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2018/11/20

さまざまな血管雑音

 腎臓内科医は、じつは腎臓をあまり診察しない。腎臓の診察といえばCVA叩打痛が有名だが、これらが陽性になるのは結石や腎盂腎炎のときだ。また腎臓を両手でお腹と背中から挟むように診察する方法(下図は日内会誌2000 89 2465)もあるが、ADPKDを疑う時などを除き実際はあまりしない。



 ではどこを診ているのかと言うと、体液量の評価・血管の評価・膠原病関連の評価になる。体液量は浮腫や頚静脈怒張・hepatojugular refluxなどをみる。膠原病関連は関節・皮疹・紫斑・末梢神経障害・爪周囲の毛細血管など(本家のリウマチ内科に比べればざっくりだろうが)。

 血管の評価では、coarctationの有無をざっくり血圧左右差でみたり、足背動脈をふれてPADを疑ったりする。さらに腹部にも聴診器をあてるが、これは腸音よりは血管雑音を聴こうとしている。少し深めにベルを押し当てる人もいるかもしれない。

 そこで拍動性でシューシューした音がきこえたら、どうするか?




 腎動脈からの音(腎血管性高血圧が示唆される)、大動脈からの音(瘤がみつかるかもしれない)などが疑われるので超音波(検査についてはこちら、腎動脈瘤についてはこちらも参照)やその他の画像検査、また見つかれば治療(実際は内服が最初になることが多い、こちらも参照)などが考慮される。

 しかし、シューシューするものがすべて腎臓・大動脈からとは限らない(写真は、シェイクスピア『ヴェニスの商人』で有名になった引用句「輝くものがすべて金とは限らない」)。



 
 そのひとつが、内側弓状靭帯症候群(Median Arcuate Ligament Syndrome、MALS)だ。別名を腹腔動脈起始部圧迫症候群(Celiac Artery Compression Syndrome、CACS)とも言い、同靭帯によって腹腔動脈が圧迫される(図右、引用元はWikipedia英語版)。




 この疾患は、原因不明の腹痛が聴診ひとつで診断に至る点で教訓的だ。それもあって、日本(QJM:An Internal Journal of Medicine 2018 111 407)をふくむ各国から多数の報告がある(J Investig Med High Impact Case Rep 2017 5 2324709617728750)。しかし腹腔動脈が圧されている人は全体の10-20%いるとされ(Radiographics 2005 25 1177)、症状がなければ減圧手術などの介入を必要とせず経過観察となる。

 ほかにも腹部血管雑音の原因はあるようだ(肝海綿状血管腫の報告はTrop Gastroenterol 1985 6 10)。せっかく聴きに行くのだし、腎臓内科医としてはこれらの鑑別を知っておきたい。さらに部位と音の違いだけで診断できれば、なおカッコいい。




2018/11/12

FOAMedステートメント

 このブログも、ついに前回で投稿が800件に達した。そこで、私達の立ち位置について少し考えてみよう。このブログは、欧米諸国でここ最近よく聞かれるキーワード、FOAMedの日本語版である。




 FOAMedとは、「フリー・オンライン・アクセス・メディカル・エデュケーション」の略である。救急医学で最初にこの言葉がうまれたそうだが(こちらも参照)、要は「分かりやすく面白く知識や経験をウェブに共有して、この世界を少しでも良くしよう」という働きかけだ。「学ぼうとする者には報酬なく医のアートを教えます」というヒポクラテスの誓いを汲んだ行動でもある。
 
 勉強することの多い腎臓内科は、とくにFOAMedが多い(一覧はこちら)。NephJCで注目トピックについてチェックしているという人は、日本にも多いだろう(仕掛け人のブログ、PB Fluidも定評がある)。Nephron Powerは、Kidney Newsに不定期連載しているDetective Nephronの著者が書いているので、それらを通して読むこともできる。

