2020/03/19

高カルシウム血症の新たな鑑別

 38歳男性。20歳代から尿路結石の既往あり、ESWL・経皮的切石術をうけたが両腎に結石が残存(石の成分は100%リン酸カルシウム)。血液・尿検査は以下であった。

iCa 1.35mmol/l
iPTH 3pg/ml
Cr 1.3mg/dl
25(OH)VitD3 40ng/ml
1,25(OH)2VitD3 100pg/ml

 尿pHは6.0、尿中Ca排泄量は400mg/d、尿中シュウ酸・クエン酸・リン排泄量は基準値内であった。 


Q:診断は(CJASN 2013 8 649をもとに作成)?


 本例の高カルシウム血症は軽度(およそ10.8mg/dl、こちらも参照)であるが、結石患者でもあり、カルシウム代謝に関わる何らかの異常を示すサインと受け止めたい。そのうえ高カルシウム尿症(300mg/d~、こちらも参照)を伴っているのだから、なおさらだ。

 なぜカルシウムが高いのか?iPTHが「適切に」抑制されており原発性副甲状腺機能亢進症は除外される。しかし、25(OH)VitD3が基準値範囲内なのに対して1,25(OH)2VitD3値が高い(60pg/mlまでを基準値としている施設が多いようだ)。

 1,25(OH)2VitD3は、下図のようにCYP27B1遺伝子にコードされた1α-水酸化酵素によって25(OH)VitD3から作られる。





 この酵素遺伝子は主に近位尿細管で発現しているが、1,25(OH)2VitD3が上昇する腎疾患はないか、あっても稀だ(Dent病など、こちらも参照)。それよりも考えたいのはサルコイドーシスなどの肉芽腫疾患だが(マクロファージにも発現しているので)、本例では検索され否定的だった。だとすると・・?


 A:CYP24A1遺伝子の変異


 じつは上図には続きがあって、下図のように25(OH)VitD3と1,25(OH)2VitD3はCYP24A1遺伝子のコードする水酸化酵素によって不活性化される。




 CYP24A1遺伝子に異常があると1,25(OH)2VitD3が分解されないので、たまる(25のほうは、他にも不活性化する酵素があるので、あまりたまらないとされている)。

 診断の手がかりは:

尿路結石や腎石灰化
骨密度も低い
高カルシウム血症・高カルシウム尿症
PTHが低い
正常程度の25(OH)VitD3
1,25(OH)2VitD3が高い

 など。こうした例で肉芽腫を除外後にVitD3の分解産物である24,25(OH)2VitD濃度を測定して低値を示し、CYP24A1遺伝子異常の同定に至る流れが多いようだ。

 治療として、通常の結石予防に加えて、P450代謝酵素であるCYP24A1の抑制を意図したケトコナゾール(J Clin Endocrinol Metab 2012 97 E423)・フルコナゾール(Clin Kidney J 2015 8 453)が試され、長期内服の安全性が検証されている。

 最初の報告は2011年に幼児症例だったが(NEJM 2011 365 410)、成人症例の報告も相次ぎ、異常SNPの頻度は4-20%とも言われる(CJASN 2013 8 649)。そのためか、最近は米国腎臓学会のフォーラムなどでも鑑別に挙がるようになってきた。




 まだ米国も含めて24,25(OH)2VitDが測定できる施設は限られているが、原理的には1,25(OH)2VitDと同様に測定できるはず。今後、結石・高カルシウム血症の鑑別として知名度が上がってゆけばより身近な検査になるかもしれない。

 



2020/03/18

少し時代に乗って ~COVID-19と腎臓 part1 ~

現在日本や世界でも新型コロナウイルス(COVID-19)がとても騒ぎにはなっている。

一般診療においても様々な情報が飛び交っていると思う。
個人的にはプライマリ・ケア学会の資料(添付)はよくまとまっているのではないかなと思う。これから、様々な合併症の報告も出てくるのかもしれない。
また、英語の資料では様々なものが出ているがACPの資料がいいかもしれない。また、CRITICALCARE NORTHAMPTON.COMのサイトは非常に色々な情報がまとまっているのでとてもわかり易い。

あとは、Hopkinsが出しているCOVID-19のMAPなどは非常に見やすいので現状を把握する上では非常に理解がしやすい。

まずは、一般的な情報を簡単におさらいをしていこうと思う。
以前2003年に流行したSARSや2012年に流行したMERSも今回と同じコロナウイルスで有るということは既知の事実であろう。下図はそれらをまとめたものになる。

下表は一般的なCOVID-19の症状になる。
やはり発熱の割合が多い。


下表はCOVID-19の採血検査になる。
白血球上昇は少なく、血小板はやや低下する。その中でリンパ球は減少している。LDH上昇とCRP高値、CK高値などがある。プロカルシトニンは正常で肝機能は30%の患者で上昇する。

ここからは、腎臓という観点からもちろん見ていこうと思う。
まだまだ分かっていない部分も多いとは思うが分かってる範囲で記載をしてきたいと思う。

COVID-19感染と腎臓
まずは、AKIの発生についてみていく。
以前のSARS、MERS(両者ともコロナウイルス)でのAKIの発生率は5-15%であったと報告され、ただ、AKIにまで至った例では60-90%と高い致死率が報告されていた。
それに比べると、まだ報告は十分ではないがCOVID-19でのAKI発生率は3-9%であり多少前者より下がる(JAMA2020)。

COVID19とAKIリスク

しかし、最近の報告では、感染者の中で血清Crが15.5%の患者で増加し、また14.1%でBUNが上昇したと報告がある。また、最近の報告でCOVID19で入院した710人の患者で、入院時にタンパク尿+血尿が44%に認められ、26.7%に血尿だけ認められたという。

ここまでのまとめ:
現段階ではAKIになるリスクはあり。発生率ははっきりはしていないが感染患者の10%前後。ただし、AKIになった場合は非常に死亡率が高くなる。
COVID19とmortality

AKIの原因は?
明確になっていない部分が多いが、多臓器不全やショックと共に起こることが多く、急性尿細管壊死(ATN)が一番の原因と考えられる。
2005年のSARSのときには横紋筋融解症も少ないが報告されていた。

