2016/06/24

Playing with Intestinal Ion Channels

 透析患者さんで便秘に対して小腸のClC2阻害薬Lubiprostone(アミティーザ®)を使ってから体重の増えが減ってリンも下がってきたという人がいて、まあ理にかなっていると思う(動物実験もあった)。これからは腸管のイオンチャネルも調べる時代か。尿細管が使えないんじゃ腸管を使うしかない。

 というわけでせっかくネフロン各セグメントのイオンハンドリングをたくさん覚えたところで、こんどは消化管各セグメントのイオンハンドリングの勉強だ。ちょっと調べてもカリウムについてのレビューだけで63ページあって(Physiol Rev 2008 88 1119)、2回膜貫通・4回膜貫通・6回膜貫通・7回膜貫通チャネルなどきりがない。

 さて、その消化管イオンチャネルと遊ぶ新薬Tenapanor(AZD1722、RDX5791とも)はLubiprostoneが便秘や機能性胃腸症に使われるように便秘型過敏性腸症候群用に開発され治験中の非吸収性NH3(Na+/H+ exchanger)阻害薬だ。透析患者の高リン酸血症に対してPhase 2bが進行中だ。薬は腸管のリン吸収チャネルNPT2bじたいには作用しない(NPTa、NPTcは腎にありKlotho/FGF23の支配をうける)が、下痢を起こしてリンを下げるとみられる。

 最近、この薬が透析患者のΔDWを緩和するかを調べるproof-of-conceptスタディがCJASNにでた(doi: 10.2215/​CJN.09050815)。製薬会社がおこなったスタディだ。体重3%以上かつ2kg以上増える無尿の透析患者88人(外来、入院)で介入群には45mg 2x/dで開始し忍容性に応じて5mg 2x/dまで減量可とし4週間フォローした。食事はちゃんとしてくださいねと言っておいた(入院患者はNa 2g/d食)。

 結果、便の量と便中Na排泄量は有意に増えたがΔDWや血圧は変わらなかった(プラセボ群と比べて有意差がないだけでなく、介入前の値が95%信頼区間に含まれている)。計算が合わないようにも思えるが、便の量は群間で80g/d程度しか変わらないので大した効果がなかったのかもしれない。薬は下痢にもかかわらずmeanで32mg 2x/dのまれていた。飲水量は管理していないがアンケートで介入群に口渇は多くなかった。

 なおNH3は腎ではNH4+の排泄とHCO3-の再吸収をしているが、腸でNH3をブロックするとH+の排泄ができなくなりアシドーシスが緩和されるかと思いきや(スタディでもアシドーシス悪化を懸念してHCO3- 20mEq/l以下を除外している)、介入群でHCO3-値の変化に有意差はなかった。

 腸管NHE3の発現はRSK2、LPA(lysophosphatidic acid)5の支配下にあり、CFTR(Cl-チャネル)、DRA(down-regulated in adenoma;Cl-/OH- exchanger)はLPA2の支配下にあるらしい(図、Cell Physiology 2015 309 C11)。NHE3をブロックして代償的にNHE3がupregulateされるかは知らない。腸の利尿剤?のようにもっと効果的に水を引き込むチャネルターゲットがあるのかもしれない。ClC3などは実はそうなのかもしれない。CFTRはどうだろう。




2016/06/23

MIS, GNRI, %CGR and nPCR

 透析患者ではBMIが高いほど生存率にアドバンテージがある現象はreverse epidemiologyとかobesity paradoxとか呼ばれて何十年も前から知られている(いまはUC IrvineにいるDr. Kamyar Kalantar-Zadehがたくさん論文を書いている)。他にもCOPD、心不全、関節リウマチ、担癌患者、80才以上などで調べられて、これらの群では肥満の害よりも低栄養・炎症・消耗の害が先に予後規定因子になると考えられ、MICS(malnutrition inflammation complex syndrome)という言葉が生まれた。

 で、何を今更という気もするがヨーロッパ各国の透析患者コホートを炎症(CRP 1mg/dl以上 and/or Alb 3.5g/dl以下)の要素で分け3年フォローすると炎症群にobesity paradoxがみられ非炎症群ではobesity paradoxが消えた(JASN 2016 27 1479)。いままで調べられていなかったのだろうか。

 MICSの指標として、一般的なSGA(subject global assessment)と透析患者用のDMS(dialysis malnutrition score)を参照した10項目30点満点のMIS(malnutrition inflammation score)がつくられた(AJKD 2001 38 1251)。その後validateされ(AJKD 2009 53 298)MISはいまでもスタンダードとされているので簡単にあげると(カッコ内は順に0点、1点、2点、3点)、

①体重減少
(3−6ヶ月に0.5kg以内、1kg以内、体重5%以内、体重5%以上)
②食事摂取
(変化なし、軽度低下、中等度低下〜流動食、カロリー不足〜飢餓)
③消化器症状
(なし、食思不振〜悪心、たまの嘔吐〜中等度症状、頻回の下痢や嘔吐・重度の食思不振)
④身体機能
(異常なし、たまの歩行障害〜頻回のだるさ、ADL半介助、ADLほぼ介助)
⑤合併症・透析年数
(合併症なし+透析1年以下、MCC*以外の軽度合併症または透析1−4年、MCC1個ないし中等の合併症または透析4年以上、MCC2個以上ないし重度合併症)
*major comorbid conditions:重度心不全、重症AIDS、重症冠動脈疾患、中等〜重症COPD、重度神経合併症、転移がん、化学療法後
⑥脂肪減少←脂肪貯蔵量、目の下・三頭筋・二頭筋・胸部の皮下脂肪
(正常、軽度、中等度、重度)
⑦筋肉消耗←こめかみ・鎖骨まわり・肩甲骨まわり・肋間・四頭筋・膝まわり・手の骨間筋
(正常、軽度、中等度、重度)
⑧BMI
(20kg/m2以上、18以上、16以上、16未満)
⑨アルブミン
(4g/dl以上、3.5以上、3以上、3未満)
⑩TIBC
(250mg/dl以上、200以上、150以上、150未満)

 このときすでにCRP(ただし10ng/ml以上の増加だから高感度か)も入れてはどうかという議論があったが、アルブミンに換えていれるよりはよい、とか11個にしても変わらない、いう話でたとえばTIBCと換えるという話はなかった(というのも、TIBCのほうが先に研究されていたから;AJKD 1998 31 263)。

 ところでMISはSGAをひきずっているので脂肪減少や筋肉消耗の評価に少しの経験を要するし、10項目は多い。それで簡便なものはないかと日本の医師と栄養学の研究者の先生方がお調べになって(Am J Clin Nutr 2008 87 106)、フランスうまれのGNRI(geriatric nutritional risk index)が透析患者でMISによく相関するとわかった。これは体重(透析後体重すなわちDW)と理想体重(BMI 22で計算)とアルブミンしか使わない簡便な下式で、体重と理想体重の比が1以上のときは1とする。GNRIは91.2以下で低栄養をよくスクリーニングする。


1.489 x albumin (g/dl) + 41.7 x 体重 / 理想体重

…ということは日本で透析を勉強するまで知らなかったが、日本でもまだ全国的に用いられているわけではないようだ。また透析患者の筋肉量を推定する%CGR(creatinine generation rate;性別・年齢をマッチさせた非糖尿病患者に対する比)はfrail、sarcopenia、protein energy wasting、ADLなどいろいろ相関する。

 これを出すには本当は透析後Crと次回透析前Crがほしいのだが、その手間を省くためクレアチニンのKt/Vを応用したりして計算式を追加している。また内因性クレアチニン産生をみるためには外因性クレアチニン(食事由来)の分を差し引く必要があり、それにnPCR(normalized protein catabolic ratio;本来はBUNをもとにたんぱく摂取量を推定するもの)を応用した式を使う。Logがたくさん出てきたりかなり複雑な式だから、ソフトを導入するなど積極的に取り組んでいる施設で用いられている印象だ。





