2011/12/30

enteric hyperoxaluria

 フェローシップも半年過ぎて、だいぶん腎臓内科医の目でモノを診れるようになったと思っていたが、まだまだ「ぽかん」としてしまうような知らないことがある。

 今日も、colostomyを持つ患者さんが慢性腎不全(CKD stage 3)とPTH上昇で外来にやって来たので「二次性副甲状腺機能亢進症でしょう」と思っていたら、指導医が「なぜこの患者さんのPTHは高いの?」と聞く。

 そのあと彼が、脂肪酸やbile saltが吸収されない患者さんではenteric hyperoxaluriaが起こりcalcium oxalateの結石ができやすいことを説明した。カルシウムが脂肪酸に捕捉されてそのまま吸収されずに流出してしまうことと、小腸(回腸末端)で吸収されずに流れてきたbile saltにより大腸の小分子透過性が亢進することが主因という。

 この患者さんはtotal colectomyをしたが小腸そのものはintactそうだし、尿管結石の既往もないので当てはまるかは分からないが、とても勉強になった。


2011/12/29

Geographic nephrology

 さきほどのBEN(Balkan endemic nephrology)の話をしていたとき、ボスが"geographic nephrology"という造語を使った。そしてKorean hemorrhagic fever(いまはHFRS、hemorrhagic fever with renal syndromeという)の話になった。これは朝鮮戦争時代に兵士が次々にかかった病気で、臨津江(イムジンガン、임진강)の支流漢灘江(ハンタンガン、한탄강)から名づけられたハンタウイルスによる。

 ハンタウイルスにも何種類かある(JASN 2005 16 3669)。アメリカのものは主に呼吸器症状を呈し、4-corner area(New Mexico、Arizona、Colorado、Utahといった南西部諸州)に多い。HFRSは主にScandinavia諸国、Balkan諸国、Koreaで報告されている。原因は不明だが、血管内皮細胞障害が主因と考えられている。

Balkan endemic nephrology

 旧ユーゴスラビア移民で血尿(dysmorphic RBCs、negative cystoscopy)とタンパク尿(Upro/Ucr 0.9)、それにCKDのある患者さんを診察して「どうも腎外症状に乏しいし、よくわからないから一通り検査して腎生検かなあ」と思いつつボスに相談したら、まず「どこの街出身か聞いてこい」という。そして戻ってくると彼がパソコンにインターネットで調べたユーゴスラビアの地図(Kidney Int Suppl 1991 34 S9–S11からの転載)を広げ、「これは何だ」という。
 何のことやらサッパリ分からずいると、この地図はBalkan Endemic Nephropathyのendemic areaを示したものだという。主に、ドナウ河の支流Sava河に沿って点在している。彼は患者さんの出自を聞いてすぐさまこの疾患を思い浮かべたらしい。もっとも、血尿はあまりみられない(urothelial tumorがあれば別だが)し、proteinuriaの程度もちょっと多いし、IgA腎症など他の疾患かもしれない。腎生検をすることになったので、結果を待つことにしよう。典型的にはtubular atrophy、severe fibrosis、それにatypiaがみられるらしい。
 雑誌のエディトリアル(KI 2006 69 644)とUpToDateによれば、病因はいまだによく分かっていない。environmental factorとgenetic factorが考えられている。前者ではochratoxin A(真菌の毒素、穀物を地中で冬季保存するためか?)、aristolochic acid(Chinese herb nephropathyの主因)などが有力視されている。後者では3q24-26あたりの遺伝子異常、それにp53異常が見つかったりしている。endemicな村に長らく住んでいても罹らない人がいたり、家族歴があっても村に長くいなければ発症しなかったりするので未だに真相は謎だ。

2011/12/15

go overboard

 カンファレンスでは二人(フェローとレジデント)が発表し、麻酔科のレジデントは腎不全患者における疼痛管理という極めてrelevantなtopicについて話した。前から思っていたが、US Medical Graduateで外科・麻酔科などのcompetitiveなレジデンシースポットを勝ち得た人達は、おしなべてとても優秀だ。

 彼女が引用していた論文(J Pain 2005 6 137)は、WHO three step analgesic ladderを元に腎臓内科医がreviewしたものだ。各薬の代謝と腎排泄、腎不全患者へのdose adjustmentの要否、腎毒性の有無などがladderの順を追って説明され分かりやすかった。Table 2は切りぬいて白衣に入れておく価値ありだ。

 Discussionのところで、ボスの先生が「わたしたち腎臓内科医は、NSAIDsに関してgo overboard(やりすぎ)じゃないかと思う」とおっしゃった。たしかにarthritisなどNSAIDsがよく効く痛みで家の外にも出られないような人に、NSAIDsは絶対禁忌というべきか。

 脱水、利尿剤、ACEI、高カルシウム血症、造影剤などと重なれば一粒のibuprofenが腎臓の命取りになることもあるだろう(し実際にみたこともある)が。患者さんの全体像をみて、riskとbenefitを計って判断することだ。さておき、go overboardという表現が気に入った(甲板を行きすぎて船から落っこっちゃう、ということ)。

TINU

カンファレンスでTINU(tubulointerstitial nephritis and uveitis)の勉強になった。要は尿細管・間質性腎炎にぶどう膜炎(たいてい両側で前房、突然発症する)が合併したもので、診断はソフトだ。そもそも症候群だから単一のentityではないかもしれない。たとえばsarcoidosisの限局型なども混ざっているかもしれず、そのうちLofgren症候群などと並んで分類されるかもしれない。
 紹介された自験例は私も少し関与したので覚えているが、眼症状が数週間~数か月おくれたので初めは何の病気やらさっぱり分からなかった。review article(Surv Ophthalmol 2001 46 195)によれば26%でぶどう膜炎が先行、15%で同時発症、そして65%で腎炎に続発したという。
 病因は分かっていないが、HLA(DRB1*02)との相関、KL-6との相関、マイコプラズマ抗原を注射したらマウスがTINUになった、IgG4との関係、など色々な人が興味を持って調べている。最近では抗mCRP(modified CRP)IgGが腎と眼の共通自己抗体ではないかという論文がでた(CJASN 2011 6 93)。
 IgG4といえば膵炎じゃない?と思っていたが、腎臓でも関係しているようだ。これはべつのトピックとして調べるが、じつはIgG4は日本で主に研究されている分野らしい。IgG4と膵炎(sclerosing)の関係を示したNEJMの論文(NEJM 2001 344 732)は信州大学が発表したし、そのreferenceをみても日本のグループの論文が多い。日本にいた時分に知らなかったのはなぜだろう。

2011/12/13

膵移植

先週は膵移植のレクチャがあって膵移植は何のためにやるのか学ぶことができた。膵移植は、1型糖尿病患者に、多くの場合はQOL(インスリンを打たなくてもよい)、そしてhypoglycemic unawarenessのために行われる。QOLを向上する以外にいいことはないのか。
 一つには、糖尿病性腎症が予防できる。ミネソタ大学の論文(NEJM 1998, 339, 69)では、膵移植後にアルブミン尿が消え、病理所見が消え、GFRも安定した(overfiltrationがなくなり、それ以後低下もしなかった)。美しい結果だが、現在糖尿病腎症を防ぐために膵移植をすることはあまりない。
 というのも膵単独の移植はgraft survivalが悪いからだ(early rejectionの良いマーカーがない)。現在はSPK(膵腎同時移植)が主流だ。これなら腎臓がrejectionのsentinel organになる(拒絶が始まればScrが上昇する)。別にPAK(腎移植後の膵移植)もあるが、腎・膵が別のドナーからなので抗原性が高くなる。
 では、SPK(膵腎同時移植)で得られるメリットは何か。Northwestern大学のretrospective studyによれば、患者さんが長生きできる(Transplant 2001, 71, 82)。Cadaveric kidney transplant、waiting list群と比べての話で、living-donor kidney transplantとは同じくらいという結果だった。膵腎同時移植のドナーはcadavericだがとても若い(たいてい30歳まで)ことと関係しているかもしれない。
 また、心血管疾患が予防できるかもしれない。これは1型糖尿病で血糖コントロールにより心血管疾患が防げるというDCCTスタディ(NEJM 2005, 353, 2643)から敷衍した希望的な見方で、実際に高血圧がよくなった(Circulation 2001, 104, 563)とか、頸動脈内膜肥厚が改善した(Diabetes 2001, 50, 496)とかの論文はある。
 ほかに、糖尿病性網膜症を良くしたという報告はあるし、実際経験されるらしい。糖尿病性神経症や胃麻痺(gastroparesis)は、神経伝達速度がやや向上したという報告は有るが、経験的には良くならないそうだ。膵腎同時移植はうちのVAがVAのなかでは全米で唯一の移植施設であり、これから触れる機会も多そうだ。

2011/12/08

話を聴く

 外来で診た患者さんの話をよく聴くと、患者さんとrapportを築きやすい。大学病院の専門内科外来なので、何人もの医師に会い、長い経過で、みんな「あれでもない、これでもない」と言われてここに紹介されるのだ。だから、ある程度自分に考えがあったとしても、いきなりそれを告げるのではなく、まずは相手の話を聴くほうがコミュニケーションがうまくいく。

 さてそんな患者さん達の中で、Scrがある薬(抗高triglyceride血症薬)を飲んでから上昇したという人がいた。私はそのクラスの薬が腎障害をおこすという話は聞いたことがなかったし、acute interstitial nephritisのサインもないし、クレアチニンの排泄を促進するという(そういう薬もある、たとえばST合剤)話も聞いたことがない。

 でも他にacuteなcreatinine riseを説明する仮説もあまりなく、幾つかの追加検査をすることにはしたが、その抗高triglyceride血症薬をやめてみれば?と思った。そもそもこの患者さんはこのクスリを始める前から高脂血症などなかったし、statinに対するintoleranceもないのだ。そして追加検査もあらかた陰性で帰って来た数ヵ月後、血液検査の結果をみると果たしてScrはクスリを飲む前のbaselineに戻っているではないか。

 電話してみると患者さんとその妻はもちろん喜んでいたし、彼らは最初からこのクスリのせいではないかと疑っていた(のに誰も聞いてくれなかった)から尚のことだった。話を聴いてくれてありがとう、"You are such a wonderful man!"とかいうからこちらも嬉しかった。それからも彼らが何かで外来に連絡するたびに「あの先生はすばらしい」みたいなことを言ってくれるので、なんだか照れる。

SRC

Grand Roundで強皮症腎(scleroderma renal crisis, SRC)の話がでた。いつ移植すべきかというのが争点だった。というのも強皮症腎はmalignant hypertensionのひどい例で、renin-angiotensin-aldosteroneを効果的にブロックできれば腎機能が回復しうるからだ。最近のスタディ(英誌QJM 2007 100 485)では36%が透析を必要とせず、23%が一時的に透析を必要とし、41%が透析依存になった。一時的にといっても、一年半くらいたって腎機能が回復して透析不要になることもある(Ann Int Med 2000 133 600)。

 では移植を急ぐよりも、じっくり透析をしながらでも回復を待っていたほうがいいのかという話になる。ある論文はwaiting listに載って移植を待つよりも移植したほうが生存率がよいという(AJT 2004 4 2027)。しかしこのsurvival curveはlead-time biasとselection biasがあってそのままは受け入れられない。移植群は移植した日からの生存率、waiting list群はリストの載ってからの生存率だし、移植を受けた群はリストにのった中で「この人なら移植しても大丈夫」と思われた人達だからだ。

 もう一つの論文は、disease recurrenceがどれくらいどういったリスクのある患者に起こるかを調べたもの(AJT 2005 5 2565)だ。彼らの自験例とliterature searchによれば、disease recurrenceによりgraft lossになった群では強皮症腎からESRDに移行する期間が極めて短く(直後から二週間以内)、透析から移植までの期間も短かった(2ヵ月から2年)。UNOS(移植患者データベース)も調べたが、underreportedなせいであまり有益な結果は得られなかった。

 そもそも私は強皮症腎を診たことがないし、病理上"onion skin"と呼ばれる血管壁の肥厚と多層化がみられること、TMA(thrombotic microangiopathic anemia)を呈しうることなども知らなかった。Captoprilを治療に用いることは知っていた(それだけならおそらく内科医なら誰でも知っているだろう)が、用量やルート、短時間に血圧をみながらtitrateしていくことなどは調べてやっと知った。

 毎日学びがあって退屈しない。そういえば先月、ACEIのうちどれが腎排泄だったかを調べたのにもう忘れてしまった。たしかenalaprilは腎排泄、lisinoprilは腎排泄ではなかったはず。captoprilはどうだったか。またTMAに関するreview(Curr Opin Nephrol Hypertens 2010 19 372)も印刷したきりまだ読んでいない。一歩一歩やっていくしか、ない。


2011/12/04

FGF23 induces LVH

Journal clubで"FGF23 induces LVH"(JCI 2011 121 4393)を発表した。これは、①慢性腎不全の患者さんは心疾患で亡くなる、②慢性腎不全の患者さんではFGF23血中濃度が高い、③FGF23濃度は左心肥大に相関する、④FGF2は心肥大を起こす、という研究結果を踏まえて行われた実験だ。

 15ページもある長編で、実験も多い。慢性腎不全cohortをcross sectionalとprospectiveに調べ、in vitroでFGF23を心筋に振りかけて調べ、FGF23がどの受容体や細胞内シグナルを用いるか調べ、in vivoでマウスにFGF23を注射して、さらにFGF23が高レベルなマウス(kl/kl)や慢性腎不全モデル(5/6腎摘ラット)を用いた。

 分かったことは多い。FGF23がFGF2と同様に病的な心肥大を起こすこと。それはFGF受容体を介すること。従来知られていた、FGF23のリンやビタミンDに関する作用に必要なKlotho co-receptorに依存しないこと。細胞内シグナルは、FGF2が用いるMAPKではなくcalcineurin-NFATであること、など。

 この実験から日常臨床に翻って言えることは、腎臓内科医は患者さんのリンをメチャメチャ本気で下げなければならないということだ。高リン血症が慢性腎不全患者における心疾患および死亡のリスク因子であることはずっと前から知られていたし、KDOQI guidelineもリンの上限を5.5mg/dlに推奨している(AJKD 1998, 31, 607-17などが典拠になっている)。高リン血症を放置するとFGF23濃度が上がってしまう。


2011/12/03

GnRH analog

ついでだからcyclophosphamideによる女性不妊のことも少し勉強した。さっきの論文(後者)がじつは女性患者にGnRH analog(triptorelin、3.75mg IM every 28 days)を投与するスタディも行っていて、投与群では下垂体を鈍磨させ卵巣をいわば冬眠状態にして、cyclophosphamide終了後にovarian failureが防がれた。非投与群はovarian failureになった。
 他にも重症SLEで効果をあげた論文(Arthritis Rheum 2005, 52, 2761-67)などいくつかの研究結果が紹介されていた。そのうちmeta-analysisが出るかもしれないが、どの論文もnon-randomizedあるいはnon-controlled studyなのでどこまで信憑性をもって有用性を示せるかは謎だ。ともかくGnRH analogは"It doesn't hurt"という論理でおそらく広く行われていると思われる。

Sassari大学

Cyclophosphamideの毒性にも色々あるが、しばしば(ことに小児科領域で)問題になるのが不妊だ。男性不妊にはsperm bankを勧めるが、testosterone療法も試されてている。イタリアSassari大学のグループ(サルディニア島にある)による論文がでてきた(Ann Int Med 1997, 126, 292-295、それにAJKD 2008, 52, 887-896)。
 前者では、testosterone 100mg IM every 15 daysをIV cyclophosphamideと一緒に受けた群(n=5)が、IV cyclophosphamideだけ(n=5)、PO cyclophosphamideだけ(n=5)の群に比べて治療完了後、三か月、六か月たってsperm countが有意に保存されていた。
 後者はpilot studyであった前者の結果を受けて行われたので、randomizationは行われなかった。Testosteronのdoseを増やして(250mg IM every 15 days)、sperm motilityやsperm structural abnormalitiesの保存、testosterone levelの向上、FSH levelとLH levelが変わらないことなども調べた。こういうデータは、自分が患者さんを診療するときに少なくとも根拠にできるから有用だ。

UNC Chapel Hill v. EUVS

 今日はrenal vasculitisの講義があった。先生はUNC Chapel Hillの出身だ。UNC Chapel Hillといえば糸球体腎炎の全米における最大のセンターであり、全米屈指の腎臓内科センターらしい。そんなことも知らなかった。そんな先生が「悔しいけどEUVS(欧州の血管炎研究グループ)のほうが質の高いスタディをしてるのよねー、でも彼らは論文を発表するのが遅い!」とか言うのを聞くと「本場で鍛えた人は違うなあ」とか思う。

 さてそんな先生の講義で分かったのは、腎血管炎(ANCA-associated vasculitits)の治療が9年前と変わっていないことだ。IV cyclophosphamideのほうがPO cyclophosphamideよりも短期間で積算投与量が少なく毒性を減らすことができるらしい。maintainanceにはAZA(azathioprine)のほうがMMF(mycofenolate mofetil)より優れている(EUVSのRCT、NEJM 2003, 349, 36-44)。

 血漿交換も、これまたEUVSがRCTをしており(MEPEX study: JASN 2007, 18, 2180-2188)腎機能の悪い例(Scr 5.8以上、あるいは透析を要する)では血漿交換とcyclosporine(とステロイド)を併用した群でESRDへの進行が有意に防がれた。彼らのprotocolが"7 exchanges in 14 days, exchange volume of 60mg/kg/session, with albumin replacement"だったので、皆それに従っている。

 以前に紹介したRAVE trialも、腎臓内科医(やリウマチ内科医)が「cyclophosphamideよりも毒性の少ないクスリはないものか?」と何年もかけて探し求めた文脈の中で生まれたと気付かされた。それでcyclophosphamideとrituximabを組み合わせようなどという話にはならないわけだ。MTXなども試され、重要臓器が冒されていないケースでは関節痛などの症状を緩和するらしい。

