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2019/11/15

Secondary IgA nephropathy (二次性IgA腎症) について少し考えてみる。

みなさんはSecondary IgA nephropathyをご存知であろうか?
恥ずかしながら、私はその概念をあまり理解していなかった。。でも、日本人にも多いIgA nephropathyなので、この知識を理解しておくことは非常に重要なので共有したいと思う。
以前に数個IgA nephropathyについては記事がある。

下記がIgA腎症の機序の図である。
Dove pressより引用


原発性とSecondary IgA nephropathyについては組織学的な違いはない
(最近のKI reportでもPrimaryとSecondaryでは、Gd-IgA1、IgG-IgA1複合体濃度の違いもなかった。)。

そのため、Secondaty IgA nephropathyは、疾患が生じた時に一緒に検査をして原発性IgA nephropathyが見つかるのではとも言われている。
しかし、特定の疾患に対しての報告も多く指摘されてきた。

関連性のある疾患として下表のようなものが指摘されている。


この中で多く報告されているのは、消化管・肝臓疾患、自己免疫疾患、IgA 血管炎である。

・疫学は、
肝移植の際に行われた腎生検データで9-25%のIgA 腎症の報告があった。
逆にIgA腎症患者の9%に肝硬変を有していたというフランスのデータが有る。

・何故起こるのか?
肝硬変患者では、IgAのクリアランス低下がIgA腎症の誘引の一つであると考えられている(下図が除去の図)。
一般的な除去に関しては、
1:循環IgAが肝小孔を通って類洞に到達し、ディッセ腔にいく
2:IgAがASGP-R(asialoglycoprotein-receptor)にくっつく
3:くっついたIgAは小胞に包まれ肝細胞内に入る
4:ライソゾームで溶かされる。
       Kidney International (2018) 94, 674–681
IgAの複合体は通過はできない。

肝硬変患者では肝細胞の減少、ASGP-Rの減少、肝小孔の減少や狭窄や門脈圧亢進症などが生じることでクリアランスができないと言われている。
また、治療で使うインターフェロンγもIgAクリアランス低下に寄与する。

・治療は?
Secondary IgA nephropathyの治療は原則は原疾患の治療と言われているが、明確には定まってはいない。
セリアック病や炎症性腸疾患に伴うものは、原疾患の改善によって尿の異常な共改善したことが報告されている。しかし、他の疾患に関しては明確には言われていない。


まずは、この概念を知っておくことは重要であり、いま色々と研究が進んでいる分野でもある。
Gd-IgA1の定量化が難しくガラクトース欠損ヒンジ配列を特異的に認識するモノクローナル抗体としてKM55がある。

色々と勉強することも多く、腎臓内科はとても楽しいと改めて認識させられる。


2018/11/02

IgA腎症アップデート

「IgA腎症の治療は、かつてないほどエキサイティングな時期を迎えています。もうすこしで、よい治療がうまれると思います。」

Q:2018年の米国腎臓内科学会で、講演者の女性がこう話したのはなぜでしょう(写真は、サンディエゴでパーティを楽しむ人々)?




 IgA腎症の治療は、日本と海外で大きく異なる。そして、2012年KDIGOガイドラインの推奨に従ってしまうと、確立したものがACEI/ARBくらいしかない(こちらも参照)。糖尿病性腎臓病にしても、IgA腎症にしても、コモンすぎると原因が多すぎて、全てにあてはまるとなると最大公約数的な治療に限定されてしまうのかもしれない。

 しかし、そんななかでも近年はIgA腎症の病態解明がすすんで、潜在的な治療ターゲットもふえてきた。

 以前にも言及されたように、粘膜免疫(扁桃、パイエル板など)でつくられるGd-IgA1(二量体をつなぐヒンジ部にガラクトース糖鎖が少ないIgA1、しばしば多量体)がIgA腎症の鍵になる異常である。それに対して自己抗体(IgA、IgG)ができたり補体が活性化したりして炎症がおこると考えられている(図はNDT 2015 30 360)。




 それでステロイドが用いられるわけだが、全身投与のSTOP-IGAN(NEJM 2015 373 2225)とTESTING(JAMA 2017 318 432)では感染症の副作用が多かった(後者は中止になった)。そこで「腸溶カプセルにしたステロイドNeficon®(budenoside)を使おう」というのがNEFIGANトライアルだ(Lancet 2017 389 2117;IGANは、IGA Nephropathyのこと)。結果、8mg/dと16mg/dでeGFRに有意差が出て、16mg/dで蛋白尿(gCr比)で有意差が出た。有害事象には有意差がなかった。

