2012/12/28

HLA match & mismatch

 HLAマッチとミスマッチは混乱しやすい概念だ。HLA抗原のなかでも腎移植で問題になるのはA、B、DR座だ(他も問題になるという話もあるが、一般的にはこの三座)。それぞれの座には父由来、母由来の抗原があるから(片親由来のA、B、DR抗原セットをhaplotypeと呼ぶ)、3x2で六つの抗原がある。たとえばこのように表示される。

          A   B   DR
Recipient    3,5  8,44  2,14
Donor           3,5  8,44  2,16

 これはマッチで言うと5/6 match、ミスマッチで言うと1 mismatch。ミスマッチで問題になるのはレシピエントにないドナー抗原(ここではDR16)なので、単にその抗原数を書くのみで分数表記にならない。

          A   B   DR
Recipient    3,5  8,44  2,14
Donor           3,5  8,8   2,16

 これはマッチで言うと4/6 matchだが(B8とB44、DR14とDR16はマッチしていない)、ミスマッチで言うと1 mismatch(ドナーのB8抗原はレシピエントにあるのでミスマッチにならない)。

          A   B   DR
Recipient    3,5  8,44  2,14
Donor           3,5  8,44   2,2

 これはマッチで言うと5/6 match、ミスマッチで言うと0 mismatch(ドナーのDR2抗原はレシピエントにもあるのでミスマッチにならない)。実際に移植で問題になるのはmatchよりもmismatch抗原数だ。これが多ければレシピエントがDSA(donor-specific antigen)を作りやすい。逆に0 mismatchは腎予後がよいとされ、同じOPO(organ procurement organization)管轄域内でcold ischemia timeが短いならその組み合わせのレシピエントは優遇される。
 DSAがあると何がよくないのか?graft survivalに悪影響をもたらすindependent risk factorなことを示した論文が最近出た(JASN 2012 23 2061)。まあそれは皆うすうす知っていた。だが現行では、移植腎生検でC4d陽性、AMR(antibody-mediated rejection)の組織学的エビデンスがなければDSAだけでは治療しない。というかよい治療法もない。

2012/12/27

AME

 血圧コントロールがある時から難しくなった、と言われたら問診で探偵作業が始まる。まず薬の変化(NSAIDsなど)、食生活の変化(食塩など)、腎機能の変化(浮腫、診察なら血管雑音など)等を聞く。それで患者さんが「Licoriceを食べています」と言ったら疑うのがAME(Apparent Mineralocorticoid Excess)症候群に似た病態だ。
 Mineralocorticoid receptorは糖質コルチコイドにも鉱質コルチコイドにも結合するが、腎臓では糖質コルチコイドが(11-β-HSD2により)すばやく不活化されるので事実上は鉱質コルチコイドしか結合しない。しかし、先天的に11-β-HSD2欠損があれば糖質コルチコイドが鉱質コルチコイドのように腎臓で働いてしまい、Apparent Mineralocorticoid Excess状態になる。
 Licorice摂取でも似たようなことが起こる。Glycyrrhetinic acidという成分が11-β-HSD2を阻害するからだ。生化学的には24時間蓄尿による尿中cortisolとcortison(不活化された代謝産物)の比で診断する。正常はcortisol/cortison比が0.3-0.5だが、AMEやlicoriceでは比が高くなる。実際は病歴で十分、licoriceを中止して様子をみる。

2012/12/26

PRIS

 うちの腎臓内科は毎月麻酔科インターンがローテートして、SICUのAKIなどを中心に様々な病態を学んでいく。そんな彼らがRenal Grand Roundで発表するのはたいてい麻酔科と腎臓内科のボーダー領域で、いままで何人もがPRIS(propofol infusion syndrome)の話をしてきたが、こないだのが一番よくまとまっていた。とはいえ私はたいてい発表者に参考文献(J Intensive Care Med 2011 26 59)を聞いて裏を取る。
 Propofol、あるいは2,6-diisopropylphenolは、ベンゼン環が胴体、OH基が頭、二つのイソプロ基が腕のように見える。PropofolはGABA受容体を刺激したりNMDA受容体を阻害したりして鎮静する。PRISは、飢餓やcritically illな患者さんにおいて主要なエネルギー源となる脂質代謝による細胞内エネルギー産生をPropofolが阻害して起こると考えられている。
 現在考えられている二つの主要な機序の一つは、TCAに入るAcetyl-CoAを減らすこと。遊離脂肪酸はAcyl-CoAになりミトコンドリア外膜を通過し、Acyl-CoAがAcylcarnitineになりCarnitine-Acylcarnitine Translocaseによってミトコンドリア内膜を通過し、Acylcarnitineが再びAcyl-CoAになって、β酸化を経てAcetyl-CoAになってTCAに入る。PropofolはAcyl-CoAをAcylcarnitineに変換するCarnitine Palmitoyl Transferase Iを阻害する。
 もう一つの機序は、ミトコンドリア内膜で起こる酸化的リン酸化(respiratory chain)の阻害だ。酸化的リン酸化は爆発的なATP産生で生命維持を可能にするプロセスで、ここを阻害する薬は青酸とか劇薬が多い。PRISにおいてPropofolはなんと4つあるComplexのうちIIとIVを阻害する(青酸はCytochrome Cを阻害)。
 PRISは稀だが起こると重篤になりえる(症状は低血圧、徐脈、致死的不整脈、横紋筋融解、急性腎障害、代謝性AGアシドーシスなど多岐に及ぶ)から、ICUでAGが上昇し始めたら、数ある代謝性アシドーシスの原因のなかでもPRISを疑う必要がある。リスク因子は若年、高用量(4-5mg/kg/hr以上)、持続静注(48時間以上)、カテコラミン使用、ステロイド使用など。 

