2011/07/30

calciphylaxis

 腎疾患に関連した最も恐るべき皮膚疾患といえばNSF(Nephrogenic Systemic Fibrosis、ガドリニウム造影剤に関連した全身の線維化)だが、その次はcalciphylaxisだろう。どちらもcripplingで、かつ有効な治療法がない。透析患者さんにガドリニウムを避けるようになってからNSFはまず診ることはないが、きょうはcalciphylaxisかもしれないという症例にあった。

 Calciphylaxisとは全身のリン酸カルシウム結晶の沈着で、いうなれば全身が骨になる病気だ。とくに沈着するのは小血管内膜で、それゆえ皮膚や皮下脂肪に網状の皮疹や発赤、潰瘍などができる。透析患者さんに圧倒的に多い現象だが、腎疾患(PTH、血清リン値)がコントロールされていないと起こるというわけでもなく、原因はいまだ不明だ。ワーファリン内服と関係しているともいわれる。

 治療もまた決定的なものはなく、皮膚科、外科、腎臓内科などが一緒になって局所治療やCa、P、PTHをコントロールする。Sodium thiosulfateは、理論上不溶性のカルシウムを水溶性のCalcium thiosulfateに変えることで結晶沈着を抑えるはずだが、痛みなど症状を緩和したというわずかな報告があるだけでその有効性は未知数だ。

ピンチ

 緊急透析するには透析カテーテルを挿入する必要がある。そして私は透析カテーテルを挿入することが困難な状況など余り考えたことがなかったが、きょう困難な症例に出会った。それは虚血性心筋症による心不全でLVAD(左室補助デバイス)が挿入されている患者さんの急性腎不全だった。

 無尿になって、わずかな尿を鏡検すると典型的なbrown granular castが見える。透析カテーテルが必要だなと思いながら何気なく胸部X線を見ると、上大静脈がラインで既に一杯だ。よく見ると、右から挿入された両室ペーシングのリード(二本)、AICD(二本)、それに左鎖骨下静脈から挿入されたHickman Catheter(home milrinon infusionのため)の計五本でごった返している。

 こんなところに太い透析カテーテルが入るわけがない。たとえ入っても良いフローが得られるか判らないし、突っ込んで抜けなくなったら大変だ。INRは3.9(血液が固まりにくくなっているということ。僧帽弁置換後で抗凝固剤を飲んでいる)だし、大きな穴を内頚静脈に開けてラインを入れてからオメオメ引き抜くわけにもいかない。

 「なら大腿静脈に挿入すれば?」と言いたいところだが、患者さんの状況から言って腎不全はそう簡単に治りそうもないし、大腿動脈カテーテルから持続透析を行うと患者さんは24時間臥位のまま全く動くことができない。「IR(放射線科医)に透視下にやってもらえば?」と言おうにも時は金曜日の午後、週末にIRを動かすのは至難の業だ。

 この状態は、挿管困難などで気道確保が保証されない状況におかれた集中治療医のピンチに通じるものがあるだろう。腎機能がシャットダウンして透析ができなければ、早晩に(他の臓器がシャットダウンした時に比べればゆっくりだが)万事は休する。結局、INRはビタミンKでリバースして、へパリン持続静注を開始し、大腿静脈カテーテルを挿入することになりそうだ。

Creatinine secretion

 腎臓内科にいる以上、患者さんが服用した全ての薬剤をチェックして、腎障害を起こすものがないか吟味しなければならない。NSAIDs(イブプロフェンのような鎮痛剤)、造影剤、抗生剤のような有名なものを見逃さないのは無論だが、腎機能が悪化したタイミングで始められた新しい薬剤があれば何でも、腎障害の副作用がないか確認する。
 そこで最近目にするのが、「この薬はクレアチニンの尿細管排泄を促進するので血清クレアチニンが見掛け上高くなります」という表示だ。たとえばranolazine(商品名Ranexa、抗狭心症薬)、それにTS合剤(Bactrim、抗生剤)。そこで「この薬を飲んでから血清クレアチニン濃度が上がりました。これは間質性腎炎による腎障害ですか、それとも見掛け上高まっただけですか?」という議論になる。
 この問いの答え次第で薬を飲むか飲まないか(他の薬に変えるか)が決まるわけで、ふたつを鑑別できることは臨床上重要だ。先生によれば、三つのポイントがあった。①クレアチニン排泄が増えても血清クレアチニンは健常人で0.1mg/dl程度しか上がらないはず。②クレアチニン排泄だけが問題ならBUN(尿素)は動かないはず。③クレアチニン排泄が問題なら、薬をやめて48時間以内にクレアチニン濃度は元に戻るはず。
 しかしこれらにも限界がある。たとえば①は、もともと腎疾患があるような場合には血清クレアチニン上昇幅が大きいかもしれない。また②についても、急性期の場合は異化や栄養状態などによりBUN値も動きうる。そんなわけで鑑別は難しく、最終的な決定はリスクと利益を勘案して主治医(primary team)が判断することになる。

