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2021/03/08

ACE阻害薬・ARB中止の是非 後編2

3. 結果

 まず、2007年から2017年までに腎レジストリに登録された患者は30180人。そのうち、eGFRが30ml/min/1.73m2未満になるT0時点とその前(2年間の80%日数以上)ACEI/ARBが処方されていたのは10254人。なお18歳未満・移植後・データ不備がある患者などは除外している。

 そのうち、ACEI/ARBを中止されたのは1311人、継続していたのは8484人だった(足して10254人にならないのは、T0から6ヵ月後時点のため)。中止群が圧倒的に少ないのは、中止後ACEI/ARBが再開されていた患者(57%にのぼる)を除外しているからであろう。

 このコホートについてウェイティングし、中止群は9820.1人、継続群は9772.4人となった。

 「患者」は平均約72歳、女性4割、血圧約138/75mmHg(スウェーデンはフランスと同じく人種の統計がない)。既往は高血圧9割、心筋梗塞2割、心不全3割、PAD1割、糖尿病5割、COPD2割、がん1割であった。内服はβブロッカー7割、CCB6割、利尿薬8割、スタチン6割、抗血小板薬4割。

 両群間に有意差はなかった。というか、そのように調整した。

 次にアウトカムであるが、5年間絶対リスクは総死亡・MACEは中止群で有意に高かった。しかし、前編の米国スタディと異なり腎代替療法(KRT)は継続群で有意に高かった。


    中止群 継続群
 総死亡 54.5% 40.9%
 差   13.6%(7-20*)
 MACE 59.5% 47.6%
 差   11.9%(5.7-18*)
 KRT  27.9% 36.1%
 差   -8.3%(-12から-3.6*)
 *95%信頼区間


 総死亡とMACEは中断群と継続群の差が時間と共に開いていくグラフが得られた。いっぽう、KRTは最初中断群のリスクがわずかに高く、3年くらいして中断群が頭打ちとなり継続群の直線的なラインとクロスしていた。


JASN 2021 32 424 図2を元に作成


 また、総死亡・MACEの5年間RMSTは中断群で有意に短く、KRTは中断群で数字上長いが有意差はなかった(単位は、月)。


    中止群 継続群
 総死亡 44.3 47.9
 差   -3.6(-5.4から-1.8*)
 MACE 41.4 44.7
 差   -3.3(-5.3から-1.4*)
 KRT  48.9 48.1
 差   0.8(-0.8から2.5*)
 *95%信頼区間

 
 eGFRが20-30、20ml/min/1.73m2未満のサブコホートについての解析でも「総死亡とMACEは中断群で高く、KRTは中断群で有意に低い」という結論に変わりなかった。

 また年齢性別・既往・カリウム値・蛋白尿が交絡因子かどうかもAERI(absolute excess risk due to interaction)により検討されたが、カリウム値が5mEq/l未満か以上かがKRTリスクに影響していただけだった(ちなみに、血圧の影響は解析されていない)。


4. まとめと感想

①まとめ

 相関でしかないが、このスタディから導かれるのは「腎臓内科医が診れば、死亡とMACEのリスクを取ってACEI/ARBを中止すると腎代替療法を遅らせることができるかもしれない」だろう。

 腎臓内科外来にくる患者は「とにかく透析にはなりたくない」と初診されることが多い。そして医者側も、eGFRのカーブを図解して「透析になるまでの期間をできるだけ遅らせましょうね」と言うことが多い(筆者も、そう言っている)。

 その意味でこの結果は「腎臓内科医の仕事はした」という功績なのかもしれない。重曹・カリウム吸着薬・高用量のループ利尿薬・降圧薬・MRAなどの工夫なのか。あるいは、選択バイアスなのか。いまは推察するしかない。

