クマさんがおしっこしないで冬眠できるのも、じん臓が一日に体液の何十倍もろ過してから不要なものを残して再吸収するのも、じん臓の替わりをしてくれる治療があるのも、すごいことです。でも一番のキセキは、こうして腎臓内科をつうじてみなさまとお会いできたこと。その感謝の気持ちをもって、日々の学びを共有できればと思います。投稿・追記など、Xアカウント(@Kiseki_jinzo)でもアナウンスしています。
2012/06/17
Niacin
ESRD(末期腎不全)の高リン血症にはPhosphate bindersを用いるが、他にNiacinが有用かもしれない。Niacinは小腸のsodium-dependent phosphate transporterを阻害することが知られており、2004年に日本グループがNicotinamideの透析患者に対する有効性を発表した(KI 2004 65 1099)。12週間の治療でmean dose 1000mg/dのnicotinamideを投与した65人の透析患者さんで、Calcium carbonateに引けを取らないリン降下(6.9±1.5→5.4±1.3)をもたらしたという論文。今読んでみるとrobustに思えるが、当時うちのJournal Clubで取り上げられた時には相手にされなかった。うちの腎臓内科は保守的で、新しい治療にそう簡単には飛びつかないのだ。
しかし、スタッフの中には「ナイアシンは安いし、calcium-containing phosphate bindersもsevelamerも効果がない時に加えることを検討してもよい」と思っている人もいたらしく、こないだ最近のアメリカの論文(CJASN 2011 5 582)が紹介され議論になった。これは腎臓病のない患者(GFRが低くても57-58ml/min程度)約1600人を対象にした、本来はNiacinの抗高脂血症効果を調べる(そしてflushingを抑えるlaropiprantとの合剤の効果と比較する)治験を、re-analyzeしたものだ。するとナイアシン1g/d投与群でリンが下がっていた(-0.3、95%CI -0.37 to -0.29)。元の血中リン濃度が低い(3.3±0.4)ので、降下の値が少ないのかもしれないが、それでも有意な結果だった。
Phosphate binderは、食事中のリンに結合して吸収を抑える薬なので、一日三回飲まなければならない。用量が増えると、Calcium acetate 3錠とSevelamer 3錠、計18錠/d飲まなければならない。さらにLanthanumとなると、もはや薬が食事みたいなものだ。またSevelamerとLanthanumは非常に高価だ。その点Niacinは安価で、徐放剤なら一日一錠ですむ。ほてり(flushing)がメジャーな副作用だが、少量aspirinで対応できる。元々抗高脂血症薬なので、その効果も期待できるかもしれない(ESRD患者の高脂血症とその心血管系イベントリスクは、SHARPトライアルもあって不明瞭であるが)。