治療に関しては?
基本的には対症療法となる。AKIに関してもまずは血圧コントロールをおこない、体液管理も行い、必要時に腎代替療法を開始する。

現在出ている治療に関しての報告:
・現在、RamdesivirのTrialが中国で開始され、2020年4月には終了するというから驚きである。この薬は抗ウイルス活性を有する開発中の核酸アナログ薬になっている。
・リン酸クロロキンが中国の他施設研究でCOVID19関連肺炎に対して有効だったという報告も有る。
報告によっては血液灌流(Hemoperfusion)がサイトカイン除去に有効に働いたのではないかと言われている(6L/hrの大量の血液灌流が敗血症患者の炎症性サイトカイン(IL-6)などの除去に有効だったという報告による)。
・ステロイドに関してはSARSの際のメタアナリシスからも、ステロイド投与による利益よりも害のほうが多いということが報告されている。そのため、COVID-19でも推奨はされていない。
・COVID-19に罹患したが回復した人の血漿を投与することで臨床症状の改善を認めたあという報告があり、中国では現在他施設RCTでこの研究が進行中である(NCT04264858)。
・モノクローナル抗体であるトシリズマブがCOVID-19感染に有効かを中国では他施設RCTで行われている(ChiCTR2000029765)。
・また、COVID-19はACE2の受容体に結合する特性があり、その点でACE-IやARBは有効かという議論が有るがこれに関しては結論が出ていない。

治療のまとめ
まだ色々な情報が出ているが確固たるエビデンスのある治療はない。

次回はCOVID19と透析や移植について少し触れたいと思う。

現在色々と活動にも制限がかかる中、日々診療にあたっているみなさんも体調にはぜひ気をつけてください。


2020/03/13

PEXIVAS

 「重症のANCA関連血管炎:AAVには血漿交換:PLEXに加えて免疫抑制療法」この常識もついに変わる日が来るのか。
 
 以前から注目を集めていた研究の結果がNEJMに掲載された。AAVは無治療の場合1年以内に80%程度が死亡していたが1967年にステロイド、1979年にサイクロフォスファミド: CY、その後リツキシマブなど免疫抑制剤を使用する寛解導入療法により死亡率は減少した。しかしながら、死亡率の改善に伴い末期腎不全への進展や免疫抑制剤の長期使用による副作用による合併症が問題になってきている。

 加えて1990年代以降PLEXが登場し、2007年のMEPEX研究の結果を受けて、AAV患者に対してCr≧5.8ないしびまん性肺胞出血を認められた場合は、血漿交換を行うという方針が打ち出された。

 PLEXはいるのか?
 免疫抑制療法は何とか減らせないのか?
 
 論文のPICOは、P:重度ANCA関連血管炎の患者に対して、I, C:血漿交換の有or 無と経口グルココルチコイドを標準量 or 減量 の2×2の介入、O: 複合エンドポイント(死亡 or 末期腎不全)

 結果は、
 PLEX有 28.4%と,PLEX無 31.0%に複合エンドポイント発生した。(ハザード比 0.86,95% [CI] 0.65~1.13,P=0.27)
 
 グルココルチコイドの減量レジメンの標準用量レジメンに対し非劣性であった。(11 %の非劣性マージンが設定され, 複合エンドポイント は減量群の27.9%と,標準用量群の 25.5%に発生し絶対リスク差 2.3%,90%[CI] 3.4~8.0と非劣性マージンを下回った。)

 大雑把に把握すると、今回の患者群に対しては、PLEXの有無は死亡ないし末期腎不全への進展に関しては関係なく、減量レジメンと標準レジメンでも差がないということにある。

 ただし、注意点はいくつかある。

 ・欧米ではAAVということは従来、GPAないしmPAのことを指す。
 ・重度の定義は「eGFR<50 or 肺胞出血が認められる」ことである。
 ・ANCA関連血管炎の定義は「ANCAが陽性である or 気管支鏡の所見で肺胞出血が証明されたもの」である。
 ・腎臓への影響は尿沈渣ないし腎生検で活動性を評価されており全例腎生検をしているわけではない。
 ・肺胞出血患者の数は少なくpower不足の可能性がある。

 では日常のプラクティスにどう落とし込むか、特に日本の市中病院だと、ANCA陽性で転院してくる場合、初診ないし再診で謎の急速進行性糸球体腎炎として患者に出会うことが想定される。

 ANCA陽性で転院してくる場合は研究通りの患者群であれば、血漿交換は使用せず、ステロイドは減量レジメンで良さそうである。ただし肺胞出血がある場合は施設によっては使用しても良いかもしれない。

 初診ないし再診で謎のRPGNとして対応する場合は、鑑別としてGoodpasture症候群も含まれる。こちらに関しては、PLEXの有効性が現時点ではありと判断されているため、鑑別できるまではPLEXを行うという選択肢となるだろう。

 これまでの常識を改めて検討する試みは重要である。


表:PEXIVAS試験でのステロイド標準レジメンと減量レジメン
体重毎に目安を表示、最初は全例IV、23週目以降で全てのPSL量が5mgとなる、52週目以降の内服は各施設に任せている点に注意

 




 

Critical care nephrology ~ShockとAKI~

今回は題名どおり、「ショックとAKI」について考えていく。

まずは症例を一緒に解いて、そこから考えてみよう!
症例:
65歳女性
咳・発熱・低酸素血症でクリニックを受診。迅速検査にてインフルエンザA陽性であり、オセルタミビルの内服加療開始したが、症状悪化傾向認めたため救急外来を受診。そして集中治療室に高度発熱・胸部レントゲンでの多発性肺野陰影・挿管管理が必要な呼吸不全にて入院となった。
血液培養検査、気管支肺胞洗浄を施行→MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)が両方から検出
入院後経過:
2L(30ml/kg)の外液の補液加療と適切な抗菌薬加療にもかかわらず、低血圧が持続。右内頸静脈から中心静脈カテーテルを挿入。MAP(平均血圧):45mmHg、CVP(中心静脈圧):11mmHg、ScVO2(中心静脈酸素飽和度):89%、動脈血乳酸濃度:10.2mmol/l、尿量:10mL/hrであった。

