2019/10/18

虎ノ門みやげ 後編

 前編のあと、先生は腎性低尿酸血症のお話をされた。

 腎性低尿酸血症といえば、URAT1またはGLUT9の異常により尿酸が再吸収されず、極端な低尿酸血症・尿結石・運動後AKI(悪心嘔吐・ひどい腰痛が特徴で、来院時Crが5mg/dl程度のわりに非乏尿で尿酸値が低め)・GLUT9異常では脳梗塞を合併する疾患だ。詳細は先月の投稿も参照されたい。

 ここでは、講演で得られた感動を二つ共有したい。

 1つ目は、ウリカーゼの進化史だ。先生は「尿酸といえば(痛風や脂肪肝など)害が多く、大悪党ではなくても小悪党くらいに思う方が多いだろう」とお話したうえで、生物が進化の過程でいかにウリカーゼを不活性化(同遺伝子を偽遺伝子化)してきたかを概述された。

 ヒトのウリカーゼ遺伝子は、①コドン33がストップコドンに、②イントロン2の2塩基AGがAAに(スプライシングが不可能に)、③コドン187がストップコドンになっているという。講演では、霊長類でこうした異常がどう共有されているかを示す、以下のような図が提示された(出典の記載がなかったので、ここにはPNAS 2014 111 3763)!


列記された動物は上から、ヒト、チンパンジー、ゴリラ、
オランウータン、テナガザル、カニクイザル、アカゲザル
(網掛け部分が偽遺伝子化している)


 さらに興味を持って調べてみると、哺乳類は長いあいだ徐々にウリカーゼ活性を落としてきたことがわかった(図はPNAS 2014 111 3657)。まるで「哺乳類補完計画」だが、ウリカーゼ活性を止めて血中に尿酸を増やすことには、果糖を代謝しての脂肪蓄積作用や抗酸化作用などの進化論的利点ががあったと推察されている(Semin Nephrol 2011 31 394)。


時間軸上段は白亜紀、第三紀、第四紀
下段は暁(ぎょう)新世、始新世、中新世、鮮新世

 
 2つ目は、腎性低尿酸血症がAKIや脳梗塞を合併する機序についてだ。先生は推察だとしつつも、血中に尿酸がないと、運動などで酸化ストレスが増えたときに、血管を拡張しておくことができないのではないかとおっしゃった。

 先生によれば、腎臓で消費されるATPは全身の10%に及ぶという。調べてみると、たしかに腎臓の安静時エネルギー消費量は440kcal/kg/dで、心臓と並んで臓器の中で最も高い(Marinos Elia先生による、検証はAm J Clin Nutr 2010 92 1369)。そう考えれば、運動時AKIは「一時的な腎梗塞」であり、ひどい腰痛がおきる点も符合する。


 尿酸がどのように血管収縮を抑制しているか、どうして心筋梗塞にならないか、ウリカーゼのある他の哺乳類はどうしているのか、・・など疑問は尽きない。しかし、こうして得られた感動こそ「キセキ」。その意味でも、人間でよかった(図は、まんが日本昔ばなしエンディングテーマだった、『にんげんっていいな』より)。





2019/10/17

ネフローゼ症候群患者に実際に抗凝固療法を使う場合に。

今回は短めに。
実際にネフローゼ症候群の患者さんに抗凝固療法を使用する場合にどうすればいいのか?

原則は普通の患者であれば静脈塞栓症の治療と同等の量が推奨される。
低分子ヘパリンに関しては腎機能が低下、もしくは変動する人には注意して使用する。

抗凝固療法(抗血栓療法も含まれるが。。)の選択肢としては下記
・Albが2.0-3.0g/dL
 →アスピリン 75mg/day
・Alb<2.0g/dL
 →低分子ヘパリンやフォンダパリヌクスの1-2回/日の皮下注、もしくは未分化ヘパリンの静脈投与or皮下注、長期化するならワーファリンに変更
*DOACsに関してはまだ十分な臨床データが揃っていない。
を用いる。
投与量などは、日本循環器学会の深部静脈血栓症の診断・治療のPDF参照

では、腎生検前後に抗凝固療法をどのくらいの期間終了すればいいのか?に関しては、CJASN 2016のreviewが一番わかり易い。


上手の解像度が悪いが、低分子ヘパリンに関しては、24時間前に皮下注は終了して、再開は48-72時間後が一つの推奨である。

実際には未分化ヘパリン静注→生検時に中止→生検後2-3日で再開が多いと思う。静注の場合はずっと持続してつながっているので、患者さんのADLを落とす可能性は高い。
なので、個人的には皮下注で管理がいいのかなと思う。

何よりもしっかりと患者さんのリスクとベネフィットを考えて治療を行う必要がある。



2019/10/16

虎ノ門みやげ 前編

 NBCe1と言われても、何の略かわかりにくい。NaとBicarbonateのCo-transporterと、元素記号と英語がチャンポンになっているが、要はHCO3-を近位尿細管の細胞内から間質側に出す輸送体だ(図はFront Physiol 2013 19 350より)。




 本ブログでも何度か名前くらいは紹介してきた(こちらこちらも参照)ものの、これだけを取り上げたことはなかった。・・今日までは。

 東部腎臓学会の教育講演16「近位尿細管性アシドーシスと腎性低尿酸血症(Nat Genet 1999)」では、この輸送体とその遺伝子異常について、発見した先生ご本人からお話があった。行かれなかった方のためにも、その内容(と興奮)を一部紹介したい。

 講演ではまず、遺伝子異常が濃厚に疑われる近位尿細管性アシドーシス(ただしFanconi症候群はみられない)・帯状角膜変性・脳基底核の石灰化・膵酵素上昇などを合併した女子の症例が提示された。

 先生はまず、これを"systemic disease with a distinct clinical entity which may be transmitted by autosomal recessive inheritance"として報告した(Pediatric Nephrol 1994 8 70)。まだ責任遺伝子は不明で、1979年報告の類似症例では(男子の兄弟だったため)X-linkedと誤解されていたほどだ。

 近位尿細管でHCO3-再吸収に関わる上図輸送体のうち、①NHE3とNa-K-ATPaseは全ての細胞にあるし、②CA2は大理石病という別の疾患を起こす。残りはNBCe1(当時はキドニーのkをとって、kNBCと呼ばれていた)だが、この輸送体の異常による疾患はいまだ報告がなかった。

 しかし、調べてみると、はたして輸送体をコードするSLC4A4遺伝子に責任となる異常が見つかった(講演タイトルのNat Genet 1999 23 264)!

