2018/06/24

重曹とクエン酸のお話

 重曹とクエン酸、なんていうと、「お掃除のことかな?」と思うかもしれない(写真)が、今回はCKD、アシドーシスに対する重曹治療の研究で有名なグループからでたCJASNの最新論文(doi:10.2215/CJN.01830218)についてのお話だ。




 論文は、60歳くらいでBMI30くらい、eGFRは30ml/min/1.73m2くらいでHCO3-濃度は20-24mmol/lのCKDコホート20名(CJASN 2013 8 714と同じ)について、重曹群とプラセボ群(クロスオーバー)で尿・血液の代謝産物パターンにどんな違いがあるかを調べた。

 234の血中代謝産物と195の尿中代謝産物をスクリーンしたところ、厳格な(false discovery rateを20%とした)統計的有意差がみられたのはたった一つ、重曹群での尿中クエン酸(と、その異性体でクエン酸回路を構成するイソクエン酸)の増加だった。ほかのクエン酸回路の中間産物も、有意差はないが増加傾向であった。

 「重曹を飲むとクエン酸回路がまわる」と聞いても、「風が吹くと桶屋が儲かる」みたいに、すぐには何のことか分からないかもしれない(図)。論文著者のディスカッションは、そこについてあまり考察していない。



 重曹を飲むと、血中に入ったHCO3-は有機酸のH+を受け取る。こうしてできたH2CO3はすぐさま(水と)CO2となり赤血球に乗って肺から排泄される。いっぽう、H+を渡した有機酸陰イオン(これをorganic anion、OA-という)は尿中から排泄される(これが結石予防になっていることは以前に触れた)が、OA-のなかで代表的なものが、何のことはないクエン酸イオンである。

 そう考えると、結局「重曹を飲むと尿中クエン酸がふえる」というのは「水を飲めば尿がでる」と言っているようなもので身も蓋もない。でもまあ、クエン酸イオンが腎臓の細胞に流入すると、その過程で細胞内のクエン酸回路は回りそうだし、回ればなにかいいこともあるかもしれない(論文著者も「DKD、non-DKDともにCKDではクエン酸回路が大事な役割をしているようだ」と書いている)。

 重曹が健康にいい(腎臓だけでなく、骨はもちろん、最近は脳にも;CJASN 2018 13 596)仕組みが、こうしたさまざまな研究によって解明されれば、他の治療にもつながるかもしれない。いろんな代謝経路(図はクエン酸回路)を復習しながら、それに備えていたい。





2018/06/22

夢を信じる iRAD治験、まもなく開始!

 来週はいよいよ透析学会。米国にはASNのKidney Weekと、NKFのスプリング・ミーティングというのはあるが、「透析学会」というのはあまり聞かない。まさに、世界に冠たる透析医療の最先端を学べる素晴らしい機会だ。

 米国では目だった透析学会を聞かないが、英国にはUK Annual Dialysis Conferenceというのがある。今年で11回目と歴史は浅いようだが、9月にマンチェスターで開催されるその大会を、私はひそかに心待ちにしている。

 なぜか?

 人工腎臓(写真はUCSFウェブサイトより)治験の途中経過が発表されることになっているからだ(記事はこちら)!




 試されるのは、以前にも解説した人工腎臓、iRAD(開発しているUCSFの動画サイトはこちら)。シリコンポア膜によるフィルター、尿細管細胞をいれたバイオリアクター、そして膜には血栓形成やファウリングを防ぐため食虫植物の原理を応用したSLIPSコーティング技術を用いた、腎アシストデバイス。なんてクールな(写真はUCSFとサンフランシスコを掛けた)!



 ブログ紹介の当時はproof of conceptを終え治験の準備に改良をすすめていたが、ついに英国でその治験が始まる見通しだ。こういう規制緩和も、Brexitと関係あるのだろうか。英国医療はNHSといって国営化されているのに、米国より先にこんなことができるなんてすごい。さすが、産業革命とダイソンを生んだ国は技術革新に積極的なのだろうか?あるいは医療費削減につながることを期待しているのか?

