2017/02/28

忘れずにいること

 「ダメ。ゼッタイ。」という、慎重投与ではなく禁忌なお薬は、腎機能が低下した方、なかでも透析患者さんにはけっこうある。しかし、絶対駄目なのに処方できてしまうのが問題だと常々おもっている。処方できない仕組みが広まらないうちは、透析医・腎臓内科医がゲートキーパーになって、他科を受診した時にも彼らに確認してから処方してもらうようにするのが最善策なのかもしれない(Aust Prescr 2016 39 21)。

 といっても腎毒性のある薬や腎機能低下時に蓄積して重篤な副作用を起こす薬は星の数ほどあり、日本腎臓病薬物療法学会がだす「腎機能低下時に最も注意が必要な薬剤投与量一覧」に取り上げられただけで206あり、さらにそのなかで添付文書上「投与禁忌」の記載があるものが60ある。

リザトリプタン
オーラノフィン
ブシラミン
ペニシラミン
メトトレキサート
コルヒチン
パリペリドン
デュロキセチン
炭酸リチウム
アマンタジン
プラミペキソール長時間作用型
ピラセタム
アセタゾラミド
タダラフィル
ジソピラミドリン酸塩徐放型
シベンゾリン
ソタロール
フェノフィブラート
べザフィブラート
レボセチリジン
リン酸二水素Na水和物+無水和物配合錠
アセトヘキサミド
グリクロピラミド
グリベンクラミド
グリメピリド
クロルプロパミド
ナテグリニド
ブホルミン
メトホルミン
トレラグリプチン
エキセナチド
ピオグリタゾン+メトホルミン
ピオグリタゾン+アログリプチン
エチドロン
リセドロン
エノキサパリン
フォンダパリヌクス
ダビガトラン
アピキサバン
エドキサバン
ダナパロイド
リバロキサバン
バトロキソビン
エトレチナート
HES
塩化カリウム(スローケー®)
ホスカルネット
ソホスブビル
ソホスブビル+レディパスビル
リバビリン
アトコバン+プログアニ
テガフール・ギメラシル・オテラシル
フルダラビン
ブレオマイシン
ペプロマイシン
シスプラチン
タダラフィル
デスモプレシンOD錠
造影剤
ガドリニウム造影剤

 新しいお薬から古いものまでさまざまだが、知らないものもあった。たとえばアマンタジンなど、2006年禁忌になったころはけいれん、意識障害など副作用の事例が多く「1錠だけでも大変なことになる」と有名だったそうだ。しかしあまりにも有名で事例が減ったためか、パーキンソニズムやインフルエンザに対してほかの薬が使われるようになったためか、触れる機会がなかった。こうしてリストに載っていると注意喚起されるのでありがたい。
 
 ほかに余りに有名であっても載せたほうがいいとおもうのは、アルミニウム製剤だ。昔の透析液にアルミニウムが含まれていたこと、アルミニウム含有のリン吸着剤があったこと、クエン酸とアルミニウムの組み合わせはとくに吸収を高める(アルミニウムの水溶性が増し、腸管上皮のタイトジャンクションが開く;KI 1989 36 949)ことなども、忘れられてゆく。

 いまでも処方されうる薬だから、こうした古い知識を忘れないようにする機会も大事だと思う。




2017/02/23

透析患者における中性脂肪とコレステロールの重要性〜TG/HDL-C ratio in hemodialysis patients〜

今回、血液透析患者における中性脂肪とHDLコレステロールの関連が心血管死亡に影響を与えることが報告された(CJASN 2017)。

私の知識では、低HDL-C血症は冠動脈疾患を上昇させ、高中性脂肪血症は500-1000以上であれば膵炎の併発の予防や冠動脈疾患の予防の観点で治療はするのは理にかなっているというくらいであった(Lancet 2014;384;618-626)。

今回の論文では、2007年1月から2011年12月31日までの期間で50673人の患者に対して行ったコホート研究で、スタチン介入下でTG/HDL-Cの基礎値と変化が死亡率とどのように関連があるかをみたものである。

