2012/06/29

ユリア 3/3



 副作用は、急激なNaレベルの上昇だが、これはバプタンでも同じことだし、osmotic myelinolysisが起きたという報告はいまだない。胃が荒れることがある(ので、以前使ったことのあるうちのスタッフは胃粘膜保護薬を併用していたらしい)。あとは、塩とちがってvolume overloadにもならないし、尿毒症にもならないし、furosemideと違って低K血症にもならない。
 そんなわけで安全で安価で有効な薬ユリアだが、まさに「良薬口に苦し」。苦みが唯一の難点だ。ベルギーでは、85%位の患者さんが飲み続けられるらしい。米国では、どうにも合わないらしい。ただうちのスタッフが患者さんに使っていた時の経験では、みんな苦いけど結構いけたらしい。ドイツ系移民が多いところだからだろうか。
 ここまでユリアを勧めるからには、最後に「そもそもマイルドな低Na血症って治療する必要あるの?」という疑問に答える必要がある。というのも、ことmortalityについては「患者さんは低Na血症と共に亡くなるのであり、低Na血症によって亡くなるわけではない」からだ(CJASN 2011 6 960)。症状についてはどうか。これまたベルギーの同じグループが研究した論文がある(Am J Med 2006 119 71 e1)。
 一つ目の研究は、retrospective case-controlで、control群のほうがacute illnessが多かったにも関わらず低Na血症の群でより転倒が多かった(adjusted odds ratioは67、95%CI 7-607)。二つ目の研究は、マイルドな慢性SIADHの患者さんに治療を止めたり再開したりして異なるNaレベルでtandem walkさせたら、低Na時にはふらふらだった。これは、普通の患者さんに約1Lのビールに相当するアルコールを摂取させた群と比べてもずっとふらふらだった。こんな楽しいスタディをするベルギー、私は研修先を間違えたのだろうか…。
 この話はスタッフとフェローに好評だった。やはり、皆が知っていることを話しても面白くない。こういう新しい(古きを温めるのも含めて)ことで、臨床診療を変えうることを話すと刺激的だ。実際には私がコンサルトで経験したSIADHの症例を冒頭に挙げて、聴衆が身近に治療選択について考えられるように仕掛けした。論文を批判的に考察する際に"take a grain of salt"(英語の慣用句)と言ったら、低Na血症の話をしていただけに偶然にも受けた。ある先生は"or urea!"と言っていた。おしまい。

ユリア 2/3

 薬用のユリアは粉状で、苦みがとても強いのでオレンジジュースなどに混ぜて飲む。EditorialのDaniel Bechet医師(Montrealの人)が試したところによると「格別においはないが、苦味は強い」とのこと。また別の論文では「北アメリカの味覚に合うことはまれ」と書かれている(JASN 2008 19 1076、冗談かと思うが学術雑誌でもこういう楽しい文章を目にすることがある)。ベルギーといえばビールが有名だし、苦くても平気なのだろうか。
 ユリアは、solute excretionをあげることでosmotic diuresisを起こし、たとえ尿浸透圧が変わらなくてもfree water clearanceを上げることができる(JASN 2008 19 1076)。Free water clearance = solute excretion/Uosm x (1 - Uosm/Posm)に示されるように、溶質排泄量はfree water excretionのmain determinantだからだ。
 たとえば尿浸透圧600mOsm/kgの人が、1日600mOsmの溶質を摂取していたならば尿量は1L/dayだが、ユリア30g(分子量60なので、500mmol)を摂取すれば1日の摂取量は1100mOsmとなり尿量は1.8L/dayに増える。実際には、たとえADH存在下で腎臓が水を再吸収しようとしていても、溶質が増えると尿浸透圧は下がる(JASN 2008 19 1076)。
 そんなわけでユリアの有効性は理にかなっており、アメリカでも昔はつかわれていた。SIADHへの有効性を示したベルギーのグループによる1980年の症例報告(Am J Med 1980 69 99)でも、ユリア90g/dで尿量が1L/dayから3L/dayに増え、Naレベルも一気にあがった(~15mEq/L/day、怖くなるほどだが何も起こらなかったらしい)。
 また同じベルギーのグループが急性低Na血症の入院診療にユリアを用いたスタディ(restrospective)でも、ユリアはNaレベルを上げるのに有効だった。これはSIADHのみならず、すべての低Na血症が対象であった(原因ごとに治療効果に差があったかは書かれていない)。ほかにも、稀な病気だが腎臓内科(と小児科)なら関係あるNephrogenic Syndrome of Inappropriate Antidiuresis(バソプレシン受容体2のgain-of-function mutation)は、バプタンは効かないがユリアは前述の理由で強制水利尿を起こし効く(J Pediatr 2006 148 128)。つづく。