 以後、角膜変性が角膜内のpH上昇による石灰化であること(JCI 2001 108 107)、遺伝子変異の場所によってさまざまな表現型があり、家系により偏頭痛が起きるのにはシナプス内のpH上昇が関連しているらしいこと(PNAS 2010 107 15963、図はdoi:10.5772/39225より)などが、続々分かった!




 先生は締めくくりに、「存在しない疾患とされていた疾患が存在した」と仰った。それが今や、NBCe1異常による疾患だけのレビュー論文まである(上述のFront Physiol 2013 19 350)。まさに、学会テーマである「目前に悩む患者の中に明日の腎臓内科学教科書の中身がある」だ。

 筆者も臨床医のはしくれ、診ている患者の中にも未知の疾患が隠れているという眼を忘れないようにしようと思った。なお先生によれば、現在は日本医療研究開発機構(AMED)が研究班と進める未診断疾患イニシアチブ Initiative on Rare and Undiagnosed Diseases(IRUD、サイトはこちら)もあるそうだ。


 つづく(写真は、会場そばの浄土宗榮閑院。杉田玄白先生のお墓があるので、学会ついでに参拝された方もおられるかもしれない)。






2019/10/15

ネフローゼ患者さん診察のとき、あなたは抗凝固どうしますか?

これに関しては、結論がまだ出ていない。

ただ、いつも議論に登り、生命に関わる話である。
ネフローゼで血栓が生じた患者さんを経験した医師は人一倍これに注意を払う。

まず、一般論から話したいと思う。
ネフローゼ症候群の患者では
・静脈血栓症のリスクが高い(深部静脈血栓症、腎静脈血栓症、肺塞栓症、頭部静脈血栓症など)。
 1%/年【通常に比べ8倍多い】

・動脈血栓症も一般に比べ増加する(手足や脳の血栓)
 1.5%/年【通常に比べ8倍多い】

血栓症はネフローゼの診断後、6ヶ月以内が一番多い。

■どんなネフローゼ症候群が起こしやすいのか?
膜性腎症が最も起こしやすい。
 ーKidney Int 2012の研究では1313人の患者でみて、静脈血栓は膜性腎症で7.9%、FSGSで3.0%、IgA腎症で0.4%であった。

また、微小変化群もリスクが高い可能性もある。
 ーAJKD 2017の報告では125人のケースシリーズで9%に血栓症(動脈 or 静脈)が生じている。

■ほかに血栓症を起こしやすいリスクは?
低アルブミン血症の重症度が高ければ起こしやすい(膜性腎症での検討が主)

■なぜ血栓症をネフローゼ症候群で起こすのか?
解明されていない部分が多いが、下図に示すように止血と溶解のバランスで止血の方向に傾くためと考えられている(アンチトロンビンⅢ、プラスミノゲン、プロテインC・Sの低下や血小板凝集能の増加、プラスミノゲン活性の消失など)。

CJASN 2012より引用

■では、血栓症をどう対処すればいいか?
ここで考えなくてはいけないのは、心房細動の血栓症予防と同じように血栓症予防のベネフィットがどれだけあるのか?また、投与することによるリスク(主に出血イベント)がどれだけあるのか?を考える必要がある。

ここで、2つアルゴリズムを示す。

■1つめは、Kidney internal medicineからのものである。これに関しては、まずが出血リスクを判断し、そしてアルブミンの数値をみてリスクとベネフィットで上回るようであれば抗凝固を開始するというものである。


Kidney Int 2013より引用


出血リスク:
・貧血(Hb: 男性<13、女性<12g/dl)   3点
・重度腎機能障害(eGFR<30ml/min)  3点
・年齢>74歳              2点
・何らかの以前の出血の診断        1点
・高血圧の診断              1点

0-3:Low risk、4:intermediate risk、5-10:high risk

アルブミンに関してはアルブミン<2.0g/dlを一つの指標としている。

■もう一つはUp to dateのものである。
これに関してもまずは出血リスクをみて、その後にネフローゼの原因疾患を見ている。
膜性腎症とそれ以外のネフローゼの場合によって分けている。

Up to dateより引用

抗凝固薬は様々な報告があるが、腎生検もする可能性も考えるとヘパリンがいいと考える。
ヘパリンの腎生検での話は次回に回そうと思う。

今回、まだ明確には決まってはいなく、おそらく施設によっても対応は異なると思うが、まずはネフローゼ症候群の患者を見た際に抗凝固の予防は必要なのか?という考えを持つことは重要である。
そして、出血リスクは?アルブミン濃度は?疾患としては何が考えられる?
ということを考え、必要があれば予防を行ってあげることも必要である。


2019/10/07

人を指差す時は 2

 75歳男性。高血圧・高脂血症などの既往あり前医の診療を受けていたが、2ヶ月前から下肢に浮腫がみられた。前医で腎機能正常、尿蛋白・潜血なし、心電図・胸部X線に異常なし(低栄養・肝硬変・甲状腺機能低下症もみられず)。体重の増加はないが、症状持続するためフロセミド処方されるも、改善なし。精査加療目的に、腎臓内科を紹介受診。


Q:診断は?


 腎機能正常、蛋白尿・潜血尿もない(非アルブミン尿の除外はするにしても)となると、正直「腎臓じゃないと思いますけど・・」と言いたくなる。しかし、自分達も総合内科医だと思っている腎臓内科医(こちらも参照)が、よりによって浮腫の症例で総合診療科にスルーパスするわけにもいかない。

 じつは、ここまで浮腫の鑑別疾患が除外されていると、残りはそんなに多くない。主なものは、全身ないし局所の血管透過性亢進か、リンパ還流の障害だ。そう思って問診・診察・検査所見を見直すと、以下が分かった。


  • 浮腫は下腿だけでなく手指にもある
  • 以前から、手指の関節がつっぱって動かしにくい
  • 両手指PIP関節が左右対称に軽度発赤
  • 下腿には圧痕浮腫
  • CRP高値
  • リウマチ因子陰性


 ここまでくれば、RS3PE(Remitting Seronegative Symmetrical Synovitis with Pitting Edema)症候群を最も疑うだろう。しかし恥ずかしながら、筆者は以前にもこの疾患を診た(本ブログにもまとめた)にも関わらず、知識がアヤフヤで、自分で診断を確定する勇気がなかった。

 そこでリウマチ内科にご相談したところ、典型例だったのだろう、すぐさま診断を確定して治療を開始していただけて、とてもありがたかった。人を指差すときには、相手への敬意を忘れないようにしようと思った。

 

元は、Aretha Franklinの1967年ヒット曲、"RESPECT")


2019/09/30

腎機能低下後の糖尿病管理。メトホルミン製剤治療継続の有用性?

