2013/05/30

Sorry FENa

 Josephineとは女性の名前(男性はJoseph)で、これをラテン系にするとJosefinaだ。米国のミネラルウォーターブランドAQUAFINA®は、aqua(水)にfinaを付けて親しみやすくしているわけだが、FENa(Fractional Excretion of Na)を「フィーナ」と呼ぶのも、何でもかんでもニックネームにしたがる米国英語らしい。

 さてフィーナには悪いが、腎臓内科を勉強するほどその限界が目に付いて、私はこれを一応計算するがあまり依存しなくなった。この指数は乏尿性腎不全のごく小規模なスタディでしかvalidateされておらず、多くの場合misleadingなのだ(CJASN 2012 7 167)。今日はFENaにまつわるいくつかの点を指摘したい。

 一つは、いま元気にしているeuvolemicなあなたのFENa。あなたの腎臓はあなたが一日に摂取する9gの塩のほぼ全てを排泄する(これを利用して心不全における食塩摂取量とmortalityのJ-shapeな相関を示したスタディについて前に書いた)。9gの塩には154mEqのNa+が入っている(生理食塩水1Lと同じ)。あなたの2L/dの尿Na濃度は77mEq/L。あなたの血液Na濃度は、ADHのおかげで140mEq/L。

 あなたのUcr/Pcrはいくら?Ucr/Pcrは水再吸収の指数だ。ろ過されたクレアチニンは再吸収されない(何なら尿細管から少し排泄される)のに、水はほぼ99%再吸収される。だから、健康な腎臓ではUcr/Pcrは1/(1-0.99)、まあ100といっていい。だから、健康なあなたのFENaは77/140/100、0.55%。でもあなたは腎前性腎不全じゃない。

 もう一つは、たとえ尿細管の機能が落ちてもFENaは多くの場合に腎前性を示すこと。たとえば虚血に弱い近位尿細管機能が落ちて水再吸収指数Ucr/Pcrが40まで下がったとしよう。それでも(血液Na濃度が140mEq/Lとして)尿Na濃度が112mEq/Lを超えないとFENaは2%に達しない。

 実際に、尿Na濃度が60mEq/lあり、尿沈査で顆粒円柱が出ているのにどういうわけかFENaが腎前性を示す、というようなことは良くある。それなのにFENaを信じると、尿細管機能が落ちているのに「pre-renal、pre-renal」と輸液してvolume overloadになってしまうかもしれない。何事も金科玉条にせず限界を知って活用し、総合的に判断しろということか。


2013/05/27

Levamisole

 Renal Grand Roundで後輩フェローが、スリルとサスペンスのある素晴らしいstory tellingで聴衆を惹きつけ、知られていないが知っておくべき内容を情熱と自信をもって話した。メッセージは「耳朶、鼻先などの壊死・出血斑、腎炎、無顆粒球症、それに広汎な自己抗体陽性(なかでもMPO-ANCA・PR3-ANCAの強陽性)を見たらtainted-cocaine induced renal vasculitisを疑え」というもの。
 Cocaineは様々な腎疾患を合併するが、ここで問題になるのはbulking agentとして混ぜられるlevamisoleだ。Levamisoleは駆虫薬として競馬界で用いられていたが、代謝産物がaminorex様の向精神作用を持つため使用が禁止された。しかしlevamisoleは白く、cocaineが純正かを試す試験(俗に言うbleach test)をパスするため、現在米国で手に入るcocaineの70%以上にlevamisoleが入っているとされる。
 Levamisoleはimmuno-modulatorで、Mayo Clinicのレビュー(Mayo Clin Proc 2012 87 581)によればANA、ANCA、dsDNA、lupus anticoagulant、anti-human elastase antibodyなど広汎に自己抗体を惹起する。もっとも、このように広汎な自己抗体陽性パターンはlevamisoleだけでなく、その他のdrug-induced vasculitis(hydralazineなど)でも見られるらしい。MGHの報告(CJASN 2011 6 2799)ではMPO-ANCA、PR3-ANCAが強陽性だった。
 Levamisoleをどのように検出するか?半減期が短い(6時間、cocaineは48-72時間)ので通常の尿検査では見逃すことがある。Mayo Clinicはgas chromatography/mass spectrometryを用いているらしいが。Drugの入っていた袋やパイプ、sniffingに用いられた紙幣などを検査に出すのも方法の一つらしい。Cocaineの最大消費国(500万人が使用しているというデータも…)米国ならではの話だが、drug-induced vasculitisの一例として覚えておきたい。

