2011/07/12

慎重なアプローチ

 いま教わっている先生は、決して診断に飛び付かず、慎重で抜けのない評価をして可能性の高い診断について確からしさを吟味する。低ナトリウム血症の患者さんにorthostatic hypotensionもedemaもある場合、volume評価が難しくなる。しかし彼は一つ一つを吟味する。それによりorthostatic hypotensionはαblockerによるものとわかった(それは結果的に頸動脈圧受容体の伸展を抑えADH分泌を亢進するが)。edemaについても、薬剤(NSAIDs、glitazones、それにdihydropiridine Ca channel blockersなど)の可能性などをまず吟味する。
 低ナトリウム血症で尿ナトリウムが115mEq/lあったら、私なら「ADHの出過ぎでしょ、そしてそれはhypovolemiaによるものではないでしょう(だとすれば尿ナトリウムは低値のはずだから)」で終りだ。でも先生は、osmotic diuresis(尿糖やマニトール)や尿HCO3-の高値(尿細管内の陰性電荷が陽イオンのNaを引っ張る)の可能性をまず考え、次にnatural ADH antagonistであるPGE2を阻害するNSAIDsの可能性を考える。さらに、「ADHが出過ぎの割に尿浸透圧は370mOsm/kgとそれほど高くないのは何故だろう?」と考察を進める。
 そこから尿浸透圧を構成するのは主にNaとCl(約50%)、尿素(約50%)いう話になり、溶質が減れば腎臓は浸透圧gradientを保てないだろうということで、beer potomaniaの話になる。もちろんeuvolemic hyponatremiaの鑑別にも一つ一つ言及し、念のためにAM cortisolをオーダーしようとか、甲状腺機能低下症で低ナトリウム血症になるのは心拍出量低下に伴う頸動脈圧受容体を介したADH亢進によるとか、Thiazide、SSRI、carbamazepine(薬剤性低Na血症)、…議論は尽きない。きちんとした病態理解があるために、患者さんはコンサルト後からメキメキ検査値が向上し腎機能が向上する。