2013/01/31

Emerald and pearl

 ESA(erythropoiesis stimulating agent)の使い方は腎臓内科と血液内科で大きく違う。透析の有無に関わらず、慢性腎臓病患者の過剰なESAを戒めるスタディNHS(NEJM 1998 339 584)、CHOIR(NEJM 2006 355 2085)、TREAT(NEJM 2009 361 2019)などがあり、腎臓内科医は使用に関し保守的だ。CREATE(NEJM 2006 355 2071)はprimary endpointに有意差がなかったがunderpoweredだ。

 さて、ESAはEpoetin-alpha(翻訳後修飾である糖鎖結合の違いでβ、δ、ωなどもあるらしい)、Darepoetin(糖鎖が二つ余計について週一回でよい)が用いられているが、先週のNEJMにpeginesatideの薬効(Hgbの上げ率)と有害事象をEPOと比較してnon-inferiorityを調べるEMERALD(NEJM 2013 368 307、透析患者)、PEARL(NEJM 2013 368 320、非透析CKD患者)スタディが載った。

 Peginesatideとは、non-EPO ESAと呼ばれるように(EPOに似て非なる)合成ペプチドのダイマーがpegilatedされた薬だ。半減期が長いので月一回でよいが、合成ペプチドに若干の抗原性があるので使用例の1.2%が抗体をつくり、その半数は薬を無効化するという(製薬会社ウェブサイトより)。

 それで結果は?EMERALD、PEARLともにPeginesatideはEPOに比べてnon-inferiorだった。いまのところ月に一回でよいという他にメリットがないし、新しい薬で何かと不明な部分もあろう。EPO受容体にくっついて、受容体の細胞内へのinternalizationを起きにくくするのか?など機序に不明な部分もある。現段階で高コストの使用を正当化する理由は少ないが、そのうち一般的になるかもしれない。

 [2013年3月追加]Peginesatideは、アナフィラキシー副作用のため市場から自主回収された。



2013/01/30

Drastic star, astral coral

 米国腎臓内科は手技をほとんどしない。やるのは(短期間用の)透析カテーテル挿入、腎生検くらい。これだって教育目的でない限りはやらないし、まったく教えないフェローシップもある。じゃあ何をしているのかというと、ひたすら頭を使っている。注意深い問診と診察、それをもとに生理学と計算式を駆使してアドバイスするのが役目だ。それでよくcerebralな(大脳を使う)科などと言われる。

 でも手技もすれば?と思うことはあって、たとえば腹膜透析カテーテルは数十年前までフェローが挿入していたという。腎動脈の血管造影も腎臓内科がやれば?と思わないこともない。というわけで、今日は腎動脈狭窄(renal artery stenosis, RAS)のお話。まず、drive-by shootingといって循環器内科医がカテの時に通りがけに腎動脈をシュシュっと造影して狭窄があればステントしていた時代がある。

 そのうえで、本当にステントして意味あるの?という疑問に答えようとDRASTIC(NEJM 2000 342 1007)、STAR(Ann Int Med 2009 150 840)、ASTRAL(NEJM 2009 361 1953)、CORAL(データ解析中)などが組まれた。レビュー(Cleve Clin J Med 2010 77 164)によればDRASTICとSTARはサイズが小さくパワー不足で、ASTRALは大規模だが「どうしてもステントしたほうがよさそうな群は(したほうが良いので)スタディから除外」という重大なselection biasがある。CORALはどうなるか。

EVOLVE

 腎臓内科医にとって最大の夢-CKDならびにESRD患者さんを心血管疾患から救うこと-をかなえるため研究は続く。私は個人的にFGF23とKlothoに希望を見出しているが、もう一つの重要なプレーヤーはPTHだ。それを抑えるcinacalcetがESRD患者の死亡率と心血管疾患を予防するかを調べた大規模スタディ、EVOLVEが昨年に出た(NEJM 2012 367 2482)。