2013/05/25

Light chains

 Light chainにはKappaとLambdaの二種類あり、それを初めて示したDr. KorngoldとDr. Lapiriの業績を讃えて名づけられた。この二種類はアミノ酸の数こそ220と同じだが、variable regionの構成など微妙な違いがある。それで腎臓についていえば、κのほうがろ過されやすく尿細管障害(Fanconi、近位尿細管RTA)やlight-chain deposition disease(いまではheavy chainも合わせてmonoclonal Ig deposition disease、MIDDと総称するが)を起こしやすい。それに対してλはアミロイドーシスを起こしやすい(KI 2011 79 1289)。おおまかな傾向で、絶対ではないが。

 [2013年6月追加]serum free light chain(FLC)といえばmonoclonalなものが注目されてきたが、polyclonalなFLCが腎機能と相関するというデータもある(CJASN 2008 3 1684)。ただ腎機能が悪いとFLCがfilter、排泄されず血中に溜まるという話もあるから、因果関係はまだ分からない。

2013/05/23

Water-soluble vitamins

 水溶性ビタミンは透析で抜けるから補充する。Nephrocap®、Nephrovite®など各種水溶性ビタミン剤があり、いずれもビタミンB群、葉酸、ビタミンCなどを含む。この話を初め私は先日の投稿に関連し「原尿中にろ過された水溶性ビタミンは近位尿細管でmegalin、cubilinなどによるreceptor-mediated endocytosisで再吸収されるのと対照的だ」という文脈でしようと思ったのだが、違う文脈ですることになった。
 というのも、水溶性ビタミンの補充が世界中どこでも行われているのかと思ったらそんなことはないのかもと知ったから。DOPPS I(AJKD 2004 44 293)によれば米国以外ではほとんど処方されていなかった。もっとも10年以上前のデータを分析しているので今は変わったのかもしれないが。こちらではマニュアル(Handbook of Dialysis 4th Ed. 2006)にも載っているくらいで信じて疑わなかった、何事も調べてみなければ分からない。
 水溶性ビタミンが透析で失われるのは本当で、high-fluxで長時間すれば尚更だ(Hemodialysis International 2011 15 30)。補充しないでWernicke encephalopathyになった例もある(Clin Exp Nephrol 2006 10 290)。交絡ばかりだが、DOPPS I分析ではビタミン補充のない患者さんに緩いmortalityの相関が見られた。害もないし、食事でよほど大量に摂っているのでもなければ補充したほうがよさそうだ。

2013/05/20

あの人もこの人も腎臓内科 2/2

 Gatorade®は米国で最もよく飲まれているスポーツ飲料である(二日酔い予防に効くという噂もある)が、これが運動時の体液バランス維持のために作られた以上、やはり背後に腎臓内科医の存在を疑う。果たして調べてみると、生みの親、フロリダ大学のRobert Cade博士は腎臓内科医だった。もう広く知られているかもしれないが、Gatoradeとはフロリダ大学フットボールチームGatorsに、-ade(レモネードなど、飲料を表す接尾辞)を付けた名前だ。これを飲み始めてGatorsの成績が(それこそ昔のCMでコーンフレークを食べた子供のように)大躍進して全国に広まった。



2013/05/17

あの人もこの人も腎臓内科 1/2

 更新可能で、検索可能で、どこからでもアクセスでき、referenceにリンクですぐ飛べ、知識や経験を幅広く共有できるブログは、新しい効果的な学習ツールと信じている。そして、そう信じているのが私だけでなく、殊に腎臓内科にたくさんいることに勇気づけられる。

 たとえばRenal Fellow Network日米腎臓内科ネットなどは有用なリソースだし、実はあのUpToDate®も腎臓内科医でHarvard臨床教授のBurton Rose先生によって始められた(eAJKDでも活躍しASNの月刊新聞Kidney NewsでDetective Nephronを不定期連載する腎臓内科医Kenar Jhaveri先生の個人ブログNephron Powerで知った)。