今回の話題は

糖尿病で治療継続中で、徐々に腎機能が低下している患者さん。
糖尿病に関しては、コントロールはそんなに悪くない。経口血糖降下薬単剤でコントロールできている。

「腎機能低下していなければ、メトホルミンはエビデンスあるなあ。」

「でも、腎機能低下してきたな。。経口血糖降下薬としては何を使おう?? やっぱりメトホルミン?」

メトホルミンに関してはUKPDSでSU剤やインスリン単独治療に比べて血管障害の発生頻度を減少させたという報告(正常腎機能患者)がされている(Annals of Internal medicine 2012)。

では、腎機能が低下した患者さんにも同様の効果はあるのか?

ADAガイドラインの推奨ではCKD患者さんで
eGFR<30の患者さんには推奨なし
30<eGFR<45の患者さんは治療のリスクと効果を確認しながら、メトホルミンの使用を推奨している。

今回、JAMAにこの疑問に対しての論文が掲載されていた。
この論文はコホート研究で、2002年1月1日~2015年12月30日までの退役軍人のデータを用いている。
新規糖尿病診断患者で、eGFR<60未満、新規糖尿病薬はSU剤かメトホルミンの患者さんを対象とした。

アウトカムとしては複合アウトカムでMACE(major adverse cardiovascular events)を見ている。

結果は下記のグラフのようになった。



この研究には様々なlimitationは存在するが、糖尿病治療を単剤で使用している患者さんで腎機能低下しても、ガイドラインでの推奨の数値も確認をしながら、メトホルミンの継続をすることは、患者さんのリスクを考えてみても大切なことなのかもしれない。


追加:
週1回使用のDPP4阻害薬のトレラグリプチンコハク酸塩の禁忌から「高度腎機能障害患者または透析中の末期腎不全患者」が削除され慎重投与の項目に「中等度以上の腎機能障害のある患者又は透析中の末期腎不全患者」になった。


2019/09/24

RAS阻害薬投与時の血清Cr上昇気にしてますか?

たくさん色々と書きたいことはあるが、今日はこの話題。

みなさんはRAS阻害薬を投与する際に
「少し腎機能が悪くなることもありますよ、でも血清クレアチニンの上昇が30%以内であれば大丈夫ですよ。」(輸出細動脈の血管拡張→GFR低下のため)
とお話して、新規に投与する患者さんの採血を投与前と投与後1-2週間で採血をする場合も多い。

ご存知のように、初回投与時に腎機能の悪化が少しあっても徐々に改善していくし、腎保護にもつながるからいいんだよ というのがスタンスなのかもしれない。
(Key論文はONTARGET試験TRANSCEND試験)

では、本当に腎機能が悪化しても問題はないのか??
まず、BMJ 2017にRAS系阻害薬投与による血清Cr上昇と長期心血管リスクを検討した論文が出ている。

この論文では1997~2014年の英国プライマリ・ケア医のデータベースと病院エピソード統計を基にRAS阻害薬の服用開始した12万2363例を対象ににし、RAS系阻害薬開始後の血清Cr上昇と心腎アウトカムとの関連を調べている。

BMJ 2017より引用
上図に示すように10%未満をベースとしたときに、血清Cr悪化の度合いが強いほど死亡や心・腎アウトカムの悪化を認めた。


そして、今年CJASNでも同様の論文が出されている。

この論文ではスウェーデンの2006-2011年の期間の大規模コホートデータを用いて検討されている。最終的には31951人が研究に組み込まれて検討されている。
評価項目は死亡、心・腎アウトカムである。

CJASN 2019より引用
これも上図をみていただくとわかるが、クレアチニン上昇が10%未満の患者さんに比べて増加すればするほど死亡や心・腎アウトカムが悪化することがわかる。



では、この結果をみて我々はRAS阻害薬の処方をやめるべきなのか?

個人的な答えはNO!である。

まず、実際にCrを投与前後で測定しているのは、この研究でも18%であった。我々の臨床の経験としてもどうだろう?患者さんすべてには血液検査をやっていないと思う。リスクが高い人など絞っているのではないか?

今回の結果から、もし測定して10%以上増加する人の場合には死亡や心・腎イベントリスクが増加するということを留意しておく必要がある。


2019/09/20

分化と統合、そして融合へ

 今月の日本内科学会雑誌は、4月に名古屋で開催された学会講演を特集しており、そのサブタイトルは「新時代の内科学の創造~分化と統合、そして融合へ~」だ。まったくそうだなあと感じたのは、招聘講演のひとつをまとめた「骨髄増殖性腫瘍の病態と治療戦略」(日内会誌 2019 108 1672)を読んだときだ。




 原発性骨髄線維症(PMF)は、「線維症」とはいうものの、遺伝子異常による腫瘍性疾患である。有名なのはJAK2遺伝子のV617F変異だが、同遺伝子のエキソン12変異だけでなく、カルレティキュリン(CALR)遺伝子、トロンボポエチン受容体遺伝子(MPL)などの変異も知られている。

 治療は、古典的な同化ステロイドやヒドロキシ尿素だけでなく、JAK1-2阻害薬のルキソリチニブがCOMFORT-I、II試験により全生存期間の有意差が示されている(J Hematol Oncol 2017 10 156)。貧血、易感染性などが課題であり、JAK2特異的阻害薬など研究が進められている。

 ・・と、ここまでは「分化」である。

 つぎに「統合」であるが、PMFは腎臓での髄外造血を起こす(下図矢印は巨核球、BMC Nephrol 2015 16 121より)。






 さらに、メサンギウムの細胞増殖と領域拡大、TMA、免疫複合体の沈着(C3、IgMなどが多い)、足突起の消失・微絨毛化など、実に多彩な腎病変をきたすことが分かっている(Clin Nephrol Case Stud 2017 5 70、表2も参照;膜性腎症の報告はAJKD 2017 70 874)。

 あとは「融合」だ。

 それは、実臨床レベルでは「腎疾患も血液疾患として扱い治療する」であり、MGRSと同じような話になる(こちらも参照)。PMF関連腎症には、上述のJAK阻害薬などで軽快するものも多い(Clin Nephrol Case Stud 2017 5 70、表1も参照)。しかし筆者は、そこから「なぜ髄外造血で腎病変がおきるのかを、腎臓内科と血液内科で一緒に考えよう」と話を深化させてこそ、真の融合ではないかなあと思う。

