移植がうまくいくとみんながハッピーで、人類愛に満たされ心があたたまる。しかし移植後は危険も潜んでいるから注意が必要だ。移植後多尿に関するそんな論文が、ふたつあったので紹介する。
一つ目(doi:10.1111/j.1432-2277.2005.00221.x)は155cm45kgの30代女性が195cm111kgの夫から腎グラフトを受けたケース。体格ミスマッチの移植には独特の問題がある(こちらも参照)が、ともかくフロセミドとマニトールも使ったので、この例は術後に1-2L/hの尿が出た。
それをハーフ生食で補充していたが、移植9時間後にけいれんを起こし、調べるとNaが140mEq/lから113mEq/lに低下。Na欠乏量を体重×0.5×(140-113)で計算し602mEqと見積もったが、一気に戻すわけにもいかないので12時間で120mEq/lに戻そうと、体重×0.5×(120-113)の155mEqに近い量を3%食塩水で投与した(25mlを12時間で153mEq)。
けいれんは止まり、12時間後には122mEq/lになった。その間にも尿は出ていたはずだが、尿については補充をつづけ、Na補正は3%食塩水でおこなったのかもしれない。そのあと0.9%食塩水に切り替え、予後良好で退院した。
ふたつ目(CKJ 2016 9 180)は44歳男性で献腎移植を受けたケース。移植後の多尿がおさまらない。この方は多尿の家族歴があって幼い頃「腎性尿崩症」と言われたそうだが、腎臓を移植しても腎性尿崩症がつづくだろうか?
しらべてみると、中枢性尿崩症だった。遺伝子検査をおこなうと、AVP遺伝子そのものではなくて、その9kb先にあるc.225>G point mutationが異常だった(flanking microsatellite markersを用いてわかったそうだ)。これが異常だと、AVP遺伝子のNeurophysin II部分(図はBrenner教科書)、75番目のアミノ残基がシステインからトリプトファンにかわるので、たんぱくの折りたたみが異常になるのかもしれない。
たまっていた浸透圧物質と水が腎臓の尿濃縮能低下で排泄され多尿になる事態が、AKI後、移植後とべつに少なくとももうひとつある。もうお分かりかもしれないが、閉塞後多尿(post-obstructive diuresis、POD)だ。つづく(写真はヴィクトリアの滝)。
クマさんがおしっこしないで冬眠できるのも、じん臓が一日に体液の何十倍もろ過してから不要なものを残して再吸収するのも、じん臓の替わりをしてくれる治療があるのも、すごいことです。でも一番のキセキは、こうして腎臓内科をつうじてみなさまとお会いできたこと。その感謝の気持ちをもって、日々の学びを共有できればと思います。投稿・追記など、Xアカウント(@Kiseki_jinzo)でもアナウンスしています。
2017/06/14
2017/06/06
低ナトリウム血症におけるreset osmostat(reset osmostat in hyponatremia)
今回、低ナトリウム血症の中のreset osmostatについて触れたいと思う。
僕はこの概念を知ったのは後期研修医になってからと比較的遅かった。最初はよくわからないなと感じて、今回この論文(AJKD 2017)をよんで色々と分かった部分もあり、つねに勉強することが重要だなと感じた。
まず、入院患者の低ナトリウム血症で最多の原因としてはSIADHといわれている(Eur J Endocrinol 2010)。
SIADHにおいてはADH調整パターンは下記のように4つあると言われている。
①:古典的SIADH:浸透圧とは関係なしにADHが出てしまう(悪性腫瘍などに多い)。
②:視床下部のバソプレシン抑制ニューロンの障害で持続的にバソプレシン(ADH)がでてしまう。
③:臨床的にはSIADHを疑うが、ADH増加はみとめていない。:まれだがバソプレシン受容体変異により不適切に抗利尿が働くパターン(大人にも子供にも表出)
④浸透圧調整系に対するバソプレシン反応も問題なく、集合管での濃縮希釈機能も問題ないが、ADH分泌の閾値が低い
この中の④がいわゆるreset osmostatにあたる。
これは、重度の神経学的な異常、肺疾患、感染症、アルコール依存、悪性腫瘍、外傷などでもみられる。