2016/06/21

Expand differential diagnoses 2

 ADTKDと言われても初耳だが、私が卒業してからKDIGOがADTKD consensus conferenceをひらいて遺伝性の尿細管萎縮と間質線維化(IFTA)で末期腎不全にいたる諸病をこう総称することにしていた(doi:10.1038/ki.2015.28)。

 尿管拡張がmicrocystに見えることからMCKDと呼ばれていた時期もあったが嚢胞腎とは違うので紛らわしいということになった。総称されるのUMOD、MUC1、REN、HNF1Bの遺伝子異常で、これらの遺伝子は遠位ネフロン(UMODはHenle上行脚、TAL)にある(HNF1Bは腎外にもあり、糖尿病の亜型MODY5をおこす)。多くの場合小児科でみつかるだろうが初発年齢、腎機能悪化速度に差があり孤発例もあるので成人外来にくるかもしれない。

 UMOD異常はNKCC2チャネルを阻害して体液量を減らし代償的に近位ネフロンでの尿酸再吸収を増やすと考えられており、FEuric acidが5%以下になるのが特徴だ。腎生検でIFTAのほかにTAL細胞内のUMODたんぱく貯留がみられる。

 MUC1はムチンをコードするユビキタスな遺伝子だが、遠位ネフロンでは糸球体内腔をコーティングしている。この変異でできる異常たんぱくMUC1-fsが細胞内にたまるが他の臓器で異常をきたさないのがなぜかは分かっていない。

 RENはプレプロレニンをコードしており変異があるとレニン産生細胞が異常レニンがたまることでアポトーシスを起こす。これがIFTAを起こすしくみはまだわかっていない。

 HNF1Bは転写因子で肝、膵、腎などで諸遺伝子発現を調節しているが腎ではUMODの発現に関与している。動物実験でHGFによる尿細管発生をSOCS3遺伝子を介して抑制すると考えられている。

 また膵発生では内分泌細胞の前駆となるNGN-3遺伝子陽性細胞がHNF1B陽性の原始膵管細胞の周囲に並ぶが、HNF6発現を欠損させると膵管細胞でHNF1Bが発現されなくなり内分泌前駆細胞も並ばなくなるという。MODY5なのに普通の2型糖尿病として診断されることもあるから注意が必要だ。RCAD(renal cysts and diabetes syndrome)と呼ばれていたこともあり、腎嚢胞があればとくに。

 ただADTKDができて、今度は遺伝形式が違う嚢胞を主病変とする疾患があぶれた。Juvenile nephronophthisis(日本語ではネフロン癆;赤芽球癆、眼球癆、脊髄癆などもあるが共通した病気ではない)、Bardet-Biedl syndrome、Jorbert syndrome、Meckel-Grober syndrome(MKS)、Alstrom syndrome、Oral-facial-digital syndrome Type I(X-linked)などだ。

 しかしこれらは線毛に関係する遺伝子異常だとわかってきており、ADPKDとならびciliopathyと総称される(JASN 2009 20 23にもレビューあり、図;Jeune症候群は前稿に書いた)。ARPKDも原因遺伝子PKHD1の主要な遺伝子産物fibrocystin/polyductinがPKDの遺伝子産物polycystin 2と相互作用する。

 多発性結節症コンプレックス(TSC)は9番染色体にあるTSC1、TSC2遺伝子の異常でmTOC1が活性化されるが、TSC2とPKD1は隣同士なので大きなデリーションでは2つが抜けてTSC2/PKD1 contiguous gene syndrome(PKDTS)を起こす。




 これでもあぶれるのはvon Hippel Lindau病、medullary sponge kidney(MSK)くらいか。MSKは比較的有病率が多く、Beckwith-Wiederman症候群(巨舌、腹壁欠損、過成長)、Ehlers-Danlos症候群、Marfan症候群との関係があるが原因はいまだ不詳(尿管芽と後腎組織の相互作用異常が示唆されている)。

 Ca結石患者の20%にみられるともいうが、無症状で診断されていない例も多い。腎髄質の点状石灰化、IVPで腎乳頭に「花束」「刷毛」と言われる特徴的な像がみられる。問題は石と感染で、石にはクエン酸Kなど、感染はとくにurea-splittingな菌に注意が必要で「aggressiveに治療」とある。ただしこれらが守れれば腎機能低下をおこさないこともできる疾患だ。

[2016年6月追加]遺伝性間質性腎炎に、karyomegalic interstitial nephritis(核巨大化間質性腎炎)がある。ネフロン癆に似ているが、原因遺伝子FAN1はDNA damage response pathwayに関係する。これがないとinterstrand cross-linkの修復ができず(Nat Genet 2012 44 910)、その結果ciliopathy的なフェノタイプになるのかもしれない。たいてい20-40代くらいの兄妹で緩徐に進行する腎障害で発症する報告が多いが、常染色体劣性遺伝とされる。Lancetにも知っておこう的な記事が載っている(Lancet 2013 382 2093)。

[2018年12月追加]Nature Communicationsに発表された研究によれば(DOI: 10.1038/s41467-018-07260-4)、CKD患者コホートのGWASで引っかかる100以上の遺伝子多型(CKD-defining trait)のうち、3つでGFR低下との因果関係が証明された。そして、その代表的なものが上記のMUC1だった(なお他はNAT8BとCASP9だった)。

 MUC1の多型rs4072037は、MUC1遺伝子が転写されたあとのスプライシングパターンを変え、結果MUC1たんぱく質のN末端で9アミノ残基が失われるらしい(下図dからe、欠損部分はf、論文より)。




 ささいな違いだが、MUC1は腎にとって重要な分子なので、何か意味があるのだろう。そしてどう腎機能低下に関わるかは、今頃「よーいドン!」で各国研究機関が調べている。なおMUC1といえば日本で発見された肺臓疾患マーカー(肺がんにも応用されている)KL6の標的抗原でもあり、わが国からの研究成果にも期待したい。



2016/06/20

Expand differential diagnoses 1

 I can't know everythingと言いながら、学ぶことが尽きないのは感謝すべきことで、少しずつ学び続けるのが専門医の道かなと思っている。腎機能低下とたんぱく尿で、脂質パネルをみるとHDLが10mg/dlを切っているときはLCAT(Lecithin-Cholesterol Acyltransferase)欠損症を想起すべきだと教わった。コレステロールのエステル化ができず非エステル化コレステロールがたまって糸球体に泡沫細胞、内皮細胞と基底膜の肥厚がみられる。腎外では赤血球脆弱による溶血性貧血、角膜混濁などを起こす(部分欠損で角膜のみ異常なのはfish eye diseaseと呼ばれる)。

 家族性で稀な小児科の病気かと思ったが末期腎不全に至るのは40-50才代、日本だけで17の遺伝子変異が確認されており、さらに孤発例もあるだろうから成人腎臓内科外来、とくに日本ではいつ来るかわからない。さらに自己免疫機序で抗LCAT抗体による後天性LCAT欠損と、免疫複合体によるとみられる膜性腎症でみつかった症例報告もある(JASN 2013 24 1305、この症例は20年来のSjogren症候群と、ネフローゼになる15年前からたんぱく尿の指摘があった)。治療はFabry病のように酵素を補充すればいいかというとそうではないようで、LCAT遺伝子導入前脂肪細胞の自家移植が試されているという。

 というわけで読み込んだはずの教科書の空白部分を開くと糸球体沈着病の類縁疾患で成人腎臓内科医も知っておくべきものがいくつかあった。Lipoprotein glomerulopathyは日本で1986年初報告され、APOE遺伝子変異の名前もSendaiとかKyotoとか日本の地名がついている。Apolipoprotein E(A、Bも)が内皮細胞に貯まり脂肪塞栓様にみえる。主に貯まるのはApoE2/E3、ApoE2/E4だが、ApoE2/E2(家族性III型高脂血症の場合)、ApoE3/E3(乾癬との合併報告あり)も。Fibratesが試みられる。