 さらに、異常Gd-IgA1を作る細胞をターゲットにしてはどうかという戦略もある。しかし、RTXをもちいても(JASN 2017 28 1306)蛋白尿、eGFRには無効だった。腸管でGd-IgA1をつくる「CD20陰性CD19陽性CD27強陽性」形質細胞、骨髄で抗Gd-IgA1抗体(IgG)を作る「CD19陰性CD20陰性」形質細胞はRTXでも生き残ることが知られており、無効な理由のひとつかもしれない(CJASN 2018 13 1584に解説あり)。

 ならばと、形質細胞をターゲットにしたBortezomibも治験されている。パイロットスタディ(KI Reports 2018 3 861)では8人中3人で寛解した。なおいずれの病理像も、免疫抑制が効きやすい(というよりも、免疫抑制しなければ予後不良な)Oxford分類E1で、管内増殖ありだった。

 しかし、今日この頃は「腸管」とか「細胞」というターゲットでは大雑把過ぎる。そこで、より細かなターゲットも試されている。

 Blisibimodは、BAFF阻害薬であり、SLEに用いられるBelimumabの仲間だ。BAFFはB細胞の活性化因子のひとつで、IgA腎症においても、粘膜免疫でB細胞が異常IgA1をつくるのにAPRIL、TACIなどと同様にBAFFが重要な役割を果たしていると考えられている。じつはBlisibimodはSLEのPhase 3トライアルではエンドポイントを満たさなかった(Ann Rheum Dis 2018 77 883)が、IgA腎症のBRIGHT-SCトライアルは結果まちだ。

 さらに抗BAFF・抗APRILのAtaciceptもリクルート中(NCT02808429)で、spleen tyrosine kinase(SYK)阻害薬Fostamatinibのスタディも進行中だ(NCT02112838)。ここまでくると正直私の理解をとうに越えているが、WikipediaとJaneway's immunobiologyによればSYKはFcγRやITAMなどに関係しB細胞の成熟や活性化に関与しているらしい。

 さらに、どこかで誰かが始めているかもしれないのが、補体をターゲットにした治療だ。レクチン経路の関与(腎病理におけるC4dの病的意義を示したのはCJASN 2014 9 897)、alternative pathwayの関与(C3aを押さえているH因子を抑制する、Factor H-related protein1・5の関与を示したのはKidney International 2017 92 953)は明らかで、アバコパンなど抗補体薬の報告が見られるようになるかもしれない。

 


2017/12/10

IgA腎症と妊娠

今回、上記話題を挙げたのは外来での会話からである。
自分をT、患者さんをPとする。


P 「IgA腎症治療のステロイド療法も終了し、蛋白尿の悪化も無くて安定しました。先生がステロイド減量後に妊娠許可してくれて、早速なんですけど妊娠しました」


M 「本当ですか!?とてもうれしいです!!おめでとうございます!」


P 「でも、先生。妊娠してIgA腎症ってどうなるんですか?必ず悪くなるんですか?」


M 「そうですね、免疫も関連してますし悪くなる人もいますし、悪くならない人もいます(曖昧な回答。。。)」

自分の中でしっかりとした解釈ができていなかった。患者さんがこれからどういう転帰をたどるにせよ、しっかりと自分のなかの答えをもつようにしなくちゃ。ということで今回の話題である。

ちなみに以前、IgAと妊娠について成立するまでの話を書いた。


今回、AJKD2017にとってもいい論文が載っていた。これをもとに考えてみる。


IgA腎症は世界的に見てももっとも頻度が高い腎症であり、IgA腎症の好発年齢は10代後半から30代前半と言われており、女性であれば妊娠との関連性が非常に高い腎炎である。


妊娠とIgA腎症に関しては報告もまちまちな事が多い。
 ●ある報告では妊娠はIgA腎症の経過を変化させない(AJKD2010AJN2010
 
 ●ある報告では中等度から重度CKDの患者では腎機能低下の進行が非常に早くなる(23%-43%の割合)(NEJM1997


と言われている。


AJKDの論文の詳細は割愛はするが、この研究では413人の患者がenrollされ、そのうち妊娠をした人が104人で妊娠をしなかった人が309人であった。
今回の研究のcharacterは下記になる。