古典的なSIADHとreset osmostatを分けることは治療にとっても非常に重要な部分である。SIADHであれば飲水制限が重要ではあるが、reset osmostatではそうではない。
・定義について
基本的な事項として人間の体では、血清浸透圧は280-290mOsm/kgになるように調整されており、これが浸透圧系とよばれている。この調整に関わる因子がADHである。
血清浸透圧が<275mOsm/kgではADH分泌は抑制されるし、血清浸透圧が上昇すればADHが分泌し浸透圧を整える。
しかし、reset osmostatでは、ADHの出る閾値が低く慢性的な低ナトリウム血症になっている。
この図はreset osmostatの患者の血清Naと尿浸透圧の推移であり、血清Na130前後で尿浸透圧の増加がある。
・検査について
Reset osmostatの検査にはどんなものがあるかだが、水分負荷試験である。
経口でも点滴でもかまわないが、10-15ml/kgの水分負荷をおこない、reset osmostatであれば4時間以内に水分負荷量の80%以上が尿から排出されるが、SIADHではこれがおこらない。
これは、reset osmostatでは前述したように集合管の部分の機能は維持されているためである。
・機序について
なぜ、これが起こるかに関しては様々なものが言われている。
①腫瘍浸潤や自律神経の疾患で抑制系に支障がきて低い浸透圧でADHがでてしまう。
②sick cellsといわれる細胞膜の障害で細胞内外の電解質のバランスが崩れてADHの早期分泌が生じる。
妊娠はreset osmostatがしばしば生じるため注意をする。平均5mEq/L低下し、妊娠後8-10週で達する。
・治療について
治療は前述した何らかの原因があるのであれば、そちらの治療を行う(結核が根底にあるならそちらの治療を)。
補正をすることで、逆に狡猾が刺激される場合があるため無理に正常に戻す必要はない。
今回の論文ではもともと中枢性尿崩症で慢性的にDDAVPを使用しており、その慢性的な使用がreset osmostatを生じたのではないかというものであった。
DDAVPに関しては短期的な副作用で多いのは軽度の低ナトリウム血症や頭痛である。
長期的使用に伴う副作用の報告は少ない。
慢性的にDDAVPを使う中枢性尿崩症などの症例に出会うことは腎臓内科医としては少ないかもしれない(内分泌科で管理が多いかと。)
ただ、今回この論文からはreset osmostatについても勉強になる部分も多い。
僕はこの概念を知ったのは後期研修医になってからと比較的遅かった。最初はよくわからないなと感じて、今回この論文(AJKD 2017)をよんで色々と分かった部分もあり、つねに勉強することが重要だなと感じた。
まず、入院患者の低ナトリウム血症で最多の原因としてはSIADHといわれている(Eur J Endocrinol 2010)。
SIADHにおいてはADH調整パターンは下記のように4つあると言われている。
①:古典的SIADH:浸透圧とは関係なしにADHが出てしまう(悪性腫瘍などに多い)。
②:視床下部のバソプレシン抑制ニューロンの障害で持続的にバソプレシン(ADH)がでてしまう。
③:臨床的にはSIADHを疑うが、ADH増加はみとめていない。:まれだがバソプレシン受容体変異により不適切に抗利尿が働くパターン(大人にも子供にも表出)
④浸透圧調整系に対するバソプレシン反応も問題なく、集合管での濃縮希釈機能も問題ないが、ADH分泌の閾値が低い
この中の④がいわゆるreset osmostatにあたる。
これは、重度の神経学的な異常、肺疾患、感染症、アルコール依存、悪性腫瘍、外傷などでもみられる。
古典的なSIADHとreset osmostatを分けることは治療にとっても非常に重要な部分である。SIADHであれば飲水制限が重要ではあるが、reset osmostatではそうではない。
・定義について
基本的な事項として人間の体では、血清浸透圧は280-290mOsm/kgになるように調整されており、これが浸透圧系とよばれている。この調整に関わる因子がADHである。
血清浸透圧が<275mOsm/kgではADH分泌は抑制されるし、血清浸透圧が上昇すればADHが分泌し浸透圧を整える。
しかし、reset osmostatでは、ADHの出る閾値が低く慢性的な低ナトリウム血症になっている。
