2015/11/30

Weekend Without Water

 入院患者さんが十分な栄養を与えられず飢えて、ひょっとすると命を落としているという注意喚起は何十年も前からされている。しかしいまだに軽々しくそして不必要に長くNPOオーダーがだされている(doi:10.1136/bmjqs-2015-004395)。それもさることながら、入院患者さんがケアがゆきとどきにくい週末に十分な水分を与えられず月曜日にそろって高Na血症になる(なかには意識障害を伴うものも)というのもまずい。ひとつには「自由水をいれると体液過剰になる」という半ば恐水症のような意識が(とくに医師に)ある。あと経管栄養は100%が水分ではないということを知らない、という基本的なものもある。私は「高Na血症は拷問だ」と習った。口渇はとても苦しいし、高Na血症は(中枢性尿崩症でもない限り)医原性だからだ。というかthirst tortureという拷問が本当にある。私は患者さんが苦しんだり不利益を被るのをヘラヘラ見過ごすことはできないから、教育しなければならない。


Stool Electrolytes

 私が初期研修したときには、腎臓内科が低Na血症の治療をするときに尿中Na喪失量だけでなく便中Na喪失量も測って、Naの出納を几帳面に測っていた覚えがある。そんな便中電解質だが、ここでは測れない。それに、調べた限りではどこでも測れないみたいだ。あの頃はどうしていたのだろう。

 しかし測れないことはないはずだ。というのも、便電解質は慢性水様下痢で浸透圧性下痢と分泌性下痢を鑑別する便浸透圧ギャップ(stool osmolar gap, SOG)を計算する際に用いられるからだ。

 SOGは便浸透圧 - [2 x (便Na + 便K)]で、unmeasured osmotic substanceが多ければ(125mmol/kgH2O以上)浸透圧性が示唆され、少なければ(50mmol/kgH2O以下)分泌性が示唆される。

 浸透圧性下痢には下剤の使用や乳糖不耐症、分泌性下痢には蠕動異常、内分泌疾患(糖尿病、副腎不全、甲状腺機能亢進症、肥満細胞症)、膵腫瘍(VIPoma、カルシノイド、ガストリノーマ)、IBD、腸管腫瘍、薬剤などがある(NEJM 2013 368 757)。

 あと便中電解質を利用するのが遺伝性塩素下痢(congenital chloride diarrhea, CCD)だ。便Clが100mEq/l、あるいは便Clが便Naと便Kの和よりも高いときに診断が示唆される。といってもCCDは稀で基本的には胎児・新生児疾患(写真)だが、腎外性の代謝性アルカローシスの鑑別で教科書に載っているから一応知っておかなければならない。成人発症も、ほんとうに稀だがある(Am J Med 1988 85 570、Am J Gastoenterol 2007 102 1329)。






2015/11/27

Rainbow Urine

 回診中に入院患者さんで暗褐色尿がでますというので、調べてもミオグロビン尿もヘモグロビン尿もビリルビン尿も血尿もない。というわけで、薬か?と思ったら最近メトロニダゾールが始められており、研修医の先生にスマホで調べてもらったら副作用があった(Journal of Pharmacy Technology 2014 30 54)。添付文書によれば代謝されてできるアゾ化合物の影響と考えられているそうだ。ここで使う頭は別に医学とは関係ない、ただの推論力と好奇心だ。
 薬による尿の変色にはリファンピン(オレンジ色)、ドキソルビシン(赤~オレンジ)、プロポフォール(青緑)、ニトロフラントイン(茶褐色~黒)、アセトアミノフェン大量内服(茶褐色~黒)などがある(SMJ 2012 105 43)のと、有名なのはpurple urine bag syndromeでこれはWikipediaにも載っているから説明しなくてもいいけど便中のトリプトファンが細菌によりインドールになって、吸収され肝代謝をうけてインジカンになり、尿路の細菌によりインジゴブルー(青)またはインジゴピン(赤)になってバッグを染める。
 さらに調べてみると、「虹色の尿をだす少年」というクイズ形式の論文があった(NDT 2001 16 2097)。化学者のお母さんをもつ16歳の少年で、学校の成績が悪いときに限ってさまざまな変な色の尿が出るという。尿異常ではacidificationの障害、高尿酸尿症、汎アミノ酸尿、そして色素の凝集が鏡検された。尿細管障害とカラフルな尿となると、重金属のなかでもクロムが疑われる。クロムの色素はpHによって色が変わる。
 そこでサンプルに硝酸銀、塩化バリウム、酢酸などをかけて沈降物ができたりそれが溶解したりするか調べて、クロムの検出が証明された。学校の成績が悪いときに変な色が出たのは、病院受診をすると学校を休める(病院まで3000kmある;インドの話なので)という疾病利得があったからで、クロムはおそらく絵の具や染料を摂取していたのだろうと思われた。しかし本人もお母さんも診断を否認したので結局精神科に紹介して、そのうち症状は治まった。