パッと見た感じは違いは意外に妊娠群で治療していない人が多く、ステロイド治療をした人が少なかったという印象である。

患者をCKD別に分けた表が下記になる。
これの印象としては、やはり腎機能悪化している症例ほど、蛋白尿は多く、血圧は軽度髙い傾向にあると感じた。

結果としては
★腎疾患の予後
CKD stage1 or 2:妊娠にともない腎疾患の増悪は見られなかった。

CKD stage3 or 4 :妊娠にともない腎機能の低下がみられた。(eGFR≧60以上の人に比べると数倍以上)

★妊娠・子供への影響
CKD stage3 or 4 :出産に伴う胎児の生存割合が55%程度に低下。

今回の研究ではCKDstage3以降の人数は少ないこと、選択バイアス(フォロー中に妊娠になった人のみ拾っている)、出産のリスクになる蛋白尿の評価が不十分という点はあるが、
IgA腎症でCKD stage1-2程度の人であれば、特に問題を起こす可能性は低いが、
CKD stage3以降の人であれば、腎機能障害や胎児影響などを引き起こす可能性がある。

そのため、しっかりと患者に情報を伝達する事は重要である。

ちなみにCKDはやはり進行とともに妊娠の成功率は悪くなる(下図)。


なので、我々としては腎機能障害をおこさせないように早期介入が非常に重要であることを感じた。

ちなみに最初の患者さんはCKD stage1であり、妊娠もそのまま継続としたし、このようなお話しもしっかりして納得して外来フォローとなっている。

ただ、医師として患者さんの子供ができることは非常にうれしいことで、その日はほっこりとした気分になった。





2017/03/20

IgA腎症と妊娠から考えること。(IgA nephritis and pregnancy and so on.)

個人的に今週末は幸せな気持ちになる週末でした。
そんな週末を経て今日は上記の話題を書きたいとおもいます。

やはり、今日外来でIgA腎症の人に
「先生、私妊娠したいんですけど薬はどうすればいいですか?」
と聞かれた。この患者さんの内服薬はARBを内服しており、タンパク尿は0.3g/Cr程度、腎機能も問題なし。また、扁桃摘出+パルス療法を行って完全寛解を得られている。

でも、やっぱりタンパク尿減らすためにARB使用していて減らすのはどれだけいいのか?妊娠でIgA腎症は再燃しないのか?と考えてしまった。

まず、IgA腎症において妊娠は正常な腎機能であれば許容される(AJKD 2014)
では、慢性腎機能障害の人はどうであろうか?
GFR<70mL/min以下、高血圧非コントロール例、腎生検で重度動脈や尿細管間質病変がある症例では、腎疾患が増悪する可能性は高くなると言われる(Clin nephrol 1994)。

では、妊娠患者の腎生検はどの人に行なえるのだろう?
まずは、血圧コントロールが良好に行えていること。また、凝固異常の併存がないこと。また、妊娠32週以前が推奨はされている。
逆に32週以降の推奨はされていない。

ARBやACE-Iは妊娠中には全期間使用は推奨されていない。これは胎児への影響が示唆されているためである。
妊娠を3期に分けた時に
1期(15週まで):ARBやACE-Iは胎児の心血管や中枢神経系の奇形を起こしうる。
2−3期:使用により胎児のGFR低下をきたし、また肺の低形成などに繋がり、胎児死亡に繋がる。

ARBやACE-Iの他にシクロフォスファミドやMMFも胎児に影響を与えるので、妊娠前には切ることが推奨される。

とすると、今回の症例に関しては、血圧の推移を見ながらではあるがARBやACE-Iを終了し、血圧が上がるようであればα-Methyldopaやカルシウム拮抗薬を用いて管理をする。
そして妊娠に備えるという形にした。