 そして、その糸口となる報告が今年7月31日にAJKD電子版に載った(doi: 10.1053/j.ajkd.2019.05.016)。主旨は「カルレティキュリン遺伝子の変異に特異的な免疫染色したら、腎に浸潤する巨核球が染まった」だが、筆者にとって興味深かったのは症例の経過だ。

 この症例では、PMFの診断から5ヵ月後にネフローゼとなり、それまでの同化ステロイドをプレドニン(30mg/d)に変更した。しかし、蛋白尿は減少(7g/dから2.6g/gCr)したが無効造血はあまり低下しなかった(LDHは、1250U/lから789U/l)。そこでJAK1-2阻害薬が追加されたが、蛋白尿は2g/gCrで、PMFで産生されるサイトカインであるVEGFやTGF-βにも変化は見られなかった。

 ここから示唆されるのは、「腎臓内科的にネフローゼにはステロイド」「血液内科的にPMFにはJAK1-2阻害薬」を越えた、VEGFやTGF-βを有効にとめる第三の治療の必要性だろう(著者らも「この疾患に確立した治療はない」と認めている)。

 それこそが、「真の融合」による成果なのかもしれない(下図は、1959年のレオ・レオニ著『あおくんときいろちゃん』)。






2019/09/18

尿酸値が低いことは問題ないですか?

我々は高尿酸血症の診断・治療は色々な知識があり、選択肢がある。
実際、患者さんも高尿酸血症に伴う痛風発作では疼痛も強く、尿酸が高くなることを恐れる人もいる。

では、尿酸が低い人はどうであろうか?
「尿酸が低いですが、大丈夫ですね。異常なしです!」
で帰してしまうのか?

今回は、その話題を少し取り上げようと思う。

低尿酸血症は定義上、血清尿酸値が 2mg/dL未満のものをいう。
1991年と昔の報告ではあるが、入院患者の2%、一般人口で0.5%と頻度は低い。

機序としては
・尿酸の産生低下
・尿酸の酸化
・尿酸の尿細管再吸収障害
にわかれる。

☆産生低下には、先天性障害・後天性障害に分かれる。
 先天性のものには、遺伝性キサンチン尿症やプリンヌクレオチドホスホリラーゼ欠損症
 後天性のものには、キサンチンオキシダーゼ阻害(アロプリノールやフェブロキサットなど)、重度肝障害
などがある。

☆尿酸の酸化
 人間は他の動物とは異なり尿酸酸化酵素を持っていない(つまり、酸化させることができない)。
 腫瘍崩壊症候群における急性腎不全の予防や治療に使用されるラスブリカーゼは尿酸を酸化させアラトインという物質に変換させる尿酸酸化酵素として作用する。
このラスブリカーゼの使用などで低尿酸血症になる。

実験医学オンラインより引用

☆尿酸の尿細管再吸収障害
これに関しても、先天性障害と後天性障害に分かれる。
 先天性のものには家族性低尿酸血症がある。家族性低尿酸血症は本邦で腎性低尿酸血症(RHUC)として知られ、ガイドラインがでている。
 これは、近位尿細管における尿酸再吸収トランスポーターの欠損で、URAT1/SLC22A12、GLUT9/SLC2A9の欠損が報告されている。


Up To Dateより引用
後天性のものには
  Fanconi症候群、体液過剰(近位尿細管の再吸収低下)、頭蓋内疾患(尿酸クリアランスが増加)、AIDS、薬剤(ベンズブロマロン、プロベネシド、高用量ST合剤、高用量サリチル酸など)※、炎症、妊娠、経静脈栄養管理、ホジキンリンパ腫などの悪性腫瘍、タマゴテングタケ中毒などがある。

※ちなみにARBのロサルタンなどは心臓移植でシクロスポリン使用に関連する高尿酸血症に対して尿酸を下げる作用として働く(URAT1の阻害)

では、結論の部分であるが低尿酸血症は多くの場合は無症状ではあるが、合併症では
・急性腎不全
・尿路結石形成
・可逆性後頭葉白質脳症
があり、これは知っておく必要がある。

・急性腎不全に関しては、RHUC患者の男性に多い。
起こるシチュエーションとしては激しい運動後、6-12時間以内に腰背部痛、腹痛、嘔吐が生じる。平均Crは5.5mg/dL 程度と言われ中には透析や慢性腎不全に移行するものも数は少ないが報告されている(NDT 2004)。
この病態は運動後急性腎不全(EIAKI:Exercise induced AKI)として知られている。

・尿路結石症に関しては、頻度は尿酸排泄が亢進する疾患で多くなる。RHUC患者では尿酸結石とシュウ酸カルシウム結石の形成合併が多い。

・PRESは頻度は非常に低いがRHUSの患者での報告はある(pediatrics 2011、 Eur J pediatrics 2013)。

なので、低尿酸血症は頻度はそこまでは高くはないが、出会ったらしっかりと鑑別を考える必要があるし、合併症の併発はないかの精査を行うことは重要である。


2019/09/12

高齢化時代のCKD

 クレアチニンのわずかな上昇による死亡率上昇のリスクを、患者・医療者・社会に注意喚起する便利な数字、eGFR。しかし、ドイツの数学者、レオポルト・クロネッカー(1823-1891)が「自然数は神の作ったものだが、他は人間の作ったものだ」と言ったように、10数年用いられたこの数字もまた、時と共に変わっていくのだろうか?


(出典はこちら


 そう考えさせられたのは、eGFRを修正すべきというヨーロッパからの意見論文がJASNの電子版に発表されたからだ(doi:10.1681/ASN.2019030238)。

 著者らの主張は「高齢者で、蛋白尿などもなく、eGFRだけでCKD3A期になった人は、自然の老化でネフロン数を減らしただけであり、CKDではない」というもので、それ自体は新しいものではない(こちらも参照)。

 筆者からみて新しい点は、2つある。ひとつは、世界中の疫学研究を見直して「65歳以上ではeGFRが45ml/min以下にならないと死亡率が上昇しない」という結論に至ったことだ(一覧表だけで10ページにわたり、日本からは茨城県のデータが引用されている)。

 もうひとつは、小児科の成長曲線にも似た、「老化曲線」による解釈を提案していることだ(図は前掲論文より)。




 たとえば、75歳の白人男性(体表面積1.9m2)でクレアチニンが1.1mg/dlであった場合、eGFRは58ml/min/1.73m2となる。しかし、上図では黄緑色のマルでプロットされ、深緑色で示された標準偏差内におさまっている。こうした場合は、CKD3A期ではなく「老化」とみなそうというわけだ。

 これに対し、大西洋の向こう側(米国)では何と言っているか?

