2017/05/15

火星だより 2

 前回、塩分6g/d食のひとが12g/d食になると、捨てる溶質が増えるが尿は濃縮するので自由水クリアランスがへる、つまり自由水が身体にたまるという話をした。いっぽう、6g/d食のひとが12g/d食になると水分摂取量はへる。これが液体の水分なのか食事中のも含むのかが分かりやすい場所に書いていないが、とにかく減る。


 塩を取れば血液の浸透圧があがり喉が渇き水分摂取が増える、という定説と違うが、尿データをかんがえると、溶質が増えても腎臓が尿濃縮で自由水をためるので、身体の浸透圧がさがり口渇がさがるということかもしれない。血液の浸透圧データはないので、詳しいことまではわからない。

 6g/d食から12g/dになって減った水分摂取量の差(図の薄い青)は、腎臓でためた水(図左バー)から不感蒸泄による喪失分(斜線)を差し引いた量(図の濃い青)にほぼひとしかった。一日水分摂取量が一日尿量より32%おおいことから、ためた自由水の32%が不感蒸泄ででていくと推定したそうだが、正確かわからないことは研究グループもみとめている。ちなみに火星探査の訓練なので、被験者は運動も肉体作業もした。


 このあと、彼らは塩をおおくとった時に腎臓が尿を濃縮する仕組みについて考えさらに実験をおこなった。まず一日Na排泄量(蓄尿Na濃度に1日尿量をかけて計算するので、UNaVと書く)と尿Na、K、尿素濃度の関係をみると、一日Na排泄量が多いほど尿Na濃度があがり、尿K濃度は変わらず、尿urea濃度は低くなった(それぞれ左、中央、右)。


 尿の尿素濃度と尿の濃縮にはどんな関係があるか?まず尿素と尿濃縮の関係をおさらいしよう(レビューはJASN 2007 18 679、図)。尿の濃縮に寄与するのは主にNaClと尿素で、NaClは有名なヘンレ係蹄のcountercurrent multiplicationで維持される。一方ureaは、とくに髄質内層の浸透圧勾配に重要だ。


 集合管をおりていく原尿はV2(バソプレシン)受容体の支配下にあるアクアポリン2を介して水を吸われるが、この部分は尿素を通さない。だから原尿が髄質内部の集合管(IMCD、internal medullary collecting duct)までくると尿素濃度はとても高くなっている。

 IMCDには尿素トランスポーターUT-A1、A3があって尿素は一気に間質にでていき、内腔と間質の浸透圧がほぼ等しくなる。それで浸透圧利尿で水が失われるのを防いでいる。その証拠に、UT-A1とA3をノックアウトすると(十分にたんぱくをあたえられた)マウスは水をどんどん喪失してしまう。

 高濃度の尿素を維持する仕組みのひとつはvasa rectaによるcountercurrent exchangeで、ヘアピンになった血管にあるUT-Bを通じて尿素が上がって降りてを繰り返す。もうひとつが尿素リサイクルで、ヘンレ係蹄のUT-A2を通じて間質の尿素が内腔に排泄され、遠位ネフロンをまわりIMCDでふたたび間質に再吸収される、の繰り返しだ。

 それをふまえてみると・・。

 尿の尿素濃度がさがることと尿の濃縮をむすびつけるひとつの考えは、尿素が尿に出てこないぶん腎間質にとどまり、濃度勾配をきつくして尿をいっそう濃縮させたというものだ。研究グループはそういっている。

 ただ間質の尿素濃度は測れないし、UT-A1、A3は濃度依存のトランスポーターだから間質の尿素濃度がたかければ集合管内腔の尿素濃度も高いかもしれない。尿素の摂取量はかわらなかったようだが、異化や同化がかわって尿素がつくられなくなったのかもしれない。この段階では、まだなんともいえない。塩分摂取が増えて尿素排泄がへる理由も、わからない。

 つぎに、研究グループは尿アルドステロン排泄とコルチゾン排泄をしらべたので、それをみてみよう。つづく。