2019/10/18

虎ノ門みやげ 後編

 前編のあと、先生は腎性低尿酸血症のお話をされた。

 腎性低尿酸血症といえば、URAT1またはGLUT9の異常により尿酸が再吸収されず、極端な低尿酸血症・尿結石・運動後AKI(悪心嘔吐・ひどい腰痛が特徴で、来院時Crが5mg/dl程度のわりに非乏尿で尿酸値が低め)・GLUT9異常では脳梗塞を合併する疾患だ。詳細は先月の投稿も参照されたい。

 ここでは、講演で得られた感動を二つ共有したい。

 1つ目は、ウリカーゼの進化史だ。先生は「尿酸といえば(痛風や脂肪肝など)害が多く、大悪党ではなくても小悪党くらいに思う方が多いだろう」とお話したうえで、生物が進化の過程でいかにウリカーゼを不活性化(同遺伝子を偽遺伝子化)してきたかを概述された。

 ヒトのウリカーゼ遺伝子は、①コドン33がストップコドンに、②イントロン2の2塩基AGがAAに(スプライシングが不可能に)、③コドン187がストップコドンになっているという。講演では、霊長類でこうした異常がどう共有されているかを示す、以下のような図が提示された(出典の記載がなかったので、ここにはPNAS 2014 111 3763)!


列記された動物は上から、ヒト、チンパンジー、ゴリラ、
オランウータン、テナガザル、カニクイザル、アカゲザル
(網掛け部分が偽遺伝子化している)


 さらに興味を持って調べてみると、哺乳類は長いあいだ徐々にウリカーゼ活性を落としてきたことがわかった(図はPNAS 2014 111 3657)。まるで「哺乳類補完計画」だが、ウリカーゼ活性を止めて血中に尿酸を増やすことには、果糖を代謝しての脂肪蓄積作用や抗酸化作用などの進化論的利点ががあったと推察されている(Semin Nephrol 2011 31 394)。


時間軸上段は白亜紀、第三紀、第四紀
下段は暁(ぎょう)新世、始新世、中新世、鮮新世

 
 2つ目は、腎性低尿酸血症がAKIや脳梗塞を合併する機序についてだ。先生は推察だとしつつも、血中に尿酸がないと、運動などで酸化ストレスが増えたときに、血管を拡張しておくことができないのではないかとおっしゃった。

 先生によれば、腎臓で消費されるATPは全身の10%に及ぶという。調べてみると、たしかに腎臓の安静時エネルギー消費量は440kcal/kg/dで、心臓と並んで臓器の中で最も高い(Marinos Elia先生による、検証はAm J Clin Nutr 2010 92 1369)。そう考えれば、運動時AKIは「一時的な腎梗塞」であり、ひどい腰痛がおきる点も符合する。


 尿酸がどのように血管収縮を抑制しているか、どうして心筋梗塞にならないか、ウリカーゼのある他の哺乳類はどうしているのか、・・など疑問は尽きない。しかし、こうして得られた感動こそ「キセキ」。その意味でも、人間でよかった(図は、まんが日本昔ばなしエンディングテーマだった、『にんげんっていいな』より)。