2019/05/20

MGRSをめぐる混乱の中から

 ある朝起きると、こんなメールが届いていた。

「MGRSについて書いてみたので、見てくれませんか?」

 名前の通り複数のブロガーが参加している本ブログであるが、ブロガーどうしが会うことは稀で、記載中に内容について話し合うこともあまりない。しかし、この分野について書くなら、おそらく筆者も相談しただろう。

 もしかしたら読者のなかにも、MGRS(monoclonal gammopathy of renal significance)という概念に苦手意識を持つ方がおられるかもしれない。筆者の分析では、その原因は少なくとも4つある。

 1つ目には、歴史が浅い。MGRSという概念がIKMG(international kidney and monoclonal gammopathy research group)によって提唱されたのは、2012年(Blood 2012 130 4292)。まだ10年も経っていない。

 2つ目は、腎病理と血液内科が中心になっている。MRGS関連腎症のなかには、腎病理で特殊な染色をしたり、電子顕微鏡を使わなければ診断がつきにくいものが多い。また、モノクローナルな免疫グロブリンをどこでどんな細胞のクローンが作っているか(そして、それらをどうやって治療するか)は、血液内科の領域だ。

 3つ目には、欧米が中心になっている。IgG4関連疾患が正式に命名されたのも2012年(Modern Rheumatology 2012 22 1)だが、こちらは日本が「本場」であり、詳しい方も周りに多いだろう。すでに難病指定され、日本語の診断手引きや治療規約も充実している。

 そして4つ目は、発音しにくい。MGUS(monoclonal gammopathy of undetermined significance)が「エムガス」と呼びやすいのに対し、MGRSはそのまま読むしかない(筆者は、MRGSとつづりを間違えることもしばしばだ!)。米国では2018年に破産したTOYS"Я"USのように、「エムガラス」と発音するのも一案ではあるが(下図は、TOYSRUSのロゴ・フォントを使って筆者が作成)。




 そんなMGRSの苦手意識を払拭するには、どうしたらいいか?

 やはり、一から学ぶに限る(写真は、筆者が研修医時代に指導医に言われた「馬に乗れるようになるには、馬に乗るのが一番」をイメージしたもの)。



 
 幸い、MGRS提唱者であるIKMGによる文献は診断(Nat Rev Nephrol 2019 15 45)・治療(Blood 2013 122 3583)ともにオープン・アクセスだ。そこで、これらを参照しながら、ブロガーどうしコラボして、MGRSについてまとめてみることにした。

 といっても、「僕たちの」まとめが全てだと言うつもりは毛頭ない。さらに知りたい方は、すでに出されている:

『多発性骨髄腫の腎病変とMGRS』
 2016年の日本内科学会誌の特集
(Nihon Naika Gakkai Zasshi 2017 5 947)

『パラプロテイン関連腎症:新しい疾患概念MGRSと関連疾患像をとらえる』
 2018年のHOSPITALIST誌
(HOSPITALIST 2018 腎疾患2 コラム11)

 などの極めて秀逸なレビューも、ぜひご参照いただきたい。


 では稿を改めて、まずMGRSという概念が生まれた歴史を解説する。そしてそのあと定義、分類、病理像、診断、治療なども概述する予定だ。乞うご期待!




2019/05/10

腎炎を簡単に振り返る〜Immunotactoid glomerulopathy〜

今回は、前回のFibrillary GNと鑑別されるImmunotactoid glomerulopathy (ITG) について触れたいなと思う。
まず、日本語ではイムノタクトイド糸球体症と訳される。

少しFibrillary GNとの違いを先に書きたいと思う。
似ている点:
・沈着する部位が両方ともメサンギウム領域と基底膜領域
・コンゴレッド染色で両方とも陰性

異なる点:
・Fibrillary GNでは10-30nmのFibris(細繊維)が沈着し、Immunotactoid glomerulopathyでは20-90nmのTubules(微小管)が沈着する。

では、簡単にImmunotactoid glomerulopathyについて説明する。
定義:IgGの微小管の糸球体沈着によって生じる疾患。微小管は典型的には直径30nm以上。Congo red染色陰性

疫学:
腎生検の0.1%未満に生じる稀な疾患
50〜60歳に多く、女性がわずかに起こりやすい。白人が多い。

臨床所見:
蛋白尿(100%):ネフローゼ症候群(70-75%程度)
血尿(70%)
腎不全(Crea≧1.5):50-55%
低補体血症(C3,C4)が40%に生じる
M蛋白の出現(63%)
血液悪性腫瘍が背景にある(38%):骨髄腫、CLL、リンパ腫など
HIVやHCVに合併する症例もある。

鑑別にあげる疾患(鑑別ポイント):
・Fibrillary GN:細繊維沈着(20nm)、蛍光染色でIgG4が染まることが多い
・Cryoglobulinemic GN:血清のクリオグロブリン陽性
・Fibronectin glomerulopathy:30nm未満の細繊維沈着、IgG陰性、免疫組織染色でfibronectin陽性
・TypeⅢ collagen glomerulopathy:電子顕微鏡でperiodic banded collagen fibrisを認め、免疫組織染色でtypeⅢ collagenを認める。
・Nail-Patella syndrome:爪の低形成と骨異常を伴う稀な疾患、糸球体基底膜に電子顕微鏡でperiodic, sparse collagen fibrisを認める。

治療:
基礎疾患に血液腫瘍などがあれば、それに対する化学療法

予後:
データが少ないが、半分が部分寛解し、17%が末期腎不全に至る。
化学療法に反応する場合もある。
腎移植後の再発は50%未満

光顕所見:
様々な所見を認める。
Membranoproliferative(56%)、Membranous(31%)、Endocapillary proliferation(13%)
好酸球浸潤によるメサンギウム領域の拡大、membranous patternではspike形成が見られることも。
Membranoproliferative pattern, mesangial matrix expansion
蛍光所見:
IgG優位の沈着(稀にIgAやIgMも):IgG1がもっともサブクラスでは多い
kappa, lambdaに関しては69-93%がどちらかの沈着の場合が多く、kappaの場合が多い
C3は陽性の場合が多く、C1qは陽性にならない場合が多い。
IgGがメサンギウム領域と基底膜領域に陽性の所見
電顕所見:
30nmより大きな微小管の沈着
内皮下に不規則に沈着。上皮下沈着なども見られることはある。
35nm程度の微小管の沈着所見を認める。