ユリア 1/3

 今回は、面白いJournal Clubをする事ができた。おそらくトピックがよかった。また、通常30分のトークを、たまたま他に話す人がいないので内容と時間を増量することができたのもよかった。Academic positionを目指すなら、どこに行こうとも面接とレクチャがセットになっているので、こういうチャンスを逃さずに長いトークの練習をすることが大切だ。

 さて今回取り上げた論文は、"Efficacy and Tolerance of Urea Compared with Vaptans for Long-Term Treatment of Patients with SIADH"(CJASN 2012 7 742)だ。ユリア(urea、尿素)もバプタン(vaptan、バソプレシン受容体拮抗薬)もうちの病院では滅多に使わない。とくにユリアはもはや米国ではすたれた診療で、簡単には手に入らない。

 慢性で中等度のSIADHに外来でバプタンを処方すれば患者さんに莫大なお金がかかる。それで、利尿剤と水分制限と塩でなんとかやるわけだが、ベルギーのグループは米国では忘れられたユリアを使い続けており、今こそそれを再び世界に問う時期だとこの論文を発表した。CJASNのeditorialまで付いた注目記事だ。

 ベルギーのある病院では、バプタン登場とともに慢性SIADHの患者さんをSALT-2などの治験に参加させていたのが、治験が終わると製薬会社が薬をくれなくなり困っていた。そこで、バプタンとユリア、どちらが有効なのか比べてみようと始まったのがこのスタディだ。13人の患者さんに、1年間バプタンを試し、約一週間バプタンを止め、Naレベルが下がってから1年間ユリアを試した。

 結果は、基本的にNaの上昇率に差はなかった。バプタン治療は一人が口渇が強すぎてやめてしまったが、ユリアは全員が中止せずに飲み続けた。血中尿素窒素(BUN)は人によって100mg/dlを越えたが、ユリア自体は尿毒物質ではないので何も起こらなかった。ユリア内服中の一人、89歳の男性が肺炎に掛かってNa 155mEq/lになったが、Naは何事もなく下がり、肺炎治療後にユリアの内服を再開した。つづく。

Prophylactic dialysis before cardiac surgery


 以前からちょこちょこ話題になっている、心臓手術前の透析についてレジデントがまとめて発表した。まず問題の重大さについてだが、データの質にはばらつきがあるが術後のAKIと術前のGFRが死亡率のリスク因子であることは確かだ(Am J Nephrology 2010 31 408)。その原因の一つは、人工心肺による腎の灌流障害とされている(Perfusion 2006 21 209)。腎臓は脈打つ血流が好きで、laminar flowは嫌いなのだ。
 それなら術前に透析してクレアチニンを下げたって術中術後の腎障害は防げないのでは(off pump CABGにすれば?)?と思える。しかしOff-pump手術とon-pump手術の成績を比べた大規模randomizedスタディがついこないだNEJMに載ったが(NEJM 2012 366 1489)、術後30日で透析を要する新しい腎不全を発症する率は両者で差がなかった(1.2%、1.1%)。
 それは30日を待たずにより多くの患者さんがon-pump群で亡くなったから?とも考えられるが、死亡率にも両者で差がなかった(2.5%、2.5%)。クレアチニンが0.3mg/dl以上あがる急性腎不全(AKIN stage 1以上)の率は、off-pump群のほうが少なかった(28%、32%、HR 0.87)も関わらず、死亡率は変わらなかったのだ。
 なので、透析をする→急性腎不全を予防する→術後死亡率を下げる、という方程式の中にある二つの矢印は、どちらも定かではない。しかし、慢性腎不全に透析する→術後死亡率が下がる、と信じている心臓外科医はいる。上述のデータでは、術前に透析を要する腎不全のある人の(死亡、脳梗塞、心筋梗塞、腎不全のco-primary outcomeに対する)HRは0.38だが、患者数が少ないので95%CIは0.11-1.36と、統計的に有意な差は示せなかった。
 他にも質は低いがsingle center studyのデータはある。国外では、トルコが三本似たような論文をだした。文章も方法もほとんど同じな位かぶっているので一つ紹介するが(Ann Thorac Surg 2003 75 859)、これはrandomized prospective studyで、治療群21例は術前72時間以内に2回の透析を行い、術後もクレアチニンが10%あがれば透析した。
 コントロール群23例は術前に透析せず、術後はクレアチニンが50%上がらないと透析しなかった(そもそも我々はクレアチニンに基づいて透析はしないわけだが…)。年齢、既往、手術の種類や時間はどれもマッチしたと彼らは主張し、結果は治療群で急性腎不全(乏尿またはクレアチニンがbaselineから50%以上あがる)が有意に低く(4%、34%、p=0.02)、入院死亡率が有意に低かった(4%、30%、p=0.04)。
 しかしちょっと待ってほしい。術前に透析すればクレアチニンが下がるのは当たり前で、術後に腎不全があってもクレアチニンは低いままかもしれない。死亡率についても、如何せん患者数が少ないので説得力には乏しい。
 米国ではWest Virginia大学の心臓外科医グループが術前透析をしていて、彼らのretrospective case-control studyが紹介された(Ann Thorac Surg 2009 87 1085)。GFRが30以下の患者さんで彼らが必要と判断した場合には1-2回の術前透析をおこなっているらしい。また、術前の透析有無にかかわらず、一部の患者さんには術中UFを行っている。
 結果は、入院死亡率に有意な差はなかったが(10%、25%、p=0.29)、脳梗塞と主要な合併症(死亡、脳梗塞、多臓器不全、敗血症、心筋梗塞、重症術創感染のどれか)の率は有意に低かった(p=0.004、p=0.013)。スタディの質の低さはさておき、脳梗塞とその他合併症が低かったのはなぜか?volumeなのか、clearanceなのか?それは誰も知らない。
 「透析はミラクルで、良く分からないけれど術前にすると患者さんが助かる」というのは結構だ。「透析をして害になる」というのでなければ、無下に断る理由もない(無駄な治療かもしれないし、透析カテーテルに関する合併症などはあるけど)。それでうちの施設でもたまに、心臓外科医から求めがあれば透析する。ごくたまになので何とも言えないが、あまり効いてる感じはしない。
 そもそも、前の段落で書いたように、何を目標に透析しているのかわからない。volume statusを正したいのか?クレアチニンを下げたいのか?アシドーシスを直したいのか?もっとデータがあれば良いが。なければECMOのように、治療の有効性を検証せぬまま使いたい人が使うようになってしまうだろう。