2011/11/23

topiramate

抗てんかん薬のtopiramateが代謝性アシドーシスを起こすという話になった(Br J Clin Pharmacol 2009, 68, 655-661)。抗けいれん薬はphenytoin、valproic acid、carbamazepineなど以外は疎遠で機序などもよく知らないが、せめて腎臓内科に関する重要な副作用くらいは知っておかねばならない。
 論文によれば、topiramateの服用によりmixed RTA(近位と遠位両方の特徴をもったRTA)が見られるという。たとえば尿中HCO3-排泄が見られるところは近位RTAと同じだが、尿pHが高まり(H+排泄が低下)尿アニオンギャップが正の値をとる(NH4+が低下)のは遠位RTAと同じだ。
 このようなMixed RTAはcarbonic anhydrase(CA)が阻害される時に見られるらしい。例として常染色体劣性遺伝の骨粗鬆症(marble bone disease)があげられる。そこでtopiramateについても調べてみると、腎に発現しているCA type II、IV、XII、すべてが阻害されることが分かった。
 それでtopiramateはmixed RTAを起こすわけだが、その副産物として尿管結石ができやすい。これはRTAでクエン酸排泄が低下する(クエン酸は尿管結石が出来ないようにするための重要なbuffer)ためだ。RTA、いつまでたっても理解が難しい。各部位の尿細管の機能、そして各部位の相互作用を理解していますか?ということだ。
 [2013年2月追加]実際にtopiramateを内服する患者のデータを見ると、尿pHが高く(遠位RTA)、FE-bicarbが高く(近位RTA)、尿クエン酸が低かった(AJKD 2006 48 555)。

元ネタ

先々月にスタッフから教わったrenin-angiotensin-aldosterone-principal cells-ENaCという流れに沿った高K血症の説明は、NEJMの有名な論文に依拠したものであることが分かった(NEJM 2004, 351, 585-92)。このスタッフは私に、毎日毎日少しずつ論文を読む積み重ねがモノを言うとアドバイスしてくれた人だから、それを有言実行しているのだなあと感心した。「ハハァ、これが元ネタか」という嬉しさもあるが。

[2019年2月追加]図は、これです。




 分かりやすく表にすると、


2011/11/11

慢性鉛中毒

最近は教科書に書いていない経験的な診療のpearlsを学ぶことと、またスタッフとしてどの様にレジデントと接し教育するかという観点から学ぶことが主だ。だから「この論文にこう書いてある」というような勉強は相対的に少ないが、そのうちの一つを紹介する。

 ひとつは高血圧、腎不全、高尿酸血症をみたら(適切な症例で)慢性鉛中毒を疑えという事。といっても高血圧と腎不全と高尿酸血症を持つ人はとてもたくさんいるから、鉛曝露をうたがう病歴(弾丸が身体に入っている、弾丸を自分で作る、鉛ペンキ、古い水道管、有鉛ガソリン、バッテリー工場勤務など)、腎外症状(消化器、貧血、神経症状など)がヒントになる。

 慢性鉛中毒が腎障害をおこす機序はよく分かっていない(Am J Med Sci 2004 327 341)が、直接尿細管障害を起こし線維化や炎症を惹起すると考えられている。高血圧や高尿酸血症を介して間接的に腎障害をおこしているかもしれない。

 さて疑ったらどんな検査をするか。血中鉛濃度は急性中毒には有効だが、鉛は血中からすぐに骨や組織に移り蓄積されるので慢性中毒の診断には有用でない。free erythrocyte protoporphyrinも、過去90日以内の曝露を調べるには有効だがlifetime body burdenを計ることはできない。それでEDTA lead mobilization testというのが行われる。

 このテストはchelating agentを投与し、骨や組織からmobilizeされて尿中に排泄される鉛を測定するものだ。EDTAは1g静注と2g筋注、尿中鉛の測定は24時間蓄尿と72時間蓄尿などさまざまなやりかたがある。いまのボスによれば、EDTA1g静注後に24時間蓄尿したので十分らしい(筋中は痛く、最初の24時間で90%程度のmobilizable leadが排泄される)。

 さて鉛のbody burdenが見つかったらどうするか。元来600mcg/72-hr urineが腎不全を起こすのに必要なburdenと言われていたが、80-600mcgでも腎不全を起こしているかもしれないという論文もある(NEJM 2003 348 277)。Chelationが全ての鉛中毒で行われるべきと言い切るevidenceはないが、この論文は、chelation therapy(1g EDTA/week)で鉛burdenが80-600mcg/72-hr urineの腎不全患者群のGFRが改善した(placeboでは悪化した)ことを示した。

2011/10/14

Bead journey

 小児腎のローテーションも終わろうとしている。最初は、回診のときに指導医もフェローもnurse practitionerも皆、子供の前で小劇団のようにおどけたり冗談を言ったりするのに戸惑った。しかし、今はそれが分かる。大学病院の小児病棟ともなると、難治の血液腫瘍や先天疾患など、あまりに重いのだ。入院期間も信じられないくらい長い。みんな修行しているようなものだ。学校にも行けず、友だちも来ず、ビデオゲームをしながらヒマをもてあそぶ姿に、めげないなと心から感心した。
 一つ面白かったのは、治療の記録をビーズでつなげていくものだ。日本にもあるのだろうか。私の記憶ではステッカーをあげていた様な気がする。これは、一日一日過ぎる度にビーズ(8mmくらいの大きさ)を紐に通していくものだ。採血に耐えた日はピンク色のビーズ、化学療法に耐えた日は大きなビーズ、幹細胞移植に耐えた日は特別なビーズ、などバリエーションがある。それでどの子も2-3メートルはあろうかというカラフルで長い長いビーズ紐がベッド脇に置いてあり、見た目はちょっと千羽鶴のようだ。

補体の色々

 こないだのatypical HUSから色々派生した。あのとき学んだC3 convertase、それを制御するCFHやCFIの異常はdense deposit diseaseにも見られる。Dense deposit diseaseとは別名membrano-proliferative gromerulonephritis type IIとも呼ばれるまれな腎臓病の一つで、その名の通り電子顕微鏡では墨で黒々と塗ったような帯状の太いelectron-dense depositが基底膜に見られる。
 また補体の話から「そういえばどうして移植腎の抗体拒絶反応(antibody-mediated rejection)ではC4d染色が陽性になるのだろう」という問いが起こり、Handbook of Kidney Transplantation(5版、2010年)を調べると補体のclassic pathwayのことが勉強になった。すなわち抗体が細胞表面に付くとC1qrsが寄ってきて、それがC4とC2を割ってC4b2aができる。
 C4b2aが取りも直さず古典経路のC3 convertaseであり、ここから前に述べたような細胞破壊と炎症惹起が始まる。ところで仕事を終えたC4b2aは様々な仕組みで不活性化され、C4dになる。Factor IとMCP(membrane co-factor protein)はその一つ。C4bもC4dも、細胞表面に共有結合でくっ付いているのでチョットやソットでは取れない。だから抗体による一通りの拒絶反応が起こった後でもC4dは足跡のように残る。

2011/10/12

testable hypothesis

 "Long Interdialytic Interval and Mortality among Patients Receiving Hemodialysis"(NEJM 2011 365 1099)を読んだ。透析セッションの間隔が開く月曜日(月水金の場合)や火曜日(火木土の場合)に死亡率や入院になる頻度が高いという結論だ。それ自体は「まあそうだろうね」と思う。

 この論文は私がスタッフの先生とscholarly activitiesについて話していたときに取り上げられたので、その観点からも学ぶことがあった。第一には、これがUSRDSという米国腎疾患患者の巨大なデータベースを分析したものであること。そういう研究もあるのかと改めて思った。

 この種類の研究はepidemiology、あるいはdata-miningとも呼ばれる。retrospective in natureだが、膨大なデータから問いに対する答えを抽出するのでおおきなpowerが得られる。人々をenrollする必要もないし、fundもそんなに要らないし、公衆衛生や疫学・統計学の人達が助けてくれる。

 第二には、研究はいかに問いを立てていかにその答えを見つけられるかを考える、頭の使いようだということ。たとえばこの論文の問いは、「米国だけ透析患者の生存率が極端に低いのはなぜか」という問いを、「米国の透析患者はいつどのように死亡するのか=それを見つければ死亡率の改善につながるのではないか」と応用できる形に言い換え、「Long Interdialytic intervalが悪いんじゃないか」という仮説を立てた。

 この仮説を検証するにも、いろんなやり方があるだろう。例えば、日曜も関係なくevery other dayで透析した群と週三日の群で死亡率を検証する前向きスタディだって考えられないことはない。でも実現困難そうだし、それならUSRDSのデータベースを解析したほうが手っ取り早い。出生と死亡はpublic record(入院や診断、治療はprivateだが)なので、患者さんの許可なしに手に入れることもできる。

 研究で大事なことは、だから、「検証できる仮説をたてること」「データを集めることのできる質問をすること」と言えそうだ。そうでないと禅問答になってしまう。何にせよこの話のあとで、フェローシップのあいだにまずはデータを解析する力を身につけたいと思うようになった。だから私はおそらくその手のプロジェクトに参画しているだろう。

2011/10/11

Atypical HUS

 HUSといえばO-157などの出血性病原性大腸菌の毒素によるものだと思っていたが、10%位の例はatypical HUSと呼ばれ、補体の制御異常によることがわかった。この疾患はヨーロッパで盛んに研究・治療されているが、うちの病院に米国でこれを初めて報告しかつ治療経験も豊富な先生がいるので症例に接しかつ学ぶことができた。NEJMのレビュー(NEJM 2009 361 1676)を復習してみよう。

 Atypical HUSはShiga-like toxinともStreptococcus pneumoniaeとも関係ない。典型的なHUSにくらべ予後が悪い。補体の、なかでもalternative pathwayに異常があってC3のみが低下しC4は正常だ。というのもclassic pathwayとlecithin pathwayではC2、C4 fragmentによってC3 conversatesが作られるのに対し、alternative pathwayではC4が消費されないからだ。

 Alternative pathwayではC3がC3a、C3bに加水分解するところから始まる。C3aは好中球を呼び寄せ、C3bはC5をC5a、C5bに分解する。C5aはやはり好中球を呼び寄せ、C5bはC6-C9を引き連れてMAC(membrane-activating complex)を形成し、opsonizationを起こす。

 これを制御する様々な仕組みがあって、ひとつはCFH(complement factor H)で、C末端で細胞膜にくっつきN末端でfactor Bと競合してC3 convertaseが出来ないようにする。またCFI(complement factor I)はC3bを不活性化する。ThrombomodulinはCFHやCFIの働きを助けるほか、TAFIa(thrombin-activatable fibrinolysis inhibitor)によりC3aとC5aを不活性化する。

 いまのところatypical HUSの原因として知られているのは、CFH遺伝子の異常、CFI遺伝子の異常、C3遺伝子の異常(C3bが不活性化されにくくなる)、他にもTHBD、MCP、CFHR1/3など補体制御遺伝子の異常やCFHに対する自己抗体などがある。これらの異常があると、感染(URIなど)を契機に補体の活性化が止まらなくなる。それで血管内皮細胞の障害から血栓が起こる。

 治療は血漿交換で、患者の多くは血漿交換-dependentになる。腎不全に陥る例が多く、移植しても遺伝子異常のタイプによっては90%で再発することがある。ヨーロッパで様々な治療が検討されているが、anti-C5 monoclonal antibodyのeculizumabは患者さんを血漿交換-independentにしたり(Pediatr Nephrol 2011 26 621)、移植後の再発を防止することができる(Pediatr Nephrol 2011 26 613)と注目されている。

2011/10/08

NGAL

 今日は小児腎領域でAKI研究の中心人物から話を聞くことができた。この人は"renal angina"という考えを提唱している(CJASN 2010 5 943-949)。AKIの研究で分かっているのは、Scrが0.3mg/dl上昇しただけでも死亡率が4-5倍に跳ね上がるということだ。つまりScrの上昇はAKIのlate markerで、そのもっと前からAKIは起こっているのである。

 心筋梗塞では、CKが上昇するより早期に上昇するマーカーTroponin Tなどが用いられ、さらに狭心症またはangina equivalentといった症状、リスクファスターを総合してできるだけ早期に診断しようとする。AKIも、そのようなバイオマーカーはないものか。AKIを発症するリスク因子はないか。

 マーカーは、NGAL(Neutrophil gelatinase-associated lipocalin)、IL-18、KIM-1、L-FABPなどが実験で用いられ始めている。NGALはとくに早期のマーカーで、たとえば心肺バイパス術後2時間で上昇する。心肺バイパスはinsultの起きる時間がはっきりしているので研究対象にしやすいのだ(Lancet 2005, 365, 1231-38)。またKIM-1は尿細管細胞の膜貫通タンパク質なので、腎臓に構造的なダメージが起き始めてから上昇する。

 この先生はとくにNGALに注目しており、先生の病院では尿NGALレベル(point of care)が試験的に臨床応用されている。NGALが陽性だがScrが上昇していない例は、Scrが上昇している例と同様に予後が悪いことわかった。これを先生はsubclinical AKIと呼んでいる(JACC 2011, 57, 1752-61)。

 リスク因子はどうか。心臓とちがってAKIになっても腎臓は痛まないので、「この症状がある患者さんはAKIの可能性が高い」という症状はない。だが、ICUの患者層を分析すると、人工呼吸器管理、昇圧剤の使用、fluid overload(15%)、造血幹細胞移植後、などはindependentなリスク因子と判った。これらを総合してリスクを層化し、マーカーを使ってAKIをrule inまたはrule outする研究が行われている。

 Scrが0.3mg/dl上昇しただけで死亡率が跳ね上がるということで、腎臓がいかに重要な臓器か分かる。また腎臓がものすごい予備能をもっており、最後の最後までScrは上昇しないことも分かる。また、他の臓器は働きがおちたら負荷をかけないようにするのに、腎臓は働きが落ちても輔液に利尿剤にと鞭打たれるのが可哀そうだ。でもそれでも黙って頑張るのが腎臓だ。

2011/10/06

Page kidney

 Page kidneyというのを習った。これはいわば腎タンポナーデで、subcapsular hematomaなどによりGerota筋膜内の圧が上がり腎血流が途絶することだ。イギリスのIrwin Pageという人が1939年、動物の腎臓にセロファンテープをぐるぐる巻きにして、その結果腎血流が低下しrenin、angiotensinの産生が増えて高血圧を起こることを示したのが最初だ。最初の症例は1951年に発表された。
 現在では、腎生検や様々な侵襲的手技、外傷などによるsubccapsular hematomaでこれが問題になる。早急に認識し経皮的なドレナージを行えば腎機能を回復することができる。とくに片腎の患者さんではこれがいっそうcriticalだ(Nephrol Dial Transplant 2006 21, 1740)。腎内圧が高ければ、少しの低血圧でも腎灌流圧がさらに低くなる。これはintra-adominal hypertensionにおけるabdominal perfusion pressure(MAP - intraabdominal pressure)と同様だ。

アミロイド

 今週はBiopsy conferenceで、アミロイドーシスの症例がでた。といっても、一般的なAL amyloidosis(light chain由来だが異常タンパクでbeta-pleated sheetを形成する)でも、AA amyloidosis(serum precursor protein SAA、二次性アミロイドーシスと呼ばれていた)でもない、fibrinogen amyloidosisだ。略してAfibともいう。

 fibrinogen amyloidosisは、fibrinogen A-alpha chainの蓄積で起こる病気だ。病理的にはCongo red陽性、lambda light chain陰性、fibrinogen陽性で診断する。蓄積するのは腎臓だけではなく、全身の沈着により動脈硬化、末梢神経障害、自律神経障害、胃腸蠕動障害なども起こる(Blood 2010, 115, 2998-3007)。さらにこの著者Dr. Arie Stangouは肝臓移植によって異常アミロイドの産生そのものを止めて病気を治癒できるかもしれないという。

 さらに話は他のアミロイドに及んだ。そのひとつは、2008年に発見されたLECT2(leukocyte chemotactic factor 2)だ。この分子が腎臓で何をしているのかは分かっていない(好中球の遊走ではないようだ)。組織学的には、congophilia(Congo redが強陽性)と広範で非特異的な沈着(糸球体のみならず、血管や間質にも)が特徴らしい(KI 2010 77 816-819)。

2011/09/25

CAKUT

 先日はgrand roundで小児腎の先生がCAKUT(congenital abnormality of kidney and urinary tract)の講義をしてくれた。同じ腎臓なのに扱っている病気が全く違うのに驚いた。治療も違う。CAKUTは小児ESRDの多くを占め、腎移植患者の約30%がCAKUTだ(The North American Pediatric Renal Trials and Collaborative Studies、NAPRTCSによる)。

 CAKUTは①"plasias(hypoplasia、dysplasiaなど形成の異常)"、②cysts、③agenesis/ectopy、④"plumbing(VUR、尿路閉塞など尿路の異常)"などが主な疾患だ。診断への手がかりは、出生前の超音波検査(羊水過少や腎低形成)、小児の高血圧、別の原因(たとえば外傷など)でCTを撮ったらたまたま見つかった、尿路感染症、低身長、長く続く夜尿症などだ。

 ①に関しては、腎低形成・異形成を単独で見られることは稀で、CHARGE症候群(coloboma、heart defects、atresia of nasal choanae、retardation、genital/urinary abnormalities、ear abnormalities/deafnessの略)など、遺伝疾患の一部として見られる。ちなみにCHARGE症候群はChromodomain-helicase-DNA-binding protein 7(CHD7)の異常と関係しているらしい。

 ②に関しては、なんといっても小児なのでARPKDがメインだ。PKHD1遺伝子の異常で無数のmicrocystsが出来て、腎臓が異常に大きくなり、それ自体が肺を押して呼吸不全を起こすほどだ。それに加えて羊水過少による肺低形成もおこる。他にもMCDK(multicystic dysplastic kidney)があって、これは両側性だとincompatible with lifeなので片側の例しかみない。病側の腎はinvolute(消退)して無くなってしまうこともある。