 Collagenofibrotic glomeropathy(collagen III glomeropathyとも)は、Collagen IIIの異常を起こす点でLMX1B遺伝子のhaplotype insufficiencyであるPatella-Nail syndromeと似ているが主病変は腎臓だ(多臓器への沈着もしられていはいるが)。常染色体劣性遺伝だが責任遺伝子は明らかでないようだ。緩徐に進行する腎機能低下とたんぱく尿で中年で気づかれることがおおい。これも初報告は1979年、日本で、アジアに多い(Clin Kidney J 2012 5 7)。糸球体はTrichromeで真っ青になり(内皮下、メサンジアル領域;PAS弱陽性)、電顕で特徴的なスパイラルフィブリルがみられる(図、烏龍茶エキス染色でよく見えるらしい)。


 Fibronectin Glomerulopathyは常染色体優性遺伝で内皮下、メサンジアル領域に異常fibronectinが蓄積する。約半数はFN-1遺伝子変異がみられるが他は不明だ。尿潜血、尿蛋白、高血圧、4型RTAなどを20-40才代で発症し、効果的な治療はなく数十年の経過で緩徐な腎機能低下をおこして末期腎不全に至る。初報告は1995年欧米だが、日本にも稀ながら報告はある。Late-onset adult cystinosisはリソソーム膜のシスチン輸送たんぱくをコードするCTNS遺伝子のマイルドな変異で、10代後半ころ、有名なFanconi症候群や角膜異常ではなくシスチン血症の糸球体沈着によるFSGS様のネフローゼで発症する。

 ここからは本当に稀でしかも子供の病気だが、Hurler症候群(デルマタン硫酸やヘパラン硫酸の沈着)、von Gierke病(glucose-6-phosphatase欠損)、Gaucher病(グルコセレブロシドの沈着)、Refsum病(分岐脂肪酸であるフィタン酸の沈着)、nephrosialidosis(neuraminidase欠損、糸球体と尿細管の細胞が空胞だらけになる)、I-cell病(ムコリピドーシスII型)など。Imerslund症候群(先天性コバラミン欠損;AmnionlessとCubilinでできた小腸でのビタミンB12吸収に特化したCubamという受容体の異常)もたんぱく尿がでるが腎機能低下はまれ、Jeune症候群(窒息性胸郭異形成症とも;新生児の病気、線毛に関係するIFT-80遺伝子、線毛運動に関係するダイニン重鎖をコードするDYNC2H1遺伝子が関連)も腎症がしられているという。

2016/06/17

Implementation

 治療意義・効果がすくないにも関わらず何もしないではいられないので不毛さや副作用(医療経済までは言わないにしても)を脇において治療に踏み切るとき、We are treating ourselves、とよく言ったりする。自分たちの不安を治療しているのだと。そういう治療はよくないが、医療には自分たちを治療しなければならないという大きなカテゴリーがあって、それがQIすなわち医療の質と安全の向上だ。

 なかでも院内発症(hospital-acquired)合併症は病院がわるいのだから病院を治療しなければならない。合併症を出した病院を罰する性悪説的なやり方も効くだろうが、基本的には標準化された予防ポリシーやプロトコルを例外なく反対勢力(や変えにくい慣性)を押し切って本気で実施することが解決策だ。両方のアプローチを取っている米国のNational Action Plan to Prevent Health Care-Associated Infectionsは効果を挙げているそうだが、CA-UTI(カテーテル関連尿路感染症;日本ではカウティと言うらしい)ばかりは減らないどころか増えているらしい(NEJM 2016 374 2168)。

 今月Dr. Sanjay Saintを中心とした米国32州、プエルトリコ、DCで大々的に展開したOn the CUSP: Stop CAUTI programスタディ(NEJM 2016 374 2111)の結果がでた。Saint先生は名著セイント=フランシスのセイント先生でもあるが、院内感染対策、とくにCA−UTI予防の第一人者である。Catheterout.orgというウェブサイトも作り、昨年にはAssociation for Professionals in Infection Control and EpidemiologyのDistinguished Scientist Awardを受賞している。今回の結果で不要なカテーテル利用が減ってCA-UTIも減った(サブ解析するとnon-ICUでのみ見られ、ICUでは変わらなかった)。

 で、何をしたのかというと、もちろん年1回全職員を対象にした講演会を必修にするというようなものではない。リクルート時、learning session時、monthly national content call時、monthly coaching for identified teams時に繰り返し繰り返し教育が行われた。何を教えていたかというと、

・毎日カテーテルが留置されているか、必要かを検討する
(例:毎日尿測方法についてのナーシングラウンドを行いカテーテルの適応があるかを議論する)
・別の尿測方法を検討することでできるだけ留置カテーテルを避ける
(例:コンドームカテーテル*、膀胱スキャン**、間欠的導尿、毎日の正確な体重測定など)
*米国ではTexas hatとかTexas catheterともいうが由来は不明
**超音波だが残尿量を測定するためだけに簡便化されたもの、画像は出ず数字が出る
・カテーテル留置時と留置後の無菌操作を徹底する
(例:各操作をマニュアル化する、習熟度を上げる、定期的に質を監査する)
・病棟ごとカテーテル使用率、UTI率をフィードバックする
(例:データを看護師、医師らに提供する*)
*熱心なところは「今月もUTIゼロ、イエィ!」みたいな手作りグラフを作って休憩室の壁に貼っていたのを見たことがある
・適切なカテーテル管理、留置カテーテルの適応と他の選択肢、留置カテーテルの感染・非感染合併症についての知識の差を埋める
(例:知識の評価を行う、資料を渡す、ベッドサイド講習、オンライン講習*、ミーティングでのフォーマルな講義、よく使う医療従事者へのマンツーマンの教育など)
*VA病院の職員は入職前に院内感染をふくめ他にもいろんなオンライン講習が必須なのだが、個人的にこれは何時間もかかり苦痛だった…

 など。新しい慣習を作るにはこれくらいやらないといけない。今回は尿路感染症ということで腎臓内科にも無縁ではない(どちらかというとAKIなどで入れたがる側なことは認めなければならない;数日したらもう要らないという立場をとっているつもりではあるが…)のでこのQIスタディ注目したが、QI literacy、competencyは21世紀医師にますます求められている(ABIMのMOCにもQIが含まれている)し、今月のCJASNにも「腎臓内科医とQI」という特集(moving point in nephrology)が出た。QI医療を提供できるようにならなければならない。

 なお米国でFoleyカテーテルといわれるのはBard社が原型をデザインしたボストンの泌尿器科医Dr. Frederic Foleyに敬意を表したからだ(バルーンはTUR-P時の止血のためだったが、膀胱内に浮かせることに転用された;なお彼が学会で発表してすぐゴム会社がパクってしまい特許は彼には与えられなかった)。ゴムじゃなくてシリコンとか、抗菌加工とかカテーテルを工夫すればいいんじゃないの?ということでいろんな製品があるが、病棟にだらりとぶら下がって床に着いたり尿が逆流したりをみると、大差ないんじゃないかと思える。

 

2016/06/16

LEADER and EMPA-REG OUTCOME

 最近FDAがPADリスクの調査やAKIの注意喚起を発しているSGLT2阻害薬だが、ひたすらA1cの低下と安全性・便利さを謳って宣伝される新規経口血糖降下薬のなかで、いち早く昨年にhard endpointである心血管死のリスク減少を示したのはEMPA-REG OUTCOMEスタディ(NEJM 2015 373 2117)で、その薬はSGLT2阻害薬のEmpagliflozinだった(ただしnon-fatal MIとstrokeでは有意差なし、心不全入院は有意差あり;まあSGLT2阻害薬は利尿剤だから)だった。