しかし、腎機能が悪い方もいるので妊娠に伴う悪化のリスクは話すことは重要である。

今回調べていてCJASN 2013のケースは一通り学ぶのに勉強になる!一読をお勧めする。

今回も患者さんから一つ勉強させていただいた。ありがたい。



2017/01/24

IgA腎症の治療って(Treatment of IgA nephritis) パート3

今回紹介された患者さんで下記の患者さんがいた
「IgA腎症で扁桃摘出+ステロイドパルス療法、その後ステロイド後療法も終了した寛解維持をされている患者さんです。よろしくお願いします。」
内服薬を見てみるとコメリアンという抗血小板薬を飲んでいた。
恥ずかしながら、自分がIgA腎症での抗血小板薬の使用の経験が乏しく、どのくらい有効で継続していいかわからなかった。
なので、今回抗血小板薬のIgA腎症に対する有効性について少し触れてみたいのとIgA腎症の最新の論文を示したい。

抗血小板薬(ジピリダモール、塩酸ジラゼブ、アスピリンなど)のIgA腎症に対する効果はわが国で多施設のRCTが組まれて尿蛋白減少効果が示されているが、英文報告がなく国際的な認知には至ってはいない。
システマティックレビューでジピリダモールの腎機能障害抑制効果が報告され(Clinical and Experimental Nephrology 2006)、別の研究では有効性は認められなかった(Intern med 2011)。
塩酸ジラゼブに関しては、介入後3−4ヶ月時に尿蛋白減少効果を認めたが、6ヶ月時には統計学的な有意差は認められなく、腎機能障害の改善にも寄与していなかった。

KDIGOのガイドラインでは、抗血小板は使わなくてもいいとしている(Grade 2C)。
日本の報告では治療選択肢に考慮してもいいとしている(GradeC1)

抗血小板薬の使用に関しては、日本と国際的なガイドラインで意見が分かれている部分であるというのが、今回わかった。
これを解決するためには、RCTなどをすればわかるのかもしれないが、抗血小板薬単剤での治療ではなく評価は難しいのかもしれない。

今回、自分は抗血小板薬を一旦中止してみてタンパク尿の推移をみることとした。
今後のタンパク尿の推移を見ていきたいと思う。


また、最新の話題としてIgA腎症の重症度や進行に関してコペプチンがマーカーとして有用であるという報告がNDTからされた。コペプチン(Copeptin)はバゾプレッシンの前駆物質から生成されるペプチドであり、糖尿病の予測因子になったりも以前に報告されている因子である。
今回の研究ではIgA腎症59人の症例で検討されている。コペプチン濃度が高い症例の方がCre上昇や末期腎不全や免疫抑制剤開始などとの関連が強く、IgA腎症の予後予測因子の一つに有用ではないかという報告であった。

IgA腎症はアジア領域に多く、日本から発信の多い疾患である。
我々も症例から色々と学び、治療や診断など発展させられるようにして行きたいと感じた。


2016/10/25

IgA1プロテアーゼ

 IgM結合タンパクであるAIMのネコホモログをマウスに強制発現させた虚血後再潅流AKIモデルに、遺伝子組み換えでつくったマウスホモログを注射すると腎機能が回復した、などの研究をのせた論文(doi:10.1038/srep35251)が新聞やニュースで取り上げられる。それくらい、腎不全の治療をみんなが待ち望んでいる。

 外来でも入院でも「先生、腎臓を治す薬ってのはないんですね?」とおっしゃる患者さんたちにはいつも申し訳ないと思っている(日本版バルドキソロンがどうなるか)。アメリカのTVシリーズ『スター・トレック』では腎臓病がなおる未来からきたDr. McCoyが透析患者さんに薬をあげるシーンがある(おばあさんが、The doctor gave me a pill and I grew a new kidney!と喜ぶ、写真)し、不可能を可能にするプロジェクトにお金を出すXPRIZE財団も腎臓病研究をリストに入れている。

 そんなわけで今月のJASNに載ったIgA1プロテアーゼの研究結果(JASN 2016 27 2622)が、次につながればいいなと思っている。ヒトのIgA1と受容体の可溶性CD89をマウスに強制発現させたモデルではある。IgA1プロテアーゼというのは細菌由来のいわば毒で、マウスはいいがヒトではさまざまな免疫反応を惹起するらしい(BMC 2007 7113)。

 それでもIgA1プロテアーゼはメザンギウムにおける免疫複合体を一旦は消失させるんだから、方法論としては合っているんじゃないかと思う。この先が分子エンジニアリングで毒性を落としたプロテアーゼなのか、抗IgA1ヒンジ部モノクローナル抗体なのか、GALT/NALTに関わりIgAを減らす治療なのかはわからないけれど。




2016/10/02

IgA腎症の治療って2(扁桃摘出パルスに関して)

