2015/06/29

Prerenal

 「米国腎臓内科あるある」のひとつに、腎臓内科に興味を持っているがまだ将来は決めていない学生さんや研修医の先生方のことをprerenal(腎前性)と呼ぶというジョークがある。日本でも同じなのかな。さてご存知の通り米国の腎臓内科は人気がないので、学会は腎前性の彼らをいかに腎性にするかをいろいろ考える(たとえばCJASNには腎臓内科医のキャリアを選択する要因はなにかを分析した論文が数年前にでた、doi:10.2215/CJN.03250312)と共に、腎前性の層を増やすにはどうしたらよいかも考えている。
 そのひとつで最近出た論文が、内科レジデンシーにおける選択科ローテーション(elective)で腎臓内科は入院診療のexposureに比重を大きく置きすぎて、外来診療へのexposureが足りないのではないか、というものだ(doi:10.3109/0886022X.2015.1055693、Renal Failureなんて雑誌があるとは初めて知った)。全米の腎臓内科フェローシップのprogram directorに調査を行ったものだ。こういう「学生さんや研修医の先生方にいかに興味を持ってもらうか」というのがよく話題に上るのも「腎臓内科あるある」だ(日米どちらもそうな印象をうける;腎臓内科の先生方は元々教えるのが好きだし、腎臓学というのは独りで学べるようなものではないからだ)。
 論文の感想として、たしかに外来へのexposureが多いほうがよいと思う。一般腎臓内科外来(腎機能低下、血尿、蛋白尿など)のみならず、より特化したCKD外来、腎炎外来、尿路結石外来、血液透析外来、腹膜透析外来、自宅透析外来(米国にはある)、腎移植後外来、腎移植前外来(レシピエント、生体腎の場合はドナーも)などを見せるのもいいだろう。また論文にもあるようにmentorshipをきちんとして、指導する専門医がシステマチックに腎臓内科の魅力を伝えることも重要だ。
 ただ、腎臓内科を選択する内科レジデント(とくに米国の医学部を卒業したレジデント)が年々減っているのは、こういっては身も蓋もないが勤務時間のわりに儲からず割に合わないからだ。その為、せっかく腎臓内科専門医まで取ったのに転向してホスピタリストをやる人までいるくらいだ…(腎臓内科をやると全身を診るから、よいホスピタリストになれることは事実だが;あと自分が診るので腎臓内科コンサルトをしなくて済むという利点?もある)。腎臓内科が居るとアウトカムがよくなるなどのスタディをだし、みんなが「やっぱり腎臓内科は必要だ」と考えを変え、結果reimbursement(診療報酬)の構造が変わって米国の腎臓内科がリーズナブルに儲かるようになればよいなと思う。


2015/06/19

代償性腎肥大とclass III PI3K/mTORC1/S6K1 signaling

 もうその道の先生方ならとっくにご存知かと思うが、腎肥大に関する画期的な論文がJCIに出た(JCI 2015 125 2429)。例の米国の優秀なお友達が論文をくれて、ありがたいことだ(その方は私が以前に書いたremote ischemic pre-conditioningについての最新の論文もくれた)。生体腎移植のドナーや腎腫瘍患者さんなどで片方の腎臓を摘出された場合、残った腎臓が代償性に肥大することは良く知られている。

 腎肥大はなぜおこるのか、その分子的な機序は長年不明であったが、この論文はそのうち二つを明らかにしたものだ。

 一つはEGFRを介したclass I PI3K/mTORC2/AKT signalingで、これは腎摘出とは関係なくEGFRが刺激されると下流のカスケードにスイッチが入り尿細管増生が起り腎massが大きくなる。もう一つは、片腎を摘出した後に残りの腎への血流が増え栄養が増えることにより賦活化されるclass III PI3K/mTORC1/S6K1 signalingだ。

 画期的な研究だが、個人的には腎massの増大が尿細管の増生なことに少しの違和感を感じる。つまり、糸球体の数は変わらないということだ。Hyperfiltrationになるのは片腎への血流が増えるからで、じつは糸球体に負荷がかかっているのかもしれない。尿細管が増生しても、各種イオンの排泄・再吸収には貢献するだろうがeGFRにはあまり関与しない。むしろ、論文のdiscussionに書かれているように代償性肥大は腎に負荷がかかりいずれmaladaptationに陥る(ネフロンの障害や間質の線維化を起こす)という考えもある。先日書いたobestity-related glumerulopathyなどはそのよい例だ。

 しかし生体腎ドナーは腎予後もよく長生きするわけだし、尿細管の増生によって成長因子や良いサイトカインが出てネフロンが保護されているのかもしれない。



2015/06/18

CKDとMg

 Mgが低く(2.1mg/dl以下)高リン血症のCKD群と、Mgが高く(2.1mg/dl以上)高リン血症のCKD群では、Mgが高い群のほうが末期腎不全になりにくいというコホートスタディがでた(doi:10.1038/ki.2015.165)。これだけでは相関しかいえないし、「高リン低MgのCKD患者さん」と「高リン高MgのCKD患者さん」というのは臨床的にどんな人達なのか想像がつかない。高Mgの人たちは、Mg摂取量が多いということだろうか。だとすればMgが多い食品というのはナッツ、藻類、豆類などだそうだからこれらを多く摂る人は野菜も多く摂っておりアシドーシスが抑えられているのかもしれない。