左がFibrillary GNでFibris沈着、右がImmunotactoid glomerulopathyでmicrotubulesの沈着を示している。

診断のチェックリスト:
・Monoclonal immunoglobulinの染色パターン
・Congo red 陰性で沈着物が30nmより大きいもの


腎生検でこの疾患の診断がされた場合には基礎疾患として、何かないかをしっかりと検査をすることは非常に重要である。
また、Fibrillary GNで陽性だったDNAJB9は陰性であるので注意である。

また、何処かのタイミンングでこれらの総まとめをしたものを解説できればなと思う。



2019/05/09

目の前に腎不全の患者!聞くことは・・

今回はNEJMにReviewが出ていたので書いてみる。


先に題名に対する答えからであるが、職業、生活、労働環境は?と聞く必要がある。
NEJMでは、農業群落で働く人に起こる腎不全というReviewが乗っている(NEJM 2019)。

NEJM 2019より引用

この中に数個の疾患が載っているが、私はあまり馴染みがなかった(Mesoamerican nephropathy, Sri Lankan nephropathy, Uddanam nephropathyなど)。本邦で見る割合は少ないかもしれないが、温暖化が進み、多種多様の海外旅行者が来る現在なので、本邦でも見る機会はあると思う。ただ、この疾患の概念を知らないとわからないことなのかなと思い、今回書いてみた。今回は、この中で一番popuarなMesoamerican nephropathyについて触れてみる。

この疾患は農業従事者に見られる疾患であり、原因不明の慢性腎障害と言われている。発症地域は中米が多いが、他の地域でも報告されている。

最初に認知されたのは、中米のエルサルバドルで、若年のサトウキビを取っている人たちに原因不明で透析を開始しなくてはならないCKD患者が多くいた(205人中135人の原因が不明)。
色々な調査でエルサルバドルとニカラグアで、高度が低く沿岸部に住む人にCKD発生が多いことがわかった。また、農業もサトウキビだけでなく、様々な農業の人に起こりうることもわかった。

リスクファクター:
・高温の環境下で農業や身体を酷使した仕事をしている人
・殺虫剤の暴露がある
・NSAIDsの過剰使用がある
・60歳以上、男性
・痩せている
・砂糖を含んだ飲み物を飲水している。
・貧困、低所得者
が挙げられる。

原因:
明らかな原因に関しては不明である。
もっとも可能性のあるものとしては何回も脱水からAKIを生じることと、感染、薬物、毒素などの暴露による尿細管間質性腎炎を生じることが原因ではないかと考えられている。

AJKD 2014より引用

病理所見:
早期のMesoamerican nephropathyでは尿細管間質腎炎の所見を認める。
CKD患者の腎生検では、尿細管の萎縮と繊維化、腎臓の硬化所見を認める。
Kidney Intより引用
左は慢性(尿細管の萎縮)と急性(間質へのリンパ球浸潤)の病態が入り混じっている
右はすでに慢性の状態であり、繊維化が生じている。
診断:
GFRが低下している人で、蛋白尿や血尿がない患者でCKDの原因が不明な人にはこの疾患を考慮する必要がある。この場合には、蛋白尿や血尿がなくてもこの疾患を想起して腎生検を行うことを考慮する必要がある。

この疾患には特異的な治療方法は現段階ではない。
そのため、予防を行うことが重要である。先にも述べたように高温下で重労働の人々に多いため、環境暴露を避けることも重要である。また、電解質を含んだ水分摂取も重要である。以前は仕事中に5~6Lしか高温環境下で飲んでいなかったが、現在では10L以上飲むようにしているようだ。

なので、もし腎炎所見もないのにCKDの患者を見たら、何のお仕事ですか?海岸沿いですか?高温環境で暮らしてますか?などの質問をして絞り込むのはいいかもしれない。

下記は中米のサトウキビ畑で働いている人。かなり高温環境下であることが推測される。






2019/05/08

薬を変えてください、さもなければ・・

 「この薬をやめて(あるいは、変えて)もらえませんか?」――腎臓内科医なら、だれもが口にしたことのあるセリフだろう。フィブラート系、NSAIDsPPI・・・状況によって、議論になるときもならないときもある。

 しかし、だいたい議論にならないのが、リチウムだ。リチウム以外の気分安定薬に変更してくださいとは、腎臓内科医からも気軽にはいえないし、精神科的にも変更は困難なことが多いからだ。

 だから、中毒などであれば輸液したり透析したりするが(こちらや、こちらも参照)、尿崩症などであれば、「水を飲んでください」というシュールな治療しか提案できないこともある。




 そんな中、「腎性尿崩症に新しい治療か?」という論文がJASNにでた(JASN 2019 30 795)。なんと、抗真菌薬のフルコナゾールに、水チャネルAQP2を集合管内腔により多く分布させる働きがあるらしいことが示されたのだ。

 AQP2は細胞内小胞と細胞膜の間を行き来して、バソプレシン→バソプレシン受容体(V2R)の支配を受けている。ところが、フルコナゾールはその支配と別に、AQP2そのものをリン酸化したり、細胞内骨格のアクチンを分解して小胞を細胞膜に近づけたりしている可能性がある(図は前掲論文より)。




 問題は、マウスに投与された80mg/kg(腹腔内への注射)という量である。というのも、フルコナゾールはすでに臨床で用いられている薬だが、低ナトリウム血症の報告はあまり知られていない。よほど大量に投与しなければ効果は薄いかもしれない。

(なお、フルコナゾールだけでなくケトコナゾールやイトラコナゾールなど「アゾール」系の抗真菌薬が、アルドステロン産生を抑制し高カリウム血症を起こすことは知られている;BMJ 2009 339 b4114)

 しかし、腎性尿崩症に有効な治療があまりないこと、フルコナゾールが「新薬」ではなく臨床成績が確立していることを考えると、おそらくドラッグ・リポジショニング(英語ではdrug repurposingとも、こちらも参照)で治験が組まれるだろう。

