2018/09/08

腎臓の組織が膨化??

 今日のメインはこちら。一緒にブログ書いている友人から腎生検のレポートの組織結果レポートで腎組織が膨化している所見がしばしば返って来ることがある。とのこと。

 あまり自分では意識しておらず、これを機に調べて見た。

 通常の日本での生検は生検後に生理食塩水に浸したガーゼなどで包んで、病理検査室に持って行き、処理をしてもらうことが多い。

 膨化するとしたら、この生理食塩水が悪いのか?とおもったら、本邦で2015年に報告があった(Pathol Int 2015)。

 このグループでは、2匹の雄のラットの腎臓を使って研究している。

・一つは生理食塩水に浸した群
・もう一つは低張なソリタT3やソルデムT3に浸した群
である。

 10分と30分における所見の変化を見ている。ポイントとしては、電子顕微鏡での変化であるということである。光顕での変化は判断は難しい。

 結果としては下記のようになっている。










 生理食塩水に浸していた群で膨化の所見が認められている。

 もちろん人間の体に全ての適応ができるわけではないが、患者さんから同意を得て腎生検をした組織を僕らの管理の仕方で、missleaingするような形は避けるべきである。

 この論文を読んで、組織をとってすぐに病理室に持っていけない場合(30分以上かかる)などは低張液で浸すのがいいなと感じた。

 しかし、低張液の小さいボトルなどがあればいいのだが。。

 なければ、ブドウ糖と生食で混ぜて作るのもひとつかもしれない。




血尿と蛋白尿での鑑別(メモ程度)

 今日は簡単に、図が多い投稿なのでカンペ用にぜひ。

 僕もよく混同する腎疾患の鑑別についてであるが、腎炎を見た際には

 ・Nephrotic syndrome
 ・Nephritic syndrome

 を鑑別することが重要である。

 簡単には

 Nephroticは蛋白尿主体で血清アルブミン低下し浮腫をきたす。
 Nephriticは血尿主体で高血圧・腎機能障害の合併をきたす。

 下記にわかりやすい図を添付する。






 では、これらがわかった場合の鑑別は好発年齢なども重要となるが、パターンも非常に
重要である。




 このようにして考えると非常に腎炎の鑑別もしやすいのではないか?




2018/09/07

冠動脈と腎臓 透析では

 では、透析患者に話を移す。

 まずは、下の図は2010年頃の米国の透析患者の死因を表にしたものであるが、見ていただくと心疾患の関連死が非常に高いことがわかる。




 では、なぜこんなに多いのかについては、直接的に大きく関わるのは左室肥大である。
よく透析患者で心胸郭比を測定する場面を多く見ると思うが、心胸郭比管理は左室肥大管理で非常に重要である。

 では、なぜ左室肥大になるか?

 ・心筋の線維化や細血管の変化が生じることで生じると言われている。

 この原因となるものは、

 ・貧血、高PTH血症、RAA系の活性増加、FGF23の上昇、リン・カルシウムなどのMBD管理、高血圧、血管の石灰化、volume overloadなどが原因としてはあげられる。
 
 ・FGF23はLVHとの関連性に関しては2013年のNDTにも詳しく述べられており非常に重要な要素である。

 ・血圧に関しては、CLIMB studyDRIP studyで体重増加での血圧の上昇、体重減少での血圧低下が示されている2000年第後半の研究である。

 ・心筋の変化は剖検での症例(下図)からも腎臓が悪くなるに従い繊維化の増加、血管の数の減少、心筋細胞の割合が減少しているのがわかる。これは、臨床試験でPETを用いたものでも同様の結果が示されている。


Int J cardiologists 2014より


 透析患者の心臓では(一般的にもだが)、LVHがあること、EFの低下(収縮能の低下)が合併すると死亡リスクは非常に高くなることがわかっている(sem in dial 2003)。

 また、2013年のCJASNでもESRDの進行に伴う心機能の変化を見ており、透析患者ではEFの低下が認められる。


CJASN 2013より


 また、2014のJASNからもCKDのステージが進むにつれて心筋の変化は強くなることもわかっている。


JASN 2014より


 では、透析患者ではなぜこのように変化が起きやすいのか?

 一つのキーワードが"Myocardial Stunning"である。

 透析患者では除水をかける以前から心血管血流は低下していると言われ、透析中には心筋虚血が生じ、透析が終了して回復しても心筋壁運動の低下が持続している状態になると言われ、これが心筋の繊維化や心収縮能の低下につながると言われている。下図と論文は非常に秀逸である。


Rev cardiovasc 2011より 


 今回は、治療の話まではできていないが、僕たちができることはこのような現象をおこさいないためにどのようにするかが、透析患者の突然死(以前の投稿)にも直結するのではないかと思う。







2018/09/04

冠動脈疾患と腎臓 CKDでは

 今日は冠動脈と腎臓についての話題に触れる。

 慢性腎不全や末期腎不全に伴い心血管リスクが上昇することは以前から示されている(NEJM 2004)。

 CKDを持っているかどうか、糖尿病を持っているかどうかで末期腎不全への移行の割合、心血管死亡の割合も大きく異なる。


JASN 2005


USRDS 2005より


 上記のデータを見てもわかるように心血管疾患においてCKDは大きなリスクの要因となっている。

 では、なぜ多いのか?