 カルシウムを保ってもリンを下げても活性化ビタミンDをあげてもPTHが下がらない、でも副甲状腺摘出をしない(妥当なcinacalcetの適応だろう)約3600のESRD症例にcinacalcetとプラセボを投与した。しかし平均21ヶ月の追跡で、primary end-point(死亡と心血管系イベント)で両者に差はなかった。それで皆がっかりした。

 PTHを下げれば血管の石灰化が緩和され心疾患予防に効くはず、というのは理にかなっている。なんとかポジティブな結果を引き出そうとsub-group analysisが行われ、「よく見ると効いている」などと宣伝されている(Nephrology Times 2012 5 1)。が、薬の高コストを考えると(2014年までにはESRDの包括医療費に組み込まれるらしいし)適応は広がらなさそうだ。


2013/01/29

HVPD

 (前回からの続き)そしてこないだ、AKIでCVVHDFの代わりにHVPD(high-volume PD)を用いるという治療選択肢にであった。以前から「PDは血行動態に優しいから実はICUのcritically-ill patientに向いているのかな?」と考えたことはあったが、クリアランスが十分でない、腹膜炎など感染症の心配、腹圧が高まり肺換気が阻害されるなどの欠点もあろう。

 それで、サンパウロ大学医学部のグループが自施設の経験を振り返った(CJASN 2012 7 887)。7年で722人の患者さんがAKIで透析を受け、うち204例がHVPDされた。透析液は2000ml、dwellが30-60分、16-22サイクル/24時間で継続して行い、クリアランスは十分保たれた(weekly Kt/Vが3.5)。

 UFは最大で2L/d程度だが、透析液のdextrose濃度について詳しい記載がない(2L/dはおそらく4.25%によるものだろう)。最初の24時間以内で10%がカテーテル関連合併症でPDから降り、24時間生存群の10%が腹膜炎(おもに緑膿菌と真菌)になった。この数字はけっこう多いと思う。

 これからはもっとCVVH(DF)の代わりにHVPDすべきか?他のモダリティを比較するスタディではないが、合併症が多いのと、HVPDはアグレッシブな除水には向かなそうだ…。PD(ESRD)患者さんが急性疾患で低血圧になったら、CVVH(DF)に切り替えるべきか、HVPDすべきか?CKD、ESRD患者は除外されているので何ともいえないが、既存のPD器械が上記設定で回せるならトライしてもよさそうだ。



PD initiative

 米国で腎臓内科フェローシップして曝露が少ないのが腹膜透析(PD)だ。米国はPDが少ないから(腎臓内科医のpreference)。しかし、もっとPDを増やそうという動きはある。進行するCKDの患者さんが外来に来たときには血液透析、在宅血液透析、腎移植のほかに腹膜透析も必ず説明する。

 フォローアップなしで、駆け込み透析導入の場合はどうか?体液量、電解質のインバランスと尿毒症がひどければ、ICUで内頚静脈にtemp catheterを挿入して緊急透析を始めるからチョイスはない。しかし、それでもPDを選択できるという目を開く論文が二つあった。

 一つはUCLAが去年発表したurgent-start PDの論文(AJKD 2012 59 400)で、PDカテーテルを挿入するや否や腹膜透析を介した。カテーテルが腹壁組織とよく癒着して安全に使えるようになるには約二週間かかるという(少なくとも私の)固定観念をくつがえす試みで、透析液のleak率はnon-urgent群に比べて高かったが多くはminorだった。

 もうひとつはトロントのグループが発表した論文(CJASN 2011 6 799)で、たとえ最初は緊急に血液透析をしても、そのあと入院中にじっくりRRT(腎代替療法)のオプションを説明すると、かなりの患者さんがPDを選択したというものだ。入院期間が長く、オプション説明のための特別な看護師さんが毎日腎臓内科の回診に付いてのことだが。つづく。



2013/01/25

TEMPO3:4

 気になっていたTEMPO3:4トライアル(NEJM 2012 367 2407)をやっとレビューする機会があった。自分で読むタイミングがなかったので、Grand Roundで話すトピックを探していた内科レジデントに「これなんかいいんじゃない?」とお勧めし、スタディ論文といくつかの参考文献をセットにして送っておいたのだ。彼の発表は分かりやすく面白く高評価で、私も学べたし、これぞチームプレイ?

