近位尿細管でつくられたNH4+は、まずミトコンドリアから細胞質にでるが、その通過にアクアポリン8が関与すると考えられている。アクアポリンといえば水チャネルだが、水のように小さくて電気的に極性のある分子は通す。ただしアクアポリン8遺伝子を削除しても尿中アンモニア排泄はかわらない報告もあるから、ほかの仕組みもあるのかもしれない。
細胞質にでたNH4+が内腔に排泄されるにあたっては、細胞質と内腔の細胞膜にいくつかの調節の仕組みがある。まず細胞質にはNH4+をグルタミンにもどすglutamine synthetaseという酵素があってNH4+の排泄にブレーキをかけている。この酵素を削除した実験などから、アシドーシスのときにはこの酵素の活動が低下していると考えられる。
細胞膜をどう越えて内腔にでるか?じつは正確にはわかっていない。以前はアンモニア分子が拡散すると考えられていたが、現在はNa+とH+を交換するNHE3チャネルがH+のかわりにNH4+を通すというのが通説だ。アシドーシスで近位尿細管のNHE3発現量が
ふえて、それにはアンジオテンシンII(AT1を介した)、エンドセリン1(エンドセリンB受容体を介した)がかかわっていることがわかっている。
ただしNHE3遺伝子を削除しても尿中アンモニア排泄はかわらない(が、Na+再吸収がおちて血圧を保てない。10.1016/j.kint.2017.02.001)。ほかのチャネルを介しているのだろうか。たとえばK+チャネルは、NH4+とK+の流体力学半径が1.14オングストロームで同一で荷電も1価だからNH4+を通す。近位尿細管にはKCNA10、KCNQ1/KCNE1、TWIK-1などたくさんのカリウムチャネルがあって、基底側のNa+/K+-ATPaseだってNH4+を通す。これらを無差別に阻害するバリウムイオンで近位尿細管のアンモニア輸送は止まる。もっとも実験ではNH4+の排泄ではなく再吸収が止まった。
じつはNH4+を通せるチャネルというのはたくさんある(アクアポリン1とか)。渋谷駅の交差点(写真)のような複雑な流れを一本の矢印で説明(図)できるのはすばらしいことだが、これからこの領域の研究がすすむと生理学の理解が変わるかもしれない、と思ったりする。
おまけ:NHE3阻害薬Tenapanorのことを以前に書いた(便中のNa・P排泄をふやし透析患者さんでリン値をさげた)ので参照されたい。
クマさんがおしっこしないで冬眠できるのも、じん臓が一日に体液の何十倍もろ過してから不要なものを残して再吸収するのも、じん臓の替わりをしてくれる治療があるのも、すごいことです。でも一番のキセキは、こうして腎臓内科をつうじてみなさまとお会いできたこと。その感謝の気持ちをもって、日々の学びを共有できればと思います。投稿・追記など、Xアカウント(@Kiseki_jinzo)でもアナウンスしています。
2017/04/21
2017/04/18
近位尿細管とアンモニア 1
以前にアンモニアが腎臓でどのように移動しているかをまとめた。図にするとこういうことだ(Am J Physiol Renal Physiol 2011 300 F11より改変)。アンモニアは尿中のほかの溶質とちがってろ過されてくるのではなく、近位尿細管でつくられネフロンを流れる。ループ上行脚のNKCC2でK+のかわりに再吸収され間質にはいる。一部はまたループの下降脚から内腔に戻りリサイクルされ、一部が集合管から排泄される。
以前に近位尿細管で1分子のグルタミンから2つのNH4+と2つのHCO3-が出来ると触れたが、グルタミンはどこからくるか?糸球体をろ過されアミノ酸トランスポーターB0AT1などでほぼ100%吸収される。そのうち分解されてNH4+、HCO3-になるのは一部で、余った分はY+LAT1-4F2hcやLAT2-4F2hcから間質にでていく(かわりにTAT1から芳香族アミノ酸が入ってくる)。略語が多いが、これらのついての説明は別に書く。
尿中アンモニアと腎予後の論文(doi:10.1681/ASN.2016101151)が注目されてもいるし、これから「HCO3を保てばいい」という代謝性アシドーシス診療が変わるかもしれない。そこで、腎とアンモニアについて基礎から振り返ってみよう(参考にしたのは今年2月にででたPhysiol Rev 2017 97 465、下図も)。まずはアンモニアの生成から。