質問:次に行うマネージメントとして適切なのはでどれだろう?
1:ノルエピネフリン投与と下肢挙上テストを補液反応性かどうかを見るために行う。
2:ドパミン投与を開始する。
3:CVPが12cmH2Oを超えるまで補液を継続し続ける
4:体液過剰による危険性があるため、患者は30mL/kgでの補液投与はすべきではないし、さらなる補液も必要ない。
5:ScVO2が70%を超えているので、組織酸素運搬は適切であり追加の治療は必要ない。



正解は 1 

皆さんは正解にたどり着いただろうか?
少し、わからなかったよ〜という人のために、解説も交えて行こうと思う。

まず、ショックについて
ショックは循環不全をきたし、それに伴い組織循環不全、組織での酸素利用ができなくなる病態である。収縮機血圧<90mmHgやMAP<70mmHgの場合、いつもの血圧より40mmHg以上下がった場合などがショックと判断される。

ショックは4種類のタイプに分かれる。
・血液分布異常性ショック(Distributive shock)、循環血液量減少性ショック(Hypovolemic shock)、心原性ショック(Cardiogenic shock)、閉塞性ショック(Obstructive shock)


治療について
・まず、ショックの原因を把握することは重要。
治療の基本原則は細胞外液の補液を行い必要があれば血管作動薬を用いる。

モニタリングに関して
 −CVP、ScVO2:敗血症性ショックの際にこれらを指標にして補液量を決定することはもはや推奨されていない(ARISE, ProCESS, ProMISe trialの結果から)。ScV02>85%と高いと予後が悪いことが示されている。→3と5は間違いであるとわかる。
 −肺血管抵抗圧:有用性は示されておらず、逆にカテーテル関連感染の増加や不整脈や肺血管障害などを引き起こしうる。肺高血圧の時には検査の有用性は示唆されている。

上記のモニタリングとは異なり、補液反応性を見る方法はとても有益である。
補液反応性を見る方法として、動脈圧波形分析法(pulse contour analysis)、食道ドップラーや経胸壁ドップラー、バイオインピーダンス測定、PLR(Passive Leg Raising動画)などがあり、最近の報告ではPRLが最もいい動体分析とされている。なので、1は正解!!
しかし、各々の検査はそれぞれに特有の限界があるということと、ショックにおける補液管理は全ての可能なデータを用いながら用いることが重要である。


血管に働く薬として、全身の血管抵抗を上げる血管作動薬と心拍出量を増加させる循環作動薬がショックの治療には用いられる。心原性ショックの場合には全身血管抵抗を低下させる薬剤が用いられる。(下図参照)


ノルエピネフリン(カテコラミンの1種)は敗血症性ショックでは第一選択で用いられる薬剤である。これは様々な研究やメタ解析によってノルエピネフリンはほとんど頻脈(ほとんどが心房細動)を起こさずに、ドパミンに比べて全死亡率を下げたという研究に基づいている。このことから、選択肢2は間違い。

バソプレシンはV1受容体を介して血管収縮を起こし、カテコラミンで反応しないショックに対して有用に働く。そのため、敗血症性ショックにおいてはカテコラミンを使用して第2に使用する薬剤であり、また、心臓血管手術後の血管拡張性ショックに有効な薬剤である。バソプレシンはカテコラミンに比べて心房細動をより起こしづらいという利点がある。バソプレシン使用で低ナトリウム血症が生じるか懸念があるかもしれないが、臨床研究では報告はされていない。VANISH trial(敗血症性ショックに対してバソプレシンとノルエピネフリンを腎機能をアウトカムとしてみたもの)では、バソプレシン使用群では腎代替療法の必要な頻度を減らしたが、さらなる研究が必要で、この結果があったとしても基本は現時点では敗血症性ショックに対してはノルエピネフリンが第一選択である。

アンジオテンシン2もバソプレシンと同様に非アドレナリン作用で血管収縮を生じさせる。本邦では承認されていないが、海外では血管拡張性ショックの有用性の報告から敗血症性ショックで使用されているようだ。ここの部分に関しては、非常にわかりやすいトライアルのまとめがあるのでリンクを貼っておく。

これらの血管に働く薬はMAP≧65mmhgを目標にして投与される。
このMAPのゴールに関しては、MAPを上げすぎた方がいいかということに関しては、研究(NEJM 2014)でMAP高くする事での有用な結果は出ていない。ただ、慢性的に高血圧のある人ではMAPの設定を高くした方が腎代替療法の必要な割合が減るという報告がある。ただし、心房細動の頻度も増えるというおまけ付きではあるが。。

今回はShockとAKIについて触れてみた。
絶対見なくてはいけない疾患であり、薬剤選択もぜひ復習していただきたい。


2020/03/12

僕たちのMGRS 5/6(診断)

また、前回から期間が空いてしまったが今回は診断について記載をしてみたいと思う。

さて、今までの内容は、
僕たちのMGRS:
 ・MGRSをめぐる混乱の中から
 ・1/6 (歴史)
 ・2/6 (定義)
 ・3/6 (分類)
 ・4/6 (病理)
とまとめてあるので参考にしていただきたい。

今日は診断について話を進めていく。
流れとしては、
『①MGRSを疑うか?→②検査・尿検査はどうか?→③腎生検』となる。

①では、まずどのような人を疑うのか?
MGRSを疑う人:
・「非腫瘍性、もしくは前腫瘍性のモノクローナルガンマグロブリン血症があり」+「腎障害(腎機能低下やタンパク尿)がある」

②検査について
ここでは、モノクローナルガンマグロブリン血症を診断するための検査について述べたいと思う。
*単クローン性免疫グロブリン検査について
・血液と尿の電気泳動検査(SPEP・UPEP):最初の検査



・免疫固定(Immunofixation):これもSPEP/UPEPと同時に検査する。
原理:SPEP、UPEPで指摘したM蛋白がどの免疫グロブリンの増殖に由来するかを検出
通常は1種類の重鎖と軽鎖が検出される。電気泳動と抗原抗体反応を組み合わせた蛋白の同定法。



・遊離軽鎖検査(Free light chain assay):免疫固定でもわからない軽鎖の上昇を判断
血中の重鎖と結合していない軽鎖(κ、λ)を計測する。κ/λ比の正常値は0.26-1.65で、この範囲外である場合はいずれかの軽鎖が増殖していることを示唆。重度腎障害(CKD stage5以上)の際には0.34-3.10まで上昇



