2012/06/18

腎移植後の高脂血症

腎移植後の高脂血症をレビューする機会があった。腎移植を受けた患者さんに長生きしてもらうためにも、移植腎臓内科医は心血管系リスクのひとつ高脂血症を何としても減らしたいのだ。手許にあるHandbook of kidney transplant(第五版、2009年)は、一般のATPIIIガイドラインとは別に「LDLが130mg/dlを越えたら薬を考慮せよ」という。
 各種免疫抑制剤が微妙に異なるprofileを持っているので確認する必要がある。ステロイドは、高脂血症、ことに高コレステロール血症をおこす。高インスリン血症による肝VLDL合成亢進、ACTH抑制による(らしい)LDL receptorの低下などが原因らしい。
 FREEDOMスタディ(AJT 2008 8 307)では、ステロイドを早くに止めたりステロイド抜きにした群で高脂血症は少なかった(高TG血症は少なく、コレステロール値は変わらなかったが抗コレステロール薬の利用が少なかった)が、rejection、graft survival、patient survivalはどれも悪かった。
 Cyclosporineは総コレステロール、LDLコレステロール値を上げ、HDLを下げる副作用がある。これはdose-dependentである。悪いことは、Cyclosporineとスタチンが馬があわず、simvastatinとの併用は禁忌(rhabdomyolysisや肝障害のリスクが高いため)、他も避けた方がよいとされる。
 Pravastatin、fluvastatin、rosuvastatinといった、cyclosporineとCYP3A4を共有しないものも同様とされる。それでか、腎移植患者を対象にfluvastatinの心血管系イベント低減効果をプラセボと比較したALERTトライアル(Lancet 2003 361 2024)でも免疫抑制剤はCNI-sparingだった。
 Tacrolimusはcyclosporineよりも高脂血症を起こしにくい。もっともtacrolimusのほうがdiabetogenicなのでタチが悪いとも言えるが。欧米多国籍スタディ(JASN 2003 14 1880)では、cyclosporineからtacrolimusにスイッチした患者群で糖尿病発生率に有意差はなかったが、フォローアップ期間が6カ月と短いからだろう。一方LDLコレステロールなどはtacrolimusにしたほうが改善し、総じてFraminghamスコアは下がった。
 いっぽうsirolimusは、コレステロールよりむしろ高TG血症を起こす。これはインスリンにより刺激されるlipoprotein lipaseの分泌を抑え、apoB100-lipoproteinの代謝などが落ちることが原因とされている。こう書くと、じゃあコレステロールは上がらないのかと聞こえるが、そんなことはない。CONVERTトライアル(Transplantation 2009 87 233)が示したのは、CNIと比べてsirolimusにconvertした群ではTGだけでなく、LDLも、さらにHDLも高かった(最初に1か月でピーク、しかし24か月たっても有意に持続)。