2012/06/21

Thin Red Line between SLK and LTA 2/4

 では、どんな人が肝臓移植後に腎不全が残るか悪くなるのか。これがmillion-dollar questionだ。1990-2000年、つまりMELD前の時代のSRTRデータを分析してCKD(GFR30未満、あるいは透析依存)のcummulative incidentを調べた論文があり、それによれば肝移植後のCKD累積発病率は5年間で18%だった(NEJM 2003 349 931)。さらにmulti-variate Cox regression analysisを行い、年齢、移植前のGFR、移植前の透析、C型肝炎、高血圧、糖尿病などがリスク因子とわかった。

 もう少し系統的に言うと、①移植前の腎機能(肝腎症候群、それ以外の急性腎障害、慢性腎臓病、透析期間)、②CNI(calcineurin inhibitor、tacrolimusとcyclosporine)、③年齢、④周術期の腎障害、⑤C型肝炎とそれに関連した腎炎、⑥BKウイルスなどを考慮する必要がある(JASN 2007 18 3031)。もっとも、肝移植後のBK腎症はあまり多くないらしいが(Transpl Infect Dis 2006 8 102)。

 ①についてメインに取り上げると、2002-2007年のUNOSとUSRDS(United States Renal Data System)データを両方つかって肝移植までの透析期間と移植後の腎機能を分析した論文がある(Liver Transplantation 2010 16 440)。透析期間が30日未満の群では70%が移植後透析不要になり、30-60日の群で56%、60-90日で23%、90日以上で11%だった。「透析不要になったのは患者さんが亡くなったから(is this death-censored)?」という批判に答えるため各群の移植後生存率も示され、透析期間が90日以上の群を除けばsurvival curveはほぼ同じだった。

 また、2000-2005年にかけてのペンシルベニア大学のデータでは、移植前にクレアチニンが1.5mg/dl以上の期間が12週間以上続いた群で約25%が5年間でGFR以下になったのに対し、12週間未満はほんの数%しかならなかった(Liver Transplantation 2008 14 665)。しかしこれらのデータは腎機能障害の原因によって患者さんを分けていないので、「肝腎症候群(HRS)のように肝移植後に腎機能が戻ると考えられている例でも、腎不全が長引けば肝移植しても腎機能は戻らないの?」という問いには答えられない。

 HRSについては、1988-2004年にかけてのUCLAのデータがある(Arch Surg 2006 141 735)。HRSで、透析期間が30日以下で、肝臓のみ移植された80人は、術後にmedianで9日間透析を要したが、ほぼ全員(約95%)が一か月もすれば透析不要になった。ただし生き残ればの話で、この群の1年生存率は66%だった。それに対し、肝腎症候群でSLKを受けた患者さんの生存率が透析期間によって異なるかを調べたところ、8週間未満で64%、8週間以上で88%だった。例によって、これが腎臓を一緒に移植したからなのかは、分からないのであるが。