 ③については、先生がフェロー時代にNICU医から「出生前超音波で腎のagenesisと診断された児がおしっこしているんだけど、そんなことあるの?」というコールを受けたという笑える話を紹介された。つまり腎があるべき場所にないこともある(ectopy)ということだ。pancake kidney、pelvic kidney、horseshoe kidneyなど色んなところに腎臓ができることがある。

 ④については、今までVURしか知らなかったが、たとえば男児に見られるposterior urethral valvesなどは割と多いから覚えておかねば。診断をつけるのは簡単(VCUG)だが、まず疑わなければならない。治療はendoscopic urethral ablationだが、これは決壊寸前のダムに穴をあけるようなもので危険そうなので、まずはvesicostomyやpyelostomyで膀胱圧や尿管圧を逃がしてから行うことが多いようだ。他にもUPJO(uretero-pelvic junction obstruction)、UVJO(uretero-vesical junction obstruction)などの尿路閉塞がある。

 聴きながら、ほとんどが先天性疾患、生まれてくることすら大変で、生まれてから一日、一週間、一か月、一歳を迎えることすら難しい子供たち、そして大人になったら自分の手を離れて内科に行ってしまうという小児科の運命に思いをはせた。私も先月は尿路異常による腎疾患で移植を受けた大人の患者さんをたくさん診たので、少し身近に感じられた。


2011/09/22

AG nephrotoxicity

 今日のgrand roundは仲良しのフェローが発表したが、grand roundにふさわしい質の高さだった。コンサルトの時に私も一緒に診た症例を元に、Aminoglycoside(AG) nephrotoxicityについて、機序と対策について自信に満ちた声で適切な論文(たとえばKidney International 2001, 79, 33-45)を参照して説明していた。こういう、誰もが知っていることを深く取り上げるのが専門家に求められることだと思うし、その着眼点に脱帽だ。たとえ私が発表しなければならなかったとしても、この症例に着目してこのように発表することはできなかっただろう。
 AGによる腎障害の機序で最も有名なのは尿細管細胞の破壊による。AGの尿細管細胞への取りこみは、megalinとcubilinの複合体が主に関わっており、エンドサイトーシスによる。そのあとオルガネラ(lysosome、Goldi、ER)に運ばれ、phopholipidosisと呼ばれる膜破壊を起こす。これにはAGの強い陽性荷電(AGは名前の通りアミノ基がたくさんあって陽性なのだ)とphospholipase活性の阻害が関わっているとされる。AG濃度がオルガネラ内で高まると、オルガネラが破裂してAGが細胞質内に飛び散る。これがアポトーシスのスイッチを入れたり(cathepsin、caspace)、ミトコンドリア機能不全を起こしたり(PPAR-alpha, Bax)して細胞死に導く。さらにAGはNa/K-ATPaseをはじめ様々なcell membrane transportersを阻害する。
 尿細管の崩壊により尿細管内腔はjunkでいっぱいになり、tubular obstruction、backleak(間質への原尿の逆流)、Bowman嚢内圧の上昇(filtration pressureの低下)などによりGFR低下をきたす。でもこららはGFR低下の原因の一部にすぎないと彼女はいう。他にもAGはglomerular effects、vascular effectsなどにより腎障害をきたす。Glomerular effectsとは①mesangial contraction、②mesangial proliferation、③diffuse swelling of the filtration barrier with neutrophil infiltration(高濃度で)、④loss of filtration barrier(陽性電荷のAGが沈着して基底膜が陰性電荷を失うから)など。Vascular effectsとは腎細動脈の収縮(①T-G feedbackのactivation、②vasoconstrictorsの産生などにより)だ。
 これらの対策として(使わずに済むなら使わない、使うなら最小限の期間にする、などの頓智みたいなのは別にして)感染症科医が薦めるのがconsolidated regimenだ。これはAGがpeak concentrationに依存して効果を発揮し、腎障害はtrough levelがさがるほど起こりにくいという考えで行われる、一度に沢山投与(7mg/kg)して間隔を空ける方法だ。残念ながらanimal dataでしか有効性は確認されていないが、今のところはこれが推奨されている。他にもstatinが効くとかCa channel blockerが効くとか、endocytosisを阻害するblebbistatin(endocytosis-myosin 6 inhibitor)とか色々あるが、実験の域を出ていない。

2011/09/20

とても息の長い論証(下)

 さて、この実験が興味深いのは、PGC-1-alphaの二つの働きが想定されるからだ。ひとつは、AKI障害時に抑制されることで酸化的リン酸化のスイッチを切り、酸化ストレスを最小限にして細胞・ミトコンドリアがsepsisの嵐の中を生き延びられるようにしているという仮説だ。だから治療への応用でいえば、いくら回復に関係しているからと言ってsepsis真っ盛りの時期にPGC-1-alphaのスイッチを入れるのは得策ではない。
 もう一つは、PGC-1-alphaがAKIの回復に際しては発現がup-regulateされ酸化的リン酸化やミトコンドリアの若返りに関わる遺伝子群を一斉にオンにするということだ。ここでの質問は、いったい何がPGC-1-alphaをupregulateしているのかということだ。それが見つかれば、治療に応用できるかもしれない。
 この実験ではマウスにenxotoxinを注射し、注射後18時間後に10ml/kgの生理食塩水を注射することで42時間後にはAKIの回復が図られるというモデルを用いた。では、この生理食塩水が何かしているのか?でも生理食塩水なんて所詮は塩と水、できることはvolumeを増やすことだけだ。10ml/kgという量がマウスにとってどれくらいなのか分からないが、人間なら700-1000mlにすぎない。これっぽっちの塩水でsepsis AKIが回復するなら苦労はいらない。
 おそらく食塩水はみせかけで、42時間という時間が鍵なのだろう。このモデルはendotoxinを注射しているので、実際のsepsisとは違いendotoxemiaはほんの短時間にすぎない。だからendotoxinとそれによる一連のcytokine、炎症カスケードも時がたてば過ぎ去り、そこから回復期に入るというわけなのだろう。結局感染症を治さないとAKIも治らない。でもPGC-1-alphaのターゲットPPAR-alphaがsepsis AKIを予防するかもしれないという論文もある(KI 2009, 76, 1049)から、このあとどんなことが分かるか期待しよう。
 あたかも長い小説を読んだあとのような感じだ。最後の考察はファカルティーの前で発表しなければならなかったのだが、Toastmasters効果もあって皆をかなり好意的に印象付けることができた。元来私はJounal clubが苦手であるのにも関わらずだ。Toastmasters clubには最近行けていないが、前の街で学び経験したことが知となり肉となっているのを感じることは喜びだ。10個のスピーチを終え手にしたCC(competent comunicator)というタイトルは伊達じゃない。またToastmastersに自信を持った。

とても息の長い論証(中)

 このあと作者はどの遺伝子がいったい上流にあって鍵を握るのだろうと考えた。遺伝子群といってもまだ数百もあるのだ。ここで、どういうわけかPGC-1-alphaに注目して、他の遺伝子との相関が最も強いことを示した。そのあとin situ hybridizationによって、腎臓においてPGC-1-alphaがoxydative phosphorylationの行われている場所にoverlapして発現されていることを示した。
 ここまでで、①septic AKIでは腎の酸素消費が落ちること、②septic AKIではミコトンドリア機能不全が起こること、②PGC-1-alphaが酸化的リン酸化に関わる遺伝子群をシャットオフすることが分かった。次に彼らが確かめようとしたのは①と③の間を直接つなげて示すこと、すなわち「septic AKIでPGC-1-alphaの低下が腎の酸素消費を低下させること」だった。
 興味深いのは、彼らがその相関を逆に「PGC-1-alpha活性が上がると酸素消費量が増える」ことで示したことだ。ここから話はAKIの障害から、AKIの回復に移る。彼らはhuman proximal tubular cellにTNF-alphaを与えるモデルを用いた。まずTNF-alphaが細胞の酸素消費をtime- and dose-dependentに低下させることを示し、次にadenovirusでmurine PGC-1-alphaを導入した細胞では、TNFによって低下した酸素消費が回復することを示した。
 さらに「PGC-1-alphaがAKIの回復に必要」という仮説を立てて、例によって逆に「PGC-1-alphaがないとAKIの回復が遅れる」ということを示そうとした。ここでは腎尿細管細胞のみで転写される遺伝子Sglt-2-Cre miceとfloxed PGC-1-alpha mice交配させて作った(この技術も私の頭を越えているが)proximal tubule-specific knock-out modelを用いた。ここまで大量の実験データでもうおなかがいっぱいだが、このあと(私の)考察。続く。

とても息の長い論証(上)

 今日のJournal clubは、pure basic scienceの論文だった(J Clin Invest 2011, doi:10.1172 / JCI58662)。sepsis AKIモデルを使って、順を追った息の長い論理的思考で実験を重ねた大作だ。まずsepsis AKIモデルマウスでendotoxin injection後にrenal blood flowが著しく低下するにも関わらず酸素消費量が減らないことを示した。血流量はmicro ultrasoundで、酸素消費量はBOLD MRIとHIF-1の活性で調べた。
 そのあと、作者は酸素消費が低下するのはミトコンドリア機能低下によるのだろうと考えた。ここまでは、『ICU BOOK』のMoreno先生も書いている"cytopathic dysoxia"というやつだ。そこで、電子顕微鏡で尿細管細胞を観察しミトコンドリアは腫れあがり大量のvacuoleで満たされていることを示し、また病理標本でcytochrome c oxydaseのin situ activityが低下していることを示した。
 そのあと作者は、ミトコンドリア機能不全を起こす一連の遺伝子レベルの出来事をorchestrateしているのは一体なんだろうと考えた。そこで何千という遺伝子のexpression profileを分析し、そこからself-organizing mappingという手法を使い「endotoxinによる障害で発現が抑制され、AKIの回復時には発現が復元する」ような遺伝子群を抽出した。
 これらの遺伝子群がいったいどんなことに関わっているのかを調べるため、canonic pathway enrichmentを行った。これはもはや私の理解を越えたポストゲノム時代のブラックボックスだが、Ingenuity Pathway Analysis toolなる分析ソフトウェアに遺伝子たちの情報を放り込むと、それがどんな機能にどう関係しているかを明らかにしてくれるのだ。その結果、驚くべきこともないが前述の遺伝子群はoxidative phosphorylationやmitochondrial dysfunctionに関係していることが分かった。まだここまでで半分、くどい位息の長い論証と実験を重ねていくので続きはまた。

2011/09/19

renocide

 急性腎不全でコンサルトが来た頃にはダメージはすでに致命的で腎臓の回復は望めないことがとても多い。まあ要するに、「腎臓がダメになっちゃったので後はよろしく(透析しろや)」と言うわけだ。腎臓内科にいることでselection biasが掛かり、NSAIDs、造影剤、抗生剤、低血圧、さまざまな理由で次々といとも簡単に腎臓がダメになってしまうのを目の当たりにすると悲しくそして虚しくなる。そこで思いついた言葉は、"genocide"から派生した"renocide"。renoは腎臓、cideはkillingということ。
 "The damage is done"、"Kidneys are done"と言うことに未だに抵抗感を感じる。「他の科が何を言おうが関係ない、腎臓内科には彼らに分からないものが分かるんだから、全知を賭けて何としても腎臓を守らなきゃ…!」という使命感があるからだ。これがもう少し経験すると「治るものは治る、治らないものはどうにもできない」という区別が付くようになるだろう。治るものは治し(その道筋を他科の先生方にしっかりつけてあげる)、治らないなら透析までの時間を遅らせたり長生きできるようにしてあげる方法を考える。これは墨守あるいは墨攻に近い。

2011/09/16

Zr

 こないだ透析の原理に関するレクチャがあって、教えてくれたのは元々(医師になる前に)メカニクスを専門にしていた物理学者みたいな人でかなり専門的な話だった。数式がたくさん出てきてその手の成書でも読まない限り理解できそうになかったが、有意義だった。

 たとえばconvectionとdiffusionの違いがよりはっきり分かった。日本語では「限外濾過」と「拡散」というふうに説明するので"convection"という言葉をきくたび戸惑っていたのだ。辞書では「対流」と訳されているが、要は風が吹けばホコリも一緒に運ばれ、波が押し寄せれば水と一緒に砂や魚も運ばれるということだ。このように溶質が水と一緒に運ばれることを"solvent drag"という。

 またsorbent dialysisというのもより分かった。これは吸着剤により透析液を再利用しようということだ。活性炭、urease、zirconium phosphate、zirconium oxyde/carbonateの層からなるカートリッジを通過する間に透析液中の汚物が吸着されbicarb、sodium、acetateなど必要な成分が加わる。ジルコニウム(Zr)なんてオシャレだ。

 現在は汎用されていない技術だが、じつは透析液のpurificationとしては簡便な上に効率もよい。災害時など役に立つかもしれないし、セシウムも吸着できるらしいから体内から除染するのに役立つかもしれない。持続的に少量の透析液をポンプでまわし再生し続け、同じポンプで血液を少しずつカテーテルから引いて24時間透析する、wearable dialysis machineの研究も行われている。

RAVE

 同じ薬でも、科によって違う病気に用いられて、その薬がもつイメージが違う。たとえばrituximabはその良い例だ。hematology/oncologyにいた頃は、なんとなくCHOPのオマケ(R-CHOP)のように軽く使っていた。もちろんSIRS様の副作用を起こした例も経験したのでbenignな薬でないことは知っているが、他のheavyな化学療法に比べると軽い感じがした。リウマチ内科にいた頃は、使う機会こそなかったが、いろんな病気に用いられ始めておりimmunomodulatorsの一つくらいに感じられた。

 それが、腎臓内科に来たらみんなのこの薬に対する見方がチョット違うのに気づいた。こないだ「ANCA-associated vasculitisにrituximabとcyclophosphamideとどちらがいいか?」という問いに対する二つの論文(NEJM 2010, 363, 211とNEJM 2010, 363, 221)がgrand roundで紹介された。前者はANCA-associated renal vasculitisを対象にしたもので、12か月の時点で両者にremission、severe adverse effectの率に差がなかった(not superior)。

 後者(RAVE study)はANCA-associated vasculitis(Wegener or microscopic polyangiitis)を対象にしたもので、6か月の時点でrituximab群のほうがprimary endpoint(BVAS/WGスコア)に達する割合が高く(non-inferiorityを満たし)、再発患者のremissionについてはcyclophosphamideより優れていた。severe adverse effectの率には差がなかった。

 先生方は、ritaximabには否定的な意見であった。たしかに後者の論文は明らかにフォロー期間が短くこれだけでは何も言えない。前者もnot superiorならあえて高額なrituximabを選択することはないということになる。fertilityが問題になる場合は別だが、ANCA-associated vasculitisはSLEと違いたいてい50代から発症するのであまり問題にならない。私は「どっちも一緒に使ってみたらどうかな?」と思ったが。


インスリンの作用

 前回のJournal clubは、CJASNのインスリンがカリウムを細胞内にシフトさせるのにグルコースが必要か?という面白いテーマについての研究論文だった(CJASN, 2011, 6, 1533)。研究のデザインと結果じたいにはあまり説得力がなかったが、話としては勉強になった。
 まずカリウムについての基本的な知識を学んだ。体内のカリウムは90%が細胞内に存在するが、そのうちの70%は筋肉に存在する。カリウムが細胞外にシフトするのは、高血糖(高浸透圧により水と一緒にカリウムが出てくる)、アシドーシス、細胞自体が壊れる時(cell lysis)。カリウムを細胞内にシフトするのはインスリン、beta agonist。
 インスリンはもちろんグルコースを細胞内にシフトする働きもある。しかしこの働きはインスリン抵抗性がある患者さんでは落ちてしまう。そこで研究者が立てた質問は「糖尿病患者では、グルコースを細胞内にシフトしにくくなるだけでなく、カリウムも細胞内にシフトしにくくなるの?」というものだ。
 それで彼らは、糖尿病患者と健常な患者に一定速度でインスリンを流し、glucose uptake rateとpotassium uptake rateを調べた。glucose uptake rateはインスリン抵抗性の指標に(研究目的で)よく用いられるが、potassium uptake rateは、計算式があったが色々想定している条件が多そうで信憑性はよくわからない。
 ともかく結果は、両者の間でpotassium uptake rateは変わらなかった。このことから、インスリンが起こす細胞内シグナルのカスケードはグルコースのuptakeとカリウムのuptakeで別であり、インスリン抵抗性は前者にしか関係しないということが推察される。EditorialにAKT、aPKC、MEK1/2、など大学時代ならエキサイトしたであろう様々なシグナル分子を載せた図があった。

LVAD

 LVAD(left ventricle assist device)についてのレクチャがあった。というのもLVAD(やその他のcirculatory support)は心移植までのつなぎとしての治療(bridge to transplant, BTT)として用いられてきたが、いまではdestination therapy、つまりLVADと一緒にどこまでも行こうという治療に代わって来たからだ。

 2001年にLVADと内科的治療を比較した論文が出て(NEJM 2001 345 1435)、LVAD群は1年生存率に優れていた(50%)が2年生存率には差がなかった。それでLVADは「LVADで余命一年あげます、それまでに移植するか回復するかしましょう」という治療に用いられてきた。

 その後、2007年の論文(NEJM 2007 357 9)では改良されたLVAD(Heart Mate II, HMII)が1年生存率を70%まで向上させることが示された。2009年、旧式LVAD(XVE)とのhead-to-head trialでHMIIの優位性が示され、ここで初めてFDAがLVAD(HMII)をdestination therapyとして認可した。

 さてこのHMIIであるが、ローターが約9000rpmで常時回転して左室から動脈まで血液を送る仕組みだ。流量は主に後負荷で規定さるので、左室圧と大動脈圧の差が大きい収縮期により血液が流れる。大動脈圧によっても異なるが3-10L/min程度の流量を出力することができる。