結果は平均19ヶ月のフォローアップ期間で、12778人が亡くなり、そのうち4541人が心臓死を起こした。
TG/HDL-Cの上昇が血液透析患者の心血管疾患のいいアウトカムや生存率改善に寄与したとしている。

この論文でへーっと思ったのは、ESRD患者でTG高値が患者にとっていいアウトカムに働いているということである。これに関しては、実証した研究はなく今後の研究の必要性があるだろうと筆者も言っている。
慢性腎不全でTG高値の人はいて、それをどこまで治療するかは常に悩みどころではある。ただ、今回の論文を受けて新たな見方ができたなと思った。


2017/02/21

トリメチルアミン-N-オキシド(TMAO)

 前回に赤身肉とESRDリスクにふれたが、これに関連して最近研究結果が蓄積しているのがトリメチルアミン-N-オキシド(TMAO)だ。TMAOはリン脂質を腸内細菌が分解してできるトリメチルアミン(TMA)が、肝臓のフラビン含有モノオキシゲナーゼ(FMO3)により酸化されて作られる。血中TMAO濃度が動脈硬化、心血管系疾患のリスクに相関することが人間や動物で示されている(Nature 2011 472 57、NEJM 2013 368 1575)。

 TMAOそのものは肉より魚に多く含まれる成分で、魚が海、とくに深海で生きていくのに必要な浸透圧物質だ。じっさい魚を摂取するとすぐに血中TMAO濃度はあがる(doi: 10.1002/mnfr.201600324)。だからもしTMAOが害なら、TMAOのおおい魚を摂取するのは動脈硬化にわるそうだ。しかし、赤身肉におおくふくまれるカルニチンにもTMAに似た構造があって、腸内細菌のはたらきでTMA、TMAOに代謝されることがわかった(Nat Med 2013 19 576)。TMAOが産生される過程が問題なのかもしれない。

 肉類をとってTMAOがどれくらい身体につくられるかは、そのひとの腸内細菌の種類、そしてFMO3活性などによる。TMAOができないようにする方法も考えられているが、コリンアナログの3,3-ジメチル-1-ブタノール(DMB)は腸内細菌の組成をかえてTMAO産生をおさえ、動物で動脈硬化をおさえた(Cell 2015 163 1585、図)。この論文によればDMBは赤ワイン、バルサミコ酢、グレープシードオイル、一部のエキストラバージンオリーブオイルに豊富だった(料理の参考になれば)。

 TMAOの動脈硬化に対する影響にも人種など個人差があるようだ。透析効率と予後をしらべたことで有名なHEMOスタディのコホートを分析した研究(JASN 2017 28 321)では、透析患者さんで血中TMAO濃度は高いけれど、心血管系イベントの相関は白人で直線的なのに対して、黒人では一定濃度までは危険があがるがそれ以上では下がった。アジア系ではどうだろう。これからより詳しいことがわかって治療や予防に結びつくことを期待したい。




2017/02/19

下肢虚血について考える パート2(PAD with CKD or dailysis)

パート2を書く前に少し古い論文にはあるがCJASN2007に腎臓内科にとってのPADというまさにの論文があったので、提示しておく。これは最低限は必読なのかなと感じた。

PADの末期腎不全患者での割合は高い。米国の報告では有症状のPADは慢性腎不全stage5の患者で15%に及ぶとされ、非症候性のものを含めるとさらに多くなると言われている。
糖尿病の有無に関わらず透析患者はPADの独立因子となる。

KDIGOのガイドラインでもPADに関しては透析を開始する前には評価をするべきであるとしている。その際に身体診察(下肢動脈の拍動や皮膚の状態の把握)を行う、そして追加で画像検査やABIなどの整理検査を行う。

皮膚の状態に関しては鑑別は神経原性の足病変との鑑別であり、神経原性であれば皮膚は胼胝や亀裂が生じやすく、PADであればツルツルでテカテカしたなどの違いがある。

また、理学的検査に関しては、Ratschowの下肢挙上ストレス試験(臥位で両歌詞を屈曲させ測定が白くなるまで足関節を20−40回転させ、その後両下肢を座位にして下垂させ2分後の足背の色の変化を見る検査)は有用であると言われる。