Osmotic gradient

 Furosemideがヘンレ上行脚のNa-K-2Clトランスポーターを阻害することは知られているが、そこで水の再吸収が行われているわけではない。ではなぜ、Furosemideによって水排泄が促進されるのだろうか。このように、現象としては常識なことも生理学的に問われると答えに詰まる。

 正解は、furosemideによってネフロンの浸透圧勾配(osmotic gradient)が消失するから。水の再吸収と尿の濃縮は、それぞれヘンレ下行脚と集合管で行われるが、そのためには腎髄質の高浸透圧が必要だ。これを維持しているのがヘンレ上行脚なのである。Na-K-2Clで細胞内に再吸収されたNaは、血管側にあるNa-K ATPaseによって汲みだされ体循環に帰っていく。

 この話は回診で一週間前くらいにあったが、なかなか一回聴いて全部覚えられるものではない(先生は一回で覚えなければならないとおっしゃるが)。同僚のフェローが同じ質問をしたら、先生は「この話、前にしたよね…」と言いつつちゃんともう一度教えてくれた。私も忘れていたので復習できてよかった。

腎血流シンチ

 腹部大動脈瘤の修復術後に急性腎不全が見られるのは仕方がないことだ。というのも術中に大動脈をクランプしなければならない(から腎血流が遮断される)からだ。血流が滞ることにより腎動脈に血栓が出来てしまうこともある。術中の低血圧や造影剤による腎障害など、他にも腎臓に悪い条件が重なるperfect stormだ。
 今月もそんな患者さんを診ていたが、senior fellow(F2、一年先輩)が残存腎機能を推定する手掛かりに、腎血流シンチグラフィをオーダーするという妙案を思いついた。果たして結果は、右腎血流の完全な途絶と、左腎上極の血流障害(腎梗塞)だった。残念ながら患者さんが透析から離脱する可能性は低そうだ。
 この症例を通して、シンチグラフィを思いついた先輩の機転に恐れ入った。コロンブスの卵というか、言われてみればそうだが、思いつくのは中々簡単ではない。このレベルに達するには、腎臓内科医が持つツールを熟知することと、腎臓内科医として「いかにして腎臓を助けられるか」「いかに腎臓が回復するか」という視点を持つことが必要だ。

2011/07/29

リン

 腎臓内科を始めてからリン(phosphorus)に注意を払うようになった。というのも腎臓が悪くなるとリンが排泄できなくなるからだ。リンはDNA、RNAなどの骨格に含まれるほか、細胞膜(リン脂質)の主成分でもあり、いたるところに存在している。だからリンは大体の食品に含まれているわけだが、こちらでは牛乳やチーズなどの乳製品をとくに避けるよう指導している。マメ類にも多いが、いまの先生によれば野菜類に含まれるリンは体内に吸収されないらしい。
 体内におけるリンの代謝とその制御はとても複雑で、正直腎臓内科を選ぶときに「こんなの判るようになるのかな」と心配したほどだが、少しずつ理解している。低リン血症で入院になった患者さんがいて、カルシウムもPTHもVitamin Dも何も問題ないのにリン濃度だけが補っても補っても下がる。こういう場合は、腎臓がリンをどんどん捨てているわけで、そのシグナルを送っているのはFGF-23を最も考えるらしい。まれだがFGF-23 secreting tumorと言うのがあるそうだ。