2012/12/21

SPK v. PALK

 一型糖尿病で膵腎同時移植(simultaneous pancreas kidney, SPK)を待つのと、living donorからの腎移植をしてから単独膵移植を待つ(pancreas after living donor kidney, PALK)のと、どちらがよいか。この問いに答えるために、それぞれのオプションを比較検討してみよう。
 SPKを選択したばあい、状態のよい膵を移植するため必然的に移植腎の状態もdeceased donor kidneyのなかではよいとされる。透析から離脱できると同時にインスリンが不要になる。移植膵の生存は、SPKのほうがPALKより優れている。というのも抗原性が高く拒絶を起こしやすいがその早期発見が難しい膵の代わりに、Crがsentinel markerになるからだ。
 一方、deceased donor由来なのでwaitlistに載って移植まで待たなければならない(待ち時間は州や施設により異なり、短ければ一年以内だが)。PALKを選択するのは、"a bird in the hand is worth two in the bush"という考え方、つまり来るか分からないSPKを待つより確実にいる適合living donorから腎だけでも移植しようということだ。
 10年近く前の文献ではSPKとliving donor kidney transplant(LDKT)はpatient survivalもgraft survivalも変わらないとされていたが、2年前にやはりUNOS/SRTRを分析したら、patient survivalも(腎)graft survivalもPALK、LDKT、SPKの順であった(Tarnsplantation 2010 89 1496)。膵についてはそれまで通りSPK、PALKの順。
 これをどう実際に援用するかはケースバイケースだ。一日も早く透析から離脱したいという考えもあろう。SPKでインスリンからも離脱したいという考えもあろう。SPKを選択し、10年かそこらたって腎機能が(CNI toxicityか何かで)悪化したらその時living donorに二度目の腎移植をお願いするという考えもあろう(ことに患者さんが若ければ)。

2012/12/19

DGF

 DGF(Delayed Graft Function)とは、移植後一週間以内に(どんな理由であれ一度でも)透析を要した場合を言う。だから雑多な病態が混ざっているわけだが、たいていは術後に満足いく尿量とクリアランスが得られない移植腎の機能不全が背景にある。
 これをDelayedというのは「移植腎のもつ本来の機能は悪くないが、ただそれを発揮するのが遅れているだけ」と考えられたからだ。しかし、最近の研究でDGFはSCD(standard criteria donor)、ECD(extended criteria donor)を問わず拒絶反応とgraft lossの独立したリスク因子と考えられている(AJT 2011 11 2279より)。
 その機序はいろいろだが(やはりAJT 2011 11 2279より)、まあ虚血後再潅流障害がメインと考えられている。それで移植腎を守るためにDBD(donation after brain death)でDopaminを流したり(Heme Oxygenase-1を増やしてフリーラジカルを減らすため)、抗凝固剤を流したり(ヘパリンが通例だが、melagatranがよかったという報告も)する。
 ほかにも特別な潅流液を流したり、procurement後もポンプで潅流液で潅流を続けたりする。潅流液はUW液(University of Wisconsin)とHTK液(Histidine–Tryptophan–Ketoglutarate)が主流だが、比べたら長いCIT(cold ischemia time)例にはUW液のほうが優れていた。アデノシン(ATP補充)を多く含むためと考えられている。