前回IgA腎症の治療について書いてみた。
今日は日本で主に行われているIgA腎症に対する扁桃摘出パルス療法について考えてみた。

まず、日本ではアンケート調査で扁桃摘出または扁桃摘出+ステロイドパルス併用療法は65%以上で使用されている。おそらくは扁桃摘出の有効性を実感しているためこんなに高い数字なのであろう。

では、なぜ効くのか?を考えた時にIgA腎症の原因などの病態を把握する必要がある。
IgA腎症はIgAの特にIgA1サブタイプのヒンジ部糖鎖修飾異常(糖鎖異常IgA:GdIgA1(がラクトース欠損IgA1))が増加し、それに対する抗体の産生→免疫複合体の形成し、メサンギウム領域への沈着が生じるmulti hit 仮説が提言されている(JASN 2011 22(10) 1795-1803)。

面白いこととしては、GdIgA1を利用してそれによってIgA腎症を診断しようとする報告がいなされている(PLos One 2014 May 23;9(5))。これが現実化することでの利点としてはアジアの地域に多いIgA腎症を早期に診断することができるという点である。
IgA腎症の診断には腎生検が必要となるが、発展途上国ではそれも満足に行えない地域もあり、採血や尿マーカーで診断がつく時代が来れば個人的には嬉しい。また、後でも述べるがIgA腎症は早期の診断早期治療が大切なので、本当に重要であると感じる。

では、どの粘膜B細胞が作成しているかであるが、注目されているのがGALT(gut-associated lymphoid tissue:腸管関連リンパ組織)、NALT(nasopharynx-associated lymphoid tissue:鼻咽頭関連リンパ組織)である。
GALTに注目したのが、先のNEFIGAN TrialでのNefecon(腸管選択的ステロイド)である。
二つの違いはIgAサブタイプの偏りがありIgA1はNALTに多く発現している。
また、NALTは骨髄との関連がありIgA腎症の発症はMucosa-Bone Marrow Axisの異常が生じているためと考えられている。骨髄に関してはAPRILが話題であり、これの増加がIgA腎症の予後を悪くしているという報告もあり、(Medicine Volume 95, Number 11, March 2016)、これを多く持つものに対して扁桃摘出を行ったほうが効果があるという報告もある。

扁桃摘出パルスに関しては、先日扁桃摘出パルスの元祖の堀田修先生(現在はクリニックを仙台で開業されている)のお話を聞くことができた。簡単にまとめるとやはり大切なのは早期診断、早期治療ということであった。
IgA腎症を血尿主体の時の糸球体腎炎のphaseとそれ以降の蛋白尿が主体になる二次性FSGSのphaseに分けて話してくださった。二次性FSGSの状態ではいわゆる糸球体が焼け跡になってしまっているので、扁桃摘出パルスをしても効果に乏しいというお話を聞き、なるほど理にかなっているなと感じた。焼け跡になってしまってからでは遅いので、糸球体血管炎の早期の時期からの治療開始を推奨していた。ただ、この時期は血尿だけの時期なので日本のガイドライン上も経過観察となっている部分ではあり、患者さんにこのような治療の選択肢を行い納得いただけるようなら行うのもひとつかなと感じた。また、堀田先生のクリニックでは扁桃摘出パルスの他にも鼻咽腔の部分の処置を行ったりなど、本当に全てを前向きに動かれる姿勢の凄さ、考え方の凄さに本当に感銘を受けた。

・扁桃摘出パルスに関しては扁桃摘出とパルス療法はどちらが先でもいいらしいが、扁桃摘出を先行した場合はパルス投与を扁桃摘出から7日後以降に行うとのことであった。また、パルスを先行した場合には6ヶ月以内に扁桃摘出を行うのが原則のようである。

・実際に扁桃摘出パルスは論文などはどうかではあるか
日本では厚労省進行性腎疾患に関する調査研究班・IgA腎症分化会が主体となって行ったランダム化比較試験(RCT)「IgA腎症に対する扁桃摘出術とステロイドパルス療法の有効性に関する多施設共同研究」が行われており、2011年の腎臓学会で中間報告され、寛解率は扁桃摘出パルスが良かったが、尿タンパクなど明らかな有意差が出ていない。最終報告はまだなので今後の報告にこれは期待したい。
海外では中国からのメタアナリシス(Nephrol. Dial. Transplant.26 (6): 1923-1931.)が出されている。これでは、扁桃摘出単独やパルス単独では寛解に至らなかったが、扁桃摘出パルスでは寛解に至ったと報告している。

