2011/12/08

話を聴く

 外来で診た患者さんの話をよく聴くと、患者さんとrapportを築きやすい。大学病院の専門内科外来なので、何人もの医師に会い、長い経過で、みんな「あれでもない、これでもない」と言われてここに紹介されるのだ。だから、ある程度自分に考えがあったとしても、いきなりそれを告げるのではなく、まずは相手の話を聴くほうがコミュニケーションがうまくいく。

 さてそんな患者さん達の中で、Scrがある薬(抗高triglyceride血症薬)を飲んでから上昇したという人がいた。私はそのクラスの薬が腎障害をおこすという話は聞いたことがなかったし、acute interstitial nephritisのサインもないし、クレアチニンの排泄を促進するという(そういう薬もある、たとえばST合剤)話も聞いたことがない。

 でも他にacuteなcreatinine riseを説明する仮説もあまりなく、幾つかの追加検査をすることにはしたが、その抗高triglyceride血症薬をやめてみれば?と思った。そもそもこの患者さんはこのクスリを始める前から高脂血症などなかったし、statinに対するintoleranceもないのだ。そして追加検査もあらかた陰性で帰って来た数ヵ月後、血液検査の結果をみると果たしてScrはクスリを飲む前のbaselineに戻っているではないか。

 電話してみると患者さんとその妻はもちろん喜んでいたし、彼らは最初からこのクスリのせいではないかと疑っていた(のに誰も聞いてくれなかった)から尚のことだった。話を聴いてくれてありがとう、"You are such a wonderful man!"とかいうからこちらも嬉しかった。それからも彼らが何かで外来に連絡するたびに「あの先生はすばらしい」みたいなことを言ってくれるので、なんだか照れる。