 人工腎臓なんて、夢だと思っていた。iRADだって、ブタで成果が出たといっても、治験をはじめれば血栓とか感染とかいろいろ不具合がでてくるかもしれない。でもよくかんがえれば、透析だって移植だって始める前はみんな夢だと思っていたに違いない。

 いまある技術を安全に提供し改善していくことも大切で、ブレイクスルー・革新への確信も必要なのだなと、あらためて感じた。




[2018年11月追加]上記の英国カンファレンスでは、めだった発表はなかったようだ。最近の報道によれば、今年終わりから来年はじめまでに治験が認可されるのを待っており、被験者に埋め込まれるのは早くても2020年という。2020年を楽しみに待つ理由がもうひとつ増えた(Implantable artificial kidneyでニュース検索すれば、投機熱がじわり高まっていることもわかる)。



 


2018/06/16

新たな視点 CKDステージのインプット方法

 普段当たり前に目の前に見ていることを別の視点から据えてみると思わぬ発見がある。特に文字を図に置き換えると、視界がさっと明るくなることがある。

 米国の腎臓内科関係のブログで有名なRenal Fellow Networkというものがある。色々と勉強になる記事が多いのだが、そんな記事の中で偶然見つけたものがこちら
 
 CKDのマネジメントの一般論を示しているが、特に注目はGFR clock というものだ。皆、一度はこの患者さんのCKD stageは何だっけ?と思って、教科書やインターネットで検索したことがあると思う。


 知っている人にとっては当たり前かもしれないが、GFRの数値を時計に当てはめて見事に視覚化することで直ちに理解することが可能になっている。

 GFRと時計という組み合わせ。とてもエレガントであり感動する。これを見た時に、BMJ 2002 325 85-90を思い出した。


 もしかしたら、この図からアイデアを持ってきたのかもしれない。
 「GFRの変化を時計になぞらえて、刻一刻と腎機能は悪化していく。だから、腎機能障害が進むほど、細かくみる(ステージを細かく分ける)必要があるのだよ。」と語りかけてくるようである。

 今回のような、当たり前のことに考えを巡らすということはとても大事だ。






 
 

2018/06/15

ひとつの答えと、たくさんの質問

 アルプスの少女ハイジは「口笛はなぜ遠くまで聞こえるの?」「あの雲はなぜ、私を待ってるの?」とおじいさんにたずねた(『おしえて』より)。

 前者は「口笛が遠くまで届く周波数域で人間の耳がこの周波数域を聞き取りやすいため」とされ(Wikipedia日本語版『口笛』より)、後者はハイジ自身の心情が多分に反映されていると思われる。雲のほうへ歩いていきたい気分だったのだろう(図)。




 このように答えが分かるものもあればないものもあるが、質問する人の清らかな好奇心と知的関心といった人柄が垣間見えるのは嬉しいものだ。

 それでは、「サイアザイドはなぜ、低Na血症を起こすの?」という質問はどうだろうか。

 実は私はこの質問に明確な答えをできずにいた。サイアザイドによる低Na血症(TIH、thiazide-induced hyponatremia)は、よく使われる降圧薬のよくある副作用なのに、完全には解明されていない。

 通説は「塩類(Na+、Cl-)喪失によりAVPが刺激され、水分が貯留する」というものである(体重がふえたことを示したのはAnn Int Med 1989 110 24)。このことは、たとえばループのようにネフロンの浸透圧勾配を消すことで自由水を排泄させる利尿薬でNa値がむしろ上昇することと対比される。

 しかし、「どうして(低Na血症に)ならない人はならないのに、なる人は何度でもなるの?」とか「AVPがでていないのに水がたまる人もいるのはなぜ?」とかの問いには、「おじさんは忙しいんだ、さああっちへ行きな(図)」とまでは言わないが、「そうだから」くらいしか答えられなかった。




 今回は、それが解明されつつあるという投稿だ。TIHの患者さんたちについてGWASをおこなった結果わかった(JCI 2017 127 3367、レビューはAJKD 2018 71 769)。

 結論から言うと、起こりやすい人はプロスタグランジン・トランスポーター(SLCO2A1遺伝子にコードされる)の活性が低く、プロスタグランジンが集合管内腔にたまりやすく、内腔側にあるプロスタグランジン受容体(EP4)の刺激によって内腔表面へのAQP2がふえやすく、水が再吸収されやすい(図は前掲AJKDレビューより)。

 


 プロスタグランジンは「組曲(この名づけについてはこちら)」はおろか、体液保持と進化の歴史についての「叙事詩」がかけるくらい奥が深いが、とにかくこれで質問に一個答えを用意することはできる。