これらの検査結果は、腎疾患のタイプや重症度との関係ははっきりはしていないが、診断や予後決定の上で重要である。


Nature review nephro 2019


上記のようにMGRSを疑うような人に対して腎生検施行することを考慮する。

③上記の中の腎機能障害や尿異常などに関しては下記のように考えると理解しやすい。
・とくに腎生検を推奨する場合(下記の中の一つでもあれば):


・腎生検を中等度推奨する場合(下記の中の一つでもあれば):


①まずはMGRSを疑うかどうか?
      ↓
②採血検査や尿検査ではどうか
      ↓
③腎生検をして病理検査を確認

という流れになる。

今日は世界腎臓デイ、みんなでお祝いしましょう!
今年のテーマは
kidney health for everyone everywhere – from prevention to detection and equitable access to care.”
なので、しっかりと診断をして治療につなげることは非常に重要になる。

次回は最後の治療について、是非楽しみにしてください。


2020/03/03

Critical care nephrology ~敗血症とAKI~

少し症例も提示しながらCritical care nephrologyで遭遇しやすい疾患を見ていく。

症例1
高血圧の既往が有る68歳女性が、発熱・嘔吐・混迷で救急外来に受診。
来院時バイタル:体温 39.3℃、血圧 130/59 mmHg、心拍数 98回/分、呼吸数 26回/分、SpO2 92% (室内気)
身体所見:指示に従えない、右CVA叩打痛あり
血液検査:WBC 2200/μl、Cr 2.3mg/dL (Base line 0.7)、尿白血球数 >50/視野以上
画像検査:非造影腹部CT検査 結石などなく大きな問題なし
ICUに入院となった。

質問:患者のAKIの原因で最も正しいのは?
A:血流量低下に伴う虚血性急性尿細管壊死がAKIの原因である
B:敗血症の定義に入らないため、AKIの原因は敗血症ではない
C:血圧が正常なため、AKIの原因は敗血症ではない
D:AKIになることで入院中の二次性の感染リスクが増加する。
E:敗血症によるStage 3のAKIであるため、準緊急の腎代替療法が適応になる前に腎代替療法をしたほうが利点が大きい。

いかがだろうか?

ここでの正解はD

少し解説も兼ねてこのAKIを紐解いていければと思う。

・まず、ICUの場面ではどのようなものが一般的にはAKIを引き起こしやすいのか?
→敗血症、心臓手術、急性肝不全、腹部コンパートメント症候群、肝腎症候群、悪性腫瘍、心腎症候群 などがあげられる。

まとめた表を下記に示す。
AJKD2020より

今回の症例では、腎盂腎炎による敗血症が病態としては疑われる。

敗血症:
敗血症に関してはSepsis-3(JAMA2016)によると
「感染症に対する制御不能な宿主反応によって引き起こされた、生命を脅かす臓器障害で、臨床的にはSOFA score 2点以上」で定義される。
(ICU外ではqSOFAで2点以上:①呼吸数が22回より多いか?②収縮期血圧が100mmHg未満か?③意識変容をみとめるか?を各1点としてみている。)
(ICUではSOFA scoreでみている。)

今回の症例ではqSOFAで呼吸数異常、意識変容があり敗血症の定義を満たすためBの選択肢は不適当である。

敗血症でAKIになることは適切な治療や介入をしない場合に、死亡や慢性腎不全に至る可能性も高い疾患である。それを、わかりやすく示したものが下記の図になる。

KI 2019より引用

では、なぜ敗血症でAKIになるか? これについては正確にはまだわかっていない。

以前は、AKIになる理由として、循環不全になり、急性尿細管壊死(ATN)を起こすことによると考えられていた。
しかし、動物実験では腎血流量は敗血症では低下しない事がわかっている。また、敗血症性AKIで亡くなった人の剖検でもATNを起こさず比較的腎臓の組織は保たれていた。

敗血症性AKIは血圧低下がなくても生じうる。(選択肢Cが間違いであるとわかる)

敗血症性AKIの機序については、下記の機序が言われている(図参照)。
・1つ目は血管に関する機序であるが、シャントができることによって糸球体への血流量が低下する。

・もう一つは炎症に伴う機序である(①~③の順に進んでいく。)
①敗血症ではDAMPs/PAMPs(Damage associated molecular pattern/Pathogen  associated molecular pattern)が敗血症では産生され(DAMPs/PAMPsは組織損傷や微生物侵入の痕跡を示す)、糸球体を通過する。

②通過したDAMPs/PAMPsは尿細管上皮に有るTLR(Toll-like receptor)にくっつき、サイトカインや活性酸素(ROS)や酸化ストレスや内皮活性化を起こす。内皮活性化によって白血球や血小板の移動を生じさせ、血栓形成や血流を停滞させる。また、グリコカリックスの障害や凝固カスケードの亢進が生じる。

③尿細管上皮細胞の傍分泌(paracrine)によって、尿細管細胞のアポトーシスを避けるために細胞活動性を停止させ、最終的にはTGFフィードバック(尿細管糸球体フィードバック)を介して、輸入細動脈の収縮を起こし腎血流量を低下させる。
KI 2019より引用
はっきりとしていない部分も多い。
ただ、Septic-AKIは単純な血流低下に伴うATNではないということの認識は重要である。
(Aは異なる選択肢とわかる。)

治療に関して
適切な時期の抗生剤投与、原因コントロール、適切な体液管理は敗血症患者の予後を左右する上で重要である。
透析を早期にしたほうが良いか?に関しては、下記の研究をみていただければと思う。
ELAINでは早期に透析をしたほうがいいという結果は出たが、その他の2つの研究では早期の透析導入の優位性を示すデータはない(以前に投稿)。
なので、現状ではSeptic AKIの場合でも緊急透析導入の適応を前倒ししてまで緊急透析を導入する根拠はない。(選択肢Eは間違いとわかる)
AJKD2020より