以前に近位尿細管で1分子のグルタミンから2つのNH4+と2つのHCO3-が出来ると触れたが、グルタミンはどこからくるか?糸球体をろ過されアミノ酸トランスポーターB0AT1などでほぼ100%吸収される。そのうち分解されてNH4+、HCO3-になるのは一部で、余った分はY+LAT1-4F2hcやLAT2-4F2hcから間質にでていく(かわりにTAT1から芳香族アミノ酸が入ってくる)。略語が多いが、これらのついての説明は別に書く。
代謝性アシドーシス、あるいは酸の負荷が過ぎる、低カリウム血症などでNH4+排泄を増やしたいときに近位尿細管細胞はどうするか?ろ過されたグルタミンだけでなく間質からもグルタミンを取り込むことがわかり、これは基底側にあるSN1とよばれるNa+依存グルタミントランスポーターによっておこなわれる。上記の条件下でSN1の近位ネフロンで発現範囲と発現量がふえることがわかっている。また取り込んだグルタミンが出て行かないようにか、Y+LATの発現は減る。
とりこまれたグルタミンはどうなるか?つづく。
2017/03/14
新しい高リン血症の治療
以前にふれた、NHE3阻害薬tenapanorが透析患者さんの高リン血症をさげるかを調べた治験の結果が発表された(doi: 10.1681/ASN.2016080855)。4週間の内服で用量依存性にリン濃度低下がみられ、10mg1日2回と30mg1日2回でプラセボに対して有意差があった(1.7-1.8mg/dlの効果)。ただし下痢の副作用が多く、30mg1日2回の群では半分が途中で薬をやめていた。TenapanorはLubiprostone(アミティーザ®)のように便秘薬として開発された薬だから無理もなく、著者は「便が硬く通過時間のながい透析患者さんにとっては有益かもしれない」と考えている。
腸管のNHE3を阻害すると便中のリン含有量が増えることは事実だが、ナトリウムイオンと水素イオンの交換輸送体であるNHE3がどうリンに関係するかはまだわかっていない。腸管にはリン吸収にかかわるナトリウム依存のリン輸送体NPT2bというのがあるから、ナトリウムイオンの再吸収が阻害され腸管内にナトリウムがたまることと関係がありそうに思われる(tenapanorにNPT2bに対する阻害作用はないが;JASN 2015 26 1138)。腸管で塩素イオンの再吸収を阻害するlubiprostoneでも、リンはさがるようだ(コントロールのない一施設スタディはRRT 2016 2 50)。
このスタディは、いままで「いかに摂取をへらすか」「いかに吸着するか」が基本だった高リン血症治療に新たな考え方をもたらす可能性があると思う。これから研究が進んで、遠位ネフロンのように腸管の溶質吸収とその制御にかかわるさまざまな治療標的がみつかるかもしれない。みつかれば、いまは阻害薬を探す方法は high throughput screeningとかいろいろある。ただ下痢をおこす薬が多そうで、アドヒアランスをたかめるためにも腎臓内科医や透析医は尿量コントロールと同じように便の回数、ブリストル・スケール(図)などもみて調節しながら診療する必要が出てくるかもしれない。
[2017年6月追加]この薬が日本人の健康被験者を対象に1相治験された(Clin Exp Nephrol 2017 21 407)。両親、父方母方の両親が日本人で、日本で生まれ、5年間以上日本以外に住んでいない20-45歳の被験者83人をカリフォルニア州の治験センターWCCT Globalに連れていきTenapanorないしプラセボを飲んでもらった。
結果、予測されたように介入群では便Na排泄がふえた。プラセボが4mmol/dに対して30-40mmol/d、食塩換算で2グラムくらいだから、利尿薬ならぬ「利便薬」としても使えるのかも知れない。便リン排泄は、0.8-8.0mol/dふえたとあるが、統計学的有意差や信頼区間は明記されていない。第1相で安全性を示すのが目的だからだろうか。
安全性といえば、便の回数は180mg1日1回投与群で約6回、15-90mg1日2回投与群で約2回、プラセボで約1回だった。180mg1回投与は、大変そうだ。便の性状は投与群でBristolスケール約5、プラセボで3だった(上の写真)。副作用は下痢が2回嘔吐が1回。白人被験者では頭痛や腹痛もあったが、国民性ゆえ軽微なら訴えなかったのだろうか。
それにしても、WCCT Globalなんてしらなかった。日本語ホームページによれば、最高約10000ドルの報酬を提供するらしい。それでも元が取れるのだろう。日本市場に入るためには日本人データがあったほうが有利だから、外資企業がこうやって外国で日本人を対象に治験する時代なのだなと驚いた。