 また、フルコナゾールそのものでは効果が薄くても、AQP2を尿細管内腔に表出させる独自の機序がみつかったことで、フルコナゾールを改良した薬ができるかもしれない。読者のなかには、サイアザイドもループ利尿薬もそのはじまりが抗菌薬のサルファ剤だったことを思い出す方もおられるだろう(Arch Int Med 2009 169 1851も参照)。

 さらにいえば、ADPKDに対してトルバプタンなどでV2Rを抑える治療をしながら、その下流の細胞内でAQP2の内腔側への表出を保てれば、トルバプタンの副作用である多尿を押さえる道だって、開けるかもしれない(薬効を維持できるかは、検証されなければならないが)。


 筆者はながらく"less is more"、つまり薬を使わず(減らして)患者を治すのが最上という考えを信奉してきた。しかし、どうしても切れない薬というのはある。たとえば「リチウムによる腎性尿崩症ですね、ならばこの薬を足しましょう」というように、薬の副作用を薬で治す方法を考えることも大切だと痛感した次第である。




2019/05/03

腎炎を簡単に振り返る。〜Fibrillary GN〜

おそらく読者のニーズとしては少ないと思うが、色々な腎炎を病理を中心に簡単に振り返ってみたい。
今回最初に触れるのはFibrillary Glomerulonephritis(GN)である。日本語では細線維性糸球体腎炎と訳される。

この腎疾患は腎生検の約0.6%程度と言われ、50歳前後に起こる。
蛋白尿(100%、ネフローゼレベルは38%)、血尿(~50%)、腎不全(60~70%)、高血圧(70%)を認める。また、何も治療しない場合に2~4年で末期腎不全に至ってしまう。補体は下がらないことが多い。この疾患の患者が移植をして、再発する割合は小さな研究ではあるが36%程度と言われている。

そもそも、この疾患は
Congo-red染色陰性のアミロイド様物質に沈着を糸球体に認める疾患である。
確定診断には電顕が必要(ここは後で述べます)で、immunotactoid glomerulopathyは30~50nm幅の微小管状構造物が、Fibrillary GNでは16~24nmの同様の構造物が糸球体基底膜やメサンギウム領域に沈着する(蛍光抗体法でPeripheral(GBM) and mesangial patternをとり、IgG (C3c)が沈着する)。

CJASN 2006




原因:
当初は特発性と考えられていたが、2011年のレポートで3分の1が、悪性腫瘍、単クローン性ガンマグロブリン血症や自己免疫疾患を基礎疾患に有していたということが報告されている。

鑑別診断:
アミロイドーシス、Immunotactoid腎症、クリオグロブリン腎炎、Fibronectin腎症

予後:
半月体形成(半月体は基本的に基底膜破壊の修復過程)や尿細管間質繊維化などを併発した場合には腎予後は非常に悪い。また、特別な治療がないのが現状である(ACE-I/ARBなどが蛋白尿低下を目的として使用される)。

光顕所見:
糸球体基底膜肥厚を伴い(時に二重化)、メサンギウム基質の拡張を認める。半月体形成は17~31%程度に認められ、MPGNパターンなど様々な所見を認める。

矢印のところがメサンギウム基質の増加(up to dateより引用)

基底膜の二重化所見を認める(AJKDより引用)

蛍光染色:
IgG(IgG4単独となる場合が多い), C3, カッパとラムダの軽鎖沈着所見を認める。
AJKDより引用

電顕所見:
電顕では、先に示した基底膜、メサンギウム領域に沈着しているのを確認する。
大きさが、直径で
10nm:アミロイドーシス
16~24nm:Fibrillary GN
30~50nm:Immunotactoid glomerulopathy
となる。
矢印は基底膜への沈着 (Up to Dateより)


また、Congo red陰性がアミロイドーシスとの鑑別になるとされてはいるが、2018年のレポートでCongo red陽性のFibrillary GNもcase seriesで示されておりCongo red単独で言うのは難しいと言うことは知ってもらいたい。

では、何を指標にすればいいのか?
DNAJB9 (DnanJ heat shock family member B9)というタンパクが注目されている。
これは、健常者やアミロイドの患者や他の糸球体疾患患者には発現していないが、Fibrillary GNの患者では糸球体に豊富に認められる(2017年レポート)。また、このDNAJB9は自己抗原、または自己免疫応答の標的になっている可能性がある。
2019年のレポートでも血清のDNAJB9が診断に有効であると報告がある(感度67%、特異度98%)。
このことから、今後蛍光抗体染色でDNAJB9が同定できれば、診断までに時間がかかってしまう電子顕微鏡を待つ必要はなく早期の診断が可能となり、またこれをターゲットとする治療がFibrillary GNを改善する治療になる可能性がある。
稀な疾患だが、非常に末期腎不全への移行の割合が高い疾患であり治療の発達などにも注目したい。

初めからRareな疾患で非常に申し訳ない。

あまり面白くない分野かもしれないが、参考になれば幸いである。


2019/05/02

ARBの教訓

 昨年このブログに、ACE阻害薬と肺がんの関連について投稿されたのを覚えておられる読者もおられるかもしれないが、今度はARBと発がんについての論文がニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシンに投稿された(NEJM 2019 380 1589)。

 日本では第一選択のARBだが、他国では「一世代前のACE阻害薬とちがってプラセボと比較した大規模試験が少ない」、「ACE阻害薬と同等の効果なら、高価なARBは第二選択にすべき」などの批判もある。

 しかし、咳や血管浮腫の副作用がみられないなど、少なくとも安全性はACE阻害薬よりも高いと一般に考えられ、日本以外の国々でもその使用は着実に増えている。

 そんなARB製剤が、米国で2018年7月から2019年3月までの間に20種類も次々とリコールされたのだ!リコールの理由はARB自体ではなく、原薬生産過程で混入したNDMA(N-ニトロソジメチルアミン)、NDEA(N-ニトロソ-N-ジエチルアミン)、NMBA(N-ニトロソ-N-メチル-4-アミノ酪酸)だった。

 ここまでくるともはや一騒動であり、論文のタイトルも、"Hypertension Hot Potato"(「熱くてやけどするので誰も触りたくない問題」という意味、写真)。社会への影響をよく言い表している。