治療に関しては一般的治療と薬物治療と侵襲的治療(外科的治療や血管内治療)に分かれる。
一般的治療は爪や皮膚ケアは重要である(当院でも透析の看護師さんがここをチェックしてくれている。)また、禁煙・運動療法も重要である。運動療法は非透析患者では1週間3回で1回30~45分、12週間が有効であったとされる。
腎臓リハビリテーショは重要な分野である。

また、創傷の適切なデブリドマンやドレッシングも傷からの感染を防ぐという意味でも重要である。

薬物療法は抗血小板薬が中心になる。シロスタゾールの経口投与(50~100mg 1日2回)は非透析患者で症状および歩行距離の改善や間歇跛行に有効であった音は報告されているが、透析患者には注意を用いて使用することが必要である。

そのほかに、透析患者ではベラプラスト(PGI2誘導体)、チクロピジンなどが有効であるという報告もされている。

そのほかに、LDLアフェレーシス治療や末梢血幹細胞移植治療などが提示はされている。

しかし、何にせよ早期発見を行い患者さんの下肢を守ることが本当に重要である。

透析患者で下肢切断をした症例では死亡率が上昇し、ADLの低下が報告されている。

足は本当に重要である。。


2017/02/18

下肢虚血について考える パート1(PAD,ASO)

今回投稿の期間が空いてしまって申し訳なかった。しかし、その間に赤肉の投稿をしてくださり、とても勉強になった。まだ、僕はいただいたが論文を読めていないので、また読み返して見たいと感じた。

今回、下肢虚血について考えて見たいと思う。
まず、過ぎてはしまったが2月10日は何の日かご存知だろうか?
Foot(210)の日(足の日)である!
なので、下肢虚血に関して書こうと思ったわけではないが、私自身の知識の整理が一番である。

まずは、下肢虚血の基礎的なことについて触れたいと思う。
PADはPeripheral arterial diseaseの略であり末梢動脈疾患の全体を指す。

その中で閉塞疾患としてまずは大きく急性のものと慢性のものに分かれる。
・急性のものは心臓内血栓の塞栓や血栓閉塞などでしょうじる。
・慢性のものは我々が主に診療に当たるもので、ASO(arteriosclerosis obliterans)やBurger病である。
 −両者の違いはASOは50歳以上で動脈硬化のリスクファクターの男性に好発する。Buerger病は50歳以下の喫煙歴のある男性に好発する。



検査に関して重要になってくるものはABI(足関節上腕血圧比)である。
最近はこれに加えてSPP(皮膚灌流圧)の測定も有用であると言われている。SPPは下肢の切断部位の決定や治療効果判定に有用と言われる。30=40mmHg未満では創傷治癒の可能性は低い。
−両者の違いはABIは比較的太い血流を判断する指標で、SPPは毛細血管レベルの指標になる。

ABIについては正常値は0.91-1.39である。
0.90より低すぎると主幹動脈の閉塞や狭窄を疑う。
逆に1.4より高すぎても動脈の高度石灰化を疑う。ここで検査としてやくに立つのがTBIである。

−TBI(足趾・上腕血圧比)は、足趾と上腕の血圧比を求める検査であるが、これが有用なのはABIで評価困難な患者である(糖尿病や透析患者など)
これは、理論的には動脈壁の石灰化は足趾まで及ぶことはないとされているためである。
TBIのカットオフ値は0.6~0.7前後である。

我々は、患者さんの足の状態をしっかり把握してあげることが重要である。
PADがそこで疑われれば循環器内科と必要に応じて、血管造影CT検査を行ったりして下肢の評価をする必要がある。

我々は患者さんの足にも注目しなければならない!!

2017/02/16

チキン?それともビーフ?