 そして、フェローたちが書きたいという気持ちだけで書くRenal Fellow Network(RFN)は、10周年を期にASNと公式にパートナーシップを結んだ(CJASNに取り上げられた、doi.org/10.2215/CJN.06700518)。ややレイアウトが読みづらくなったのは残念だが、今後も発展が期待される。

 私達も、2012年にRFNから情熱の灯火を受け継ぎ(こちらも参照)、色々ありましたが、こうしていまも書いています。今後とも続けていく所存ですので、応援くだされば幸いです。




(Twitterアカウントは、@Kiseki_jinzoです)


2018/06/16

新たな視点 CKDステージのインプット方法

 普段当たり前に目の前に見ていることを別の視点から据えてみると思わぬ発見がある。特に文字を図に置き換えると、視界がさっと明るくなることがある。

 米国の腎臓内科関係のブログで有名なRenal Fellow Networkというものがある。色々と勉強になる記事が多いのだが、そんな記事の中で偶然見つけたものがこちら
 
 CKDのマネジメントの一般論を示しているが、特に注目はGFR clock というものだ。皆、一度はこの患者さんのCKD stageは何だっけ?と思って、教科書やインターネットで検索したことがあると思う。




 知っている人にとっては当たり前かもしれないが、GFRの数値を時計に当てはめて見事に視覚化することで直ちに理解することが可能になっている。

 GFRと時計という組み合わせ。とてもエレガントであり感動する。これを見た時に、BMJ 2002 325 85-90を思い出した。




 もしかしたら、この図からアイデアを持ってきたのかもしれない。

 「GFRの変化を時計になぞらえて、刻一刻と腎機能は悪化していく。だから、腎機能障害が進むほど、細かくみる(ステージを細かく分ける)必要があるのだよ。」と語りかけてくるようである。

 今回のような、当たり前のことに考えを巡らすということはとても大事だ。






 
 

2016/07/28

Oh My Google

 Google検索で何のキーワードを入れるかが実力を左右するというのもすごい時代だなと思う。私は経験的に英語で入力できたほうが大きな網を張れるなと感じるが、その程度で止まっていて、たとえばコンピュータ言語とかも習ったほうがいいのかなとおもっても実際はやっていない。こないだ何かの本でGoogle検索にワイルドカードというのがあると読んで、かっこいい響きだなと思った。

 ワイルドカードとは「*」のことで、不明な語句があってもそれをワイルドカードで表示することで前後の語句との類推で検索してくれる。たとえば「blessed are the * inherit *(なんとかな者は幸いである、なんとかを継ぐ)」と入れれば「Blessed are the meek, for they will inherit the earth(柔和な者は幸いである、彼は地を継ぐからである;Mathew 5 5)」と出る。まあ言葉はかっこいいが、Googleが優秀すぎてワイルドカードを使わなくてもだいたい当ててくれるが。

 と、ここまで調べてもまだGoogle検索演算子について系統的に勉強しようという気にならなかったのは、わたしの怠惰というかGoogleが頭が良すぎるのである…。しかし最近「血漿交換で溶血しますか?」と研修医に聞かれて「plasma exchange complication hemolysis」と入れても、TTP-HUSのことしか出てこない。それでPubmedならBUTで除外検索をかけるなあと思いだしたが、Googleでは使えない。仕方なく「Google 除外検索」で検索演算子一覧をみたら、除外検索は「"A" -"B"」とダッシュを使うらしい。

 しかしこれでTTPを除外したらABO不適合移植の話しかでてこない。でABOも除外検索したら検索結果がなくなってしまった。Googleに勝ったような見捨てられたような複雜な気分だ。私は血漿交換膜のせいでもなく自己免疫疾患に続発したAIHAでもなく、置換でつかうFFPのなかに運悪く変な抗体があったのだろう(から肺胞出血のない透析依存ANCA関連急性進行性糸球体腎炎なのでアルブミン置換にすればいい)と思っているが。それで「FFP transfusion hemolysis」検索をかけたらいっぱいでてきた(Transfusion 2012 52 S1 65S )。Googleと仲直りだ。