今回は、Septic AKIの内容だけになってしまったが、少しこのような形でCritical care nephrologyを振り返れればと思う。

2020/02/28

Critical care nephrology 腎臓が悪くなるのを知るために。

今回から少しだけ集中治療と腎臓という視点で話していこうと思う。
最近良く耳にすることも多いCritical care nephrologyについて話していく。

この概念はイタリアのClaudio RoncoとオーストラリアのRinaldo Bellomoなどが集中治療領域に高頻度におこるAKIやESRDのことを指し、Intensivist・Nephrologistが手を取り合って治療していく必要性が有る。まだまだ、歴史の浅い分野であり日本での地位が確立している病院は正直少ない印象を受ける。
彼らの著書のCritical care nephrologyは必読のものである。2019年に改定されている。

はじめは集中治療とAKIを早期に認識することについて触れたいと思う。
最近の研究で、97施設1800人の集中治療患者で患者の57%が1週間以内にAKI(ステージを問わず)に進展したという報告があった。そのなかで、39%が重症AKI(KDIGO stage 2 or3)、13.5%が腎代替療法を必要とした。


集中治療領域でAKIになることは死亡率を上げるリスクファクターとして知られている。
腎代替療法を必要とするAKIの死亡率は40-55%といわれ、集中治療領域の心筋梗塞(20%)、AKIを伴ない敗血症(15-25%)、人工呼吸器を必要とするARDS(30-40%)の死亡率(カッコ内は死亡率)より高いというのは非常に驚かされる。

しかし、AKIにだれがなるか、AKIの人で腎代替療法が必要になるかはわからない場合が多いが、その中で患者のリスク層別化をすることは重要になる。

まず、このリスクの層別化でぱっと思い浮かぶのは以前にもお話したことが有るbiomarkerである。

しかし、このbiomarkerを使用する上で注意するべき点が有る。
それは、やたらめったらと取らないことである。
ん?どういうこと?なのかというと、検査前確率が高い人に行うべき検査であるということである。

その他に用いられるリスク層別化としては下表のものになる。
少し下に解説を入れていきたい。
1:Clinical risk prediction score
 下記のスコアで5point以上であればAKIのリスクが高いと判断する。
NDT 2018より
2:Computer algorithms
 これは今後AIが発達していく世の中になるであろうし、血中biomarkerよりも6時間以上早くAKIを予測したという報告も有る。

3:Furosemide stress test
  高用量フロセミド負荷(1mg/kgのフロセミド負荷、もしくは投与してある人には1.5mg/kgのフロセミド負荷)をして、2時間尿を測定し200ml/2hrをカットオフとして判断する(感度87%、特異度84%)。

このようなリスク層別化のツールを用いながらAKIのリスクをしっかりと想起することはわれわれにとっても大切だし、AKIになると患者さんの死亡にも寄与するため、その対抗策を講じることは非常に重要である。

今回はCritical care nephrologyの最初の部分をかたった。

腎臓内科の医師は基本的にはクレアチニンなどの数字に踊らされることはないと思うが、尿も含めて患者をトータルに見れる視点を持つことが非常に重要である。


2020/02/26

尿中オートブルワリー症候群

 米国内科学会誌で、尿中オートブルワリー症候群(urinary auto-brewery syndrome)なる症例が初めて報告され(DOI: 10.7326/L19-0661)話題になっている(下図はネット上も含めた引用度を示すAltmetrics、日を追うごとに上がっている)。




 オートブルワリーとは、体内で真菌などが発酵・醸造してエタノールを産生してしまう稀な病態をいう。オートブルワリーがあると、飲酒をしていなくても各種エタノール検査が陽性になってしまうので、社会医学・法医学的に問題になる。

 今回の症例も、肝移植のリストに載せるどうかが争点となって見つかった。患者は肝硬変・コントロール不良の糖尿病をもつ60歳代の女性だが、断酒していると主張しているにもかかわらず尿中エタノールが陽性のため他施設でリストに載らず、論文著者の施設にやってきた。

 しかし、飲酒していれば上がるはずの血中エタノール濃度や代謝産物が陰性であり、よくみると尿中に大量のグルコース(1000mg/dl以上)と多数の出芽酵母(Candida glabrata)がみられ、尿中のオートブルワリーが疑われた。

 そこで論文著者らは患者の尿を採取し、遠心して上清と沈殿(酵母を多く含む)に分けて、それぞれを異なる温度の培養器に入れた。すると24時間後には、沈殿の検体から大量のエタノール(37℃で816mg/dl)が検出された。

 発酵を抑制するフッ化ナトリウムで抑制されたことから、エタノールは酵母の発酵で作られたと結論された。そして、移植リストに載せるかについても「再検討」されることになった(血糖や感染など課題が多いので、少なくともすぐには載らなかったのだろう)。


 法医学の世界ではすでに、死後に尿中で菌が発酵してエタノールが検出されうることが知られていたが、存命患者の症例報告は今回が初という。大量の出芽酵母と尿糖のある患者じたいはどの国でも珍しくないうえ、今後SGLT2阻害薬の使用が広がれば、こうした事例を目にする機会が増えるのかもしれない。

 なお、尿中エタノールが検査に出せない場合は、尿浸透圧ギャップが手がかりになるかもしれない。が、その際には「計算上の尿浸透圧」を求めるときに尿糖(mg/dlなら18で割る)を加えるのを、お忘れなきよう(以前の投稿では含めなかったので!)。


 

 





2020/02/21

移植後にMMFの血中濃度気にしていますか?