 「腎臓病の種類によって予後が違うというなら、腎生検してはどうか?」というスタディがメイヨークリニックでなされた(AJT 2008 8 2618)。2005-2008年にかけて44件のどっちつかずの症例について腎生検したところ、じつに多彩な病変が見られた。43%がHCV陽性であったせいもあるだろうが。これらは、生検しなければ分からなかったであろう、というのも血尿やタンパク尿が見られた例は約半分しかなかったし、ましてFENAはほぼ全例1%以下(underfilled kidney、門脈圧亢進により腎臓が干されているということ)だった。

 彼らの結論は、生検結果が①糸球体硬化が40%以上、②間質線維化が40%以上、③びまん性のMPGNのいずれかが見られれば腎予後不良としてSLKに振り分けるというallocation ruleが適切であったというものだ。移植後のフォローアップ(GFRなど)でみるかぎりplausibleな結果だった。inter-observer variabilityもなかったという。しかし見逃せないのは二単位以上の輸血、あるいはIR(interventional radiology)による止血手技を必要とする合併症が18%に見られたことだ。つづく。


Thin Red Line between SLK and LTA 3/4

では、肝腎同時移植のdisadvantageはないのか。私は、患者さんを肝腎同時移植でリストに載せ、一度肝臓のみのオファーが来たが「やはり腎臓も一緒がいい、きっとすぐに両方のオファーがくる」と断り、結局オファーが来る前に容態が悪化してリストから外れ、ついに帰らぬ人となった経験がある。

 もっともこんなことは普通は起こらない。ただしうちの地域では、MELDスコアの高い(29以上)患者さんがいれば、地域内なら州外からの肝臓でもその人に真っ先にあげるという取り決めがある。しかしこの取り決めには、その際腎臓は肝臓についてこないという落ち度があるのだ。州(local OPO)レベルでは、腎臓は肝臓についてくる。

 MELDスコアの高い患者さんに臓器を融通する取り決めについては、現在全国レベルで議論がなされておる。うちの地域の実験的な取り組みは、総じて肝臓病患者さんの死亡率を低下させなかったので、MELDスコアを上げて35以上で融通しようという線で話が進んでいる。何年先に導入されるかは分からないが、このルールの草案にはすでに腎臓が肝臓についてくる旨明記されているらしい。

 SLKは、腎臓のinefficient useではないのか?という懸念についても、いくつかデータがある。まず、腎臓単独で移植した場合(KTA、kidney transplant alone)に比べてSLKは成績がずっと悪い。2002-2006年にかけてのUNOSデータを分析したところ、SLKの12-month graft survivalが約70%なのに対し、KTAは約90%だった(Transplantation 2008 85 935)。SLKでは例のimmuno-protective effectによって拒絶は少ないかもしれないが、そもそも患者さん自体が亡くなっているのかもしれない。

 また、高齢(65歳以上)で移植時に透析を受けていた場合、LTAでもSLKでも1年患者生存率は他の群にくらべて格段に悪い。2002-2004年にかけてUNOSデータを分析したところ、SLKで約65%、LTAで約50%だった。おなじ高齢者でも、腎臓のみを移植する場合、1年患者生存率はnon-ECD腎で93%、ECD腎で91%だ。患者さんが一年以内に亡くなるのに、腎臓をあげてどうするの?(それだったらその腎臓を他の腎臓病患者さんにあげたほうがいいのじゃないの?)という疑問が起こる。つづく。


Thin Red Line between SLK and LTA 4/4

 このようにさまざまな立場からさまざまな希望があるのに、データは完全でないし、それでも肝臓のみ、肝腎同時移植、という決断を日々くださなければならない。それで、偉い人たち(国内大規模移植センター長、腎臓内科、肝臓内科、移植外科など)が集まって会議を開いた。2006年に最初に集まり、2007年にもう一度集まり、コンセンサスなるものを提唱した(AJT 2008 8 2243)。

 それによれば、①末期肝臓病患者でCKD(GFR <30)、②AKI including HRSでクレアチニンが2mg/dl以上または透析を8週間以上必要としている、③末期肝臓病患者のCKDで、腎生検が30%以上の糸球体硬化あるいは30%以上の間質線維化を示している、の三点は例外的に自動的にSLKとしてもよいだろう、ということだった(もう一つ、④末期腎不全の透析患者の無症状な肝硬変で圧較差10mmHg以上の門脈圧亢進がある場合、というのもあるが、これは別のトピックなので又の機会に)。