 [2016年7月追加]日本で用いられる血漿分離器(ポリエチレン中空糸)の添付文書には溶血の記載があって、TMP 60mmHg以下にすること、起きたら中止することとあった。機序、頻度、起こるタイミング、置換液による違い、中止後の対応、一回発生したあとの代替分離器の有無など、詳細は不明だが(会社の電話番号はあるので問い合わせることは可能だ)。やはり日本語でも検索しないといけない。



2015/11/27

Rainbow Urine

 回診中に入院患者さんで暗褐色尿がでますというので、調べてもミオグロビン尿もヘモグロビン尿もビリルビン尿も血尿もない。というわけで、薬か?と思ったら最近メトロニダゾールが始められており、研修医の先生にスマホで調べてもらったら副作用があった(Journal of Pharmacy Technology 2014 30 54)。添付文書によれば代謝されてできるアゾ化合物の影響と考えられているそうだ。ここで使う頭は別に医学とは関係ない、ただの推論力と好奇心だ。

 薬による尿の変色にはリファンピン(オレンジ色)、ドキソルビシン(赤~オレンジ)、プロポフォール(青緑)、ニトロフラントイン(茶褐色~黒)、アセトアミノフェン大量内服(茶褐色~黒)などがある(SMJ 2012 105 43)のと、有名なのはpurple urine bag syndromeでこれはWikipediaにも載っているから説明しなくてもいいけど便中のトリプトファンが細菌によりインドールになって、吸収され肝代謝をうけてインジカンになり、尿路の細菌によりインジゴブルー(青)またはインジゴピン(赤)になってバッグを染める。

 さらに調べてみると、「虹色の尿をだす少年」というクイズ形式の論文があった(NDT 2001 16 2097)。化学者のお母さんをもつ16歳の少年で、学校の成績が悪いときに限ってさまざまな変な色の尿が出るという。尿異常ではacidificationの障害、高尿酸尿症、汎アミノ酸尿、そして色素の凝集が鏡検された。尿細管障害とカラフルな尿となると、重金属のなかでもクロムが疑われる。クロムの色素はpHによって色が変わる。

 そこでサンプルに硝酸銀、塩化バリウム、酢酸などをかけて沈降物ができたりそれが溶解したりするか調べて、クロムの検出が証明された。学校の成績が悪いときに変な色が出たのは、病院受診をすると学校を休める(病院まで3000kmある;インドの話なので)という疾病利得があったからで、クロムはおそらく絵の具や染料を摂取していたのだろうと思われた。しかし本人もお母さんも診断を否認したので結局精神科に紹介して、そのうち症状は治まった。





[2019年11月1日追記]今週のニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシンに、上述のpurple urine bag syndromeが紹介されていた(NEJM 2019 381 e33)。知らないとビックリする(下図も前掲論文より)ので、ときどきはこうして読者に啓発しようという同誌の意図なのだろう。 






2015/06/09

アカデミズム(aka ORG)

 大学の勉強会に参加してきた。教授が親切にも(医局員でもない)私の成長を気遣ってくださり、ご厚意で参加を許されてありがたいことだ。心の中は不思議と静謐で、やはりアカデミズムのなかにいると自分は落ち着くようだ。そして、そこで私がフェロー時代に同級生がNephrology Grand Roundで最初に(2011年9月)発表したobesity-related glumerulopathy(ORG)を思わせる症例を聞いた。

 糖尿病のない重度肥満に伴うネフローゼ症候群は1974年に初めてPalo AltoのVA病院から報告された(Ann Int Med 1974 81 440)。腎病理標本データベースを見直したコロンビア大学の報告(KI 2001 59 1498)によれば、その頻度は徐々に増えているそうだ。まあ肥満じたいが増えているから無理もない。