 2つのエディトリアルが載っているが、いずれも一番の論点は「CKDの意義は生命予後だけではない」だ。

 "Renalism"の命名者でもあるスタンフォードのChertow先生は、心血管系イベントリスクが高い(それを示した自身の論文は、NEJM 2004 351 1296)この群を、引き続き「CKD」と名付けて注意喚起すべきだと主張する(doi:10.1681/ASN.2019070743)。

 また、新規アシドーシス治療薬ヴェヴェリマーを開発するTricida社(こちらも参照)の相談役でもあるテキサスのWesson先生は、この群にもみられる代謝性アシドーシスを見落とさないことが重要と主張する(doi:10.1681/ASN.2019070749)。

 これらについて論文著者は「病気(CKDのDは、diseaseのD)と呼ばれることによる社会的な不利益もある」「不必要な精査・不安をいたずらに増やす」などとも指摘しており、どちらにもそれぞれ説得力がある。
 
 今後、太平洋の向こうにある(高齢化のいっそう進んだ)わが国でもこういった議論がなされれば、CKDのヒートマップが骨粗しょう症の検査結果のように「老化曲線」を反映したものになる・・・なんてことも、あるかもしれない。






2019/09/11

慢性腎臓病外来でサプリメント内服を聞いてますか?

みなさんはサプリメントを飲んでいるだろうか?また、慢性腎臓病の外来でサプリメントの内服の有無を尋ねているだろうか?

こんな患者さんの場合どうするだろうか?

50歳男性、2型糖尿病でコントロールは良好。
インスリンの使用もなく、血清Cr 1.2mg/dLで安定。尿蛋白も尿Alb/Cr 25mg/g

今回定期受診・採血で血清Cr 1.7mg/dLと悪化。尿蛋白は大きな変化なし。特に新規にNSAIDsの使用や抗生剤の使用はなし。

この人にサプリメントは何を飲んでいますか?と尋ねてみると
Fish oil 1000mg/day、 ビタミンC 1500mg/day、 ビタミンB製剤
を内服しているという。

ここで腎疾患の悪化の原因がピンときただろうか?

疾患として想起する必要があるのは
Oxalate nephropathy (シュウ酸塩腎症)
である。

この疾患については以前のブログでも触れている。
病態はシュウ酸カルシウムが腎に沈着したり、尿細管に沈着して障害を生じる。

エチレングリコールの投与はOxalate nephropathyを起こすことが知られているが、ビタミンCも一部が代謝されoxalateの生成に関連する。

そのため、慢性腎不全のひとでは特に高用量(>1-2g/day)のビタミンCの投与はOxalate nephropathyのリスクになりうることを注意しなくてはならないし、我々も注意して聞かなくてはならない(AJKD 2013)(Clin Kidney L 2014)(AJKD 2016)。

また、ビタミンB1であるチアミンやビタミンB6のピリドキシンもOxalateの代謝に重要であることも知っておく必要があり、これらの欠乏がOxalate産生増加に関わることを知っておく必要がある。

下記はOxalateが多めの食事。


2019/09/05

外科医からの忠告

 51歳男性。インフルエンザ・MRSAによる壊死性肺炎からショック・ARDS・AKIを合併し入院。昇圧薬、緊急透析などをふくむICU管理を受けた数日後、下血と腹部の筋性防御がみられた。緊急開腹をおこなったところ、回腸末端・上行結腸・盲腸・直腸に多数の穿孔がみられた。病理標本を示す。




 Q:診断は?

 
 じつはこの症例はCJASNの2019年6月号の表紙を飾ったので、ご存知の方も多いかもしれない。紫色で魚のウロコのような構造物は、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム・カルシウム複合体(polystyrene sulfonate complex, PSC)の結晶。緊急透析でも高カリウム血症が改善しないため、1日あたり100グラム以上のPSCが経口・経腸的に投与された。どうしてそんなに大量のPSCが投与されたのかは、わからない。
 
 雑誌には、このあとこの患者がどうなったかは書かれていない。しかし、奇しくも日本臨床外科学会雑誌の2019年5月号に『ポリスチレンスルホン酸カルシウム内服中に発症したS状結腸穿孔の2例』なる報告が載っていたので紹介する(日臨外会誌 2019 80 943)。

 1例目は、CKDで内科外来に通う87歳女性、入院時Cr 1.7mg/dl。S状結腸穿孔により硬便が腹腔内に流出していた。単孔式人工肛門造設術を行い、手術は2時間41分、出血量は150ml。術後は人工呼吸器管理・大量輸液・広域抗菌薬・トロンボモジュリン・エンドトキシン吸着をうけた。回復し、リハビリおこない術後79日に自宅退院。

 2例目は、CKD(入院時Cr 2mg/dl)だけでなく、潰瘍性大腸炎の寛解後でもあった。S状結腸に2箇所の穿孔あり。単孔式人工肛門造設術を行い、手術は2時間10分、出血量は650ml。術後5日目にARDSとなり、一時回復し抜管されるも、再発し34日目に死亡退院。

 この論文が医学中央雑誌で過去の報告を検索したところ、ポリスチレンスルホン酸製剤内服中の下部消化管穿孔は全例が左側結腸に発症していた。製剤により水分を吸いとられ硬くなった便塊が通過障害を起こすためと考察され、上皮機能変容薬(ClC-2チャネル阻害薬など、こちらも参照)の使用が提案されている。

 「新規カリウム吸着薬があれば大丈夫」と思うかもしれないが、イオン交換樹脂であればやはり便中の水分は抜ける。Patiromerでも便秘は11%に見られたし(NEJM 2015 372 211)、ZS-9の第3相試験(CJASN 2019 14 798)でも便秘は6%にみられた(同じ号の表紙にPSC結晶の写真を載せたのにも、警告の意図があるのだろうが)。同様の合併症に注意が必要だ。