 もっとも、一個の答えは「サイアザイドがこの絵にどう関与し、AVPとどう関与するか」など、より多くの質問を生む。しかしそれでも、学び続けるしかない。

 なおTIHのリスクは女性(と高齢者と低体重者)に高いが、今回の論文でも同様な性差が確認された。プロスタグランジン・トランスポーター遺伝子異常は一連のSLCO2A1 関連小腸症(非特異性多発性小腸潰瘍症は難病指定)を起こすが、これも女性に多い(日本消化器病学会雑誌 2016 113 1380)。これなどは、日常診療に活かせる知見かもしれない。

 質問は、プレゼント(こちらも参照)。これからもたくさんのプレゼントボックスを開けて、いろんな世界をみていきたい。



2018/06/14

CaSR組曲 6

6. 集合管
 
 集合管の介在細胞、主細胞それぞれにCaSRはある。集合管はヘンレのループが生み出した浸透圧勾配を利用して最終的に尿を濃縮する場所だ(下図は著者が2013年に米国の腎臓内科で発表した腎生理レクチャ『ADHと水』スライドより)。




 そもそも髄質の深いところは、濃縮によってカルシウムが結晶しやすい(これをRandall's plaqueと呼ぶことは以前にもふれた、写真はJCI 2003 111 607より)。





 だから、そんな集合管でのCaSRの働きは「いかに石を作らせないか」で考えると分かりやすい。

 まず介在細胞では、内腔側で高Ca尿を感知したCaSRが、H+-ATPaseを刺激して尿のacidificationを促進する。カルシウムリン酸結石は尿pHがたかいほど析出しやすいので、これは理にかなっている。カルシウム再吸収チャネルTRPV5をノックアウトして尿中カルシウム濃度を増やしても、H+-ATPaseが働いて尿pHをさげるので石はできない。

 しかし、TRPV5だけでなく集合管にあるH+-ATPaseのB1サブユニット(ここが異常だと遠位RTAになる、こちらを参照)もノックアウトすると、尿pH低下という防御機構が働かないので腎臓が石化(nephrocalcinosis)して生きられない(JASN 2009 20 1705)。

 つづいて主細胞では、CaSRはなんとAQP2と共発現している。AQP2はAVPの支配下にあって水再吸収をふやす(図もおなじレクチャで取り上げたもの、Eur J Physiol 2012 464 133より)。




 CaSRは高Ca尿を内腔で感知して、上記支配に拮抗してAQP2を細胞内に引っ込める。その仕組みには、AQP2セリン残基(256番目)リン酸化の抑制が関与しているとされる(J Cell Sci 2015 128 2350)が、詳しいことはまだ分かっていない。

 AQP2とCaSRが共発現しているというのは、少し立ち止まって考えていいことかもしれない。AVP-V2R-AQP2というのは陸上生活に不可欠な軸だ。そのことは、軸が機能しない時(尿崩症)を考えてみればよく分かるだろう。水は貴重だ(写真はカリフォルニア州・デスバレー国立公園)。




 また、バソプレシンに似たペプチド(プロトタイプの名前を取ってバソトシン・スーパーファミリーとよばれる)は種を越えて保存されており、進化に大きく関与しているとされる。オキシトシンもその一種だが、オキシトシンがなければ哺乳類も生まれなかったかもしれない。

 そんな生命の根源にあたる軸に拮抗するCaSRには、CaSRなりの大事な役割があるのだろう。

 陸上の体液保持に不可欠といえども、尿濃縮の仕組みには結晶・析出のリスクが常に付いてまわる。しかし、腎臓が石になっては元も子もないので、それを防ぐ仕組みがどうしても必要だったのではないか(写真はメドゥサ退治のためアテナからペルセウスに与えられ、退治後はそのメドゥサの頭をつけさらに最強の盾となった、イージス)。




・おわりに
 
 ここまで、「組曲」の体裁をとってCaSRとネフロンについて概述してみた(おもな参考文献は、Oxford Textbook Clinical Nephrology、Nat Rev Nephrol 2016 12 414)。基礎医学的な内容ではあるが、臨床的な話を理解する助けにもなれば幸いである。

 たとえば、「結石患者にCaSR(Curr Opin Nephrol Hypertens 2012 21 355)やクローディン14(Nat Genet 2009 41 926)の遺伝子多型が多い」とか。

 あるいは、「CaSR遺伝子がないとTALでのCa2+再吸収が抑制されず、低カルシウム尿症になる(JCI 1983 72 667)」とか(これと、PTHによるCa2+再吸収に抑制がかからないことが、少なくともCaSR遺伝子異常によるFHHの本態とされる)。
  

 それにしても、ネフロンは面白い。次は、どんな「組曲」を書こうかな?