 ADPKDで同定された二つの遺伝子異常PKD1もPKD2も、尿細管細胞の内腔側に一本ずつヒョロっと付いている線毛に関係しており、nephronophthisisなどと同様にciliopathiesの一つだ。Kartagener症候群で内臓逆位になるように線毛は極性決定に関係するので、難解なレビュー(NEJM 2011 364 1533)によればPKDでは尿細管細胞が縦に伸長せず横に伸長し、cystやら何やら作ってしまうらしい。

 どうしてtolvaptanが試されたのか?それは、線毛の異常が尿細管細胞に起こすさまざまな変化(細胞内カルシウム濃度の低下、cAMP増加、mTORなど細胞増殖シグナル、他)の一つがV2Rだからだ。ADHが多いとcystが成長してしまうので、もともとADPKD患者さんは日ごろから水をたくさん飲むようアドバイスされていた。では、いっそV2Rをブロックしてはどうか?というのがこのスタディだ。

 このスタディが2012年に腎臓内科界が最も興奮したニュースなどと騒がれる一つのわけは、それが腎のサイズ増加率を低くしたのみならず、GFR低下率も低くしたからだ(もう一つのわけは年末に発表されたからだが…)。プラセボ群との差は有意だが正直控えめだ。そのわけは①両群とも水分摂取を励行したから、②病気進行がゆっくりな(あるいは病初期の)患者群が対象だったから、などと推測されている。

 [2016年7月追加]ADPKDは単一遺伝子(PKD1、PKD2)疾患ではあるものの、その異常の種類がさまざまで、おのおの病状の進行などがちがう。というのもPKD1は14000塩基以上で46個のexonを持つ巨大な遺伝子なうえに、1-33番までのexonはPKD1遺伝子のそばで6回複製されている(進化の過程でつかわれなくなったとされる偽遺伝子PKDP1-PKDP6)からだ。PKD2遺伝子にも15個のexonがある。それでいままではPKD1異常のほうがPKD2よりも進行が早いというくらいのざっくりさしか分からなかった。

 しかしPKD1特異的PCRによって、フレームシフトや大きな欠損だけでなくミスセンス変異やin-frame insertion/deletion(コドンが崩れない3塩基単位の挿入欠損)のようなわかりにくいももわかるようになった(JASN 2007 18 2143、CRISPコホート)。その技術をトロントのTGESPコホートに用いて腎・生命予後を調べた研究結果がでた(JASN 2016 27 1861)。すると、protein truncatingなPKD1異常がもっとも悪く、次にPKD1 in-frame insertion/deletionで、non-truncatingなPKD1異常と変異が見つからない群はPKD2とほぼ同じだった。これらは白人中心のコホートなので、日本の研究結果も知りたいところだ。

 ADPKDは画像診断で遺伝子検査は高価なうえ研究や遺伝コンサルティングでないとしないと思われるから、TEMPO3:4トライアルはもちろんPKD1、PKD2、PKD1異常の種類までランダム化していない。各遺伝子異常の進行速度は腎サイズに相関するので、腎サイズを合わせていればあるていど振り分けられるとは思うが、理論上同じ腎サイズでも進行の早い若い症例と進行の遅い高齢者がいるので、そういう目で見たほうがいいかもしれない。