 最後に、1例目は低カリウム血症(1.8mEq/l)にも関わらずポリエチレンスルホン酸製剤が投与されていた。著者らは「定期的に血液検査を行い、場合によっては製剤の減量や中止も検討するべきであった」と戒めている。外科雑誌にとどめておくにはもったいない、的確な忠告といえよう(下図は、医原性を意味するiatrogenicの由来でもある、ギリシャ語のiatros)。


 



2019/08/28

秘伝?ガイドワイヤーの持ち方

 ガイドワイヤーの持ち方にもいろいろあるようで、たとえば『こうすれば必ず通過する!PCI医必携ガイドワイヤー“秘伝”テクニック(村松俊哉著、2018年)』は、いろいろな持ち方があるとしながらも、自らのやり方である手をワイヤーの下に置き鉛筆のようにホールドする方法を推奨している(これを「お箸持ち」と呼んでいる)。


(『箸のはしばし』より)


 ではインターベンショナル・ネフロロジーではどうか?基本的過ぎるのか、『バスキュラーアクセス治療学(大平整爾監修、第1版は2013年)』にも、透析学会による『血液透析用バスキュラーアクセスのインターベンションによる修復の基本的技術に関するガイドライン(透析会誌 2002 35 57)』にも、持ち方は書かれていない。

 そんなわけで、施設によってさまざまな流儀があると思われる。筆者は最初に「人差し指と中指、あるいは人差し指と薬指を少し離し、その2本の指の腹を橋渡ししたガイドワイヤーの中央部を親指の腹で支える」という方法を習った。が、フルート並みに難しく感じられて、習得できなかった。


(YAMAHAサイトより)


 しかし、ガイドワイヤーの先端を狭窄部の入り口に滑り込ませるためには、図のようにガイドワイヤーを「クルクル」回転させて探る技術が不可欠だ。



 
 なんとかしなければならない・・。啄木先生のように途方にくれ、「働けど働けどなお(わがPTA)楽にならざり、ぢっと手を見る」日々が続いた。

 しかし、お箸と同じでとにかく用を足せれば(「クルクル」できれば)よいと思いなおし、通勤中に道の雑草を抜いて「クルクル」していたら、数週間でなんとかできるようになった。





 「お箸持ち」や「フルート持ち」のような優美さはないが、難しめの狭窄もわりと楽に越えてくれる、頼もしい「雑草持ち」。もし持ち方で困っている方がいたら、試してみてもいいかもしれない。なお、親水性ポリマーコーティングされたガイドワイヤーはすべるので、持つ部分は寧ろ乾いたガーゼで水気を拭いたほうが「クルクル」しやすい。




2019/08/23

NPT2a阻害薬から見える未来

 近位尿細管トランスポーターで治療標的のものといえば、まずSGLT2を思い浮かべるだろうが、URAT1(こちらの追記も参照)、NHE3(こちらも参照、ただし腸管のNHE3に対する薬だが・・)なども実用化にむけて治験が進んでいる。そして今月はJASNに、NPT2aの阻害薬の報告が載った(DOI: 10.1681/ASN.2018121250)。

 NPT2aとは聞きなれないかもしれないが、近位尿細管にあるナトリウム(Na)とリン(iP)の共輸送体だ。NPT2aというからには他のファミリーメンバーもいて、NPT2bは腸管にあり、NPT3cはやはり近位尿細管にある(図はCJASN 2015 10 1257)。なお近位尿細管には別にPiT-2というナトリウム・リン共輸送体もあり、いずれも再吸収をおこなっている。




 今回でた実験は、PF-06869206というNPT2a阻害薬を、5/6腎摘したCKDモデルマウスに静注したものだ。NPT2aだけを阻害しても、上述のようにリンの再吸収は複数のトランスポーターによるので、リン排泄は増えないようにも思われる(おそらくそれが、いままでNPT2a阻害薬が作られなかった背景にあるのだろう)。

 しかし、蓋を開けてみるとリン排泄は増え、血中リン濃度は低下した。組織をみると、近位尿細管でのNPT2a発現が低下したのに対して、たとえばNPT2cの発現は代償性に増えていなかった(ただし定量化はしていないが)。また、NPT2aはナトリウムの共輸送体でもあるので、尿ナトリウム排泄も増えていた。

 つまり、この世にまたひとつ、新しい利尿薬の候補と、高リン血症の治療薬の候補が生まれたということだろうか?

 たしかにそれも大事だが、この実験から予見されるのはそれだけではない。筆者にとっては、少なくとも2つある。

 1つ目は、単にリンを下げるだけでないかもしれないことだ。腸管からのリン吸収を阻害する吸着薬とちがい、NPT2a阻害薬は近位尿細管細胞に直接作用する。そして、近年はFGF23・KlothoとPTHがNPT2a発現を調節する仕組みも解明されつつある(図はKI 2009 75 882、Front Endocrinol 2018 9 267)。NPT2a阻害薬は、こうしたCKD-MBDのホルモン軸に、独自の影響をおよぼす可能性がある。





 そして2つ目は、「(SGLT2阻害薬につづき)近位尿細管の負担を軽減して腎機能低下を抑制する薬」が生まれる可能性である。この実験は注射も1回だし、24時間後の変化しか見ていないが、おそらく連用した場合の腎機能への影響もとっくに調べられているに違いない。「NPT2a阻害薬による腎保護」がコンセプトとして通用すれば、剤形や安全性を高めるなどの課題は工夫すれば解決できるだろう(SGLT2阻害薬がそうであったように)。

 
 やはり、フロンティアというか、いま近位尿細管には「きてる」感がある。今後も勢いよくさまざまな標的分子が治療対象となってゆくだろう。きっと今頃、試行錯誤と努力を続けるどこかの研究室で、未来が生まれているに違いない(写真は伝説的なSF作家、ウィリアム・ギブソンの引用句、「未来はここにある、ただ均等に行きわたっていないだけだ」)。






2019/08/20

透析療法を行わないESRD(末期腎不全)患者さんを目の前にして

 あなたの目の前に透析療法を行わないと選択したESRD患者さんがいます。どう診療しますか?(「いや、ちょっと待って、そもそも本当に透析しないの?」という大きいテーマはこの場ではあえて扱わない。)

 私なら、正直困って立ち止まる。困る理由の一つは、現時点では質の高い研究がないため明確な方針を決めにくいからである。
 
 そういう時は自分の常識(「ArtとEvidence」などと言うが)を駆使し、患者本人、患者の周囲の環境やQOL を考えながらやるしかない。何か道しるべになるものはないだろうか....そんな時に出会った情報がこれである。

 まず総論として4つのステップを踏む(Step1,2がPlan、Step3がManagement、Step4がSupport)

 Step1まずは対症療法のみで本当に良いか改めて確認
 Step2 ケアプランをプライマリケアの領域で作成
 Step3 対症療法の実践 1から6を順に繰り返し実践
 Step4 悲哀への対応

 Step3の1から6とは次のようなものである。
  1臨床的アセスメント:自覚症状とCKDの合併症への対応
  2アドバンスケアプラニング:いわゆるACP(Advance Care Planning)を確認する
  3地域支援の獲得:往診医、生活の拠点の調整
  4急変時の対応を決めておく
  5終末期の対応を決めておく
  6患者の情報を絶えずアップデート
 
 いかがだろうか?