 ただ、Mgが血管の石灰化や炎症を抑制するということはin vitroでよく示されているようで(たとえばNDT 2012 27 514)、上記の論文でもMgがサイトカイン産生を抑制したなどの結果があった。Mg2+はCa2+と拮抗して平滑筋収縮を抑制したり尿路結石の形成を予防したりするから、同様に血液中のCa9(PO4)6粒子やcalciprotein particleの形成(これらについては以前に書いた)を抑制しているのかもしれない。将来的にMg投与によって心血管系イベントや末期腎不全への進展が抑えられるかというスタディが組まれて、もしそうだと分かれば明るい話題になるだろう(もちろん高Mg血症に注意しなければならないが)。

 [2016年7月追加]まだ大きなスタディはないが、Mg補充と降圧をみた小さなスタディはヨーロッパを中心にいくつもあって、それらをメタアナリシス論文がでた(DOI: 10.1161/HYPERTENSIONAHA.116.07664)。それによれば、300mg/d以上(Mgの分子量は24.3なので酸化マグネシウムで約500mg以上)の摂取で収縮期血圧2mmHg、拡張期血圧1mmHg(CIで有意)さがっていた。高血圧患者も血圧正常被験者もあわせているし、おそらく腎機能正常例を対象にしているので上記テーマとは必ずしも直結しないが、きちんとしたスタディはしてもいいのかなと思う。なおMg濃度は0.05mmol/l(0.1mg/dl)程度あがった。



2015/06/15

Bundles

 いまいる職場はバンドル作りやチェックリスト作りが好きだ。レクチャをしても、最後にチェックリストを提示して締めくくることが慣習になっている。これは実践的でとても良いことだと思うし、私も少しずつ貢献できればと思う。先月CKDの簡単なチェックリストを作ったら(フェロー時代にみんなが使っていたものだが)研修医の先生達が援用してくれているようで、役に立ったなら嬉しい;

①原因
②体液量・血圧
③蛋白尿
④電解質・酸塩基平衡
⑤CKD-MBD(mineral and bone disorder)
⑥貧血・鉄代謝
⑦血糖
⑧尿酸
⑨心血管疾患の予防と治療
⑩ESRDへの備え

 それで、次は維持透析患者さんを診た時に考えることというのも作ってみようと思い立った(研修医の先生方にとって透析患者さんがなかなか取っ付きにくいみたいなので)。この分野には良書、成書がたくさんあるから「本を読んでおいて」と言い放ってもよいのだが、バンドル・チェックリストというのは「もっと短時間で読めて使えるものをくれ!」というニーズに応えるものなので、簡潔でなければならない。たとえば;

①末期腎不全の原因疾患
②ヴィンテージ(何年血液透析を受けているか)
③透析施設
④透析曜日
⑤ブラッドアクセス(シャント、グラフト、カテーテル)
⑥ドライウェイト
⑦最終透析日と透析後の体重
⑧IDWG(inter-dialytic weight gain;透析と透析の間でどれだけ体重が増えるか)
⑨自尿の有無
⑩透析の問題点(透析中の低血圧、高K血症、重なる溢水エピソード、たびたび透析に来ないなど)

 他にも、透析時間、透析モード(HD、HF、HDFなど)、血液流量、透析液流量、抗凝固薬の種類、透析膜、透析液・置換液組成、ESAの用量、鉄の用量、移植の適応について考慮されたか、など挙げ始めれば切がないが、「とりあえず透析患者さんが入院してきたらこれだけは聞いて欲しいこと(そして患者さんもこれ位なら簡単に答えてくれそうなこと)」という、初歩者にも使いやすいものにするには、取捨選択しなければならない。

[2018年11月追加]日本腎臓学会が2016年に提言した、こんな表もある(生活習慣病からの新規透析導入患者の減少に向けた提言~CKD(慢性腎臓病)の発症予防・早期発見・重症化予防~)。分厚いガイドラインとは別に、こうした使い勝手がよく漏らしの少ないリストを、自分なりに作るのもありかもしれない。




2015/06/09

アカデミズム(aka ORG)

 大学の勉強会に参加してきた。教授が親切にも(医局員でもない)私の成長を気遣ってくださり、ご厚意で参加を許されてありがたいことだ。心の中は不思議と静謐で、やはりアカデミズムのなかにいると自分は落ち着くようだ。そして、そこで私がフェロー時代に同級生がNephrology Grand Roundで最初に(2011年9月)発表したobesity-related glumerulopathy(ORG)を思わせる症例を聞いた。

 糖尿病のない重度肥満に伴うネフローゼ症候群は1974年に初めてPalo AltoのVA病院から報告された(Ann Int Med 1974 81 440)。腎病理標本データベースを見直したコロンビア大学の報告(KI 2001 59 1498)によれば、その頻度は徐々に増えているそうだ。まあ肥満じたいが増えているから無理もない。

 病理像としてはFSGSないし糸球体肥大を呈する。原発性FSGSと比較すると、ORGは蛋白尿の程度が軽度でネフローゼ症候群にまでなることは少なく、分節性硬化や足突起のeffacementは少ない代わりに糸球体は肥大していたそうだ。またイヌに高脂肪食を食べさせて肥満にすると(JASN 2001 12 1211;こんな実験は今はもう出来ないかもしれないが)腎が肥大し、糸球体が肥大し(TGFβ1の発現が亢進し)、hyperfiltrationになり、intraglomerular hypertensionを反映してか(交感神経の刺激により)RAA系が亢進する。またadiponectin減少も病態に大きく関係しているようだ(NDT 2008 23 3767)。

 治療はRAA系阻害薬、睡眠時無呼吸の治療、bariatric surgery(減量のための胃切除;有効性を示したペンシルベニア大学の発表はClin Nephrol 2009 71 69)など。