この図ははreset osmostatの患者で血清Naが低いのに尿浸透圧上昇しているのがわかる。
この図はreset osmostatの患者の血清Naと尿浸透圧の推移であり、血清Na130前後で尿浸透圧の増加がある。
・検査について
Reset osmostatの検査にはどんなものがあるかだが、水分負荷試験である。
経口でも点滴でもかまわないが、10-15ml/kgの水分負荷をおこない、reset osmostatであれば4時間以内に水分負荷量の80%以上が尿から排出されるが、SIADHではこれがおこらない。
これは、reset osmostatでは前述したように集合管の部分の機能は維持されているためである。
・機序について
なぜ、これが起こるかに関しては様々なものが言われている。
①腫瘍浸潤や自律神経の疾患で抑制系に支障がきて低い浸透圧でADHがでてしまう。
②sick cellsといわれる細胞膜の障害で細胞内外の電解質のバランスが崩れてADHの早期分泌が生じる。
妊娠はreset osmostatがしばしば生じるため注意をする。平均5mEq/L低下し、妊娠後8-10週で達する。
・治療について
治療は前述した何らかの原因があるのであれば、そちらの治療を行う(結核が根底にあるならそちらの治療を)。
補正をすることで、逆に狡猾が刺激される場合があるため無理に正常に戻す必要はない。
今回の論文ではもともと中枢性尿崩症で慢性的にDDAVPを使用しており、その慢性的な使用がreset osmostatを生じたのではないかというものであった。
DDAVPに関しては短期的な副作用で多いのは軽度の低ナトリウム血症や頭痛である。
長期的使用に伴う副作用の報告は少ない。
慢性的にDDAVPを使う中枢性尿崩症などの症例に出会うことは腎臓内科医としては少ないかもしれない(内分泌科で管理が多いかと。)
ただ、今回この論文からはreset osmostatについても勉強になる部分も多い。
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2017/05/15
火星だより 2
前回、塩分6g/d食のひとが12g/d食になると、捨てる溶質が増えるが尿は濃縮するので自由水クリアランスがへる、つまり自由水が身体にたまるという話をした。いっぽう、6g/d食のひとが12g/d食になると水分摂取量はへる。これが液体の水分なのか食事中のも含むのかが分かりやすい場所に書いていないが、とにかく減る。
塩を取れば血液の浸透圧があがり喉が渇き水分摂取が増える、という定説と違うが、尿データをかんがえると、溶質が増えても腎臓が尿濃縮で自由水をためるので、身体の浸透圧がさがり口渇がさがるということかもしれない。血液の浸透圧データはないので、詳しいことまではわからない。
6g/d食から12g/dになって減った水分摂取量の差(図の薄い青)は、腎臓でためた水(図左バー)から不感蒸泄による喪失分(斜線)を差し引いた量(図の濃い青)にほぼひとしかった。一日水分摂取量が一日尿量より32%おおいことから、ためた自由水の32%が不感蒸泄ででていくと推定したそうだが、正確かわからないことは研究グループもみとめている。ちなみに火星探査の訓練なので、被験者は運動も肉体作業もした。
このあと、彼らは塩をおおくとった時に腎臓が尿を濃縮する仕組みについて考えさらに実験をおこなった。まず一日Na排泄量(蓄尿Na濃度に1日尿量をかけて計算するので、UNaVと書く)と尿Na、K、尿素濃度の関係をみると、一日Na排泄量が多いほど尿Na濃度があがり、尿K濃度は変わらず、尿urea濃度は低くなった(それぞれ左、中央、右)。
尿の尿素濃度と尿の濃縮にはどんな関係があるか?まず尿素と尿濃縮の関係をおさらいしよう(レビューはJASN 2007 18 679、図)。尿の濃縮に寄与するのは主にNaClと尿素で、NaClは有名なヘンレ係蹄のcountercurrent multiplicationで維持される。一方ureaは、とくに髄質内層の浸透圧勾配に重要だ。
集合管をおりていく原尿はV2(バソプレシン)受容体の支配下にあるアクアポリン2を介して水を吸われるが、この部分は尿素を通さない。だから原尿が髄質内部の集合管(IMCD、internal medullary collecting duct)までくると尿素濃度はとても高くなっている。
