東部腎臓学会の教育講演16「近位尿細管性アシドーシスと腎性低尿酸血症(Nat Genet 1999)」では、この輸送体とその遺伝子異常について、発見した先生ご本人からお話があった。行かれなかった方のためにも、その内容(と興奮)を一部紹介したい。
講演ではまず、遺伝子異常が濃厚に疑われる近位尿細管性アシドーシス(ただしFanconi症候群はみられない)・帯状角膜変性・脳基底核の石灰化・膵酵素上昇などを合併した女子の症例が提示された。
先生はまず、これを"systemic disease with a distinct clinical entity which may be transmitted by autosomal recessive inheritance"として報告した(Pediatric Nephrol 1994 8 70)。まだ責任遺伝子は不明で、1979年報告の類似症例では(男子の兄弟だったため)X-linkedと誤解されていたほどだ。
近位尿細管でHCO3-再吸収に関わる上図輸送体のうち、①NHE3とNa-K-ATPaseは全ての細胞にあるし、②CA2は大理石病という別の疾患を起こす。残りはNBCe1(当時はキドニーのkをとって、kNBCと呼ばれていた)だが、この輸送体の異常による疾患はいまだ報告がなかった。
しかし、調べてみると、はたして輸送体をコードするSLC4A4遺伝子に責任となる異常が見つかった(講演タイトルのNat Genet 1999 23 264)!
以後、角膜変性が角膜内のpH上昇による石灰化であること(JCI 2001 108 107)、遺伝子変異の場所によってさまざまな表現型があり、家系により偏頭痛が起きるのにはシナプス内のpH上昇が関連しているらしいこと(PNAS 2010 107 15963、図はdoi:10.5772/39225より)などが、続々分かった!
先生は締めくくりに、「存在しない疾患とされていた疾患が存在した」と仰った。それが今や、NBCe1異常による疾患だけのレビュー論文まである(上述のFront Physiol 2013 19 350)。まさに、学会テーマである「目前に悩む患者の中に明日の腎臓内科学教科書の中身がある」だ。
筆者も臨床医のはしくれ、診ている患者の中にも未知の疾患が隠れているという眼を忘れないようにしようと思った。なお先生によれば、現在は日本医療研究開発機構(AMED)が研究班と進める未診断疾患イニシアチブ Initiative on Rare and Undiagnosed Diseases(IRUD、サイトはこちら)もあるそうだ。
つづく(写真は、会場そばの浄土宗榮閑院。杉田玄白先生のお墓があるので、学会ついでに参拝された方もおられるかもしれない)。