TRI

 こちらにきて沢山の症例を毎日見ているが、腎生検は二件しかしていない。今日はその一件について、みんなで回診中に腎病理の先生のところまで話を聞きに行ってきた。そしてtubulo-reticular inclusion(TRI)のことが勉強になった。先生によればこれはinterferonによるものらしく、それを惹起するウイルス感染、炎症(とくにlupus)、それにinterferon治療そのものなどが主な原因という。ただしlupusであれば、多くの場合免疫複合体の沈着が見られるらしい。

Laplace's law

 大学にいると面白い話がタダで聴ける。今日もGrand Roundがあって、腹部大動脈瘤の話だった。真腔より偽腔のほうが大きくなるのは、血管壁中膜はelastinが豊富で伸縮性が大きいからだ。胸部大動脈には70層のelastin、腹部大動脈には30層のelastinがある。演者の先生は「だから腹部のほうが破れやすい」と言っていたが、掛かる圧は胸部のほうが強いよなあと思った。
 なぜ大動脈瘤ができるかについてだが、MMP(matrix metalloprotease)活性、炎症反応、それに血行動態のストレスが挙げられた。MMPについては、その働きを抑えるTIMP(tissue inhibitor of MMP)が衰えることが原因らしい。
 血行動態のところでは、ラプラスの法則(表面張力は半径に反比例する)を手袋で簡単に説明していた。すなわち、医療用ゴム手袋の口を持って中に息を吹きこむと、手のひらの部分はよく膨らみ硬く張っているが指の部分はあまり膨らまず柔らかい。

2011/07/26

APOL1

 今日はAPOL1遺伝子のことを学んだ。この遺伝子はAfrican Americanの腎疾患発症に重要で、G1(S342GとI384Mの置換)とG2(del388N389Yの欠失)という二つの変異両方がある人はFSGSを発症するOdds Ratio(OR)が10倍、高血圧による腎疾患を起こすORが3倍という。さらに今日のjournal clubで取り上げられていた論文は、これらの変異がある移植腎はない移植腎に比べて生着予後が悪いというものだった。

 APOL1遺伝子が腎臓で何をしているかは、まだ誰も知らない。この変異は黒人にしか見られない(アジア人やヨーロッパ人には見られない)が、この変異があるとアフリカにいるTripanosoma bruceiという寄生虫のsub-species(T. brucei rhodensienseT. brucei gambiense)に耐性ができると考えられている。それはこの遺伝子産物の末端にpore forming activityがあるためだとされている。

 そもそもAPOL1が腎疾患に関連していると判ったのはつい昨年のことだ。それまでは、APOL1遺伝子座の近くにあるMYH(myosin heavy chain)が悪いと言われていたし、実際私が行った2010年のNKF meetingでもそのように説明されていたほどだ。イオンチャネルの専門の先生は、「この遺伝子産物がpore forming proteinというのは興味深い事実だ(何かのチャネルかもしれない、という意味)」と言っていた。


[2019年9月29日追記]じつは、以前から変異型APOL1はトリパノソーマ原虫のミトコンドリアやリソソームに孔をあけ、細胞を破裂させたりアポトーシス様の変化を起こしたりすることがわかっていた(図はJASN 2017 28 1008)。

 


 そして今回、変異型APOL1を強制発現させたヒト尿細管細胞で、変異型APOL1は細胞質からミトコンドリアの内膜まで取り込まれ、そこで異常に重合していることがわかり、JASN電子版に載った(doi:10.1681/ASN.2019020114)。

 しかし、結果はそれだけではない。

 さらに異常APOL1は、ミトコンドリア内でmPTP(mitochondrial permeability transition pore)という複合体に取り込まれ、この「死の孔」を開くことがわかったのだ(図は前掲JASN電子版記事より)。


(RVはリスク・バリアントの略)


 mPTPが開くと、ミトコンドリアから細胞質へカルシウムイオンが流出し、さまざまな細胞死スイッチがオンになるのだという。つまり、上述のイオンチャンネル専門家の先生(筆者が人間としても師と仰ぐ、故・John B. Stokes先生)の予言は、当たっていたわけだ。

 今回の論文は、「なぜ腎臓だけミトコンドリアが破裂するの?」、「じっさいのAPOL1変異患者さんでも、本当に同じことが起きているの?」といった質問には答えない。しかし、mPTPにたどり着いたことは、病態理解と治療の可能性につながる重要な成果だ。