IMCDには尿素トランスポーターUT-A1、A3があって尿素は一気に間質にでていき、内腔と間質の浸透圧がほぼ等しくなる。それで浸透圧利尿で水が失われるのを防いでいる。その証拠に、UT-A1とA3をノックアウトすると(十分にたんぱくをあたえられた)マウスは水をどんどん喪失してしまう。
高濃度の尿素を維持する仕組みのひとつはvasa rectaによるcountercurrent exchangeで、ヘアピンになった血管にあるUT-Bを通じて尿素が上がって降りてを繰り返す。もうひとつが尿素リサイクルで、ヘンレ係蹄のUT-A2を通じて間質の尿素が内腔に排泄され、遠位ネフロンをまわりIMCDでふたたび間質に再吸収される、の繰り返しだ。
それをふまえてみると・・。
尿の尿素濃度がさがることと尿の濃縮をむすびつけるひとつの考えは、尿素が尿に出てこないぶん腎間質にとどまり、濃度勾配をきつくして尿をいっそう濃縮させたというものだ。研究グループはそういっている。
ただ間質の尿素濃度は測れないし、UT-A1、A3は濃度依存のトランスポーターだから間質の尿素濃度がたかければ集合管内腔の尿素濃度も高いかもしれない。尿素の摂取量はかわらなかったようだが、異化や同化がかわって尿素がつくられなくなったのかもしれない。この段階では、まだなんともいえない。塩分摂取が増えて尿素排泄がへる理由も、わからない。
つぎに、研究グループは尿アルドステロン排泄とコルチゾン排泄をしらべたので、それをみてみよう。つづく。
塩を取れば血液の浸透圧があがり喉が渇き水分摂取が増える、という定説と違うが、尿データをかんがえると、溶質が増えても腎臓が尿濃縮で自由水をためるので、身体の浸透圧がさがり口渇がさがるということかもしれない。血液の浸透圧データはないので、詳しいことまではわからない。
6g/d食から12g/dになって減った水分摂取量の差(図の薄い青)は、腎臓でためた水(図左バー)から不感蒸泄による喪失分(斜線)を差し引いた量(図の濃い青)にほぼひとしかった。一日水分摂取量が一日尿量より32%おおいことから、ためた自由水の32%が不感蒸泄ででていくと推定したそうだが、正確かわからないことは研究グループもみとめている。ちなみに火星探査の訓練なので、被験者は運動も肉体作業もした。
このあと、彼らは塩をおおくとった時に腎臓が尿を濃縮する仕組みについて考えさらに実験をおこなった。まず一日Na排泄量(蓄尿Na濃度に1日尿量をかけて計算するので、UNaVと書く)と尿Na、K、尿素濃度の関係をみると、一日Na排泄量が多いほど尿Na濃度があがり、尿K濃度は変わらず、尿urea濃度は低くなった(それぞれ左、中央、右)。
尿の尿素濃度と尿の濃縮にはどんな関係があるか?まず尿素と尿濃縮の関係をおさらいしよう(レビューはJASN 2007 18 679、図)。尿の濃縮に寄与するのは主にNaClと尿素で、NaClは有名なヘンレ係蹄のcountercurrent multiplicationで維持される。一方ureaは、とくに髄質内層の浸透圧勾配に重要だ。
集合管をおりていく原尿はV2(バソプレシン)受容体の支配下にあるアクアポリン2を介して水を吸われるが、この部分は尿素を通さない。だから原尿が髄質内部の集合管(IMCD、internal medullary collecting duct)までくると尿素濃度はとても高くなっている。
IMCDには尿素トランスポーターUT-A1、A3があって尿素は一気に間質にでていき、内腔と間質の浸透圧がほぼ等しくなる。それで浸透圧利尿で水が失われるのを防いでいる。その証拠に、UT-A1とA3をノックアウトすると(十分にたんぱくをあたえられた)マウスは水をどんどん喪失してしまう。
高濃度の尿素を維持する仕組みのひとつはvasa rectaによるcountercurrent exchangeで、ヘアピンになった血管にあるUT-Bを通じて尿素が上がって降りてを繰り返す。もうひとつが尿素リサイクルで、ヘンレ係蹄のUT-A2を通じて間質の尿素が内腔に排泄され、遠位ネフロンをまわりIMCDでふたたび間質に再吸収される、の繰り返しだ。
それをふまえてみると・・。
尿の尿素濃度がさがることと尿の濃縮をむすびつけるひとつの考えは、尿素が尿に出てこないぶん腎間質にとどまり、濃度勾配をきつくして尿をいっそう濃縮させたというものだ。研究グループはそういっている。