 この機械は心臓に埋め込まれているが、drivelineというコードで体外のmonitorに接続され、monitorはさらに電源あるいは二つの体外バッテリーに接続される。二つ合わせたバッテリーの持続時間は約8時間で、患者さんは自由に動くことができQOLが上がる。心移植患者よりLVAD患者のほうがQOLが高いという論文も出た(JACC 2010 55 1826)。

 さて、LVAD患者が透析をするとどうなるのか。こないだ一件その経験をした。最初はCVVHDF、そのあとHDをした。結果は良好で、透析中も血行動態はよく保たれた。おそらくそれは、透析中の血圧低下を代償するようにLVADからの流量が増えるからだろうと推測する。また透析で除水するとはいえ前負荷が減りLVAD流量が下がるほどではないということだろう。これからこういう患者さんを診る機会が増えるかもしれない。


APS

 抗リン脂質抗体症候群(antiphospholipid syndrome, APS)という病名はとても有名だし、日本でもアメリカでも国家試験に頻出だ。しかし実際の臨床であまり目にすることがないせいか、卒業して七年たってもいまだに表面的な知識と理解で終わっていることに気付いた。いま一緒に働いている指導医の先生はイギリスでリウマチ内科医をしていただけあって、腎臓病でないこういう病気のことでも、さりげなくどっさり教えてくれる。
 たとえばリン脂質抗体には三種類あってそれぞれ①anticardiolipine IgG & IgM、②anti-beta 2 glycoprotein 1、③lupus anticoagulant。①では、IgMよりもIgGのほうが血栓塞栓のリスクに相関している。③はPTTが上昇するのと、Russel viper venomで検査する。
 APSの症状といえば血栓症や流産が有名だが、livedo reticularis(網状皮斑)も重要なサインだ。網状皮斑といえばcholesterol emboliと1:1に決めつけていたのが恥ずかしい。他に網状皮斑を起こす主な病気には、polyarteritis nodosaやSnudden症候群(網状皮斑とCNS vasculitis)がある。またごく稀に、APSは両側の副腎静脈塞栓症を起こしてショックになることがある。

2011/09/10

RTAふたたび

 回診で、例の教え上手な先生が尿細管性アシドーシス(RTA)、遠位RTAと近位RTAのことを説明した。しかしRTAは難解なので、さすがの先生でも「なぜそうなるのか」をすべて明らかにして解説するのは大変げだったが。彼の説明を復習して、自分で教えるときのための糧にしよう。

 彼はまず、アメリカの一般的な食事では酸を1mEq/kg/dayくらい摂取するというところから始めた(主なsourceは肉)。身体が酸性にならないように、腎臓ではH+を遠位尿細管の介在細胞から捨てている。遠位尿細管でNa+が再吸収されることによるnegative driving forceが、代わりにK+とH+を捨てさせる仕組みだ。

 それに対してHCO3-は、腎臓でほとんど捨てられることはなく、近位尿細管で90-95%、わずかな残りを遠位尿細管で再吸収している。腎臓がHCO3-を捨てるのは、体内にHCO3-が充満している時([HCO3-]が24以上の時)で、この時には尿pHがアルカリ性になる。しかしこれは例外的で、尿pHがアルカリ性になるのは他に、urea-splitting organism(proteus, saprophyticus, some E. coli)、それにRTAくらいしかない。ただし近位RTAでは血中から運ばれてくるHCO3-の量によって尿pHは変わる。アシドーシスが進むと[HCO3-]が下がるので少ししか尿中にHCO3-が来ず、それらの幾分かは遠位尿細管で再吸収されるので尿pHは下がる。

 尿中に捨てられたH+は、そのままでいることはなくNH3バッファーと結合してほとんどNH4+になる。だから遠位尿細管で酸排泄が出来ているかどうかは、尿中NH4+を調べれば分かる。おなじnon-AG metabolic acidosisでも、酸排泄が出来ない場合には尿NH4+は低下するし、腎外でHCO3-を喪失している場合には腎は代償的に酸を排泄しているはずだ。

 しかし尿NH4+は簡単には計測できないので、代わりに尿anion gap(UNa+UK-UCl)を用いる。これはanion gapというが要は尿中のunmeasured anion - unmeasured cationを計算している。尿HCO3-がないのは、前述のようにHCO3-はほとんど再吸収され尿中には無視できるほどしか残らないからだ。NH4+はcationだから、これが多ければ尿anion gapはマイナスとなり、少なければプラスとなる。ちなみにHCO3-はanionだから、これが多くてもプラスになる。と言うわけで全てのRTAで尿RTAはプラスになるはずだ。

 ただし尿anion gapが使えない場合が二つある。ひとつは尿Naが低値(less than 20mEq/l)の場合で、distal sodium deliveryがないのでnegative driving forceが起こらずH+も排泄できない。二つ目はunmeasured acidがある場合で、たとえばhippuric acid(トルエン中毒)やketoacidosisなどではこれらがunmeasured anionなので尿anion gapが使えない。この時には尿osmolar gapによって尿NH4+を推定する。

 近位RTAでは尿管結石が見られないのに対して遠位RTAではみられる理由も習った。RTAに限らず、アシドーシスがあると近位尿細管でのanion再吸収が亢進し、bicarbonateのみならずcitrateも再吸収される。尿中のcitrateは尿中Ca++が石を作らない様にbufferしているので、これがなくなると石ができやすくなる。ところが近位RTAではcitrateの再吸収が起きないため石ができない。

 遠位RTAでも前述の理由(citrateが再吸収される)により石が出来やすいが、普通の石(calcium oxalate)ではなくcalcium phosphate stoneができる。それは尿pHがアルカリ性になるからだ。calcium phosphate stoneができるのは他に、hyperparathyroiismなどがある。PTHはphosphateをどんどん尿に捨てるホルモンだし、骨からCa++を遊離させて血中からどんどん尿にCa++を運んでくるし、Vitamin Dを25-OHから1,25-OHにして腸管からのCaとPの吸収を促進するからだ。

 他にも、なぜ近位RTAはbicarbonateに不応で遠位RTAはbicarbonateに反応するかとか、いろいろ習ったがこれくらいにしておこう。RTAは深淵なテーマなのでこれからも何度もrevisitすることになりそうだ。いろいろ読んでいろいろ聞いて、自分なりの説明ができるようになれば良いと思う。そして、経験を積んで自信を持って教えたり診療したりできるようになりたい。

2011/09/09

crud

 腎臓内科外来では、physician assistantが患者さんの尿検体をスピンして鏡検できるように用意してくれている。だから患者さんを診察した後、その一角にいってすぐさま尿沈渣を見ることができる。今日も色んなものが見えたが、良くわからないものが見えることもある。今日はよくわからない塊が見えて、指導医の先生に聞くと"this is a clumped crud"と言っていた。学問的にはdebrisとでも言おうが、要するにカスというかゴミというか、あまり意味はない。辞書を引くと"a deposit or incrustation of filth, grease, or refuse"、"something disgusting"とある。

リチウム中毒

 リチウム中毒の患者さんを初めて診療して、リチウムについて勉強した。リチウムは双極性障害に用いられる薬だが、副作用も多い。使いはじめた初期には約30%の患者さんにnephrogenic DIをおこす。リチウムは遠位尿細管のprincipal cellにENaC(ナトリウムチャネル)を通じてナトリウムに紛れて入りこみ、Glycogen synthese kinase-3 betaの障害などにより尿細管細胞をADH不応にする。リチウムはナトリウムよりも数倍ENaCへの親和性が高いのだ。初期であればamilorideでENaCをブロックすることでリチウムの尿細管細胞への流入を防ぐことができる。

 他にも、副甲状腺機能亢進症による高カルシウム血症(機序は不明)、慢性間質性腎炎なども起こす。またリチウムはunmeasured cationなので、リチウム中毒の患者ではanion gap(= unmeasured anion - unmeasured cation)が低下する。anion gapが低下するのは他に、hypoalbuminemia、paraproteinemia(paraproteinはプラス電荷なのだ)、hypermagnesemiaなどがある。

 リチウムはvolume of distributionはそこまで大きくない(0.6-0.9L/kg)ので透析には適しているが、長期間リチウムを服用していれば身体中にリチウムがいっぱいだ。だから、いくら透析して血中・細胞外液からリチウムを除いても除き切れるものではない。今度の例でも、透析前に4mEq/lだった血中濃度は、透析を開始して2時間後に1.1になったが、透析をやめて数時間後には1.7にもどった。

 リチウムはほとんどが腎で排泄される。NSAIDs、ACEIなどGFRを下げる薬を飲んでいると、排泄が不十分になり血中濃度があがる。脱水や利尿剤(体液量が減ってしまう)などもリスク因子だ。リチウム中毒では消化管症状(嘔吐や下痢)が起こるので、これが脱水をきたし悪循環になる。だから十分に輔液して腎からのリチウム排泄を促す必要がある。

 リチウム中毒による神経症状は、透析などの手段でリチウム濃度を下げることによって回復するか。回復する場合が多いが、SILENT(the syndrome of irreversible lithium-effectuated neurotoxicity)という症候群もあって小脳症状、錐体外路症状などが残ることもある。そんなわけでリチウムは厄介な薬だが、mood stabilizerとしてvalproic acidなどと並びいまだに良く使われているので、中毒の治療には慣れておかなければならない。

[2013年3月追加]リチウムによる腎障害に特徴的な画像所見として、punctate echogenecityやmicrocystic calcificationが提案されている(J Ultrasound Med 2012 31 637)。GSK3β障害がAQP2をdownregulateする機序の一つにCOX2-PGE2経路のupregulationが示唆されている(Am J Physiol Cell Physiol 2012 302 C131)。

2011/09/07

虚血に弱い

 尿細管にも虚血に強い場所と弱い場所がある。腎臓における場所としては、outer medullaが虚血に弱い。ここは血行が届きにくい場所だからだ。ネフロンにおける場所としては、近位尿細管が虚血に一番弱く、遠位尿細管は虚血に比較的強い。だからFENAとFEUREAで、前者が低く後者が高いような場合には、近位尿細管の障害を疑う。

 というのも、Naは近位だけでなく遠位尿細管でも再吸収されるから、たとえ近位尿細管が障害されてもまだ再吸収できるからだ。なぜ近位尿細管のほうが虚血に弱いのかは、よく知らない。たぶん、近位尿細管は浸透圧勾配を維持したり様々な溶質を大量に再吸収するためにたくさんATPをつかっているので、その分虚血に弱いのだろうと推察する。

normotensive ischemic acute renal failure

 今度の先生は、気軽に良質の論文を紹介して臨床に応用するのが得意だ。こないだもNEJMのnormotensive ischemic acute renal failureについてのレビューを紹介してくれた(NEJM 2007, 357, 797-805)。これは「血圧が高い患者さんは、収縮期血圧が100-115mmHgに下がっただけでも腎が虚血になる」とか「急性腎不全がearly sepsisの兆候なこともあるから感染を見逃すな」とか賢明な知恵が書いてあるのみならず、分子や細胞レベルで急性尿細管障害を説明しており読んでいて「今見ている患者さんにはそんなことが起こっていたのか!」と勉強になった。

 たとえば、急性腎障害でcastをみるのは、尿細管障害によるNa再吸収障害(尿細管内のNa濃度上昇)がTamm-Horsfallタンパクの重合化を起こしこのタンパクがジェル状になるからだ、とか。腎虚血によるATP不足がbrush borderを喪失させたりNa-K ATPaseや細胞間基質を逆向きにしたりしてしまう(血管側にあるべきものを内腔側にしてしまう)とか。論文の図3では、虚血に伴う尿細管障害の一連のメカニズムが美しく描かれ目からうろこだった。ATNといっても、実際には単に尿細管が壊死を起こすだけではない。もっと多様な病態生理がそこにある。

2011/09/04

Free water clearance

 高ナトリウム血症の患者さんでは、体内にfree water deficitがあるのはもちろんのこと、尿や不感蒸泄により体内からfree waterを喪失している。不感蒸泄は「不感」という位だからどんぶり勘定でしか測れないが、尿中のfree waterはfree water clearanceという計算式で算定することができる。

 腎臓がピュアに血漿浸透圧と同じ尿(等調尿)を排出している時には、尿中に自由水は存在しない。希釈尿を排出しているときは、尿中の全ての溶質を等調尿で排出したらどれだけになるかという尿量(※)と、残りの自由水という風に分けて考えることができる。

 まず※について考えよう。尿中の全ての溶質は、尿量×尿中浸透圧濃度で求めることができる。これを等調尿で排出した場合の尿量は、尿量×尿中浸透圧濃度/血中浸透圧で求められる。これは実はV×Uosm/Posm、クリアランスの式に他ならない。実際こうして求めた※のことをosmolal clearance(Cosm)という。

 これをあてはめると、自由水は、尿量-(マイナス)Cosmとなる。これは自由水クリアランスというが、この名前は私には紛らわしい。この時のクリアランスは「一日にどれだけの自由水が体内から排泄されたか」という意味であり「物質Xが単位時間にどれだけの血液から除かれたか」という定義とは違う気がする。なお実際の計算には、尿中浸透圧を構成する電解質成分だけを考える(尿素や糖は考えない)ので、Uosm は尿Na+尿K、Posmは血中Na×2を当てはめる。

天の恵み

 尿細管の輸入細動脈(afferent arteriole、"A for arrival")と輸出細動脈(efferent arteriole, "E for exit")がGFRを保つために天から授かったのがautoregulationだ。腎血流が低下しても、輸入再動脈を拡張してできるだけ血液を受けられるようにし、かつ輸出細動脈を収縮して少ない血液量でも原尿濾過が起こるような仕組みだ。輸入細動脈を拡張するのはprostaglandin、輸出細動脈を収縮するのはAT(angiotensin)2。乾燥した陸上でも生物が生き延びられるよう発達したと私は考えている。

 天の恵みに感謝するのもよいが、現実生活にはこの働きを障害する事ばかりあって患者さんは腎機能を落とす。NSAIDs(イブプロフェンのような鎮痛剤)はプロシタグランジンの阻害薬だし、高カルシウム血症、Tacrolimus、血管造影剤はどれも輸入細動脈を収縮させ腎障害をおこす。もともと腎血流が少ない患者さんほどこれらの状況で腎障害がおこりやすい。それで、たとえば血管造影剤による腎症を防ぐのに生理食塩水の輔液が用いられる。

 

ミニ講義シリーズ

 今月からコンサルトで、教育熱心で有名な先生と一緒に働いているので再び習得曲線が急峻になった。今回は、知識もさることながら、いかに分かりやすく説明するかというのが勉強になっている。この先生が回診中にレジデントや学生に説明するのを聴くと、分かりやすさにおもわず感心してしまう。

 たとえば、高カリウム血症を診たときにも、「これはAだ、これはBだ、とあてずっぽうなアプローチではいけないよ」と、系統的な説明を始める。まず溶血、つぎに細胞内外のシフトの話をして、それから腎臓でのカリウム排泄の話になる。

 そこには大きく①GFRの低下、②遠位尿細管へのNa delivery、それに③遠位尿細管でのK排泄があるという。①は腎不全、②は心不全や体液量低下、さらに③についてレニン→アンジオテンシン→アルドステロン→アルドステロン受容体→遠位尿細管principal cells→ENaC(尿細管内腔側のNaチャネル)の働きを順を追って説明する。

 そのうえで、レニンが低下するのは糖尿病性腎症(RTA4、糖尿病性神経障害によりレニン産生に必要なsympathetic toneがでない)、アンジオテンシンの働きを抑えるのはACEI/ARB、アルドステロンの産生を抑えるのはheparinやketokonazole、アルドステロン受容体に拮抗するのはspironolactoneやelprenolone、尿細管細胞自体が障害されるのはinterstitial nephritis、そしてENaCを阻害するのはamiloride、triamterene、trimetoprim、それにpentamidineと説明する。

 こんな風に流れるように、しかも各パートごと噛んで含めるように説明するので学生もレジデントもなるほどと感心して聴いている。先生は回診で高カリウム血症に出会うたびにこの説明をするので、非常に慣れている。高カリウム血症に限らず、低ナトリウム血症でも透析の原理でも、このような分かりやすいミニ講義シリーズがのレパートリーがたくさんある。

 私もそういう型を身につけてペラペラ教えられるようになりたいと思っているので、この先生について盗めるだけ盗もう。


recover

 頻出の英単語で意味を知っていると思っていても、使われる文脈を間違えていることがある。たとえばrecoveryと言う言葉だ。こないだ移植腎の機能が悪くなり透析にもどった患者さんを見た。こういうとき、免疫抑制剤は不要になるので一つ一つ減らしていく。このとき、たいていはTacrolimusを先に減らす。それはTacrolimusがafferent arterioleを収縮させることでGFRを下げるので、これを止めれば患者さんにいくらかのGFRを戻すことができるかもしれないからだ。

 さて、それを学んで私はこの患者さんのカルテに「Tacrolimusを止めよう、それは止めることで患者さんの腎機能が回復するかもしれないからだ」と書いた。すると指導医の先生が「TacrolimusによるGFRの低下は病気ではなく、純粋に血行動態の問題なので、薬をやめてGFRが上がるのはrecoverとは言わない」という。またこの話を看護師さんにした時も、「あなたは患者さんの腎機能が戻って来ると思っているの?」といぶかしがられた。

 違いがよくわからないので辞書を引いてみると、recoverとは"to bring up to a normal position or condition"とある。看護師さんの発言は、この辞書の定義で説明できそうだ。recoverというと腎機能が元に戻り透析がいらなくなるという風に聞こえるのだろう。指導医の先生が言いたかったのは、recoverというのは何らかのダメージから回復するということで、たとえば薬剤性腎障害が薬剤をやめて良くなるような場合に使うと言いたかったのだろう。

2011/08/25

suPAR

今週のjournal clubは二本の興味深い基礎研究の論文が紹介された。一つ目はカリウムチャネル遺伝子のひとつ(KCNJ5)の変異が細胞内へのカルシウム流入を介してアルドステロン産生と細胞増殖を起こすことを示した、アルドステロン産生副腎腫瘍の病態生理の一部を明らかにする論文(Science 331, 768-772, 2011)。