 というのも、、mPTPは(興味深いことに!)アルツハイマー病やパーキンソン氏病などの神経変性疾患でも、ニューロン死の責任分子とされているのだ。mPTPを開くサイクロフィリンDという分子が治療標的として研究されてもいる(CNS Neurol Disord Drug Targets 2015 14 654)。

 それでか、著者もまた「足細胞もニューロンのように高度に分化しているので、異常に重合した高分子には弱いのかもしれない」などと自由に推論している(彼らが用いたのは尿細管細胞だが)。これまた、分化→統合→融合の一例であり、近い将来届くであろう吉報が楽しみだ。




2011/07/23

membranous nephropathy

 レクチャで膜性腎症の話になった。この病気は謎の抗原と、それに対する抗体の複合体が膜(基底膜)にひっつく病気なのであるが、その順番は、①抗原と抗体がくっついたものが何処からかやって来る、②抗原がもともと膜にあって、それに抗体がひっつく、③まず抗原がどこからかやってきて、次に抗体がやってくる、というように諸説あるらしい。

 現在では③が有力(とくに二次性の膜性腎症は)らしいが、こんなものどうやって証明するのかまったく謎だ。まるで昔話で桃太郎と一緒に桃が流れ来たのか、桃太郎は最初からいてそれから桃が来たのか、みたいな話だ。ともあれ一旦これらがひっつくと、MAC(membrane-attacking complex)という補体C5b-9が動き出して基底膜や足突起を破壊し始める。

 抗原については定かではないが、二年前には、M-type phospholipase A2 receptor (PLA2R)とIgG4が関連しているという報告がNew England Journal of Medicineに載った。そして先月、bovine albumin(ウシ由来のタンパク質)が子供の膜性腎症患者で有意に高かったという報告がNew England Journal of Medicineに載った(NEJM 2011 364 2101)。

 「bovine albuminなんて、牛乳がいけないってこと?」と思うのも無理はない。それで論文を読んでみた。大学に入るおかげで家からでも大学図書館のウェブサイトにログインして論文を入手できて便利だ。どうやら筆者は、疫学研究で食品を色々調べたら牛乳や牛肉(エキスなども含む)が怪しいかもということになりこの研究を始めたらしい。

 いずれにしても、これは原発性膜性腎症の抗原についてであり、しかも子供の話だ(大人でもこの抗原とそれに対する抗体はみられたが、コントロールと比べての有意差がでなかった)。一般的には膜性腎症はいまだ感染症、悪性腫瘍、自己免疫疾患、毒素や薬物といったものに惹起された免疫反応が機序と考えられている。


uric acid and urea

 SIADH(水分再吸収を促進するホルモンが過剰になる病気)で尿酸値が下がることは知っていたが、その機序は知らなかった。先生によれば、近位尿細管でvasopressin receptor (V1R)を介して尿酸排泄が増えるためだという。尿酸専用のトランスポーターがあるらしい。

 なぜADH分泌が増えると尿酸排泄が増えるのだろうか。ADHが成し遂げたい目標はただ一つ、水分を体内にとどめることである。しかし腎臓には尿素を排泄するという義務がある。それでADHは尿を限界まで濃縮して水分の喪失を抑えようとする(逆に、ADHが病的に過剰だと水分が体内にたまってしまい、低ナトリウム血症などが起こる)。

 ここで考えられるのは、尿酸を排泄することで、相対的に尿素の量が減り尿量を減らせるのではないかという仮説だ。たとえば一日尿素排泄が500mOsmとすると、最大濃縮(1200mOsm/kg)しても500/1200 = 400mLの尿が必要だ。これが尿酸排泄が増えて尿素が300mOsmになれば、300/1200 = 250mLの尿さえあればよく、150mLの水が節約できる。

塩の換算

 いまだに混乱するのが食塩とナトリウムの関係だ。食品の栄養成分表にはたいていナトリウムがmg表示で記されているが、私たちはたいてい体内のナトリウムをmEqで考え、食品の場合は食塩何gで考えるので、単位がバラバラだ。