ただ間質の尿素濃度は測れないし、UT-A1、A3は濃度依存のトランスポーターだから間質の尿素濃度がたかければ集合管内腔の尿素濃度も高いかもしれない。尿素の摂取量はかわらなかったようだが、異化や同化がかわって尿素がつくられなくなったのかもしれない。この段階では、まだなんともいえない。塩分摂取が増えて尿素排泄がへる理由も、わからない。
つぎに、研究グループは尿アルドステロン排泄とコルチゾン排泄をしらべたので、それをみてみよう。つづく。
2015/09/25
New Algorithm
欧州三学会(集中治療、内分泌、腎臓内科)が昨年発表した低Na血症のガイドライン(それぞれが発表しているが腎臓内科はNDT 2014 29 S2 ii1)は、すでに和文誌でも詳細に取り上げられている(INTENSIVIST 2015 7 477)が、まだそれほど普及していない印象を受けるので、とりあげたい。そうなんだけど「ガイドラインをまとめる」というのは、ガイドライン自体がすでに「まとめられたもの」なので、うまくやらないと結局丸写しみたいになってしまって難しい。
簡単には、このガイドラインでは新しいアルゴリズムが提唱されていて、そこでは大まかに①以前の体液量評価よりも尿浸透圧と尿Na濃度が前に来て、②重症・急性なら原因検索を待たずに治療(を考慮)というアクションが偽性や等張・高張浸透圧性低Na血症を除外したあとの最初に来ているという変化がある。
尿浸透圧は水排泄能を見るよい指標だから(これなしに低Na血症を診るということはありえないように教わってきたので、「外注です」とか聞くとびっくりする)、これが前にでてきているのは理にかなっている。水排泄能はAVPと浸透圧物質摂取量(と腎機能)で規定されるので、尿浸透圧が低ければ(100mOsm/kg以下;この数字に根拠はないそうだが)、AVPがOFF(希釈して水を一生懸命排泄してもまだ余るほど水を摂取している)あるいは浸透圧物質がなくて水を排泄できず水が余る状態だ。
ただ、尿生化学が先に来るからと言って、検査結果が出るまで指をくわえて待っているわけではない。腎臓内科コンサルトかなにかで、すでに尿検査結果がわかっている場合は別だが、そうでなければ結局検査を出す前に病歴聴取と診察で体液量をふくむ評価をすることに変わりはない。とはいえ体液量評価は難しいので、それを助けるために新しいアルゴリズムは腎臓の力を借りることにした。それが尿Na濃度だ。
ここでは尿Na濃度のカットオフ値を30mEq/lとして、それより低ければ有効循環血液量が低下していると判断する。Würzburg大学(内分泌)のFenske先生がeuvolemic hyponatremiaとhypovolemic hyponatremiaの鑑別に20mEq/l、50mEq/lなどいろいろ実験して結局この値に落ち着いたらしい。有効循環血液量の低下は、心不全・肝不全・ネフローゼなどECFが拡張している場合もあるし、下痢嘔吐・敗血症性ショック・以前の利尿薬などECFが少ない場合もある。
尿Na濃度が高ければ、まず腎のNa再吸収能が落ちていることによる原因(利尿薬、「腎臓病」←かなりアバウトだが)を除外する。そうでなければ①塩が捨てられECFが低下した病態(嘔吐←嘔吐初期には代謝性アルカローシスでろ過されてくるHCO3-を近位尿細管が再吸収しきれず、それに引きずられて尿Naも高くなる、renal / cerebral salt wasting;MRHEもここに入れていいかもしれない、一次性副腎不全→低アルドステロニズム、かくれた利尿薬使用)と、②ECFは正常にもかかわらず水排泄ができない病態(甲状腺機能低下症、二次性副腎不全→低コルチゾールによりACTHとAVPの抑制がされなくなる、SIAD←ADH過剰に似た稀な遺伝疾患も含めた総称)を考える。
アルゴリズムというのは「頭のいい人たちがつくって、他の人たちが頭を使わなくてもいいようにしたもの」に感じられるので、個人的には自分の頭を使ってすべての患者情報と病態生理と鑑別診断をならべて総合的に判断したいなと思ってしまう。この論文でいえば、最初の病態生理の総論と一つ一つの原因の各論を読むのがやっぱりためになる(し、アルゴリズムではカバーされていないものも触れてある)。