色々と書いたが、IgA腎症はしっかりと病態を理解し、様々な選択肢から患者さんのニーズに合う治療を選択することが大事である。
今はインターネット社会であり、扁桃摘出パルスに関しても調べ上げてくる人にも出会うかもしれない。そういったときに治療の提示やメリット・デメリットが話せるような医師になりたい。



2016/09/27

IgA腎症の治療って

IgA腎症の治療は2015年にSTOP-IgAN(N Engl J Med 2015;373:2225-36)がNEJMにでて色々衝撃を与えた分野である。
簡単に書くとSTOP-IgANは腎生検で診断されたIgA腎症においてACE-IやARBを用いて血圧を125/75mmHg未満にするなどの支持療法を6ヶ月しても蛋白尿≧0.75g/day以上の症例を対象としたRCTである。
支持療法群と免疫抑制療法併用群と比較している。免疫抑制療法群に関してはeGFRの値(60未満と以上)で異なる治療を行っている。
結果としては明らかな有意差はなく、ステロイド使用群で副作用でステロイド性糖尿病や体重増加のリスクが増加し感染症のリスクが増加した。
つまり、この群(蛋白尿≧0.75g/day以上)でも支持療法しましょうというものであった。

今回、JASNで[Corticosteroids in IgA Nephropathy: Lessons from Recent Studies]というbrief review(doi: 10.1681/ASN.2016060647)があり、よくまとまっていた。

現在のIgANの治療はKDIGO ガイドライン(KDIGO 2012)では
血圧コントロールは, ACE阻害薬やARBで行い,蛋白尿 <1g/dでは<130/80mmHgを目標、
蛋白尿 >1g/dでは<125/75mmHgを目標としましょう!

免疫抑制療法に関しては:3-6ヶ月のACE阻害薬やARBによる治療で、蛋白尿≥1g/dの場合は免疫抑制療法を行いましょう。免疫抑制療法はステロイドを主に使用しましょう
(Pozzi protocol:1gステロイドパルス3回(1,3,5ヶ月目)と隔日投与のPSL0.5mg/kg、
または0.8-1mg/kgの毎日の経口ステロイド内服)となっている。

様々なスタディが免疫抑制療法はどうなのか検証されている。
VALIGA cohort trial(Kidney Int 2014; 86: 828–836)ではRAS阻害薬単独よりもRAS阻害薬+ステロイド投与が蛋白尿>1g/dayの症例にはよく、eGFR<50の症例にもいいのではと言っている。

TESTING study( (ClinicalTrials.gov no. 01560052)はIgANで蛋白尿>1g/dayの症例でeGFRが20-120までの症例を集めステロイド治療(0.8mg/kg経口で2ヶ月でその後6-8か月で減量)の効果を見ている。
この症例では副作用で1.5年で中止になっている。副作用としては感染症である。ただ、ステロイド治療によって蛋白尿の減少含めた腎機能保護には優位に働いたという結果も得られている。

その他現在様々なスタディが進んでいる(直近ではIgANの病態で消化管の免疫の関連があるのではないかということで注目が集まっている、NEFIGAN trial: ClinicalTrials.gov no. 01738035)。これらは今後の結論を待ちたい。

なので、現状のIgANの治療判断としては難しいが、自分はこの論文の作者たちと同じ意見だが、KDIGOのガイドラインがなんだかんだいってバランスは取れていると考えそれを実践している。その中で、患者の状態や年齢を含めて考え、これらのスタディを活かせていけたらなと思う。

次回は日本の扁桃摘出パルスについて触れてみたいと思う。




             
                腎臓はやはり奥が深い。。



2016/07/09

Renal Supplements

 2008年に冬眠するクマ(図)が尿毒症にならない仕組みにアミノ酸リサイクリングが考えられていると聴いて腎臓に興味を持っていたら、2013年にクマの論文が腎臓内科雑誌にでて、腎臓内科医は動物好きだなと改めて思った。しかしアミノ酸リサイクリングをしているのはクマだけではないらしい。アイソトープで標識したアミノ酸を用いた実験などで、じつは60kgのヒトで毎日250−300gのたんぱく質が入れ替わっており、そのうち100−120gが筋肉だという(CJASN 2016 11 1131)。しかし、それだけのたんぱくを全部CO2まで異化分解して1から作りなおすのは大変なのでアミノ酸リサイクリングをしており、結局1日に補うたんぱく必要量は50-80gで済んでいる。