 しかしその一方で、患者を死亡させたりMACEイベントに晒したりしているのなら、本末転倒である。

 腎臓内科外来にいると、いわゆる「消えたCKD患者パラドクス(CKD3-4期のうち、腎代替療法が必要になる患者はわずかで、大多数は心血管系イベントでその前に死亡しているという統計結果)」の実感がわきにくい。

 しかしこうした結果が出ている以上、安易にACEI/ARBは中止できない。する場合には患者に死亡・心血管系イベントのリスクを負うこと、透析を遅らせられる保証はないことを説明する必要があるだろう。あとは、STOP-ACEiスタディの結果を待ちたい。

 ②感想

 待ちたい・・と書いたものの、STOP-ACEiスタディが進行中にもかかわらずこうした大規模解析が複数の国で行われる理由、それは「待てない」からだと思われる(こちらも参照)。「ルーチンに中止しない」KDIGOガイドラインの推奨と実臨床とのギャップを埋めたいのであろう。その背景について2点から考えたい。

 1点目は医療の質である。「ACEI/ARB中断が医療の質を落としている」ということになると、QI(quality improvement)の進んだ国では医療政策に反映されるかもしれない。

 たとえば米国には「コア・メジャー」があり、たとえば肺炎なら「来院X時間以内に培養・治療開始」が全例に守られないと病院への保険償還が減額される(例外はそのように明記しなければならない)。

 こうした仕組みが多いのは入院診療であるが、いつかどこかのCKD外来で「ACEI/ARBが入っていますか(入っていないなら、その理由は何ですか)?」という問いが全例カルテに挿入されるようになるかもしれない。

 2点目はコストである。「安価でエビデンスもありガイドラインで第一選択」のACEI/ARBは今後、糖尿病におけるメトホルミンのような立ち位置になっていくだろう。ジェネリックになっていない薬との合剤が出る日も近い?かもしれない。




 
 CKD診療は新薬開発が進み、新規MRA・新規吸着薬(カリウムリンプロトン)・HIF-PH阻害薬SGLT2阻害薬バルドキソロンなどが参入してくるだろう。そんな中で、論文著者達は「(eGFRが30ml/min/1.73m2未満でも)まずはACEI/ARBを使いましょう」と言いたいのかなあ、と筆者は推察する。


 以上、2つの論文を考察した。お役に立てば幸いである。





2021/03/05

ACE阻害薬・ARB中止の是非 後編1

 スウェーデンのスタディ(JASN 2021 32 424)を、先に挙げた米国のスタディと比較しながら解説する。


こちらより引用


1. 患者


 腎臓内科に通院するCKD3-5期患者を登録した(4-5期は基本的に義務)スウェーデン腎レジストリが対象である。米国のスタディと異なり、今回は全例が腎臓内科の診察を受けている(といっても、かかりつけ医制度のためか受診は年2-3回だそうだが)。

 レジストリは患者情報や腎臓内科受診時のデータを収集するだけでなく、個人番号により処方薬や死亡のリジストリと連結されている。レジストリは国営で、国外に出ない限りフォローアップが途絶えることはまずないという。

 研究グループはこのデータを利用して、eGFRが30ml/min/1.73m2未満になった時点(このスタディはこちらがT0)から6ヶ月以内に「ACEI/ARBを中止され、以後観察期間中ずっと再開されなかった患者」と「ACEI/ARBが継続され、以後観察期間中ずっと中止されなかった患者」の比較を試みた。

 アウトカムは、5年間の死亡率・MACE(今回は死亡・心筋梗塞・脳血管障害)・腎代替療法(腎移植・維持透析)である。では早速結果を・・・と言いたいところであるが、今回は研究グループが生データに対して細工を行っている。


 そこで、まずそれを説明する。


2. ターゲット・トライアル・エミュレーション(以下、TTEと略す)

 
 TTEとは、仮定したランダム化試験に観察データに似せることで、交絡因子やバイアスの影響を減らし結果や因果関係の信頼度を高める方法である。ここでは簡単に、本スタディが患者選択時とアウトカム計測時に行った工夫を紹介する。