Spironolactone and AKI

 ネフロン虚血によるATNは、基本的にさらなる虚血や腎害物質などによるダメージを避けて、クレアチニンのグラフが放物線を描くのを待つしかない。4、5と上がっていくクレアチニンに心配するprimary teamを「そのうち下がる」と支え、体液量、電解質など様々なアドバイスをするわけだが、「ATNの回復を早める治療があったら…」と毎日思う。
 とそこへ、spironolactoneが回復を早めるかもしれないという動物実験のことを知った(NDT 2012 0 1)。このメキシコのグループは、aldosteroneが強力な腎の血管収縮因子であることに着目し、以前ラットでspironolactone、あるいは副腎摘出が虚血によるAKIを予防することを示した(前者はAm J Physiol Renal Physiol 2007 293 F78、後者は同雑誌 2009 297 F932)。
 今回彼らは、腎虚血後3時間、6時間、9時間後に20mg/kg(ヒトにとってどらくらいか知らないが)のspironolactoneを経胃的に投与した。そして虚血後24時間後に各群の腎機能が非投与群に比べてどうか調べると、GFRは3時間、6時間後の投与群で守られた。AKIに関与するさまざまなマーカーも低かった。
 一般に術前のACE阻害剤は術中低血圧になるから避けられるし、spironolactoneも低血圧、高K血症など周術期に用いるにはトラブルが余りにも多そうだ。このスタディでは高K血症については調べられなかった。だが、たとえば20mg/kgのspironolactoneがヒトではごく少量に相当しトラブルが少なそうなら、臨床応用される日が来るかもしれない。

LN and pregnancy

 Lupus nephritis(LN)の患者さんにおける妊娠合併症リスクは?Systematic reviewはあって(CJASN 2010 5 2060)、結論はmaternal hypertensionとpremature birthsのリスクが高かった。高いというが、何と比べて高いのかが不明確なうえ、スタディごとのばらつきが大きいようだが。「まったくLNのない患者さんと同じです」とは言えない、という(まあ妥当な)ことだ。
 LNの患者さんが妊娠したら、どうやって治療する?使っていけない薬はACE阻害剤、cyclophosphamide、MMFなど明らかだ。Hydroxychlorquine、AZT、ステロイドはOK?ACRのガイドライン(Arthritis Care Res 2012 64 797)によれば、①LNの既往があるがactiveでなく、他のSLE病勢がマイルドならhydroxychlorquine、②activeなLNがあればステロイド、もしコントロールがつかないあるいはステロイド用量を下げたければAZTを追加とある。
 Rituximabは?Belimumabは?たぶんまだデータがない(どちらもリスク分類はC)。Tacrolimusは?妊娠中の移植患者さんには利益がリスクを上回る場合に限り用いられるが(やはりリスク分類はC)、LNへの有効性はまだ散発的なデータに限られている(たとえばRheumatology 2008 47 1678)。

Monoclonal IgM and kidney

 IgMがモノクローナルに血中にあれば、IgMは五量体で他の免疫グロブリンよりも血球を凝集させる。それで粘凋度が上がり各種血栓症を起こし気づかれることが多いと思っていた。でも、全身には血栓症状がなくて、でも腎臓にはIgM沈着とさまざまな腎炎・腎症を起こすこともあると知った。
 文献によれば病変はTMA(thrombotic microangiopathy)、MPGN(membrano-proliferative glomerulonephritis)、LIK(lymphocyte infiltrate in kidney)、アミロイドーシスなど様々だ(CJASN 2008 3 1339)。膜性腎症を起こしたという報告もある(Scand J Urol Nephrol 2011 45 473)し、cast nephropathyの報告もある(Intern Med 2012 51 172)。
 ところでどうして私はWaldenstrom macroglobulinemiaと言わないのか?それは、モノクローナルなIgM産生はリンパ腫、白血病、骨髄腫などさまざまな血液疾患で見られるからだ(それら全て含めてWaldenstrom macroglobulinemiaと言えないこともないが)。治療法は基礎血液疾患に準じる。
 しかし、もしIgMだけで、末梢血にも骨髄にも異常なリンパ球も形質細胞も見られなかったらどうしよう?Bリンパ球をターゲットにrituximab?形質細胞をターゲットにbortezomib?ここまできたら、私なら血液内科に委ねる。ステロイドが効かなかったという報告はあるようだ(Clin Nephrol 2012 77 254)。