 DPP4阻害薬、GLP-1受容体アゴニスト(以下GLP1アゴニスト)はEXAMINE、SAVOR-TIMI53、TECOS、ELIXAなどのスタディがいずれも心血管リスクで有意差がでず、今週になってGLP-1アゴニストのLiraglutideで有意差を示したLEADERスタディがでた(DOI: 10.1056/NEJMoa1603827、心血管死に有意差あり、non-fatal MIとstrokeと心不全入院に有意差なし)。

 スタディが組まれすぎて、同じクラスのなかでEmpagliflozinとLiraglutideは特別よい薬なのか、このクラスが特別よいのかはわからない。スタディごと心血管リスクの定義やリクルートするA1cの閾値などが微妙に違うようだ。もちろん私は全ては読んでいないが、editorialによれば(DOI: 10.1056/NEJMe1607413)LEADERスタディは心疾患が比較的軽症だがA1cは高め(8.5%以上)の群を対象にしているらしい。一方EMPA-REG OUTCOMEスタディのサブ解析ではA1c 8.5%以下の群はリスク減に有意差があって以上の群には有意差がなかった。

 ただ直感で思うのは、GLP1アゴニストとSGLT2阻害薬はどちらも体重が減る(前者は食欲と身体活動性に関係し米国では2014年に肥満症の適応も受けている、後者は糖排泄と浸透圧利尿を起こす)ことだ。ADAの2016年ガイドラインでメトフォルミンに1剤追加する目安の表にも書いてある(Ann Int Med 2016 164 542、「効果」についてはDiabetes Care 2015 38 140を参照)。

SU
効果:High
低血糖リスク:Moderate
体重:Gain
副作用:低血糖
薬価:Low

TZD
効果:High
低血糖リスク:Low 
体重:Gain
副作用:浮腫、心不全、骨折
薬価:Low

DPP4阻害薬
効果:Intermediate
低血糖リスク:Low
体重:Neutral
副作用:まれ
薬価:High

SGLT2阻害薬
効果:Intermediate
低血糖リスク:Low
体重:Loss
副作用:生殖泌尿器感染、脱水
薬価:High

GLP1アゴニスト
効果:High
低血糖リスク:Low
体重:Loss
副作用:胃腸症状
薬価:High

Basal insulin
効果:Highest
低血糖リスク:High
体重:Gain
副作用:低血糖
薬価:Variable

実際LEADERスタディでは介入群で体重が2−3kg減り、収縮期血圧も4−5mmHg下がった。EMPA-REG OUTCOMEスタディでもやはり体重が2−3kg減り、腹囲が5cmほそくなり、収縮期血圧が4-5mmHg下がった。メタボが少し解除されたのかもしれない。私にはこのふたつのスタディが、心血管リスクのある糖尿病患者における心血管死・心不全増悪の予防にはA1cの低下だけでなく減量と降圧+そのための食事と運動が重要だ(が、それは言うほど簡単ではないので高くても薬で治療するしかない)と言っているように思える。

 さらに、Empagliflozinについては同じ号でEMPA−REG OUTCOMEスタディ(MDRD eGFR 30ml/min/1.73m2以上)のpost hoc解析で腎症進行を抑制すると発表された(DOI: 10.1056/NEJMoa1515920)。具体的には顕性アルブミン尿への進行、eGFRの低下、透析導入など。興味深いのは介入群でeGFRがスタディ数カ月以内に一度3-4ml/min/1.73m2さがりそのあと維持されることだ。最初は腎血流低下を反映し、以後は未知の腎保護機序が効いているのだろうか。

 EMPA−REG OUTCOMEは日本も参加したスタディだ。また新しいためか同じクラスのなかではまだAKI・PADの嫌疑がかかっていないから、Empagliflozinは売り時かもしれない。Liraglutideも日本で認可されているが、LEADERスタディに日本は参加していない(アジアでは中国、台湾、韓国、インドなどが参加している)。SecretogogueのなかではDPP4阻害薬にくらべてシェアの小さいGLP1アゴニストだが、LEADERスタディを受けて日本でもLEADER-Jみたいなのが組まれるかもしれない。なおLiraglutideは腎機能低下例に禁忌ではない(慎重投与)だからLEADERの除外基準にもeGFRは入っていないが、心血管保護が有意にみられたのはeGFRが30−60ml/min/1.73m2の群だった。






2016/06/14

WAK, iRAD and HVS

 ケイ酸ジルコニウムのK吸着剤ZS-9®がFDAにリジェクトされたが、吸着能のある各種Zr化合物、ウレアーゼ、活性炭などを層にしたカラムを使って透析液を再生する試みは以前から研究されている(と2011年9月に聞いた)。その後2012年12月にFDAは末期腎不全領域の3デバイスにspecial fast track status(Innovation Pathway 2.0)を与えた。Blood Purification Inc社のWAK(wearable artificial kidney)、UCSFのiRAD(implantable renal assist device)、CreatiVasc Medical社のHemoaccess Valve SystemTM(HVS)。応募は32あったらしい。で最近、WAKのproof of concept論文がでた(JCI Insight 2016 1 e86397)。

 WAKはminiaturized, dual-channel, battery-operated, pulsatile pumpでカテーテルからの脱送血と透析液の回転を行い(拍動があるほうがconvectionの効率が上がるらしい)、透析液は上述のカラムで再生して何度も使い、カラムは1日1回交換する。抗凝固にはヘパリンを使う。いまはまだ10lbs(4.5kg)くらいの機材を腰に巻き付けなければならない(図)が、LVADも昔は大きかったけれどHeart Mate IITMくらいに進化するとだいぶんコンパクトになったからそれは技術の問題だ。



 今回はproof of concept研究だから理論の実用化が可能かどうかだが、n=6(7人目は回路異常でCO2気泡が血中に漏れて8時間で中止になった)の結果をみると1−2人は24時間一定して血液流量、透析液流量、各種溶質クリアランスを維持できた。他は16時間たつとだんだんへたってきて、またバッテリーが切れたり回路がキンクしたりいろいろout of whackになってしまったので改良しなければならない。あと長く使えばカテーテル、透析液、回路がエンドトキシンや細菌で汚れてくるだろうからそれも解決しなければならない。

 このような体外型人工腎臓は持ち運びが面倒(それでも被験者は透析より快適で、人にも勧めるとアンケートに回答しているが)だし汚れるが、何かあったらすぐ交換修理できる。それに対して体内埋込み式の腎アシストデバイス(iRAD)を開発しているのがUCSFを中心とするグループだ。体外式RADは透析膜内腔に尿細管細胞を植えたもので、CRRTにタンデムで付けるとICUの生存率があがるというスタディがある(JASN 2008 19 1034)。

 埋込み式RADは箱型をしていて、移植腎のように腸骨動静脈につなげ、「尿」をつないだ膀胱に捨てる(図)。箱にはポンプなしで原尿をろ過できるヘモフィルターユニットと、再吸収能をもつ尿細管細胞のバイオリアクターユニットが入っていて、フィルターはmicroelectromechanical systemというナノテクノロジーで作ったシリコンナノポア膜を用いる。ファウリング(膜表面に汚物が付着すること)を防ぐためにslippery liquid-infused porous surfaces(SLIPS)というコーティング技術を用いている(これはpitcher plant、食虫植物ウツボカズラのポット内がツルツルなのを参考にしている)。こちらもproof of conceptは終わって臨床応用前の技術改良をしているらしい。