①患者選択時


(JASN 2021 32 424 図S1より)


 まずクローニングでは、データセットを複製して2つ作る(図の上段・下段)。そして、上段セットから「T0から6ヶ月以内にACEI/ARBを中止された患者」を選び、下段セットから「フォロー期間中ずっとACEI/ARBを継続していた患者」を選ぶことにする。

 そのため、1ヶ月ごとにセンサリング(censoring)を行い、上段患者から「中止が6ヶ月以内の中止でない患者」と「中止後に再開された患者」、下段患者からは「継続後に中止された患者」を除外する。

 これによりクロスオーバーは排除できるが、人工的な除外による選択バイアスの可能性が残る。そこで最後にインヴァース・プロバビリティ・ウェイティング(Inverse Probability Weighting、IPW)を行う。

 IPWとは、交絡因子の影響が大きそうな患者のウェイトを減らし、小さそうな患者のウェイトを増やすことで、影響の排除を試みる方法である。

 このスタディでは、「中止群から誤って除外される可能性」と「継続群から誤って除外される可能性」についてモデル係数(時間により変動する要素、年齢、性別、既往、血圧、薬、登録年、入院歴など)を40あまり設定し、両段の全患者にウェイトづけをおこなった。

 これにより患者1人は0.05人とも34人ともカウントされる(99.5パーセンタイル以上の外れ値は切り捨てるが)。なお、こうしたウェイトの総和はもはや患者総数とは全く異なるため、シュード・ポピュレーションと呼ばれる。


②アウトカム計測時


 「ウェイトづけされプールされたロジスティック回帰(weighted pooled logistic regression)」を行った。本気で知りたい方には別の学習手段をお勧めするが、①と同様に結果に与える交絡因子の影響を排除している。重みづけされるので、やはり1つのアウトカムイベントが0.1にも50にもなる。

 ともかく、これにより5年間の絶対リスクが得られ、それを元に「境界内平均生存期間(restricted mean survival time、RMST)」を計算している。「境界」とはこの場合5年間に限るということで、ざっくり言うと生存曲線カーブの面積を積分して得られる値である。
 

例:10年RMSTは左7.54年、右7.94年
(差の95%信頼区間は0.12-0.67で有意)
こちらより引用


 ビッグデータ全盛の昨今、TTE・IPW・RMSTといった概念を目にする機会はこれからどんどん増えると思われる。「プラグマティック・トライアル」ですら理解のあやしい筆者だが、時代に乗り遅れないよう勉強せねばと痛感する(いまの医学部学生は、ここまで習うのだろうか?)。


 「3. 結果」と「4. まとめ」に続く。




2021/03/03

ACE阻害薬・ARB中止の是非 前編

 70歳女性。うっ血性心不全・ステージ3CKDの既往ありARBを内服していたが、ある日の外来でeGFRが29ml/min/1.73m2に低下。




Q. どうしますか?


 KDIGOガイドラインはGFRが60ml/min/1.73m2未満で「AKIリスクをあげる重症の併発疾患をもつ患者」にACE阻害薬・ARB(以下ACEI/ARB)の中断を示唆する一方、「GFRが30ml/min/1.73m2未満の患者でルーチンに中止しない」よう強調している。

 しかし実際はそうもいかず、AKI後に中止してしまう害(そのまま再開できなくなることも多い)、CKD進行時に「透析依存までの時間を稼ぐため」に中止することの害(eGFRは一瞬あがるが、心・腎保護作用はなくなってしまう)が問題視されてきた。

 これについて、現在RCTのSTOP-ACEiスタディ(ISRCTN62869767、NDT 2016 31 255)が進行中である。しかしその前に2本の大規模な観察研究結果が発表されたため、それぞれ紹介したい。まずは昨年発表された米国の報告(JAMA Intern Med 2020 180 718)から。