腸管のNHE3を阻害すると便中のリン含有量が増えることは事実だが、ナトリウムイオンと水素イオンの交換輸送体であるNHE3がどうリンに関係するかはまだわかっていない。腸管にはリン吸収にかかわるナトリウム依存のリン輸送体NPT2bというのがあるから、ナトリウムイオンの再吸収が阻害され腸管内にナトリウムがたまることと関係がありそうに思われる(tenapanorにNPT2bに対する阻害作用はないが;JASN 2015 26 1138)。腸管で塩素イオンの再吸収を阻害するlubiprostoneでも、リンはさがるようだ(コントロールのない一施設スタディはRRT 2016 2 50)。
このスタディは、いままで「いかに摂取をへらすか」「いかに吸着するか」が基本だった高リン血症治療に新たな考え方をもたらす可能性があると思う。これから研究が進んで、遠位ネフロンのように腸管の溶質吸収とその制御にかかわるさまざまな治療標的がみつかるかもしれない。みつかれば、いまは阻害薬を探す方法は high throughput screeningとかいろいろある。ただ下痢をおこす薬が多そうで、アドヒアランスをたかめるためにも腎臓内科医や透析医は尿量コントロールと同じように便の回数、ブリストル・スケール(図)などもみて調節しながら診療する必要が出てくるかもしれない。
[2017年6月追加]この薬が日本人の健康被験者を対象に1相治験された(Clin Exp Nephrol 2017 21 407)。両親、父方母方の両親が日本人で、日本で生まれ、5年間以上日本以外に住んでいない20-45歳の被験者83人をカリフォルニア州の治験センターWCCT Globalに連れていきTenapanorないしプラセボを飲んでもらった。
結果、予測されたように介入群では便Na排泄がふえた。プラセボが4mmol/dに対して30-40mmol/d、食塩換算で2グラムくらいだから、利尿薬ならぬ「利便薬」としても使えるのかも知れない。便リン排泄は、0.8-8.0mol/dふえたとあるが、統計学的有意差や信頼区間は明記されていない。第1相で安全性を示すのが目的だからだろうか。
安全性といえば、便の回数は180mg1日1回投与群で約6回、15-90mg1日2回投与群で約2回、プラセボで約1回だった。180mg1回投与は、大変そうだ。便の性状は投与群でBristolスケール約5、プラセボで3だった(上の写真)。副作用は下痢が2回嘔吐が1回。白人被験者では頭痛や腹痛もあったが、国民性ゆえ軽微なら訴えなかったのだろうか。
それにしても、WCCT Globalなんてしらなかった。日本語ホームページによれば、最高約10000ドルの報酬を提供するらしい。それでも元が取れるのだろう。日本市場に入るためには日本人データがあったほうが有利だから、外資企業がこうやって外国で日本人を対象に治験する時代なのだなと驚いた。
2016/06/24
Playing with Intestinal Ion Channels
透析患者さんで便秘に対して小腸のClC2阻害薬Lubiprostone(アミティーザ®)を使ってから体重の増えが減ってリンも下がってきたという人がいて、まあ理にかなっていると思う(動物実験もあった)。これからは腸管のイオンチャネルも調べる時代か。尿細管が使えないんじゃ腸管を使うしかない。
というわけでせっかくネフロン各セグメントのイオンハンドリングをたくさん覚えたところで、こんどは消化管各セグメントのイオンハンドリングの勉強だ。ちょっと調べてもカリウムについてのレビューだけで63ページあって(Physiol Rev 2008 88 1119)、2回膜貫通・4回膜貫通・6回膜貫通・7回膜貫通チャネルなどきりがない。
さて、その消化管イオンチャネルと遊ぶ新薬Tenapanor(AZD1722、RDX5791とも)はLubiprostoneが便秘や機能性胃腸症に使われるように便秘型過敏性腸症候群用に開発され治験中の非吸収性NH3(Na+/H+ exchanger)阻害薬だ。透析患者の高リン酸血症に対してPhase 2bが進行中だ。薬は腸管のリン吸収チャネルNPT2bじたいには作用しない(NPTa、NPTcは腎にありKlotho/FGF23の支配をうける)が、下痢を起こしてリンを下げるとみられる。