M protein & λ restriction & Ig gene rearrangement

 腎臓内科医は他の内科も詳しく知っていなければならない。濾胞性リンパ腫の「(CT上)完全寛解」後にLDHやsIL-2Rが上昇している症例の尿所見がまったくない進行する腎不全で、生検したら①腎の間質を這うように異型のあるB細胞が浸潤しており、②それがλ拘束に染まっていて、③IgG-λのMタンパクが血中に出ていて(もちろんκ/λ比も偏っている)、④骨髄にリンパ腫や骨髄腫がない場合、浸潤しているB細胞がクローナルでMタンパクを産生している(すなわちリンパ腫の再発)と言ってよいのではないだろうか。それ以外の診断が除外されているならなおさらだと思うが。それでもまだ、腎組織をとってB細胞の染色体転座(FISH)や免疫グロブリン遺伝子再構成(利根川進先生…)を調べなければならないのだろうか。腎原発のリンパ腫というのはまずないと思うが、リンパ腫の腎浸潤ならまれだが報告はある(ただし腎が腫大して尿所見も陽性な例が多いが)。


2015/11/26

Rare Cause of Prerenal AKI

 代謝性アルカローシスの腎外性の原因に結腸絨毛腺腫があることは以前に触れたが、そこで止まっていた。しかし調べると、大量の体液喪失により腎前性腎不全・アニオンギャップ開大アシドーシス・横紋筋融解症・(低K血症にともなう)不整脈まできたす重症なものには特別にMcKittrick-Wheelock syndromeという名前がついているそうだ。

 1954年に初めて報告され、以来消化器系の雑誌に"rare cause of diarrhea"という報告が無限に出されている(からどれくらいレアなのかわからない)。しかし腎臓内科系の雑誌にはほとんど報告がないので大量の体液分泌の機序がよくわからない。どの論文も「腺腫(場合によっては癌化していることも)を取ったらよくなりました」で終っている。

 Prostaglandin E2の過分泌によるもので、COX inhibitorを使って治療することもあると書いた論文があった(Surg Endosc 2014 28 2247)が、出典がない。COX inhibitorを使えば腺分泌は抑えられるかもしれないが輸入細動脈も締まってしまうとおもうが。酸塩基平衡をちゃんと読んで病歴を聴いていれば、いつかは下痢と腎前性腎不全の症例で出会うかもしれない。





2015/11/24

Nibs and Mabs

 VEGF阻害剤(Sorafenib、Sunitinib、Pazopanib、Axitinib、Cabozantinib、Bevacizumab…それぞれ作用機転は異なるが結局VEGFシグナリングを止める)を受けた後の転移性腎細胞癌症例に対して抗PD-1モノクローナルIg4のNivolumab群が、mTOR阻害剤のEverolimus群よりも生存期間が長かったというスタディを教えてもらった(NEJM 2015 373 1803)。

 興味深かったのは腫瘍細胞にPD-1Lが発現していてもいなくても治療効果に差がなかったことだ。PD-1のスイッチを入れT細胞を不活化するのはPD-1Lだけではないのかもしれない。

 ただmTOR阻害剤が転移性腎細胞癌に限定的な効果しかないことはもうわかっているので、知りたいのはNivolumabが抗VEGF抗体(やIL-2療法…これはtoxicなのでもう余り見ることはない印象だがUpToDateはKarnofsky Performance Scoreが高いならこれをするべきといまだに書いている)よりも先に来る第一選択薬になりうるのか、ということだ。

 あとCabozantinibはVEGF阻害剤なだけでなく予後に関わるMET遺伝子とAXL遺伝子も止めるので、他の抗VEGF抗体治療後の第二選択として使えないかMETEORスタディが組まれているが、CabozantinibとNivolumabの直接比較試験はないのでどちらがいいかわからない(UpToDateはNivolumabを使えない場合にCabozantinibを使え;Grade 2Bとしている)。