 なおSLIPSはほとんどどんなものでも寄せ付けないツルツルコーティング技術だが、これを開発したのはハーバードのトランスレーショナル研究機関Wyss Institute(ヴィースと発音するらしい)だそうで、彼らがさらに進化したTethered–Liquid Perfluorocarbon surface(TLP;テフロンの応用)を開発したと2014年に発表した。これを透析やECMOに使えばバイオファウリングだけでなく回路内凝固も防げ抗凝固薬も必要なくなるかもしれない、というがその後どうなったか気になる。あまり血液をrepelし過ぎると疎水性が強くて透析には困るかもしれない(インターフェイスとの相互作用が必要ないカテーテルとかチュービング、シリンジなどにはいいかもしれない)。

 もうひとつのHVSだが、この会社はCreatiVascという名前からわかるようにHVSだけでなくFistulaFinderTMというシャント同定と固定・穿刺を容易にするプラスチックのデバイスを開発したりブラッドアクセスについての研究をしている。Hemoaccess Valve SystemTMは人工血管を透析使用時に血液が流れ、使わない時には血液が流れない(生食でフラッシュして充填できる)ようにするシステムらしい(図)。人工血管による血行動態の変化を少なくし、ひいては人工血管内の凝固閉塞を予防することを意図しているそうだ。


2016/06/10

Metagenomics and CKD

 60兆個の細胞でできたあなたには100兆個の腸内細菌がいる、とよく言われる。最近の研究だと30兆個の細胞でできたあなたに39兆個の腸内細菌がいるらしいが(doi: http://dx.doi.org/10.1101/036103)、とにかくたくさんいてその種類も割合も他の人とは違う。で腸内細菌叢は健康に大きな役割を果たしていることがわかってきた。また最近はどこもかしこも「抗生物質の乱用をやめよう(ヒトにも家畜にも)」と言っているが、抗生物質一粒でも腸内細菌叢は大きく変わるから、そういう面でも抗生物質の影響を考えなければならないかもしれない。

 腸内細菌叢のように複数のゲノムを一気に調べることをメタジェノミクスという。アメリカではNIH human microbiome project、欧州はmetagenomics of human intestinal tract(MetaHIT)、中国は深圳華大基因研究院(BGI-Shenzhen)が有名で、日本もはやくから東京大学大学院新領域創成科学研究科などで行われている。16S mRNA sequencingといってV1-V9の可変ゲノム領域を調べphylogenic classificationを調べる方法と、whole genome shotgun sequencingというテラバイト級の情報量を処理する方法があるらしいが、いずれにせよ関心のある遺伝子を見つけてきて治療に活かせないか研究する。

 ベンチャー企業もボストンエリアに始まって、いまはベイエリア、欧州、日本、どこにもある。今やメタジェノミクスは高校生物の副教材にも取り上げられ、日本人の腸内細菌叢は海藻のporphyranを分解する遺伝子が多い(Nature 2010 464 908)なんてことも書かれているらしい。元々日本人は腸内細菌に関心を払ってきた(ビフィズス菌、フェカリス菌、アシドフィルス菌、ラクトバチルス・カゼイ、酪酸菌など)から、23andMe®のように遺伝情報を提供するだけでなく、若い世代がこの分野で活躍したらいいなと思う。

 さて腸内細菌叢は肥満、心血管疾患などさまざまな健康上の問題に関連しているがCKDも例外ではない。尿毒素物質(明らかな毒性があればuremic toxin、なければuremic soluteと呼ばれる)は単一ではなくEUTox projectで150以上がリストされているが、その多くが腸内細菌叢の代謝で産生される(ammonia、1-methyl guanidine、TMAO、H2S、短鎖脂肪酸、homocysteine、D-lactic acid、oxyalate、p-cresyl sulfate、indoxyl sulfate、indole-3-acetic acid、phenylacetic acid、hippuric acidなど;AJKD 2016 67 483)。とくにチロシンの代謝産物p-cresyl sulfateとトリプトファンの代謝産物indoxyl sulfateはよく調べられている。

 CKD患者は非CKD患者と腸内細菌叢が違う(表;JASN 2014 35 657)。腸内細菌叢のバランスが崩れると腸管バリアの障害や炎症惹起、translocationなどが起こり、逆に尿毒症環境だと発酵菌(clostridium bifermentans、C. sporogenes、C. clostridiforme、C. leptum、Peptostreptococcus asaccholyticus、P. indolicus、Bacteroides thetaloaomicron、B. putredinis、Fusobacterium nucleatum、Actinomyces israelii、Megalofaera elsdinii、Propionibacterium acnesなど;FEMS Microbiol Ecol 1998 25 355)が増えて細菌叢のバランスがくずれる(Brachybacterium, Catenibacterium, Enterobacteriaceae, Halomonadaceae、Moraxellaceae、Nesterenkonia、Polyangiaceae、Pseudomonadaceae、Thiothrix族なども増える;KI 2013 83 308)。


 この双方向の「腸腎連関」はよく知られた概念で、"The intestine and the kidneys: a bad marriage can be hazardous(Clin Kidney J 2015 8 168)"などと巧いこと言ったつもりの論文もあるが、ではどうしたらいいか。吸着剤(AST-120)。プレバイオティクス(善玉菌の餌;inulin、fructo-oligosaccharides、galacto-oligosaccharidesなど)。プロバイオティクス(ラクトバチルスなど)。プレバイオティクスとプロバイオティクス両方(シンバイオティクス;最近ではSYNERGYスタディ CJASN 2016 11 223)。いずれも血中尿毒素の低下がみられたが吸着剤以外は数週間の短いスタディで、CKD進行やESRD進展、all-cause mortalityなどへの効果はまだわからない。動物実験ではClC2チャネル活性薬(lubiprostone、アミティーザ®;JASN 2015 26 1787)など。

 今月のJASNにCKD患者と非CKD患者の便中揮発性物質の比較をして間接的に腸内細菌叢の代謝差異をみた論文がでた(JASN 2016 27 1389)。冒頭のメタジェノミクスプロジェクトは健康な被験者を対象にしたものだ。CKD患者の腸内細菌叢のメタジェノミクスを調べて、スーパーコンピュータかなにかを使ってわーっと非CKD患者のそれと比較すれば、ターゲットを絞った治療ができるだろうか。まだ腸腎連関の病態解明の段階だとは思うが、新しい治療につながればいいなと思う。




2016/06/09

DN as microangiopathy

 糖尿病性腎症(DN)はいまでこそ雑多な原因を集めてDKDというが、本来はmicroangiopathyの一つ(腎症、神経症、網膜症を合わせたtriopathyというのは和製英語かもしれない、海外では通じないのではないか)であるから、いくら足細胞病と言われても内皮細胞障害を起こしていることは間違いない。

 内皮細胞障害といえばpre-eclampsiaで有名なsFlt-1(可溶性VEGFR1)、Endothelin-1、NO synthase、活性酸素、glycocalyx障害とかいろいろ聞くし、レビュー(J Diabetes Invest 2015 6 3)を読むとAGE(andvanced glycated endproducts)、TGFβ経路、VCAM障害、DAG(diacylglycerol)/PKC経路、polyol pathway経路(sorbitolの蓄積)、Angiopoietin 2 (Tek/Tie-2というチロシンキナーゼにつながる;内皮細胞のオルガネラWeibel-Palade bodiesにP-selectin、vWF、IL-8と一緒に詰まっている)などがでてくる。

 それに新たにCathepsin S/PAR-2(protease-activated receptor)系が加わるかもしれない。Cathepsin Sは知らなくてもCystatin CはeGFRのことで知っているかもしれない。Cystatin CはCys-statinすなわちcysteine protease inhibitorで、Cathepsin Sは数あるcysteine cathepsinsのひとつ(ちなみにパパインもcysteine protease)。Cathepsinは通常リソソーム内にあってごみ処理をしているが、Cathepsin Sはいくつかの特別な役割がある。