 さてこのたんぱくターンオーバーのバランスは加齢やCKDで崩れる傾向にあり、加齢では同化合成にかかわるmTOR-p70s6kシグナリングの抑制が関与しているといわれる。実際健康な70代の被験者にω3脂肪酸を8週間摂らせたところこの系が再活性化したんぱくが増えたという小さなスタディがある(Am J Clin Nutr 2011 93 402)。またCKDでは、たんぱく分解が増えミオシン重鎖合成パターンが変わることがわかってきている。いまのところそれらに対して打つ手はないが、ω3脂肪酸はCKD患者で摂取も少なく血中濃度も低い(ω6/ω3比は炎症や死亡と相関する)ので、これを補ってはどうかというスタディが最近でた(CJASN 2016 11 1227)。

 ω3脂肪酸とは要するにfish oilである。肉食文化のためか欧米でfish oilは有難がられており、抗炎症作用がIgA腎症に試されたりしているが(NEJM 1994 331 1194、KDIGOガイドラインの推奨レベルは低い)、EPAとDHAを2対1で配合した1日2.9グラムのω3脂肪酸を透析患者さん(CRP 0.5mg/dl以上)に12週間投与したところ、たんぱく分解は減ったが合成も減ってしまい(プラセボ群では合成は増えた)差し引きは変わらなかった。この結果はOmega-3 Fatty Acid Administration in Dialysis Patients Studyの一部で、これから他の結果も出るだろうが、ω3脂肪酸(とくにEPAとDHA)の透析患者さんへの効用については古くからまことしやかに伝えられてきたらしい(CJASN 2006 1 182)。

 ω3以外のサプリメントはどうか。よく聞くのがカルニチンとクレアチンだ。紛らわしいが、カルニチンはラテン語で肉を意味するcaro、クレアチンはギリシャ語で肉を意味するkreasに派生する(フランスの化学者Michel-Eugène Chevreulが肉汁から発見し命名した)ので無理もない。カルニチンはリシンが腎臓と肝臓でビタミンB6、ナイアシン、ビタミンC、鉄などの存在下にメチオニンのεアミノ基がトリメチル化されて生合成されるが、肉(とくにヒツジ、ヤギ、ウマなど)からも摂取される。長鎖脂肪酸がミトコンドリアの外膜を越え内膜を越えTCA回路にたどり着くためのシャトルの役割をしており、長鎖脂肪酸は安静時の骨格筋・心筋の主エネルギー源なので、よくダイエットに効くなどと言われる。

 カルニチンは水溶性で分子量が161g/molのため透析で喪失されることから、静注で補うことがある。ただし血中濃度を測って補うことは稀だ(カルニチン欠乏症という長期絶食、酵素異常、肝疾患、腎尿細管異常などに関連した病気があるので測れる;ある検査会社では総カルニチンの基準値は45-91μmol/l、遊離カルニチンは36-74μmol/l、アシルカルニチンは6-23μmol/l)。一方でカルニチンが動脈硬化に関連するという心配があるが、ひとつの研究では腸内細菌で代謝されつくられるTMAO濃度が高い場合に限るという結果だった。静注ならいいのかもしれない。

 一方のクレアチンも筋肉のエネルギー源(CKすなわちクレアチンキナーゼによりリン酸化されATPが消費される)で、何段階か経て筋肉まで届く。生合成の場合、まず腎臓の近位尿細管でアルギニンとグリシンからAGATによりguanidinoacetate、GAAができる(マウスとちがいヒトでは肝臓などにもAGATがある)。GAAはGAT2を通って肝臓に入り、GAMTによりS-adenosylmethionine(SAM)からメチル基を受け取りクレアチニンになる(SAMはS-adenosylhomocysteine、SAHになるがメチオニン回路でSAMに戻る)。