 個人的には、この手の治療をする時には泌尿器医が腫瘍を生検するようだが、腎臓内科医がする腎生検とどう違うのかが興味深い。



Don't Go Breaking My Heart

 "Don't Go Breaking My Heart"といえばElton John & Kiki Deeが1976年にリリースしたデュエット曲にして、Elton Johnはじめての全英チャートNo. 1ヒット曲だが、「私の心を壊さないで」と思うことは現実社会に生きていれば避けられない。たとえばMGRS(monoclonal gammopathy with RENAL significance;doi:10.1038/ki.2014.408)に対する抗腫瘍薬の使用(KI 2015 88 1135)がされなさそうで、腎機能悪化と透析導入・依存を黙ってみているしかない時などだ。血液内科の先生によればMGRSもMGUSと同じ扱いだから保険が通らないそうだが、簡単に検索したら日本の市中病院で使われている報告がすぐでてきた(腎炎研究報告 2015 31 232)。まだ腎生検の結果待ちだが、曲のように「あなたの心を壊さないわ」とまるくおさまればいいなと思う。二人のコンサルタントが別のことを言うなんてよくあることで、やれることをして最終的にはプライマリサービスに任せるしかない。


2015/11/22

Xenograft

 ブタのゲノムに混入するレトロウイルス(porcine endogenous retrovirus, PERV…英語でpervといったらpervertつまり変質者の略だが)をCRISPR/Cas9というゲノム編集技術で除去することができるようになったそうだ(私はEconomist誌2015年10月17日付で知ったが、論文はDOI:10.1126/science.aad1191)。

 これは、ブタの腎臓をヒトに移植するうえでの障壁のひとつを乗り越える一歩になるかもしれない。あと大きな障壁は、拒絶と凝固異常と倫理。前の二つはトランスジェニックな臓器を使う研究がされていて、後のひとつは話し合いがされているらしい。




[2019年4月追加]異種移植についての論文がCJASNに掲載された(CJASN 2019 14 620)。課題はやはり上記のようにPERV、拒絶、凝固異常、倫理であるが、それぞれがアップデートされていた。

 まずPERVについては、すでに行われているブタの膵島移植で、いまのところPERVによる感染が問題になったことはないようだ。

 拒絶については、いままで行われたほとんどの異種移植実験が、CD40/CD154(CD40リガンドとも)軸の抑制を拒絶抑制に用いており、そのヒトへの安全性を確認する必要がある。

 CD154はヘルパーT細胞がB細胞を成熟させるためにTCRと共に表出する共刺激経路のひとつで、これがB細胞のCD40と結合することでB細胞が成熟し、濾胞が形成され、免疫グロブリンのクラススイッチがおこる(これが欠損しているのがX-linked hyper-IgM syndromeで、濾胞ができずIgM以外の免疫グロブリンが作られず免疫不全になる)。

 他にも、抗原提示細胞にサイトカイン産生のスイッチをいれたり、さまざまな働きがある(下図は、Immunotherapy 2015 7 399)。リウマチ科疾患や移植領域はすでにこれを治療ターゲットにし始めており、後者ではAMR(antibody-mediated rejection)の予防に応用が試みられている。




 いっぽう、抗CD154抗体の使用は凝固異常と強い相関があり、異種移植で凝固異常がおきる原因はこの抗体のせいではないかと言われるようになった。CD154と血小板にあるαIIbβ3インテグリンの結合を阻害するとか、モノクローナル抗体のFc部分が内皮細胞のFc受容体(FcγRIIa)を刺激するとか、さまざまな機序が推測されているが、詳細はまだわからない。

 最後に倫理面では、治験対象を選ぶ必要がある。末期腎不全は移植以外にも腎代替療法がある(透析)。そこで、おそらく最初に試されるのは、利益とリスクの点で失うものの少ない(移植が困難でかつ透析も困難で予後の限られた)患者群になると考えられる。何をしてよいわけではないから、正式な倫理的手続きを踏まなければならないことは言うまでもないが。

 異種移植は、成功すればそのインパクトは大きい。スケールは違うが、たとえるなら、心臓の生体弁を献体ドナーから得ずに済み、「製品」としてゲットでき、機械弁とちがって抗凝固療法が不要になるようなものだ。今後、試行錯誤の応用をくりかえして洗練されていくことが期待される(写真は1990年に国内発表されてから進化を続けるYAMAHAのトランペットブランド、Xeno)。





 

2015/11/18

Stereomicroscope

 腎生検をする時、そばに実体顕微鏡をおいてリアルタイムに検体を観察して検体が皮質か髄質かをチェックできればいいなと思う。まあ、放射線科医が完璧にロックオンしてくれ何も考えずに針を刺していればよかった米国時代とちがって、いまは自分でやらなければならないので私も少しは考えるようになったけど。それでも不安だから、うちには実体顕微鏡よりも眼がいい(ほんとかな)検査技師さんがいるので、ベッドサイドにきてもらって検体を取るごとに見て確認してもらっている。この方は骨髄穿刺のスメアを鏡検するのもめちゃくちゃうまくて、やっぱりその道のプロというのはいるんだなあと思う。