 病院の医局にいけばだいたい本棚があって、ふるい雑誌が並んでいる。背表紙が日に焼けていることもあるが、それを背にして話すとなんとなく権威的だ(テレビの取材などでみかける)。紙媒体はかさばるし、資源と輸送の手間の無駄だし、捨てるたびに気が咎めるが、何にでもいい面はある。きょう届いたJASN紙媒体にでた赤身肉とESRDリスクの論文は(JASN 2017 28 304)半年以上前にオンラインで発表されていたが、紙で遅れて来たので読み直すきっかけになった。

 45-74歳の中国系シンガポール成人コホートをフォローし、165項目の半定量的な食事質問票をもとにさまざまな蛋白源の摂取量別にESRDリスクを解析すると、赤身肉、鶏肉、魚介、卵、豆類などを調べると、赤身肉に有意に用量依存性の相関がみられた。赤身摂取量が多い群は野菜とくだものの摂取量がすくなく、運動量も少なかったが、それらを加味した多変数解析でも、もっとも多い群は少ない群よりESRDリスクが40%たかかった(CI 1.15-1.71)。

 Singapore Chinese Health Studyは生活習慣とさまざまな疾患の関係を調べるために1993年から1998年まで行われた。シンガポールは都市国家で、対象の中国系は遺伝的社会的に均質性が高く、疫学研究が行いやすかったのかもしれない。質問票の正確さについて検証が不十分などの批判的吟味は必要だが、結果には一定の説得力がある。またたんぱく摂取量があまり多くない日本で、量を減らすより質をかえるほうが有効ならば治療改善の余地があるから、スタディする価値があると思う。つづく。
 
 


2017/02/13

ステロイドを使用するときに結核の既往で考えること(潜在性結核(LTBI)?,活動性結核?)。

腎炎の治療で免疫抑制剤使用を行う場合が多い。
その中で、ステロイドは最も汎用される一つなのではないかと考える。

ステロイドを長期で使用する際には、治療後どんなことに気をつけるかを常に考えなければならない。

例えば、使用期間に関しては
開始日から数日:不眠、気分変化(躁症状)、食欲増強、血圧の上昇、むくみ
開始後数週間:糖尿病、高脂血症、肥満、満月様顔貌 
数か月以上と長期:皮膚菲薄化、紫斑、骨粗しょう症、白内障など

は知っておく必要性がある。

また、ステロイドの開始前には下記のように色々なことをチェックする必要がある。
・糖尿病・脂質異常の有無
・高血圧・心不全の有無
・消化性潰瘍の既往歴
・鎮痛剤(非ステロイド性抗炎症薬)の併用使用の有無
・骨折歴・骨密度測定の有無
・慢性感染症の存在:結核歴(家庭内での罹患歴・肋膜炎などと言葉を変える)、慢性呼吸器感染、B型肝炎など

・白内障や緑内障:眼科受診歴

今回、結核のことについて考えてみたいと思う。

症例:78歳男性で血尿・タンパク尿・腎機能障害(1ヶ月前Cre:0.8→5.6)で来院した。
既往に若いときに肋膜炎をやったことがあるとのこと。
検査を色々出したところ、急速進行性糸球体腎炎の可能性が高い。年齢的にも治療はステロイドは使用するが、この方肋膜炎の既往があるからどうしよう?と悩む機会も多い。

まず、この人が自覚症状もなく抗酸菌培養検査や画像検査で異常がない場合はなんだろうか?
→これは、潜在性結核感染症(LTBI : Latent Tuberculosis infection)であり、2000年にCDCとATS(アメリカ胸部学会)が報告している。

では、こんな人の検査はどうすればいいのか?であるが、現時点では絶対にこれをしなくてはなりませんと言ったGold Standardなものはないのが現状である。
ただ、行うとすれば、ツベルクリン反応(TST)かQFTやT-SPOTなどの(IGRA: Interferon γ release assay)である。

それぞれ、特徴をしっかりと押さえておくといい。
TSTに関してはBCG接種歴や非定型抗酸菌症で偽陽性になりやすい。
IGRAに関しては上記の場合は偽陽性にはなりにくい。