2013/01/17

WRN

 Renal Grand Roundはいろんな人が発表するので、自分なら進んで調べないようなことも学べる。こないだはwarfarin-related nephropathy(WRN)がテーマだった。Related、というように因果関係は明らかでない。

 スタディ(KI 2011 80 181)でも「ワーファリン内服+(WRN以外で説明のつかない)クレアチニン上昇=WRN」という定義が曖昧だ。この定義によればCKD群でも非CKD群でもWRNは起こり、かつmortalityに相関しているという。

 どうしてワーファリンを飲むと腎不全になるのか?推察されている機序の一つは糸球体出血(と赤血球円柱による尿細管閉塞)だ。CKDモデルラットでワーファリンを投与すると再現できる(Am J Nephrol 2012 35 356)。

 ただワーファリンはそもそも殺鼠剤として開発された薬だし、ヒトでも同じことが起こっているかは定かでない(INRはヒトの治療域に合わせられたが)。それに、どうして他の抗凝固薬で同じことが起こらないのかも定かでない。

 なお、以前ここに書いたかもしれないがワーファリンはWARF(Wisconsin Alumni Research Foundation)にあやかって付けられた名前だ。"-arin"で終わるのは、Coumarin(腐った牧草に含まれる抗凝固成分)にあやかっているから。


2013/01/15

ヘビと腎臓内科

 そういえば今年は巳年。インド出身の研修医が、インドではヘビ毒による溶血、横紋筋融解、ショックなどで腎障害になる例があとを絶たないと教えてくれた。調べると、インドで年間3万人がヘビに咬まれて死亡しているという(Ann Trop Med Public Health 2012 5 335)。

 北米の毒ヘビについてはNEJMのレビュー(NEJM 2002 347 347)があって、Viperidae(クサリヘビ科)、Elapidae(コブラ科)、Hydrophidae(ウミヘビ科)などの分類、毒ヘビとそうでないヘビの見分け方などが書かれていた。日本にいるマムシもハブもクサリヘビ科だ。

 腎不全のリスク因子はCK高値、抗毒素血清投与の遅れ、子供など。ブラジルのスタディ(KI 2005 67 659)によれば、100例のヘビ(Crotalus durissus)咬傷のうち29%がGFR60ml/min以下の急性腎障害、そのうち24%が透析を要し10%が死亡した。

  そんな怖い動物ヘビだが、沖縄ではなんと毒ヘビ入り泡盛というのが売っているらしい(エラブウミヘビを漬けたものはイラブー酒という)。アルコールはヘビ毒よりも強いのか…?


CMV D+/R-

 CMVの予防(prophylaxis)は施設によって実はまちまちで、細かなプロトコルがnephrology board examで問われることはない。ただし知っておくべきことは、ドナーIgG陽性でレシピエントIgG陰性(D+/R-などと書く)がもっともリスクが高いということだ。だからこのハイリスク群は、ほかの群にくらべて長期間、高用量、Valganciclovir(Acyclovirでなく)が推奨される。

 AJTのスタディは900mg/dを200日投与したほうが、100日投与したのに比べてCMV diseaseが優位に多かった(AJT 2010 10 1228)。CMV diseaseとはCMV syndrome(viremiaプラス発熱、白血球減少などが一つでもある)とtissue invasive CMV (気管支洗浄や生検でウイルスが確認されたもの)を指す。

 200日投与して良くないことは?白血球減少は200日投与群で有意に多かった。そして、Valganciclovirは高い。だからたとえ100日投与する施設でもスタディの半分、450mg/dにしているところがあるほどだ。450mg/dと900mg/dを比較したスタディがあるかは、知らない(たぶんないのではないか)。