新しいアルゴリズムは尿生化学に重点を置いて、尿浸透圧ではAVPと溶質量を評価し(とくにAVPを中心においているのが正統的で)、尿Naで水過剰だけでなくNa喪失が従来よりもカバーされており(Na喪失の病態も結構多い…日本にとくに多いような気がする)、さらに有効循環血液量でECF低下と拡張の病態を統一的にしているのがすっきりしていると思う。アルゴリズムより、低浸透圧性低Na血症で尿浸透圧が100mOsm/kg以上のところから下流(そこまではお作法なので)を表か何かにまとめたら使いやすそうだ。
簡単には、このガイドラインでは新しいアルゴリズムが提唱されていて、そこでは大まかに①以前の体液量評価よりも尿浸透圧と尿Na濃度が前に来て、②重症・急性なら原因検索を待たずに治療(を考慮)というアクションが偽性や等張・高張浸透圧性低Na血症を除外したあとの最初に来ているという変化がある。
尿浸透圧は水排泄能を見るよい指標だから(これなしに低Na血症を診るということはありえないように教わってきたので、「外注です」とか聞くとびっくりする)、これが前にでてきているのは理にかなっている。水排泄能はAVPと浸透圧物質摂取量(と腎機能)で規定されるので、尿浸透圧が低ければ(100mOsm/kg以下;この数字に根拠はないそうだが)、AVPがOFF(希釈して水を一生懸命排泄してもまだ余るほど水を摂取している)あるいは浸透圧物質がなくて水を排泄できず水が余る状態だ。
ただ、尿生化学が先に来るからと言って、検査結果が出るまで指をくわえて待っているわけではない。腎臓内科コンサルトかなにかで、すでに尿検査結果がわかっている場合は別だが、そうでなければ結局検査を出す前に病歴聴取と診察で体液量をふくむ評価をすることに変わりはない。とはいえ体液量評価は難しいので、それを助けるために新しいアルゴリズムは腎臓の力を借りることにした。それが尿Na濃度だ。
ここでは尿Na濃度のカットオフ値を30mEq/lとして、それより低ければ有効循環血液量が低下していると判断する。Würzburg大学(内分泌)のFenske先生がeuvolemic hyponatremiaとhypovolemic hyponatremiaの鑑別に20mEq/l、50mEq/lなどいろいろ実験して結局この値に落ち着いたらしい。有効循環血液量の低下は、心不全・肝不全・ネフローゼなどECFが拡張している場合もあるし、下痢嘔吐・敗血症性ショック・以前の利尿薬などECFが少ない場合もある。
尿Na濃度が高ければ、まず腎のNa再吸収能が落ちていることによる原因(利尿薬、「腎臓病」←かなりアバウトだが)を除外する。そうでなければ①塩が捨てられECFが低下した病態(嘔吐←嘔吐初期には代謝性アルカローシスでろ過されてくるHCO3-を近位尿細管が再吸収しきれず、それに引きずられて尿Naも高くなる、renal / cerebral salt wasting;MRHEもここに入れていいかもしれない、一次性副腎不全→低アルドステロニズム、かくれた利尿薬使用)と、②ECFは正常にもかかわらず水排泄ができない病態(甲状腺機能低下症、二次性副腎不全→低コルチゾールによりACTHとAVPの抑制がされなくなる、SIAD←ADH過剰に似た稀な遺伝疾患も含めた総称)を考える。
アルゴリズムというのは「頭のいい人たちがつくって、他の人たちが頭を使わなくてもいいようにしたもの」に感じられるので、個人的には自分の頭を使ってすべての患者情報と病態生理と鑑別診断をならべて総合的に判断したいなと思ってしまう。この論文でいえば、最初の病態生理の総論と一つ一つの原因の各論を読むのがやっぱりためになる(し、アルゴリズムではカバーされていないものも触れてある)。
新しいアルゴリズムは尿生化学に重点を置いて、尿浸透圧ではAVPと溶質量を評価し(とくにAVPを中心においているのが正統的で)、尿Naで水過剰だけでなくNa喪失が従来よりもカバーされており(Na喪失の病態も結構多い…日本にとくに多いような気がする)、さらに有効循環血液量でECF低下と拡張の病態を統一的にしているのがすっきりしていると思う。アルゴリズムより、低浸透圧性低Na血症で尿浸透圧が100mOsm/kg以上のところから下流(そこまではお作法なので)を表か何かにまとめたら使いやすそうだ。
2013/05/30
Sorry FENa
Josephineとは女性の名前(男性はJoseph)で、これをラテン系にするとJosefinaだ。米国のミネラルウォーターブランドAQUAFINA®は、aqua(水)にfinaを付けて親しみやすくしているわけだが、FENa(Fractional Excretion of Na)を「フィーナ」と呼ぶのも、何でもかんでもニックネームにしたがる米国英語らしい。