 たとえばマクロファージにおける抗原処理とMHCIIの抗原提示、平滑筋でAGIIに誘導され炎症・細胞死・動脈硬化を起こす。また細胞外基質のリモデリングに関与するのでTGFα・IFN-γなどのサイトカインに誘導されエラスチン、ラミニン、コラーゲンなどを分解して動脈瘤を進展させる。変わったところではBEN(Balkan Endemic Nephropathy、チュニジアでも報告がある;原因は真菌毒のOchratoxin Aが有力だ)で近位尿細管にCathepsin Sが大量発現していたという話もある。

 またCathepsin Sには活性pH域が広くリソソームの外でも働くことができる特徴がある。こんな劇薬な酵素を野放しにはできないのでふだんはCystatin Cがその活性を1%に抑えているのだが、糖尿病性腎症では腎に浸潤したマクロファージで産生され、内皮細胞のPAR-2を介して内皮細胞障害を起こすのではというのが最近出た論文(JASN 2016 27 1635)だ。Cathepsin Sをマウスに注射したり、Cathepsin S inhibitor、PAR-2 inhibitor、Cathepsin Sたんぱく発現+mRNA in situ hybridizationなどをしている。

 糖尿病性腎症にマクロファージが関与しているというのは、マクロファージのケモカインであるMCP-1(ケモカイン系譜のなかではCCL2と呼ばれる)が過剰発現していることなどから知られていた。マクロファージは抗原提示やサイトカインなどで炎症を掻き立てる元なので、Cathepsin Sもその一つなのだろう。でCathepsinはどうやってPAR-2を活性化しその先にはなにがあるのか。

 PARは1から4まであって、もともとthrombin受容体ファミリーとして見つかった。PARと呼ばれるのは、この受容体のN末端にactivated peptideが組み込んであり(英語では結わえ付けるを意味するtethered ligandという)、proteaseがN末端を切るとtethered ligandが露出しN末端ループと触れ合いG-proteinが活性化する仕組みだ(Front Endocrinol Lausanne 2014 5 67)。

 PAR-2は通常trypsinに切断されヒトではSLIGKV、マウスではSLIGRLが露出するのだが、Cathepsin Sはnon-canonicalまたはbiased cleavageといって通常と違うところを切断し通常と違うtethered ligandで受容体を活性化する。TVFSVDEFSAを露出するという論文もあれば(J Biol Chem 2014 289 27215)KVDGTSを露出するというのもある(PLoS One 2014 9 e99702)。

 Cathepsin Sによって活性化されたPAR-2がどうなるかについてはまだ分かっていない。動物では炎症、内臓知覚過敏(visceral hyperalgesia)、そう痒などが起こり、痛覚についてはGαサブユニットによるcAMP増産を介してTRPV4をupregulateすると言われている。TRPV4はosmoreceptorとしても機能するので、内皮細胞膨化などに関係しているのかもしれない。MCP-1(とその受容体CCR2)もCathepsin SもPAR-2も治療ターゲットとして研究はされている。既存薬ではpropagermanium(セロシオン®;免疫賦活作用でB型肝炎治療にもちいられる)にCCR2阻害作用があることが知られている。



ECB

 Brexit referendum(英国のEU離脱を問う国民投票)が今月23日に迫った。Euroscepticと呼ばれるEU反対派は、肥大した官僚組織になって身動きが取れず各国の主権をおびやかすBrussel(EU本部)が嫌いなのであって大陸ヨーロッパは好きだと強調しているが、EUは脱退するとその後の貿易等の条件をEUが一方的に決められるようになっているので、たとえるなら離婚しても条件は相手しだいというわけで経済への悪影響などが心配される。

 で、今日のお話はECBだがEuropean Central Bank(欧州中央銀行)のことではなくendocannabinoid system(内因性カナビノイド系)だ。大麻の成分THCが発見されてから、体内にも内因性カナビノイドがあることがわかりanandamide、2-arachinodoylglycerol(2-AG)などがよく研究されている。受容体にはGたんぱく受容体のCB1とCB2があって、中枢神経系に多いが末梢組織にもひろく分布し、また前者はpro-inflammatory、pro-fibroticで後者はそれに拮抗することがわかっている(Br J Pharmacol 2016 173 1116)。

 ECB系で知られているのはCB1拮抗薬のrimonabantで、これは抗肥満薬、禁煙薬として開発されたがオピオイドμ受容体も抑えるのでうつ、自殺などの副作用が強く使われていない。まあECB系をいじるのは麻薬取締法すれすれなので、多くの合成カンナビノイドはいわゆる「脱法ドラッグ」だ。

 しかし体内にECB系があって生理作用を有しているのはたしかで、糖尿病にも関係がある。食事摂取が増えるとECB系が亢進しエネルギー消費の低下や脂肪産生などを起こしてインスリン抵抗性と肥満に寄与するだけでなく、膵に浸潤したマクロファージのNlrp3-ASC inflammasomeを介してβ細胞死を起こすと考えられている。脳血管関門を通過しない末梢CB1拮抗薬AM6545、JD5037などが開発中だ。

 糖尿病性腎症にもECB系の関与が示されている。糖尿病性腎症になると足細胞のCB1/CB2比が逆転し炎症に傾き、内因性CB2 agonistの2-AG欠乏にもなる。そこでCB1拮抗薬のAM251やCB2 agonistのAM1241を動物モデルに投与してたんぱく尿などが改善し、AGII/NADPH活性の低下によるとみられる活性酸素産生の抑制やサイトカインの減少がみられたという報告がある。いずれにせよ、実用にはオピオイドμ受容体に関与しない選択的末梢ECB受容体拮抗薬でなければならないが。マウスもうつになるのだろうか(なる、実験されている)。



2016/06/05

Reniculi

 水族館で働くか海洋哺乳類の研究をするか、どちらも魅力的に聞こえる。海洋哺乳類生物学の講義をUC Santa Cruzとかで聴講するのでもいい。

 それはさておき、海洋哺乳類はどのように体液・浸透圧の恒常性を保っているか。まずクジラ目、鰭脚類、ラッコ、マナティーと陸上では唯一クマの腎臓は、ヒトとは形態が大きく異なる。Discrete multi-reniculate kidneyといって小腎(reniculi)が被膜に包まれぶどうの房というか魚卵の塊のようになっている。ウシの腎臓も似た形をしているが、これは奥でつながって一つになっているので小腎ではない。

 小腎は腎の表面積を増やしクリアランスを増す役割があると言われているが、本当かどうかわからない。小腎だとループ係蹄が短くなり尿濃縮能は落ちるはずだが、クジラ目と鰭脚類でも1000mOsm/kgくらいまではなんとか濃縮できる。それでも尿をマックス濃縮して塩を捨てるのも大変なので彼らは海水を極力飲まず餌の水や代謝水(6O2 + C6H12O6 = 6H2O + 6CO2の水)などでやりくりしている。

 ただラッコとマナティーは2500mOsm/kgまで濃縮できるので海水も結構飲む。複雑な鼻甲介で呼気中の水蒸気を回収することもできる。乳も濃縮されている(皮下脂肪がつくよう脂肪をじゅうぶん供給しなければならないからでもあるが)。またクジラ目には汗腺がない。なお、おなじ海牛目でもジュゴンの腎臓は小腎ではできていないらしい(ジュゴンとマナティーの他の違いについては、以前も書いた)。そしてクジラ目には髄質と皮質の間にsporta perimedullarisという線維筋層があるがその意義はわかっていない。


[2019年6月10日追記]小腎、文章だけではイメージがつかないと思うので、画像はこちら(出典は、冒頭でも触れたUC Santa Cruzの授業資料。海洋哺乳類それぞれの水保存戦略が説明されており、「世界一受けたい授業」と思うのは筆者だけではないかもしれない)。