2013/01/10

respiratory acidosis & alkalosis

 今月の指導医も教えるのが好きな先生で、小ネタをたくさん持っている。もっとも感心したのは呼吸性アシドーシスとアルカローシスに反応した代謝性の変化(最近の生理学では代償といわないのがお洒落らしい)についてだ。
 右手をひろげて、「親指と人差し指は急性」「薬指と小指は慢性」と左手で指二つずつをつかむ。そして親指、人差し指、薬指、小指を一つずつ「アシドーシス、アルカローシス、アシドーシス、アルカローシス」と示す。
 そのあと親指から順に「1、2、3、4、5」と指先をタッチし、これが代謝性の変化(expected ΔHCO3 / 10mmHg pCO2)という。急性呼吸性アシドーシスは1、急性呼吸性アルカローシスは2、慢性呼吸性アシドーシスは3.5-4、慢性呼吸性アルカローシスは4-5。
 

2013/01/04

PPI and AIN

 米国でおそらく一、二を争うほど多く処方されるPPI(OTC、処方箋がなくても買える)。この薬と間質性腎炎(AIN)の関係はよく知られているし、実際臨床でもPPIを止めてクレアチニンが下がるというのはよく経験する。しかし、それ以上にこのトピックを掘り下げる機会はなかった。こないだRenal Grand Roundでこれが取り上げられ、紹介された文献に触れた。

 ひとつはオーストラリアの著者が書いたeditorial(Nephrology 2006 11 379)で、ニュージーランドの論文(Nephrology 2006 11 381)がPPIによるAINの罹患率が1:12000と発表したのを紹介していた。ほとんどが腎生検で確定診断された例だから、おそらく実際はもっと多いだろう。PPIのなかではomeprazole関連のAIN報告が最も多いが、これがomeprazole固有の問題なのか、先行薬でそれだけ報告が多いのかは不明だ。

 もう一つはコロンビアのグループによるsystematic review(Aliment Pharmacol Ther 2007 26 545)。色々検索して、腎生検による確定診断例に限ってピックアップしたら1970-2006年のあいだに60例みつかった。それらを分析すると、非特異的な症状が多く(腎障害なので無理もないが、典型的とされる発熱や皮疹はまれだった)、約半数は利尿剤やACE阻害薬を併用していた。

 投与からAIN発症までの期間は?2-52週間と幅があった(ただし2/3は12週間以内)。治療は?ステロイド?有効性のエビデンスは乏しい。薬を止めたらどうやってGERDをコントロールするの?H2ブロッカーを奨めるが、それでは症状を抑えられないこともある。

 このジレンマを紹介したNEJMの論文"Bitter pills"が有名だ(NEJM 2010 363 1847)。PPIによるAINを疑って、PPIを止めてステロイドパルスしたら、クレアチニンは下がったが上部消化管出血になったという話だ。日々の臨床経験ではステロイドはまず使わない、薬を止めただけでクレアチニンは下がる。

 なおPPIで腎臓内科がもう一つ知っておくべきことは低Mg血症だが、この話はまた。

2013/01/01

Cliffちゃん

 腎移植の患者さんがC diff感染を起こしたら、治療はimmunocompetentな患者さんとどう違うのか?Immunocomoromizedな移植患者さんだから、さぞかし特別な配慮がいるのだろうと想像されるが、エキスパートオピニオンの論文(AJT 2009 9 S35)によれば原則は通常のC diff治療と共通している。すなわち、軽症から中等症ならmetronidazole、重症ならvancomycinというわけだ。まあ臓器移植患者さんに特化したよいエビデンスがないからというのもあるだろうが。
 ただし、免疫抑制されている以上、臓器移植患者さんの重症C diff感染はより危険と思われる(外科的治療を要する例が多かった、colectomy後のmortalityが高かったと言うデータも)。それで、前掲のエキスパートオピニオン論文が推奨するアルゴリズムでも下痢の回数、発熱、白血球数高値などあれば基本vancomycinを第一選択にしている。
 余談だが、C diffを嗅ぎ分ける犬というのがオランダの大学病院で試験的に用いられている。二歳になるビーグル犬のCliffちゃんは、実験で感度100%、特異度97%でC diffを嗅ぎ分けることが出来た(BMJ 2012 345 e7396)。C diffはヒトでもある程度「ああ、これは…(C diffっぽい)」と分かるが、さすがは犬の嗅覚。ちょっと可哀相でもあるが、役立ってて偉い。