 「ARBを飲み続けていいのか」「必要な患者はどうすればいいのか」「どの会社のが問題なのか」「発がんリスクはどれくらいなのか、閾値は妥当なのか」「ARB以外の薬にも混じっているのではないか」・・・といった不安。さらに、FDAが原薬を生産する中国の浙江華海薬業を名指ししたことで、時節柄、外交問題の様相もみせはじめている。

 しかし論文は「FDAと医療界はこれをよいストレス・テストにしよう」と締めくくる。

 たしかに、薬の生産過程・供給過程の多様化は時代の流れだ(日本でも「海外工場が閉鎖したのでこの薬は採用がなくなります」といった話がふえた)。今後ますますチェック機構の充実が望まれるし、医療者も「自分の処方する薬に含まれるのは、薬だけではない」という認識があらためて必要だと感じた。

(写真は、「手にした薬ではなく、薬を渡す手が患者を癒す」という作者不明の引用句をイメージしたもの。最新刊『医のアート ヒーラーへのアドバイス』第2章も参照)





2019/05/01

腎生検はいつすべきなのか?

今回、新たに腎生検に挑戦する若手の腎臓内科医も多くいると思う。

ただ、このどのタイミングですべきなのか?に関しては、私のような新人ではなくなった医師でも本当に迷う。今、腎生検をしないで先延ばしにして腎生検ができなくなったらどうしよう?この患者さんに腎生検をして、結果は正常だが合併症を起こしたらどうしよう?など考えてしまう。
もちろん、腎生検の適応に関してはある一定の基準は決まってはいるが、日本では所属している病院の腎生検をするタイミングの方針に従うというのが多いのではないか?

今回、少しこの点を確認しながら知識の整理ができればと思う。

こんな患者が来た場合にどうしよう?
55歳男性で10年前から2型糖尿病に罹患。糖尿病性眼症、神経症に関しては認めていない。高血圧に罹患しておりACE-I、β遮断薬を内服しコントロール良好。
身体所見は下腿浮腫軽度認める以外は問題なし。
採血・尿検査はAlb 2.5 g/dL(3年前は正常範囲)、Cr 1,1mg.dL(3年間変化なし)、尿蛋白は定量で4.8g/gCr (1年前は0.2)、尿沈渣で赤血球 5-10/視野赤血球円柱を認めた。

この患者にどんな対応をするか?
1:数ヶ月後に尿蛋白再測定
2:ACE-Iの増量
3:ステロイドの治療開始
4:腎生検を行う

腎生検を選択する際には採取した組織が腎臓疾患の診断、治療、予後に影響を与えるのか?この患者に危険性があるのか?を考える必要がある。

まず、腎生検の適応になるには疾患を診断し、治療の適応があるかが重要となる。
血尿、蛋白尿、急性腎障害、慢性腎障害の時に考える。

少し、細かくみていこう。

血尿:
 腎機能障害、蛋白尿がなく血尿単独の場合→多くの場合腎生検の必要はない。
 ただ、蛋白尿や腎機能障害が併発してくるようであれば腎生検は必要である。

単独血尿の場合に想起する疾患:Alport症候群、菲薄基底膜病やIgA腎症などである。 
 
 下図はIgA腎症の蛋白尿量の予後を示したものであるが尿蛋白の増加とともに予後は悪化するため、早期の診断治療の考慮は重要となる。

蛋白尿:
 新規の蛋白尿や蛋白尿+血尿→腎生検の適応となる
 少量の蛋白尿(<0.5-1.0g/day)単独(血尿、腎機能障害ない)→腎生検の適応は乏しい
 糖尿病患者で新規のネフローゼ相当の蛋白尿出現(以前は蛋白尿がない)→腎生検の適応
 となる(他の疾患の併発を考える必要があるため。)
 
ネフローゼレベルの蛋白尿があった場合に想起する疾患:微小変化群(MCD)、巣状糸球体硬化症(FSGS)、膜性腎症(MN)などがある。

急性腎障害:
 急性腎障害の中でも腎血流が落ちて腎機能障害が生じている場合(ATN:急性尿細管壊死な
 ど)や閉塞に伴う腎障害の場合→腎生検の必要性は低い。まずは原疾患の治療を行い改善
 が乏しく原因がわからない場合には考慮する。
 薬剤などで急性間質性腎炎の可能性がある場合→腎生検は必要な場合がある(診断に自信
 が持てない場合やステロイドなどの免疫抑制剤治療開始前の診断のため)。

下表はAKIやネフローゼ症候群で診断して治療を行う場合の例である。

Clin Med 2003


慢性腎機能障害:
 急な腎機能障害の悪化、新規の血尿や大量の蛋白尿が出現した場合
 ここに関しては非常に悩ましい。これも、腎生検を行うことで治療の適応がどうか、
 予後が変わるのかを考えながら行う必要がある。


SLEでは腎生検を以前に行なっていることで腎疾患の活動性などを推測でき、また治療プランを再検討することができる。そのため、腎生検をすることの意味合いという点で他のものとは異なってくることに注意する必要がある。


では、症例を考えてみると糖尿病患者で他の糖尿病合併症がなく、急激な蛋白尿、血尿の出現を認めている。この場合に自然な糖尿病性腎症の経過とは違うため、何らかの腎疾患の併発を考えて腎生検することが勧められる。
なので、答えは4となる。

腎生検は日本では腎臓内科が行うが、米国では放射線科医が行なっている場合が多い。なので、我々はこの手技を大切にし、また腎臓内科医が行う数少ない侵襲的な処置であるため、しっかりとした判断をするべきである。


2019/04/30

尿から色々考えてみよう⑤ 尿AGとアンモニアの小話

今回は小話なので短く書こうと思う。

まず、結論から書くと尿中AGはCKD患者では尿中アンモニア測定のいい代替方法にはなりづらい。
CKDにおいて尿中アンモニウムは非常に重要である。尿中アンモニア低下は腎臓、生命の予後悪化の関連性が示されている(JASN 2017)。