2016/06/04

Na intake estimate

 1日塩分摂取量はどのように求めるか。栄養士さんがカロリーカウントのように調べるのがひとつ。24時間Na排泄量は摂取量と同じはずなので、それを蓄尿で求めるのが一つ。このふたつがgold standardとされる。でもそれらは簡便でないので、スポット尿を使うのがもう一つ。

 なかでももっとも有名なのはKawasaki式で、早朝尿の次の尿(second morning urine)を用いて計算する(Clin Exp Pharmacol Physiol 1993 20 7、1985年のから改良された)。すなわち:

Na (mEq/d) = 16.3 x ルート[(UNa (mEq/l) / (UCr (mg/l)) x predicted Cr excretion (mg/d)]
Predicted Cr excretion (mg/d) = (15.12 x weight + 7.39 x height (cm) x 12.63 x age) - 79.9 in men
Predicted Cr excretion (mg/d) = (8.58 x weight + 5.09 x height (cm) x 4.72 x age) - 74.95 in women

他にINTERSALTスタディに用いられた随時尿のTanaka式(J Hum Hypertens 2002 16 97)、高さ16cm x 幅1.5cmのデバイスで夜間にpipe-samplingした尿を用いた式(J Hypertension 2002 20 2191)などがある。抵抗伝導率法で尿量、導電率法で塩分濃度を測定し1日塩分摂取量を推計する器械(下図、J Hum Hypertens 2006 20 598)はさらに簡便で、商品化もされている(2-3万、医療機器ではない)が、日本高血圧学会はunreliableとしている(Hypertens Res 2007 30 887)。

 いずれも日本の研究だ。Urinary Na excretionを対象にした論文の多くは、Kawasaki式を用いている(海外でもvalidateされているのかはわからないが、不思議と海外の式はあまり見当たらない)。そのお膝元の日本だが、減塩ができているかを尿で確かめて診療するというのはあまり聞かない。また栄養士さんが塩分カウントしてフォローするなどというのも、よほど高血圧に特化した施設でないとされていないのではないかと思う。


2016/06/03

High salt warning

 喫煙、割礼、トランス脂肪酸、ソーダを禁止するなど、健康に関する条例をどんどん出してきたNew York City。市長がMichael BloombergからBill de Blasioになっても変わらず、昨年12月にはhigh salt warning(下図)をメニューに載せることを決めた。ただちにNational Restaurant Associationに訴えられ、自主的に載せる企業を除いては判決の結果待ちになったが、昨月Appellate Division of the New York State Supreme Courtが条例を支持する判決を出した。

 アメリカのナトリウム摂取量は平均3400mg/d(食塩相当量に換算するには2.5倍するので8.5g/d)。US Department of Agriculture and the Department of Health and Human Servicesの推奨は2300mg/d(食塩5.75g/d)、AHAの目標は1500mg/d(食塩3.75g/d)。そして今月1日、FDAのvoluntary guidelinesがでた。2年で3000mg/d(食塩7.5g/d)、10年で2300mg/d(食塩5.75g/d)に減塩する目標を立てている。食品・外食企業に減塩を求める嘆願もたくさん届いているそうだ。

 日本は摂取量の現状や目標も食塩で表示するのに栄養表示はナトリウムで、意図的かどうか知らないが混乱を招くので、高血圧学会などが働きかけて食塩相当量も載るようになった(100g当たりで表示したりまだ隠したそうな場合もあるが)。健康日本21の目標は男女とも8g/d(Na 3200mg/d)。日本人の食事摂取基準の目標値は2010年版で男女それぞれ9g/dl(3600mg/d)、7.5g/d(Na 3000mg/d)、2015年版で8g/dl(Na 3200mg/d)、7g/d(3000mg/d)に引き下げられた。日本高血圧学会の目標は6g/d(Na 2400mg/d)。

 どれくらい本気かは知らない。「日本では減塩は禁煙より難しい」と言っていた先生を思い出す。日本は世界有数の食塩摂取国で、平均摂取量は男性で11.8g/d(Na 4720mg/d)、女性で10.1g/d(Na 4040mg/d)、身についた習慣はそうそう変えられないし、変えようという啓発活動もさほど大きくない。食品・外食業界の圧力もあるとは思うが、日本人は単純に塩が好きなのだろう。健康寿命を伸ばそうというスマートライフ・プロジェクトも運動、野菜摂取、禁煙、検診を柱にして減塩の塩の字もない(野菜を増やしてもドレッシングや醤油、つけものなど一緒に摂る塩分の量はすごく幅がある)。

 さらに複雑なのは、日本がそれでも長寿国なことである。食塩摂取と血圧・予後の相関について疑義があることは以前にも書いたが、INTERSALTの続編ともいうべきPUREコホート研究(NEJM 2014 371 610)でもNa 4g/d(食塩10g/d)を底辺にする生存Uカーブがみられ、EPIC-NorfolkコホートでもNa 150mmol/d(食塩9g/d)を底辺にする心不全HRのUカーブがみられた(Eur J Heart Failure 2014 16 394)。最近もHARTスタディ(JCHF 2016 4 24)で心不全NYHAII/IIIの患者でNa 2500mg/d(食塩6.25g/d)以下の群が以上の群より死亡率が高かった。心不全で極端な低Na摂取が悪影響を及ぼす理由としては、腎血流の低下などにともなうRAA系が亢進などが考えられている。

 それでもAHAはすべての人にNa 1500mg/d(食塩3.75g/d)を推奨している。さらに最近はbreak up with salt(塩との別れ)キャンペーンを張って、"I love you salt, but you're breaking up my heart."という標語、「10万人オンライン誓願」などをやっている。AHAはAHAで根拠なしに無茶を言っているわけではなくて、いろんなコホート研究(減塩食事療法のDASHとか)を30以上あつめてAHA/ACC Guideline on Lifestyle Management to Reduce Cardiovascular Riskを出した。そこに「血圧降下による利益のある成人のNa摂取は2400mg/dを越えないこと;1500mg/dではさらに血圧は下がる;無理な人は1000mg/dでも減らす(COR IIa、LOR B)」とある。

 



[2019年7月追記]減塩について、National academy of sciences engineering and medicineが5月に報告書をまとめ、ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスンにも取り上げられた(DOI: 10.1056/NEJMp1905244)。

 報告書は、ナトリウムの食事摂取基準(dietary reference intake、大半の健常者における必要量を満足する一日の栄養素の推奨摂取量)は1500mg/日(食塩で3.7グラム/日)、慢性疾患のリスク低減には2300mg/日(5.7グラム/日)以下にしておくべきと推奨している。


(食事摂取基準)

(慢性疾患リスク低減のために越えない摂取量)


 この目標をかなえるには、食品産業の取り組みが不可欠だとNEJM投稿者はいう。元来、食品の安全を管理するFDAは塩をGRAS(generally recognized as safe)としてきたが、今後は塩を「有害添加物」のように扱うくらいの考えの変化が必要かもしれない。

 これに対し、ダノンやネスレなど一部企業が参加するSustainable Food Policy Allianceは協力を表明しているが、「十分な科学的根拠がない」と言い張る企業も多い。それで、銃規制やCO2と同様に政治問題化しつつもある(おわかりだろうが、オバマ大統領のイニシアチブをトランプ大統領がやめようとする構図だ)。

 「加塩バター(写真)」ならいざ知らず、「増塩!」といえば商品が売れないことは目に見えている(逆に言うと、じっさいは塩分が多くても「減塩!」といえば売れるわけだが)。だから、そこらへんをうまく工夫して、お互いの意見を聴きながら前進すればいいなと思う。









 



2016/06/02

Intradialytic hypertension

 透析中に血圧が上がる患者さんは結構いる。透析低血圧は透析困難症とも呼ばれさまざまな対策がなされるのに対し、透析高血圧(または透析中高血圧;正式な医学用語は知らないが英語はinTRAdialytic hypertension)はそこまで注目されていないというか、Handbook of Dialysis(5e、2015年、John T. Daugirdas他)の透析中合併症にも含まれていない。Dry weightが多いとか交感神経系が亢進するとかは聞くし、透析前の降圧薬を増やしたりすることもあるが、きちんと調べたことはなかった。