 この研究者は、遺伝性アルドステロン産生副腎腫瘍の家系を探し出し、腫瘍の遺伝子(exome)をくまなく調べた。そして共通するsomatic mutationを見つけ、その部位が生物種を越えて保存されていることを示した(進化の過程で保存されているということは、それだけ生存に重要と考えられる)。さらにたんぱく質構造解析により変異部位はチャネルの透過特異性に重要ということも示した。

 もう一つの論文は、FSGS(原因不明のネフローゼ症候群、治療法も確立していない)の原因に、circulating urokinase receptorが関与しているというもの(Nature medicine 17, 952-960, 2011)。FSGSは移植した腎臓にも起こるぐらいだから、この病気を起こす何らかの"circulating factor"(血中を流れる未特定の物質)があるに違いないと考えられていた。

 この研究者はすでに腎臓糸球体の足細胞の細胞膜にあるurokinase receptorが、細胞間器質のbeta-3 integrinなどを介して足突起のeffacementを起こすことを知っていた。さらに研究を進めて、urokinase receptorは細胞膜を離れて血中を循環することを突き止めた。

 そこで、①FSGSはcirculating factorによると考えられている、②urokinase receptorは糸球体病変を起こす、③urokinase receptorはserum soluble urokinase receptor(略してsuPAR)として血中を漂っている、という考えを総合して、④suPARがcirculating factorなのではないか?という推論を立てそれを証明しにかかった。

 調べてみると、FSGS患者の血漿には、原疾患を問わずsuPARの濃度が高いことが分かった。また患者血清を健康なヒトの足細胞に振りかけるとbeta-3 integrinが誘導されることが分かった。この効果はrecurrent FSGS患者の血清でより大きく、患者血清に抗suPAR抗体を混ぜると打ち消された。

 さらにsuPAR遺伝子(plaur)ノックアウトマウスを作製し、このマウスにsuPARを大量静注したり、wild typeのマウスにノックアウトマウスの腎臓を移植したり、さらにはwild typeのマウスにplaur遺伝子入りのプラスミドを組み込んでsuPARを異常発現させたマウスを作ったりして、suPARがFSGSを起こすことを美しく論理的に示した。

 これは、膜性腎症にPLA2Rが関与していることが判ったのに続き、難病であるネフローゼ症候群の病態解明につながる重要な論文だ。これからさらに、suPARがなぜFSGS患者で異常に発現しているのか、suPARを除去すれば病気は元に戻るのか(残念ながら今のところ血漿交換はFSGSには効かない)、など研究が進んでいくことだろう。

2011/08/21

jade and dab

 最近学んだ英単語は、jadeとdabだ。Jadeとは翡翠(ヒスイ)のことだけど、「へとへとに疲れさせる」という意味があるので、主にjadedという過去分詞形で「疲れ切った」、転じて「飽き飽きした、うんざりした」という風に使われる。Tiredに近い表現だ。移植コーディネータが「私たちはこの仕事が長いから、患者さんのさまざまなトラブルにjadedなこともあるけどねー…でもおおむねこの仕事は楽しくてやりがいがあるわよ☆」と言っていた。

 Dabは、to strike or hit lightly、to tap gently; pat、という意味だ。腎生検ではまず小さく十字に切れ目を入れた皮膚に針の先端を少しだけ入れて、そこから超音波ガイド下に針を進める。この最初に針を進める動きをdab the needleと言っていた。なおdabにはto apply with short poking strokes、to cover lightly with or as if with a moist substanceという意味もある。筆で絵具をカンバスに少しつける、お化粧を頬に少しつける、という感じだ。

2011/08/19

I can only do so much

 各方面から仕事ややるべきことが積もると、一時的に自分の力ではどうにも出来ない状況に陥ることがある。この時の無力感を打ち破るのには、"I can only do so much"と言い聞かせるのがよい。"There is only so much I can do"と言ってもよい。とにかく、自分に出来ることを自分のペースでやるしかない。ただこれを相手に言っても、それで納得してくれる場合は少ないだろうから、あくまで自分に言い聞かせている。

XO inhibitor

 慢性腎不全の患者さんは心血管系疾患とそれによる死亡率が高い(AJKD 32, S112-119, 1998)。それで、いかに慢性腎不全の患者さんを心血管疾患から守り長生きさせるかが腎臓内科医の最大の課題の一つだ。この課題を解くために、①どの患者さんがハイリスクなのかを見つける、②どうしたらそのリスクを減らすことができるか考える、という二つの問いを立てて多くの人達が研究している。

 リスク因子の一つに、endothelial dysfunctionというのがある。血管内皮細胞には防御機構が備わっていて、狭窄や閉塞などで虚血に陥った場合に代償的に拡張しようとする。しかし腎不全の患者ではその働きが弱くなる。endothelial dysfunctionを計るひとつの方法がFMD(flow-mediated dilatation)だが、FMDが弱い腎不全患者さんは、そうでない患者さんに比べて心血管疾患で死亡する確率がとても高い。

 別のリスク因子は高尿酸血症だ。尿酸は血管肥大、高血圧、RAA(renin-angiotensin-aldosterone、私の好きな生物を陸上で生活できるようにしたシステム)の亢進などにより心血管疾患リスクをあげることが知られている。また移植患者では、CNI(calcineurin inhibitor、すなわちtacrolimusとcyclosporineのこと)により尿酸値が上がるらしい。

 では、尿酸値を下げると心血管リスクは減るの?という話になる。それで調べてみると、xantine oxydase阻害剤(allopurinol)はリスクを下げるが、尿酸排泄促進剤(probenecid)はリスクを下げないことがわかった。さらにallopurinolは、血中の尿酸濃度に関わらず腎不全患者の心疾患を予防するかもしれないという論文がでた(JASN 22, 1382-1389, 2011)。

 しかしNephrology Grand Roundで聞いた話では、LV mass indexのさがり幅が1g/m2と少なく、フォローアップ期間も9か月と短いので、これだけでは何とも言えないようだ。今度読んでみようと思う。Allopurinolと言えば腎不全患者にはdose reductionが必要とか、Acute interstitial nephritisを起こすとか、腎臓内科医には使いにくい薬だが、思わぬメリットがあるようで見直さなければならない。

2011/08/16

7 - K or 8 - K

 透析液のカリウム濃度は「7 - 患者さんのカリウム濃度」にせよという不文律がある。しかし今日のJournal clubで紹介された論文(Kidney International 79 218 2011)を知って、「8 - 患者さんのカリウム濃度」にしといたほうが患者さんが突然死せずに済むかもしれないと思った。この論文は、大手透析会社DeVitaがもつ膨大な患者さんと透析情報を解析した、case-control studyだ。読んでみて、これは結果よりも解釈が重要だなと感じた。

 たとえば「患者さんのカリウム濃度が5.1より1以上高ければ突然死のリスクは46%あがり、1以上低ければ55%あがる」と言われても、このカリウム濃度はイベントが起こった日のカリウム濃度ではなく、月一回計る血液検査時のものだ。カリウム濃度が高い患者には、低いK濃度の透析液を使うために不整脈が起こり突然死するのか。カリウムが低い患者は、日頃から透析をアグレッシブにやりすぎているからいけないのか。カリウムが低い患者は栄養状態が悪いのか。考えられることが色々ある。

[2019年2月追記]上記の透析前カリウムと突然死リスクの相関は下図のようなUカーブで表現されていた。


 透析患者さんは透析前の高カリウム血症もさることながら、透析中の低カリウム血症も心配で、透析前のカリウムは5mEq/l程度でよいのかもしれないというメッセージだった。

 そしてこれを振り返るきっかけになったのが、ahead of printのお知らせメールが昨日届いた(腎臓内科学会メーリングリストでも話題の)CJASNの論文だ(doi.org/10.2215/CJN.08580718)。

 欧州各国とアルゼンチンのDIET-HDコホートから約8000人の血液透析患者さんについて野菜と果物の摂取量をアンケートし、1日5.5以下、5.6-10、10 servings以上の三群にわけると、平均2.7年のフォローで摂取が多いほど総死亡・非心血管系死亡が有意に低かった。




 心血管系死亡は有意差が出なかったが、じっさいの数字(1000人・年あたりの死亡率)は心血管系のみで下がり、感染・がんなどの非心血管系死亡はどの群の数字も同じだった。

 なにがよかったのか?ということで、「ビタミンとか繊維とかがよかったのでしょう」といういつものお話が(相関と因果関係に注意しながら)各所ではじまっていると思われる。カロリー摂取が3群で1700、2000、2400kcal/日と大きく違うのが気になるが、著者は多変量解析でその影響を排除したといっている。

 また透析前カリウムの値はいずれも5-5.1mEq/lで変わらなかった。カリウム吸着薬についての記載はないのでわからないが、「カリウム吸着薬をのんで野菜と果物のいいとこどりをしましょう」という提案も(新規K吸着薬の登場とあわせて)これからなされるかもしれない。

 ただ、「果物の美味しい季節はカリウムに気をつけよう」というわけで、梨でも柿でもイチゴでも旬に高カリウム血症で運ばれる患者さんを診た経験がどの透析施設にもあると思われる(わたしのいた米国施設では「夏はトマトに気をつけろ」といわれていた)。

 せっかく患者さんの食生活と予後を改善しうる結果がでたのだから、慎重に前向きに採用して検証したい。


Anti-HLA antibody

 ドナーがなかなか見つからない患者さんは、desensitizationをしてでもHLA不適合移植をしたほうが、移植せずに透析をして待ち続けるより長生きできるという論文がJournal clubで紹介された(NEJM 365, 318-26, 2011)。

 Donor-specific anti-HLA antibodyは、妊娠や輸血、以前の移植などで作られることが多いが、そうでなくても敏感な免疫の人は元々持っている場合もある。ウイルス感染なども免疫反応を惹起する過程でこれらの抗体を作ることがある。

 この抗体がターゲットとなる抗原をもった臓器をあげたら、免疫の思う壺というか、飛んで火に入る夏の虫というか、移植臓器はdonor-specific anti-HLA antibodyの餌食になってしまう。だからドナーの免疫と移植臓器がマッチすることをあらかじめ確かめる必要がある。

 CDC(complement-dependent cytotoxicity assay)はドナーの血清とレシピエントのリンパ球を混ぜて反応するかをみる試験だ。補体とanti-human globulinをつかって反応を起こりやすくしている。さらに感度が高いのがFCXM(flow-cytometry cross-match)。

 さらに感度が高いのはbead assayで、これはレシピエントとの反応がどうこうというより、単に抗体を検出している。この試験は感度が高い半面、false positiveも高い。言い換えると、非常に抗体価の低いものまで拾ってくるが、これらの抗体がどれだけ移植後悪さをするかは分からない。

 移植にあたってはクロスマッチで反応がおこらない相手を探すのが第一だが、ドナーの30%は残念ながらdonor-specific anti-HLA antibotyを持っており、彼らに適合する臓器を見つけてくることは容易ではない。そこで、ただ待ちぼうけるのではなく、ドナーをde-sensitizeしてはどうかと言う話になる。

 De-sensitizationには大きく二つの方法があり、ひとつは高用量のIVIG、もうひとつは低用量のIVIGと血漿交換を組み合わせたものだ。これを行ってからHLA不適合移植した群は、適合移植の相手が見つかるまで待った群(どちらも移植後は免疫抑制を掛けるが)、相手が見つからずに待ち続けた群に比べて長生きした。

 しかし、どの群もloss of follow upが多く、8年間のフォローアップで得たKaplan-Meier曲線は美しく不適合輸血群の有意な長期生存を示しているものの、説得する真のパワー(計算上の統計学的なパワーでなく)は低い、と先輩フェローがこれをビシッと指摘しており、なるほどなと尊敬した。

2011/08/14

前向き

 移植チームにいると、メンタリティーが外科的というか、前向きに変わる。慢性腎不全というのは徐々に進行する病気であり、診療の根本はそのゆっくりとした下降を(患者さんもそうだし診療チームも)受け入れるところにあると思う。しかし移植をすると、どんどん腎機能がよくなり、だめになった腎臓のために患者さんが失った機能はどんどん回復していく。

 たとえば血圧もどんどんさがって飲む抗高血圧薬が減っていくし、貧血も新しい腎臓が造血ホルモンを作るので回復するし、リンやカルシウムなどの電解質をコントロールする薬を飲む必要もなくなる。腎不全(透析)患者さんは水分制限を強いられるが、移植をするとこんどは新しい腎臓に血液がふんだんに届くよう、脱水を避け一日に2-3Lは水分を取るよう勧められる。

2011/08/12

目からウロコ(ステロイドで血圧があがる仕組み)

 ステロイド内服で血圧が上がるのはなぜか。私はずっと「ステロイドには程度に差はあれども鉱質コルチコイド作用があって体液保持に働くからだ」と思ってきたが、そうではない。pure glucocorticoidであっても血圧は上がるし、ステロイドによる高血圧患者にaldosterone inhibitorを使用しても血圧は下がらない。そこで、「ステロイドがもっと直接に血圧をあげる仕組みがあるんじゃないか?」という話になる。

 それを研究している人達がいて、彼らはvascular endothelial glucocorticoid receptorが関係しているらしいことを突き止めた(J of Hypertension 29, 1347-1356, 2011)。この受容体をノックアウトしたマウスは、大量のdexamethasoneを投与しても血圧が上がらない。しかしphenylephrineには反応する。つまりステロイドはこの受容体を介する、しかしα受容体を介しない機構で血圧を上昇させることが示唆される。

 長年無批判に信じて来たことが違うかもしれないと分かって、ビックリしたが刺激的だった。ステロイド受容体といえば細胞質にあってステロイドと結合すると核内に移動して様々な転写因子のスイッチを入れると記憶している。血管内皮細胞のステロイド受容体は、他の受容体と比べて何か特別な働きがあるのだろうか。最終的には血管収縮に働くわけで、その途中のmissing linksをどう埋めるのだろう。興味深い論文だった。

2011/08/07

ある夜の出来事 3/3

 (前回からの続き)こんなに丸見えの静脈で指導医を夜中の2時に呼びだすことになろうとは思わなかった。ともかく指導医の先生は嫌な顔せず来てくれて、患者さんをTrendelenberg位にした。今回、静脈があまりにも太く丸見えなので私はそんな必要はないと思ってしまった。こちらに来てからのレクチャで「Trendelenbergなんて意味ない」と教わったというのもあるが。

 そのあと先生は超音波プローブを90°回転し、静脈を長軸・短軸で映しながら注意深く針を進めた。長軸像では、横に伸びた静脈の上から、刺入角45°でデモ映像のごとく針が進む。そして先端が静脈壁に触れたときに、私は目を疑った。

 静脈壁が伸びる伸びる、よく伸びる。vasodilatationで弛緩しきった静脈は、針が来てものれんに腕押しだ。へこむばかりで針は静脈壁をなかなか貫通しない。ここでそのまま進めたのでは、浅い側の静脈壁が深い側に達し、針が両方を突き抜けてしまう。それで先生は針を小刻みに動かし、浅いほうの壁を貫いて血管内に入った。

 この時夜中の3時。そのあと私が手技を引き継ぎカテーテルを無事挿入し、家族に「無事入りました」と報告し、胸部X線を待つ間に昨日から残っていた仕事を終わらせた。このまま完全徹夜になったら翌日働けるかなあとぼんやり心配しながらX線でラインが正しい位置にあることを確認し、さあいよいよ透析を回そうかと患者さんを見に行くと、血圧が本当に低い。三つ目の昇圧剤が使われていた。これには万事休すと言わねばならない。

 午前4時、主治医チームが家族に説明するのを手伝う。透析が却って患者さんを害すること、残念ながら腎臓の代わりをする方法はないこと、それ以前に全身の状態が悪化しており腎臓どころではないこと。"I am so very sorry for him..."という最後の私の言葉に泣き崩れる家族を支え、それでも患者さんの苦を除くなど出来ることをしようと励ます。午前5時、主治医チームにあとの治療は任せて、私はMICUの使われていない部屋で少し寝た。

 翌朝病院の庭を歩いていると、リスが歩いている。ああリスも必死に生きているんだよな、という考えが浮かんだ。と同時にガクっときた。分かっていた。私にはこうなることが分かっていた。病状の変化、家族の心の変化、どれも想定されていたことだ。だから心を動かされることはないと思っていた。でも、今回は自分がより責任をもって診療したためか、ラインが入らなかったときにはがっかりしたし、入った時には嬉しかったし、病状が悪くなって悲しかったし、家族が泣き崩れたときにはしばし目を閉じて苦しみを共有した。
 
 助けられないと分かっていても、たった数時間で一期一会の診療でも、それでも何かできることがある。この感情の共有には、きっと意味がある。ホスピス専門の医師でなくても、家庭医療医でなくても、一医師でもできるはずだ。できたじゃないか。これは、いま物凄い勢いで学んでいる医学知識や診療診察に勝るとも劣らず重要なことかもしれない。

ある夜の出来事 2/3 

 (前回からの続き)さて、透析するには透析用の太いカテーテルが必要だ。最も効率よく透析を回せるのは右頚静脈カテーテルだが、当然この静脈はすでにMICUチームの挿入した中心静脈カテーテルが入っている。スイッチしてもいいが、すでに昇圧剤もそこから流れているし、他を探したほうがよさそうだ。オプションは左頚静脈か大腿静脈だ。

 大腿静脈で持続透析すると、患者さんがずっと臥位でいなければならいのが不都合だが、今はそんなことを言っている場合ではない。それで右大腿静脈からアクセスすることにした。しかし、どういうわけか手技中に超音波が浅いところしか映さなくなってしまった。しかも脚の血色が悪く、livedo reticularisのように見える。仕方ないから左大腿静脈に場所を変えてカテーテルを挿入した。これが夜中の1時。

 しかし、折角透析看護師さんが夜中に来て組み立ててくれたCVVHDFマシンが、つないですぐさまhigh access pressure(-200mmHg)を示す。この患者さん、劇症膵炎で腹腔内圧があがり、どうやらIVCから下は全部ペシャンコになっているみたいだ。外科チームは何度か見に来たけれど、横隔膜はよく動いているから減圧手術の適応はないという。