JASN 2017より

では、どのようにして尿中アンモニアをCKDの患者では測定すればいいのであろうか?
そもそもCKD患者で、尿AGがうまく尿中アンモニア濃度の推定に寄与しない理由としては、計算式にリンや硫酸などを含んでいないためとされ、下記のようなUAGPLUSという式が提言された。

CJASN 2018


この式を用いた場合には、尿AGと尿アンモニア濃度に一定の相関性が認められたと報告
されている(下図)。

CJASN 2018

なので、もしCKD患者で尿中NH4を測定したい場合に、UAGPLUSを用いるのがいいかもしれない。もちろん直接測定できるのが一番だが。。

あまり、注目度としては薄いアンモニアではあるが、今後は色々な場面で注目を浴びて行く可能性は高いのではないか。







2019/04/29

D-52, D-25

 日本内科学会も無事に終了し、今度は第62回日本腎臓学会の開催を指折り数えておられる読者も多いかもしれない。ちなみに、あと52日である。




 今年のテーマは「腎臓学・元年」と改元を意識したものであるが、他国からだとピンと来ないかもしれないので、英語では"Open the Future"。名古屋駅周辺のまさに近未来的な街並みが映し出されたウェブサイトのトップページ(写真)には「あと何日」の表示がないが、海外からの参加者達も、「あと52日寝ると・・」と指折り数えて楽しみにしているに違いない。




 あるいは、「もう25日寝て、そのあと27日寝ると・・」と二段階で考えているかもしれない。25日後には、第39回韓国腎臓学会もソウルで開催されるからだ。




 筆者は数日前まで知らなかったが、韓国腎臓学会(KSN)は1980年に設立された比較的新しい学会だ。そのミッションのひとつに「南北統一への医療の備え」が挙げられているなど、韓国ならではの特色もある。しかし、おなじ専門分野のプロ集団であるから、親近感のある面も多い。

 たとえば、日本の「慢性透析患者の現況」や米国のUSRDSに相当する「わが国の腎代替療法の現況報告(우리나라 신대체 요법의 현황 보고)」があったり、米国の専門医試験対策(Board Review Course and Update)にあたるNephrology Board Review Courseがあったりする。

 さらに調べると、腎臓医療を取り巻く状況も似ていることがわかる。たとえば「腎代替療法の現況報告」から抜粋したこのグラフをみてほしい。



 
 英語版のスライドだが、日本の状況に酷似しているので、赤線が血液透析患者なことはたとえ韓国語で書かれていてもわかるだろう。韓国では2017年に血液透析患者が73059人(人口100万人あたり1411人、以下同じ)、腹膜透析患者が6475人(125人)、腎移植患者が19212人(371人)である。

 このグラフだけでも、学べることが沢山ある。たとえば、人口が日本の約半分しかない韓国で腎移植患者が年間19212人というのは、日本の1648人(2016年)よりも一桁多い。

 韓国と言えばペア移植を世界で最初に開始したことで知られている(Transplant Proc 1999 31 344)。一方日本はABO不適合の生体腎移植の先駆者である。両国の移植件数の差は、ドナー不足に対する異なるアプローチによるものなのか?それとも、政策などその他の要素による違いなのか?

 また、これだけ移植件数に差があっても血液透析患者数の増加率が圧倒的に高いのは、現時点では移植候補と考えられないことの多い高齢者(スペインなど、見直している国もある)が増えているからだろうか?それとも、これもまた医療報酬などその他の要因があるのだろうか?

 このように、他国をみることは鏡のように自国をみることにもなる。日本からKSNに参加する方は少ないかもしれないので、せっかくの機会に得たことを、少しずつここで報告してゆく予定である。




尿から色々と考えてみよう ④

尿電解質を少し複合的に考えてみよう。
尿電解質はアンモニアの排出が腎臓からどのくらい出ているかを判断する情報を与えてくれる。

アンモニア?急にこのワードが出てくると身構えてしまうのは自分だけであろうか?
まず、簡単になぜアンモニアが話に出てくるのかを説明する。

まず、体は常に酸負荷の環境にさらされている。食事から酸も発生する。
その環境下で、酸を排出して酸が溜まらないようにするかは非常に重要になってくる。

排泄する方法には様々な方法があるが、肺からCO2として排泄される揮発性酸と腎臓から排泄される不揮発性酸がある(緩衝系ももちろん忘れてはいけない)。

その中で、腎臓から不揮発性酸として排泄する方法として、
①HCO3-にH+がくっついて中和する方法
②H2PO42-にH+がくっつき、尿から排泄する方法
③NH3にH+がくっつきNH4+として尿から出す方法がある。



http://fblt.cz/en/skripta/vii-vylucovaci-soustava-a-acidobazicka-rovnovaha/7-acidobazicka-rovnovaha/より引用


http://fblt.cz/en/skripta/vii-vylucovaci-soustava-a-acidobazicka-rovnovaha/7-acidobazicka-rovnovaha/より引用


http://fblt.cz/en/skripta/vii-vylucovaci-soustava-a-acidobazicka-rovnovaha/7-acidobazicka-rovnovaha/より引用



あくまでも、すべての方法は尿からH+を出すための方法である。

この中で、①、②の方法は限りがあるため、③の方法が腎臓から酸を排泄するという方法で非常に重要かつ有用となる。

ちなみに、アンモニウムイオンは近位尿細管で生成され、尿細管に分泌される。その後ヘンレ上行脚で再吸収され、細胞内でアンモニアを生成し、腎髄質の間質で高濃度に蓄積され、集合管のα介在細胞のチャネルから分泌されH+と結合しアンモニウムイオンとして排泄される。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3041479/#!po=56.2500 より


話がかなり脱線してしまったが、尿アンモニアイオンの排泄が尿からどれだけ酸を排泄しているかの指標になっていることはわかっていただけたかもしれない。


そこで、非アニオンギャップ開大性代謝性アシドーシスの原因が腎臓か腎臓でない場所が原因かを判断する材料として酸の排泄部位の理解が重要となる。

腎臓が原因の場合は、腎臓からうまく酸の排泄ができない=尿中アンモニウムイオン排泄は低下し、腎臓以外が原因の場合は尿中アンモニウムイオンは増加する。


尿中アンモニウムイオンの測定をすれば原因は判明する!しかし、測定できない施設が多い。その場合は間接的な方法で測定する。その方法が尿AG(Anion Gap)である。