POEMS & HHV8

 HHV-8といえばKaposi肉腫とCastleman病(正しくはmulticentric Castleman's disease;MCD)の原因だとは聴いていたがPOEMS症候群(polyneuropathy, organomegaly, endocrinopathy, M protein, skin changes)にも関与していることは知らなかった(Blood 1999 93 3643)。しかし考えてみればMCDのリンパ節病理像は典型的には形質細胞のポリクローナルな増殖をとる(AIDS Rev 2009 11 3)。稀にモノクローナルな形質芽球にtransformしてアグレッシブな形質芽球性のリンパ腫になることもあるらしい(Am J Surg Pathol 2007 31 1439)が、これはHHV-8だけでなくEBVにも感染したAIDS患者の症例報告だ。いずれにせよ形質細胞にtropismがあるHHV8がMタンパクがでる病態を起こしてもおかしくはない。
 POEMS症候群のことは以前に腎臓のセミナーに行って初めて知った。POEMS症候群の診断基準に腎機能は含まれていないのであるが、Mタンパクもだすわけだし腎障害ももちろん起こす(Tohoku J Exp Med 2013 231 229)。フォローすると半数が腎障害を起こし15%が透析導入になったという報告もあるそうだ(NDT 1999 14 2370)。ただし、これらの機序はMタンパク質とは必ずしも直接は関係ないかもしれない。現在の仮説は、VEGFとIL-6による未熟な(CD34陽性)内皮系細胞の増殖、leakyな内皮細胞、内皮細胞ループの増加、糸球体基底膜の二重化(内皮下領域の増生)、メザンギウム領域の増生などが考えられているようだ。
 POEMS症候群の治療であるが、MCDではRTXや抗IL-6モノクローナル抗体であるtociliximab(日本で開発されたお薬らしい;抗IL-2モノクローナル抗体で生体腎移植の導入に用いられるbasiliximabと名前が似ている)が試されているのに対し、POEMS症候群は骨髄腫に準じた骨髄移植、MP療法、thalidomide、lenalidomide、bortezomibなどが試され、産生元の形質細胞をたたかないことにはという感じみたいだ(Blood Reviews 2007 21 285)。調べてみると、抗IL-6も移植・化学療法後の再発例に対して学会発表レベルでは試されているようだ。


2015/06/06

Stem Cell & Regeneration 2

 "Making a kidney is not a dream any more"、そう演者の先生が仰った。確かにこの先生のグループは20年ちかく苦労してhuman PS細胞からembryoid body、epiblast、nascent mesoderm、posterior nascent mesoderm、posterior intermediate mesodermなどを経てmetanephric mesenchymeをつくり、それにBMP、Wnt、activin、retinoic acid、fgf9だのをさまざまに混ぜて未熟ではあるが糸球体の形をした足細胞と近位尿細管と遠位尿細管を作った(下図;Cell Stem Cell 2014 14 53より)…すごい。まだ毛細血管内皮細胞もメサンギウム細胞も集合管もないが、これらの細胞の起源(集合管は尿管芽由来だ)を調べて、幹細胞からこれらの細胞を作る技術を編み出して、お互いにうまいこと掛け合わせれば、本当にネフロンができちゃうかもしれない。そのネフロンから作り出される尿が腎臓内科学の未来だと、私は信じたい。
 [2016年6月追加]同じグループがCITED1+/SIX2+のネフロン前駆細胞をES細胞とiPS細胞から作ってin vitroに増やす方法を開発した(Cell Reports 2016 15 801)。マウスでだが、ヒトにも応用できるだろう。研究は進んでいる。


FGF23 and Klotho

 JSN/ASN joint science symposiumに参加してきた。まずKlothoについて黒尾先生が、つぎにFGF23についてDr. Myles S. Wolfがお話した。黒尾先生のお話では、Klotho欠損マウスが短命なのはgenotoxic stressのためではなくCPP(calciprotein particle)による炎症によるものだというお話が興味深かった。CPPとは、1nm以下のリン酸カルシウム塩の最小単位であるPosner's cluster;分子式Ca9(PO4)6がFetuin-Aと凝集してできた径100nm程度のかたまりで、血漿ではコロイドとして存在しているそうだ。あたかも水に溶けない脂肪がapoproteinと一緒になってlipoproteinとして存在しているように。

 CPPは内皮細胞にひっついてTLR、MCP-1(好中球のchemotactic agent)などを介してサイトカイン、炎症、動脈硬化などをきたす。ふつうはFGF23のco-receptorとしての膜型Klothoがあって、リン摂取時には骨からリン排泄亢進ホルモンであるFGF23が産生されて尿中にリンが排泄されてリンの恒常性が保たれるはずであるが、Klotho欠損マウスはその機構がはたらかないので高リン血症になる。しかしKlotho欠損因子にリン制限をかけるとリン値はあがらずCPPも減って寿命は延びる。さらに、Klothoには二種類あってもうひとつは可溶性Klothoだが、これが減ると線維化、Wntシグナリング経路の活性化、IGF-1シグナリング経路の活性化などがおこる(Science 2007 317 803、Am J Physiol Renal Physiol 2012 301 F1641←ああ、この雑誌の論文に触れるのひさしぶりだな…フェロー時代は読んでたけどな…)。