腎移植後の免疫抑制剤のときの血中濃度について腎臓内科医が考えることとして、

1:タクロリムスの血中濃度の定期的な測定は重要であり必要である。

2:Mycophenolate mofetil(MMF)の血中濃度は測定する必要性は低い

と考える場面が多いと言われていた。
実際、私も今まではこのように考えて診療をおこなってきた。ただ、違う施設にきてから2の血中濃度をしっかり測定していること(タクロリムスはトラフ濃度、MMFはAUC濃度)に非常に関心をして、今回の記事を書いてみようと思った。

今回の記事に関してはTransplantation 2019の論文が非常にまとまっており、この論文を中心に記載をしようと思う。

まず、薬物の話でありPKとPDを簡単に復習をしよう。
・PK(PharmacoKinetics):
投与された薬物がどのように吸収され、組織に分布し、代謝され排泄されるのかを解析している。

AUC24h:血中濃度時間曲線下面積:体内に取り込まれた薬の量を示す指標
Cmax:最高血中濃度


・PD(Pharmacodynamics):
薬物の作用部位における薬物濃度と薬物効果をみている。


MMFに関しては、当初は固定量をしっかりと投与(Fix dose)すればいいと考えられていたが、PKの点において、個体差がかなり大きいことが分かってきた。人によって10倍の差があると報告もされている。
なので、MMFに関してはTDM(Therapeutic drug monitoring)を行うことが良いとされている。とくにAUC 0-12h がいいのではと言われている。

では、一般的な薬において、固定量を投与したほうが良いか?AUCを測定し投与量を決定したほうが良いかに関しては、下記の図を見るとわかりやすい。


この図では、DrugA~Cは固定量、DrugDではAUC測定し量を決定が推奨されている。

理由としては、DrugDは非常にばらつきがある(投与量によっていい効果にもなりうるし、効果がなかったり毒性などの悪い効果もでる。)
→なので、DrugDなどは、TDMを測定しAUCなどを見る意義がある。

DrugA~Cは固定量でもいい(ただ、DrugBは量を多めにする必要があるし、Cは少なめにする必要がある)

このようにばらつきが多いものはTDMを行う必要性が有る。

前置きが長くなってしまったが、今回の論文は
1 MMFを投与することとAUC 0-12h の関連性
2 MMFを投与し、AUC 0-12h を行うことでの毒性の減少に寄与するかを検証している。

この2つに関して、過去の研究を検証している。



結論から書くと、
MMFのAUC 0-12h は薬剤効果を知る上で、投与量よりも有用なマーカーになりうる。ただ、AUC 0-12h をやることのデメリットとしては採血の回数の多さと入院が必要になることである。
MMFを固定量で投与することによって、薬剤過量や過少になったり、毒性を誘発するリスクは高くなる。
なので、基本的にはMMFに関してはAUCを行いう薬剤の調製を行う必要がある。

今回のことを踏まえながら、僕の診療も少しずつ変えていければ良いなと思う。



2020/02/18

ナトリウム異常症(低ナトリウム血症、高ナトリウム血症)の時の計算式、ADHの重要性。

みなさんの興味のあるナトリウム異常症(低ナトリウム血症、高ナトリウム血症)

今回は、AJKDのcore curriculum seriesのを紹介したいと思う。
このseriesは、無料で提供されており非常に内容もまとまっている。また、Essential readingという読んでおくべき論文も提示してあり、個人的には大好きなSeriesである。

今回ナトリウム異常症に関しての論文が出ていたので少しかいつまんで。

個人的には、まずはナトリウム異常症に必要な公式から。
下記が主なものになる。

■Plasma osmolality(血漿浸透圧), mOsm/kg H2O:
  =(2 × [Na+] (mEq/L)) + BUN (mg/dL)/2.8 + glucose (mg/dL)/18

■Plasma tonicity(血漿張度), mOsm/kg H2O: 下記のどちらでも
   =Measured plasma osmolality (mOsm/kg H2O) − BUN (mg/dL)/2.8
   =(2 × [Na+] (mEq/L)) + glucose (mg/dL)/18

■Edelman formula, simplified:
     [Na+] = (eNa+ + eK+)/TBW(体液量)*
                                  *TBW=0.6×体重

■Urine to serum electrolyte ratio: Ratio>1では、飲水制限でも悪化し、生食投与でも
                               悪化することを示唆
     =(UNa + UK)/[Na+]


■Infusion rate, hypertonic saline solution: 1 mL/kg/h増加させるためには
    = [Na+] 1 mEq/L/h

■Infusion rate, D5W, to relower [Na+]:高Na血症のときに低下させるには0.5mEq/hr
                        ( 12mEq/day )で低下させる場合
    =2 mL/kg/h

■Free-water deficit:
    =TBW (L) × (([Na+]/140 mEq/L) − 1)
        *TBW=0.6×体重

■Electrolyte-free water input(EFWI)
     =Infusion volume × (1 - (INa + IK)/[Na+K])

■Electrolyte-free water clearance(EFWC):
     =Urine Volume × (1 − (UNa + UK)/[Na+K])

■Electrolyte-free water balance(EFWB):
     =EFWI ー EFWC

Front med 2018より引用
生体はEFWBをうまくコントロールしながらナトリウム異常を起こさせないように働いている。

やはり、ナトリウム異常症に重要なADHについて。
ADHの分泌刺激としては、ご存知のように一番は張度の変化である。
下の図の白丸(○)に記載してあるように、高張度になることによってADH分泌が生じる。
次の刺激が血管内循環血液量の減少である。
これは下の、黒丸(●)に記載してあるように血管内循環血液量の減少が刺激になる。


ちなみに、低ナトリウム血症でADHが出ている場合は、低ナトリウム血症自体多くは低張度であり、ADH刺激としては循環血液量減少が関与しているか不適切にADHが分泌している場合(SIADH)であるとわかる。

低ナトリウム血症の際にADHがでているかを判断する材料としては、Uosmになる。
1:Uosmが上昇している場合にはAVPが何らかの関連をしているんではないか?と考えることが重要である。
2:その後に、UNaを測定して循環血液量がどうかを判断する。UNa>30mEq/Lであれば、尿中にいらないNaを出している状態(利尿剤などは使用していないことが前提であるが。)なので、循環血液量減少はないと判断することができる。


なんにせよ、ナトリウム異常症はADHの概念を掴むことが非常に重要になる。


2020/02/17

急性腎不全のマーカーについて、新規で報告されたsuPARとともにに考える。

今回、2015年にSuPARと慢性腎不全でNEJMに発表したグループからSuPARと急性腎不全という話題で論文が出た。
一つのことをしっかり続けていく重要性を実感する論文である。

急性腎不全に関しては様々なマーカーが有る。
NGAL、KIM-1、IGFBP7、TIMP-2

AKIのバイオマーカーに関しては浜松医大の安田先生の記事がとてもわかり易い。これに関しては必読するべきである。

CJASN 2015より引用
CJASN 2015より引用
上図はAKIのバイオマーカーについてまとまっている2015年の論文になる。

suPARは通常では様々な細胞(内皮細胞、足細胞、単球、リンパ球など)に僅かにしか発現していない。このsuPARの上昇が腎機能障害に関連することは様々な研究からも示されている(CJASN2018など)。