UAG=Usodium + Upottasium - Uchloride


UAGは正常では30-50mmol/Lである。これは、測定されないような尿中陰イオンがあるためである(尿中の主な陽イオンはNa+、K+、NH4+、主な陰イオンはCl-、HCO3-、リン酸、硫酸である)。


代謝性アシドーシスの際に、尿中アンモニウムイオンが増加するとNH4Cl(アンモニウムクロライド)として出てくるため、尿AGは陰性になる(下図A)。

尿AGが陽性であれば腎臓からのアンモニウム排泄ができていない=腎臓がアシドーシスの原因と考えられる。







では、直接尿中アンモニアなんて測定せずに、UAGを使えばいいのでは?と思うかもしれないが、このUAGの弱点を知っておく必要がある。

弱点としては、

一つは遠位尿細管に達するNaが極端に少ない場合にH+排泄が障害されるためUAGは当てにならない。目安として尿Na>20mEq/lが必要である。

もう一つは、測定できないような陰イオンがあった場合にUAGの数値が異なる値になってしまうことである。

測定できないイオン:例えばDKAやAKAの時に出るナトリウムケト酸塩、ナトリウム馬尿酸、トルエン中毒などで出る安息香酸ナトリウムなどでは尿中アンモニアが適切に排泄され、本当はUAGが陰性になるはずなのを陽性にしてしまう。これは、測定できない陰イオンがNH4+にくっついて、NH4Clとして排泄されないため、UAGを陽性にしてしまうためである。D乳酸アシドーシスでも同様なことが生じる(上図B参照)。


このような時に有用になるのが尿浸透圧ギャップである。




尿浸透圧ギャップ=測定された尿浸透圧-計算で求められた尿浸透圧

となる。





上の図が非常にわかりやすい。尿浸透圧ギャップは正常値は10-100mOsm/kgである。

ちなみに尿中アンモニアは尿浸透圧ギャップ÷2で求めることができる。

尿浸透圧が陽性になっている理由はNH4Clが一般的には尿中浸透圧を構成しているものであるためである。

代謝性アシドーシスの際に

尿浸透圧ギャップが150mOsm/kg未満であれば、尿中アンモニア排泄障害を考え、RTAなどの疾患を想起する(アシドーシスなのにしっかり腎臓から排泄できていない。)。


尿浸透圧ギャップが400mOsm/kgより多い場合には、尿中アンモニアが過剰に排泄されている病態を考え、慢性下痢による高クロール性代謝性アシドーシスやトルエン中毒などを考慮する必要がある。



precious boy fluid より引用


尿浸透圧ギャップが使用の限界としては細菌などによ尿路感染などでは尿浸透圧と尿アンモニア排泄との相関性が失われる、尿の濃度が濃い場合には尿浸透圧ギャップは尿アンモニア排泄を過小評価する、アルコール(メタノールやエチレングリコール)、マンニトールなどの使用は尿中アンモニア排泄が高くない場合でも尿中浸透圧ギャップを増加させることなどがある。アルコール中毒の際には血中と尿中浸透圧ギャップが非常に診断の役に立つことは重要である。


ちょっと長くなってしまって申し訳ない。少しでも理解の助けになれば嬉しいなと思う。











2019/04/26

尿から色々と考えてみよう③

続いて尿中カリウム(K)について考えてみる。

尿中Kに関しては、K異常の際に使う場面が多い。
使用する理由はK異常の原因として、Kが尿から喪失しているor喪失していないか、喪失していない場合に、他の部分(下痢など)から起こっているかを知る手助けになるためである。

まず、正常な場合で尿中K排泄は食事からのK摂取量に応じ、10-15mEq/day〜400mEq/dayと幅が広い。

一般的に低K血症時に、スポット尿中Kが5-15mEq/L以下であれば、腎臓以外の部分からのK喪失を考え、尿中Kが40mEq/Lより多い場合には腎臓からのK喪失を考える必要がある。
ただ、この数値はあくまでも目安であることを忘れてはならない。現在の内服薬や治療などによって数字が大きく変わることも認識しておく必要がある。

ただし、このスポット尿での判断の時に注意しなくてはならないこともある。
それは、尿の濃縮による数値の変化である。

例えば、循環血液量が減少している低K血症患者で尿中K排泄が40mEq/Lより多い場合に、安易に腎性の喪失!と考えるのは危険かもしれない。
もしその患者の循環血液量が減少している場合は、尿が最大濃縮しているので、尿中Kは数値上高値に見えるが、濃度として濃くなっているだけで、正常な反応なのかもしれないということを忘れてはいけない。

同様に尿中Kが15mEQ/L未満であった場合に、安易に腎外性の原因を考えるのも危険かもしれない。
例えば、患者さんがトルバプタンなどを使用していればどうか?
尿中の濃度が薄くなり、実際はKは排泄されているのに尿中Kの数値上は出ていないというように見えてしまう可能性がある。

なので、このことからも循環血液量の把握、薬物の把握などは知っておくことは非常に重要である。

低K血症で、腎外性の喪失の場合は治療に奏功しやすく(原因が解消していれば)、腎性の場合は治療が困難なケースが多い。
尿中電解質が測れない施設では、このような臨床での治療反応性ということも原因推測の判断材料として重要である。

測定に関して:
24時間蓄尿がスポット尿における不正確さを解決する一番の手段ではある。TTKG(trnstubular pottasium gradient)も同様にこの随時尿の不正確さを改善する手段として用いられた。

TTKG=Uk × P osm / Pk × U osm 
 (Uk:尿中K、P osm:血漿浸透圧、Pk:尿中K、U osm:尿中浸透圧)

TTKGは皮質集合管部分のK濃度と血清K濃度の比較である。
つまり、血清Kに比べ尿中Kはどのくらい多く or 少なく出ているの?という比較である。

高K血症があれば尿にKを出そうとして多くなるから、TTKGは高値になり、低K血症では逆に尿中に出さないようにしてTTKGは低値になる。

基準値は5以上とされていて、 高K血症では、TTKG>7になり、低K血症では、TTKG<3となる。
このTTKGはアルドステロンとの相関性が言われていて、高K血症の時にTTKG<6であれば皮質集合管での不適切な反応が起こっている(適切なアルドステロン出てないなど)を考える必要がある。