 じゃあ翻って、CKD患者さんではKlothoが減少するわけだが、マウスのようにリン制限をかけていればいいのかというと、話はそう単純ではない。というのはKlothoの減少の前から後かは不明だがとにかくCKDの進行とともに患者さんの身体の中ではFGF23値が指数的に増えていくからだ。これはリン排泄を一生懸命するための代償的な反応と考えることもできるが、残念ながら心筋肥大を起こし心血管系死を招くことは良く知られた事実だ(JCI 2011 121 4393←これは、私が米国腎臓内科フェローになって初めてJournal Clubで発表した論文なので感慨深いものがある…当時の様子もちゃんと書いてある)。

 あのあと抗FGF23モノクローナル抗体を試したがうまくいかなかったと風の便りに聞いていたが、今回その論文が紹介され(JCI 2012 122 2543)、この抗体で5/6腎摘ラットのFGF23をブロックすると、LVHは改善させるが著明な高リン血症と劇しい血管石灰化を起こしたそうだ。というわけでFGF23はFGF-2などと同様LVHを起こす意味で有害なホルモンだが、リン排泄とCPPコロイドの減少と言う意味で保護的なホルモンだ(というかホルモンなんて皆そうだ;出過ぎも出なさ過ぎもよくない)。しかしFGF23がLVHを起こす細胞内シグナリングがcalcineurinというのは興味深い;calcineurin inhibitorが効くかもしれないからだ(そういう質問がフロアからでていた)。



尿中L-FABP

 糖尿病性腎症(DKD)のアップデートを受けた。以前に講演を聴いたときの内容や、以前にもった質問とうまくオーバーラップして、さらに新しい知見もたくさんあって学びが多かった。以前の講演でも触れられたDKDにおける炎症の関与がより詳しく説明された。GLUT、RAGE、TLRなどがinflammasome(Nlrp3、ASC、pro-caspace-1)を動かしてサイトカイン放出など炎症を惹起するということだった(KI 2015 87 12)。またDKDでアルブミン尿がない群はどういう群なのかという以前の質問についても、腎硬化症と類似した病態で予後も(糖尿病があるにもかかわらず)腎硬化症とほぼかわらないとのことだった(Diabetes Care 2013 36 3655)。

 知らないこともたくさん習った。2期腎症になると現れる初期の病理変化には門部(ネフロンの血管極)小血管増生がある(しばしば硝子化をともなう)。eGFRが45ml/min/1.73m2以上の群であっても病理で糸球体に結節や分節性硬化がみられる場合は予後が不良である。また蛋白尿が0.5g/gCr以下の群では糸球体基底膜の二重化(結節の有無は問わない)と間質の細胞浸潤があると予後不良だという。つまり糖尿病性腎症も腎症なんだから、ちゃんと腎生検すれば予後や重症度についての有用な情報が得られるということだ。

 しかし糖尿病性腎症の全例に生検するわけにもいかない。そこで日本の診療ガイドによれば以下の場合に腎生検が推奨されているらしい。すなわち①網膜症がない、②赤血球円柱などがある、③蛋白尿が糖尿病に先行している、④蛋白尿が急激にふえた、⑤eGFRが急激に低下した、など。②などは、私がフェローだったころは「腎炎をみつけても糖尿病の患者さんに高用量ステロイドを投与しますか?」という議論によくなったが、しっかり血糖コントロールが出来ればいいのかもしれない。

 糖尿病性腎症の治療はここで振り返るまでもないが、早期に発見していわゆる集約的治療(生活習慣の改善、降圧、血糖管理、ACEI/ARBなど)をちゃんとやれば微量アルブミンもなくなるし心血管系イベントも減って成果は出るというスタディが続々出ていると知った(まとめたのがKI 2014 86 50、PREVEND-ITやRENAALやONTARGET/TRANSCENDなどのサブ解析を行った;日本のスタディも含まれている)。ではどうやって早期に発見するか?ということでバイオマーカーの話になった。微量アルブミンよりも早くみつけるにはどうしたらいいのか。

 それで、尿中L-FABP(liver-type fatty acid binding protein)の話になった。これは日本では2011年から保険適応になっている。知らなかった…。糖尿病性腎症の早期マーカーとして上昇し(Diabetes Care 2011 34 691)、DKDを診断する感度としてROC曲線を描くと微量アルブミンよりも優れている(AUC 0.825)。これが保険適応になった背景には、日本政府として糖尿病と糖尿病性腎症の社会的経済的な負担を少しでも軽減したいという期待があるように感じられる。というのもこれからアジアで糖尿病性腎症とそれによる末期腎不全がどんどん増えていくと見込まれているからだ(Lancet 2015 385 9981)。糖尿病の合併症のなかでも腎症だけはなかなか減っていないという米国のデータもある(NEJM 2014 370 1514)。どげんかせんといかん。



AN69ST膜

 日本には「血液浄化」という言葉があって(英語にもblood purificationと訳されているがあまり使われない)、透析によっていろいろ除去して患者さんを助けることが出来るという信念のもと優れた膜の開発や透析方法の工夫がなされている。ヨーロッパもそうだ。しかし多くは大規模スタディでいまだ結果が出ていないのが現状だ。

 High-dose CVVHDF(70ml/kg/hr)を試したヨーロッパのIVOIREスタディも有意差がでなかった(Intens Care Med 2013 39 1535)。Polymyxin B hemoperfusion(PMX-DMP)はEUPHASスタディ(JAMA 2009 301 2445)では有意差が出たが、腹膜炎に対するABDO-MIXスタディでは2014 ISICEM(international symposium on intensive care and emergency medicine) conferenceの予備結果で有意差が出なかったという(ただし膜のclottingが多かったらしい;Crit Care 2014 18 309)。北米ではEUPHRATESスタディが走っている。