このsuPARの上昇とAKIの関連性を見たのが今回の話になる。

今回のものは、
患者:AKIとしては冠動脈造影後、心臓血管術後、集中治療患者を主に見て、
Outcom:suPARの血中濃度を用いながらprimary outcomeとして7日目の急性腎不全のリスク評価、secondary outcomeとして90日でのAKIと死亡をみている。

追加で行ったこと:ウロキナーゼ型プラスミノゲンアクチベータ受容体(uPAR)に対するモノクローナル抗体が造影剤AKIのトランスジェニックマウスに対する効果を検討し、ヒト腎近位尿細管(HK-2)細胞に組換えsuPARを曝露させ、細胞のエネルギーの検証と活性酸素産生を検討した。

結果としては、下記になる。
4分位群(CAG後のAKIの割合をみてもの)に関してはModel3にいくほど、多変量解析になっている。その点でModel3の結果を見ると、Primary outcomeのsuPAR増加とAKIの発症の相関は認められた。
心臓血管術後、造影剤使用後も同様の結果が得られた。
NEJMより引用

また、野生株(Wild type)とsuPAR transgenic(ヒト腎近位尿細管(HK-2)細胞に組換えsuPARを曝露)株マウスで、造影剤(iohexol)投与したものと、造影剤+uPAR抗体を投与したものをみたものが、下表のものになる。
造影剤投与で悪化は認めるが、suPAR transgenic株では、尿細管拡張などが見られている。
造影剤+uPAR抗体では、suPAR transgenic株の尿細管拡張所見が明らかに抑えられている。
このことから、suPARを抑えることで腎障害が改善しており、過剰発現の際には腎障害になりやすいことがわかる。
NEJMより引用

今後、このマーカーが使われる日が来て、治療でuPAR抗体を使う時が来るのだろうか。抗体製剤なので、きっと高額であろう。AKI治療で改善をする可能性も高い中で、どこまでその治療をしていくのか?
まずは、AKIからCKDに移行しやすいリスクの層別化を行い、その後治療をというのが未来の治療なのかもしれない。

2020/02/14

とりあえずじゃダメな輸液

 70歳女性。10日前に発熱あり、前医で抗菌薬を処方された。以後、解熱したが咳がつづき、数日前から咳き込むたび吐くようになった。食思不振を心配した家人が「点滴を希望して」受診させた。発熱なし、血圧120/60mmHg、脈拍60/min。


Q1:とりあえず、どうしますか?



 
 外来・救急室で抗生物質くらいよく聞かれるであろう、点滴のお願い。点滴に益はあまりないが、害もあまりない(抗生物質とちがって耐性菌が増えるわけでもない)から、このようにバイタルに問題のない症例でも、お願いを叶えてしまいがちだ。

 また、血液検査をオーダしたあと看護師さんから「輸液もつなげますか?」と聞かれることもあるだろう。静脈路が必要なら採血と一緒に取ったほうが便利だし、患者さんも痛くない。

 しかし、残念ながら「とりあえずの輸液」にも害がないわけではない・・(なお、1Lの輸液が生死を分けるかもしれない話として、他にSALT-EDスタディも参照されたい)。


Q2:以下ですが、どうしますか?

Na 122mEq/l(←138mEq/l)
Cr 1.8mg/dl(←1.0mg/dl)

 Q1で低張の維持液を選択したなら、いまごろ低Na血症を増悪させているだろう。AKIを合併しており、食思不振・体液量減少にともなう腎前性を疑いたくなる。では、高張の細胞外液を輸液すればよいだろうか?


Q3:以下ですが、どうしますか?

体重 52kg(←49kg)
診察 下腿浮腫あり
BNP 1000pg/ml(←100pg/ml)

 よく診ると、もともと本例には心不全の既往があり、食べなくなったのは(ウイルス感染による)心不全増悪のため悪化した、咳のためだった。AKIも同様に、腎うっ血にともなうもの(+RAA系阻害薬の影響)と考えられる。

 だから細胞外液を輸液することは、患者に害になると考えられる。RAA系阻害薬を中止して利尿薬を点滴するのが適切だろう。結果、咳はおさまり、体重・Crもベースに戻り、食事が摂れだし、低Na血症も改善した。


 そもそも最初からよく話を聴いて診察していれば、こうはならないのだが・・。忙しい診療では反射的に対応してしまうこともある。大切なのはフォローして考えなおすことだと、痛感する。そしてそれこそが、医師が「点滴屋さん」と違うところなのだと、信じたい。
 



2020/02/07

救急室と酸塩基 後編

前編からのつづき:AG開大・浸透圧ギャップの開大した著明なアシドーシス症例で、尿馬尿酸が陽性。どういうことですか?)


 馬尿酸といえば、トルエンの代謝産物だ。体内に曝露されたトルエンは、肝臓でメチル水酸化・酸化されて安息香酸となり、さらにグリシン抱合により馬尿酸になる(下図も参照)。そして、主に馬尿酸として腎から排泄される。





 体内に入った有機物質のうち、荷電していない分子は、浸透圧ギャップを上げる。しかし、代謝されて陰イオンになってしまえば、そのぶん血中からHCO3-イオンが減るので、浸透圧ギャップは閉じる。そして、そのかわりにアニオンギャップが上がる。

 だから、トルエン分子じたいは浸透圧ギャップを上げるし、代謝された馬尿酸イオン(hippurate)はアニオンギャップを上げる。

 ただし、通常は肝臓がすばやくトルエンを代謝してしまうので体内にトルエンは残らない(浸透圧ギャップはあがらない)ことが多い。また、馬尿酸イオンも腎臓がすばやく排泄してしまう(糸球体ろ過だけでなく、尿細管から能動的にも排泄される)ので、アニオンギャップも上がらない。

 しかし、摂取後短時間であった場合や、摂取が大量の場合、さらに、肝機能や腎機能が低下している場合(搬送後まもなくショック・無尿となった、など)には、体内にまだまだ代謝前のトルエンや排泄前の馬尿酸イオンが残り、両ギャップは上昇する。


Q5:尿アニオンギャップは、いくつですか?

