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2018/06/07

キセキのその先へ ブロスマブの意味するもの

 抗FGF23モノクローナル抗体ブロスマブ(Burosumab)のX-linked hypophosphatemic rickets児に対する治験結果(NEJM 2018 378 1987)は、おそらく日本資本の会社が開発したこともあって多くの人がすでに目にしたことと思う(NEJM日本語サイトにもアブストラクトがある)。これからマスコミなどでもひろく取り上げられるだろう。

 この論文のインパクトはさまざまで、もちろん難病の内分泌疾患であるXLH(X-linked hypophosphatemia)にたいする新しい治療がみつかった(子供の成長発育が改善した)という感動は計り知れない。まさにキセキだ。同様に、FGF23産生腫瘍によるTIO(Tumor-induced osteomalacia)に対してもこの治療が有効かもしれない。内分泌領域ではそのようなレビューが既に出ている(Endocrine Reviews 2018 39 274)。

 この話題を、腎臓内科医はどのように受け止めればよいだろうか(図はKidney Health Australiaのキャラクター、キドニー・マン)?





 ひとつは、「電解質異常をモノクローナル抗体で治療する」というカテゴリーでの感想だろう。といってもまだ他には高Ca血症に対するデノスマブ(抗RANKLモノクローナル抗体)くらいしか知らないが、同じような考え方をすれば細胞表面にあるたんぱく質ならなんでもターゲットになりうる。

 腎臓内科は伝統的には利尿薬の分野で分子標的治療をリードしていたはずだが、最近はSGLT2阻害薬もURAT1阻害薬(こちらに触れた)も他科主導でつかわれているし、尿細管よりむしろ腸管の分子標的治療薬のほうが耳目を集めてもいる(腎臓領域ではTenapanorがあるが、むしろIBS治療薬が多い)。

 今後、電解質治療だけでなくても、モノクローナル抗体による降圧薬とか、でてくるかもしれない。と、2015年に予想していたことが少しずつ現実化しているのだろうか。あるいは、巡り巡って元いたところに戻ってきたのだろうか(図)。今後に注目していきたい。
 



 もうひとつ考えるべきは、もちろんCKD-MBD領域への応用だ。

 FGF23が心肥大をおこすことは、2011年から分かっていた。その論文(JCI 2011 121 4393)では動物モデルだがFGFR阻害薬PD174074で心肥大が抑制されていた。しかし、いまのところ臨床へのトランスレーションは「リンを下げましょう」という、セクシーさに欠ける(コーラはやめましょうとか、患者さんにあまり評判のよくない)ものに限られているのが実情だ。





 抗FGF23モノクローナルも、もちろんそれを意識して開発されているし、もしかしたら既にどこかでCKD患者の心肥大・心血管系イベント予防についての治験が行なわれているかもしれない。あるいは、同じ軸のFGFR4(受容体サブクラスのひとつで、これがとくに心肥大と関係するという)抗体も試験されているかもしれない。

 NEJM論文の勝利が、これからCKD領域でのさらなる成果につながったらすごい。でももしかすると、サッカー日本代表がワールドカップで優勝するよりも、こちらのほうが現実的で見込みがあってインパクトの大きなことかもしれない。どの国がそのような治療法を見つけても素晴らしいことに違いはないが、こっちのサムライブルーにも期待したい。




2018/01/10

高リン血症にナイアシン?

今回、高リン血症にナイアシンやニコチン酸アミドを使用することについて話題を触れたい。

これに関しては、いくつかのトライアルが行われ透析患者の高リン血症を下げるなどが示されているが、問題点としては治療期間が短かったり、サンプルサイズが小さかったり、研究デザインが悪かったりなどがあり、疑問視されていた。

それに対して二つの研究がしめされた。

1:Malhotra 達が報告したもので、CKD stage 3~4の患者352人をナイアシン投与群(1500-2000mg/dl)と少量投与群(50mg)に分けた。投与群ではリンが3.4→3.3mg/dl、少量群では3.4→3.6mg/dlとなり、一応統計学的な有意差はあったが、他のFGF、PTH、Ca、VitDなどの改善には寄与しなかった。この報告では、血清リンは軽度低下あるものの顔面紅潮の副作用が多く目立ったというものでnegativeな報告であった。(Clin J Am Soc Nephrol 13: XXX–XXX, 2018、doi: 10.2215/​CJN.05440517)