 「とても便利だ。」と私は思った。
 
 普段断片的に考えていることチェックリストで体系的に持つことで抜け漏れも無くなるし、大事なことだと思う。

 また各論として、この論文には「積極的な」対症療法についても記載されている。例えばCKDの合併症(血圧、脂質異常症、塩分制限、貧血、代謝性アシドーシス、MBD、高K血症)やESRD患者特有の症状(むずむず脚症候群、掻痒、悪心嘔吐、呼吸困難感、全身倦怠感や睡眠障害、種々の疼痛)についてである。

 患者さんの状態は刻一刻と変化していくため途方に暮れることもあるかもしれないが、我々も柔軟に対応していく必要がある。

 Hope for the best and prepare for the worst.




 

2019/08/09

抗MRSA薬アップデート

 抗MRSA薬の第一選択と言えばバンコマイシンであり、それは血液透析患者においても例外ではない。むしろバンコマイシンは「1グラムのローディング+透析ごと0.5グラム」と、連日投与が必要な他の薬に比べて覚えやすく使いやすい薬と言える。しかし、そこで思考停止していた筆者の目を覚ます論文に出会った(CJASN 2019 14 1080)。

 まずは、バンコマイシン用量についてだ。ロー・フラックス膜のころはバンコマイシンは透析で抜けなかったので「15mg/kgを7-10日ごと」だったという。ハイ・フラックス膜になって現在の用量に落ち着いたが、その後も透析膜の性能は向上している(Neprol Dial Transplant 1997 12 2647)ので本来は量の見直しが必要だろう。また、透析の最後1時間で投与する場合にも増量が必要だ。

 透析間隔や体重・Kt/Vなどを考慮した「バンコマイシン用量計算機(Vancomycin Dose Calculator)」を用いて効率よく透析患者でトラフ15-20mcg/dlを得たという報告もあり(Clin Infect Dis 2011 53 124、図のPhase 3)、バンコマイシンが第一選択であり続ける限りはこうした計算機が有用かもしれない。




 「バンコマイシンが第1選択であり続ける?」・・それが次の問題である。

 よく効く第一選択薬も、使っていれば耐性がついてくるのが世の常。MRSAも2010年、耐性と考えるべきバンコマイシンのMIC(最小阻害濃度)が4mcg/ml以上から2mcg/ml以上に引き下げられた。いつかはVISA(バンコマイシンが「I」、つまり感受性が微妙なブドウ球菌)、VRSA(バンコマイシンが「R」、つまり耐性のブドウ球菌)が増えるだろう。

 では、バンコマイシン以外の抗MRSA薬にはどのようなものがあり、腎機能低下例にはどのように使用すればよいのだろうか?主なものを下記にまとめる。

・リポペプチド

 いまのところこのファミリーにはダプトマイシンしかないが、グラム陽性球菌の細胞膜を脱分極して殺菌作用を示す。心内膜炎・骨髄炎などに好んで用いられるが、呼吸器感染には無効だ(サーファクタントにより失活するため)。また検査試薬と反応するためPT-INRが偽性に伸びることにも注意が必要だ。

 ダプトマイシンは78%が尿中排泄されるので、クレアチニン・クリアランスが30ml/min未満の患者では48時間おきが推奨される。蛋白結合率86%であるが、透析患者でも透析ごとで投与できる(72時間あく時の増量も提案されているが、そのぶん筋障害などの副作用は増える)。

・オキサゾリジノン

 リネゾリドのみであったが、骨髄抑制などの副作用が少ないテディゾリドがファミリーに加わった。50Sリボソームサブユニットを阻害して静菌作用を示す。なおいずれもMAO-A、Bを可逆的に阻害するためSSRI、SNRIらとの併用時はセロトニン症候群に注意。

 いずれも腎排泄ではないため腎機能による容量調整は不要だが、リネゾリドの代謝産物は腎機能低下例で蓄積する(その害は明らかではない)。リネゾリドは30%が透析で除去されるので、透析患者でも用量は同じだ(ただし1日2回なので2回目は透析後)。

・リポグリコペプチド

 テラバンシンに、ダルババンシンとオリタバンシンが加わったファミリー。バンコマイシンに似た細菌細胞壁への静菌作用(ただし細胞壁への結合力は強い)に加え、ダルババンシン・オリタバンシンはダプトマイシンに似た細胞壁脱分極による殺菌作用を備えている。

 テラバンシンは76%が尿中排泄であり、クレアチニン・クリアランスが50ml/min未満の例では減量が必要だ。腎障害の警告があるが、薬自体の作用か、スタディの患者群がグラム陰性桿菌感染を合併していたためかははっきりしない。透析患者への用量は明記されていないが、透析ごとの使用が多い。

 ダルババンシン・オリタバンシンはどうか?ダルババンシンはクレアチニン・クリアランス30ml/min未満で減量だが、透析性があるため透析患者では減量は必要ない。いっぽうオリタバンシンは透析性もなく、クレアチニン・クリアランス30ml/min未満と透析患者では試験されていない。

・セフタロリン

 抗MRSA活性を付加されたセファロスポリン(第5世代とも言われる)。細菌性市中肺炎と急性皮膚感染にしか用いることができない。クレアチニン・クリアランス30−50ml/minで1/3の減量、15−30ml/minで1/2の減量、透析を含む15ml/min未満で2/3の減量となっている。
 

 このようにさまざまな新薬があるのは結構だが、こんな薬が「ガツンと鋭い切れ味、新発売!(下図は酒類のうたい文句)」などと宣伝され節度なく使用されては、耐性ができて大変だ。