さてフィーナには悪いが、腎臓内科を勉強するほどその限界が目に付いて、私はこれを一応計算するがあまり依存しなくなった。この指数は乏尿性腎不全のごく小規模なスタディでしかvalidateされておらず、多くの場合misleadingなのだ(CJASN 2012 7 167)。今日はFENaにまつわるいくつかの点を指摘したい。
一つは、いま元気にしているeuvolemicなあなたのFENa。あなたの腎臓はあなたが一日に摂取する9gの塩のほぼ全てを排泄する(これを利用して心不全における食塩摂取量とmortalityのJ-shapeな相関を示したスタディについて前に書いた)。9gの塩には154mEqのNa+が入っている(生理食塩水1Lと同じ)。あなたの2L/dの尿Na濃度は77mEq/L。あなたの血液Na濃度は、ADHのおかげで140mEq/L。
あなたのUcr/Pcrはいくら?Ucr/Pcrは水再吸収の指数だ。ろ過されたクレアチニンは再吸収されない(何なら尿細管から少し排泄される)のに、水はほぼ99%再吸収される。だから、健康な腎臓ではUcr/Pcrは1/(1-0.99)、まあ100といっていい。だから、健康なあなたのFENaは77/140/100、0.55%。でもあなたは腎前性腎不全じゃない。
もう一つは、たとえ尿細管の機能が落ちてもFENaは多くの場合に腎前性を示すこと。たとえば虚血に弱い近位尿細管機能が落ちて水再吸収指数Ucr/Pcrが40まで下がったとしよう。それでも(血液Na濃度が140mEq/Lとして)尿Na濃度が112mEq/Lを超えないとFENaは2%に達しない。
実際に、尿Na濃度が60mEq/lあり、尿沈査で顆粒円柱が出ているのにどういうわけかFENaが腎前性を示す、というようなことは良くある。それなのにFENaを信じると、尿細管機能が落ちているのに「pre-renal、pre-renal」と輸液してvolume overloadになってしまうかもしれない。何事も金科玉条にせず限界を知って活用し、総合的に判断しろということか。
さてフィーナには悪いが、腎臓内科を勉強するほどその限界が目に付いて、私はこれを一応計算するがあまり依存しなくなった。この指数は乏尿性腎不全のごく小規模なスタディでしかvalidateされておらず、多くの場合misleadingなのだ(CJASN 2012 7 167)。今日はFENaにまつわるいくつかの点を指摘したい。
一つは、いま元気にしているeuvolemicなあなたのFENa。あなたの腎臓はあなたが一日に摂取する9gの塩のほぼ全てを排泄する(これを利用して心不全における食塩摂取量とmortalityのJ-shapeな相関を示したスタディについて前に書いた)。9gの塩には154mEqのNa+が入っている(生理食塩水1Lと同じ)。あなたの2L/dの尿Na濃度は77mEq/L。あなたの血液Na濃度は、ADHのおかげで140mEq/L。
あなたのUcr/Pcrはいくら?Ucr/Pcrは水再吸収の指数だ。ろ過されたクレアチニンは再吸収されない(何なら尿細管から少し排泄される)のに、水はほぼ99%再吸収される。だから、健康な腎臓ではUcr/Pcrは1/(1-0.99)、まあ100といっていい。だから、健康なあなたのFENaは77/140/100、0.55%。でもあなたは腎前性腎不全じゃない。
もう一つは、たとえ尿細管の機能が落ちてもFENaは多くの場合に腎前性を示すこと。たとえば虚血に弱い近位尿細管機能が落ちて水再吸収指数Ucr/Pcrが40まで下がったとしよう。それでも(血液Na濃度が140mEq/Lとして)尿Na濃度が112mEq/Lを超えないとFENaは2%に達しない。
実際に、尿Na濃度が60mEq/lあり、尿沈査で顆粒円柱が出ているのにどういうわけかFENaが腎前性を示す、というようなことは良くある。それなのにFENaを信じると、尿細管機能が落ちているのに「pre-renal、pre-renal」と輸液してvolume overloadになってしまうかもしれない。何事も金科玉条にせず限界を知って活用し、総合的に判断しろということか。
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