2:Lenglet 達が報告したもので100人の血液透析患者に経口のナイアシンかセベラマーの投与を24週間行なった。結果としては、ナイアシンではリンが6.5→5.6mg/dl、セベラマーでは7.1→5.3mg/dlとなった。リンに関しては低下はしたが、FGF23はセベラマーでは低下したが、ナイアシンでは増加し、Klothoはセベラマーで増加し、ナイアシンでは低下した。また、研究も副作用で途中で終了となっていた。(Nephrol DialTransplant 32: 870–879, 2017)

ナイアシンなどが、高リン血症に効果があるのは下図に示されるように消化管のNaPi2b受容体に阻害的に働き、Pの吸収を抑えるためと考えられている。

CJASN 2017より

現時点では、ナイアシンなどは有効な結果は出ていない。
現在少量投与のナイアシンがどうかという下記のstudyが走っている。

COMBINE
NOPHOS 

これらの結果にもよるが現段階では残念ながらナイアシンの使用を積極的には推奨はされない。




[おまけ]ナイアシンについて触れた2012年の投稿もご参照ください、当時の米国(大学病院)でどんなふうに議論されていたかの参考になるかもしれません。


2017/07/19

哲と凛

 7月18日、腎臓学会からメールがあった(写真は映画You've got mailより)。なんと、先の学会講演「よくわかるシリーズ」動画がオンデマンド配信されたという。




 こんなすごい時代に居合わせられて幸せだ。まさに「僕たちのキセキ」だなと思う。会員思いの学会の会員でよかった。12月22日までの限定公開なのは残念だが、「少年は老いやすく学成り難いから鉄は熱いうちに打ちなさい(写真)」という親心と受け止め、早めに視聴しておきたい。




 その鉄ではないが、「よくわかるシリーズ10」カルシウム・リンのご講演で、鉄の静注後に低リン血症になるとあった。以前に鉄と茶について書いたが、鉄とリンというのも意外な組み合わせだ。Oxfordなど教科書をみても原因一覧に載っていないので、エキスパートだからこそご存知の新しいトピックなのだろう。興味を持って調べてみると、ここ数年の論文がたくさんでてくる(たとえば、doi:10.1155/2015/468675)。

 有名なのは日本では未承認のカルボキシマルトース第二鉄(FCM;商品名はInjectafer®、Ferinject®)だ( doi:10.1136/bcr-2016-219160)。これはメガ用量の鉄を一度に投与できるのが特徴だ(鉄として50mg/ml、20mlで1000mg)。経口鉄を消化器症状で飲み続けられない人もいるから、便利だ。

 が、2008年にはすでにFDAが2.3%に低リン血症がみられると警告していた。多くは軽症だと思われていたが、オーストリアの大学病院でFCMを使用した患者さんの32%に0.6mmol/l(1.86mg/dl)未満の低リン血症がみられた(doi:10.1371/journal.pone.0167146)。なお欧州の論文はリンの単位がmmol/lになっているが、リンの原子量が31なので3.1倍すればmg/dlに変換できる。

 機序は、だいたいどの症例報告やレビュー(Neth J Med 2014 72 49)を見ても、FGF23上昇と、近位尿細管からのリン再吸収低下が示唆されている。FGF23がふえれば活性型Vit Dが減るので、余計によくない。もともとビタミンD欠乏があれば、いっそうよくない。補充しても正常化に数ヶ月要した例もある(Eur J Clin Nutr 2014 68 531、栄養不良も合併していたため)。

 FCMにとくに多いようだが、添加物のせいか鉄用量が多いせいかはわからない。ほかの鉄、たとえば日本にあるsaccharated ferric oxide(フェジン®)でも報告がある(Bone 2009 45 814;Bone誌に載せるのだから、腎臓内科が扱う領域はほんとうに幅広い)。FCMも、日本の製薬会社が開発や販売のライセンスをとっているし、そのうち市場にでまわるかもしれない。