IGRAの中のQFTは血漿中のIFN-γ濃度を測定し、T-SPOTはIFN-γ産生細胞数を測定している。

LTBIでは、INH(Isoniazid)が第一選択薬となる。これは、安全性や効果についての報告が多いためである。ただ、INH耐性や副作用の肝障害が出る症例にはRifampinを用いる。
治療期間は6ヶ月から9ヶ月である。

では、ステロイドはどのくらいだと結核の発症率が上がるのか?
→多くの報告があるが、Predoonine 15mg/日以上で4週間以上継続する場合は結核発病のリスクが上がると報告されている。

なので、我々が腎炎に使うステロイドに関しては、長期間使うため常にその危険には晒されていると考えたほうがいい。

今回の症例では、結核の症状がなくIGRAで陽性で、画像所見でも何もなくLTBIと診断。
RPGN疑いは腎生検を行い、INHを内服しステロイド1mg/kg/dayで開始した。
特に結核再燃なく腎機能も改善傾向であった。

このような診療の場面は日常茶飯事であろう。
自分の中で振り返れてよかった。




2017/02/11

Renal carcinomaを考える(腎臓内科医にとっての腎癌, onco-nephrology)

今回腎細胞がんについて触れてみる。
理由としては、移植後の腎癌の症例を以前経験したときに勉強し直したいというのと、今回NEJMで腎癌のReviewが出ていたからである(NEJM 2017)。

腎癌は腎臓内科医にとっては弱いところなのかなと個人的には思うが、最低限の知識は知っておかなくてはならない。

疫学: 
腎癌は50-70歳に多く男性は頻度が高い。喫煙はリスク因子となり、本数が多い、喫煙期間が長いと発生率が上昇し、生存率も悪いという報告がある。高血圧や肥満も関連因子としてはあるが、タバコが一番である。

・高血圧はリスク因子と傍腫瘍症候群に伴うものの二つの部分で関わりがある。

分類:
腎細胞癌は淡明細胞腎癌,乳頭状腎細胞癌,嫌色素細胞腎癌,オンコサイトーマに大きく分類される。ほとんどが淡明細胞腎癌である(70%以上) 。組織学的には,グリコーゲンが豊富で淡明な細胞質を有する腫瘍細胞が胞巣状配列をとり,間には類洞状腫瘍血管が発達する。発生母地は,近位尿細管上皮細胞である。

・VHL遺伝子に変異を持つ患者の40%に淡明細胞癌が発症することが知られている。これはVHL遺伝子変異が生じVHLタンパクが正常に機能しなくなり正常酸素状態下でも低酸素応答性の転写因子であるHIFαの分解が抑制され蓄積する。それにより血管新生促進因子や増殖因子が恒常的に賛成され血管新生や細胞増殖が引き起こされる。

・乳頭状細胞癌は腎細胞癌の約15%を占め、組織学的には,腫瘍細胞の大部分が乳頭状構造からなり,その表面を腫瘍細胞が被覆する。
−腫瘍細胞の性状からtype 1type 2に分類される。
Type 1:腫瘍細胞は小型,単層配列を示し,核異型は軽度で,細胞質は好塩基性であることが多い。
Type 2:腫瘍細胞は大型,核異型は高度で,偽重層が認められ,細胞質は好酸性であることが多い。発生母地は,近位尿細管上皮細胞である。
 
 遺伝性乳頭状腎細胞癌家系の原因遺伝子が,染色体7番長腕上のMET遺伝子であることが検出された。MET遺伝子は癌遺伝子に分類され,HIFの受容体である。

・嫌色素細胞腎癌:腎細胞癌の約5%を占め組織学的には,腫瘍細胞は大型で,多角形,細胞膜が強調された植物細胞様所見を示し,核は不整卵円形でレーズン状である。細胞質は豊富で,混濁網目状であり,時に好酸性顆粒状を呈することもある。発生母地は,集合管介在細胞である。

