今回は通常よくみる低ナトリウム血症のケースを一つ取り上げて、考え方の共有などができればなと思う。
症例:
特に大きな既往のない45歳男性が、全身性の強直間代性痙攣で救急搬送。到着時は痙攣は頓挫していた。病歴は言えずに、また友人、家族や目撃者はいなかった。身体所見上、意識は混濁あるが、神経学的に大きな異常所見はなかった。
血液検査所見
白血球:11000、Hb:12.6、血小板:32万、BUN:50、Cr:2.7、血清Na:102、K:3.6、Cl:56、血糖:2150 mg/dL、乳酸:9.2
静脈血液ガス:pH 7.26、pCO2:59、HCO3:27
尿ケトン:陰性
比較する前値の検査所見はなし。
まず、この症例を見て異常な高血糖に驚くが、解釈を一つずつしていこう。
今回の血液ガス所見は、呼吸性アシドーシスとアニオンギャップ上昇代謝性アシドーシスの合併が認められる。呼吸性アシドーシスは意識障害に伴うものが考慮された。
低ナトリウム血症で腎臓内科がコンサルトを受けた。
では、低ナトリウム血症を考えるにあたって、基礎的な用語を再度復習する。
・Osmoles:液体中の分子またはイオンの粒子
・Osmolality:kgあたりのOsmolesの数(有効物質、非有効物質ともに)
・Osmolarity:literあたりのOsmolesの数(有効物質、非有効物質ともに)
・Osmosis:単純な水の動き(tonicityの低い方から高い方への水の移動)
・Tonicity:kgあたりの有効物質の数でOsmosisを決定している。
OsmolalityとOsmolarityは基本的には、Osmolalityのほうが正確は高いと言われる。理由は体重は変動が少なく、literだと水が揮発した場合など変動があるためである。PracticalなのはOsmolarityといわれている(ここの概念はこのYoutubeがおすすめ!)。
有効物質と非有効物質に関しては、細胞間同士の半透膜を通過する物質か、しない物質かによって分かれる。通過しない物質は有効浸透圧(Tonicity)格差を形成する有効物質になる。
有効物質としては、ナトリウムがあり、非有効物質としては尿素、エタノール、グリシン、他のアルコールなど。
今回問題になっている糖に関しては、適切なインスリンがあれば糖は速やかに細胞内に吸収されるため、非有効物質となるが、インスリン欠乏の状態だと血糖が有効物質になってしまう。
今回の症例の採血での浸透圧は350mOsm/kgであった。
低ナトリウム血症の際には、ナトリウムが有効浸透圧形成物質であり、通常は低張性(、もしくは等張性)になることが多い。低ナトリウム血症の際に、まず血清浸透圧をチェックする必要がある理由は、他に何か有効物質がないかを鑑別に考える必要があるためだ。
通常、低張性低ナトリウム血症が多いが、低張性でない場合には、次のステップで考える。
①高血糖の存在がないかを確認。(この場合は等張性もしくは高張性)
②通常非有効物質である、尿素、エタノール、グリシンやそのほかのエチレングリコールなどの中毒性のアルコールなどはないか?(この場合は等張性もしくは高張性)
③上の原因がない場合に偽性低ナトリウム血症を考慮して、脂質(TG,TC)やタンパクなどをチェックする(下図参照)。
血漿中に固体の成分(脂質や蛋白)が多いために、フレーム発光分光分析法による測定ではナトリウム濃度が低下しているように測定されてしまう。 |
この症例では、高血糖が著明にありそのほかの原因は採血検査では否定された。
では、この症例の場合に測定浸透圧は350mOsm/kgで、血糖が実際はどれくらいなのかを考えたときに、
計算浸透圧=(2×Na)+ (GLU (mg/dl) / 18) + (BUN (mg/dL) / 2.8)
となる。浸透圧ギャップが10として測定浸透圧ー計算浸透圧=10と考えると
350 - 10 = 2×102 + 50 /2.8 + GLU/18
→GLU = 2124 mg/dLとなる。ほぼ血清と合致する。ちなみにギネス記録は2656mg/dLらしい。
では、この低ナトリウムが血糖によってどれほど変化しているのか?
通常は血糖が高値の際に下表のように計算を行う。
そうすると、この症例では血清Naは、 {(2124-100)×1.6}/100 + 102 mEq/L =134mEq/Lとなる。
なので、この症例がコンサルトされた場合に、高血糖による低ナトリウム血症 (偽性低ナトリウム血症ではないので注意!!)であるとわかる。
高血糖の場合の低ナトリウム血症は、有効浸透圧格差により細胞内から細胞外へ水移動が生じる。それに伴い希釈され低ナトリウム血症になっている。
低ナトリウム血症を見たときに、SIADHやBeer potomaniaなどのかっこいい名前の鑑別をまず挙げるのではなく、しっかりと基礎的なことから考えていくのはとても大切なのかなと感じる。
ちなみに症例はHHSの症例であった。