 病理像としてはFSGSないし糸球体肥大を呈する。原発性FSGSと比較すると、ORGは蛋白尿の程度が軽度でネフローゼ症候群にまでなることは少なく、分節性硬化や足突起のeffacementは少ない代わりに糸球体は肥大していたそうだ。またイヌに高脂肪食を食べさせて肥満にすると(JASN 2001 12 1211;こんな実験は今はもう出来ないかもしれないが)腎が肥大し、糸球体が肥大し(TGFβ1の発現が亢進し)、hyperfiltrationになり、intraglomerular hypertensionを反映してか(交感神経の刺激により)RAA系が亢進する。またadiponectin減少も病態に大きく関係しているようだ(NDT 2008 23 3767)。

 治療はRAA系阻害薬、睡眠時無呼吸の治療、bariatric surgery(減量のための胃切除;有効性を示したペンシルベニア大学の発表はClin Nephrol 2009 71 69)など。



2015/03/03

ニッポンの酸塩基平衡

 腎臓内科学会が主催するセミナーをお手伝いしてきた。そこで、生化学のNa+とCl-だけでpH、pCO2、HCO3-を読もうとするニッポンの酸塩基平衡を習った。Na+からCl-をひくと、HCO3-とAGだ。

☆AGが正常(12)、HCO3-が正常(24)ならNa+ひくCl-は36になるはずである。この値が36からはずれている時には酸塩基平衡を疑わなければならない☆

 AGを12と仮定すればHCO3-を求めることができる。
 
 HCO3-からpCO2を求めるには、呼吸性の二次的(代償性)反応幅ΔpCO2がだいたいΔHCO3-かける1(個人的には代謝性アシドーシスでは1.2、代謝性アルカローシスでは0.7という人体実験データから得られた係数を使いたいが、面倒だから1にしてしまえということらしい)なことから、

pCO2=40-(25-HCO3-) ⇔ pCO2=HCO3-+15

 HCO3-の正常値は24だが、覚えやすいように25に水増しして、マジックナンバー15がうまれるようにしている。これは米国の高名な先生が思いついて日本に伝えたそうだが、私は米国の腎臓内科フェローシップでは習わなかった。

 次にpHを計算で求めるが、まずそのために[H+]を求める(logはぱっと計算できないから)。[H+]、pCO2、HCO3-の間にはH-Hの式から次の関係がある;

[H+]=24xpCO2 / HCO3-

 で、pH7.40のとき[H+]は40nmol/lで、この周囲でpHの小数点以下+[H+]=80が成り立っていることから、

pH=7.80-[H+]/100

 となる。なんというか、個人的にはここまでしなくても生化学でHCO3-を測ったりガスを取ればいいような気がする(静脈血でもいいから)。ただ日本の一般生化学からも酸塩基平衡をひねり出すことができるというのは発見だった。



2013/11/06

Geriatric Nephrology 12(aka NURSE)

 感情をうまく受け止め力になってあげる技法に、NURSEがある。NはName、感情を名指しして口に出すこと。「これについて話すのは怖いことだろうと思います」。UはUnderstand、理解を示すこと。「今起こっていることについてご心配なさっておられることとお察しします」。RはRespect、相手のしていることや考えていることを尊重すること。「ご自分でいろいろ努力していらっしゃるのを知っていますし、それを尊敬しています」。SはSupport、「困難なときですが、一緒に乗り越えていきましょう」。EはExplore、「もう少しご心配について教えていただきたいのですが」。

 こういうのは、役立つように思われるし、実際役立つのだろうけれども、使わないとモノにならないだろう。モデルケースをビデオを観たり本を読んだりすれば、もっと身につくかもしれない。米国腎臓内科医会(学会ではなく、ロビー)と米国腎臓内科学会が一緒に出した"Shared Decision-Making in the Appropriate Initiation of and Withdrawal from Dialysis"(2010)や、英国政府が出したESRDにおけるEOLC(end-of-life care)についてのガイドラインもあるという。こらから経験を積んでいかねばと思っている。


2013/08/26

Board Prep

 MKSAP(medical knowledge self-assessment program)を読んで問題を解けばそれでよかった内科専門医試験とちがい、腎臓内科専門医試験は「みんながコレをする」というリソースがない。お金と時間があればASN Board Review Courseをライブあるいはオンラインで受講すればよいが、受講しない人も多い。