 まとめると、①SLKはMELD導入以後増えているが、一方で何千人の腎臓病患者が腎臓を待ちながら毎年亡くなっている。②CKD(GFR <30)あるいは原因は何であれ透析を8週間以上必要としていればSLKをというコンセンサスは現行ではリーズナブルだろう(根拠は乏しいが)。③SLKにリストすると、うちのエリアではMELD29ルール(臓器の融通)に落ち度があるせいで腎臓がついてこないので、瀕死の患者さんは肝臓単独にくらべて長く待たされるかもしれない。④全国レベルでは政治やさまざまな立場の違いからまとまりにくいだろうが、一病院のレベルでなら絶え間なく議論してデータを集めていくことで、よりよいコンセンサスが作れるかもしれない。

 以上のような内容だった。よくもまあ、これだけの内容を30分で話せたものだ。事前に、移植腎臓内科スタッフ二人による査読を受けたことが助けになった。論文を紹介するのに、どのような情報が必要で、どのような結論と批判的考察をすべきかも少しわかるようになった。いままでこれが中々できなかったのだ、つい鵜呑みにしてしまって。移植外科、肝臓内科のスタッフも来てくれて、彼らの意見も聴けたのがよかった。

 ちょっと悲しかったのは、一般腎臓内科のスタッフが余り来ず、来ても「自分には関係ない」という感じであまり発言が聞けなかったことだ。しかし逆に、移植腎臓内科のスタッフで一般腎臓内科のGrand Roundにはあまり来ないか発言しない人もいる。こうしてフェローのあいだに全方向に蓄積した知識と経験がとても重要で、一旦フェローを終えれば自分の専門以外は(とくに移植は、それをキャリアの一部に選ばない限りは)疎くなるということだ。私は、できればどちらもと考えているのであるが。終わり。


Thin Red Line between SLK and LTA 1/4

 Renal Grand Roundで、私が不得手としている「不確かな領域について話す」発表をした。テーマは、SLK(simultaneous liver kidey transplant、肝腎同時移植)とLTA(liver transplant alone、肝のみ移植)についてだ。確たるデータがないなかで、幾つかの論点を挙げ、関連するデータを批判的に考察し、現時点のコンセンサスを紹介し、自分の立場をまとめる。よい訓練になった。

 まず、SLKは2002年にMELD(Model for End-stage Liver Disease)が採用されて以来増えた。MELDは肝臓病患者さんが移植を待ちながら亡くなることがないようにリスク評価するモデルで、腎機能がとても大きなウェイトを占める。そのため二つのジレンマが生じることになった。ひとつは、腎機能の悪いこれらの患者さんに腎臓も移植するべきか。もうひとつは、腎臓病がメインで透析依存しているが軽度の肝硬変もある患者さんに、肝臓も移植するべきか。

 今回は前者のジレンマについて話した。SLKのメリットは、survival benefit、透析(が肝移植後に必要だった場合)を避ける、KAL(kidney after liver、肝移植後の腎移植)を避けるなどだ。問題は、腎機能が肝移植後にもどった場合腎臓は他に必要な人にあげればよかったということになる、肝腎同時移植は待ち時間が短いのに臓器・患者さんともに成績が悪く、腎臓移植を待ちながら亡くなっている何千人もの腎臓病患者に対して不公平ではないかということ。

 Survival benefitについては、2002-2005年にかけてSRTR(Scientific Registry of Transplant Recipients)データを分析したところ移植時に透析を受けていたLTA患者は、移植時に透析を受けていたSLK患者に比べ成績が悪かったという結果がある(AJT 2008 8 2243)。ただしこれが腎臓移植の有無による違いなのかは分からない。MELDスコアはLTA群のほうが高く(39、SLK群は31)、彼らは肝臓病がより重度だったのかもしれない。

 さらに1999-2004年にかけてのOPTN(Organ Procurement and Transplant Network)/UNOS(United Network for Organ Sharing)データを分析した論文によれば、移植時にクレアチニンが2mg/dl以上あるいは透析を受けていたLTA患者は、SLK患者にくらべて成績が悪かった(AJT 2006 6 2651)。それで2mg/dlというのが一つのカットオフになっているが、これまたobservationでありsurvival benefitと断言できるものではない。

 肝臓と一緒に移植された腎臓は、腎臓単独で移植された場合に比べて拒絶反応を起こしにくい。肝臓にはimmuno-protective effectがあるので、SLKもLTAもABOのみ合わせればHLA適合に関わらず移植できる(何とクロスマッチしない)。これがKALになると、二人目のドナーから腎臓を貰うので、拒絶を起こしやすい(Transplantation 2006 82 1298)。だから、「この人は肝臓移植後も腎不全が残るか悪くなる」と思うなら、肝腎同時移植したほうがよい(ただし移植して何年も生き残らないとこの利益は得られないのであるが)。つづく。