 早期RRTについてはスタディの立て方が難しい(早期RRT群はそもそもRRTが不要だった群という問題を包含しているし、早期介入の基準をどこに置くかが難しいため)が、インドのスタディでは有意差が出なかった(AJKD 2013 62 1116;他にもたくさんこの手のスタディはあるのにどうして講演でこれが引用されたのかよくわからない…比較的最近でたからだろうか)。しかしいまSTARRT-AKIスタディがカナダで、IDEAL-ICUスタディがフランスで走っているので結果まちだ。

 で、CAH(cytokine absorption hemofilter)として登場し、膜技術の粋を集めて作られたのがAN69ST膜(商品名SepXiris®)だ。これはサイトカインの吸着に優れたANとmethacryl sulfoneのコポリマーにpolyethylenenimineを表面処理しており、生体の炎症惹起が起こりにくいとされる。日本のスタディで(ちょっとアクセスがないのでどんなのかわからないが;Blood Purification 2012 34 164)いい結果が出たらしいので、日本ではすでに保険適応が通っている。それは;

(1)重症敗血症及び敗血症性ショックの患者
(2)敗血症、多臓器不全、急性肝不全、急性呼吸不全、急性循環不全、急性膵炎、熱傷、外傷、術後等の疾患又は病態を伴う急性腎不全の患者、あるいはこれらの病態に伴い循環動態が不安定になった慢性腎不全の患者

 だそうだ。つまり腎不全がなくてもいいわけ。いつの間にこんなことになっていたとは…(いいのか?)。重症敗血症というのも曖昧な表現だし、誰にいつまで何を指標にどれだけ行くのか、そしてその有効性は大規模RCTで検証されることになるのか、まだ誰も知らない…。ただ抗凝固は出来ればヘパリンがいい、nafamostatを使うとpolyethyleneimineで表面処理している関係でnafamostatが吸着されて回路内凝固を起こすらしい。

 [2016年7月追加]数年前に、ハーバードの画期的な応用研究をする機関Wyssが、マンノース結合レクチン(MBL)をFc抗体につけた分子を磁性ナノビーズにコーティングした「磁性オプソニンビーズ」で血中の細菌を吸着して、膜の外から磁気をかけてビーズごと抜いてくるという「人工脾」を開発した(Nat Med 2014 20 1211)。

 血液に菌を入れて感染させたモデルで100%ちかい菌を除去するが、臨床的に敗血症というのはどこかにフォーカスがあって全身に菌がいるのと、増殖を指数的に続けていると思うので、それを除去だけで治せるかはわからないなと思う。エボラも除去できるかもしれないそうだが、あれからフォローアップ情報を聞かない。


AKI to CKD

 AKIを発症した患者さんは腎機能が完全に前の状態にまで戻ることもあるが、多くの場合(その後もAKIのinsultを受ける受けないに関わらず)CKDに移行することが知られている(有名な下図はCJASN 2008 3 881より、他にも臨床研究はJASN 2009 20 223、JAMA 2009 302 1179、分子メカニズムはNat Rev Nephrol 2015 11 264)。


 問題は、この群を誰がフォローするかだ。正直、上図の1群はかかりつけ医でいいと思う(そしてお返しするときに「これこれにお気をつけ下されば幸いです」とお手紙をつければいいと思う)。4群はどうしようもない。2-3群は腎臓内科でフォローすることになるのだろうが、日本に1300万人いると言われるCKD患者さんすべてを腎臓内科で診ることは不可能だ。だからかかりつけ医との連携が不可欠になるだろう。

AKIはみんなの病気

 AKIで腎臓内科がコンサルトを受けるのはたいてい患者さんのクレアチニンが上がって、主科がどうにかしようとしても駄目なときだ。そこで腎臓内科コンサルテーションの仕事はほとんど探偵に等しく、死亡推定時刻(腎傷害がおこったとき)から遡ってそのまえの状況を細かに調べる。しかし、米国腎臓内科フェローシップの二年間でこれを来る日も来る日も30件くらい受けていると、楽しいんだけど「こうなる前になんとかできないものか」と思う。腎機能を下げる薬を避けるとか、血圧を維持するとかいろいろできることはあるし、AKIが必発なら状況なら起こる前からコンサルトしてくれたらmake a differenceできるのにと思う。つまりこういうことだ(下図)。


 しかし、早めに腎臓内科にコンサルテーションすると患者さんの予後は変わるの?という問いに答えはなかった。しかし今日、そういうスタディがあると知った(PLOS ONE 2013 8 e70482、NDT 2011 26 3202)。これらはICUでAKIになってから48時間以上待ってからコンサルトした患者さん達は死亡率が高かったというものだ。また、ICUに腎臓内科医(critical care nephrologist)がいると患者さんの予後が改善するというスタディもあるそうだ(Cardiorenal Med 2013 3 79)。特別な手技をするわけでもない腎臓内科医(透析だけならICU医だってできる)にコンサルテーションするだけでICU患者さんが助かるなんて、やっぱり腎臓内科医は格好いい。
 そこから話は進んで、上の図のように全科において患者さんのAKI発症リスクを認識してもらいAKIを予防することが大切だ。私もコンサルテーションしていたときには主科に「これからはこういうことに気をつけてね」と予防啓発活動を行っていたが、前述の日本版AKIガイドラインには予防の章もあるそうだからそれが活用されればいいと思う。ただし、AKIのガイドラインを腎臓内科と集中治療科と循環器内科以外の先生が入手するだろうか…せっかくいいものが出来あがったら、大々的に宣伝して全科の先生方が持つようになったらいいと思う。でもそれが難しかったら、やはり地道にコンサルテーションを通して(コンサルテーションチームに他科志望のレジデントや学生をいれることもよい教育になる;私がフェローシップしたところも内科や麻酔科のレジデントがローテートしていた)やるしかない。