 [2019年4月追加]日本人の結石患者におこなったGWAS結果が、JASNにでた(doi.org/10.1681/ASN.2018090942)。BioBank Japanのビッグ・データを使って、「minor allele frequencyが0.01以上」、「Hardy Weinberg Equilibriumが10のマイナス6乗以上」、「call rate が0.99以上」など未知の方法論で検索すると、17個の有意な遺伝子多型がみられた(Pが5×10のマイナス8乗未満という)。

 乗っている染色体、遺伝子とその主な機能をあわせて表にすると:




 筆者にはCaSRが出てこないのが意外だったが、CKDのGWASでもお馴染みのUMODが出てくるのは納得(こちらも参照)だった。

 なお上記で「?」とあるように、Regulator of G protein signaling 14、Indolethylamine N-methyltransferase、Family with Sequence Similarity 128 member B(論文には188とあるがOMIMには128しかない・・誤植だろうか)、Diacylglycerol Kinaseといった遺伝子に乗っている多型の作用は、いまだ分かっていない。

 結石と言えば「カルシウム・リン・PTH」や「中性脂肪・尿酸・肥満」にかかわる異常が背景にあることは、なんとなく分かっている。今やそれが遺伝子多型でわかるんだから、まさにprecision medicineといえる。

 今後、こういう論文がどんどん増えて、疾患の機序解明や治療につながることが期待される。いっぽう、こうした多型の有無を調べるだけなら、市販のキットで安価かつ簡単にできるようになる。好むと好まざるに関わらず、外来患者に「私はrs6975977多型があるらしいのですが、どうしたらいいですか?」といわれても対応できなければならない。
 

2018/06/13

CaSR組曲 4-5

4. TAL(ループ上行脚)
 
 TALではCaSRは基底膜側にある。で、よく知られているようにNKCC2とROMKを止めてNa再吸収という「波」を鎮め、波に乗ってカルシウムが細胞の脇から間質側へ打ち上げられるのを防ぐ(図はオンライン・ファーストのJASNから、doi: 10.1681/ASN.2017111155)。





 CaSRは、どのようにNKCC2とROMKを止めるのか?細胞内での仕組みとしては、ホスホリパーゼA2がROMKを止めるらしいことがわかっている(Am J Physiol 1997 273 F421)。ROMKを止めたら、NKCC2も止まる。なぜか?

 TALにおける「波」とはNKCC2からのNa+とCl-の流入を意味する。ならば、NKCC2はカリウムまで通さなくてもよさそうなものだ。しかし実際には、カリウムは調節役を果たしている。

 NKCC2から入ったカリウムはROMKから排出されて内腔側にリサイクルされるが、ROMKの阻害でそれが止まってしまえば内腔のK+が少なくなって、NKCC2は動かなくなるのだ。内腔K+がTALでのNaCl再吸収量を規定することは実験でも示されている(JASN 2001 12 1788)。

 なお、TALでのNa+、Cl-再吸収が障害される遺伝疾患をBartter症候群と総称するが、このCaSR遺伝子異常によるものをBartter 5型という(他の遺伝子についてはこちらも参照)。この場合、CaSRが恒常的に働いてしまうほうの異常(gain of function)であり、常染色体顕性(優性)遺伝だ。

 さらに、最近は細胞間にあるタイト・ジャンクションを形成するClaudinにも直接影響すると考えられている。Claudとはラテン語でlame(足が不自由な)、転じて「遅い」「止まる」という意味がある(写真は交響曲『海』でも有名なClaude Dubussyが載った20フラン札)。



 
 そのClaudin 14、16、19分子は互いにダイマーをつくり、それぞれが異なったカルシウム透過性(とマグネシウム透過性)をもっている。CaSR刺激は、このうちクローディン14遺伝子の転写を抑制することがわかっている。なお薬剤のなかではシクロスポリンもクローディン14を抑制する(JASN 2015 26 663)。

5. DCT(遠位尿細管)

 腎臓内科界の2018年10大ニュース、とまでは言わないが、腎生理のなかでは割とインパクトがあると思われる論文がこないだ出た。それが、「CaSRはWNK4-SPAK経路を通じてNCCを活性化する」というものだ(doi: 10.1681/ASN.2017111155)。

 WNK4も、今やIgG4やDPP4くらいには知られるようになってきた(Winkが1998年発表した『淋しい熱帯魚』ではないが;図はレオ・リオニの『スイミー』)のだろうか?