 そうなれば、鉄欠乏性貧血はとても患者さんの数も多いし、たくさんの人につかえば潜在的にビタミンDが足りないなど副作用がでやすい人にも当たるから、注意深い観察が必要だと思う。Take home message(「よくわかるシリーズ」はたいていこのスライドで終る)?静注鉄を入れたらリンを測ろう。








2017/05/31

シナカルセトとエテルカルセチド

 「勝るとも劣らない」と言う言葉は、劣らないとは言っているが勝るかどうかについてはお茶を濁している。「BはAに勝る」と言ってしまうとAに角が立つ。「BはAにも勝るとも劣らない」と言えば、Bを褒めつつAにも気を遣うことができる。そう考えると「ペンは剣より強し」いう慶応大学のモットーが宣言のように力強く感じられるかもしれない。

 さて、薬Aと薬Bで有効性を比べる試験で最近よく聞くのが非劣性(non-inferiority)という言葉だ。従来の薬Aに対して、あたらしい薬Bが非劣勢なら、わざわざ薬Bに替えなくていい気がする。でもそういうときは、効きは劣らないのにBのほうがAより副作用が少ないとか安いとか便利とか、ほかの要素を売りにしている。

 CaSRを刺激しPTHを減らすお薬をcalcimimeticsというが、シナカルセトが先にでて、それに対するエテルカルセチドの非劣勢を示そうとした論文が1月にJAMAにでた(JAMA 2017 317 156)。いままで耳に入ってこなかったのは不思議だ…もっと勉強しなければ。シナカルセトもエテルカルセチドも開発したのはAmgenだが、販売する会社は違うから、おたがいこれに触れない「紳士協定」でもあるのか(写真は1947年公開映画、Gentleman's Agreement)。




 スタディでは欧米、ニュージーランドなどで二次性副甲状腺亢進症(PTH 500pg/ml以上)の透析患者さん600人あまりに対してシナカルセト、経口プラセボ、エテルカルセチド、静注プラセボを26週間投与してPTHの下がりをみた。用量はシナカルセトで30-180mg/d、エテルカルセチドで2.5-15mg/週3回の範囲で5、9、13、17週目にどちらも調節できた。

 結果、30%以上さがった割合はエテルカルセチド群で高かった(68%、シナカルセトは57%)。よく効くぶん、Ca値も低めになる(Alb補正Caが8.3mg/dl以下になる割合は68%、シナカルセトは59%)。シナカルセトで有名な消化器症状は、エテルカルセチドでも同様にみられた(悪心はシナカルセトで22%、エテルカルセチドで18%;嘔吐はいずれも13%)。

 PTHが目標まで降下した割合は、非劣勢なだけでなく、優勢かどうか(superiority)でも有意差がでた。じゃあ優勢なんだから、二次性副甲状腺機能亢進症のcalcimimetics第一選択はシナカルセトからエテルカルセチドに代替わりだろうか?AにもBにも気を遣わなくてよい立場からいくつか考察してみたい。

 エテルカルセチドは、PTHの先にある心血管系イベントや骨粗しょう症予防に実質的に効くかもしれない。エテルカルセチド群はシナカルセト群よりもFGF23の前値がたかかった(4033pg/ml、シナカルセトは2984pg/ml)が、介入後はシナカルセト群より低くなった。骨粗しょう症マーカーも、介入後シナカルセト群より低くなった。マーカーとハード・エンドポイントは違うので再検は必要だが、示唆はされる。

 また透析患者さんはお薬の数がおおいから、注射になって飲む数がへるのは朗報かもしれない。同様のことは、腎性貧血で開発中のHIF阻害薬についてもいえるかもしれない、ESAとちがい経口だから逆に敬遠される可能性がある。

 いっぽう、サブ解析を見るとエテルカルセチドが優勢なのは65歳以下、透析年数5年以上の群だった(65歳以上、透析年数5年以内では有意差がなかった)。透析年数が浅いと残腎機能があってエテルカルセチドが尿中にうしなわれるのかもしれない。また注射製剤は透析室スタッフの手間になる。プリフィルドシリンジでないので、針刺しや用量間違いの元かもしれない。価格も含め、こういった「使い勝手」は透析現場にきいてみないとわからない。

