2015/09/25

New Algorithm

 欧州三学会(集中治療、内分泌、腎臓内科)が昨年発表した低Na血症のガイドライン(それぞれが発表しているが腎臓内科はNDT 2014 29 S2 ii1)は、すでに和文誌でも詳細に取り上げられている(INTENSIVIST 2015 7 477)が、まだそれほど普及していない印象を受けるので、とりあげたい。そうなんだけど「ガイドラインをまとめる」というのは、ガイドライン自体がすでに「まとめられたもの」なので、うまくやらないと結局丸写しみたいになってしまって難しい。

 簡単には、このガイドラインでは新しいアルゴリズムが提唱されていて、そこでは大まかに①以前の体液量評価よりも尿浸透圧と尿Na濃度が前に来て、②重症・急性なら原因検索を待たずに治療(を考慮)というアクションが偽性や等張・高張浸透圧性低Na血症を除外したあとの最初に来ているという変化がある。

 尿浸透圧は水排泄能を見るよい指標だから(これなしに低Na血症を診るということはありえないように教わってきたので、「外注です」とか聞くとびっくりする)、これが前にでてきているのは理にかなっている。水排泄能はAVPと浸透圧物質摂取量(と腎機能)で規定されるので、尿浸透圧が低ければ(100mOsm/kg以下;この数字に根拠はないそうだが)、AVPがOFF(希釈して水を一生懸命排泄してもまだ余るほど水を摂取している)あるいは浸透圧物質がなくて水を排泄できず水が余る状態だ。

 ただ、尿生化学が先に来るからと言って、検査結果が出るまで指をくわえて待っているわけではない。腎臓内科コンサルトかなにかで、すでに尿検査結果がわかっている場合は別だが、そうでなければ結局検査を出す前に病歴聴取と診察で体液量をふくむ評価をすることに変わりはない。とはいえ体液量評価は難しいので、それを助けるために新しいアルゴリズムは腎臓の力を借りることにした。それが尿Na濃度だ。

 ここでは尿Na濃度のカットオフ値を30mEq/lとして、それより低ければ有効循環血液量が低下していると判断する。Würzburg大学(内分泌)のFenske先生がeuvolemic hyponatremiaとhypovolemic hyponatremiaの鑑別に20mEq/l、50mEq/lなどいろいろ実験して結局この値に落ち着いたらしい。有効循環血液量の低下は、心不全・肝不全・ネフローゼなどECFが拡張している場合もあるし、下痢嘔吐・敗血症性ショック・以前の利尿薬などECFが少ない場合もある。

 尿Na濃度が高ければ、まず腎のNa再吸収能が落ちていることによる原因(利尿薬、「腎臓病」←かなりアバウトだが)を除外する。そうでなければ①塩が捨てられECFが低下した病態(嘔吐←嘔吐初期には代謝性アルカローシスでろ過されてくるHCO3-を近位尿細管が再吸収しきれず、それに引きずられて尿Naも高くなる、renal / cerebral salt wasting;MRHEもここに入れていいかもしれない、一次性副腎不全→低アルドステロニズム、かくれた利尿薬使用)と、②ECFは正常にもかかわらず水排泄ができない病態(甲状腺機能低下症、二次性副腎不全→低コルチゾールによりACTHとAVPの抑制がされなくなる、SIAD←ADH過剰に似た稀な遺伝疾患も含めた総称)を考える。

 アルゴリズムというのは「頭のいい人たちがつくって、他の人たちが頭を使わなくてもいいようにしたもの」に感じられるので、個人的には自分の頭を使ってすべての患者情報と病態生理と鑑別診断をならべて総合的に判断したいなと思ってしまう。この論文でいえば、最初の病態生理の総論と一つ一つの原因の各論を読むのがやっぱりためになる(し、アルゴリズムではカバーされていないものも触れてある)。

 新しいアルゴリズムは尿生化学に重点を置いて、尿浸透圧ではAVPと溶質量を評価し(とくにAVPを中心においているのが正統的で)、尿Naで水過剰だけでなくNa喪失が従来よりもカバーされており(Na喪失の病態も結構多い…日本にとくに多いような気がする)、さらに有効循環血液量でECF低下と拡張の病態を統一的にしているのがすっきりしていると思う。アルゴリズムより、低浸透圧性低Na血症で尿浸透圧が100mOsm/kg以上のところから下流(そこまではお作法なので)を表か何かにまとめたら使いやすそうだ。