2012/12/16

Analgesic nephropathy

 NSAIDsによる腎障害といえば主にCOX阻害剤(ibuprofenとその仲間)が急性に起こすネフロンレベルの虚血(prostaglandinが減って輸入再動脈が絞まる)を考えていた。しかし慢性使用による尿細管障害と腎乳頭壊死、さらにに使用が世界的に禁止された(日本は2003年)phenacetinによる腎泌尿器腫瘍について聞き、関連論文(NEJM 1998 338 446)を読んだ。
 ただこの論文、CT所見や疫学研究などをよくレビューしているが、最近は余り引用されていない(論文筆者自身が似たような論文を出しているが…、JASN 2009 20 2098)。いまの職場でも余り聞かない。まあ、CTなり超音波なりで腎乳頭石灰化が見られたらNSAIDsの病歴をより詳しく取ることにはしよう。

Fanconi syndrome

 1g/d(Up/Ucr 1)程度の蛋白尿を”tubular-range proteinuria”などと言い、腎からの喪失による低K血症、低P血症、AG正常アシドーシス、低尿酸血症、そして尿糖などFanconi featureが(全てででなくてもいくつか)を併発していたらFanconi syndromeを疑う。
 先天性のFanconi症候群もあるが、成人腎臓内科が臨床上出会うのは後天性のほうが多い。少なくとも知っておくべき後天性Fanconiの原因は骨髄腫などplasma cell dyscrasiaによるlight-chain deposition disease、それに薬剤性だ。
 薬剤性Fanconiのリストは、長い(AJKD 2003 41 292)。有名なのはifosfamide、cisplatin、carboplatin、streptozocinなどの抗悪性腫瘍剤だが、tetracyclines、aminoglycosidesなどの抗生剤、valproic acid、ddI、tenofovir、cidofovir、防已黄耆湯(ぼういおうぎとう)なども。
 なお本症候群は1903年にAbderhalden 、1924年にLignacが症例を報告している。ただスイスの小児科医Guido Fanconiは1936年にこれらの症例をnephrotic-glucosuric dwarfism with hypophosphatemic ricketsと名づけ発表し、病態に少し迫った。

2012/12/13

Furosemide v. HCTZ

 腎機能が低下するとHCTZの降圧・利尿作用は下がり、furosemideが推奨される。このfactoid(事実のように言われていること)は批判されることなく日常臨床で応用されているが、「本当にそうかな?」と調べた人達がフランスにいる(NDT 2005 20 349)。
 このGFRが16-41ml/minの7人を対象にしたスタディでは、furosemide、HCTZ、併用で降圧効果に有意差がみられなかった。しかし利尿作用はfurosemideのほうがHCTZより優れ、併用はさらに効果的だった(HCTZが遠位尿細管による代償的なNa再吸収をブロックするから)。
 このスタディはKDIGOガイドライン(KI supplement 2012 5 337)にも引用され、CKD患者でもHCTZによる降圧作用は保たれ(おそらく利尿のみならず血管拡張効果があるのだろう)、しかしCKD進行による浮腫を除くにはfurosemideのほうが優れているというよに書かれている。

Myeloma

 大学にいると、他科から第一人者を招いてボーダー領域について議論し学べるのがよい。こないだは腫瘍・血液内科からMyelomaと腎についてレクチャがあった。この分野(plasma cell dyscrasia)は範囲が広く、こないだもACKD(Advances in Chronic Kidney Disease、AJKDの姉妹版で隔月発行)が一冊丸々これを特集したほどだ。
 だから部分的に学んだことを書くが、Myelomaにも悪性の程度があって、とくにcancer stem cellというの(CD138陰性)が性質が悪い。こうなると骨髄のstroma(によるRANKLをはじめとする増殖サポート)に依存しなくてもどこでも出かけていって増殖するし、化学療法にも反応が悪い(Cancer Res 2008 68 190)。
 予後因子もさまざまあるが、新しいのはcytogeneticsとPETだった。PETは、医学部で習うwhole skeleton survey(単純X線)では見えない病変もピカピカライトアップして映し出す(Blood 2009 114 2068)。PETで早期発見しTotal Treatment 3(tandem transplantと、bortezomibもthalidomideも使えるものは全部行くケモ)で治療すると予後がとてもよい。もしかしたら治癒例もあるかもしれない(Leukemia doi:10.1038/leu.2012.160)。

2012/12/05

非HLA抗原

 非HLA抗原に対する抗体の免疫学、臨床的意義はいずれもやっと研究が始まったエリアだ。その中でもっとも知られている抗原はMICA(MHC Class I-related chain A)、これは主に血管内皮細胞に表出する抗原で、抗MICA抗体はvascular rejectionを起こす。
 抗MICA抗体は独立したgraft lossのリスク因子であることが示された(NEJM 2007 357 1293)。しかし、抗体があるだけでは治療は変わらない。腎生検でperitubular capillaryでのC4dが陽性ならば抗MICA抗体がAMR(抗体を介した拒絶反応)で腎を障害しているかもしれない。