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2019/10/16

虎ノ門みやげ 前編

 NBCe1と言われても、何の略かわかりにくい。NaとBicarbonateのCo-transporterと、元素記号と英語がチャンポンになっているが、要はHCO3-を近位尿細管の細胞内から間質側に出す輸送体だ(図はFront Physiol 2013 19 350より)。




 本ブログでも何度か名前くらいは紹介してきた(こちらこちらも参照)ものの、これだけを取り上げたことはなかった。・・今日までは。

 東部腎臓学会の教育講演16「近位尿細管性アシドーシスと腎性低尿酸血症(Nat Genet 1999)」では、この輸送体とその遺伝子異常について、発見した先生ご本人からお話があった。行かれなかった方のためにも、その内容(と興奮)を一部紹介したい。

 講演ではまず、遺伝子異常が濃厚に疑われる近位尿細管性アシドーシス(ただしFanconi症候群はみられない)・帯状角膜変性・脳基底核の石灰化・膵酵素上昇などを合併した女子の症例が提示された。

 先生はまず、これを"systemic disease with a distinct clinical entity which may be transmitted by autosomal recessive inheritance"として報告した(Pediatric Nephrol 1994 8 70)。まだ責任遺伝子は不明で、1979年報告の類似症例では(男子の兄弟だったため)X-linkedと誤解されていたほどだ。

 近位尿細管でHCO3-再吸収に関わる上図輸送体のうち、①NHE3とNa-K-ATPaseは全ての細胞にあるし、②CA2は大理石病という別の疾患を起こす。残りはNBCe1(当時はキドニーのkをとって、kNBCと呼ばれていた)だが、この輸送体の異常による疾患はいまだ報告がなかった。

 しかし、調べてみると、はたして輸送体をコードするSLC4A4遺伝子に責任となる異常が見つかった(講演タイトルのNat Genet 1999 23 264)!

 以後、角膜変性が角膜内のpH上昇による石灰化であること(JCI 2001 108 107)、遺伝子変異の場所によってさまざまな表現型があり、家系により偏頭痛が起きるのにはシナプス内のpH上昇が関連しているらしいこと(PNAS 2010 107 15963、図はdoi:10.5772/39225より)などが、続々分かった!




 先生は締めくくりに、「存在しない疾患とされていた疾患が存在した」と仰った。それが今や、NBCe1異常による疾患だけのレビュー論文まである(上述のFront Physiol 2013 19 350)。まさに、学会テーマである「目前に悩む患者の中に明日の腎臓内科学教科書の中身がある」だ。

 筆者も臨床医のはしくれ、診ている患者の中にも未知の疾患が隠れているという眼を忘れないようにしようと思った。なお先生によれば、現在は日本医療研究開発機構(AMED)が研究班と進める未診断疾患イニシアチブ Initiative on Rare and Undiagnosed Diseases(IRUD、サイトはこちら)もあるそうだ。


 つづく(写真は、会場そばの浄土宗榮閑院。杉田玄白先生のお墓があるので、学会ついでに参拝された方もおられるかもしれない)。






2017/04/17

近位尿細管はいま

 ネフロンで治療のターゲットになってきたのは主に遠位だ。そこが最終的なファインチューニングを行うので調節するのにちょうどよいからと思われる。いっぽう、再吸収のほとんどを担当し、腎臓でもっともエネルギーを消費するところでもある近位尿細管は調節するには難しい。近位尿細管で脱炭酸酵素を阻害するアセタゾラミドも利尿薬として使い勝手のよい薬ではない(代謝性アルカローシスで利尿薬を切れないときの最後の手など)。

 しかし、近位尿細管というフロンティアも研究でさまざまな標的分子がみつかっているからこれから薬ができるかもしれない。たとえば最近Kidney NewsのDetective NephronにeDKAが取り上げられた(エピソード18)SGLT2阻害薬は近位尿細管がターゲットだ。近位尿細管は尿酸の再吸収もおこなっているから、昔からあるベンズブロマロンにかわるあたらしい再吸収阻害薬なんかも開発されるかもしれない。

 という流れで読むと興味深い論文が、JASNにでていた(doi;10.1681/ASN.2016080930)近位尿細管でのHCO3-吸収はreclamationと呼ばれ、再吸収と呼ばれない。HCO3は、直接再吸収するのではなく、内腔の脱炭酸酵素によってHCO3がCO2になって細胞内に入り、それが細胞内の脱炭酸酵素CA2によってHCO3になり、NBCe1から身体に入る(いっしょにできるH+は尿に排泄されアンモニアやリン酸にバッファーされる、図は論文から)。




 論文では、上記の過程と別に、ろ過されたHCO3の15%程度は新しく見つかったNa/HCO3共輸送体であるMCDL-NBCn2を介して直接尿細管細胞に再吸収されているかもしれないという仮説を、数学的には証明した(図、論文から)。Na/HCO3共輸送体は何種類もあるから闇雲にブロックするわけにもいかないだろうが、近位尿細管の生理学が新たにわかることで新しい治療につながることを期待したい。