 こうしてできたクレアチンが筋と脳にSLC6A8遺伝子にコードされたCRT(Na+/Cl-依存クレアチントランスポーター)を通って入る。筋と脳でCKのタイプが違う(CK-M、CK-B、心筋はCK-MB)のはよく知られているが、CKは細胞質で二量体、ミトコンドリアで八量体だそうだ。ほかに食事から50%くらい摂取される。腎機能が低下すると、腎臓のAGAT活性が低下しGAAが減る。また尿毒素物質のグアニジン化合物、とくにβ-GPAはCRTを阻害しクレアチンの取り込みを落とす。CKD、透析患者さんにカルニチンやGAAを補充して筋肉がつくかは、まだわからない。ただしクレアチンが非酵素的に分解されたのがクレアチニンなので、補充すればクレアチニン値はあがる(クレアチンサプリメントをのむ人の急性腎障害でクレアチニン38mg/dlというのをみたことがある)。

 なおカルニチンを細胞質に取り込むOCTN2(organic cation/creatine transporter novel type 2)の常染色体劣性遺伝異常ではカルニチン欠乏になり、カルニチン大量投与を行う。クレアチンではAGAT(をコードするGATM遺伝子)とGAMTの常染色体劣性遺伝、SLC6A8のX-linked異常で脳のクレアチン欠乏症になる。前者ふたつはクレアチン大量投与で治療できるが、SLC6A8異常は脳への取り込み異常なので反応しにくいようだ。それにしても栄養や代謝の話は複雑で、私の文章など専門の人からみればベイビートーク(あのねー脂肪酸がねー、というレベル)だ。彼らはどれだけ勉強するんだろう…すごいなと尊敬する。


2014/02/18

Peerの重要性

 一緒に働いている先生方に言われるまで、IgA腎症のレビュー(NEJM 2013 368 2402)も、横紋筋融解症のレビュー(NEJM 2009 361 62)も、知らなかった。Peerの重要性はここにある。自分ひとりでは出来ない。こうやって高めあえる相手がいることが大事だ。

2013/04/08

IgAN

 IgA腎症は米国でどう教えられているか。ここでは誰をいつどのように治療するかについて書く。IgA腎症は非常にheterogeneityがあって、ほとんど何も起こらない群から腎廃絶に至る群まで幅広いのは周知の事実だ。それでrisk stratificationが様々に試みられている。

 日本のグループが発表した多変数解析によるスコアリングも紹介され、一定の評価を受けている(NDT 2009 24 3068)。数あるリスク因子のなかでも、こちらの臨床では蛋白尿とGFR低下と高血圧が重要と考えられ(AJKD 2012 59 865)、KDIGOもそう言う。

 蛋白尿は、1g/dを越えるとリスクが増悪するというデータ(JASN 2007 18 3177)がありKDIGOにも採用されている。この論文では、治療に反応して蛋白尿が減少する限り、たとえ治療後の蛋白尿が3g/d以上であっても腎予後は良いというencouragingな結果がでた。

 もう一つのrisk stratificationはOxford criteriaと呼ばれる病理分類で、MEST(mesangial proliferation、endocapillary proliferation、glomerular sclerosis、tubular atrophy)の四項目からなる。しかしこれは今ひとつvalidateされておらず(KI 2011 80 310)、KDIGOも薦めていない。

 治療方針は低リスク、中等度リスク、RPGNないしcrescenticによって異なる(アルゴリズムはJASN 2011 22 1785)。しかしよいエビデンスがないので、KDIGOガイドラインでもレベル1の治療はACEI/ARBだけだ。

 CorticosteroidはACEI/ARB等支持療法の不応例(で、かつRPGNやcresenticでない)に推奨される(エビデンスレベル2C…)。Pozzi(Lancet 1999 353 883、パルスとprednisone)とManno(NDT 2009 24 3694、prednisone 1mg/kg/dを漸減)、二つのレジメンがよく用いられる。

 Cyclophosphamideとステロイドの併用はRPGN、cresentic例に推奨される。進行性のIgA腎症(Crが1.5-2.8mg/dl)について腎機能を驚異的に保存した小さなスタディのレジメンが用いられる(JASN 2002 13 142Ballardie protocolとも呼ばれる)。ループス腎炎と違い、MMFは成績が良くなくてKDIGOもsuggest not using MMFという。

 その他の治療としてfish oil(KDIGOはレベル2Dで不応例にsuggest using)、抗血小板薬(レベル2Cでsuggest not using)、扁摘(レベル2Cでsuggest not using)などがある。Rituximabの治験もある(NCT00498368)が、リクルートがうまく行っていないという噂だ。