 それで、基礎の復習にはComprehensive Clinical Nephrology(重いが買うとオンラインでも読める)、NKF Primer on Kidney Diseaseを読む人が多い。腎病理はFogo先生のFundamentals of Renal Pathology(これもオンラインで読める)、電解質と酸塩基平衡はUpToDateの生みの親Rose先生の名著、Clinical Physiology of Acid-Base and Electrolyte Disorders(6版が来年出る)が薦められるし、私もこの二冊は必読と思う。

 NephSAP(JASNと一緒に来る隔月CME冊子)を読む人も多いが、最新エビデンスにフォーカスしすぎ内容もcontroversialで、基礎が学びにくいと言われる(すでに基礎のある、boardの更新者向け)。Brenner and Rectorは私は分かりやすいから好きな本だが、分厚すぎて内科のHarrisonと同じく試験対策には敬遠される。


2013/05/17

あの人もこの人も腎臓内科 1/2

 更新可能で、検索可能で、どこからでもアクセスでき、referenceにリンクですぐ飛べ、知識や経験を幅広く共有できるブログは、新しい効果的な学習ツールと信じている。そして、そう信じているのが私だけでなく、殊に腎臓内科にたくさんいることに勇気づけられる。

 たとえばRenal Fellow Network日米腎臓内科ネットなどは有用なリソースだし、実はあのUpToDate®も腎臓内科医でHarvard臨床教授のBurton Rose先生によって始められた(eAJKDでも活躍しASNの月刊新聞Kidney NewsでDetective Nephronを不定期連載する腎臓内科医Kenar Jhaveri先生の個人ブログNephron Powerで知った)。

 これらの多くはnon-peer review publicationであるから、質の高さと意見の偏りが問題になりうる。しかし、書き手はできるだけ正確に書いてreferenceをつけるし、読み手もそのつもりで鵜呑みにせず疑問があればreferenceにあたれば良い。これからこのメディアと共に、自分も成長し周囲にも何か貢献できればと考えている。


[2020年4月27日追記]バートン・D・ローズ先生が、4月24日に逝去された。長年アルツハイマーと闘病されていたそうだが、死因はCovid-19の合併症という。冥福をお祈り申し上げる。


出典はこちら


 筆者は先生に会ったことはないが、受けた恩恵は計り知れない。UpToDate®はもちろんだし、先生の著書"Clinical Physiology of Acid-Base and Electrolyte Disorders"(写真は5版、お持ちの方も多いだろう)は、フェロー時代に輪読会をした。




 筆者の担当は「ADHと水」だったが、800ページ以上の大著を前に後ずさりしたのを覚えている。しかし読んでみると、ウロコが落ちる連続だった。なかでも、「尿量は溶質量とADHの効きの2点で規定される」は今でも忘れられない(写真は当時のスライドより)。




 先生自身はブロガーではないが、オンライン媒体という点では共通しており、このブログも言ってみれば先生の真似である。それで筆者は、ブログを書く理由を尋ねられるたびに、いつでも誇らしげにローズ先生を例に挙げてきた。

 
 それは、これからも変わりません。先生、ありがとうございました。今後も学び続けます!



こちらを元に作成)



2012/09/20

Making a difference

 フェローも二年目、レジデントや医学生と一緒に働くコンサルトで何か教育的な新しいことがしたい。そう思って始めた一つが毎日学習の振り返りをメールで送ることだ。興味深い尿沈渣所見があれば病理検査室でカメラ付き顕微鏡を借りてデジタル画像にして送る。いままでdysmorphic RBC(日本語で「破砕赤血球」ということもあるが、実際はミッキーマウスのような形をしているものが多い)、赤血球円柱、尿酸結晶、ロイシン結晶(メープルシロップ尿症、肝不全などで見られる)などを撮った。Aciclovirの結晶は、写真のアイデアを思いつく前に見つけたので雑誌記事の写真を送った(NEJM 2008 358 e14)。