治療:
腎癌の治療は限局性の病変であれば外科的アプローチが原則である。

しかし、手術により切除できない場合や他の臓器に転移が見られた場合には、抗がん剤による化学療法が行われる。しかし、腎細胞癌の場合、これまでの抗がん剤ではがんに対する感受性が低く、一般的に化学療法が行われることはなかった。

 その中で、薬物治療として行われてきたのが、インターフェロンαIFN-α)製剤(商品名オーアイエフ、スミフェロン)やインターロイキン2IL-2)製剤(商品名イムネース)を用いたサイトカイン療法だった。サイトカイン療法は、肺転移などに有効な場合があるため現在でも行われているが、その効果は10-20%と低い。

・その後、分子標的薬も出現し、がんの増殖に関係する因子を阻害するという考えの下に開発された薬剤で、日本では、チロシンキナーゼ阻害剤であるスニチニブ(商品名スーテント)、ソラフェニブ(商品名ネクサバール)、アキシチニブ(商品名インライタ)、mTOR阻害薬であるテムシロリムス(商品名トーリセル)とエベロリムス(商品名アフィニトール)が認可されている。


各製剤について:
・スニチニブは、血管新生に関与するVEGF(血管内皮増殖因子)受容体と、腫瘍増殖に関与するPDGF(血小板由来増殖因子)受容体など複数の受容体を阻害する。

・ソラフェニブは、腫瘍細胞の増殖に関わるシグナル伝達を遮断することに加え,腫瘍細胞表面の血管新生を抑制することで癌の増殖を抑える働きがあり、腫瘍細胞と腫瘍血管の両方を標的とする経口マルチキナーゼ阻害薬、アキシチニブは、indazole誘導体である経口のレセプター型チロシンキナーゼ阻害薬であり,VEGFRPDGFRc-KITを主なターゲットとする。VEGFR-1VEGFR-2VEGFR-3に対する選択的な阻害薬であるが,PDGFR-βc-KITの阻害作用も有するため,血管内皮細胞に対する阻害作用に加え,血管周皮細胞に対する阻害作用も期待できる

ソラフェニブの有害事象として手足症候群等の皮膚毒性が報告されているが,本邦における皮膚症状の出現は欧米より高頻度である。

・エベロリムスやテムシロリムスのようなmTOR阻害薬のmTORとは、mammalian target of rapamycinと呼ばれるセリン・スレオニンキナーゼという因子で、細胞の生存や成長、増殖に関わることが知られている。このmTORを阻害すると、細胞の増殖や血管新生を抑制できることが研究で明らかになった。

転移性の淡明細胞癌の際の治療:
  腎に病変がある場合:原発巣を摘除し腫瘍細胞を減少させ免疫の賦活化を期待する腎摘除術(cytoreductive nephrectomy)を考慮する。
  画像で切除できる転移病変がないか?→あるならば切除も考慮する
  ないならばFirst lineの治療を考慮する。
−スニチニブ、テムシロリムス(リスクの低い淡明細胞癌)、高容量のインターロイキン2など
  効果なければSecond lineの治療を考慮
−アキシニチブ、ニボルマブなど
  ダメなら次のオプションを考慮する。
    − エベロリムス、ソラフェニブ


転移性の非淡明細胞癌の治療
  淡明細胞癌と組織や分子生物学的にも異なり、First line治療が定まっていない。Phase 2でスニチニブとエベロリムスの比較の報告があり、スニチニブの有用性が示されている。

放射線治療に関しては、抵抗性のものがほとんどであり症状緩和の目的で使用される場合が多い。

長々と書いてしまった。。。腎細胞癌は奥が深い。
最近腎臓でもonco-nephrologyは熱いトピックである。




2017/02/10

How long does a kidney last?(移植腎はどのくらい持つの??)

