2017年5月31日水曜日

シナカルセトとエテルカルセチド

 「勝るとも劣らない」と言う言葉は、劣らないとは言っているが勝るかどうかについてはお茶を濁している。「BはAに勝る」と言ってしまうとAに角が立つ。「BはAにも勝るとも劣らない」と言えば、Bを褒めつつAにも気を遣うことができる。そう考えると「ペンは剣より強し」いう慶応大学のモットーが宣言のように力強く感じられるかもしれない。

 さて、薬Aと薬Bで有効性を比べる試験で最近よく聞くのが非劣性(non-inferiority)という言葉だ。従来の薬Aに対して、あたらしい薬Bが非劣勢なら、わざわざ薬Bに替えなくていい気がする。でもそういうときは、効きは劣らないのにBのほうがAより副作用が少ないとか安いとか便利とか、ほかの要素を売りにしている。

 CaSRを刺激しPTHを減らすお薬をcalcimimeticsというが、シナカルセトが先にでて、それに対するエテルカルセチドの非劣勢を示そうとした論文が1月にJAMAにでた(JAMA 2017 317 156)。いままで耳に入ってこなかったのは不思議だ…もっと勉強しなければ。シナカルセトもエテルカルセチドも開発したのはAmgenだが、販売する会社は違うから、おたがいこれに触れない「紳士協定」でもあるのか(写真は1947年公開映画、Gentleman's Agreement)。




 スタディでは欧米、ニュージーランドなどで二次性副甲状腺亢進症(PTH 500pg/ml以上)の透析患者さん600人あまりに対してシナカルセト、経口プラセボ、エテルカルセチド、静注プラセボを26週間投与してPTHの下がりをみた。用量はシナカルセトで30-180mg/d、エテルカルセチドで2.5-15mg/週3回の範囲で5、9、13、17週目にどちらも調節できた。

 結果、30%以上さがった割合はエテルカルセチド群で高かった(68%、シナカルセトは57%)。よく効くぶん、Ca値も低めになる(Alb補正Caが8.3mg/dl以下になる割合は68%、シナカルセトは59%)。シナカルセトで有名な消化器症状は、エテルカルセチドでも同様にみられた(悪心はシナカルセトで22%、エテルカルセチドで18%;嘔吐はいずれも13%)。

 PTHが目標まで降下した割合は、非劣勢なだけでなく、優勢かどうか(superiority)でも有意差がでた。じゃあ優勢なんだから、二次性副甲状腺機能亢進症のcalcimimetics第一選択はシナカルセトからエテルカルセチドに代替わりだろうか?AにもBにも気を遣わなくてよい立場からいくつか考察してみたい。

 エテルカルセチドは、PTHの先にある心血管系イベントや骨粗しょう症予防に実質的に効くかもしれない。エテルカルセチド群はシナカルセト群よりもFGF23の前値がたかかった(4033pg/ml、シナカルセトは2984pg/ml)が、介入後はシナカルセト群より低くなった。骨粗しょう症マーカーも、介入後シナカルセト群より低くなった。マーカーとハード・エンドポイントは違うので再検は必要だが、示唆はされる。

 また透析患者さんはお薬の数がおおいから、注射になって飲む数がへるのは朗報かもしれない。同様のことは、腎性貧血で開発中のHIF阻害薬についてもいえるかもしれない、ESAとちがい経口だから逆に敬遠される可能性がある。

 いっぽう、サブ解析を見るとエテルカルセチドが優勢なのは65歳以下、透析年数5年以上の群だった(65歳以上、透析年数5年以内では有意差がなかった)。透析年数が浅いと残腎機能があってエテルカルセチドが尿中にうしなわれるのかもしれない。また注射製剤は透析室スタッフの手間になる。プリフィルドシリンジでないので、針刺しや用量間違いの元かもしれない。価格も含め、こういった「使い勝手」は透析現場にきいてみないとわからない。

 しかし結局、透析患者さんのPTHをどこまで下げるとどう良いのかには、議論の余地があるかもしれない。シナカルセトとプラセボで透析患者さんにおける心血管系イベントと死亡率を比較したEVOLVE試験(NEJM 2012 367 2482)では介入で有意差がなかった。データが少ないのでPTHゴールは各国ガイドラインで異なる。せっかくエテルカルセチドがよく効くなら、死亡率や心血管系イベント、骨折予防のデータも出るといいなと思う。