 しかし、創薬した企業は投資家にいち早く利益をリターンしなければならず、そういう売り方もやむを得ない(売れなければ、次世代アミノグリコシドのプラゾマイシンを上市したのち今年4月に倒産したAchaogen社の二の舞いだ)。そんなわけで、こうした新規抗MRSA薬は米国で売れまくっている(下表は2018年10ヶ月間の売上、doi:10.1056/NEJMp1905589)。

セフタロリン    1.15億ドル
ダルババンシン   0.31億ドル
オリタバンシン   0.18億ドル
テディゾリド    0.32億ドル
テラバンシン    0.18億ドル

 前掲のニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン論文は、こうした商業モデルでは必要な新薬が持続的に作れず耐性をいたずらに増やすだけであるとして、非営利組織による開発モデルを提案している。今後、抗MRSA薬がどのように開発され処方されるようになるかにも、注目したい。





2019/08/02

人を指差すときは

 維持透析を受ける70歳男性。透析を受けに来院した際、前日から四肢がガクガクし、増悪して歩くのもままならなくなったと訴えた。透析スタッフによれば、透析室に入ってきた様子はまるで、「生まれたての仔鹿」のようであった。


Q:診断は?


 診察すると、脳神経や四肢に運動麻痺はないが、歩行が不安定で、指鼻指試験や踵膝試験が拙劣に思える。しかし、梗塞を疑って撮影したMRIに所見はない。稀な神経疾患ではないかと脳神経内科にコンサルトしたところ・・・


A:高カリウム血症(7.9mEq/l)


 あらためて診察いただくと、上記小脳の診察所見は正常(不随意運動のため震えているだけで、位置の把握は正確にできていた)。慢性疾患にともなう不随意運動が考えられ、この場合腎不全によるものが最も疑われた。前回透析から2日あいており、定期検査での透析前カリウムは6mEq/l。以前から食事のアドヒアランスに不安がみられていた。透析により症状は軽快。

 カリウムと筋肉と言えば、低カリウム性周期性四肢麻痺をまず思い出すかもしれない。しかし、高カリウム血症でも(筋のチャネル遺伝子異常などがなくても)筋力低下や麻痺を起こすことがある。影響されるのは心筋だけじゃないということだ(そして、心電図変化と同様に、全例に起こるわけでもない)。

 
 米国法廷弁護士・作家のルイス・ナイザー(1902-1994)は『私の法廷生活(My Life in Court、1964年)』のなかで「人を指差すときには、残りの4本の指が自分のほうを向いていることを忘れてはならない」と説いた(実際は親指は人差し指と同じ方向なので3本と思われるが、下図)。こんな時、人を指差す前にまず「自分達の科の病気じゃないですか?」と自問する必要性を、心から痛感させられる。










2019/07/30

膜性腎症診療の未来

 MENTORトライアルの興奮に沸く腎臓内科界だが、世界的にはその先を行っている。すなわち、原発性膜性腎症の「誰に」、「どれだけ」リツキシマブ(RTX)を投与するか、が検討されているのだ。まず「誰に」であるが、その道しるべとなるのが抗PLA2R抗体の抗体価だ(発見の経緯などはこちらも参照)。

 抗PLA2R抗体陽性の原発性膜性腎症といっても、その自己抗体が認識するPLA2Rの部位(エピトープ)は一つではない。まずB細胞はPLA2R蛋白のN末端にあるシステイン豊富領域(CysR)を認識するが、そのあと抗原分子を咀嚼し、CTLD1、CTLD7などの他部位も抗原として認識できるようになる(下図はJASN 2017 28 2579)。





 この現象は「エピトープ・スプレッディング(epitope spreading)」と呼ばれ、SLEや尋常性天疱瘡など多くの自己免疫疾患でも知られているが、こうした疾患では、スプレッディングの有無によって治療が変わることはない。しかし、原発性膜性腎症においては、変わるかもしれない。

 というのも、スプレッディングのない群(ノン・スプレッダー)は、ある群(スプレッダー)にくらべて予後がよく(JASN 2016 27 1517)、低用量RTX(375mg/m2を1週おき2回)を試して寛解率の低かったGEMRITUXスタディ(JASN 2017 28 348)においても、ノン・スプレッダーに限れば全員が寛解していたのだ(DOI: 10.2215/CJN.11791018)。

 つまり「ノン・スプレッダーには低用量RTX、スプレッダーには高用量RTX(375mg/m2を1週おき4回、あるいはMENTORのように1gを2週おき2回)」というような使い分けがあり得るということだ。そしてその見極めには抗体価が代用されるようになるだろう(前掲論文では抗体価>321RU/ml以上で95%がスプレッダーだった)。

 近い将来に日本で(抗PLA2R抗体の保険収載と)RTXの適応拡大が実現した際には、どのようなRTX用量が通るかも注目したい。用量に幅があると、現場では喜ばれるだろうが、副作用を怖れてのunder-treatmentは増える。かといって体格を考慮しない1gでは、375mg/m2に比べover-treatmentになりやすい。日本の試験ではないので、これらは市場にでてから検証していく必要がある。







2019/07/28

夏の読書 2019

 腎臓業界は次から次に良書・秀書がでてくるので、とてもフォローしきれない。とはいえ、ブロガーだって本は読む。そこで試しに、「腎生理」のお題で一人1冊ずつお気に入りを出し合ってみたところ、こうなった(一応ことわっておくが、どのブロガーもこれらの本に利益の相反を持たない)。


考える腎臓病学(2011年)
一目でわかる電解質(3版は2013年)
極論で語る腎臓内科(2015年)


 ブロガーAのお気に入りをブロガーBは読んだことがないなど、トレーニングを受けた年代と場所による違いを示す結果になった。また、「本もいいが論文もいい」(自分なりの「論文集」を日々編纂されている人は腎臓内科に多い、写真は筆者のUSBメモリー)、「本もいいがブログもいい(こちらも参照)」、といった声も聴かれた。




 これらが参考になれば幸いである。が、やはり夏の読書には「読み物」色の強いものを薦めたくなるのが人情。あのNephJCでさえ、今夏は医のアートについて考えさせるAndrew Bombackの短編集、"Doctor (Object Lessons)"を薦めているほどだ。そんなわけで、利益の相反はあるが、筆者訳によるこの一冊もオススメしておく。


医のアート ヒーラーへのアドバイス(原著第2版は2013年、翻訳は2019年)





 それでは、リゾートのプールサイドであれ、電車の中であれ(写真は筆者が車内で読んだ長田弘著『本を愛しなさい』)、自宅で#バーガーインザハウスしながらであれ、皆さまにとってよい読書の夏になりますように!