ただ、このTTKGを用いる時に2つの注意点が必要である。
少なくとも尿中Na25mEq/L以上ある必要がある。
尿の浸透圧が血清浸透圧と同等またはそれ以上の場合
上記の場合にのみTTKGは使用できることは認識しておく。

ただ、内髄質集合管の部分で尿素の吸収が生じていることがわかり、このTTKGの使用には使用に疑問が投げかけられ、作成者本人からも使用しないほうがいいよと2011年に発表された。

TTKGに代わるものとして:
そこで、尿K / Cre が有用性があるのではと言われ使用されている。
低K血症で、尿K / Cre の比が 13mEq/g ( 2.5mEq/mmol)未満であれば、尿からKが漏れていない病態(腸管喪失、食事摂取不足、細胞内K移動)などを考える。
下記はよく用いられるアルゴリズムである。




























また、今回は詳しくは触れないが前回のClのところでも触れた内容で尿中K濃度と酸塩基
平衡異常には密接な関係があり、それによって疾患を絞れることは覚えておいてもいいかもしれない。


2019/04/23

尿から色々と考えてみよう ②

次は尿のクロールについて考えてみよう。
クロールに関しては、血中クロールの記事を以前に書いている。

しかし、尿のクロールに関しては注目しているだろうか??
多くの読者は首を横に振ると思う。この文章から少しでも注目してもらえれば嬉しい。

UCLやFECLなどはNaと同様に有効循環血液量の推測の間接的なマーカーとして用いられる。
UNaとUCLを共に用いることは、特に酸塩基平衡異常を伴う場合には有効循環血液量の推測に有用とされている(AJM 2017)。

一番多く知られているのが、尿中Clは代謝性アルカローシスの際にCl含有の輸液に対して反応性かどうかを判断する材料となり、それによって原因の推測ができるツールである。
−尿中Cl<15〜20mEq/Lであれば輸液反応性で、嘔吐、胃液吸引などを考える。上記記載の抗生物質使用も頭の片隅には置いていただきたい。
−尿中Cl>15〜20mEq/Lであれば輸液反応不良で、Bartter症候群やGitelman症候群やミネラルコルチコイドが上がる病態、甘草などの使用を考える。



今度は、基本的には尿中Naと尿中Clは同じ動きをするが、例外を見ていこう。

・例えば、尿中Naが多く尿中Cl低下があり、循環血液量減少がある場合にはどう考えるだろうか?
→尿細管で再吸収できない陰イオンが存在することを考える。

この陰イオンが何かであるが、尿中pHを確認する。
 →尿中pHが7や8であれば再吸収されていない陰イオンは重炭酸イオンと推測され、大量嘔吐や胃管チューブからの胃液の大量排液で、まず水素イオン喪失が生じる。また、NaHCO3が大量に濾過し近位尿細管での再吸収能を超え、遠位尿細管に到達する。
遠位尿細管で、胃液喪失で循環血漿量が低下していることでアルドステロンが働き、Na再吸収が生じ、K尿中排泄が生じる。そのため、低K血症を生じる。尿中ClはNaと同様に動き再吸収されるため尿中Clは低下する(下表C)。尿中Naは再吸収できないNaHCO3の形で排泄され増加する。このようなケースでは、尿中Na/Cl>1.6となる。

 →尿中pH<6であれば、他の再吸収できない陰イオンの存在を考える。ketoanion、チカシリンクラブラン酸、ピペラシリンタゾバクタム、カルベニシリン二ナトリウムなどの抗生物質などを考える。循環血液量が減少している場合に、これらの薬物を投与すると再吸収できない陰イオンとして働き、Naとくっついて遠位尿細管に到達する。循環血液量が低下しており、アルドステロンが働き、Kの尿中排泄が増加する。そして、間在細胞で水素イオンの排泄が生じ尿中pHは低下する。この場合も低K血症を生じる(下表D)。


CJASN 2019


では、尿中Clが高くて尿中Naが低い逆の場合はどうか?
→これは、下痢の場面で見かける場合が多い。下痢によって、重炭酸イオンやカリウムが排泄され循環血液量減少、代謝性アシドーシス、低カリウム血症になる。アシデミアになるため尿は陽イオンを排出しようとして、アンモニウムイオンを排泄する。それと同時に尿中Clも排泄され、尿中Clは高くなるという現象が生じる。尿中Naは循環血液量維持のためになるべく再吸収され少なくなる。この場合は、尿中Na/Cl<0.76となっていることが多い。

少し、細かな話で難しくなってしまったかもであるが少しでも理解の助けになれば嬉しい。





2019/04/22

Veverimer(ヴェヴェリマー)

 「薬のない製薬企業」というと、「薬ではなく幸せや健康、安心といった価値ををつくり提供する企業」、という意味の比喩表現かと思うかもしれない。しかし、ウォール・ストリート・ジャーナル(2018年10月31日付)にそう報じられたTricida社は、文字通り認可された薬が一個もないが、Venture RoundsとIPOで数100万ドルの資金を集めた。

 これは市場(とFDA)が治験中の「ある薬」に期待しているからである。筆者は腎臓内科医なので、読者のご賢察どおりそれは腎臓内科領域の薬で、名前をVeverimerという。先月に第3相がLancetに発表された(Lancet 2019 393 1417)ので、ご存知の方も多いだろう。第2相がCJASN(CJASN 2018 13 26)だったことを考えると、(市場をふくめた)インパクトの大きさがうかがえる。

 まず薬の説明をすると、VeverimerとはH+とCl-をどちらも吸着する、いわば「新世代」の樹脂である。吸着は二段階で、まずアミノ基にH+を吸着し、それにひきつけられる陰イオンのうち(小さくて腸管に豊富な)Cl-がより選択的に吸着されるように分子構造を工夫している。

 こんな薬はよほどの高分子化学のノウハウを持った人でないと作れないだろうが、実際Tricida社のCEOであるGerritt Klaernerは、Max Planck Institute for Polymer Researchを卒業している。そして何を隠そう、昨年の米国腎臓学会で祭りを起こした(こちらも参照)カリウム吸着樹脂PatiromerのRelypsa社の創立者でもある。Tricida社も、その流れで最初はTrilypsa社と呼ばれていた。