 NCCがヒラメの膀胱から発見されて(PNAS 1993 90 2749)25年になるが、現在ではNCCを調節する分子がだいぶん上流まで見つかっている。そのひとつがKLHL3-WNK-SPAK-NCCという系だ(詳細はこちらも参照)。

 また、いわゆるaldosterone paradoxと呼ばれる現象(アルドステロンは高K血症時にはK+排泄をしてNaCl再吸収はしないのに、体液不足時にはNaCl再吸収はするのにK排泄はしない)にもアンジオテンシンIIとWNK4が関わっていることが分かっている。

 さて、そのNCCがあるDCTで、CaSRは内腔側にある。CaSRが(Gqタンパク→PKC→KLHL3リン酸化によって、WNKが分解されにくくなり、結果SPAKを介して)NCCを活性化させるというのは、どういう意味があるのだろうか?

 ひとつ考えられるのは、高Ca血症を間質側で感知したTALでのさまざまな変化をDCTの内腔でキャッチし、ファイン・チューニングすることだ。たとえばTALではNaCl再吸収が抑制されるので、DCTでNCCを活性化して体液喪失を緩和しているのかもしれない。同様に、DCTでCaSRはカルシウムチャネルTRPV5のすぐ隣にあって、CaSRはTRPV5によるカルシウム再吸収を亢進させる(Cell Calcium 2009 45 331)。

 とはいえ、DCTのCaSRがナトリウム再吸収をどうしているかについてはまだ未確定な部分がおおい。

 基底膜側のNCX1(Ca2+を一個だす代わりにNa+を三個細胞に入れる)を刺激するとか、KCNJ10(基底膜側のNa+/K+-ATPaseで細胞内に入ったK+を間質側にリサイクルする)を抑制する(Am J Physiol 2007 292 F1073)とか、むしろナトリウム再吸収の抑制を示唆する知見もある。今後の論文にも注目したい。

 最後に、集合管でのCaSRについて説明する(図は企業の社会への責任を表すCorporate Social Responsibility、CSR)。




2018/06/12

CaSR組曲 1-3

1. 糸球体

 存在自体に諸説あったものの、いまでは糸球体にCaSRがあることは確実視されており、足細胞とメサンギウム細胞でさまざまな病態に関わっていることが示唆されている。足細胞のCaSRをCaSRアナログで刺激すると糸球体ダメージが起こりにくくなる(Kidney Int 2011 80 483)。

 いっぽうメサンギウム細胞のCaSRを刺激すると、糸球体傷害がおこる。その機序にはGqタンパクによる細胞内カルシウム移動、TRPC3やTRPC6が開くことによる細胞外からのカルシウム流入が考えられている(JCI 2015 125 1913)。

 なおTRPCという名前は、最近の和雑誌にTRPC5が紹介された(日腎会誌 2018 60 526)こともあり、聞いたことがある人も多いかもしれない。TRPC5は細胞膜にあるRhoキナーゼRac1のシグナルを受けて足細胞破壊を起こす(ネフローゼとなる)。

 電解質が糸球体疾患にも関与しているなんて、面白い。まさに、「すべての道は、電解質に通ず」だ(写真はローマ皇帝シーザー、Caesar)。





2. 傍糸球体装置

 傍糸球体装置(JG)、T-Gフィードバックといわれても生理学の最初に学んだきり忘れているかもしれない(図はTGIF、Thank God it's Friday)。




 目的論的にはGFRや体液量を維持する仕組みだ。具体的には糸球体でろ過された原尿の量や濃度を尿細管のマクラデンサが感知して、JG細胞によるレニン分泌を調節している。

 カルシウムとレニン分泌については、「カルシウム・パラドクス」という現象が知られている(Am J Physiol Renal Physiol. 2010 298 F1)。これは、多くの分泌細胞でカルシウム濃度の上昇は分泌を促進するのに対して、JG細胞のレニン分泌はカルシウム濃度の上昇でむしろ抑制されることを指す。

