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2017/09/01

CB1受容体と学会に入るメリット

 今朝のJASN最新論文は、近位尿細管にあるCB1受容体の腎障害における役割という刺激的な内容だった(doi:10.1681/ASN.2016101085)。CB1受容体は内因性カナビノイド受容体のひとつである。カナビノイドといえば脳に働くイメージで、肥満や禁煙治療のターゲットとしてまず注目されたが、腎臓にも働く(以前にもふれた)。炎症を惹起するCB1受容体と抑えるCB2受容体は拮抗しており、炎症をおさえるCB1拮抗薬が糖尿病や糖尿病性腎症で研究中だ。

 CB1受容体は食欲だけでなく脂肪代謝じたいにも関係している。では、腎臓のCB1受容体が炎症をおこすのにも脂肪代謝が関わっているのだろうか?CB1受容体は腎臓の足細胞、メサンギウム細胞、そして近位尿細管にあるが、肥満になると近位尿細管に脂肪がたまり、炎症のもとになるらしい(これをlipotoxicityとよぶ)。

 近位尿細管のCB1をノックアウトしたマウスでは、肥満にしても野生型のように近位尿細管に脂肪がたまらず、炎症もおさえられ、蛋白尿や腎機能低下などもおこらない。細胞内のメカニズムを詳しく調べると、CB1受容体にスイッチがはいると、近位尿細管細胞内で脂肪酸のβ酸化を促進するシグナル経路(AMPKなど)を抑えるので、脂肪が分解されず貯まってしまうらしい(図は前掲論文より)。




 肥満にともなう尿細管障害、というものがどれくらい意義があるのかは、よくわからない。肥満といえば糸球体の障害が有名かと思う。実験動物に脂肪ばかり食べさせないとおこらない現象なのかもしれない。

 でも、近位尿細管は最近のホットトピックだと思うし、これからいろいろわかってくる近位尿細管の真相に私はついていきたい。

 また、この話には将来性がある。糖尿病性腎症とのかかわりもあるし、腎臓以外でもひろくメタボ世代の健康寿命をのばすかもしれない。CB1受容体は全身にあるはずなので、CB1拮抗薬、ないし、CB2受容体のアゴニストがあれば、他の組織でも脂肪分解ができず炎症や線維化がおこるのを防げるかもしれない。

 それで、この論文の注目度を示すAltmetricは公開初日から32ときわめて高い(図)。この論文が紙媒体で届くのは来年だろうが、その前から読めるのだから、やっぱり、米国腎臓内科学会の会員でよかった。






[2019年9月20日追記]末梢CB1拮抗薬のJD5037(こちらにも触れた)が、近位尿細管におけるグルコース輸送体のひとつGLUT2の発現を減少させて、糖尿病性腎症モデルのマウスで腎障害を軽減することが、米国腎臓学会雑誌に報告されていた(JASN 2018 29 434)。

 近位尿細管のグルコース輸送体といえばSGLT2が有名だが、GLUT2もある。通常は間質側にあり、(SGLT2などを通じて)尿細管内腔から尿細管細胞に入ってきたグルコースや、尿細管細胞内での糖新生(こちらも参照)でできるグルコースを、間質側に運ぶ役割をしている。

 しかし糖尿病では、GLUT2発現が増えるだけでなく、(より多くのグルコースを汲み出すためか)局在が尿細管内腔側にまでひろがる。しかし、CB1受容体をブロックすると、こうした変化が抑制される。細胞内カルシウムイオン濃度の上昇と、それによるホスホリパーゼCβの活性化が抑えられるためだ(図は前掲論文)。




 糖尿病性腎症といえば永らくRAA系阻害薬で、日本ではとくにARBであった。今後こうした研究が進めば、現在一世を風靡しているSGLT2阻害薬や、治験中のNrf2アゴニスト(バルドキソロン)などと共に、「CRB(カナビノイド受容体拮抗薬、Cannabinoid Receptor Blocker)」の出番・・となるかもしれない。






2016/06/09

ECB

 Brexit referendum(英国のEU離脱を問う国民投票)が今月23日に迫った。Euroscepticと呼ばれるEU反対派は、肥大した官僚組織になって身動きが取れず各国の主権をおびやかすBrussel(EU本部)が嫌いなのであって大陸ヨーロッパは好きだと強調しているが、EUは脱退するとその後の貿易等の条件をEUが一方的に決められるようになっているので、たとえるなら離婚しても条件は相手しだいというわけで経済への悪影響などが心配される。

 で、今日のお話はECBだがEuropean Central Bank(欧州中央銀行)のことではなくendocannabinoid system(内因性カナビノイド系)だ。大麻の成分THCが発見されてから、体内にも内因性カナビノイドがあることがわかりanandamide、2-arachinodoylglycerol(2-AG)などがよく研究されている。受容体にはGたんぱく受容体のCB1とCB2があって、中枢神経系に多いが末梢組織にもひろく分布し、また前者はpro-inflammatory、pro-fibroticで後者はそれに拮抗することがわかっている(Br J Pharmacol 2016 173 1116)。

 ECB系で知られているのはCB1拮抗薬のrimonabantで、これは抗肥満薬、禁煙薬として開発されたがオピオイドμ受容体も抑えるのでうつ、自殺などの副作用が強く使われていない。まあECB系をいじるのは麻薬取締法すれすれなので、多くの合成カンナビノイドはいわゆる「脱法ドラッグ」だ。

 しかし体内にECB系があって生理作用を有しているのはたしかで、糖尿病にも関係がある。食事摂取が増えるとECB系が亢進しエネルギー消費の低下や脂肪産生などを起こしてインスリン抵抗性と肥満に寄与するだけでなく、膵に浸潤したマクロファージのNlrp3-ASC inflammasomeを介してβ細胞死を起こすと考えられている。脳血管関門を通過しない末梢CB1拮抗薬AM6545、JD5037などが開発中だ。

 糖尿病性腎症にもECB系の関与が示されている。糖尿病性腎症になると足細胞のCB1/CB2比が逆転し炎症に傾き、内因性CB2 agonistの2-AG欠乏にもなる。そこでCB1拮抗薬のAM251やCB2 agonistのAM1241を動物モデルに投与してたんぱく尿などが改善し、AGII/NADPH活性の低下によるとみられる活性酸素産生の抑制やサイトカインの減少がみられたという報告がある。いずれにせよ、実用にはオピオイドμ受容体に関与しない選択的末梢ECB受容体拮抗薬でなければならないが。マウスもうつになるのだろうか(なる、実験されている)。