 [2017年6月追加]本文で予言した、URATに働きかける新しい尿酸降下薬は、実在する。Lesinurad(商品名Zurampic®)がそれで、URAT1の阻害薬だ。第3相試験で、Febuxostatとの併用群(400mg/d)がFebuxostat単独より尿酸値をさげ、痛風結節を縮小した(DOI:10.1002/art.40159)。200mg/dでは尿酸値の追加効果に有意差がなかった。やはり、近位尿細管はフロンティアだ。


2013/07/22

アンモニアと腎 2/2

 腎臓でアンモニアはどのような移動をしているか?まだ分かっていない部分もあるが参考文献(Advan in Physiol Edu 2009 33 275、Am J Physiol Renal Physiol 2011 300 F11)を参照に興味深い事実を中心に書く。簡潔に言うと、アンモニアは近位尿細管で作られ、尿細管内に出て、ヘンレ上行脚で再吸収され、間質を移動して遠位ネフロンで再び尿中に排泄される。

 近位尿細管で1分子のglutamineから2つのNH4+と2つのHCO3-が出来る。酸を排泄するにはHCO3-をNBCe1(Na+-HCO3- co-transporter)で間質に残す一方、NH4+を尿細管に捨てなければならない(NH4+が間質に残ると差し引きゼロになってしまう)。アンモニアがNH3として細胞膜を透過して尿細管に出るのか、NH4+として出るのか、NH4+はNHE3(Na+-H+ exchanger)を介して出るのか、詳しいことは分かっていない。

 ただNH3とNH4+の電離定数pKa'は9.15で、pH 7.4下にNH3はアンモニア全体の1.7%に過ぎないし、NH3には極性があるのでリン脂質の細胞膜をそれほど容易には透過しないかもしれない(vasa rectaにある尿素チャネルUT-BがNH3 gas channelでもあるという論文が最近でた、doi: 10.​1152/​ajprenal.​00609.​2012)。

 いずれにせよ、膜を透過したNH3は酸性尿のH+とくっついてNH4+になる。尿細管内腔にトラップされたNH4+は、ヘンレ係蹄上行脚でなんとNKCC2(とapical K+ channel)から再吸収される。というのも、NH4+とK+は大きさや電荷がほぼ同じだからだ。そして基底側のNHE4から間質に戻ると考えられている。

 間質のアンモニアは、永らくNH3分子として組織を漂流し、集合管を透過して内腔にたどり着きNH4+になると考えられていた。しかし最近になってRhBG、RhCGが発見された。RhBGもRhCGも赤血球上でRh血液型を決定するRhAGの従兄弟だが、これらは腎臓・肝臓・腸などアンモニア輸送に関わる臓器に発現している。

 腎集合管でRhBG、RhCGは酸・アルカリ排泄を司る介在細胞により多く見られ、内腔側にも基底側にもある。RhBG、RhCGがNH3チャネルなのかNH4+チャネルなのか意見が分かれ、今後の研究が待たれる(私には、NH3として内腔に出てH+をバッファーしているように思われる)。RhCGは慢性アシドーシスで酸排泄のニーズに応えて発現が増えるなど、調節メカニズムもありそうだ。

2012/11/04

Evidence-based management of hyperkalemia

 高K血症の心毒性は、resting potentialが上がるので心筋細胞膜のexcitabilityがあがるからとされている。同じことは横紋筋にも起こり、この場合なんと高K血症によりresting potentialがthreshold potentialより高くなり筋細胞が不応になってしまうことがある。それで、低K血症のみならず高K血症が筋力低下でやってくることもある。

 高K血症と心電図変化の相関は、実際には教科書にあるほど典型的ではない。スタディによれば、6-9.3mEq/lの高K血症で心電図変化があったのは46%に過ぎず、致死性不整脈になった14例のうち事前に心電図変化があったのは1例だけだった(CJASN 2008 3 324)。

 おもしろかったのは、同じK濃度でも、Ca濃度を下げただけでT波の上昇が見られたという症例だった。高K血症でCaを投与するのはthreshold potentialを上げるためだが、たとえば透析患者さんにcinacalcetを投与した場合、Caが下がりthreshold potentialが下がるので心筋のexcitabilityが高まる。

 インスリンはKを下げるが、持続(Am J Med 1988 85 507)でもボーラス(KI 1990 38 869)でも低血糖がかなり起こる。グルコースを多くあげるか(AJKD 1996 28 508)、β刺激剤を併用すれば(糖新生が起こるから)いいかもしれない。Beta-agonistの効果は、0.6mEq/l/10mg、0.9mEq/l/20mg程度であまりよくない(Am J Med 1988 85 507)。患者さんがβ遮断薬を飲んでいれば効かないし、虚血性心疾患があれば危険だ。

 重曹は、重度アシドーシスでは有効だ。というのも、アシドーシスでは細胞のNHE1チャネルからH+と一緒にNa+が細胞内に入れないので、重曹を上げるとNBCe1チャネルからHCO3-と一緒にNa+が細胞内に入り、Na-K-ATPaseが回りK+を細胞内に取り込むことができるからだ(JASN 2011 22 1981)。

 しかし、アシドーシスでなければ、volume expansionによる希釈効果しかなく、その効果は生理食塩水と変わらない。Resin(Kayexalate)は、SorbitolとSorbitol+ResinでK降下作用に差がなかった(Gastroenterology 1995 108 752)。