1.スタディ・患者


 研究はペンシルベニア州にあるガイジンガー・ヘルス・システムの患者データを用いた。2004年から2018年までに162654人にACEI/ARBが開始されていたが、そのうち開始後(内服中)にeGFRが30ml/min/1.73m2未満に低下したのは5408人。

 さらに、eGFR低下から6ヶ月後(T0)までに中止かつ再開された例、カリウム値や血圧のデータがない例、T0までに末期腎不全に至るか死亡した例などを除く、3909例(T0までに中断された1235例と、継続した2674例)が観察対象となった。

 患者は両群とも平均年齢は約73歳、6割が女性、2%が黒人。受診頻度や腎臓内科への紹介率に有意差はなかった。

 平均eGFRは約23ml/min/1.73m2、eGFR低下直前の収縮期血圧は約125mmHgだった。4割に冠動脈疾患、3割にうっ血性心不全、5割に糖尿病、2割に脳梗塞の既往があり、約半数が抗血小板薬・スタチン・βブロッカーを内服していた。


2.アウトカム


 プライマリ・アウトカムはT0から5年間の死亡率、セカンダリ・アウトカムは同期間のMACE(死亡、心筋梗塞、PCI、CABG;心不全と脳梗塞は含まない)と末期腎不全だった。実際の平均観察期間はプライマリについて2.9年。また、AKIと高カリウム血症(5.5mEq/l以上)についても調査された。


3.結果


 死亡・MACEは中断群で高かった(下表、*はプロペンシティー・マッチング後のハザード比と95%信頼区間)。脳梗塞・糖尿病・うっ血性心不全・冠動脈疾患の有無による相関はなかった。中断群の28%でT0以降にACEI/ARBが再開されていたにもかかわらず、である。


        中断群 継続群
 死亡 35.1% 29.4% 
       1.39(1.20-1.60)*
 MACE 40% 34%
       1.37(1.20-1.56)*


 それに対して、末期腎不全には有意差がなかった。糖尿病の有無で結果に差があり、糖尿病患者では中断群の末期腎不全リスクが高かった(ハザード比1.56)。非糖尿病患者では0.61(信頼区間は表示がなく、糖尿病患者との有意差はp=0.01)。


       中断群 継続群
 末期腎不全 7% 6.6%
        1.19(0.86-1.65)*

 
 また、5.5mEq/l以上の高カリウム血症は継続群で有意に高かったが(22.2% v. 15.6%、ハザード比0.65、95%信頼区間0.54-0.79)、病名コード上のAKIには有意差がなかった(中断群の27.8%・継続群の30.1%、ハザード比0.92、95%信頼区間0.79-1.07)。


4. まとめと感想


 あくまで相関ながら、結果からは「死亡・心臓病のリスクを負ってACEI/ARBを中止したところで、透析を遅らせることにはならない(ただし、高カリウム血症にはなりにくい)」の一文が示唆される。

 「eGFRがとても低い群はちがう結果では」「AKIで中止したあと再開されなかった患者をみているだけでは」といった仮説についても感度分析が行われ、以下のような条件で解析しても結果はかわらなかった。


・Fine-Grayモデル(競合死亡リスクの影響を排除するしくみ)
・T0時点でACEI/ARBを6ヶ月以上内服していた群に限る
・eGFR低下時に低血圧や高カリウム血症のあった患者を除く
・AKIがステージ2以上の患者を除く
・がん患者を除く
・eGFRが20ml/min/1.73m2未満に低下した群に限る


 しかし後ろ向き観察研究である。「なぜACEI/ARBが中止されたのか」がまずわからない。さらに、「フォロー中に他の薬はどのように変更されたか(利尿薬・MRA・カリウム吸着薬・重曹など)」、「フォロー中に両群間の血圧はどうだったか」、「どれくらいの患者がいつごろ腎臓内科に紹介されたか」なども、わからない。

 こうした点はアウトカムに影響するし、次に述べるスウェーデンのスタディ結果との比較においても大事になってくる。つづく。



(米国メイン州、スウェーデン)



 

2019/05/30

慢性腎不全に対する高血圧治療 (ACE-I、ARBは使用すべきなのか?)