 分かりやすい基準は、生理食塩水1Lに9gの食塩が入っており、それはNa 154mEq、Cl 154mEqだということだ。そして原子量の違いから、9グラムの食塩は約4グラムのNaと約5グラムのClからなる。これで換算できるはずだ。

 たとえば醤油大さじ1杯には940mgのNaが含まれている。これは940 x 9/4 = 約2グラムの食塩に相当し、2 x 154/9 = 約36mEqのNaとClに相当する。また生理食塩水を125ml/hで輔液した場合、一日に0.125 x 24 x 9 = 27グラムもの食塩を身体に入れることになる。

[2019年1月追記]カルシウムのmEq/l、mmol/l、mg/dlの変換も追加する。カルシウムの原子量は40、そしてイオンは2価イオンだ。だから計算しやすい10mg/dl(100mg/l)は、2.5mmol/l。そして1mmolのカルシウムは2mEq分荷電しているので、2.5mmol/lは5mEq/lになる。

 ただし、「イオン化カルシウム」は血中総カルシウムの約半分。実験では39.5%が蛋白結合、46.9%がイオン化し、13.6%がdiffusible calcium complexes(その間の、細胞膜などを透過できる状態)だった(JCI 1970 49 318)。それで、血中総Caが10mg/dlの患者さんでイオン化カルシウムだけをはかると、2.5の半分で1.25mmol/l程度になる。

 なお、血中カルシウムの一部が半透膜を透過しない(蛋白結合しているからだが)ことを1911年に初めて発表した論文(Biochem Z 1911 31 336)の第二著者、D. Takahashi博士は日本人と思われる。

 おそらく東京大学農芸化学科発酵学教室・第二代教授の高橋禎造博士のことだと思われるが、どうしてファーストネームのイニシャルがDなのか(「サダゾウ」ないし「テイゾウ」と推察される)。ドイツで「デイゾウ」と呼ばれていたのかもしれない。


Na+/H+ exchanger

 回腸導管(膀胱を摘出した患者さんのために、膀胱の代わりに尿管を回腸の一部につないだもの)の患者さんで尿電解質は役に立つか。回腸導管のある人は、回腸のCl-/HCO3- exchangerのためにnon-anion gap acidosisをきたすことが知られている。しかし、それと別に回腸にはNa+/H+ exchangerもあるのだという。だとすると尿Naは回腸導管内で変化するだろうか?
 同じexchangerは近位尿細管にもあるので、まずこれについて考えよう。これはexchangerなので濃度勾配によりイオンが流れる(勾配に逆らって汲みだすポンプではない)。尿細管内腔はNa濃度が高く、尿細管細胞内は低いので自然とNaが尿細管細胞に流れ、交換にH+が内腔に流れる仕組みだ(そのあと細胞から間質にNa+はポンプによって汲みだされる)。
 では近位尿細管を通過した原尿のNa+濃度は、通過前と比べて低いかというと、そんなことはない。それはなぜかというと、近位尿細管は非常にleakyで濃度勾配を維持する様に設計されていないからだ。再吸収されたNa+はtight junction(名ばかりでダダ漏れ)を通じていくらでも戻ることができるという。ただ別の本では、「Na+と一緒に水が透過して再吸収されるために等調性再吸収が起こる」と書かれている。
 Anyway、近位尿細管では尿は希釈も濃縮もされないということだ。それならば、尿管から回腸導管まで運ばれた尿のNa+濃度は、導管を通る間に希釈も濃縮もされず維持されるように思われる。しかし、先生が言うには「回腸導管の患者さんでは、尿電解質は全く予想できず解釈は不可能」という。本当のところはどうなのか、誰かが研究しているだろうから調べてみよう。