 横隔膜は動いても腎臓と静脈はペシャンコなんだけど…と思いつつ、仕方がないので左頚静脈にアクセスすることにした。腹腔内圧は上がり続け、血圧は下がりはじめていたので、アクセスすべきかはとてもためらった。しかし、いまだ昇圧剤を増やしたりして最大限の治療をしているので、ここで私がテクニカルな理由で「もうだめです」とは言えない。家族に事情を説明し、左頚静脈カテーテルの同意を得る。

 超音波を当てると大きく丸い左頚静脈が皮下8-9mmの浅いところを走っている。これは簡単だろうと手技を始めると、なんど試みても静脈内に入らない。超音波で目の前に見えていながら、こんなに浅いところを、こんなに大きな静脈なのに入らない。そんなバカな…、と起きていることが信じられない。集中治療のフェローに代わってもらったがやはり入らない。続く。

ある夜の出来事1/3

 移植月間の二日目、まだ慣れず夜になっても大量の仕事とカルテに追いまくられていると、ピーピーポケベルが鳴る。そういえば今夜は当直だった。だから移植患者だけでなく、腎臓内科すべてのコンサルトを受ける。ポケベルをみると、丁寧にtext page(メッセージ)で「MICUからコンサルトです、劇的な急性膵炎からアシドーシスになって、pHは6.9、Kは6.7です」と書いてある。

 どうして欲しいのかなあ、と思った。山田ズーニー著『あなたの話はなぜ「通じない」のか』(2003年)にある、お母さんから保育園への「今日の太郎君は、病院にいくほどではないのですが、少し熱があります」というメッセージと同じだ。透析をお願いしているの?していないの?ただ診てほしいの?何なの?でももちろん私はそんなことは言わない。電話で朗らかに「オッケー☆、じゃあ診察するね☆、see you soon☆」と言い残しMICUへ。これでMICUでの人気もばっちりだ。

 さて、pHとKと無尿、緊急透析の適応はある。でもそれが何か意味のある利益を患者さんにもたらすだろうか…。診察して、私の見立てでは答えは否だった。乳酸も7-8mg/dlと高い。MICUの考えは?と聞くとMICUアテンディングは「私は夜間のカバーだから患者さんのこと良く知らないし」とか言う…。はっきり回復の見込みがないことを伝え治療方針を転換させる気はないようだ。

 まあこういうことは初めてではない。どれだけ見込みがなくても、挿管して昇圧剤を使ってmaximal level of careを提供して、家族が一縷の望みで必死な間には、治療のfutilityを知りつつ「一か八かやってみましょう」ということになる。私はコンサルタントだし、MICUの方針に沿う診療をすることが求められる。また家族が状況を受け入れるのに時間が掛かるのは当然だし、後で「あれをしておけば良かった」と後悔するほど悪いことはない。それで持続透析をすることにした。続く。

免疫抑制

 免疫抑制について話そう。免疫は奥が深すぎて学べば学ぶほど魅せられる分野であるが、ここでは実践的な(仕事で学んだ)ことを紹介したい。免疫細胞をまず根絶やしに(完全ではないけどかなり)するわけで、原理としては化学療法と同じだ。術直前、術後、そして暫くしてからの三つの段階がある。
 術直前が最もharshで、うちの病院ではATG(抗胸腺細胞抗体)またはbaciliximab、MMF(mycofenolate mofetil)、そしてmethylprednisoloneを使う。たいていATGだが、近親living donorのように免疫反応が寛恕な場合にはbaciliximabが用いられる。baciliximabは抗CD25(IL-2受容体のα鎖)モノクローナル抗体で、これはCD3、CD28(co-stimulation)とはまた別のT細胞増殖シグナルを抑制する。
 MMFは血中レベルのモニターも要らないし、たいていの患者さんは1000mg BID(2x/d)で退院してもそのまま変わることはあまりない便利な薬だ。身体が小さい人には少なくする。Purine synthesisの抑制に関わるのでazithiopurineなどと同様に血球減少や胃腸障害が起きることがある。
 CNI(calcineurin inhibitor)はたいていtacrolimus(日本の土から生まれた我らが誇る免疫抑制剤だ)を用いる。afferent arteriolar constrictionが起こることがあり、使用後は腎機能に注意する必要がある。この薬の代謝速度は人種により異なり、黒人が最も早く、アジア人は中間、白人は遅い。高用量では(血中濃度に関わらず)手の震えがでることがある。
 ATGは術前術後あわせて計5mg/kg投与するが、CD3(TCR)をターゲットにするだけあって一撃で血中からリンパ球を一掃するので、リンパ球数が上がって来るまで二度目は打てない。投与速度をゆっくりにしないと、壊れた細胞からサイトカインが一気にでてSIRSを起こす。ヒトの胸腺細胞に対するウサギの抗体なので血清病が起こってもおかしくないのだが、まだ見ていない。他の免疫抑制剤によって抑制されているのだろうか。
 高齢者ではしばしばステロイドの副作用が免疫抑制の利益を上回るので、steroid-sparing protocolをもちいる。ただしそれに当たってはPRA(panel reactive antibody)が低いことを確認することだ。PRAは、「100人の細胞に患者さんの血清を振りかけたら何人が反応を起こすか」という古くからある試験で、これが低ければallo-immunization(他者への免疫反応)は寛容と言える。
 逆に若い患者さんでは、CNI-sparing protocolといってtacrolimusの代わりにsirolimus(mTOR inhibitor)を用いる。CNIは素晴らしい薬だが、10年、20年…、と長期にわたり使用すると不可逆な腎機能障害を起こすからだ。ただしsirolimusはwound healingを遅らせるので、CNIからsirolimusへの変更は術後三か月まで待ってからにする。

sleepy kidney

 術後すぐの移植腎について話そう。移植腎の機能は、移植腎の年齢が若いことが最も効いてくる。若い腎臓は、cold ischemia timeが長くても、DCD(donation after cardiac death, rather than donation after brain death)であっても、摘出前のドナーの腎機能が悪くてpumpingをされていても、老いた腎臓に勝る。living donorもとても予後がよく、多少の組織不適合があっても免疫抑制でなんとかなる。
 移植後、大抵の場合は一日に5L以上の尿が出る。移植前に無尿だった患者さんにとっては驚きである。腎臓は乾燥した環境を嫌うので、十分に輔液してあげる(維持輔液に、尿量と1:1にマッチしたreplacement fluidを加える)。新しい腎臓は尿がでるだけでなく老廃物排泄、カルシウムやリンの調節もしてくれる。クレアチニンが毎日1mg/dl以上減っていくのも、患者さんには嬉しい驚きだ。
 残念ながらそこまで回復が早くない人もいる。術後一週間以内に透析を必要とする場合をlate graft functionと呼び、そこまでではないが回復が遅い場合をslow graft functionという。これらは最終的な移植腎の予後にあまり影響しないので、患者さんに"kidney is sleepy"とか説明しても問題はない。周術期の血行動態、血管吻合部の狭窄などが考えられる。Hyperacute rejectionというのもあるが、手術中にみるみる移植腎がfailするほど超急性なので術後に病棟でみることはない。

腎臓の代わりは腎臓に限る

 移植サービスの特徴の一つは、巨大なチーム医療ということだ。病棟では移植コーディネータ(看護師)、移植外科と毎日話し合う。外来では精神科、感染症科、倫理の専門家、ファイナンシャルアドバイザー、薬剤師、その他さまざまな職種の人が患者さんを診る。いざ移植に当たってはレシピエントの搬送(時には病院のprivate jetで)、ドナーの搬送、これらをコーディネートする沢山の人達がいる。
 この手厚い医療に患者・家族の満足度も高い。これだけ充実しても、患者さんが透析に行かなくなることで浮く医療費を考えれば莫大なお釣りがくる。移植は、手術前後に医療資源が最も投入され、そのあとは免疫抑制剤代くらいしかかからない相対的に安い医療だ。毎日カフェテリアで昼ごはんを食べることを考えれば、贅沢な材料でお弁当を作った方が安いのと同じ。
 そればかりではない。いま仮に55歳の慢性腎不全の患者さんが、移植か透析か選ぶとしよう。移植を選んだ場合、この人は透析を選んだ場合に比べて少なくとも2倍は長生きできることが分かっている。透析を週6日すれば移植並みに生きられるかもしれないという研究はなされているが、誰が週6日透析に来るだろうか、そして誰がただでさえ高額な透析医療費を増やすことに合意するだろうか。
 透析患者をいかに長生きさせるかというのは世界中の腎臓内科が知恵を絞って考えているテーマだが、まだまだだ。ただkT/V(尿素の除去効率)を上げただけでは差が出ないことが分かっている(HEMO study, 2002)。そんなことではGFRは8ml/minから高々12ml/minにしかならない。尿素排泄の他にも腎臓は様々な働きをしている。だから、移植をする人は「腎臓の代わりは腎臓に限る」と言っているわけだ。

インテンシブ

 腎移植サービスの月に入った。診療において注目する点が今までと違う。最初の三日間は新しい知識と経験が怒涛のように押し寄せた。しかしなんとかそれらを飲み込み把握し行動に反映させるに至った。このインテンシブさは、卒後すぐに総合診療科で初期研修をした時に次ぐ。当時、「プロブレムを絞り、必要な情報を集め、解決案を考え、実行してフォローする」という型を部活の基礎練習のごとく毎日反復したのを思い出す。
 ここでも同じで、移植腎の機能、電解質、体液量バランス、免疫抑制、免疫抑制に伴う感染予防(immunoprophylaxisという)、血圧、血糖、術後外科管理(尿カテーテル、腹腔ドレナージなど)、移植前に挿入されたデバイス(血液透析カテーテル、腹膜透析カテーテルなど)の処理などをメインの問題点として取り扱い、それぞれについて必要な情報を集めて毎日議論する。各論は別に書こうと思う。

2011/07/30

calciphylaxis

 腎疾患に関連した最も恐るべき皮膚疾患といえばNSF(Nephrogenic Systemic Fibrosis、ガドリニウム造影剤に関連した全身の線維化)だが、その次はcalciphylaxisだろう。どちらもcripplingで、かつ有効な治療法がない。透析患者さんにガドリニウムを避けるようになってからNSFはまず診ることはないが、きょうはcalciphylaxisかもしれないという症例にあった。

 Calciphylaxisとは全身のリン酸カルシウム結晶の沈着で、いうなれば全身が骨になる病気だ。とくに沈着するのは小血管内膜で、それゆえ皮膚や皮下脂肪に網状の皮疹や発赤、潰瘍などができる。透析患者さんに圧倒的に多い現象だが、腎疾患(PTH、血清リン値)がコントロールされていないと起こるというわけでもなく、原因はいまだ不明だ。ワーファリン内服と関係しているともいわれる。

 治療もまた決定的なものはなく、皮膚科、外科、腎臓内科などが一緒になって局所治療やCa、P、PTHをコントロールする。Sodium thiosulfateは、理論上不溶性のカルシウムを水溶性のCalcium thiosulfateに変えることで結晶沈着を抑えるはずだが、痛みなど症状を緩和したというわずかな報告があるだけでその有効性は未知数だ。

ピンチ

 緊急透析するには透析カテーテルを挿入する必要がある。そして私は透析カテーテルを挿入することが困難な状況など余り考えたことがなかったが、きょう困難な症例に出会った。それは虚血性心筋症による心不全でLVAD(左室補助デバイス)が挿入されている患者さんの急性腎不全だった。

 無尿になって、わずかな尿を鏡検すると典型的なbrown granular castが見える。透析カテーテルが必要だなと思いながら何気なく胸部X線を見ると、上大静脈がラインで既に一杯だ。よく見ると、右から挿入された両室ペーシングのリード(二本)、AICD(二本)、それに左鎖骨下静脈から挿入されたHickman Catheter(home milrinon infusionのため)の計五本でごった返している。

 こんなところに太い透析カテーテルが入るわけがない。たとえ入っても良いフローが得られるか判らないし、突っ込んで抜けなくなったら大変だ。INRは3.9(血液が固まりにくくなっているということ。僧帽弁置換後で抗凝固剤を飲んでいる)だし、大きな穴を内頚静脈に開けてラインを入れてからオメオメ引き抜くわけにもいかない。

 「なら大腿静脈に挿入すれば?」と言いたいところだが、患者さんの状況から言って腎不全はそう簡単に治りそうもないし、大腿動脈カテーテルから持続透析を行うと患者さんは24時間臥位のまま全く動くことができない。「IR(放射線科医)に透視下にやってもらえば?」と言おうにも時は金曜日の午後、週末にIRを動かすのは至難の業だ。

 この状態は、挿管困難などで気道確保が保証されない状況におかれた集中治療医のピンチに通じるものがあるだろう。腎機能がシャットダウンして透析ができなければ、早晩に(他の臓器がシャットダウンした時に比べればゆっくりだが)万事は休する。結局、INRはビタミンKでリバースして、へパリン持続静注を開始し、大腿静脈カテーテルを挿入することになりそうだ。

Creatinine secretion

 腎臓内科にいる以上、患者さんが服用した全ての薬剤をチェックして、腎障害を起こすものがないか吟味しなければならない。NSAIDs(イブプロフェンのような鎮痛剤)、造影剤、抗生剤のような有名なものを見逃さないのは無論だが、腎機能が悪化したタイミングで始められた新しい薬剤があれば何でも、腎障害の副作用がないか確認する。
 そこで最近目にするのが、「この薬はクレアチニンの尿細管排泄を促進するので血清クレアチニンが見掛け上高くなります」という表示だ。たとえばranolazine(商品名Ranexa、抗狭心症薬)、それにTS合剤(Bactrim、抗生剤)。そこで「この薬を飲んでから血清クレアチニン濃度が上がりました。これは間質性腎炎による腎障害ですか、それとも見掛け上高まっただけですか?」という議論になる。
 この問いの答え次第で薬を飲むか飲まないか(他の薬に変えるか)が決まるわけで、ふたつを鑑別できることは臨床上重要だ。先生によれば、三つのポイントがあった。①クレアチニン排泄が増えても血清クレアチニンは健常人で0.1mg/dl程度しか上がらないはず。②クレアチニン排泄だけが問題ならBUN(尿素)は動かないはず。③クレアチニン排泄が問題なら、薬をやめて48時間以内にクレアチニン濃度は元に戻るはず。
 しかしこれらにも限界がある。たとえば①は、もともと腎疾患があるような場合には血清クレアチニン上昇幅が大きいかもしれない。また②についても、急性期の場合は異化や栄養状態などによりBUN値も動きうる。そんなわけで鑑別は難しく、最終的な決定はリスクと利益を勘案して主治医(primary team)が判断することになる。

Osmotic gradient

 Furosemideがヘンレ上行脚のNa-K-2Clトランスポーターを阻害することは知られているが、そこで水の再吸収が行われているわけではない。ではなぜ、Furosemideによって水排泄が促進されるのだろうか。このように、現象としては常識なことも生理学的に問われると答えに詰まる。

 正解は、furosemideによってネフロンの浸透圧勾配(osmotic gradient)が消失するから。水の再吸収と尿の濃縮は、それぞれヘンレ下行脚と集合管で行われるが、そのためには腎髄質の高浸透圧が必要だ。これを維持しているのがヘンレ上行脚なのである。Na-K-2Clで細胞内に再吸収されたNaは、血管側にあるNa-K ATPaseによって汲みだされ体循環に帰っていく。

 この話は回診で一週間前くらいにあったが、なかなか一回聴いて全部覚えられるものではない(先生は一回で覚えなければならないとおっしゃるが)。同僚のフェローが同じ質問をしたら、先生は「この話、前にしたよね…」と言いつつちゃんともう一度教えてくれた。私も忘れていたので復習できてよかった。

腎血流シンチ

 腹部大動脈瘤の修復術後に急性腎不全が見られるのは仕方がないことだ。というのも術中に大動脈をクランプしなければならない(から腎血流が遮断される)からだ。血流が滞ることにより腎動脈に血栓が出来てしまうこともある。術中の低血圧や造影剤による腎障害など、他にも腎臓に悪い条件が重なるperfect stormだ。
 今月もそんな患者さんを診ていたが、senior fellow(F2、一年先輩)が残存腎機能を推定する手掛かりに、腎血流シンチグラフィをオーダーするという妙案を思いついた。果たして結果は、右腎血流の完全な途絶と、左腎上極の血流障害(腎梗塞)だった。残念ながら患者さんが透析から離脱する可能性は低そうだ。
 この症例を通して、シンチグラフィを思いついた先輩の機転に恐れ入った。コロンブスの卵というか、言われてみればそうだが、思いつくのは中々簡単ではない。このレベルに達するには、腎臓内科医が持つツールを熟知することと、腎臓内科医として「いかにして腎臓を助けられるか」「いかに腎臓が回復するか」という視点を持つことが必要だ。

2011/07/29

リン

 腎臓内科を始めてからリン(phosphorus)に注意を払うようになった。というのも腎臓が悪くなるとリンが排泄できなくなるからだ。リンはDNA、RNAなどの骨格に含まれるほか、細胞膜(リン脂質)の主成分でもあり、いたるところに存在している。だからリンは大体の食品に含まれているわけだが、こちらでは牛乳やチーズなどの乳製品をとくに避けるよう指導している。マメ類にも多いが、いまの先生によれば野菜類に含まれるリンは体内に吸収されないらしい。
 体内におけるリンの代謝とその制御はとても複雑で、正直腎臓内科を選ぶときに「こんなの判るようになるのかな」と心配したほどだが、少しずつ理解している。低リン血症で入院になった患者さんがいて、カルシウムもPTHもVitamin Dも何も問題ないのにリン濃度だけが補っても補っても下がる。こういう場合は、腎臓がリンをどんどん捨てているわけで、そのシグナルを送っているのはFGF-23を最も考えるらしい。まれだがFGF-23 secreting tumorと言うのがあるそうだ。