 理由としては、Traditional riskとNon-Traditional risk に分けて考えるとわかりやすい。

 Traditionalなもの(CKDでない人でも起こしうるリスク)としては

 ・高血圧
 ・高脂血症
 ・年齢
 ・糖尿病合併

 などが挙げられる。

 Non-Traditionalなもの(腎臓が悪い人に起こりうるリスク)としては

 ・治療の影響(steroidなど)
 ・炎症
 ・酸化ストレス
 ・CKD-MBD
 ・心筋の変化
 ・高尿酸血症
 ・動脈石灰化
 ・体液過剰

 などが挙げられる。

 2010年に本邦から出された論文でCKDの進行とともに冠動脈の閉塞の割合が増加することが剖検症例から示された(AJKD 2010)。

 では、このNon-Traditional riskのもので炎症や酸化ストレスどうなのか?2004年のKIでCKDの進行とともに炎症や酸化ストレスを示すマーカーは上昇していることが示されており、やはり関連性はあると考えられている。

 また、CKDの進行とともに冠動脈の石灰化が進行することも様々な論文で示されている。

 炎症や酸化ストレスなどの様々な要素→石灰化の進行がおそらくは一つの要因ではないかと考えられている。ただ、どうして石灰化しやすいのか?などは色々な論文も出ているが、不明確な部分も多い。

 次回は、少し透析患者について触れていこうと思う。





2018/09/01

ナットクラッカー症候群(Nutcracker syndrome)

 ある日外来をしているときにこんな患者が来たとする。

 30歳の女性で、繰り返す肉眼的血尿のエピソードと左背部痛を認めている。特に体液過剰はなさそうである。検査ではGFRは正常で尿中蛋白定量・アルブミン定量でも正常範囲。レントゲンなどの画像所見でもはっきりしない。膀胱鏡で検査をすると左の尿管からの血液の流出がある。

 診断はなんだろうか?

 まず、左からのみということで腎炎で血尿を生じうるようなIgA腎症やTBM(Thin basement membrane)などは鑑別からは除外されてくる。

 年齢が高齢であれば、尿管癌などの悪性腫瘍の可能性は非常に高くはなるが、この症例は30歳であり可能性は低い。

 診断は、Nutcracker症候群(通称:くるみ割り症候群)である。

 まず、これについてであるが下の図がわかりやすい。


Annals of vascular surgery


 通常であれば、上腸間膜動脈(SMA)と腹部大動脈によって左腎静脈は挟まれないが、

 ①左腎静脈の圧迫が生じる
 ②左腎静脈圧の上昇をきたし、血尿や腰部痛の原因となる。
 ③男性では精巣静脈瘤、女性では骨盤血流鬱滞や月経困難症や性行時痛の原因となりうる。

 頻度は女性に多い。

 診断には

 ・カラードップラー
 ・CTやMRIでの静脈造影
 ・膀胱鏡で左尿管からの血尿の確認
 ・静脈造影

 などを行うが、まずは侵襲性の少ないものから大きなものにする必要がある。

 下記にCTでの画像を提示する。左腎静脈の拡張が確認できる。


Mayo 2010より


Mayo 2010より

これは、2017年度の論文でNutcracker症候群の診断の基準や管理がUpdateされましたよという論文からの診断アルゴリズムである。

 これも、重要なこととしては非侵襲的なものから詰めていくという形になっている。


Eur J Vasc 2017より

では、治療であるが経過を見ることがまずは多い。中等度の血尿や耐えられる症状であれば経過観察をする場合が多い。

 特に、18歳未満の子では基本的にはSMAの発達もしてきて、その過程で圧迫が解除される可能性があり経過を見ることが多い。また、側副血行路も発達し改善をする場合も多い。

 だが、外科的な適応になる場合もある。

 重度の血尿・腹痛や貧血などの重度な症状・腎機能障害・持続する起立性蛋白尿などは手術適応に考えられる。

 また、経過を見ていた場合でも18歳未満であれば2年間様子を見ても改善しない場合、それ以上の年齢では半年経過を見ても改善しない場合は手術適応になる。

 手術は開腹手術・腹腔鏡手術・ステント留置などがあるがここでは詳細は割愛する。

 とても、血尿診断では大事なのでマスターしよう。