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2020/08/11

コバン? COVID-19感染のAfrican americanを見たら。。

今回の話は、いまだに話題の中心になっているCOVID-19関連の話である。

日本人とは関連が薄いかもしれないが、ApolipoproteinL1(APOL1)を交えての話になる。

APOL1遺伝子変異は黒人に多いことが知られており、また西アフリカの血を引くカリブ諸国やラテンアメリカの人にもよく認められる。APOL1遺伝子に関しては以前の投稿を参照していただきたい。

APOL1のG1とG2の2つの変異がある人ではFSGSを発症リスクがOR(Odds Ratio)で10倍、高血圧による腎疾患を起こすORが3倍であることはわかっている。このAPOL1の中でも2つの変異があるリスクの高い患者では何らかの要因がトリガーとなって("Second Hit")、collapsing glomerulopathyを生じるリスクが高い。

何らかの原因によるcollapsing glomerulopathyと聞いてふと思い出されるのは、HIV感染に伴うものであり、組織形態学的にHIVAN(HIV associated nephropathy)ではないであろうか?

HIVANは1980年代に認知され、ネフローゼ症候群と腎不全を伴う疾患である。APOL1遺伝子変異を有している人は、HIVANのリスクが通常よりも30~90倍高いと言われている。HIVだけでなく、パルボウイルスB19、サイトメガロウイルス、EBウイルスなどの感染やSLEなどでもcollapsing glomerulopathyを起こすことがわかっている。

Collapsing glomerulopathyとAPOL1遺伝子変異の関連にインターフェロンが示唆されている。

APOL1遺伝子変異の症例のC型肝炎治療にインターフェロンを用いてcollapsing glomerulopathyが生じたという報告もある。そのメカニズムに関しては現時点ではわかっていない。

COVID-19のケースで、6例のcollapsing glomerulopathyの症例が報告されているが、全症例がAfrican Americanであった。また、APOL1の2つの変異を認めていた。ネフローゼ症候群とAKIを伴っており、臨床所見と病理所見がHIVANに似ていることからCOVAN (Covid-19-associated nephropathy) とこの論文では提唱している。


           


ただ、通常のCOVID-19に関連するAKIのケースではほとんどがATN(急性尿細管壊死)であるということには留意していただきたい。

もしも、African americanのCOVID-19感染の症例をみて、AKIとネフローゼ症候群を伴っていた場合にはCOVAN!?と是非考えて欲しい。

COVID-19の早期終息を願っている。。


2011/07/26

APOL1

 今日はAPOL1遺伝子のことを学んだ。この遺伝子はAfrican Americanの腎疾患発症に重要で、G1(S342GとI384Mの置換)とG2(del388N389Yの欠失)という二つの変異両方がある人はFSGSを発症するOdds Ratio(OR)が10倍、高血圧による腎疾患を起こすORが3倍という。さらに今日のjournal clubで取り上げられていた論文は、これらの変異がある移植腎はない移植腎に比べて生着予後が悪いというものだった。

 APOL1遺伝子が腎臓で何をしているかは、まだ誰も知らない。この変異は黒人にしか見られない(アジア人やヨーロッパ人には見られない)が、この変異があるとアフリカにいるTripanosoma bruceiという寄生虫のsub-species(T. brucei rhodensienseT. brucei gambiense)に耐性ができると考えられている。それはこの遺伝子産物の末端にpore forming activityがあるためだとされている。

 そもそもAPOL1が腎疾患に関連していると判ったのはつい昨年のことだ。それまでは、APOL1遺伝子座の近くにあるMYH(myosin heavy chain)が悪いと言われていたし、実際私が行った2010年のNKF meetingでもそのように説明されていたほどだ。イオンチャネルの専門の先生は、「この遺伝子産物がpore forming proteinというのは興味深い事実だ(何かのチャネルかもしれない、という意味)」と言っていた。


[2019年9月29日追記]じつは、以前から変異型APOL1はトリパノソーマ原虫のミトコンドリアやリソソームに孔をあけ、細胞を破裂させたりアポトーシス様の変化を起こしたりすることがわかっていた(図はJASN 2017 28 1008)。

 


 そして今回、変異型APOL1を強制発現させたヒト尿細管細胞で、変異型APOL1は細胞質からミトコンドリアの内膜まで取り込まれ、そこで異常に重合していることがわかり、JASN電子版に載った(doi:10.1681/ASN.2019020114)。

 しかし、結果はそれだけではない。

 さらに異常APOL1は、ミトコンドリア内でmPTP(mitochondrial permeability transition pore)という複合体に取り込まれ、この「死の孔」を開くことがわかったのだ(図は前掲JASN電子版記事より)。


(RVはリスク・バリアントの略)


 mPTPが開くと、ミトコンドリアから細胞質へカルシウムイオンが流出し、さまざまな細胞死スイッチがオンになるのだという。つまり、上述のイオンチャンネル専門家の先生(筆者が人間としても師と仰ぐ、故・John B. Stokes先生)の予言は、当たっていたわけだ。

 今回の論文は、「なぜ腎臓だけミトコンドリアが破裂するの?」、「じっさいのAPOL1変異患者さんでも、本当に同じことが起きているの?」といった質問には答えない。しかし、mPTPにたどり着いたことは、病態理解と治療の可能性につながる重要な成果だ。

 というのも、、mPTPは(興味深いことに!)アルツハイマー病やパーキンソン氏病などの神経変性疾患でも、ニューロン死の責任分子とされているのだ。mPTPを開くサイクロフィリンDという分子が治療標的として研究されてもいる(CNS Neurol Disord Drug Targets 2015 14 654)。

 それでか、著者もまた「足細胞もニューロンのように高度に分化しているので、異常に重合した高分子には弱いのかもしれない」などと自由に推論している(彼らが用いたのは尿細管細胞だが)。これまた、分化→統合→融合の一例であり、近い将来届くであろう吉報が楽しみだ。