 CaSR刺激によるGqタンパク活性化、カルシウム支配下にあるアデニル酸シクラーゼADCY5、ADCY6によるcAMPプールの抑制などはわかっているが、どうしてカルシウムがレニンを抑制するのかは分かっていない。高カルシウム(CaSR刺激)が一般に尿細管内の結晶化を防ぐことを考えると、RAA系を抑制して尿細管再吸収を減らしたいのかもしれない。 

3. 近位尿細管

 近位尿細管のCaSRは、内腔側にある(Oxfordの教科書はsubapicalと書いているが)。現在わかっている働きとしては、PTHによるリン利尿の抑制、ビタミンD活性化の抑制、NHE3による酸排泄とNa再吸収の促進がある。

 PTHはリンとナトリウムを再吸収するNPT2a、2cを抑制してリン排泄を促進しているが、CaSRはそれに拮抗する。といっても、両方が相殺するように働いては調節できないので、高リン摂取時などリンを排泄したいときにはPTHが勝ってCaSRは抑制される。

 ビタミンD活性化(近位尿細管での1α水酸化)を抑制するのは、活性化ビタミンDによってカルシウム再吸収が増えてほしくない高カルシウム血症時を考えれば納得されるだろう。また、CaSRとPTHをダブル・ノックアウトしたマウスの実験からは、CaSRは活性化ビタミンDの作用そのものまで減弱させることが示されている(Am J Physiol Renal Physiol 2009 297 F720)。

 なお、CaSRは内腔カルシウム濃度を感知しているが、濃度上昇の刺激によって活性化されるのはカルシウムチャネルではない。近位尿細管でカルシウムは受動的に細胞の脇をすり抜けるように打ち上げられるからだ(写真は波に打ち上げられた椰子の実)。




 そして、その波にあたるのがNHE3刺激によるナトリウム再吸収といえる。その結果、近位尿細管ではカルシウム再吸収が促進されることになるが、最終的なカルシウムの出納は以遠ネフロンで調節される。

 なお、NHE3はナトリウム再吸収と引き換えにH+(じっさいはNH4+とも)を放出するが、それは結果的に近位尿細管での大量のHCO3-再吸収(reclamation)の元になる。この辺のくだりは以前にもまとめたが、体液と酸塩基平衡の維持にCaSRが関わっているとは(実はPTHも関わっている;CaSRと拮抗的に)!話は一層面白くなる。

 後編へつづく(図は2006年のピクサー映画、Cars)。





2018/06/07

CaSR組曲 前奏曲

 ことし生誕333周年を迎える大作曲家、バッハ(1685-1750)。数々の名曲のなかでも、国名を冠した組曲はイギリス組曲とフランス組曲だけである。なお国名を冠した曲には他にフランス風序曲、イタリア協奏曲などがある。

 組曲というのは今ではいろんな意味で使われる言葉だけれど、当時の慣習ではアルマンド、クーラント、サラバンド、ジーグなど特定の舞曲が組み合わさったものを指していたという。そして、たいていはこの順で演奏された(写真はバッハを愛したグレン・グールド)。



 
 おなじように、腎臓において何かががどのような働きをしてどのような病態に関わっているかを糸球体、傍糸球体装置、近位尿細管、TAL、DCT、集合管というように順番に沿って説明することを「組曲」と呼んではどうだろうか。

 この概念自体は以前から知られているし、たとえば「アンモニア組曲」とか(このブログではこちらで説明した、図はこちら)はわりと有名かと思う。

 まあ「絵巻」でも「縁起」でもいいのだけれど、とにかくそんな風に、CaSRについて説明してみようと思う。

 以前「TALのCaSRが」などと軽く触れてからそのままになってもいたので。レジデントノート増刊を渡して何か質問があるかと聞いたら「TALでCaSRによるROMK阻害って、どうやって起こるんですか?」と質問してくれた(腎臓志望でもないのに!)学生さんにも、書くきっかけをくれたことを感謝したい。

 それでは、アイン・ツヴァイ・トライ(写真は1968年発表のBeatlesによる"Back in the USSR")。




キセキのその先へ ブロスマブの意味するもの

 抗FGF23モノクローナル抗体ブロスマブ(Burosumab)のX-linked hypophosphatemic rickets児に対する治験結果(NEJM 2018 378 1987)は、おそらく日本資本の会社が開発したこともあって多くの人がすでに目にしたことと思う(NEJM日本語サイトにもアブストラクトがある)。これからマスコミなどでもひろく取り上げられるだろう。