 そして治験についてPICOフォーマットで説明すると、P(患者)の治験対象はブルガリア、クロアチア、ジョージア、ハンガリー、セルビア、スロベニア、ウクライナと米国(米国は全体の約10%)の保存期CKD患者200人余りで、介入群の各データ(中央値など)は以下の通り。

年齢 62歳
白人 98%
男性 60%
糖尿病 61%
高血圧 97%
ACEI/ARB内服 67%
利尿薬(ループないしサイアザイド) 60% 
eGFR 29ml/min/1.73m2
HCO3- 17.3mmol/l
アルブミン尿 241mg/gCr(24.8mg/mmolCr) 

 なお、国をこのような選択にした理由は明記されていない。EU内で治験基準が統一されているとすれば、治験参加費の問題だろうか(資金は当然、Tricida社がだしている)。あるいは、このコホートでは重曹使用者が8-10%と少数だったので、重曹使用率の高い国を避けたのかもしれない。

 I(介入)はveverimerを6g/d、12週間。C(対照)はプラセボで、HCO3-濃度が18未満/以上の比率が同じになるようランダム化され、クロスオーバーはしていない。O(アウトカム)はHCO3-濃度が①4mmol/l以上上昇、または②22-29mmol/lを達成した患者割合だった。ほかに、アシドーシスによる骨や筋肉への害をみるため、身体機能なども比較している。

 なお測定はAbbott社のiSTAT®で採血後ただちに行われ、患者は採血前4時間は絶食にされた。絶食の理由は、アルカライン・タイド(alkaline tide)と呼ばれる食後の胃酸分泌の「反作用」で血中にHCO3-が放出される現象による影響を除外するためだ。

 結果、上記アウトカム達成者の割合は介入群で59%、プラセボ群で22%にくらべ有意に高かった。椅子から立ち上がるなどの身体機能検査でも有意差が見られた。なお副作用では消化器症状が多く、とくに下痢は介入群で9%、プラセボ群で3%だった。

 効果のある薬が増えたのは喜ばしいことだ。今後、重曹との差や、よりハードなエンドポイント(腎予後、生命予後)での効果が検証されたときに、「価格に見合った価値があるか?」という話になるのだろう。欧米で認可されれば、Patiromerのように日本でも治験されるかもしれない(ただし、パチロマーのように透析患者で用いられることはまず考えにくいが)。

 ポリマー技術が今後さらに応用されて、「腸管分子標的薬(または、利尿薬ならぬ利便薬)」の開発がさらに進むことが予想される。腎臓内科医も、腸管の生理学やチャネル(こちらも参照)に詳しくなる必要があるだろう(上述のアルカライン・タイドも、筆者は正直最近まで知らなかった)。





 なお創薬という意味で、化学の次はなんだろう?おそらく生物製剤なのだろう(遺伝子もまた、書き換えと合成の可能な「ポリマー」のひとつだ)。倫理的な障壁や、環境面への影響が懸念されるのでその時代はすぐには来ないと思われるが、いずれ「降圧菌」「吸着菌」といった治療ができるようになるかもしれない。
 

2019/04/16

びっくりする低ナトリウム血症

 低ナトリウム血症の相談を受けると、いつでも心が引き締まる。その理由のひとつは、「プロ」としてみっともない真似はできない、という思い。自意識過剰かもしれないが、「腎臓内科のお手並みを拝見しましょう」と周囲から注目されているような気になる。

 もうひとつは、過補正のリアルな「リスク」だ。高ナトリウム血症のほうは、従来の0.5mEq/l/h(10mEq/l/d)未満より急速な群でも合併症に有意差が見られなかったという報告がCJASNにでた(doi.org/10.2215/CJN.1064918)が、低ナトリウム血症は別だ。

 しかし、そうはいっても鑑別疾患はだいたい決まっているので、順を追って診断していけばそう滅多なことは起きないと思っていたら、びっくりするような低ナトリウム血症の原因があることを発見した。

 それは、「尿閉」である。

 別に、びっくりしなかった読者もおられるかもしれない。たしかに、尿閉で尿が出なければ水が出せないのだから、低ナトリウム血症になるのは当たり前かもしれない。しかし、ここでいう低ナトリウム血症は、水腎症や腎後性の腎障害を伴わない。
 
 報告は(Saudi J Kidney Dis Transpl 2017 28 392、JAGS 2014 62 1199、Gerontology 2007 53 121)いずれも、①膀胱が過伸展しており、②尿浸透圧は血清浸透圧より高くSIADHが示唆され、③尿道カテーテルの挿入で軽快し、④カテーテルの抜去で増悪する、といった特徴を持っている。

 膀胱の過伸展は心因性多飲における低ナトリウム血症の増悪因子としても知られている(J Urol 1992 147 1611)。機序は不明だが、これら論文はいずれも「膀胱の過伸展による(交感神経刺激を介するかもしれない)ADH分泌」と推察している。

 筆者も経験したことがあるが、尿閉による低ナトリウム血症は、知らないと驚きの連続になる。

 尿検しようにも「尿がでない」というのでCTを撮ると信じられないほど拡張し壁の薄い(下写真の紙風船のような)膀胱が写っていたり、尿カテーテルを挿入すると尿崩症かと思うような希釈尿が出て急激なナトリウム濃度上昇が心配されたり、抜去するとストンとナトリウム濃度が下がったりする(そして、再挿入するとまた上がる・・!)。





 それは、結局のところカテーテルでなおってしまうことで、低ナトリウム血症の「高尚な病態生理を操って頭を使う、レベルの高い疾患」、というイメージが崩れる驚きでもある。

 筆者は研修医時代に「低ナトリウム血症だけは永遠に理解できないだろう」と思った。難解なことを例えるのに「それは低ナトリウム血症のようなものだ」と言っていたこともある。

 しかしそのうち(それなら飽きないかも)と思い始め、気づけば腎臓内科医になっていた。

 やはり、これだから低ナトリウム血症はやめられない。