日本版ガイドライン作り(aka MIRAI)

 ガイドラインは一旦出来るとひろく公開、頒布されてそれが診療のスタンダードになるので、変なものはつくれない。それで、MINDS(medical information network distribution service)という厚労省の外郭団体がサポートしてくれるらしい。まず組織を作って、CQ(clinical questions)を抽出する。基本的にはPICOに基づいてCQを立てるが、CQとPICOのアウトカムをうまくえらばないとその後のsystematic reviewが膨大な作業になるしガイドラインのフレームワークもめちゃめちゃになる。そこで相互査読や作業過程の透明化、アカデミックガイドライン推進班という中立なグループのサポートなどが必要らしい。エビデンスのない領域のCQも、「エビデンスがない」ということを知らせるためにガイドラインに含め、レコメンデーションではなくエキスパートオピニオンを付けるらしい。CQが決まったらsystematic reviewして、レコメンデーションをつくり、ガイドラインを書き、できあがったら公開になる。
 現在日本版のAKI診療ガイドライン(日本独自の治療なども反映させたもの)が作成中で、重症敗血症ガイドラインも2016年版(2011年以降のmedical literatureを反映させたもの)が作成中らしい。AKIならKDIGOガイドラインがあるじゃないか(敗血症もsurviving sepsis campaignがあるじゃないか)、日本版と言ったって参照するRCTもメタアナリシスもほとんど海外のものだから作る意味なんかないじゃないか、という声もあるそうだ。しかし、自前でガイドラインも作れない国は、自前で車を作れず輸入車にしか乗れない国と一緒だと演者の先生はおっしゃっていた。さらに、輸入車しかなかった時代に自前で国産車を作ろうとした自動車産業がわが国にどれだけ貢献し世界をリードするまでになったか計り知れない(写真はトヨタの水素電池カーMIRAI)ように、日本医療も最初ま真似でもいいからとにかくまず日本版ガイドラインを作って、そこから新しいエビデンスやレコメンデーションを発信できるようにならなければならないともおっしゃっていた。


AKI >>> MI

 AKIのセッションに参加してきた。最初のお話で衝撃的だったのはAKIの予後が心筋梗塞よりずっと悪いということだ(CJASN 2014 9 448、下図は生存率;一番上のラインが心筋梗塞群、下の二本はAKI群とAKI+心筋梗塞群)。たしかに心筋梗塞はインターベンションが発達しているし早期診断・早期治療が可能なのでだいぶん助けられるようになった。それに対してAKIはMOFの一部として起こる上、介入があまりない(腎代替療法も代替するだけで原因を除く治療ではない)からこういうことになるのだろう。しかしまだ「AKIと心筋梗塞だったら心筋梗塞のほうが大病でしょ」と思っている人が大半と思われるので、これは私にとってはwake-up callだった。


 つぎに驚いたのはAKIの歴史だ。100年前、第一次大戦中に出血やcrush症候群による急性腎傷害(当時クレアチニンが測れたか知らない;おそらく乏尿と溢水と尿毒症で診断していたのだろうか)が続出したことからAKIはwar nephritisと名づけられ、第二自世界大戦でドイツ軍による英国の空爆が始まるとCRUSH syndromeと名づけられた。そして1951年に腎臓生理学の父Dr. Homer Smithがacute renal failureという言葉をcoinした。
 以後50年以上たって、AKIはICU領域や循環器内科領域で多臓器不全、mortalityのリスク因子として捉え直されはじめたが、当時30を越える定義があったためそれを統一しようと2004年にRIFLE分類がうまれ、2007年にAKIN分類(余談だがわたしが2008年に米国で内科レジデンシーを始めたので、当時ICUローテーションのときにacute renal failureと言って指導医に「いまはAKIだ」と訂正されたのを良く覚えている)、そして2012年にKDIGO分類がうまれたそうだ。
 それからイタリアのDr. Claudio Ronco、オーストラリアのDr. Rinaldo Bellomo、ピッツバーグのDr. John Kellumが書いたCritical Care Nephrologyという教科書があると知った。第二版が2008年に出ているが、Amazon.co.jpで5万円もする…。なぜ?2012年にでたDr. RoncoとDr. Bellomoが書いた同じタイトルの教科書はペーパーバックで1万2000円だ。ぱらぱら中を見られればいいのだが…。この領域の人はどちらの教科書を使っているのか尋ねてみたい。新しくて安いならそのほうがいいような気もするけど。

移植がない

 日本腎臓内科学会は1959年設立で米国腎臓内科学会よりその歴史は古く、例によって「世界一の」透析成績と移植成績をずっと誇っており、志望者も多く臨床・研究・教育のどの面でも盛り上がっている(それに対して米国腎臓内科はフェローシップ志願者が減り続けて定員割れのプログラムが続出し、フェローの半数以上がIMG;外国で医師免許を取得した者で占められ、危機感は一層増すばかりだ)。そんな学会の雰囲気に触れて元気をもらえた。会場でwi-fiが使えるのもありがたい(引用論文をそのまま引っ張ってくることも出来るし、こんなふうにその場でなんでも書ける)。ただ、ひとつだけ「あれ、ない」と思うのが移植だ。腎移植のセッションがほとんどない。でもそれは、腎移植を移植外科(泌尿器科、腹部外科)がなさってきた歴史的背景を考えれば仕方のないことかもしれない。私はせっかく米国で腎移植も学んできたので、今後もできればかかわりたいと思っている。来月には腎移植内科研究会・学術集会2015が東邦大学大森病院で開かれるので、それに参加してみようかと思う。