 しかし結局、透析患者さんのPTHをどこまで下げるとどう良いのかには、議論の余地があるかもしれない。シナカルセトとプラセボで透析患者さんにおける心血管系イベントと死亡率を比較したEVOLVE試験(NEJM 2012 367 2482)では介入で有意差がなかった。データが少ないのでPTHゴールは各国ガイドラインで異なる。せっかくエテルカルセチドがよく効くなら、死亡率や心血管系イベント、骨折予防のデータも出るといいなと思う。


2015/06/06

FGF23 and Klotho

 JSN/ASN joint science symposiumに参加してきた。まずKlothoについて黒尾先生が、つぎにFGF23についてDr. Myles S. Wolfがお話した。黒尾先生のお話では、Klotho欠損マウスが短命なのはgenotoxic stressのためではなくCPP(calciprotein particle)による炎症によるものだというお話が興味深かった。CPPとは、1nm以下のリン酸カルシウム塩の最小単位であるPosner's cluster;分子式Ca9(PO4)6がFetuin-Aと凝集してできた径100nm程度のかたまりで、血漿ではコロイドとして存在しているそうだ。あたかも水に溶けない脂肪がapoproteinと一緒になってlipoproteinとして存在しているように。

 CPPは内皮細胞にひっついてTLR、MCP-1(好中球のchemotactic agent)などを介してサイトカイン、炎症、動脈硬化などをきたす。ふつうはFGF23のco-receptorとしての膜型Klothoがあって、リン摂取時には骨からリン排泄亢進ホルモンであるFGF23が産生されて尿中にリンが排泄されてリンの恒常性が保たれるはずであるが、Klotho欠損マウスはその機構がはたらかないので高リン血症になる。しかしKlotho欠損因子にリン制限をかけるとリン値はあがらずCPPも減って寿命は延びる。さらに、Klothoには二種類あってもうひとつは可溶性Klothoだが、これが減ると線維化、Wntシグナリング経路の活性化、IGF-1シグナリング経路の活性化などがおこる(Science 2007 317 803、Am J Physiol Renal Physiol 2012 301 F1641←ああ、この雑誌の論文に触れるのひさしぶりだな…フェロー時代は読んでたけどな…)。

 じゃあ翻って、CKD患者さんではKlothoが減少するわけだが、マウスのようにリン制限をかけていればいいのかというと、話はそう単純ではない。というのはKlothoの減少の前から後かは不明だがとにかくCKDの進行とともに患者さんの身体の中ではFGF23値が指数的に増えていくからだ。これはリン排泄を一生懸命するための代償的な反応と考えることもできるが、残念ながら心筋肥大を起こし心血管系死を招くことは良く知られた事実だ(JCI 2011 121 4393←これは、私が米国腎臓内科フェローになって初めてJournal Clubで発表した論文なので感慨深いものがある…当時の様子もちゃんと書いてある)。

 あのあと抗FGF23モノクローナル抗体を試したがうまくいかなかったと風の便りに聞いていたが、今回その論文が紹介され(JCI 2012 122 2543)、この抗体で5/6腎摘ラットのFGF23をブロックすると、LVHは改善させるが著明な高リン血症と劇しい血管石灰化を起こしたそうだ。というわけでFGF23はFGF-2などと同様LVHを起こす意味で有害なホルモンだが、リン排泄とCPPコロイドの減少と言う意味で保護的なホルモンだ(というかホルモンなんて皆そうだ;出過ぎも出なさ過ぎもよくない)。しかしFGF23がLVHを起こす細胞内シグナリングがcalcineurinというのは興味深い;calcineurin inhibitorが効くかもしれないからだ(そういう質問がフロアからでていた)。



2013/01/30

EVOLVE

 腎臓内科医にとって最大の夢-CKDならびにESRD患者さんを心血管疾患から救うこと-をかなえるため研究は続く。私は個人的にFGF23とKlothoに希望を見出しているが、もう一つの重要なプレーヤーはPTHだ。それを抑えるcinacalcetがESRD患者の死亡率と心血管疾患を予防するかを調べた大規模スタディ、EVOLVEが昨年に出た(NEJM 2012 367 2482)。