 これらの多くはnon-peer review publicationであるから、質の高さと意見の偏りが問題になりうる。しかし、書き手はできるだけ正確に書いてreferenceをつけるし、読み手もそのつもりで鵜呑みにせず疑問があればreferenceにあたれば良い。これからこのメディアと共に、自分も成長し周囲にも何か貢献できればと考えている。

2013/05/10

ナノテクノロジー

 コンサルトにいると次から次に学ぶことがあり、やはり臨床からは離れたくない。ある日primary teamが「MRI with/without contrastしたいんだけど、透析の前と後どちらがいい?」と尋ねるので「前も後もダメでしょ、というかradiologistがさせないと思うけど」と答えたら「え、でも先週もしたよ?」という答え。

 調べてみると果たして、ferumoxytolが用いられていた。これはultrasmall superparamagnetic iron oxides(USPIOs)と呼ばれるナノ粒子酸化鉄の造影剤だ。大きさは30nm程度で、異常な脳血管バリアを越えてT1、T2弛緩時間を短縮させるので造影効果があるらしい。そのあと鉄はGdと違い脳間質でastrocytesなどに取り込まれる。

 Astrocytesに限らず、鉄はMRI検査のあと全身の網内系に取り込まれて造血に用いられる。そもそもferomoxytolはCKDの鉄欠乏のために開発され用いられていた位だ。2009年にGdのfuture alternativeとして雑誌に紹介された(KI 2009 75 465)とは知らなかったし、もはや身近に用いられているとも知らなかった。

 [2017年7月追加]日本腎臓学会のガイドラインはeGFRが30ml/min/1.73m2未満で他の手段に「代替えすべき」(長期透析が行われている終末期腎障害、急性腎不全についても同様と)、30以上60未満で「利益と危険性とを慎重に検討」したうえで決定し、つかうなら必要最小量が望ましい、としている。

 代替えすべきだけれど使わざるを得ない時には、NSFをよく起こしたことが知られているものを避けるべきともしている。「Gadodiamide(Omniscan®)に最も報告が多く、次いでGadopentetate dimeglumine(Magnevist®)に報告が多く、Gadoteridol(ProHance®)、Gadoterate(Magnescope)によるNSF発症の報告はほとんどない」という(こちらも参照のこと)。


2013/05/07

Furosemide use in the Derby

 先日は米国競馬の三大レースのひとつKentucky Derbyが行われた。ダートが泥々で混戦だったが最後にはOrbという馬が勝った。Kentucky Derbyは1870年代から続く歴史あるレースで、観客はドレスアップ(女性はつばの広い帽子をかぶる)し、Kentucky whiskeyで作ったMint Julepを飲むなど特別な慣習がある。

 ところで、競走馬は心肺機能の極限を追求するし、大地を蹴るたび気道が強い衝撃を受けるので、どうしてもEIPH(exercise-induced pulmonary hemorrhage)が起こりやすい。それで米国の多くの州では1970年代からfurosemide 350-500mgがレース前に静注されている。というか、このpracticeはKentucky Derbyで始まった。

 しかしこれにはEIPHの予防という意味もあるが、馬のperformanceを上げるという意味もある(軽くなるから)。低K血症、Ca2+喪失も心配される(レース翌日にカルシウムを注射するらしい)。それで、禁止している国も多いし、米国競馬界でもfurosemide禁止と容認で議論が続いている(New York Times Horse Racing Blog 2012/5/5)。

2013/05/06

EGF and Mg

 マグネシウムを愛する人が訪れたい場所でまず思いつくのはギリシャのThessaly地方にあるMagnesiaであろう。ここで取れる滑石、Mg3Si4O10(OH)2がmagnesiaと呼ばれたのがマグネシウムの語源だからだ。そして、もう一つ訪れたいのがEnglandのSurrey地方にあるEpsom。ここの泉から湧く水はMgSO4を多く含み苦く、水気を抜いたEpsom saltという粉が医薬品として昔から売られていた。もっとも今では当時の面影はほとんど残っていないらしいが。