腎移植をした際に考えるのは、この腎臓がどのくらい持つのか?ということである。
以前、腎臓移植を全く知らなかった私は、移植された腎臓は拒絶などの反応が起きなければ一生持つのかな?と考えていた。

しかし、現実は違う。
移植腎は平均で15年持続すると言われている。腎移植は初めて成功したのが1954年である。もちろん最初の頃に比べると免疫抑制剤の発達などもあり、生存率は著名に良くなっている。

今回、Statement Journalの報告でKahlさんが移植後40年をお祝いしたとのことであった。
40年はやはりすごいなと感じる。

しかし、上には上がいるらしい。ギネス記録は56年である。カナダのJoanna Rampelで、双子の妹から1960年にもらった腎臓であるという。

このように腎臓が長くもつのは何故なのだろう?
一つは免疫抑制剤や技術の進歩と、やはり腎臓のagingのことも考える必要性がある。

患者さんにとっては、移植をして再度透析導入になるかならないかは、生活の質を考える上でも非常に重要である。
僕らもなるべく、腎臓を長く持たせるように日々研究や努力をしていく必要がある。


2017/02/08

Cost of AKI in Hospitalised patients(入院患者のAKIにお金はかかる??)

入院中に腎臓内科医でコンサルトされるケースでは何が多いのであろうか?
病院や地域性にもよるかもしれないが、AKIは比較的よくコンサルトされると思う。

今回論文でAKIのコストについて書かれていたのでまとめてみたい(J Hosp Med 2017)。

今回の論文の目的は入院中のAKIにおける費用と入院期間を見たものになる。

まず、AKIは入院患者の20%に生じると言われている。また、死亡率も高く20-25%であり、集中治療領域で透析が必要な場合には半数近くの死亡率と言われている。
今回の論文の前に2005年にchebowたちが単施設での研究を行なっている。そこでは、AKIはコストが高いことは証明されたが、重篤なAKIの症例は少なかった(JASN 2005)

今回の論文では2012年のアメリカのデータを用いで20763649人の末期腎不全でない18歳以上の成人を用いて行われた。このデータは、全米の95%以上の人口をカバーし、4000以上の病院をカバーしているものである。

最終的にESRDなどを除いて29763649人の患者が選択され、そのうちの3031026人(10.2%)がAKIを有しており、106515人(3.5%)が透析を必要とされた。

結果としてはAKIのない人と比較して、入院の費用は1795ドル多く、入院期間も1.1日平均して上昇していた(調整をした場合)。

透析を要するAKIの場合は入院の費用は11016ドル多く、入院期間も3.9日平均して上昇していた(調整をした場合)。


この研究で、AKIになると入院費用や期間が上昇することが示された。
これは当然のことかもしれないが、実際にこれを数値化するというのは重要であるなと思った。我々も、これを見て入院期間や費用も考え患者をAKIにしないことが重要と感じた。

最後に他の疾患のお金などの割合も添付する。


2017/02/07

Extending hemodialysis hours and Quality of life(透析を長くすることは患者にとって有用か?)

透析において長時間透析や頻回透析がQOLをあげるのではと考えられている。

それを、実際に実践しているのが、在宅血液透析である。
ちなみに在宅血液透析に関しては適正透析の目安としてHDP(hemodialysis product)が用いられている。これは2002年に提唱されたものであり、下記の式で提示され在宅血液透析患者では70以上が一つの指標となっている。
HDP=(1週間の透析回数)×(1週間の透析回数)×1回の透析時間
で求められる。

頻回透析に関してはkidney international 2017でも頻回透析がQOLを改善することがわかっている。

では、長時間透析はどうであろうか?
今回JASNでその論文があった(JASN2017)。

この論文では200人の患者さん(在宅も施設透析も含む)をRCTで行い、1週間で24時間以上透析をした群と12−15時間の群(最大:18時間)で比較した。期間は1年間で見ている。
priamry outcomeはEQ-5Dで評価したQOLの変化。
secondary outcomeは薬剤の評価や採血評価やシャントのイベント発生率などである。

結論としては、長時間透析にすることでQOLには差は認められなかった。


長時間透析にすることでのメリットとしては、リン・Kの改善やHbの上昇が見られた。この研究では血圧に差はなかった。
また、長時間透析をすることで降圧薬やリン吸着薬を減量できたというメリットはあったが、EPOの投与量が減ったということはなかった。