 この論文のインパクトはさまざまで、もちろん難病の内分泌疾患であるXLH(X-linked hypophosphatemia)にたいする新しい治療がみつかった(子供の成長発育が改善した)という感動は計り知れない。まさにキセキだ。同様に、FGF23産生腫瘍によるTIO(Tumor-induced osteomalacia)に対してもこの治療が有効かもしれない。内分泌領域ではそのようなレビューが既に出ている(Endocrine Reviews 2018 39 274)。

 この話題を、腎臓内科医はどのように受け止めればよいだろうか(図はKidney Health Australiaのキャラクター、キドニー・マン)?





 ひとつは、「電解質異常をモノクローナル抗体で治療する」というカテゴリーでの感想だろう。といってもまだ他には高Ca血症に対するデノスマブ(抗RANKLモノクローナル抗体)くらいしか知らないが、同じような考え方をすれば細胞表面にあるたんぱく質ならなんでもターゲットになりうる。

 腎臓内科は伝統的には利尿薬の分野で分子標的治療をリードしていたはずだが、最近はSGLT2阻害薬もURAT1阻害薬(こちらに触れた)も他科主導でつかわれているし、尿細管よりむしろ腸管の分子標的治療薬のほうが耳目を集めてもいる(腎臓領域ではTenapanorがあるが、むしろIBS治療薬が多い)。

 今後、電解質治療だけでなくても、モノクローナル抗体による降圧薬とか、でてくるかもしれない。と、2015年に予想していたことが少しずつ現実化しているのだろうか。あるいは、巡り巡って元いたところに戻ってきたのだろうか(図)。今後に注目していきたい。
 



 もうひとつ考えるべきは、もちろんCKD-MBD領域への応用だ。

 FGF23が心肥大をおこすことは、2011年から分かっていた。その論文(JCI 2011 121 4393)では動物モデルだがFGFR阻害薬PD174074で心肥大が抑制されていた。しかし、いまのところ臨床へのトランスレーションは「リンを下げましょう」という、セクシーさに欠ける(コーラはやめましょうとか、患者さんにあまり評判のよくない)ものに限られているのが実情だ。





 抗FGF23モノクローナルも、もちろんそれを意識して開発されているし、もしかしたら既にどこかでCKD患者の心肥大・心血管系イベント予防についての治験が行なわれているかもしれない。あるいは、同じ軸のFGFR4(受容体サブクラスのひとつで、これがとくに心肥大と関係するという)抗体も試験されているかもしれない。

 NEJM論文の勝利が、これからCKD領域でのさらなる成果につながったらすごい。でももしかすると、サッカー日本代表がワールドカップで優勝するよりも、こちらのほうが現実的で見込みがあってインパクトの大きなことかもしれない。どの国がそのような治療法を見つけても素晴らしいことに違いはないが、こっちのサムライブルーにも期待したい。




2018/06/06

いつも悩むタンパク尿について 2

 今回は、そもそもタンパク尿は悪なのか?ということについて考えてみる。

 下図のCKDのヒートマップを見てもタンパク尿が出れば出るほど、患者予後に関しては悪くなっている。





 *前回の記事で述べたRENAAL試験の二次結果でも、糖尿病性腎症患者のタンパク尿を減らすと容量依存性(タンパク尿が減れば減るほど)にアウトカムはよくなることがわかっている。やっぱり、タンパク尿=悪い!となるのか!?

 なぜタンパク尿は腎臓を悪くするのか?

 様々な機序が言われている(尿細管のケモカインの発現、補体活性からの間質障害)(JASN 2006)。

 *逆にVA NEPHRON-D , ONTARGET, ALTITUDEなどのtrialは、タンパク尿の減少は腎臓のアウトカムを悪くしたという報告がある。

 *タンパク尿に関しては、変動があることは知っておく必要性がある。日内変動としては、朝6時ごろに最低値で15時ごろに最高値となる。その他、立位、運動後、発熱時などでは陽性になることがある。

 正直、タンパク尿に関しては、単独での判断は非常に危険である。例えば、尿タンパクの評価にUPro/Crだけを用いるのではなく、どこかで蓄尿の検査も加えたほうがいい。

 あまり尿タンパクだけを信じすぎないことも逆に重要なのかもしれないと思った。

今後様々な研究が期待される分野であると感じた。