 今回は降圧薬について少し具体的にふれていく。

・ACE-I /ARB

 この薬に関してはCKD患者の高血圧治療において主力の薬である。

 既知のようにACE-IはAngiotensin Ⅰ→Angiotensin Ⅱへの変換を阻害し、ARBはAngiotensin Ⅱ受容体阻害としてはたらく。Angiotensin Ⅱは血管収縮作用がある。

 最終的にはAldosteron分泌を減らし末梢血管抵抗の減少をもたらし、収縮期血圧低下に効果がある。

 また、腎臓にとってAngiotensin Ⅱの阻害が糸球体輸出細動脈の拡張をもたらし糸球体内圧を低下させ、腎臓に保護的に働いている。

 これらの薬は、

 ・蛋白尿を伴うCKD患者(AJKD 2007)
 ・HFrEF(Heart Failure with reduction Ejection Fraction)、急性心筋梗塞患者(NEJM 2003)

 に対して確立している治療であり重要な薬となっている。

 腎臓の話題を中心に進めるが、下記のことは疑問に多く生じるのではないか。

 ・最新の状況としてはどのくらい推奨されているか?
 ・ACE-IとARBの両者を一緒に使うのはどうなのか?
 ・末期腎不全の患者には使用していいのか?
 ・最新の状況としてどれくらい推奨されているのか?

 JNC8(Joint National Committee 8):腎予後改善の点で全てのCKD患者における高血圧治療で第一選択、もしくは第二選択以降の追加薬剤としてACE-IやARBの使用を推奨(JAMA 2014)。

 AHA/ACC(American Heart Association and American College of Cardiology):CKD stage3以降、もしくはCKD stage Ⅰ・Ⅱでアルブミン尿が300mg/day以上 or 300mg/g Cre以上の場合には使用が推奨されている(JACC 2018:下図)。


JACC 2018より引用


 両者の適応でCKD stageⅠ、Ⅱの時の蛋白尿の部分での推奨の違いがあるが、これはエビデンスが様々あり、不確実な部分も多いため異なっている。

 ・ACE-IとARBの両者を一緒に使うのはどうなのか?

 一時期これは話題になったが、現在は高血圧治療においての推奨はされていない。この根拠としては、Veterans Affairs Nephropathy in Diabetes Trial(NEJM 2014)の結果がある。この研究では糖尿病性腎症患者に対しての両薬剤の併用により副作用リスク(高カリウム血症、AKI)の増加が認められ早期に中断された。ここに関しては、今後の研究も待たれるところである。

・末期腎不全の患者には使用していいのか?

 末期腎不全患者に対するACE-IやARBの投与はメタアナリシスの結果で、左心室の拡張を減少させたことが示されている。しかし、統計学的に心血管・非心血管死亡を明確に減らしたということは言えてはない(CJASN 2010)。

 血液透析患者に対して薬剤の使用をする際に、ACE-Iは透析で抜ける薬が多いことは知っておく必要があり、透析後に内服・週3回内服で中等度高血圧の改善に寄与している報告も多い。コンプライアンスの点で、ACE-Iを透析が終了し医療従事者が目の前で見ているときに内服をするというのも一つの選択肢ではある。下図はNKF Guideleineの表。ARBと比較してACE-Iの透析性を理解することができる。


NKF Guidelineより引用

 
 今回はACE-I/ARBに関してお話しした。

 次回以降に他の降圧薬についても触れていってみる。続く。


2018/11/30

ACE inhibitorが癌の増加に寄与??