腸管NHE3の発現はRSK2、LPA(lysophosphatidic acid)5の支配下にあり、CFTR(Cl-チャネル)、DRA(down-regulated in adenoma;Cl-/OH- exchanger)はLPA2の支配下にあるらしい(図、Cell Physiology 2015 309 C11)。NHE3をブロックして代償的にNHE3がupregulateされるかは知らない。腸の利尿剤?のようにもっと効果的に水を引き込むチャネルターゲットがあるのかもしれない。ClC3などは実はそうなのかもしれない。CFTRはどうだろう。
というわけでせっかくネフロン各セグメントのイオンハンドリングをたくさん覚えたところで、こんどは消化管各セグメントのイオンハンドリングの勉強だ。ちょっと調べてもカリウムについてのレビューだけで63ページあって(Physiol Rev 2008 88 1119)、2回膜貫通・4回膜貫通・6回膜貫通・7回膜貫通チャネルなどきりがない。
さて、その消化管イオンチャネルと遊ぶ新薬Tenapanor(AZD1722、RDX5791とも)はLubiprostoneが便秘や機能性胃腸症に使われるように便秘型過敏性腸症候群用に開発され治験中の非吸収性NH3(Na+/H+ exchanger)阻害薬だ。透析患者の高リン酸血症に対してPhase 2bが進行中だ。薬は腸管のリン吸収チャネルNPT2bじたいには作用しない(NPTa、NPTcは腎にありKlotho/FGF23の支配をうける)が、下痢を起こしてリンを下げるとみられる。
最近、この薬が透析患者のΔDWを緩和するかを調べるproof-of-conceptスタディがCJASNにでた(doi: 10.2215/CJN.09050815)。製薬会社がおこなったスタディだ。体重3%以上かつ2kg以上増える無尿の透析患者88人(外来、入院)で介入群には45mg 2x/dで開始し忍容性に応じて5mg 2x/dまで減量可とし4週間フォローした。食事はちゃんとしてくださいねと言っておいた(入院患者はNa 2g/d食)。
結果、便の量と便中Na排泄量は有意に増えたがΔDWや血圧は変わらなかった(プラセボ群と比べて有意差がないだけでなく、介入前の値が95%信頼区間に含まれている)。計算が合わないようにも思えるが、便の量は群間で80g/d程度しか変わらないので大した効果がなかったのかもしれない。薬は下痢にもかかわらずmeanで32mg 2x/dのまれていた。飲水量は管理していないがアンケートで介入群に口渇は多くなかった。
なおNH3は腎ではNH4+の排泄とHCO3-の再吸収をしているが、腸でNH3をブロックするとH+の排泄ができなくなりアシドーシスが緩和されるかと思いきや(スタディでもアシドーシス悪化を懸念してHCO3- 20mEq/l以下を除外している)、介入群でHCO3-値の変化に有意差はなかった。
結果、便の量と便中Na排泄量は有意に増えたがΔDWや血圧は変わらなかった(プラセボ群と比べて有意差がないだけでなく、介入前の値が95%信頼区間に含まれている)。計算が合わないようにも思えるが、便の量は群間で80g/d程度しか変わらないので大した効果がなかったのかもしれない。薬は下痢にもかかわらずmeanで32mg 2x/dのまれていた。飲水量は管理していないがアンケートで介入群に口渇は多くなかった。
なおNH3は腎ではNH4+の排泄とHCO3-の再吸収をしているが、腸でNH3をブロックするとH+の排泄ができなくなりアシドーシスが緩和されるかと思いきや(スタディでもアシドーシス悪化を懸念してHCO3- 20mEq/l以下を除外している)、介入群でHCO3-値の変化に有意差はなかった。
腸管NHE3の発現はRSK2、LPA(lysophosphatidic acid)5の支配下にあり、CFTR(Cl-チャネル)、DRA(down-regulated in adenoma;Cl-/OH- exchanger)はLPA2の支配下にあるらしい(図、Cell Physiology 2015 309 C11)。NHE3をブロックして代償的にNHE3がupregulateされるかは知らない。腸の利尿剤?のようにもっと効果的に水を引き込むチャネルターゲットがあるのかもしれない。ClC3などは実はそうなのかもしれない。CFTRはどうだろう。
2013/09/19
代謝性アルカローシス 1/5
Renal Fellow Networkで薦められていた論文(AJKD 2011 58 626)を読み、代謝性アルカローシスという目でもう一度ネフロンを眺めて、尿細管イオン輸送の理解が深まった。H+排泄といえば以前に書いたNH4+の話と、α介在細胞の話がメインだが、そこで話は終わらない。
