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2018/09/07

冠動脈と腎臓 透析では

 では、透析患者に話を移す。

 まずは、下の図は2010年頃の米国の透析患者の死因を表にしたものであるが、見ていただくと心疾患の関連死が非常に高いことがわかる。




 では、なぜこんなに多いのかについては、直接的に大きく関わるのは左室肥大である。
よく透析患者で心胸郭比を測定する場面を多く見ると思うが、心胸郭比管理は左室肥大管理で非常に重要である。

 では、なぜ左室肥大になるか?

 ・心筋の線維化や細血管の変化が生じることで生じると言われている。

 この原因となるものは、

 ・貧血、高PTH血症、RAA系の活性増加、FGF23の上昇、リン・カルシウムなどのMBD管理、高血圧、血管の石灰化、volume overloadなどが原因としてはあげられる。
 
 ・FGF23はLVHとの関連性に関しては2013年のNDTにも詳しく述べられており非常に重要な要素である。

 ・血圧に関しては、CLIMB studyDRIP studyで体重増加での血圧の上昇、体重減少での血圧低下が示されている2000年第後半の研究である。

 ・心筋の変化は剖検での症例(下図)からも腎臓が悪くなるに従い繊維化の増加、血管の数の減少、心筋細胞の割合が減少しているのがわかる。これは、臨床試験でPETを用いたものでも同様の結果が示されている。


Int J cardiologists 2014より


 透析患者の心臓では(一般的にもだが)、LVHがあること、EFの低下(収縮能の低下)が合併すると死亡リスクは非常に高くなることがわかっている(sem in dial 2003)。

 また、2013年のCJASNでもESRDの進行に伴う心機能の変化を見ており、透析患者ではEFの低下が認められる。


CJASN 2013より


 また、2014のJASNからもCKDのステージが進むにつれて心筋の変化は強くなることもわかっている。


JASN 2014より


 では、透析患者ではなぜこのように変化が起きやすいのか?

 一つのキーワードが"Myocardial Stunning"である。

 透析患者では除水をかける以前から心血管血流は低下していると言われ、透析中には心筋虚血が生じ、透析が終了して回復しても心筋壁運動の低下が持続している状態になると言われ、これが心筋の繊維化や心収縮能の低下につながると言われている。下図と論文は非常に秀逸である。


Rev cardiovasc 2011より 


 今回は、治療の話まではできていないが、僕たちができることはこのような現象をおこさいないためにどのようにするかが、透析患者の突然死(以前の投稿)にも直結するのではないかと思う。







2015/06/06

FGF23 and Klotho

 JSN/ASN joint science symposiumに参加してきた。まずKlothoについて黒尾先生が、つぎにFGF23についてDr. Myles S. Wolfがお話した。黒尾先生のお話では、Klotho欠損マウスが短命なのはgenotoxic stressのためではなくCPP(calciprotein particle)による炎症によるものだというお話が興味深かった。CPPとは、1nm以下のリン酸カルシウム塩の最小単位であるPosner's cluster;分子式Ca9(PO4)6がFetuin-Aと凝集してできた径100nm程度のかたまりで、血漿ではコロイドとして存在しているそうだ。あたかも水に溶けない脂肪がapoproteinと一緒になってlipoproteinとして存在しているように。

 CPPは内皮細胞にひっついてTLR、MCP-1(好中球のchemotactic agent)などを介してサイトカイン、炎症、動脈硬化などをきたす。ふつうはFGF23のco-receptorとしての膜型Klothoがあって、リン摂取時には骨からリン排泄亢進ホルモンであるFGF23が産生されて尿中にリンが排泄されてリンの恒常性が保たれるはずであるが、Klotho欠損マウスはその機構がはたらかないので高リン血症になる。しかしKlotho欠損因子にリン制限をかけるとリン値はあがらずCPPも減って寿命は延びる。さらに、Klothoには二種類あってもうひとつは可溶性Klothoだが、これが減ると線維化、Wntシグナリング経路の活性化、IGF-1シグナリング経路の活性化などがおこる(Science 2007 317 803、Am J Physiol Renal Physiol 2012 301 F1641←ああ、この雑誌の論文に触れるのひさしぶりだな…フェロー時代は読んでたけどな…)。

 じゃあ翻って、CKD患者さんではKlothoが減少するわけだが、マウスのようにリン制限をかけていればいいのかというと、話はそう単純ではない。というのはKlothoの減少の前から後かは不明だがとにかくCKDの進行とともに患者さんの身体の中ではFGF23値が指数的に増えていくからだ。これはリン排泄を一生懸命するための代償的な反応と考えることもできるが、残念ながら心筋肥大を起こし心血管系死を招くことは良く知られた事実だ(JCI 2011 121 4393←これは、私が米国腎臓内科フェローになって初めてJournal Clubで発表した論文なので感慨深いものがある…当時の様子もちゃんと書いてある)。

 あのあと抗FGF23モノクローナル抗体を試したがうまくいかなかったと風の便りに聞いていたが、今回その論文が紹介され(JCI 2012 122 2543)、この抗体で5/6腎摘ラットのFGF23をブロックすると、LVHは改善させるが著明な高リン血症と劇しい血管石灰化を起こしたそうだ。というわけでFGF23はFGF-2などと同様LVHを起こす意味で有害なホルモンだが、リン排泄とCPPコロイドの減少と言う意味で保護的なホルモンだ(というかホルモンなんて皆そうだ;出過ぎも出なさ過ぎもよくない)。しかしFGF23がLVHを起こす細胞内シグナリングがcalcineurinというのは興味深い;calcineurin inhibitorが効くかもしれないからだ(そういう質問がフロアからでていた)。



2011/12/04

FGF23 induces LVH

Journal clubで"FGF23 induces LVH"(JCI 2011 121 4393)を発表した。これは、①慢性腎不全の患者さんは心疾患で亡くなる、②慢性腎不全の患者さんではFGF23血中濃度が高い、③FGF23濃度は左心肥大に相関する、④FGF2は心肥大を起こす、という研究結果を踏まえて行われた実験だ。

 15ページもある長編で、実験も多い。慢性腎不全cohortをcross sectionalとprospectiveに調べ、in vitroでFGF23を心筋に振りかけて調べ、FGF23がどの受容体や細胞内シグナルを用いるか調べ、in vivoでマウスにFGF23を注射して、さらにFGF23が高レベルなマウス(kl/kl)や慢性腎不全モデル(5/6腎摘ラット)を用いた。

 分かったことは多い。FGF23がFGF2と同様に病的な心肥大を起こすこと。それはFGF受容体を介すること。従来知られていた、FGF23のリンやビタミンDに関する作用に必要なKlotho co-receptorに依存しないこと。細胞内シグナルは、FGF2が用いるMAPKではなくcalcineurin-NFATであること、など。

 この実験から日常臨床に翻って言えることは、腎臓内科医は患者さんのリンをメチャメチャ本気で下げなければならないということだ。高リン血症が慢性腎不全患者における心疾患および死亡のリスク因子であることはずっと前から知られていたし、KDOQI guidelineもリンの上限を5.5mg/dlに推奨している(AJKD 1998, 31, 607-17などが典拠になっている)。高リン血症を放置するとFGF23濃度が上がってしまう。