 前置きはさておき、マグネシウムについてまた学ぶ機会があった。それは、血中マグネシウム濃度はPPI、calcineurin inhibitorsなど様々な薬の影響を受けるが、ほかに分子標的抗がん剤EGFR inhibitors(のなかでもcetuximabとerlotinib)もあるということ。これは、EGFが遠位尿細管でEGFRに結合してMgチャネルTRPM6発現を増やしMg再吸収を増やすからだ。それをブロックするEGFR inhibitorを投与すれば尿中Mg排泄が増えて低Mg血症になる(Clinical Science 2012 123 1)。

 それから、マグネシウムとは関係ないがEGFR inhibitorのcetuximabがネフローゼ症候群を起こしたかもしれないという報告を知った(DOI: 10.1177/1078155212459668)。分子標的抗がん剤のなかでは他にVEGF inhibitorのbevacizumabが蛋白尿とネフローゼのリスクを上げる(JASN 2010 21 1381)。VEGF inhibitorの方は、なんとなく「VEGFって言うくらいだからそれをブロックしたら糸球体の内皮細胞異常が起こるのかな」と想像されるが、原因ははっきり分かっていない。Thrombotic microangiopathyの報告もあるようだ。

2013/05/03

Receptor-mediated endocytosis

 通常アルブミンはどれくらい糸球体ろ過されるか?「全く無い」と言う人から「全てろ過して全て再吸収される」という人までいて論争があることは前に触れたが、今度は「少しろ過され(約3g/24hr)近位尿細管で再吸収される」という人達に会った(Eur J Physiol 2009 458 1039)。

 なぜ彼らはそういうのか?それは、近位尿細管にアルブミンを回収する仕組み(receptor-mediated endocytosisという)があるからだ。megalinとcubilinというタンパク質があり、彼らは内腔に伸ばした細胞外ドメインによって小分子量タンパクなど様々な溶質を捕まえることができる。

 捕まえたあと細胞内に取り込むendocytosisに関係するのはOCRL1(細胞膜分解酵素)、V-ATPase(H+ pump、小胞内腔を酸性にする)、CLC5(1H+/2Cl- exchanger、小胞内腔へCl-を流し電気的中性を保つ)など。CLC5の異常でDent's disease、OCRL1の異常でDent's diseaseまたはLowe syndromeになる(Pediatr Nephrol 2011 26 693)。いずれもX-linkedだ。

 Dent's diseaseではアルブミンの他にも様々なpeptidesが尿中に失われる。なかでもPTHが再吸収されないので、これが下流の尿細管内腔にあるPTH受容体を刺激し、高リン尿(NaPi-2a transporterが引き上げられリン再吸収が低下)とvitamin Dの活性化、高Ca尿が起こると考えられている(J Physiol 2007 578 633)。高Ca尿はHCTZで緩和できる(遠位尿細管のTRPV5ではなく近位尿細管でのCa再吸収を促進する、JCI 2005 115 1651)。

2013/05/01

White coat

 三年前にいまの病院に面接を受けに来たとき、白衣を着ない先生が多くて(米国東部から来た私は)「いいのかな…」と思った。今は、私も白衣を着ていない。このあいだ外来患者さんが「あなたは白衣を着ていないからいい、白衣高血圧の心配がないね」と言った。白衣高血圧は必ずしも白衣のせいではないが、患者さんがリラックスできたならよいか。
 さて、高血圧は症状が出ないのでsilent killerなどと呼ばれるが、腎臓病の進行を押さえるのにも血圧のコントロールは非常に重要だ。しかし外来の血圧と家の血圧が違うことがよくあり、外来のほうが高ければ白衣高血圧、外来のほうが低ければmasked hypertensionと呼ばれる。どちらも心血管系イベントに相関する(J Hypertension 2007 25 1554)から発見して治療が必要だ。
 もう一つ見逃せないのが夜の血圧で、昼間より血圧が下がらない人をnon-dipper、逆に血圧が上がる人をreverse dipperと呼び高リスク群だ。降圧薬を一つ就寝前にswitchするだけで心血管系リスクが下がる(adjusted HR 0.31、95% CI 0.21 to 0.46)という論文が出て(JASN 2011 22 2313)、adjusted HR 0.31は話がうま過ぎるにせよ降圧剤の一部を就寝前に処方する診療はもはやメジャーと思う。