 この分野で研究を続けてきたのはDr. Jula Inrigで、彼女がCLIMBスタディ、USRDS Dialysis Morbidity and Mortality Waves II cohortの分析で透析高血圧が心血管系リスク因子であることを示した。で、この頃からすでにその原因に体液過剰、透析液−血液Na濃度勾配、交感神経系の亢進、endothelin-1の増加(とNO産生の減少)、renin-angiotensin系の亢進、降圧薬の透析液への喪失、ESAなどが原因に考えられていた。

 で、"less-recognized cardiovascular complication of hemodialysis"、"it's time to act"などという論文が出ていた(AJKD 2010 55 580、Nephron Clin Pract 2010 115 c182)。透析高血圧じたいはよく知られているが、その定義も曖昧(研究では透析前後でsBPが10mmHg以上あがることが何度も続く、などとされその割合は約10%)で、2010年頃から減ってきたか増えているかもわからない。レビューが毎年(Curr Hypertens Rev 2014 10 171、Hypertension 2015 66 456、Blood Purif 2016 41 188)でているからホットトピックなのかもしれない。

 書いてあるのは、当初は透析高血圧は家庭血圧とは独立したリスク因子と考えられていたが、その後でたコホート研究や24時間、44時間(透析が4時間なので48-4)血圧モニタリングをつかったスタディでは透析高血圧じたいのadded hazard riskは消えて、家庭血圧が問題とわかった。いまでは透析高血圧は背景にある高血圧が透析をきっかけに(ちょっとちがうが白衣高血圧のように)悪化する現象と考えられている。

 体液過剰ではDRIPスタディが引用されdry weightをきちんと下げよう、とされ透析液−血液Na濃度勾配では透析液Na濃度を患者Na濃度−5mEq/lと+5mEq/lに設定したら低いほうが血圧が下がったスタディが紹介されている。内皮細胞障害、動脈硬化(aortic pulse wave velocity上昇)、交感神経系亢進、endothelin-1、renin-angiotensin system亢進は相互リンクして論じられ、α/βブロッカー(とくにβ、あるいはcarvedilol)、ACEI/ARBを使ってはどうかと言っている。

 そりゃそうだと思うが、意外とβブロッカーが入っていない患者さんは多い。βブロッカー(atenolol)とACEI(lisinopril)で心肥大のある高血圧透析患者を降圧すると後者で圧倒的にイベントが発生し中止になったHDPALスタディもあるし、βブロッカーはACEI内服の心不全においてbackground sympathetic nerve dischargeを減らさずlow- and high-frequency harmonic oscillations in sympathetic nerve activityを回復する(ほらやっぱり神経の話は難しい…とにかくいいことらしい)のでもっと使っていいのかもしれない。昔は血管拡張薬のminoxidilが使われたがいまはこれは育毛剤だ(海外でRogain®、国内でリアップ®)。

 Direct renin inhibitor(aliskiren)は使いにくいが認可はされているし効果もある。Sympathetic renal denervationは難治高血圧透析患者で効果を示した小さなスタディがあるが、SYMPLICITY HTN-3、SYMPLICITY HTN-3 Japanで有意な効果が出なかった。理論上は効果があるはずなので、シャム群にHawthorne効果があったとか、しっかり焼灼できていない(安全だったのはなによりだが)とかいろいろ言われている。別の会社がEnligHTN(図、次世代多電極デバイス)を治験中だ。Endothelin-1 antagonists(-entans、Bosentan®など)はいまのところ肺高血圧以外の高血圧には使われない(体液貯留が起こる;余談だが糖尿病性腎症の進行予防にatrasentanを用いたSONARスタディが組まれている)。

 透析中に降圧薬が喪失されることについてはβブロッカー(とくにatenolol、metoprolol;carvedilolは失われない)、ACEI(lisinoprilが50%、fosinoprilは失われない、ほかは30%程度)で注意が必要だが、ARB、CCB、clonidine、hydralazineはほぼ残るのであまり日本では関係ないかもしれない。ESAは静注後30分から3時間くらいMAP 20mmHg程度の高血圧を起こすとされ、透析高血圧の場合は透析後に打つのがよい(それがルーチンだと思うが)。透析液温度、透析液K、透析液Ca濃度も影響する。



2016/06/01

AKI and nutritional support

 AKIの栄養管理についてはESPENが2009、ASPENが2010、KDIGOが2012年にガイドラインを出しているがどれも予後にもっとも関わるprotein energy wastingを予防することを主眼に置いている。KDIGOでは透析を遅らせるためにたんぱく制限することを推奨しない、異化亢進のないRRT依存のないAKIでたんぱく質0.8g/kg/d、RRT依存のAKIで1.0-1.5g/kg/d、異化亢進があるまたはCRRT依存のAKIでは1.7g/kg/dまで、中心静脈栄養よりは経腸栄養を、と書いてある。
 AKIは多臓器不全の一部として起こることが多く、またAKIにkidney-centered systemic inflammatory syndromeとしての面があって(図、KI 2012 81 942)、いずれにしても消耗疾患なのでカロリーは十分に投与したほうが良いとされる(20以上、25−30以下kcal/kg/d)。またCRRTではアミノ酸やたんぱく質が失われることも考慮する。AKIの場合体液バランスの変動がはげしくどの体重を使うかでoverfeeding、underfeedingになる可能性があるが、慣例では家族にきいた「普段の体重」または(肥満の場合)理想体重を用いる。
 ただしAKIがheterogeneityのつよい疾患なこともありスタディがほとんどないので、エビデンスレベルは弱い。たんぱく質摂取量の推奨は異化を推定したデータから来ている。ただし実際にはこれでは窒素バランスはプラスにならないらしい(2.5g/kg/d近くのたんぱく質が必要)。Prescribed doseとreceived doseに差があるのはよくある話だが、そこまでたんぱく質を投与すれば尿毒症や体液過剰の悪化がおこるかもしれない。最初からもりもり栄養をあげて問題になればearly RRTをしたほうが予後がいいのかどうかは、スタディがないのでわからない。Early RRTについては、最近の(JAMA 2016 315 2190)も含めて数限りなくスタディがでているが。
 中心静脈栄養より経腸栄養が予後良好というのはわかるが、必要な栄養が経腸でとれないなら、透析中の静脈栄養などで補充してもよいとこの分野でレビューを多く書く(Curr Opin Clin Nutr Metab Care 2013 16 217、J Ren Nutr 2013 23 255)Dr. Enrico Fiaccadoriは言い、根拠のひとつにTICACOSスタディ(Intensive Care Med 2011 37 601)を挙げている。これは内科・外科・外傷ICUで経腸・中心静脈栄養を使って2000kcal/d・76g/kg/dたんぱく質を維持したら1400kcal/d・53g/kg/dタンパク質の群に比較してhospital mortalityが良かったという一施設スタディだが、入院期間や挿管期間は悪かった。AKI発症に有意差はなかった。
 AKIが全身炎症疾患という側面から、抗炎症の栄養素についての研究もされている。Glutamineは免疫細胞や増殖の速い細胞の基質で、heat-shock protein 70やglutathione合成を通じてHigh Mobility Group Box-1 related mediatorsのdown-regulationや酸化ストレスの緩和によって実験動物では腎保護効果をもたらすと言われている。ICU患者において0.2g/kg/d相当のglutamineが感染合併症を減らすかもしれないということで、透析でアミノ酸が失われるAKIではさらに投与するとよいかもしれない(ただし少量ではあるが尿毒素になる)。同様にω−3脂肪酸も酸化ストレスを緩和するとされている。