TRI

 こちらにきて沢山の症例を毎日見ているが、腎生検は二件しかしていない。今日はその一件について、みんなで回診中に腎病理の先生のところまで話を聞きに行ってきた。そしてtubulo-reticular inclusion(TRI)のことが勉強になった。先生によればこれはinterferonによるものらしく、それを惹起するウイルス感染、炎症(とくにlupus)、それにinterferon治療そのものなどが主な原因という。ただしlupusであれば、多くの場合免疫複合体の沈着が見られるらしい。

Laplace's law

 大学にいると面白い話がタダで聴ける。今日もGrand Roundがあって、腹部大動脈瘤の話だった。真腔より偽腔のほうが大きくなるのは、血管壁中膜はelastinが豊富で伸縮性が大きいからだ。胸部大動脈には70層のelastin、腹部大動脈には30層のelastinがある。演者の先生は「だから腹部のほうが破れやすい」と言っていたが、掛かる圧は胸部のほうが強いよなあと思った。
 なぜ大動脈瘤ができるかについてだが、MMP(matrix metalloprotease)活性、炎症反応、それに血行動態のストレスが挙げられた。MMPについては、その働きを抑えるTIMP(tissue inhibitor of MMP)が衰えることが原因らしい。
 血行動態のところでは、ラプラスの法則(表面張力は半径に反比例する)を手袋で簡単に説明していた。すなわち、医療用ゴム手袋の口を持って中に息を吹きこむと、手のひらの部分はよく膨らみ硬く張っているが指の部分はあまり膨らまず柔らかい。

2011/07/26

APOL1

 今日はAPOL1遺伝子のことを学んだ。この遺伝子はAfrican Americanの腎疾患発症に重要で、G1(S342GとI384Mの置換)とG2(del388N389Yの欠失)という二つの変異両方がある人はFSGSを発症するOdds Ratio(OR)が10倍、高血圧による腎疾患を起こすORが3倍という。さらに今日のjournal clubで取り上げられていた論文は、これらの変異がある移植腎はない移植腎に比べて生着予後が悪いというものだった。

 APOL1遺伝子が腎臓で何をしているかは、まだ誰も知らない。この変異は黒人にしか見られない(アジア人やヨーロッパ人には見られない)が、この変異があるとアフリカにいるTripanosoma bruceiという寄生虫のsub-species(T. brucei rhodensienseT. brucei gambiense)に耐性ができると考えられている。それはこの遺伝子産物の末端にpore forming activityがあるためだとされている。

 そもそもAPOL1が腎疾患に関連していると判ったのはつい昨年のことだ。それまでは、APOL1遺伝子座の近くにあるMYH(myosin heavy chain)が悪いと言われていたし、実際私が行った2010年のNKF meetingでもそのように説明されていたほどだ。イオンチャネルの専門の先生は、「この遺伝子産物がpore forming proteinというのは興味深い事実だ(何かのチャネルかもしれない、という意味)」と言っていた。


[2019年9月29日追記]じつは、以前から変異型APOL1はトリパノソーマ原虫のミトコンドリアやリソソームに孔をあけ、細胞を破裂させたりアポトーシス様の変化を起こしたりすることがわかっていた(図はJASN 2017 28 1008)。

 


 そして今回、変異型APOL1を強制発現させたヒト尿細管細胞で、変異型APOL1は細胞質からミトコンドリアの内膜まで取り込まれ、そこで異常に重合していることがわかり、JASN電子版に載った(doi:10.1681/ASN.2019020114)。

 しかし、結果はそれだけではない。

 さらに異常APOL1は、ミトコンドリア内でmPTP(mitochondrial permeability transition pore)という複合体に取り込まれ、この「死の孔」を開くことがわかったのだ(図は前掲JASN電子版記事より)。


(RVはリスク・バリアントの略)


 mPTPが開くと、ミトコンドリアから細胞質へカルシウムイオンが流出し、さまざまな細胞死スイッチがオンになるのだという。つまり、上述のイオンチャンネル専門家の先生(筆者が人間としても師と仰ぐ、故・John B. Stokes先生)の予言は、当たっていたわけだ。

 今回の論文は、「なぜ腎臓だけミトコンドリアが破裂するの?」、「じっさいのAPOL1変異患者さんでも、本当に同じことが起きているの?」といった質問には答えない。しかし、mPTPにたどり着いたことは、病態理解と治療の可能性につながる重要な成果だ。

 というのも、、mPTPは(興味深いことに!)アルツハイマー病やパーキンソン氏病などの神経変性疾患でも、ニューロン死の責任分子とされているのだ。mPTPを開くサイクロフィリンDという分子が治療標的として研究されてもいる(CNS Neurol Disord Drug Targets 2015 14 654)。

 それでか、著者もまた「足細胞もニューロンのように高度に分化しているので、異常に重合した高分子には弱いのかもしれない」などと自由に推論している(彼らが用いたのは尿細管細胞だが)。これまた、分化→統合→融合の一例であり、近い将来届くであろう吉報が楽しみだ。




2011/07/23

membranous nephropathy

 レクチャで膜性腎症の話になった。この病気は謎の抗原と、それに対する抗体の複合体が膜(基底膜)にひっつく病気なのであるが、その順番は、①抗原と抗体がくっついたものが何処からかやって来る、②抗原がもともと膜にあって、それに抗体がひっつく、③まず抗原がどこからかやってきて、次に抗体がやってくる、というように諸説あるらしい。

 現在では③が有力(とくに二次性の膜性腎症は)らしいが、こんなものどうやって証明するのかまったく謎だ。まるで昔話で桃太郎と一緒に桃が流れ来たのか、桃太郎は最初からいてそれから桃が来たのか、みたいな話だ。ともあれ一旦これらがひっつくと、MAC(membrane-attacking complex)という補体C5b-9が動き出して基底膜や足突起を破壊し始める。

 抗原については定かではないが、二年前には、M-type phospholipase A2 receptor (PLA2R)とIgG4が関連しているという報告がNew England Journal of Medicineに載った。そして先月、bovine albumin(ウシ由来のタンパク質)が子供の膜性腎症患者で有意に高かったという報告がNew England Journal of Medicineに載った(NEJM 2011 364 2101)。

 「bovine albuminなんて、牛乳がいけないってこと?」と思うのも無理はない。それで論文を読んでみた。大学に入るおかげで家からでも大学図書館のウェブサイトにログインして論文を入手できて便利だ。どうやら筆者は、疫学研究で食品を色々調べたら牛乳や牛肉(エキスなども含む)が怪しいかもということになりこの研究を始めたらしい。

 いずれにしても、これは原発性膜性腎症の抗原についてであり、しかも子供の話だ(大人でもこの抗原とそれに対する抗体はみられたが、コントロールと比べての有意差がでなかった)。一般的には膜性腎症はいまだ感染症、悪性腫瘍、自己免疫疾患、毒素や薬物といったものに惹起された免疫反応が機序と考えられている。


uric acid and urea

 SIADH(水分再吸収を促進するホルモンが過剰になる病気)で尿酸値が下がることは知っていたが、その機序は知らなかった。先生によれば、近位尿細管でvasopressin receptor (V1R)を介して尿酸排泄が増えるためだという。尿酸専用のトランスポーターがあるらしい。

 なぜADH分泌が増えると尿酸排泄が増えるのだろうか。ADHが成し遂げたい目標はただ一つ、水分を体内にとどめることである。しかし腎臓には尿素を排泄するという義務がある。それでADHは尿を限界まで濃縮して水分の喪失を抑えようとする(逆に、ADHが病的に過剰だと水分が体内にたまってしまい、低ナトリウム血症などが起こる)。

 ここで考えられるのは、尿酸を排泄することで、相対的に尿素の量が減り尿量を減らせるのではないかという仮説だ。たとえば一日尿素排泄が500mOsmとすると、最大濃縮(1200mOsm/kg)しても500/1200 = 400mLの尿が必要だ。これが尿酸排泄が増えて尿素が300mOsmになれば、300/1200 = 250mLの尿さえあればよく、150mLの水が節約できる。

塩の換算

 いまだに混乱するのが食塩とナトリウムの関係だ。食品の栄養成分表にはたいていナトリウムがmg表示で記されているが、私たちはたいてい体内のナトリウムをmEqで考え、食品の場合は食塩何gで考えるので、単位がバラバラだ。

 分かりやすい基準は、生理食塩水1Lに9gの食塩が入っており、それはNa 154mEq、Cl 154mEqだということだ。そして原子量の違いから、9グラムの食塩は約4グラムのNaと約5グラムのClからなる。これで換算できるはずだ。

 たとえば醤油大さじ1杯には940mgのNaが含まれている。これは940 x 9/4 = 約2グラムの食塩に相当し、2 x 154/9 = 約36mEqのNaとClに相当する。また生理食塩水を125ml/hで輔液した場合、一日に0.125 x 24 x 9 = 27グラムもの食塩を身体に入れることになる。


ポテトトングで塩分摂取


[2019年1月追記]カルシウムのmEq/l、mmol/l、mg/dlの変換も追加する。カルシウムの原子量は40、そしてイオンは2価イオンだ。だから計算しやすい10mg/dl(100mg/l)は、2.5mmol/l。そして1mmolのカルシウムは2mEq分荷電しているので、2.5mmol/lは5mEq/lになる。

 ただし、「イオン化カルシウム」は血中総カルシウムの約半分。実験では39.5%が蛋白結合、46.9%がイオン化し、13.6%がdiffusible calcium complexes(その間の、細胞膜などを透過できる状態)だった(JCI 1970 49 318)。それで、血中総Caが10mg/dlの患者さんでイオン化カルシウムだけをはかると、2.5の半分で1.25mmol/l程度になる。

 なお、血中カルシウムの一部が半透膜を透過しない(蛋白結合しているからだが)ことを1911年に初めて発表した論文(Biochem Z 1911 31 336)の第二著者、D. Takahashi博士は日本人と思われる。

 東大柏キャンパス図書館まで原著論文を閲覧しに行った筆者だが、「D」は原著にもイニシャルしか書かれていなかった・・。東京大学農芸化学科発酵学教室・第二代教授の高橋禎造博士のことかとも推察したが、確証はない。


頭文字Dを探して


[2020年6月4日追記]マグネシウムは原子量24、2価イオンであるから、1mmol/lは2mEq/l(2倍)、2.4mg/dl(24÷10の2.4倍)となる。したがって、SI単位系の血中Mg正常値である0.7-1.0mmol/lは、1.7-2.4mg/dlだ。

 また、混乱しやすい各種Mg製剤の単位も、いちど整理する。

 MgSO4・7水和物の分子量は約240。よって硫酸マグネシウム製剤1グラムには約4mmol(1000÷240)、8mEq(2倍)、100mg(24倍)のマグネシウムが含まれる。逆に、Mg20mEq含有のMgSO4製剤1アンプルは、2.5グラム(20÷8)に相当する。

 MgOの分子量は約40。よって酸化マグネシウム製剤1グラムには約25mmol、50mEq(2倍)、600mg(24倍)のマグネシウムが含まれる。ただし、剤形や腸の状態などによって吸収率に大きな差がでることに注意が必要だ(Nutrients 2019 11 1663)。

 ささいなことだが、単位を間違えると事故の元である。




Na+/H+ exchanger

 回腸導管(膀胱を摘出した患者さんのために、膀胱の代わりに尿管を回腸の一部につないだもの)の患者さんで尿電解質は役に立つか。回腸導管のある人は、回腸のCl-/HCO3- exchangerのためにnon-anion gap acidosisをきたすことが知られている。しかし、それと別に回腸にはNa+/H+ exchangerもあるのだという。だとすると尿Naは回腸導管内で変化するだろうか?
 同じexchangerは近位尿細管にもあるので、まずこれについて考えよう。これはexchangerなので濃度勾配によりイオンが流れる(勾配に逆らって汲みだすポンプではない)。尿細管内腔はNa濃度が高く、尿細管細胞内は低いので自然とNaが尿細管細胞に流れ、交換にH+が内腔に流れる仕組みだ(そのあと細胞から間質にNa+はポンプによって汲みだされる)。
 では近位尿細管を通過した原尿のNa+濃度は、通過前と比べて低いかというと、そんなことはない。それはなぜかというと、近位尿細管は非常にleakyで濃度勾配を維持する様に設計されていないからだ。再吸収されたNa+はtight junction(名ばかりでダダ漏れ)を通じていくらでも戻ることができるという。ただ別の本では、「Na+と一緒に水が透過して再吸収されるために等調性再吸収が起こる」と書かれている。
 Anyway、近位尿細管では尿は希釈も濃縮もされないということだ。それならば、尿管から回腸導管まで運ばれた尿のNa+濃度は、導管を通る間に希釈も濃縮もされず維持されるように思われる。しかし、先生が言うには「回腸導管の患者さんでは、尿電解質は全く予想できず解釈は不可能」という。本当のところはどうなのか、誰かが研究しているだろうから調べてみよう。

urate crystal

 血液腫瘍の患者さんの腎機能低下を診たときに、腫瘍融解症候群(tumor lysis syndrome)と名づけるのはたやすいが、そこでキチンと病態を鑑定するのが腎臓内科の役目だ。尿酸腎症(urate nephropathy)、nephrocalcinosis(リンとカルシウムの濃度積、biproductが上がり腎に結晶が沈着する)、腫瘍自体の浸潤、リンパ節腫大による尿管閉塞など、考えることはたくさんある。
 いまの先生は、たとえ患者さんの尿酸値が13mg/dlと高値であっても「尿に尿酸結晶が見られないから確実に(尿酸腎症と)は言えない」と慎重だ。それで腎臓超音波検査をすることになった。さておき尿酸腎症は単なる尿酸結晶の沈着ではなく、それにより惹起される炎症反応による間質性腎炎と学んだ。
 さらに、この患者さんにステロイドが投与されるうち血清リン濃度が上昇した時にも、単に「ステロイドでblastが融けたんでしょう」とは考えない。言われてみると確かに血中のblastの数は減っていない(どころか増えている)。結局ステロイドによる食欲増進によりリン摂取が(低下した腎機能に比して)過多になったことが原因とわかり、phosphate binderを開始することにした。
 と、これを議論している同じ日にべつのコンサルトが入ってきて、やはり腫瘍をもつ患者さんの腎不全という。こちらは尿に大量のurate crystalが見られ、血清尿酸濃度を調べると19mg/dlと極めて高値で尿酸腎症の診断に至った。rasburicase(urate oxydate enzyme)で立ちどころに血清尿酸値はほぼゼロになり、尿酸に伴う炎症反応も早期に消退するとよいが。

dirty little secret

 もし腎臓機能がピタリと止まったら、血清クレアチニンの値は一日にどれくらい上がるだろうか。経験的に、1mg/dL上がることが知られている。つまり、前日比でdelta-Cr値が1mg/dL以上のとき、その間に患者さんのGFRはほぼゼロに低下したと考えられる。
 70kgの患者さんが一日に産生するクレアチニンを1.2グラムとして、彼から腎臓を突然取ってしまったとしよう。すると産生されたクレアチニンはvolume of distribution = total body weight、すなわち42Lに等しく行き渡り血清濃度をあげるはずだ。
 しかしその仮定によればクレアチニンの上がり幅は、1200mg/420dL = 約3mg/dLとなり現実の1mg/dLと乖離する。それはなぜか?「ここにdirty little secretがあるのさ」と先生がいう。先生によれば、腎臓機能がゼロに落ちるような状態では(どういうわけか)クレアチニン産生量も減っているのだという。

2011/07/20

FEMg

 先日はfree water excretionを学び、それが近位尿細管の障害を反映すると知ったが、今日はFEMg(マグネシウムの排泄割合)を習った。ポイントは血清Mgに0.7を掛けること(30%はアルブミンに結合しているため)。腎臓からのMg排泄過多により低マグネシウム血症の場合、FEMgは15%を越えるという。マグネシウムは60%がヘンレ上行脚(thick ascending loop of Henle)で受動的に再吸収されるため、FEMgの異常はそこの障害を反映する。なお残りのMgは遠位尿細管でTRPM6チャネルにより再吸収される。

ふたつの約束

 MDRD-GFR(糸球体ろ過速度)は血清クレアチニン濃度、年齢、性別によって計算されるが、言外に二つの約束事がある。ひとつは患者さんが定常状態にあること、もうひとつは患者さんが年齢相応の筋肉量を持っていることだ。だからこれは入院患者さんではとても当てはまらない計算値だ。実際に、血清クレアチニン、尿クレアチニン、尿量に基づいてクレアチニン・クリアランスを計算してみるとその差に驚かされる。ある患者さんではMDRD-GFRが60ml/minなのにクレアチニン・クリアランスは26ml/minしかなかった。入院期間が長く筋肉が落ちかつ低栄養状態なためそもそも体内にクレアチニンが少ないのだ。

2011/07/19

CVVHDF

 外科ICUでCABG後の肝硬変患者にCVVHDF(持続透析)を回しているが、こいつはまあ随分やっかいな治療だ。血行動態が不安定な患者さんから、少しずつ血液を引いて透析を長時間まわす訳だが、カテーテルのトラブル、回路のトラブル、血液抗凝固のトラブル、電解質の問題、除水ボリュームの問題など、いろいろ考えて予想して設定を決めても必ず予想どおりに行かない。「なんやねん」という感じだ。
 今の患者さんでは除水がメインテーマで、net negative 300ml/hrを目指して朝にオーダーしたが、早速のライントラブルとそれに伴うライン交換によりCVVHDは大幅に中断され、夕方にはI/Oが結局evenという有様だ。CVVHDをしたからといってその分患者さんが長生きできるというエビデンスはない。しかし、全てのトラブルを乗り越え除水がミラクルなレベルで(300ml/hrってことは7.2L/dayってことだ!)行われ患者さんがよくなればよいと前向きに思う。

オンコール

 土日の連続当直をした。まず20人近い患者さんのリストを片手に、バイタルサインとI/O(身体に入った水の量と出ていった水の量)、検査データを集める。透析を予定または考慮している患者さんの分を最初にチェックして、あとは診察をして透析するかどうか、透析条件をどうするかなど決める。

