2015年6月6日土曜日

尿中L-FABP

 糖尿病性腎症(DKD)のアップデートを受けた。以前に講演を聴いたときの内容や、以前にもった質問とうまくオーバーラップして、さらに新しい知見もたくさんあって学びが多かった。以前の講演でも触れられたDKDにおける炎症の関与がより詳しく説明された。GLUT、RAGE、TLRなどがinflammasome(Nlrp3、ASC、pro-caspace-1)を動かしてサイトカイン放出など炎症を惹起するということだった(KI 2015 87 12)。またDKDでアルブミン尿がない群はどういう群なのかという以前の質問についても、腎硬化症と類似した病態で予後も(糖尿病があるにもかかわらず)腎硬化症とほぼかわらないとのことだった(Diabetes Care 2013 36 3655)。

 知らないこともたくさん習った。2期腎症になると現れる初期の病理変化には門部(ネフロンの血管極)小血管増生がある(しばしば硝子化をともなう)。eGFRが45ml/min/1.73m2以上の群であっても病理で糸球体に結節や分節性硬化がみられる場合は予後が不良である。また蛋白尿が0.5g/gCr以下の群では糸球体基底膜の二重化(結節の有無は問わない)と間質の細胞浸潤があると予後不良だという。つまり糖尿病性腎症も腎症なんだから、ちゃんと腎生検すれば予後や重症度についての有用な情報が得られるということだ。

 しかし糖尿病性腎症の全例に生検するわけにもいかない。そこで日本の診療ガイドによれば以下の場合に腎生検が推奨されているらしい。すなわち①網膜症がない、②赤血球円柱などがある、③蛋白尿が糖尿病に先行している、④蛋白尿が急激にふえた、⑤eGFRが急激に低下した、など。②などは、私がフェローだったころは「腎炎をみつけても糖尿病の患者さんに高用量ステロイドを投与しますか?」という議論によくなったが、しっかり血糖コントロールが出来ればいいのかもしれない。

 糖尿病性腎症の治療はここで振り返るまでもないが、早期に発見していわゆる集約的治療(生活習慣の改善、降圧、血糖管理、ACEI/ARBなど)をちゃんとやれば微量アルブミンもなくなるし心血管系イベントも減って成果は出るというスタディが続々出ていると知った(まとめたのがKI 2014 86 50、PREVEND-ITやRENAALやONTARGET/TRANSCENDなどのサブ解析を行った;日本のスタディも含まれている)。ではどうやって早期に発見するか?ということでバイオマーカーの話になった。微量アルブミンよりも早くみつけるにはどうしたらいいのか。

 それで、尿中L-FABP(liver-type fatty acid binding protein)の話になった。これは日本では2011年から保険適応になっている。知らなかった…。糖尿病性腎症の早期マーカーとして上昇し(Diabetes Care 2011 34 691)、DKDを診断する感度としてROC曲線を描くと微量アルブミンよりも優れている(AUC 0.825)。これが保険適応になった背景には、日本政府として糖尿病と糖尿病性腎症の社会的経済的な負担を少しでも軽減したいという期待があるように感じられる。というのもこれからアジアで糖尿病性腎症とそれによる末期腎不全がどんどん増えていくと見込まれているからだ(Lancet 2015 385 9981)。糖尿病の合併症のなかでも腎症だけはなかなか減っていないという米国のデータもある(NEJM 2014 370 1514)。どげんかせんといかん。