この研究からは、何に重きを置くかが重要なのかと感じた。
もちろん数字の是正という点では長時間はいいのかもしれないし、一方で患者さんにとって1時間の血液透析の拘束が患者さんによってはかなり辛くもなりうる場合もある。

現状としては、バランスをうまくとって考えることが重要であると感じた。



2017/02/05

Anemia in polycystic kidney disease (PKDにおける貧血を考える。)

今回の話題としてはPKD患者における貧血である。
今回、この話題を出したきっかけはあるコミュニティーで「PKDの人は貧血少ないんだけどなんでなの?」っていう投稿があった。
正直、自分はPKDの患者を見ている絶対数が少なく、知らなかったため今回調べてみた。

CKD stage1~2:PKD患者ではEPOの産生量は他の原因疾患よりも増加している。しかし、この段階では、EPO産生増加がたとえあったとしても、Hbの差としてはでてこない(Nephron 1985)。

CKD stage3~4:この時期にはPKDが原因のものと他のものを比較して、Hbの差が生じてくる(PKD患者ではEPO産生は亢進している。)

CKD stage5:この時期では、PKD患者ではEPO産生は亢進しているものの前面に尿毒素物質の影響が出てくる。つまり、尿毒素により骨髄でのEPO反応性が低下する。そのため、Hbの差は小さくなる。

図1:CKDとHbの関連(NDT2007より引用)

図2:EPO産生の推移、原疾患を分けて(NDT2007より引用)


では、なぜEPO産生が亢進するかであるが、正確にはわかっていない部分はあるが嚢胞液や間質細胞が酸素低下の刺激とは関連性なくEPO産生をしていることが原因と考えられる(J Clin invest 1989)。

なので、PKD患者を見るときには、貧血に対する視点を少し変えて見ると面白いなと感じた。




2017/02/01

AKIの時の透析開始中止のアルゴリズム?(A decision making algorithm for initiation and discontinuation in severe AKI)

腎臓内科医や病院によっては他科が透析を行う施設もあると思う。
やはり、AKI(急性腎不全の時の)透析開始の際に悩むのはいつ透析を開始していつやめようか?ということである。
これは正直な話、標準化したものがない。個人の経験などもおおいにある。
今回CJASNのin press ではあるが上記タイトルに合致したものがあったので紹介する。

2013-2014年の13ヶ月間の後ろ向きな研究である。
enrollされたのは177人で、白人が多く、AKIの原因としては低血圧(58%)・敗血症(51%)・尿毒症(30%)となっている。また、悪性腫瘍(39%)や免疫抑制治療(32%)の患者が多い印象はある。

ざっくりと書くので詳細は本文を参照にいただければ幸いである。
これは、SCAMP Data formというのがあり、これを埋める。


・透析の開始に関して:
SCAMPの緊急的にやらなくてはいけない項目が多く埋まっている(3つ以上)であれば透析の開始が推奨され、満たない場合には透析の開始が推奨されない。

・透析の終了に関して:
これは尿量が一日500ml以上出るか否かで判断の材料とする。尿がそれ以上出ていれば透析の中止を推奨し、出ていなければ透析の継続を推奨する。

この推奨に対して透析を行う場合と行わない場合があるが、研究ではそれを比較している。このアルゴリズムに従った場合と従わなかった場合で死亡率を比較している。
比較を行うと従った場合の方が明らかな有意差を持って低く出ている。
そのため、このアルゴリズムが有用ではないかという結論である。

また、興味深いこととしては、このアルゴリズムで全員死亡率に差があるかに関しては、60日死亡の予想が高い方であれば、アルゴリズムに従っても従わなくても差はなく、60日死亡率が低い(50%以下)の人であれば、死亡率に差が出るとしている。



なので、致死的で救命困難な人は別ではあるが、それ以外の人にこのアルゴリズムを使うのは一つの選択肢であるのかなと感じた。

今回も勉強になった。
やはりAKIの透析は個人個人の考えが強く反映されてしまう。アルゴリズムはいい点もあるが、悪い点もある。ただ、標準化という点ではいいものであると感じた。