2012/06/18

腎移植後の高脂血症

腎移植後の高脂血症をレビューする機会があった。腎移植を受けた患者さんに長生きしてもらうためにも、移植腎臓内科医は心血管系リスクのひとつ高脂血症を何としても減らしたいのだ。手許にあるHandbook of kidney transplant(第五版、2009年)は、一般のATPIIIガイドラインとは別に「LDLが130mg/dlを越えたら薬を考慮せよ」という。
 各種免疫抑制剤が微妙に異なるprofileを持っているので確認する必要がある。ステロイドは、高脂血症、ことに高コレステロール血症をおこす。高インスリン血症による肝VLDL合成亢進、ACTH抑制による(らしい)LDL receptorの低下などが原因らしい。
 FREEDOMスタディ(AJT 2008 8 307)では、ステロイドを早くに止めたりステロイド抜きにした群で高脂血症は少なかった(高TG血症は少なく、コレステロール値は変わらなかったが抗コレステロール薬の利用が少なかった)が、rejection、graft survival、patient survivalはどれも悪かった。
 Cyclosporineは総コレステロール、LDLコレステロール値を上げ、HDLを下げる副作用がある。これはdose-dependentである。悪いことは、Cyclosporineとスタチンが馬があわず、simvastatinとの併用は禁忌(rhabdomyolysisや肝障害のリスクが高いため)、他も避けた方がよいとされる。
 Pravastatin、fluvastatin、rosuvastatinといった、cyclosporineとCYP3A4を共有しないものも同様とされる。それでか、腎移植患者を対象にfluvastatinの心血管系イベント低減効果をプラセボと比較したALERTトライアル(Lancet 2003 361 2024)でも免疫抑制剤はCNI-sparingだった。
 Tacrolimusはcyclosporineよりも高脂血症を起こしにくい。もっともtacrolimusのほうがdiabetogenicなのでタチが悪いとも言えるが。欧米多国籍スタディ(JASN 2003 14 1880)では、cyclosporineからtacrolimusにスイッチした患者群で糖尿病発生率に有意差はなかったが、フォローアップ期間が6カ月と短いからだろう。一方LDLコレステロールなどはtacrolimusにしたほうが改善し、総じてFraminghamスコアは下がった。
 いっぽうsirolimusは、コレステロールよりむしろ高TG血症を起こす。これはインスリンにより刺激されるlipoprotein lipaseの分泌を抑え、apoB100-lipoproteinの代謝などが落ちることが原因とされている。こう書くと、じゃあコレステロールは上がらないのかと聞こえるが、そんなことはない。CONVERTトライアル(Transplantation 2009 87 233)が示したのは、CNIと比べてsirolimusにconvertした群ではTGだけでなく、LDLも、さらにHDLも高かった(最初に1か月でピーク、しかし24か月たっても有意に持続)。

KDPI

 Deceased donor移植腎のオファーを受けるのは、たいてい移植外科医である。OPOが、UNOSデータベースをつかって誰にオファーするか決める。もし0 mismatch(HLA-A、B、RDがすべて適合)でPRAが低いレシピエントがいれば、米国どこでもそこに届けようとする。そうでなければ、まず近い順に声をかける。オファーを受けた移植外科医には三つの選択肢、①イエス、②腎生検しだい、③ノー、がある。

 移植腎の質は大まかにnon-ECD(extended criteria donor)、ECDに分けられる。ECDとは①60歳以上のドナー、②50-59歳で以下の二つがあるドナー(クレアチニン1.5mg/dl以上、死因が脳血管障害、高血圧の既往)のことだ。ECD kidneyは寿命が少し短いが、高齢のレシピエントには十分長い(し、ECD kidneyを含めると待ち時間が短くなる)ので移植される。

 臨床で用いられている移植腎のリスク分類はECDだけだったが、最近UNOSがKDPI(kidney donor profile index)を試験的に導入した。これはミシガン大学がdeceased donor kidneyのUNOSデータをCox regression解析して得たKDRI(kidney donor risk index)を改変したものだ(Transplantation 2009 88 231)。

 年齢、身長、体重、人種、高血圧、糖尿病、死因、クレアチニン、HCV、DCD(donation after cardiac death)を入力すると、0(もっとも良い)から100(もっとも良くない)の指数を返してくれる。80以上が大体ECDに相当する。これはまだprospectiveにはvalidateされていないが、UNOSが採用したのでこれからデータが得られるだろう。

2012/06/17

Care of the potential organ donor

腎臓内科医の移植における仕事は、レシピエントのケアであり、おどろくほどドナー(とくにdeceased donor)と臓器のprocurement(調達)には関わらない。どこからか誰かがgraftを調達して、移植する。しかし今月は少しドナーについても学ぶことができた。死(脳死であれ心臓死であれ)が迫っている患者さんがいる場合、連邦政府の法律で病院はそれをOPO(organ procurement organization)に報告しなければならない。それから、OPOが本人の意志などを確認し、家族と面談して、さまざまな準備を行う。