 高血圧患者の割合は多く、高血圧に対して降圧薬の内服をしている人も非常に多い。

 また、高血圧の基準に関しては近年変遷が大きい。これに関しては以前に書いている。

 日本でも2019年度に高血圧治療ガイドラインも刊行が予定されている。

 高血圧の基準値に関しては、現在、ACC(米国心臓協会)の高血圧ガイドラインでは、130/80mmHgに引き下げられている。

 本邦では現時点では、高血圧基準を140/90mmHgとし合併症がない75歳未満の降圧目標を130/80mmHg未満に引き下げる方向となっている。これは、最新の本邦のガイドラインが刊行されてみないとわからない。

 その降圧目標を達成するために、降圧薬もいろいろな種類が使用されている。

 下図はNDB(レセプト情報・特定健診等情報データベース)のデータである。




 割合としては、ARBが多いが、タナトリルやレニベースなどのACE阻害薬(ACE-I)も処方としては多い。

 今回は、このACE-Iが癌の増加に寄与しているのでは?という報告があったのでみてみよう。

 この報告の前までは、メタアナリシスではARBの使用やACE-Iの使用で全般的な癌関連死の増加との関連はないことが示されていた(LANCET oncol 2011)。

 今回の報告は、英国の100万人近いデータのコホート研究でACE-IかARB使用で、癌、特に肺癌との関連はどうなのか?というのを見ている(BMJ 2018)。

 細かい部分は論文を読んでいただきたいが、結論としてはACE-Iでは肺癌の発生率が増加し、また内服期間が延長すればするほど肺癌の発生率が上昇するといったものであった。

 これだけ聞いてしまうと、ACE-Iは肺癌の可能性が上がるから使用しない方がいいのか?と思ってしまう。

 この論文に関しては、早速Rapid responseが寄せられており、ACE-Iの肺癌リスクは少ないと言っている。もちろん肺癌の最大リスクは喫煙である。

 この報告で注意すべきこととしては、交絡や発見バイアスなどが含まれていることである。この場合の発見バイアスは

ACE-Iの使用 → 副作用の咳嗽 → 咳嗽の検査のために肺のレントゲン検査 →肺癌の発見率上昇

 が考えられる。

 この結果は、もちろん交絡因子の除外やバイアスの除外の点などからも前向き研究での検討が待たれる。

 ACE-IはARBに比してコストパフォーマンスはいい。コストの面、リスクの面色々な面を見て患者に適応していければいいと思う。

 
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2018/05/30

いつも悩むタンパク尿について・・・1

 今日はタンパク尿について話そうと思う。

 診療していて悩むのは、

 ①糖尿病性腎症末期のタンパク尿が減らない。。どうしよう。
 ②activeな腎炎がない時にこのタンパク尿を放置していいのか?放置した場合になにか悪いのか?

 などを悩むことが多い。。

 そもそもタンパク尿の程度は直接的な糸球体内圧の変化によって変動すると言われている。なので、我々としては糸球体内圧を減らす治療→タンパク尿の減少につながると考えて治療を行なっている。

 ①に関しては、糖尿病患者に対するタンパク尿の軽減がどこまでの有効性をもたらすかは不明確な部分が多かった。

 1994年の論文では、1型糖尿病の研究であるが、ネフローゼレベルのタンパク尿が出ている症例に対して、タンパク尿を抑えた群は、腎機能悪化の予防と良好な血圧コントロールに繋がったことを示した。

 その後にIDNtrialRENAAL trialのpotshot analysisなどでもタンパク尿の減少→腎予後の改善に繋がっていることを示している。

 では、タンパク尿を減らすために我々ができることは下記の方法がある。

 ①ACE-I や ARB単剤の使用
 ②ACE-I+ARBの使用
 ③ARB+直接レニン阻害薬の使用
 ④選択的ミネラルコルチコイド拮抗薬の使用
 ⑤他の降圧薬の併用療法
 ⑥塩分コントロール
 (+αでペントキシフィリンなど)