 カルシウムを保ってもリンを下げても活性化ビタミンDをあげてもPTHが下がらない、でも副甲状腺摘出をしない(妥当なcinacalcetの適応だろう)約3600のESRD症例にcinacalcetとプラセボを投与した。しかし平均21ヶ月の追跡で、primary end-point(死亡と心血管系イベント)で両者に差はなかった。それで皆がっかりした。

 PTHを下げれば血管の石灰化が緩和され心疾患予防に効くはず、というのは理にかなっている。なんとかポジティブな結果を引き出そうとsub-group analysisが行われ、「よく見ると効いている」などと宣伝されている(Nephrology Times 2012 5 1)。が、薬の高コストを考えると(2014年までにはESRDの包括医療費に組み込まれるらしいし)適応は広がらなさそうだ。


2012/10/19

Klotho

 F1000というwebsiteがある。医学生物学分野で、その道のエキスパートが、読む価値ある論文についてレビューし評価するpeer-reviewだ。本社はロンドンにある。彼らが星の数ほどある論文のなかから注目すべきものをピックアップしてくれ、さらに内容とそのimplicationを短く要約してくれるので、自分ひとりでkeep upしなくてもよいというわけだ。

 エキスパートは主に米国、英国、欧州、アジアなどから選ばれているが、うちの腎臓内科にも二人のfaculty memberとひとりassociate faculty memberがいる。それで、そのひとりの先生が九月に「論文(JASN 2012 23 1641)をレビューするので手伝ってみないか?」と声をかけてくれ、その執筆・編集作業がやっと終わった。

 これは単なる論文の要約ではなく、この論文が現行の理解においてどの位置にあり、どのような新しい発見があり、どのような今後の研究方向性を示唆するかを、エキスパートの目で評価するものだ。だから、その分野について勉強する必要があり、レビューや研究論文を(ひとつはCurr Opin Nephrol Hypertens 2012 21 362)をいくつか読んだ。

 論文はKlothoについて。Klothoは当時日本の神経研究所におられた(現在はUT Southwestern)黒尾誠先生が抗老化と抗動脈石灰化の遺伝子として発表(Nature 1997 390 45)。主に腎遠位尿細管で産生され、腎ではFGF23と一緒に近位尿細管のリン再吸収トランスポータ(NPT2a、2c)を制御してリン利尿をおこす。その仕組みは完全には証明されていないが、Klothoの細胞外部分が切り取られて流れ、近位尿細管に届くとして矛盾しない。

 Klothoを初めて知った時は「腎臓ってerythropoietin、1,25-OH vitamin D、reninとかいろいろ分泌するけど、老化にも関与しているなんてすごい!」と思った。しかしこの論文では、腎(遠位尿細管)のKlothoを選択的にブロックしてもマウスは異常な老化をしなかった。ブロック具合が不十分だったためか、身体の他の部分からでるKlothoが抗老化作用を補っているためかは分からない。


2012/07/10

on-line HDF

アメリカにいると、ヨーロッパのものがなんとなく優雅で素晴らしいものに思える。単なるあこがれだが、そんなわけで欧州が取り入れているhemodiafiltration(HDF)も何となく普通の透析に比べて優れているに違いないと思っていた。

 HDFの魅力はUFによってmiddle molecule(分子量1000~10000)を除去できることだ。透析液と別に大量のreplacement fluidが要るが、on-line HDF(on-lineと言ってもインターネットのことではない)は透析液の一部を加工してreplacement fluidを作るので手間が少ない。

 原理はさておき、HDFは普通の透析に比べてどう優れているのだろうか。データによれば透析中の低血圧が少ない、高リン血症がコントロールしやすい、ESA(erythropoiesis stimulating agent、エリスロポイエチンのこと)が少なくて済む、残存腎機能をより維持するなどが知られていた。

 しかし、透析治療にとって一番のゴール、生存率の向上は得られるのか?移植と頻回透析を除き、いままで透析機械を向上して透析患者さんが長生き出来るというデータが得られたことはない。米国のHEMOスタディ(NEJM 2002 347 2010)、欧州のMPOスタディ(JASN 2009 20 654)がhigh KT/Vとhigh-flux filterを試したがだめだった。