2015/09/24

SWPU

 腎臓を作ったら尿ができるわけで、それをどう排泄させるかは実際に腎臓を埋め込む時にも考えなければならない問題だ。いままで後腎組織から腎臓をつくっても尿が排泄できなくて水腎症になっていたそうだが、総排泄腔組織を移植してつくった腎臓+尿管+膀胱を、移植された側の尿管とつないだら(stepwise peristaltic ureter system;SWPU)、尿がちゃんと流れて腎臓も成長して機能したという論文(doi:10.1073/pnas.1507803112)がでて、これはビッグニュースで一般でも取り上げられている。ラットとブタでの実験で、今後ヒトiPS細胞で応用されるようになるかもしれない。

 私は手術のことはさっぱりわからないので、この論文の要であるSWPUが、どれくらい技術的に難しいのかが興味深い。それから、動物で成長させたヒト腎臓+尿管+膀胱(動物の細胞や変な感染症が混じらないように工夫したとして)をどうやって患者さんに移植するのかも興味深い。というかこの段階では尿路(またSWPUするのだろうか?腎移植のように最初はステントを入れたりするのだろうか)だけでなく腎血流も患者さんとグラフトでつなげなければならない(動物のおなかに移植していたときはレシピエント側から血管がやって来てグラフトを栄養していた;論文にはヒト由来の血管が新生するだろうと書かれている)。先をいろいろ考えさせさられる。



2015/09/17

悲しい話

 「AKIコンサルト」ということで見てみたらCr 8mg/dl、著明な高リン血症、アシドーシス、貧血、超音波で腎萎縮があって「これはCKDでしょう」ということが往々にしてある。残念ながら原因検索をしてもマネジメントが変わらない(移植が考慮される場合は別だが)ので、透析までの期間をできるだけのばすCKDのマネジメントをすることになる。腎臓病は最後の最後まで症状が出ないので、医療受診をしない人ではこういうことが起こる。しかし、医療受診をしていても、半年前のCrが高値、それから無介入で月日は流れて腎廃絶にいたり発見されるというような信じられないこともあって悲しい。




 [2018年11月追加]世界には、打ち捨てられて信じられないようなクレアチニン値でやってくる人々がいる。いずれも、筋肉量が多く、尿毒症でも食欲が落ちない若めの男性だ。アラブ首長国連邦の報告では20歳男性の61.3mg/dl(Hemodialysis International 2013 17 137)。米国では34歳男性の53.9mg/dl(Open Journal of Nephrology 2013 3 217)。小児科では米国の17歳男子(思春期の移行期だが)で、52mg/dlという報告がある(Case Reports in Pediatrics Volume 2015, Article ID 703960)。

 前者ふたつの論文は「クレアチニンじたいには毒性がない」を結論にしているが、個人的には後者の「ここまで至る前に発見して治療するチャンスはいくらでもあった」のほうが、患者さん思いな結論で賛成だ。なお、ここまでいかなくても、尿毒素がたまってくると皮膚から析出し、これをUremic frostという(写真はNEJM 2018 379 669、クレアチニンは20mg/dlだった)。
 


2015/09/16

Spurious Hypophosphatemia

 低Na血症も高K血症も血小板減少もそうだが、低P血症にも偽性があるらしい。知らなかった。Paraproteinemiaのときに稀に起こり、タンパクがリン測定をinterfereするらしい(AJKD 1997 30 571、Ann Int Med 1999 131 314、QJM 2012 105 693)。Paraproteinemiaがあってリンが著明に低いのに症状もなくPTH、Vitamin Dなども正常な(あと、尿糖などもなくFanconi症候群も否定的な)時にはこれを疑って、タンパクを除いた検体で測定するそうだ。