 回診で議論されたトピックとそれについての論文(主にレビュー)のリンクを張り、それだけでは誰も読まないだろうから数行の解説を付けて送る。いままでhyperkalemia 、normotensive ARF、SIADH、vaptans  in cirrhotics、hepatorenal syndrome、CRRT、hypernatremiaなどについて短く解説した。さらに、亀の冬眠を可能にする酸塩基平衡のヒミツ(以前ここに書いたやつ)、野生動物たちがビタミンD欠乏にならない訳(皮脂が毛に沁み込み、それが日光を浴びてビタミンDになり、それをペロペロなめて摂取しているのだ!)など面白いトピックも送っている。

 ただでさえ忙しいのに、これで帰宅が一時間遅くなる。でも楽しいので、80-hour ruleに違反しない限り今月いっぱいは続けるつもりだ。メールの返事が来たことはまだないが、こちらとしても褒めてもらうためにしている訳でなし、彼らの頭に「ああそんなことフェローが言ってたな」くらいに残ればいいと思っている。今のところ、レジデントも医学生も(遅くまで忙しくて大変なのに)このローテーションを楽しんでくれているみたいで何よりだ。

2012/04/26

Detective Nephron

 ASN(米国腎臓学会)月刊紙、ASN Kidney Newsで最近始まったコーナーが"Detective Nephron"だ。名探偵ネフロンが弟子のL. O. Henle(loop of Henleを文字っている)が持ってくる症例を鮮やかに解き明かす筋書きだ。ネフロンはオフィスでコーヒーを飲んでおり、ヘンレの話を"Ah! This is going to be exciting."とか"Fascinating!"とか言いながら聞く。

 ヘンレも腎臓内科の基本は知っているので一生懸命考え、ネフロンに"Good work, my apprentice(弟子)"とか言われるが、ネフロンの豊富な知識と経験によって症例の解答が明らかになる。最後の"Never underestimate the power of the nephrologist."というセリフがカッコいい。

 私はこんな風になりたいのである。次々ともってくる症例を聴いただけでたちまち解決してしまうような。そして、わたしはフェローシップが終わるまでにそうなるつもりでいたのだと、約20年スタッフをしている今のスタッフと一緒に働きながらふと気付いた。

 毎日よく観察し、よく考え、よく読み、自分の診断能力を高めていくのは素晴らしいことだ。このwebsiteの蓄積も私の財産となるだろう、こうして引き続き爪を研げ。だが1-2年で完成しようなどとは思わない方がいい。Art is long, life is short。探偵ネフロンを目指すなら、あせらないことも肝心だ。

2011/09/07

normotensive ischemic acute renal failure

 今度の先生は、気軽に良質の論文を紹介して臨床に応用するのが得意だ。こないだもNEJMのnormotensive ischemic acute renal failureについてのレビューを紹介してくれた(NEJM 2007, 357, 797-805)。これは「血圧が高い患者さんは、収縮期血圧が100-115mmHgに下がっただけでも腎が虚血になる」とか「急性腎不全がearly sepsisの兆候なこともあるから感染を見逃すな」とか賢明な知恵が書いてあるのみならず、分子や細胞レベルで急性尿細管障害を説明しており読んでいて「今見ている患者さんにはそんなことが起こっていたのか!」と勉強になった。

 たとえば、急性腎障害でcastをみるのは、尿細管障害によるNa再吸収障害(尿細管内のNa濃度上昇)がTamm-Horsfallタンパクの重合化を起こしこのタンパクがジェル状になるからだ、とか。腎虚血によるATP不足がbrush borderを喪失させたりNa-K ATPaseや細胞間基質を逆向きにしたりしてしまう(血管側にあるべきものを内腔側にしてしまう)とか。論文の図3では、虚血に伴う尿細管障害の一連のメカニズムが美しく描かれ目からうろこだった。ATNといっても、実際には単に尿細管が壊死を起こすだけではない。もっと多様な病態生理がそこにある。