近位尿細管では、H+がテレポーテーション的にクルクル回っている。まず内腔にH+が(NHE3、H+-ATPaseなどにより)出る。そのたびに、細胞内にHCO3-が(一度H2CO3になってから)CO2として入り、CO2が再び細胞内でHCO3-になるときにH+が作られる。だから、細胞から消えたと思ったらまた細胞に現れているわけだ。
HCO3-のろ過量が増えると、近位尿細管でNHE3、H+-ATPaseが活性化する(H+が一層クルクル回る)。その結果HCO3-の再吸収が増えるので、これも代謝性アルカローシスが持続する原因の一つだ。またこの論文によればK喪失によっても(もしかするとendothelinの作用を介して)NHE3、H+-ATPaseなどが活性化するらしい。
ヘンレ上行脚のNKCC2チャネルが異常だったり薬でブロックされたり(遠位尿細管のNCCチャネルも同様)すると、いくつかのことが起こる。下流の集合管にNa+が多く流れるのでENaCが働き、α介在細胞でH+-ATPaseが働きH+を排泄する。ENaCが働くと(たとえ低K血症があっても)ROMKとmaxi-K(尿細管流量依存チャネル)が開いてK+が失われる。
K+喪失はα介在細胞のH+/K+-ATPaseも活性化し、さらにH+が失われる。それ以外にも、細胞内からK+を出す代わりにH+を細胞内にシフトさせたり、近位尿細管でのアンモニア産生を増やしたり、NH4+とNKCC2チャネルで競合してNH4+排泄を増やしたり、NKCC2チャネルを回らなくして集合管へのNa+ deliveryを増やしENaCを活性化させたり、さまざまな方法で代謝性アルカローシスを助長する。
集合管の主細胞にあるENaCは、上流からNa+をたくさんもらって活性化するのみならず、アルドステロンによっても活性化するから、原発性アルドステロン症、GRA、AMEなどはどれも代謝性アルカローシスになる。アルドステロンはα介在細胞にあるH+-ATPaseも活性化させることができるから、なおさらだ。長くなったから、続きは次回。
近位尿細管では、H+がテレポーテーション的にクルクル回っている。まず内腔にH+が(NHE3、H+-ATPaseなどにより)出る。そのたびに、細胞内にHCO3-が(一度H2CO3になってから)CO2として入り、CO2が再び細胞内でHCO3-になるときにH+が作られる。だから、細胞から消えたと思ったらまた細胞に現れているわけだ。
HCO3-のろ過量が増えると、近位尿細管でNHE3、H+-ATPaseが活性化する(H+が一層クルクル回る)。その結果HCO3-の再吸収が増えるので、これも代謝性アルカローシスが持続する原因の一つだ。またこの論文によればK喪失によっても(もしかするとendothelinの作用を介して)NHE3、H+-ATPaseなどが活性化するらしい。
ヘンレ上行脚のNKCC2チャネルが異常だったり薬でブロックされたり(遠位尿細管のNCCチャネルも同様)すると、いくつかのことが起こる。下流の集合管にNa+が多く流れるのでENaCが働き、α介在細胞でH+-ATPaseが働きH+を排泄する。ENaCが働くと(たとえ低K血症があっても)ROMKとmaxi-K(尿細管流量依存チャネル)が開いてK+が失われる。
K+喪失はα介在細胞のH+/K+-ATPaseも活性化し、さらにH+が失われる。それ以外にも、細胞内からK+を出す代わりにH+を細胞内にシフトさせたり、近位尿細管でのアンモニア産生を増やしたり、NH4+とNKCC2チャネルで競合してNH4+排泄を増やしたり、NKCC2チャネルを回らなくして集合管へのNa+ deliveryを増やしENaCを活性化させたり、さまざまな方法で代謝性アルカローシスを助長する。
集合管の主細胞にあるENaCは、上流からNa+をたくさんもらって活性化するのみならず、アルドステロンによっても活性化するから、原発性アルドステロン症、GRA、AMEなどはどれも代謝性アルカローシスになる。アルドステロンはα介在細胞にあるH+-ATPaseも活性化させることができるから、なおさらだ。長くなったから、続きは次回。
2013/07/22
アンモニアと腎 2/2
腎臓でアンモニアはどのような移動をしているか?まだ分かっていない部分もあるが参考文献(Advan in Physiol Edu 2009 33 275、Am J Physiol Renal Physiol 2011 300 F11)を参照に興味深い事実を中心に書く。簡潔に言うと、アンモニアは近位尿細管で作られ、尿細管内に出て、ヘンレ上行脚で再吸収され、間質を移動して遠位ネフロンで再び尿中に排泄される。