 ①に関しては、下図に示すようにACE-IやARBの使用がタンパク尿の軽減に寄与することが示されている。



 また、先に述べたIDN trial(irbesartan:アバプロ)やRENAAL  trial(losartan:ニューロタン)でも示されている。

 ②に関しては、知っておくべきtrialはVA NEPHRON-D studyONTARGET trialである。
結論だけに割愛するが、両方とも併用療法を行い、腎不全や死亡率の点で単剤治療と差は認めなかったが、急性腎不全、低血圧や高カリウム血症の割合は併用療法で増加したことがわかっている。

 併用療法は推奨度は低いと考える。

③ARB+直接レニン阻害薬(ラジレス)である。

 これに関してはAVOID trialで有効性が示されている。ラジレス+ニューロタンの使用で20%以上タンパク尿を低下させた。その際に合併症なども見られることがなかったという。

 しかし、その後のALTITUDE trialで腎機能の保持には働かず、また合併症が優位に多かったという報告がされている。

 なので、これも現時点では推奨度は低い。

 ④選択的ミネラルコルチコイド拮抗薬(セララ)の使用に関しては、長期データに関してはないものの単剤でもタンパク尿を減らしたというデータもあり、またACE-IやARBと併用することでタンパク尿を減らし、腎保護に働かせたというデータも散見されている。
腎機能がある程度維持されているケースに用いているので、高カリウム血症や腎機能が低下した例では注意をする必要がある。

 これに関しては、ケースを選べば推奨度は中等度。

 ⑤他の降圧薬との併用療法では、非ジヒドロピリジン形カルシウム拮抗薬(diltiazem:ヘルベッサー、verapamil:ワソラン)は単剤使用でもタンパク尿の減少をもたらしたという報告もあり、併用でも同様な結果が下図のように示されている。




 色々な機序がいわれているが、マウスの研究では糸球体内圧の低下をもたらし改善させているといわれている。




 ジヒドロピリジン系のカルシウム拮抗薬(amlodipine:アムロジン、nefedipine:アダラートなど)はタンパク尿を増やしたという報告もあれば、変化させないという報告もある。

 推奨度は中等度。

 ⑥塩分制限に関しては、研究は少ないが4g/day未満に塩分摂取を抑えた場合にARBに夜タンパク尿低下作用がしっかりと出たという報告がある。4g/日というと厳しすぎるが、塩分制限が重要であるということは抑えておく必要がある。

 推奨度は中等度〜高度

 今回振り返って見て、タンパク尿を減らすという意味で我々ができることはやはり少ないなと感じる。

 ただ、本当にタンパク尿低下→腎機能悪化予防なのか?ここを次回は少し触れたいないと思う。






2011/09/07

normotensive ischemic acute renal failure

 今度の先生は、気軽に良質の論文を紹介して臨床に応用するのが得意だ。こないだもNEJMのnormotensive ischemic acute renal failureについてのレビューを紹介してくれた(NEJM 2007, 357, 797-805)。これは「血圧が高い患者さんは、収縮期血圧が100-115mmHgに下がっただけでも腎が虚血になる」とか「急性腎不全がearly sepsisの兆候なこともあるから感染を見逃すな」とか賢明な知恵が書いてあるのみならず、分子や細胞レベルで急性尿細管障害を説明しており読んでいて「今見ている患者さんにはそんなことが起こっていたのか!」と勉強になった。

 たとえば、急性腎障害でcastをみるのは、尿細管障害によるNa再吸収障害(尿細管内のNa濃度上昇)がTamm-Horsfallタンパクの重合化を起こしこのタンパクがジェル状になるからだ、とか。腎虚血によるATP不足がbrush borderを喪失させたりNa-K ATPaseや細胞間基質を逆向きにしたりしてしまう(血管側にあるべきものを内腔側にしてしまう)とか。論文の図3では、虚血に伴う尿細管障害の一連のメカニズムが美しく描かれ目からうろこだった。ATNといっても、実際には単に尿細管が壊死を起こすだけではない。もっと多様な病態生理がそこにある。