2011/09/04

ミニ講義シリーズ

 今月からコンサルトで、教育熱心で有名な先生と一緒に働いているので再び習得曲線が急峻になった。今回は、知識もさることながら、いかに分かりやすく説明するかというのが勉強になっている。この先生が回診中にレジデントや学生に説明するのを聴くと、分かりやすさにおもわず感心してしまう。

 たとえば、高カリウム血症を診たときにも、「これはAだ、これはBだ、とあてずっぽうなアプローチではいけないよ」と、系統的な説明を始める。まず溶血、つぎに細胞内外のシフトの話をして、それから腎臓でのカリウム排泄の話になる。

 そこには大きく①GFRの低下、②遠位尿細管へのNa delivery、それに③遠位尿細管でのK排泄があるという。①は腎不全、②は心不全や体液量低下、さらに③についてレニン→アンジオテンシン→アルドステロン→アルドステロン受容体→遠位尿細管principal cells→ENaC(尿細管内腔側のNaチャネル)の働きを順を追って説明する。

 そのうえで、レニンが低下するのは糖尿病性腎症(RTA4、糖尿病性神経障害によりレニン産生に必要なsympathetic toneがでない)、アンジオテンシンの働きを抑えるのはACEI/ARB、アルドステロンの産生を抑えるのはheparinやketokonazole、アルドステロン受容体に拮抗するのはspironolactoneやelprenolone、尿細管細胞自体が障害されるのはinterstitial nephritis、そしてENaCを阻害するのはamiloride、triamterene、trimetoprim、それにpentamidineと説明する。

 こんな風に流れるように、しかも各パートごと噛んで含めるように説明するので学生もレジデントもなるほどと感心して聴いている。先生は回診で高カリウム血症に出会うたびにこの説明をするので、非常に慣れている。高カリウム血症に限らず、低ナトリウム血症でも透析の原理でも、このような分かりやすいミニ講義シリーズがのレパートリーがたくさんある。

 私もそういう型を身につけてペラペラ教えられるようになりたいと思っているので、この先生について盗めるだけ盗もう。


2011/07/19

オンコール

 土日の連続当直をした。まず20人近い患者さんのリストを片手に、バイタルサインとI/O(身体に入った水の量と出ていった水の量)、検査データを集める。透析を予定または考慮している患者さんの分を最初にチェックして、あとは診察をして透析するかどうか、透析条件をどうするかなど決める。

 そのあと、この巨大な病院をぐるぐる回って患者さんを診察し、primary teamと方針を軽く話したころには、回診の時間なので急いで待ち合わせの場所まで戻る。病院の巨大さといえば、アメフトの競技場くらい大きい。というのもうちの病院の真横に、ほぼ同じ大きさのスタジアムがあるのだ(7万人収容)。

 回診では生理学に基づいた議論が延々と続く。指導医でもA先生とB先生によって言うことが全然違い、A先生が教えてくれたことをB先生が"That is completely wrong"とか言うのには当惑することもある。みんな生理学を独自に修めているのでそういうことになるだろうか。

 たとえばA先生はFENa(Naの排泄割合)を診断の手がかりにしていたが、B先生はFENaなど意味がないという。B先生は代わりに尿Naとfree water excretion(Pcr/Ucr)を活用している。Free water excretionは腎臓が正常ならば1%以下なはずで、この割合が高いのは近位尿細管が障害されているせいだという。

 いずれにせよ、回診は3-4時まで続き、そのあとカルテを書き、土曜日は終わった。日曜日は、カルテを書き新患を二人診て、そのあとさらにERに来た患者さんを診たので遅くなった。しかし、ERがぼんやりしているところ(8時間に8回立て続けに下血しているのに輸血以外の応急処置がなく、一般病棟に送るとかいう)をキチンと診察して、MICUに患者を送りICUチーム、消化器内科と議論して、貢献したなという気持ちになった。