すべてのCKD患者の貧血が腎性貧血ではないように、すべてのCKD患者の浮腫が腎疾患によるわけではない。そこで本稿では、浮腫の原因の一つである静脈還流障害について少し紹介したい。
まず、静脈還流は下図のようになっている。泌尿器科医には常識だろうが、みぎ性腺静脈はIVCに直接注ぐのに対して、ひだり性腺静脈はひだり腎静脈に注ぐ。また、尿管周囲には尿管自身を栄養する静脈叢がある(ので、剥離しすぎに要注意である)。
(こちらから引用) |
ただし、IVCには稀ながらさまざまな奇形が知られている。放射線科医には常識だろうが、たとえば腎静脈より尾側のIVCが無形成だと、静脈還流は下図のように体表静脈・奇静脈・半奇静脈などの側副路を通る。
(Insights Imaging 2015 6 631より) |
また、肝部下大静脈が閉塞したものはBudd-Chiari、ひだり総腸骨静脈がみぎ総腸骨動脈の下を通るところが閉塞したものはMay-Thurnerとよばれる。いずれも症候群であり、先天的な血管奇形だけでなく、後天的な血栓などによっても起きる。
(左はこちら、右はこちらから引用) |
さらに後天的な要因としては、妊娠、IVCフィルターのような医原性(9年前にも紹介した)、腫瘍(胃・肝・膵・腎などがおおい)による浸潤や圧排もある。これらをまとめて、「SVC症候群」ならぬ「IVC症候群」と呼ぶこともあるようだ(こちらも参照)。
このように静脈還流障害はさまざまな部位と原因によって起こる。そこで、血管外科医には常識であろうが、CEAP分類がある(1994年作成され2004年改訂された、J Vasc Surg 2004 40 1248)。まずCは臨床徴候で、
C0:視診や触診ではわからないC1:毛細血管拡張や網目状静脈瘤C2:静脈瘤C3:浮腫C4a:色素沈着や湿疹C4b:脂肪皮膚効果や白色萎縮C5:治癒した静脈潰瘍C6:活動性の静脈潰瘍
疼痛、緊満、皮膚刺激、重だるさ、足つりなどの症状があるとS、ないとAがつく(C6, Sなど)。つづいてEは原因で、
Ec:先天性Ep:原発性Es:二次性(結果ではなく原因としての血栓症)En:静脈に原因を同定できない
Aは解剖で、
As:表在静脈Ap:穿通枝Ad:深部静脈
であるが、Advanced CEAP分類ではさらに以下の18カテゴリーに分類している。
- 毛細血管拡張・網目状静脈瘤
- 膝上の大伏在静脈
- 膝下の大伏在静脈
- 小伏在静脈
- 伏在静脈以外の表在静脈
- 下大静脈
- 総腸骨静脈
- 内腸骨静脈
- 外腸骨静脈
- 骨盤内静脈(性腺静脈、広間膜静脈、その他)
- 総大腿静脈
- 深大腿静脈
- 大腿静脈
- 膝窩静脈
- 下腿以遠の静脈(前脛骨静脈、後脛骨静脈、腓骨静脈)
- 筋間静脈(腓腹静脈、ひらめ静脈、その他)
- 大腿の穿通枝
- 下腿の穿通枝
最後にPは病態で、以下のように分類される。
Pr:静脈逆流Po:静脈閉塞Pr,o:静脈逆流と静脈閉塞Pn:静脈に病態を同定できない
「ハンマーを持っていると全てがクギにみえる」ように、CKD外来で浮腫を診れば反射的に利尿薬を処方したくなるかもしれない。しかし実際にはこうした静脈還流異常をもつ患者もいると思われ、自戒を込めて紹介した。お役に立てれば幸いである。
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じつは、今年最初の投稿も浮腫でした(こちらも参照)。それから色々ありましたが、年末も同じように「この患者さんの浮腫はなんだろう?」と考えることができています。
とても、有難いことだと思います。ほんとうに、何気ない日常こそが「キセキ」だと痛感させられた一年でした。
そんななか不要不急の本ブログを読んでくださっている皆さまには、感謝の気持ちでいっぱいです。どうぞ、お元気で!来年も、よろしくお願いいたします。
(こちらより引用) |