尿Na    97mEq/l
尿K      60mEq/l
尿Cl     73mEq/l

 尿アニオンギャップは、尿Na+K-Clで、84mEq/l。信じられない値である。そもそも尿アニオンギャップは、陽イオンであるNH4+を推定するためのもので、酸排泄に問題がなければ負の値になる。

 それがここまでプラスに振り切れているのは、尿中にNH4+がないからではなく、未知の陰イオンが溜まっているからだ(血液のアニオンギャップと同様に考えればよい)。本例では、馬尿酸イオンや安息香酸イオンと考えられる。


Q5:尿浸透圧ギャップは、いくつですか?

尿浸透圧     602mOsm/kg
尿尿素         245mg/dl
(尿糖      陰性)

 計算から求められる尿浸透圧は、尿尿素/2.8+(尿Na+尿K)×2で、401mOsm/kg。よって、実測値と201mOsm/kgのギャップがある(正常値は10-100mOsm/kg)。このうち半分が陽イオンのNH4+と考えられ、のこりの半分に馬尿酸イオンや安息香酸イオンがふくまれる。よって本例では、NH4+濃度は100mEq/l程度と考えられる。

 トルエン中毒による典型的な「AG非開大」代謝性アシドーシスでは、大量のNH4+イオンが場尿酸イオンとセットで排泄されるので、ギャップが400mOsm/kg以上(尿NH4+が200mEq/l以上)に振り切れることも珍しくない。本例は、そうなる前なのだろう。


 なお、トルエンによる「AG非開大」代謝性アシドーシスは、世界中で腎臓内科のクイズや試験として頻出される、超人気トピックだ(米国腎臓学会でのクイズは、CJASN 2014 9 1132など)。本ブログでも何度か言及しているので、こちらこちらも参照されたい。


Q6:それで、どうしますか?


 典型的なAG非開大性代謝性アシドーシスでは、馬尿酸イオンとともに大量に排泄されるNa+とK+を補うことが治療の本幹となる。そのため、輸液による体液補充も、最初は重曹が避けられるほどだ(低K血症を増悪させるため)。

 しかし、本例のようにAG開大・浸透圧ギャップ開大症例の治療となると、趣きが異なる。未代謝のトルエンが大量に溜まっており、しかも尿中排泄もできず、全身状態が不良となると、やはり透析で除去するしかない。

 さらに、意識状態悪化や痙攣重積にでもなれば(トルエンは、言うまでもなく中枢神経にも影響をおよぼす)、呼吸性アシドーシスの予防と治療に、気道確保と人工換気(強制的な過換気)も避けられないだろう。

 こうしてアシドーシスを治療しているうちに、ショックを脱して腎機能が回復して脳予後良好に回復してくれればよいが、そのように救えるタイム・ウィンドウが限られていることもある。

 Kussmaul呼吸を診断するのには1分も掛からないし、血液ガスの結果が出るのも数分。そのあと、ABCを保ちながら最短・最適に動けるか。救急室の酸塩基は、スリリングだ。







2020/02/05

救急室と酸塩基 前編

 50歳男性、呼吸苦で救急要請。以前に過換気症候群で搬送歴あり。体温36C、血圧110/60mmHg、脈拍70/min、呼吸数28/min(SpO2 100%RA)、深く大きな呼吸。傾眠がち。検査室から、血液ガス分析の異常値が報告された:

pH          6.80
pCO2     29Torr
HCO3    4mEq/l



Q1:アシドーシスは、代謝性ですか?呼吸性ですか?


 呼吸数が多いときには、過換気症候群や呼吸不全だけでなく、代謝性アシドーシスの呼吸性代償(二次性変化)も疑う必要がある。アドルフ・クスマウル先生(1822‐1902、写真)が糖尿病性ケトアシドーシスの症例で報告したことでもお馴染み、Kussmaul呼吸だ。


(出典はこちら

 
 本例も、著明な代謝性アシドーシスがあり、pCO2も正常範囲から下がっているので、呼吸性代償が起きていると思われる。しかし、代償が不十分なことは、あまりにも低いpHからも明らかだ。

 代償で期待されるpCO2は、ウィンターの式をつかえば14Torr(4×1.5+8)。ΔHCO3とΔpCO2との関係から求めても、16Torr(40-20×1.2)であり、それ以上にpCO2がたまっている。このことから、呼吸性アシドーシスも合併している。


Q2:アニオン・ギャップは開大していますか?いませんか?

Na     144mEq/l
K       4.4mEq/l
Cl      104mEq/l
Alb    4.7g/dl 

 アニオン・ギャップは、Na+ClーHCO3とすれば、36mEq/lで開大している(カリウムを含める方もいる;低アルブミン血症はないので、その補正は不要だ)。ΔAGは24、ΔHCO3は20だから、ほぼAG開大代謝性アシドーシスといってよさそうだ(こちらも参照)。

 pHが7未満でショックも心肺停止もない、意識障害を伴う、AGの著明開大・・。なにか飲んだのだろうか?患者に聞いても、答えてくれない。様子を知る付き添いの方もいない。酒臭くもない。中毒に詳しい救急スタッフもいない。狭める方法はないか。
  

Q3:浸透圧ギャップは、開大していますか?いませんか? 

BUN      23mg/dl
血糖      197mg/dl
血清浸透圧(実測)   366mOsm/kg

血清浸透圧の基準値は280-290mOsm/kgであるから、あきらかに実測の血清浸透圧が高い。そして、それに見合ったナトリウムやBUN、血糖上昇がないことから、血中に未測定の浸透圧物質が存在すると考えられる。

 計算してみよう。予測される血清浸透圧は、327mOsm/kg(144×2+23/2.8+197/18)。したがって、実測浸透圧とのあいだに、39mOsm/kgのギャップがある。

 アニオンギャップと浸透圧ギャップがどちらも開大する物質として代表的なのは、メタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコールなどだが・・。





Q4:これ、どういうことですか?

尿馬尿酸  1.29g/l

 つづく。



(hippoはギリシャ語ではウマ、英語ではカバ)