近位尿細管で1分子のglutamineから2つのNH4+と2つのHCO3-が出来る。酸を排泄するにはHCO3-をNBCe1(Na+-HCO3- co-transporter)で間質に残す一方、NH4+を尿細管に捨てなければならない(NH4+が間質に残ると差し引きゼロになってしまう)。アンモニアがNH3として細胞膜を透過して尿細管に出るのか、NH4+として出るのか、NH4+はNHE3(Na+-H+ exchanger)を介して出るのか、詳しいことは分かっていない。
ただNH3とNH4+の電離定数pKa'は9.15で、pH 7.4下にNH3はアンモニア全体の1.7%に過ぎないし、NH3には極性があるのでリン脂質の細胞膜をそれほど容易には透過しないかもしれない(vasa rectaにある尿素チャネルUT-BがNH3 gas channelでもあるという論文が最近でた、doi: 10.1152/ajprenal.00609.2012)。
いずれにせよ、膜を透過したNH3は酸性尿のH+とくっついてNH4+になる。尿細管内腔にトラップされたNH4+は、ヘンレ係蹄上行脚でなんとNKCC2(とapical K+ channel)から再吸収される。というのも、NH4+とK+は大きさや電荷がほぼ同じだからだ。そして基底側のNHE4から間質に戻ると考えられている。
間質のアンモニアは、永らくNH3分子として組織を漂流し、集合管を透過して内腔にたどり着きNH4+になると考えられていた。しかし最近になってRhBG、RhCGが発見された。RhBGもRhCGも赤血球上でRh血液型を決定するRhAGの従兄弟だが、これらは腎臓・肝臓・腸などアンモニア輸送に関わる臓器に発現している。
腎集合管でRhBG、RhCGは酸・アルカリ排泄を司る介在細胞により多く見られ、内腔側にも基底側にもある。RhBG、RhCGがNH3チャネルなのかNH4+チャネルなのか意見が分かれ、今後の研究が待たれる(私には、NH3として内腔に出てH+をバッファーしているように思われる)。RhCGは慢性アシドーシスで酸排泄のニーズに応えて発現が増えるなど、調節メカニズムもありそうだ。
近位尿細管で1分子のglutamineから2つのNH4+と2つのHCO3-が出来る。酸を排泄するにはHCO3-をNBCe1(Na+-HCO3- co-transporter)で間質に残す一方、NH4+を尿細管に捨てなければならない(NH4+が間質に残ると差し引きゼロになってしまう)。アンモニアがNH3として細胞膜を透過して尿細管に出るのか、NH4+として出るのか、NH4+はNHE3(Na+-H+ exchanger)を介して出るのか、詳しいことは分かっていない。
ただNH3とNH4+の電離定数pKa'は9.15で、pH 7.4下にNH3はアンモニア全体の1.7%に過ぎないし、NH3には極性があるのでリン脂質の細胞膜をそれほど容易には透過しないかもしれない(vasa rectaにある尿素チャネルUT-BがNH3 gas channelでもあるという論文が最近でた、doi: 10.1152/ajprenal.00609.2012)。
いずれにせよ、膜を透過したNH3は酸性尿のH+とくっついてNH4+になる。尿細管内腔にトラップされたNH4+は、ヘンレ係蹄上行脚でなんとNKCC2(とapical K+ channel)から再吸収される。というのも、NH4+とK+は大きさや電荷がほぼ同じだからだ。そして基底側のNHE4から間質に戻ると考えられている。
間質のアンモニアは、永らくNH3分子として組織を漂流し、集合管を透過して内腔にたどり着きNH4+になると考えられていた。しかし最近になってRhBG、RhCGが発見された。RhBGもRhCGも赤血球上でRh血液型を決定するRhAGの従兄弟だが、これらは腎臓・肝臓・腸などアンモニア輸送に関わる臓器に発現している。
腎集合管でRhBG、RhCGは酸・アルカリ排泄を司る介在細胞により多く見られ、内腔側にも基底側にもある。RhBG、RhCGがNH3チャネルなのかNH4+チャネルなのか意見が分かれ、今後の研究が待たれる(私には、NH3として内腔に出てH+をバッファーしているように思われる)。RhCGは慢性アシドーシスで酸排泄のニーズに応えて発現が増えるなど、調節メカニズムもありそうだ。
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