 主治医はどんな役割を果たすべきか。私はレジデント時代、多臓器ショックで治療の甲斐なく死が迫っていた患者さんのことでOPOから「患者さんの臓器提供意思表示についてですが」と電話が掛かって来たときに、「何を考えてるんだ、恥を知れ!」と例になく激昂したことがある。結局OPOが独自に患者さんの状態を調べ、臓器提供には不適格と判断されたようだった。主治医に拒否権はないし、今思えば無知で未熟だった。ただ生死の狭間で家族も医師も感情的になりやすいことは確かだと思う。

 脳死と診断されるまでは主治医がドナーのための治療を行い、診断後からはOPOが臓器のための(レシピエントのための)治療を行う。ただOPOは医師ではないので、臓器のための治療はICU医師が代行してオーダーする。脳死診断前に臓器のための(侵襲的な)治療をするのは許されないが、クロスマッチ等のための血液検査は家族の同意があれば診断前にしてもよい。

 臓器のための治療(organ resuscitation)は、どの臓器を提供するかにもよるが、血流と酸素化を保つことがメインだ(NEJM 2004 351 2730)。脳死の場合、心臓は動いているので心エコー、右心カテなどで心機能評価を行ったうえ、昇圧剤、補液・輸血・あるいは利尿剤を用いるほか、人工呼吸器で酸素化を保つ。甲状腺ホルモン、副腎ホルモン、インスリンなどを用いることもある。心臓死の場合、血液凝固が始まるのでヘパリンを流す。これは死亡前に始めなければならない。

 心臓死の場合、死後graftの質をいかに保つかが問題になる。ドナーが死亡してから臓器がとりだされるまでの時間をwarm ischemia timeと言い、臓器の品質や寿命を保つのにはこれが短いほどよい。家族を病室に残し、何十分でも心電図モニターをみながら完全なフラットラインになるまで待ち、そこから病室に入って瞳孔と胸部を診察して死亡診断する、というのでは遅いのである。

 臓器提供が本人の意思である以上、臓器をできるだけ良い状態でprocureすることは本人の意思に沿うことでもある。しかし、Dead Donor Ruleといって何人たりとも死亡と宣言されるまで重要臓器を取りだすことはできない(当たり前だ)。取り出せば、homicide(殺人)として米国法の裁きを受ける。それで、各施設が独自に「ここまでで死亡として患者さんを手術室に運ぶ」という線引きをしている。

 有名なのはピッツバーグ大学のUPMC protocol(J Intensive Care Med 2008 23 303)で、生命維持治療をやめようと家族と診療チームが決断したところでドナーを手術室に運び、生命維持治療を止め、2分間大腿動脈の脈を触れず、無呼吸で意識がなければprocurementを始めるというものだ。しかし、臓器の血流と酸素化を保つためふたたび生命維持装置を再開するので、そこで蘇生しているかもしれないし、脳機能がいくぶん戻っているかもしれない。UPMC protocolは待ち時間を5分に修正したが、グレイな領域であることに変わりはない。

Niacin


 ESRD(末期腎不全)の高リン血症にはPhosphate bindersを用いるが、他にNiacinが有用かもしれない。Niacinは小腸のsodium-dependent phosphate transporterを阻害することが知られており、2004年に日本グループがNicotinamideの透析患者に対する有効性を発表した(KI 2004 65 1099)。12週間の治療でmean dose 1000mg/dのnicotinamideを投与した65人の透析患者さんで、Calcium carbonateに引けを取らないリン降下(6.9±1.5→5.4±1.3)をもたらしたという論文。今読んでみるとrobustに思えるが、当時うちのJournal Clubで取り上げられた時には相手にされなかった。うちの腎臓内科は保守的で、新しい治療にそう簡単には飛びつかないのだ。

 しかし、スタッフの中には「ナイアシンは安いし、calcium-containing phosphate bindersもsevelamerも効果がない時に加えることを検討してもよい」と思っている人もいたらしく、こないだ最近のアメリカの論文(CJASN 2011 5 582)が紹介され議論になった。これは腎臓病のない患者(GFRが低くても57-58ml/min程度)約1600人を対象にした、本来はNiacinの抗高脂血症効果を調べる(そしてflushingを抑えるlaropiprantとの合剤の効果と比較する)治験を、re-analyzeしたものだ。するとナイアシン1g/d投与群でリンが下がっていた(-0.3、95%CI -0.37 to -0.29)。元の血中リン濃度が低い(3.3±0.4)ので、降下の値が少ないのかもしれないが、それでも有意な結果だった。