urate crystal

 血液腫瘍の患者さんの腎機能低下を診たときに、腫瘍融解症候群(tumor lysis syndrome)と名づけるのはたやすいが、そこでキチンと病態を鑑定するのが腎臓内科の役目だ。尿酸腎症(urate nephropathy)、nephrocalcinosis(リンとカルシウムの濃度積、biproductが上がり腎に結晶が沈着する)、腫瘍自体の浸潤、リンパ節腫大による尿管閉塞など、考えることはたくさんある。
 いまの先生は、たとえ患者さんの尿酸値が13mg/dlと高値であっても「尿に尿酸結晶が見られないから確実に(尿酸腎症と)は言えない」と慎重だ。それで腎臓超音波検査をすることになった。さておき尿酸腎症は単なる尿酸結晶の沈着ではなく、それにより惹起される炎症反応による間質性腎炎と学んだ。
 さらに、この患者さんにステロイドが投与されるうち血清リン濃度が上昇した時にも、単に「ステロイドでblastが融けたんでしょう」とは考えない。言われてみると確かに血中のblastの数は減っていない(どころか増えている)。結局ステロイドによる食欲増進によりリン摂取が(低下した腎機能に比して)過多になったことが原因とわかり、phosphate binderを開始することにした。
 と、これを議論している同じ日にべつのコンサルトが入ってきて、やはり腫瘍をもつ患者さんの腎不全という。こちらは尿に大量のurate crystalが見られ、血清尿酸濃度を調べると19mg/dlと極めて高値で尿酸腎症の診断に至った。rasburicase(urate oxydate enzyme)で立ちどころに血清尿酸値はほぼゼロになり、尿酸に伴う炎症反応も早期に消退するとよいが。

dirty little secret

 もし腎臓機能がピタリと止まったら、血清クレアチニンの値は一日にどれくらい上がるだろうか。経験的に、1mg/dL上がることが知られている。つまり、前日比でdelta-Cr値が1mg/dL以上のとき、その間に患者さんのGFRはほぼゼロに低下したと考えられる。
 70kgの患者さんが一日に産生するクレアチニンを1.2グラムとして、彼から腎臓を突然取ってしまったとしよう。すると産生されたクレアチニンはvolume of distribution = total body weight、すなわち42Lに等しく行き渡り血清濃度をあげるはずだ。
 しかしその仮定によればクレアチニンの上がり幅は、1200mg/420dL = 約3mg/dLとなり現実の1mg/dLと乖離する。それはなぜか?「ここにdirty little secretがあるのさ」と先生がいう。先生によれば、腎臓機能がゼロに落ちるような状態では(どういうわけか)クレアチニン産生量も減っているのだという。

2011/07/20

FEMg

 先日はfree water excretionを学び、それが近位尿細管の障害を反映すると知ったが、今日はFEMg(マグネシウムの排泄割合)を習った。ポイントは血清Mgに0.7を掛けること(30%はアルブミンに結合しているため)。腎臓からのMg排泄過多により低マグネシウム血症の場合、FEMgは15%を越えるという。マグネシウムは60%がヘンレ上行脚(thick ascending loop of Henle)で受動的に再吸収されるため、FEMgの異常はそこの障害を反映する。なお残りのMgは遠位尿細管でTRPM6チャネルにより再吸収される。

ふたつの約束

 MDRD-GFR(糸球体ろ過速度)は血清クレアチニン濃度、年齢、性別によって計算されるが、言外に二つの約束事がある。ひとつは患者さんが定常状態にあること、もうひとつは患者さんが年齢相応の筋肉量を持っていることだ。だからこれは入院患者さんではとても当てはまらない計算値だ。実際に、血清クレアチニン、尿クレアチニン、尿量に基づいてクレアチニン・クリアランスを計算してみるとその差に驚かされる。ある患者さんではMDRD-GFRが60ml/minなのにクレアチニン・クリアランスは26ml/minしかなかった。入院期間が長く筋肉が落ちかつ低栄養状態なためそもそも体内にクレアチニンが少ないのだ。

2011/07/19

CVVHDF

 外科ICUでCABG後の肝硬変患者にCVVHDF(持続透析)を回しているが、こいつはまあ随分やっかいな治療だ。血行動態が不安定な患者さんから、少しずつ血液を引いて透析を長時間まわす訳だが、カテーテルのトラブル、回路のトラブル、血液抗凝固のトラブル、電解質の問題、除水ボリュームの問題など、いろいろ考えて予想して設定を決めても必ず予想どおりに行かない。「なんやねん」という感じだ。
 今の患者さんでは除水がメインテーマで、net negative 300ml/hrを目指して朝にオーダーしたが、早速のライントラブルとそれに伴うライン交換によりCVVHDは大幅に中断され、夕方にはI/Oが結局evenという有様だ。CVVHDをしたからといってその分患者さんが長生きできるというエビデンスはない。しかし、全てのトラブルを乗り越え除水がミラクルなレベルで(300ml/hrってことは7.2L/dayってことだ!)行われ患者さんがよくなればよいと前向きに思う。