 それで、HDFは透析屋に残された数少ない希望の一つであった。Middle moleculeを除去して患者さんの命を救うべくCONTRASTスタディ(contrastといっても造影剤は使わない)が行われ、その結果が最近発表された(JASN 2012 23 967)。結果はいかに?その前にどんなスタディだったのか見てみよう。

 これはオランダ、カナダ、ノルウェイの三か国で約700人の患者さんを対象にon-line HDFとlow-flux HDを比較したスタディだ。なぜlow-flux filterを対照群にしたのかは定かでない。middle moleculeはhigh-fluxでもある程度除けるので、結果を強調するためにlow-fluxと比較したのかもしれない。あるいは、HEMOスタディとMPOスタディでhigh-fluxとlow-fluxで生存率に差がなかったので、どちらでもいいと思ったのかもしれない。

 HDF群では透析時間がやや短く、血液流量が多く、KT/Vが少し高く(1.6 v. 1.4)、リンが少し低かった(4.9 v. 4.8)。Middle moleculeはどうか。beta2 microglobulinの血中濃度は、HDF群で統計学的に有意に低かった(25 v. 35)。しかし基準値が1以下なことを考えると、臨床的にどこまで有意かは謎だ。

 さて、肝腎の生存率はどうか。6年間の追跡で両者に差は見られなかった。それで皆、「HDFは優れているはずなのにどうして?」と残念がっている。残念がったあとに行うのがsub-group analysisだ。なにか一つでもDHFで長生きしたpopulationがないか探すのだ。しかし性別、糖尿病の有無、残存腎機能の有無、どれをとっても差が見られなかった。

 唯一差が見られたのは、convection volumeが上位25%の群だった。それで、HDFを信じる人にとっては「HDFのdoseが少なかったから差が出なかったのか。やっぱりHDFはちゃんとやれば長生きできるんだ!」という希望が残された。現在他にもヨーロッパでいくつかのHDFスタディが進行中なので、それらに希望を託して論文は終わっている。

 middle molecule theoryは美しいが、限界があるのだろう。そもそも透析患者さんの命を救うには心臓を守らなければならない。そして患者さんの心臓を守るには、volumeをコントロールして血圧を下げることと、死のホルモンFGF23を下げるのが先と思う。もしHDFがFGF23でも除けるなら素晴らしいが、残念ながらFGF23の分子量は33000でHDFでも除けない。


 [2013年3月追加]スペインのESHOLスタディ(doi: 10.1681/ASN.2012080875)が出て、ついにall-cause mortalityの有意差が出た(cardiovascular deathには差がなかったが)。middle molecule hypothesisを徹底的に信じない米国の透析文化だが、こういったスタディを受けてon-line HDFが徐々に普及するかもしれない。



2011/12/04

FGF23 induces LVH

Journal clubで"FGF23 induces LVH"(JCI 2011 121 4393)を発表した。これは、①慢性腎不全の患者さんは心疾患で亡くなる、②慢性腎不全の患者さんではFGF23血中濃度が高い、③FGF23濃度は左心肥大に相関する、④FGF2は心肥大を起こす、という研究結果を踏まえて行われた実験だ。

 15ページもある長編で、実験も多い。慢性腎不全cohortをcross sectionalとprospectiveに調べ、in vitroでFGF23を心筋に振りかけて調べ、FGF23がどの受容体や細胞内シグナルを用いるか調べ、in vivoでマウスにFGF23を注射して、さらにFGF23が高レベルなマウス(kl/kl)や慢性腎不全モデル(5/6腎摘ラット)を用いた。

 分かったことは多い。FGF23がFGF2と同様に病的な心肥大を起こすこと。それはFGF受容体を介すること。従来知られていた、FGF23のリンやビタミンDに関する作用に必要なKlotho co-receptorに依存しないこと。細胞内シグナルは、FGF2が用いるMAPKではなくcalcineurin-NFATであること、など。

 この実験から日常臨床に翻って言えることは、腎臓内科医は患者さんのリンをメチャメチャ本気で下げなければならないということだ。高リン血症が慢性腎不全患者における心疾患および死亡のリスク因子であることはずっと前から知られていたし、KDOQI guidelineもリンの上限を5.5mg/dlに推奨している(AJKD 1998, 31, 607-17などが典拠になっている)。高リン血症を放置するとFGF23濃度が上がってしまう。