Think Aloud

 内服薬のうちで適応となる疾患が既往症にリストされていないものをorphan drug(孤児薬)と呼び、その場合は適応の疾患があるのか吟味するか、適応なく使われている(または副作用がでている)ようなら中止することがpatient safetyとpolypharmacy対策(と医療経済)の面から薦められている。
 たとえば前医からのお手紙でcarvedilol、spironolactone、digoxinが処方されているのに既往のリストに慢性心不全がないというのは不思議だが、まあたぶん書き忘れだろう。問診と診察したうえで、私なら心不全の病名をつけて孤児たちに親を見つけてあげる。で、これらの薬の組み合わせをみると、いろんなことが考えられる。
 まずEF低下の心不全が疑われ、そういう目で診療する必要がある。すると、EF低下の心不全が本当なら心腎症候群などで腎機能も低下している可能性が透けて見えてくる。そこにspironolactoneが入っていれば腎血流低下によりいつでも腎機能が低下したり高カリウム血症を起こしたりする可能性がある。
 なおMRA(mineralocorticoid antagonist;spironolactone、eplerenone)はEPHESUS、RALS、EMPHASIS-HFスタディなどで有効性が示されているそうだが、EPHESUSはMI後のスタディだしRALSとEMPHASIS-HFは基本的にACEI/ARBとの併用での有効性を示したスタディなようだし、EMPHASIS-HFはeGFRが30ml/min以下の症例を除外しているから、本当にこの症例で有効かつ安全なのかを考えなければならない。
 造影剤使用にあたっては予防が必要なことは言うまでもないし、digoxinが必要か(心不全治療における位置づけは下がっていると記憶しているが…また腎不全があれば血中濃度を治療域にとどめるのも難しくなるだろう)も考える。
 こういう、頭に思い浮かぶことを言語化するのをthink aloudというが、日本にはあまりない習慣かもしれない。ぜんぶ言い尽くすから正しいことも間違ったことも露わになって成長が促されるが、大変は大変だ。
 [2016年7月追加]MRAのキー論文、PATHWAY-2(Lancet 2015 386 2059)を最近知った。resistant hypertensionにはspironolactoneという慣習的に知られたことを、β遮断薬、α遮断薬と比較して示したものだ。


2015/09/15

Delta Delta

 AG開大代謝性アシドーシスではΔAG/ΔHCO3を調べてAG非開大代謝性アシドーシスや代謝アルカローシスが混在していないかを確認するが、そのカットオフは1だと習ってきた。

 それが、KSAPをやっていたらHAから電離したH+は細胞外液のHCO3-だけでなく細胞内外のいろんなものにバッファーされるので血中のA-の増加とHCO3-の減少は必ずしも1:1ではなく、ΔAG/ΔHCO3は純粋なAG開大代謝性アシドーシスで1-2くらいだという。

 Referenceは挙げられていたが(KI 2009 76 1239←H-H、BE、Stewart法を比較した難解な論文)該当箇所を見つけられなかった。

 他にも論文(JASN 2007 18 2429)を当たったが、まあ計算式はいろんな仮定に基づいているので現実は理論どおりではないということらしい。この論文は純粋なAG開大代謝性アシドーシスでのΔAG/ΔHCO3は0.8-1.2を目安にしろと言う。

 数字だけでなく病歴や身体所見や経過もみて総合的に判断することが大事なようだ。



2015/09/14

Do No Harm

 腎機能の低下した患者さんや透析患者さんに容量調整が必要だったり禁忌な薬剤が処方されないようにするにはどうしたらいいか考えさせられた。とくに禁忌の薬剤となると、処方する医師がそれを知っているかどうかというレベルの問題ではない。薬なんて無限にあるし(たとえばSNRIのduloxetineが透析患者さんに禁忌だとか知らなかった)。だからもちろん調べなきゃいけないんだけど、電子カルテでSTOPサインがでるとか、薬剤師さんの側のシステムで止めるとかそういうことも考えたほうがいいと思う。先月のCJASNには患者さんが自分で処方された薬の安全性を確認するアプリを試験的に始めた論文がでていた(CJASN 2015 10 1364)けど、それは最後のラインと言う感じがする。良いQI(quality improvement)の対象だと思う。


2015/09/11

Caution

 造影剤腎症の診断に尿生化学を使うことはわたしはほとんどなかったが、KSAP(今年から始まった米国腎臓内科専門医試験対策+CMEのオンライン問題集)で「造影剤腎症ではしばしばFENaが低い」と書いてあり、UpToDateにも書いてあった。造影剤後の腎障害でFENaが低いのを見て「輸液しなきゃ」という人たちがたくさんいて注意喚起しなければならないということなんだろうなと思った。