オンコール

 土日の連続当直をした。まず20人近い患者さんのリストを片手に、バイタルサインとI/O(身体に入った水の量と出ていった水の量)、検査データを集める。透析を予定または考慮している患者さんの分を最初にチェックして、あとは診察をして透析するかどうか、透析条件をどうするかなど決める。

 そのあと、この巨大な病院をぐるぐる回って患者さんを診察し、primary teamと方針を軽く話したころには、回診の時間なので急いで待ち合わせの場所まで戻る。病院の巨大さといえば、アメフトの競技場くらい大きい。というのもうちの病院の真横に、ほぼ同じ大きさのスタジアムがあるのだ(7万人収容)。

 回診では生理学に基づいた議論が延々と続く。指導医でもA先生とB先生によって言うことが全然違い、A先生が教えてくれたことをB先生が"That is completely wrong"とか言うのには当惑することもある。みんな生理学を独自に修めているのでそういうことになるだろうか。

 たとえばA先生はFENa(Naの排泄割合)を診断の手がかりにしていたが、B先生はFENaなど意味がないという。B先生は代わりに尿Naとfree water excretion(Pcr/Ucr)を活用している。Free water excretionは腎臓が正常ならば1%以下なはずで、この割合が高いのは近位尿細管が障害されているせいだという。

 いずれにせよ、回診は3-4時まで続き、そのあとカルテを書き、土曜日は終わった。日曜日は、カルテを書き新患を二人診て、そのあとさらにERに来た患者さんを診たので遅くなった。しかし、ERがぼんやりしているところ(8時間に8回立て続けに下血しているのに輸血以外の応急処置がなく、一般病棟に送るとかいう)をキチンと診察して、MICUに患者を送りICUチーム、消化器内科と議論して、貢献したなという気持ちになった。


2011/07/12

さまざまな医学知識

 いまの先生は、深い考察をするthinkerなだけでなく、teacherでもある。だから高カルシウム血症の鑑別の覚え方(mnemonic)とか、基本的なこともちゃんと教えてくれる。先生はSUP(E)R ACTIVE PTHというのを使っていた。Sarcoidosis, Uremia, Plasma cell dyscrasia (i.e. multiple myeloma), Renal transplant, Addison's disease / Milk-Alkali, Carcinoma (malignancy), Thyrotoxicosis, Immobilization, Vitamin D (or A), Excess Calcium, Paget's, Thiazide, Hyperparathyroidismだ。
 他にも、Hepatitis Cに関連した(cryoglobulinemiaによる)ネフローゼはMPGNだとか、慢性腎疾患に伴う骨疾患は四つ(Osteitis fibrosa cystica, osteomalacia, mixed of both, adynamic bone disease)だとか、adynamic bone diseaseは糖尿病由来の腎疾患患者に多くみられるとか、基本的なことがまたたく間に勉強になる。

慎重なアプローチ

 いま教わっている先生は、決して診断に飛び付かず、慎重で抜けのない評価をして可能性の高い診断について確からしさを吟味する。低ナトリウム血症の患者さんにorthostatic hypotensionもedemaもある場合、volume評価が難しくなる。しかし彼は一つ一つを吟味する。それによりorthostatic hypotensionはαblockerによるものとわかった(それは結果的に頸動脈圧受容体の伸展を抑えADH分泌を亢進するが)。edemaについても、薬剤(NSAIDs、glitazones、それにdihydropiridine Ca channel blockersなど)の可能性などをまず吟味する。
 低ナトリウム血症で尿ナトリウムが115mEq/lあったら、私なら「ADHの出過ぎでしょ、そしてそれはhypovolemiaによるものではないでしょう(だとすれば尿ナトリウムは低値のはずだから)」で終りだ。でも先生は、osmotic diuresis(尿糖やマニトール)や尿HCO3-の高値(尿細管内の陰性電荷が陽イオンのNaを引っ張る)の可能性をまず考え、次にnatural ADH antagonistであるPGE2を阻害するNSAIDsの可能性を考える。さらに、「ADHが出過ぎの割に尿浸透圧は370mOsm/kgとそれほど高くないのは何故だろう?」と考察を進める。
 そこから尿浸透圧を構成するのは主にNaとCl(約50%)、尿素(約50%)いう話になり、溶質が減れば腎臓は浸透圧gradientを保てないだろうということで、beer potomaniaの話になる。もちろんeuvolemic hyponatremiaの鑑別にも一つ一つ言及し、念のためにAM cortisolをオーダーしようとか、甲状腺機能低下症で低ナトリウム血症になるのは心拍出量低下に伴う頸動脈圧受容体を介したADH亢進によるとか、Thiazide、SSRI、carbamazepine(薬剤性低Na血症)、…議論は尽きない。きちんとした病態理解があるために、患者さんはコンサルト後からメキメキ検査値が向上し腎機能が向上する。