2015/06/05

A man is as old as his arteries

 少子高齢化社会というが、少子化と高齢化は別の問題で、高齢化というのは(健康寿命が延びることなのだとしたら)社会としての目標が達成されているということなのではないか、という発言を聞いてなるほどと思った。そしてそのあと、高齢化社会の医療がどうあるべきかについての社会福祉的なお話になるのかなと心の準備をしていたら、思いっきり基礎医学のお話で、びっくりしたが白熱した60分だった。ただ話がかなり多岐におよんだのでここにまとめ切れないのと(Klothoのお話はせっかく明日に発見者の黒尾先生がいらっしゃることだし、それも聴いてからにしよう)、スライドの進行がはやかったので引用論文をほとんどメモできなかったのが残念だ。
 Sir William Oslerは"A man is as old as his arteries"という至言を残されたが、腎の老化(それは翻ってKlothoのこともあり全身の老化につながるわけだが)は内皮細胞傷害、細動脈の動脈硬化などによる虚血に端を発し、虚血応答が悪くて(VEGFを産生できない、NOが十分に産生できずCathepsin Dが十分に活性化されずplasminogenからangiostatinが作れない、ミトコンドリア内の呼吸鎖コンプレックスIIIから活性酸素が大量にでてしまう;Molecular Cell 2012 48 158←ミトコンドリアルな活性酸素、すなわちmROSは少量だとストレス応答になり身体によいとされているが出過ぎると悪いとかんがられ、このような概念をmitohormesis theoryというらしい)、間質の線維化、尿細管の萎縮、糸球体の虚脱などが起こると考えられている。
 しかし内皮細胞は腎臓にだけあるのではない。脳にはneurovascular unitとよばれる相似した構造があるし、膵ランゲルハンス島の血管も糸球体に酷似した構造をとっている。だから慢性腎臓病やアルブミン尿と認知障害は相関するし、高血圧を起こすと膵島の輸入細動脈が傷害され虚血応答で膵島が肥大し線維化も起こす(Trends Endocrinol Metab 2010 21 457←この時期はまだ血糖には変化はみられない)。しかし生活習慣病は内皮細胞の傷害→適応応答→適応不全→臓器不全の流れで進行するというわけなので、高齢者が健康寿命を伸ばすためには、早期に前倒しでこの流れを発見して中年期から先制治療することが重要だと先生は説いていた。


ADPKD Center

 ADPKDにおいては、基本的に嚢胞が多くて実質が少なくて総腎容量(TKV;total kidney volume)が大きいほど腎予後が悪いわけだが、Mayo ClinicのDr. Vincente E. Torresらは画像診断によってより正確な予後予測とリスクの重層化ができないか研究を続けており、今年その分類を発表した(JASN 2015 26 160)。そこでは、ADPKDがMRI画像に基づいて軽症でおそらくほとんど進行しない1Aからほぼ間違いなく末期腎不全に至る1Eまで五つのステージに分類されている。しかしこれは今のところRCTなどを組む時のためのツールで、MRIの特別な機能(automatic segmentation;J Digit Imaging 2014 27 514)を使わないといけないらしい。ほかにもtexture analysis(虹彩による個人認証のように、腎嚢胞のパターンを分析して予後を予測しようとする研究)、BOLD MRI(酸素消費量をマッピングする技術)、MR elastography(腎の場所別の硬さを見分ける技術)などがメイヨーでは行われているらしい…。さすが学会だ、次から次に新しいことがでてくる。日本にも将来、ADPKDセンターみたいなところができて、これらの技術が応用されるようになるのだろうか。


Stem Cell & Regeneration 1

 私が医学生のとき産婦人科の臨床実習でついた指導医は子宮頚がん手術の名人だったが、その先生がある日「本当は子宮頚がんなんてHPVワクチンで撲滅されて俺の技術が要らなくなるのが一番いいんだよな」とぽろりと本音をもらした。そのとき、先生の心意気に感動したことを私はいまでも覚えている。同じように、私も「いつか末期腎不全に再生医療が行われるようになって、透析も(生体・献腎)移植も要らなくなったらどんなにいいか」と本気で思っている。以前に参加した米国腎臓学会の開会式(につづくstate-of-the-art talk)も再生医療がトピックで同じことを考えたと書いたが。自分の学んできた知識や経験の一部が役に立たなくなることなんて、患者さんがハッピーになることに比べたら小さなことだ。

 というわけで、せっかく自分の専門科の学会に来たのだから普段は聞けないような話が聞きたいと「幹細胞・再生」セッションに参加してきた。といっても金曜日の午前中だから参加者は少なめだし、部屋も小さかったから、純粋な臨床医だった聴衆は非常に少なかったと思われる(もしかしたら私だけだったかもしれない?)。尿細管の再生にHGF(hepatocyte growth factor;肝細胞の増殖因子なのに腎臓にも効くなんて面白い)が関係しており、またGDNF(glial cell line-derived neurotrophic factor;こちらは神経細胞の生存を維持する因子だが、腎の発生にも関与している)はHGFの存在下でc-Ret / GFRαRに結合し尿細管再生を促進するそうだ(ただしin vitroの実験だが)。というかいまGoogleでHGFを調べたら、なんとネコの慢性腎臓病にはHGF注射がすでに行われているらしい…知らなかった…。

