崩症、腎機能障害、内分泌障害が生じやすい。

リチウムの治療の治療域の血中濃度は0.8~1.2mEq/Lである。
論文や報告にもよるが、血中濃度が6mEq/L以上であれば透析を推奨、2.5~4mEq/Lであれば重度の神経症状、腎不全や不安定な血行動態であれば透析を推奨となっている。

ただ、問題点としては血中濃度はすぐにはわからないことである。なので、血中濃度は参考にせず始めてしまうことが多い。
また、常に透析を終わった後のリバウンドは考える必要がある。これは細胞内から出てくるためである。


リチウム中毒ではAGが陰性になることがある。これはリチウム中毒により陽イオン増加によるものである。他にAGが陰性になるものとしてはHAMBLEと覚えるといい。
HA(hypo albuminemia):低アルブミン血症
M(myeloma):多発性骨髄腫
B(Bromide):臭素
L(Lithium):リチウム
その他に高カルシウムや高マグネシウム血症も原因になる。

やはり、このようなに中毒の治療や原理を考えながら診療に当たれるのは腎臓内科の醍醐味なのかもしれないと思う今日この頃である。