 そのあと、この巨大な病院をぐるぐる回って患者さんを診察し、primary teamと方針を軽く話したころには、回診の時間なので急いで待ち合わせの場所まで戻る。病院の巨大さといえば、アメフトの競技場くらい大きい。というのもうちの病院の真横に、ほぼ同じ大きさのスタジアムがあるのだ(7万人収容)。

 回診では生理学に基づいた議論が延々と続く。指導医でもA先生とB先生によって言うことが全然違い、A先生が教えてくれたことをB先生が"That is completely wrong"とか言うのには当惑することもある。みんな生理学を独自に修めているのでそういうことになるだろうか。

 たとえばA先生はFENa(Naの排泄割合)を診断の手がかりにしていたが、B先生はFENaなど意味がないという。B先生は代わりに尿Naとfree water excretion(Pcr/Ucr)を活用している。Free water excretionは腎臓が正常ならば1%以下なはずで、この割合が高いのは近位尿細管が障害されているせいだという。

 いずれにせよ、回診は3-4時まで続き、そのあとカルテを書き、土曜日は終わった。日曜日は、カルテを書き新患を二人診て、そのあとさらにERに来た患者さんを診たので遅くなった。しかし、ERがぼんやりしているところ(8時間に8回立て続けに下血しているのに輸血以外の応急処置がなく、一般病棟に送るとかいう)をキチンと診察して、MICUに患者を送りICUチーム、消化器内科と議論して、貢献したなという気持ちになった。


2011/07/12

さまざまな医学知識

 いまの先生は、深い考察をするthinkerなだけでなく、teacherでもある。だから高カルシウム血症の鑑別の覚え方(mnemonic)とか、基本的なこともちゃんと教えてくれる。先生はSUP(E)R ACTIVE PTHというのを使っていた。Sarcoidosis, Uremia, Plasma cell dyscrasia (i.e. multiple myeloma), Renal transplant, Addison's disease / Milk-Alkali, Carcinoma (malignancy), Thyrotoxicosis, Immobilization, Vitamin D (or A), Excess Calcium, Paget's, Thiazide, Hyperparathyroidismだ。

 他にも、Hepatitis Cに関連した(cryoglobulinemiaによる)ネフローゼはMPGNだとか、慢性腎疾患に伴う骨疾患は四つ(Osteitis fibrosa cystica, osteomalacia, mixed of both, adynamic bone disease)だとか、adynamic bone diseaseは糖尿病由来の腎疾患患者に多くみられるとか、基本的なことがまたたく間に勉強になる。

慎重なアプローチ

 いま教わっている先生は、決して診断に飛び付かず、慎重で抜けのない評価をして可能性の高い診断について確からしさを吟味する。低ナトリウム血症の患者さんにorthostatic hypotensionもedemaもある場合、volume評価が難しくなる。しかし彼は一つ一つを吟味する。それによりorthostatic hypotensionはαblockerによるものとわかった(それは結果的に頸動脈圧受容体の伸展を抑えADH分泌を亢進するが)。edemaについても、薬剤(NSAIDs、glitazones、それにdihydropiridine Ca channel blockersなど)の可能性などをまず吟味する。
 低ナトリウム血症で尿ナトリウムが115mEq/lあったら、私なら「ADHの出過ぎでしょ、そしてそれはhypovolemiaによるものではないでしょう(だとすれば尿ナトリウムは低値のはずだから)」で終りだ。でも先生は、osmotic diuresis(尿糖やマニトール)や尿HCO3-の高値(尿細管内の陰性電荷が陽イオンのNaを引っ張る)の可能性をまず考え、次にnatural ADH antagonistであるPGE2を阻害するNSAIDsの可能性を考える。さらに、「ADHが出過ぎの割に尿浸透圧は370mOsm/kgとそれほど高くないのは何故だろう?」と考察を進める。
 そこから尿浸透圧を構成するのは主にNaとCl(約50%)、尿素(約50%)いう話になり、溶質が減れば腎臓は浸透圧gradientを保てないだろうということで、beer potomaniaの話になる。もちろんeuvolemic hyponatremiaの鑑別にも一つ一つ言及し、念のためにAM cortisolをオーダーしようとか、甲状腺機能低下症で低ナトリウム血症になるのは心拍出量低下に伴う頸動脈圧受容体を介したADH亢進によるとか、Thiazide、SSRI、carbamazepine(薬剤性低Na血症)、…議論は尽きない。きちんとした病態理解があるために、患者さんはコンサルト後からメキメキ検査値が向上し腎機能が向上する。

Bardoxolone

 今日は、Journal clubがあってNEJMの電子版に最近発表された「Bardoxoloneが2型糖尿病性腎症の進行を抑制する」という論文(NEJM 2011 365 327)がテーマだった。エンドポイントがeGFRであり、透析導入や心血管疾患による死亡でないことが論文の有用性を下げていることなどは発見だった。1年間のフォローアップでGFRが最大10ml/min程度向上したとして、それがいったい何を意味するのかまだ誰にもわからない。追試で「この薬で透析導入を半年遅らせることができます」というような結論がでることを期待したい。

 この研究結果で面白かったのは、BardoxoloneはGFRを向上したけれどタンパク尿を悪化させたという結果だ。患者の98%がACEIやARBを内服していたにも関わらずだ。Bardoxoloneはnon-NSAIDs anti-inflammatory drug、抗炎症薬だ。だからここでの興味深い仮説は、「尿タンパクが腎機能を悪化させるのは、尿細管に漏れ出した尿タンパクが炎症を惹起するために起こるのであり、炎症そのものを抑えてしまえば、たとえ尿タンパクがでても腎機能は悪化しない(どころか向上する)」というものだ。ハハーそうか!と手を打って聞いていた。

2011/07/09

ついに来た

 ああ、素晴らしい。アカデミックな場所で働ける幸せ。指導医は優しくかつ規律正しい。よき教師であり、教え子への愛に満ちている。それに応えてレジデントから医学生までがすくすくと育っている。日一日と成長が見て取れ、その充実感がチーム全体をポジティブな雰囲気に押し上げている。

 この先生に二週間ついただけで、元の知識がゼロでも深く病態を理解でき細心の知見にも詳しくなれる。anion gap acidosisと聞いたら皆、新しいpnemonicsであるGOLDMARK(glycols, oxyproline, L-lactate, D-lactate, Methanol, ASA, Renal failure, DKA)を知っている。

 同様にNon-anion gap acidosisにしてもACCRUED(Acid load, Carbonic anhydrase inhibitors, CKD, RTA, Ureteroenterostomy, Extra-alimentation, Diarrhea)を知っていて、論文まで持っている。高・低カリウム血症を考えるときに体内のカリウム貯蓄量を考慮したり、低ナトリウム血症(重度で症状のあるもの)に3%食塩水100mlをチョコチョコ使うやり方など、新しいことが色々あった。

 この先生は、プレゼンをする人にその場で当意即妙な教育を施す。サマリー、主観的症状、客観的所見、検査所見、アセスメントを徹底して峻別し、アカデミックな言葉で表現するよう教え、アセスメントも対話法によって質が高められていく。

 たとえばhypovolemic hyponatremiaが何故輔液に反応するのかについて、こんな問答があった。「輔液すると頸動脈の圧受容体は…」「伸びます」「圧受容体が伸びるとADH分泌は…」「下がります」「ADH分泌が下がるとfree waterの排泄は…」「増えます」「free waterの排泄が増えると血漿Na濃度は…」「上がります」。

 こんなレベルの高いところで、いまだ病院の右も左も分からない一介の市中病院から来た私がやっていけるだろうかと心配になったか?いや、全くならなかった。純粋に楽しかった。分からないことは全て質問したが、それが却って私の知識や力量を反映して好意的かつ敬意を持って受け止められた。

2011/04/01

IV lines

 末梢静脈ラインを5本とることが内科board examの受験資格に含まれているので、ERに行ってきた。ひさしぶりなうえに、米国の患者さんは静脈が厚い脂肪層に埋まっていて難しいのではないかと少し不安だった。そうしたら、教え好きの看護師さんが「いま一人患者さんがいるけど、彼女は難しいから見てなさい」といって教えてくれた。静脈など全く見えなかった上に抗凝固剤を内服していたが、一回失敗して二回目で見事に成功していた。
 そのあと細かなテクニックについてレクチャしてくれた上、彼自身の腕を差し出し"Are you brave enough to put a line in me?"と言ってきた。これはお言葉に甘えていいのか迷ったが、良い機会なので"I think I am brave enough."と答えてやらせてもらった。彼もまた静脈が脂肪に埋まっていたが、手背の割と太くまっすぐな静脈にラインをとる事が出来た。「もっと刺入角度を下げて」とかその場でアドバイスしてくれたのが為になった。
 これで自信がついて、その日の夕方に本当の患者さんのところにいって、肥満患者さんと透析患者さんから2本ラインを取った。うち一本は、静脈弁に当たってカテーテルが進まなかった。しかし、看護師さんが生理食塩水をゆっくりflushして、弁を開けながら挿入するというプロの技を駆使してなんとか入った。翌日は、指導なしでラインを取り、かつ他の研修医にやりかたを教えてあげた。卒業間近になってみんな慌ててERに駆け込んでラインを取りに来ているが、多くは私の様に末梢ラインをとるなど久しぶりで不安なのだ。
 今回、Sir William Oslerの言う"See one, do one, teach one"が見事に実践された。おかげで患者さんを実験台にせず済んだ。他の不安な研修医が「どうせboardのためだ」とやっつけ仕事で慣れないライン取りで患者さんを傷つけることも防いだ。ということはHippocratesの"Do no harm"も実践したということか。もともと仲がいいERと、今までと違う形の交流ができて楽しかった。しかし、これら(末梢静脈ライン講習と手技credential)は一年目にあるべきだ。プログラムに提案しよう。

2011/02/27

Lactic Acidosis

 私が一般病棟で診ていた腎不全と肝不全がある人が、非特異的な消化器症状を訴えていたら乳酸値が2-3日の間に10mg/dlに達した。非常に不安な気持ちで腹部CT(とCT血管造影)を行ったが腸管壊死や虚血のサインは全くない。そもそもこの患者さんに腸管壊死があったら、残念な言い方だがすでにこの世にいないはずである。それで他の原因を考えなければならない。肝不全、腎不全とも乳酸値を上昇させうるのは無論だが、それだけでは説明できない何かがあるはずだと思っているうちに患者さんはICUに行ってしまったのだ。

 それで、ICUにいって指導医とこの患者さんの話をしたら論文をくれた。Critical Care Clinicsというサイトにある"Lactic Acidosis: Recognition, Kinetics, and Associated Prognosis"という記事だ。読むと、1976年にCohenとWoodsが乳酸アシドーシスをType AとType Bに分類したとある。Type Aは虚血・壊死・低酸素によるもので、Type Bは肝不全・腎不全・薬物や中毒・酵素異常など解糖系・クエン酸回路・酸化的リン酸化のどこかに支障をきたしている状態だ。その中で、私の患者さんに当てはまりそうなものにThiamine deficiencyがあった。

 Lactic acidといえば予後不良因子として有名である。ICU Bookなどを読んでも、「乳酸値(mg/dl)は死亡率(割)」、すなわち4mg/dlなら40%、8mg/dlなら80%という恐るべき線形的なグラフが載っている。しかし、乳酸血症は非常事態を意味するものの、虚血・壊死・低酸素を除けば乳酸そのものが必ずしも死をもたらす産物というわけではない。むしろ必死にATPを作ろうと非常電源が入っているようなものだ。

 じつはこの患者さんは、私が月の初めに診て入院当日にprotein-losing gastroenteropathy(PLGE)を疑った患者さんなのだ。もはやアルブミンは1.0g/dl、肝不全の精査で消化器内科がめくら滅法オーダーした検査でもceluroplasminが低値、そしていま乳酸血症の原因にthiamin欠乏が浮上し、消化管の吸収障害を強く示唆している。大腸内視鏡は非特異的所見を示したのみで、生検は正常。これらはIBDを除外するのに十分で私からしたら疑いなくPLGEなのだが。

 リウマチ内科も同意して、さあステロイド治療しようと思ったら消化器内科が「どうしても違う」と言い張って、それで(一般内科がそれに従い)何もできないまま患者さんが徐々に悪化してICUに行ってしまった。診たことのない疾患を診断するに勇気がいるのは分かる。確かに稀な疾患だ。しかし疫学・症状・所見・検査結果をもとに診断するという基本に従っておのずと導かれた診断を、消化器内科医が「そんなの診たことない」とか「沽券に関わる」というような詰まらない理由で否定することはできないはずだ。それにたとえ診断が誤っていたとしても、患者さんがステロイドを開始して失うものは何もない。

 弱い、弱い、Hospitalistは弱い。専門内科に頭も上がらないし、患者さんを守る気概にも欠ける。アテンディングが平気な顔をして"She's a mess"とか言う。悲しくて腹が立って仕方がなかった。私はHospitalistが大嫌いだ。アルブミンシンチグラフィができれば診断を証明できてよかったのに、うちの病院では出来ない。彼女が入院した翌日に核医学の先生に相談したら「うちにはアルブミンのtracerなんかないし、作れる核医学専門の薬剤師もいない」と言われた。でもICUの指導医は私と同じ考えで、しかもちゃんとCritical Careの専門だがら外野を黙らせて正しい治療をしてくれそうで嬉しかった。まだ間に合えばいいけど…。


2011/02/10

bone and heart

 Grand Roundで、うちの病院の循環器科医でじつはMayoでcardiology nuclear medicineでfellowshipをしていた女性が、女性の冠動脈疾患をテーマに講演した。ストレス、自己免疫疾患など女性特有のリスク因子があることや、病態もmicrovascular injuryやvasospasmなど男性と異なる場合が多いことを学んだが、さらに興味深かったのはBone-heart axisという概念だった。
 これは、更年期に骨粗鬆症と冠動脈疾患のリスクが同時に上がること、骨はカルシウムの貯蔵庫で冠動脈疾患は動脈の石灰化(カルシウム沈着)なことから、ひょっとしてこれら二つを同時に説明する機序があるのではないかという仮説だ。この仮説を裏付けるように、2010年のJACC(Journal of American College of Cardiology)にOsteoprotegerinという因子が冠動脈疾患のpredictorになりうるという論文が発表された。
 講演によればOsteoprotegerin(OPG)はRANKLのdecoy receptorで、NFκBを阻害するらしい。これにより、免疫細胞や骨細胞(破骨細胞)の働きを調節しているのみならず、血管内膜のプラークを石灰化する働きもあるという。そして前述の論文は、血中OPGが冠動脈石灰化と相関するということを示したと紹介された。発想のダイナミックさに驚嘆した。この論文、病院の図書館でダウンロードして読んでみようと思う。

2011/02/08

RTA

 Noon lectureで腎臓内科医がRTAの話をした。彼女はうちの病院では珍しいHarvard graduateで、教育熱心で有名な先生なのだが、RTAは何と言っても複雑で、聴いている人はほとんど寝ているか苦笑するかしていた。私も正直難解と思ったが、聴きながら非常に面白い物の見方が得られた。さらに、理解を助ける三つのポイントも学んだ。
 面白い物の見方とは、アシドーシスのプロセスを尿細管細胞側(外側)からではなく、尿細管内腔(内側)に視点を置いて観察するということだ。糸球体を透過して濾し出された多くの溶質達が、あたかもシティマラソンのように一斉に内腔を走り出し、途中で「じゃあこれで」と消えていったり(再吸収)、途中から「やあどうも」と参加してきたり(排泄)するイメージ。
 それを踏まえて、三つのポイントについて。一つは、NAE(net acid excretion)という概念だ。
      
NAE = NH4 + titratable acid - HCO3

 腎臓が排出する酸はこの三つにより決定される。遠位RTAは前者二つの異常、近位RTAはHCO3再吸収の異常。NH4イオンは、尿アニオンギャップまたは尿浸透圧ギャップにより推定できる。titratable acidは、尿pHに反映される(NH4についたプロトンは固くアンモニアに結びついて離れず、尿中プロトンのほとんどは滴定酸由来なため)。

 二つ目は、aldosteroneの作用だ。遠位尿細管の詳しいレセプターはさておき、基本的にこのホルモンのおかげで遠位尿細管でNa吸収が起こり、結果生じるluminal negative driving force(尿細管内腔が陰性にチャージされ、それにより陽イオンを引き込もうとする力)によりプロトンとKが排泄されるというイメージが頭に入った。これによりType 4 RTAの機序、それにType 4 RTAが高K血症をきたすことが容易に説明できる。

 三つ目は、HCO3 is a non-reabsorbable anion in distal tubuleという概念だ。あたかも高速道路のように、近位尿細管というexitを逃すとHCO3はそのまま再吸収されずに走りつづけるしかない。その結果、電気的中性を保つためNaを(Kも)遠位尿細管まで引き連れることになり、前述のaldosteroneの作用によりここでNa再吸収とK排泄が起こる。これが近位RTAが低K血症をおこす理由だ。

2nd case of milk alkali

 ミルクアルカリ症候群とおぼしき症例をまた診た。脳性麻痺の患者さんが数日続く嘔吐ののち誤嚥して運ばれ、血液検査でナトリウムが162mEq/l、カルシウムが11.7mg/dl(補正後)だった。カルシウムは嘔吐の前から高値で内分泌科医を紹介受診する矢先だったらしい。この程度のカルシウム値でそこまで症状がでるとも思われないので、嘔吐とカルシウムはべつの話だろう。
 ともかく血液検査ではHCO3が上昇しており、まさかまたミルクアルカリかと思って薬剤リストを見ると、果たしてbaking soda(重曹)とある。さらに骨粗鬆症予防にカルシウムとビタミンDも内服していた。家族に聞くと、重曹は胃が痛がるので慢性的に飲ませていたという。ともかく治療は補液で、最初の24時間はこまめに血液検査をして値が徐々に正常化するのを確かめることにした。