 Phosphate binderは、食事中のリンに結合して吸収を抑える薬なので、一日三回飲まなければならない。用量が増えると、Calcium acetate 3錠とSevelamer 3錠、計18錠/d飲まなければならない。さらにLanthanumとなると、もはや薬が食事みたいなものだ。またSevelamerとLanthanumは非常に高価だ。その点Niacinは安価で、徐放剤なら一日一錠ですむ。ほてり(flushing)がメジャーな副作用だが、少量aspirinで対応できる。元々抗高脂血症薬なので、その効果も期待できるかもしれない(ESRD患者の高脂血症とその心血管系イベントリスクは、SHARPトライアルもあって不明瞭であるが)。

2012/06/12

Predicting AKI after cardiac surgery

心臓手術後の急性腎障害を予想する方法はないものか、という質問はとても大事だ。というのも、それはindependent risk factorで、急性腎不全を起こすとmortalityが一気に60%を越えるほど高くなるからだ。心臓外科医が「術前にぜひ透析を」と言うのも無理はない。それで、いくつかのグループが予想するためのscoring systemを作った。
 最も有名なのはCleveland Clinicが作ったものだ(JASN 2005 16 162)。約3万件の心臓手術症例を対象に、術後に透析を必要した急性腎障害をアウトカムにしたリスク分析を行い、有意差のみられたリスク因子についてその度合いに応じて点を与えてscoring systemにした。
 そしてそれを実際の症例に当てはめたところROC曲線のAUC(area under the curve)は0.84と有効性がvalidateされた。今年、幾つかのscoring systemを比較したsystematic review(Ann Thorac Surg 2012 93 337)が出た。それによればCleveland Clinicのがexternal cohort validation、すなわち他施設でもよく急性腎障害を予想したとのことだ。

2012/06/07

PICC line

PICCラインが深部静脈の狭窄をきたし、腎不全の人に透析カテーテルを入れられなくなるという心配がある。この心配は鎖骨下静脈カテーテルについて特に知られていて、今では慢性腎不全患者さんには鎖骨下静脈カテーテルを避ける。
 しかしPICCラインについてはきちんとしたデータがない。どうやら起こるらしいが、どれくらいの頻度で起こるのか、誰がなるのか、留置期間は関係あるのか、どれも分からない。紹介された論文(JVIR 2000 11 1309)で示された頻度は明らかにoverestimateだし、thrombosisの頻度とstenosisの頻度はべつだ。
 しかし、最近になって米国内科学会(ABIM)と米国腎臓内科学会(ASN)がジョイントで「CKD stage 3-5の患者にPICCラインを挿入する際には腎臓内科に相談しなければならない」という声明を発表した。現時点では①本当に必要なのか見直す、②本当に必要なら最短の期間にする、としか言えない。
 というのもalternativeがないからだ。内頚静脈にsmall-bore (4Fr) tunneled catheterを入れるのを推奨する人もいる。少量ワーファリンがいいという人もいる(中心静脈ラインについてのデータはAnn J Med 1990 112 423)。いずれもデータには乏しい。

tram track

 腎病理で学んだ断片的な知識を貯めて、少しずつ様子が分かるようになってきた。"Starry sky pattern"の免疫蛍光染色は、電顕のsubepithelial deposit(hump)。"lumpy bumpy hump"と覚える。subepithelial depositはpost-infectious GNとmembranous nephropathyで見られる。基底膜の中にdepositが溜まると、銀染色で基底膜が黒色、depositはピンク色に抜けるので"tram-track"に見える。慢性腎症の典型的な蛍光染色はdiffuse global granular capillary loop IgG and C3 stain。

 HyalineとfibrinはどちらもHE染色でピンクだが、前者はtextureがhomogeneous、後者はcoarseだ。Trichrome染色で前者は青、後者は赤に染まる。尿細管が膨れて見えるが核がちゃんとしている(膨れていない)時、検体がalkalinized sample(artifact)を疑う。Bowman嚢にはBowman嚢のepithelial cellsがあるが、tubular take offに近い場所にはtubular cellsが見えることもある。また高血圧でperiglomerular fibrosisが見られることもあり、これはfibrous crescentと区別がつきにくい。

 尿細管のasymmetric vacuolizationといえばCNI toxicityが有名だが、他(toxin、ischemia)でも起こる。CNIによるものは、典型的にはvacuoleが大きく泡のように見える。BK nephropathyを疑ったときに用いる染色はSV40 large T antigen。これはポリオーマウイルス全般(BKもJCも)が染まる。podocyteとcrescentの区別がつきにくい時には、前者に特異的なprotein dropletを探すとよい。