 あとはさまざまな動物モデルで腎に幹細胞を注射して効果を見る発表がつづいた。虚血後再潅流によるAKIモデルの実験は臨床家としては「ATNなんて時間がたてば徐々に回復するから幹細胞の効果とは言えないんじゃないかな?」とも思ったが、まあいいか。幹細胞もいろいろで、ヒトの乳歯の歯髄からとったもの(SHED;stem cells from human exfoliated deciduous teeth)、MSC(mesenchymal stem cell;ANCA関連血管炎にすでに臨床応用されているという…Mayo Clin Proc 2013 88 1174)←ただし組織因子が増えて凝固傾向になるため、韓国や中国でこの治療を受けた患者さんが肺塞栓で亡くなっているらしい;それで組織因子が少なくなるように培養液を薄めたLASC(low serum cultured adipose tissue-derived mesenchymal stromal cells )が安全かもしれないという発表があった、DFAT(de-differentiated fat)細胞、iPS細胞由来のOSR1+ / SIX2 +中間中胚葉細胞、K(idney)-iPS細胞など。

 K-iPSはメサンギウム細胞由来のものがオーストラリアの研究室でまず作られ(JASN 2011 22 1213;18歳男性の腎臓から採取され培養されたらしい…腎摘の検体だろうか)、尿から尿細管由来のものがオーストリアの研究室で作られた(JASN 2011 22 1221)。再生腎をつくるには、分化前のepigenetic memoryを残した腎由来の幹細胞から作るほうがやりやすいのかもしれない。まだ「再生腎ができました」という発表はなかった(そんなものがあったらとっくに報道されているだろうから無理もない)が、再生医療の研究をしている人たちが日本にこんなにいるんだなあというのが分かって嬉しかった。明日も同じトピックのセッションがあるので聴こうと思う。あとセッション最後の発表が、iPS細胞からEPO産生細胞を作製して慢性腎臓病モデルのマウス腎臓に10万個打ち込むと、貧血が改善するだけでなく、Hgbが16週間一定に維持され、多血症にもならなかったというのが興味深かった。細胞が賢くてHgb濃度を一定にするようにEPOを調節して産生してくれるのだとしたらすごい。



2015/06/04

Stepping on the toes (or not)?

 英語で他の専門科領域に踏み込むことをstep on one's toesと言ったりするが、腎臓内科は他専門科とオーバーラップするので他科のつま先を踏むことは避けられない。たとえば内分泌内科などとは、ADH、RAA系、カテコラミン、糖質コルチコイドなどのホルモンでかぶる(電解質異常や二次性高血圧で)。また糖尿病と糖尿病性腎症が密接につながっている(すこしずれるが米国では膵腎同時移植の膵グラフト管理を内分泌科医ではなく移植腎臓内科医がおこなっていた)。PTH、ビタミンDなどもCa、P異常などの原因検索でかぶるし、腎不全による異常なら内分泌内科ではなく腎臓内科がみる。
 内分泌内科の診断は、負荷試験などの精密検査が「何時にどんな体位で何を測定してから何を打って何分後と何分後に何を測る;事前にあの薬もこの薬も入っていてはいけない」など厳密にプロトコル化されているのが凄いなと思う。腎臓内科医に一般化は出来ないと思うが、私など例えば原発性アルドステロン症の診断をするのに、「ホルモンが自動であふれ出ているのならちょっとやそっとスピロノラクトンを投与しても抑制などされないでしょ?」と思ってしまう。しかしこういう発言をすると怒られそうだから、おとなしく仰せの通りプロトコルに従っている。まさに、つま先を踏まないように注意しているわけ。
 逆に、どちらも手を出さない領域というのもある。たとえばレニン産生腫瘍などは、そもそも稀な疾患なので経験がある施設が少ない。だからこういう時は腎臓内科と内分泌内科(と放射線科)が知恵を合わせることになる。調べてみると造影CTで腎皮質に腫瘍(小さくてもいい;レニン産生腫瘍は傍糸球体細胞の腫瘍だ)をみつけて、選択的腎静脈レニンサンプリングというのをIVRにお願いしてその腫瘍がレニン産生であることを確認する(海外の報告はJ Hypertension 2008 26 368、日本の報告はIntern Med 2013 52 1937)そうだが、この手技がうまく行かなかったという報告も多いから難しい手技なのだろう。


2015/06/02

RS3PE

 世の中にはいろんな病名があるが、RS3PE症候群というのは中でも変わった響きのランキングで上位に入ると思われる。R2D2やC-3POに近いものがある(これらは病名ではない;下図)。しかし比較的稀な病気なこともあってか今まで知らなかった。RS3PEとはRemitting Seronegative Symmetrical Synovitis with Pitting Edemaの略で、PMRの類縁疾患と考えられているそうだ。中高年に比較的急性に発症し、症状は名前の通りで、少量のステロイドが著効するが腫瘍随伴(prodrome)なことがあり胃がん、大腸がん、前立腺がんなどの続発に注意する必要があるという(レビュー論文としてClin Exp Rheumatol 2000 18 4・S20 S53が挙げられていた)。浮腫ということで腎臓内科的にも知っておきたい疾患だ(どうして浮腫がおこるのだろう、炎症で血管透過性が亢進するのかな)が、いままで知らずに来たのはなぜだろう。日本に多いわけでもなさそうだ、最初に報告したのは当時Medical College of WisconsinにいたDr. Daniel J. McCartyだし(JAMA 1985 254 2763)。本当に勉強することは尽きない。