Bardoxolone

 今日は、Journal clubがあってNEJMの電子版に最近発表された「Bardoxoloneが2型糖尿病性腎症の進行を抑制する」という論文(NEJM 2011 365 327)がテーマだった。エンドポイントがeGFRであり、透析導入や心血管疾患による死亡でないことが論文の有用性を下げていることなどは発見だった。1年間のフォローアップでGFRが最大10ml/min程度向上したとして、それがいったい何を意味するのかまだ誰にもわからない。追試で「この薬で透析導入を半年遅らせることができます」というような結論がでることを期待したい。

 この研究結果で面白かったのは、BardoxoloneはGFRを向上したけれどタンパク尿を悪化させたという結果だ。患者の98%がACEIやARBを内服していたにも関わらずだ。Bardoxoloneはnon-NSAIDs anti-inflammatory drug、抗炎症薬だ。だからここでの興味深い仮説は、「尿タンパクが腎機能を悪化させるのは、尿細管に漏れ出した尿タンパクが炎症を惹起するために起こるのであり、炎症そのものを抑えてしまえば、たとえ尿タンパクがでても腎機能は悪化しない(どころか向上する)」というものだ。ハハーそうか!と手を打って聞いていた。

2011/07/09

ついに来た

 ああ、素晴らしい。アカデミックな場所で働ける幸せ。指導医は優しくかつ規律正しい。よき教師であり、教え子への愛に満ちている。それに応えてレジデントから医学生までがすくすくと育っている。日一日と成長が見て取れ、その充実感がチーム全体をポジティブな雰囲気に押し上げている。

 この先生に二週間ついただけで、元の知識がゼロでも深く病態を理解でき細心の知見にも詳しくなれる。anion gap acidosisと聞いたら皆、新しいpnemonicsであるGOLDMARK(glycols, oxyproline, L-lactate, D-lactate, Methanol, ASA, Renal failure, DKA)を知っている。

 同様にNon-anion gap acidosisにしてもACCRUED(Acid load, Carbonic anhydrase inhibitors, CKD, RTA, Ureteroenterostomy, Extra-alimentation, Diarrhea)を知っていて、論文まで持っている。高・低カリウム血症を考えるときに体内のカリウム貯蓄量を考慮したり、低ナトリウム血症(重度で症状のあるもの)に3%食塩水100mlをチョコチョコ使うやり方など、新しいことが色々あった。

 この先生は、プレゼンをする人にその場で当意即妙な教育を施す。サマリー、主観的症状、客観的所見、検査所見、アセスメントを徹底して峻別し、アカデミックな言葉で表現するよう教え、アセスメントも対話法によって質が高められていく。

 たとえばhypovolemic hyponatremiaが何故輔液に反応するのかについて、こんな問答があった。「輔液すると頸動脈の圧受容体は…」「伸びます」「圧受容体が伸びるとADH分泌は…」「下がります」「ADH分泌が下がるとfree waterの排泄は…」「増えます」「free waterの排泄が増えると血漿Na濃度は…」「上がります」。

 こんなレベルの高いところで、いまだ病院の右も左も分からない一介の市中病院から来た私がやっていけるだろうかと心配になったか?いや、全くならなかった。純粋に楽しかった。分からないことは全て質問したが、それが却って私の知識や力量を反映して好意的かつ敬意を持って受け止められた。